説明

鋳造内部欠陥検査支援装置及び方法

【課題】鋳巣の種類の判別を確実に行なうことができる鋳造内部欠陥検査支援装置及び方法を提供する。
【解決手段】鋳造品の各部分に対応する部分対応三次元形状モデル32pの変形量を算出し、モデル32p毎の変形量に基づいて、モデル32p毎の計算対象範囲Kを設定し、判別対象とされる鋳巣(鋳巣モデル34)を含むモデル32pの計算対象範囲Kでベストフィット処理し、鋳巣の種類(引け巣及びガス巣)の判別を行う。ベストフィット処理を判別対象とされる鋳巣モデル34を含む部分対応三次元形状モデル32pの計算対象範囲Kで行うので、鋳造品の加熱処理に伴って部分的に大きい値となる変形量に起因して先行技術で生じ得る、計算対象範囲Kからの対象となる鋳巣モデルの逸脱を回避でき、この分、鋳巣の種類の判別をより確実に行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造品の内部欠陥がガス巣であるか引け巣であるかの判別検査を支援するための鋳造内部欠陥検査支援装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造品の内部欠陥がガス巣であるか引け巣であるかの判別を非破壊で行う従来の鋳造内部欠陥検査支援装置の一例として、特許文献1に示される装置がある。特許文献1に示される装置は、同じ三次元座標に存在する鋳造品の鋳巣について、X線CT(コンピュータ断層)画像から得た三次元形状モデルを用いて、同一位置に存在する鋳巣の加熱処理前、後の形状差異(体積変化)を求め、形状変化の無い鋳巣を「引け巣」、形状変化がある鋳巣を「ガス巣」と判別するようにしている。
前記加熱処理は、熱を加えることで鋳造品(以下、適宜、ワークともいう。)の内部欠陥を膨脹させる加熱処理であり、適宜、ブリスタともいう。また、ブリスタ実施の際の加熱処理温度を以下、適宜、ブリスタ温度という。
【0003】
上述した従来技術では、ブリスタ前、後で鋳造品の形状が変化した場合、この形状変化(位置ずれ)により鋳巣位置ひいては鋳巣の体積が変化する一方、前記ブリスタによって鋳巣の体積が変化する。
このため、三次元形状モデルを、位置合わせするようにした前記従来技術では、鋳巣の体積変化(増加)が、ブリスタに伴うものなのか、あるいは位置ずれに起因するものなのかを区別できず、鋳造品の内部欠陥(鋳巣)の種類の判別精度が低く、改善が求められているというのが実情であった。
【0004】
この改善のために、鋳造品に対応して得られる三次元形状モデルに基づいて、図9に示すように、ブリスタ前、後の鋳巣モデル(図9には、例として、ブリスタ前、後鋳巣第1モデル70M、70Aと、熱処理により三次元形状モデルに表示されたブリスタ後鋳巣第1モデル70Aと異なるブリスタ後鋳巣第2モデル71Aを図示する。)を得、鋳造品の鋳巣を含む部分として定めた鋳巣モデル分割領域72毎に、鋳巣モデル分割領域72の所定の部位を基準にして予め定められる所定の大きさの計算対象範囲K0(例えば半径2.0mmの球状空間)で、ブリスタ前、後鋳巣第1モデル70M、70Aを位置合わせするように鋳造内部欠陥検査支援装置を構成する(このように構成された鋳造内部欠陥検査支援装置を、以下、先行技術という。)ことが考えられる。前記先行技術については、本願発明者等が特願2008−117402で提案している。
【特許文献1】特開2005−77324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記先行技術では、鋳巣モデル分割領域毎に、鋳巣モデル分割領域の中心位置を基準にして予め定められる所定の大きさの計算対象範囲K0で、ブリスタ前、後の鋳巣モデルの位置合わせを行うようにしている。
一方、鋳造品は、ブリスタ温度、形状によって変形量が部位毎に異なり、これに伴い、鋳造品に対する三次元形状モデルひいては鋳巣モデルも部位毎にブリスタ温度、形状によって変形量が異なる。
このため、変形量が大きい場合、対象となる鋳巣モデルが予め設定された計算対象範囲K0内に入らず、位置合わせを行えなくなる(計算が収束しない)場合が起こり得る。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、鋳巣の種類の判別を確実に行なうことができる鋳造内部欠陥検査支援装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、検査対象の鋳造品に施される加熱処理前、後の実測に基づいて該鋳造品に対する三次元形状モデルを、前記加熱処理前、後に対応して加熱処理前、後三次元形状モデルとして得る三次元形状モデル取得手段と、前記加熱処理前、後三次元形状モデルにおける前記鋳造品の鋳巣に対応する加熱処理前、後鋳巣モデルを対象にして予め定められる所定部位を中心として定まる計算対象範囲で行われる鋳巣モデル位置合わせ処理を行う鋳巣モデル位置合わせ処理手段と、該鋳巣モデル位置合わせ処理手段の処理結果に基づいて前記鋳造品の鋳巣の種類を判別する鋳巣種類判別手段と、を備えた鋳造内部欠陥検査支援装置であって、前記加熱処理前、後三次元形状モデルについて、前記各モデルの予め定められる同等部位を三次元座標の原点に合わせて位置合わせする三次元形状モデル位置合わせ手段と、前記鋳造品の各部分に対応する前記加熱処理前、後三次元形状モデルの各部分の変形量に相当する部分対応三次元形状モデル変形量を、前記各部分毎に算出する変形量算出手段と、該変形量算出手段が算出した部分対応三次元形状モデル変形量に基づいて、前記鋳巣モデル位置合わせ処理手段が実行する鋳巣モデル位置合わせ処理で用いる前記計算対象範囲を設定する計算対象範囲設定手段と、を有した
ことを特徴とする。
本発明によれば、変形量が部分的に異なっても鋳造品の全体にわたって鋳巣の種類の判別を確実に行なうことができる。
【0008】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
本発明は、次の(1)〜(6)項の態様で構成される。(1)、(4)項の態様が夫々請求項1、2に相当している。
【0009】
(1) 検査対象の鋳造品に施される加熱処理前、後の実測に基づいて該鋳造品に対する三次元形状モデルを、前記加熱処理前、後に対応して加熱処理前、後三次元形状モデルとして得る三次元形状モデル取得手段と、前記加熱処理前、後三次元形状モデルにおける前記鋳造品の鋳巣に対応する加熱処理前、後鋳巣モデルを対象にして予め定められる所定部位を中心として定まる計算対象範囲で行われる鋳巣モデル位置合わせ処理を行う鋳巣モデル位置合わせ処理手段と、該鋳巣モデル位置合わせ処理手段の処理結果に基づいて前記鋳造品の鋳巣の種類を判別する鋳巣種類判別手段と、を備えた鋳造内部欠陥検査支援装置であって、前記加熱処理前、後三次元形状モデルについて、前記各モデルの予め定められる同等部位を三次元座標の原点に合わせて位置合わせする三次元形状モデル位置合わせ手段と、前記鋳造品の各部分に対応する前記加熱処理前、後三次元形状モデルの各部分の変形量に相当する部分対応三次元形状モデル変形量を、前記各部分毎に算出する変形量算出手段と、前記鋳巣モデル位置合わせ処理手段が用いる前記計算対象範囲を、前記変形量算出手段が算出した部分対応三次元形状モデル変形量に基づいて設定する計算対象範囲設定手段と、を有した
ことを特徴とする鋳造内部欠陥検査支援装置。
【0010】
(2) (1)項に記載の鋳造内部欠陥検査支援装置において、前記各モデルの予め定められる同等部位は、前記各モデルの中心であることを特徴とする鋳造内部欠陥検査支援装置。
(3) (1)又は(2)項に記載の鋳造内部欠陥検査支援装置において、前記予め定められる所定部位は、前記加熱処理前鋳巣モデルの中心であることを特徴とする鋳造内部欠陥検査支援装置。
【0011】
(4) 検査対象の鋳造品に施される加熱処理前、後の実測に基づいて該鋳造品に対する三次元形状モデルを、前記加熱処理前、後に対応して加熱処理前、後三次元形状モデルとして得る三次元形状モデル取得工程と、前記加熱処理前、後三次元形状モデルにおける前記鋳造品の鋳巣に対応する加熱処理前、後鋳巣モデルを対象にして予め定められる所定部位を中心として定まる計算対象範囲で行われる鋳巣モデル位置合わせ処理を行う鋳巣モデル位置合わせ処理工程と、該鋳巣モデル位置合わせ処理手段の処理結果に基づいて前記鋳造品の鋳巣の種類を判別する鋳巣種類判別工程と、を備えた鋳造内部欠陥検査支援方法であって、前記加熱処理前、後三次元形状モデルについて、前記各モデルの予め定められる同等部位を三次元座標の原点に合わせて位置合わせする三次元形状モデル位置合わせ工程と、前記鋳造品の各部分に対応する前記加熱処理前、後三次元形状モデルの各部分の変形量に相当する部分対応三次元形状モデル変形量を、前記各部分毎に算出する変形量算出工程と、前記鋳巣モデル位置合わせ処理手段が用いる前記計算対象範囲を、前記変形量算出手段が算出した部分対応三次元形状モデル変形量に基づいて設定する計算対象範囲設定工程と、を有した
ことを特徴とする鋳造内部欠陥検査支援方法。
【0012】
(5) (4)項に記載の鋳造内部欠陥検査支援方法において、前記各モデルの予め定められる同等部位は、前記各モデルの中心であることを特徴とする鋳造内部欠陥検査支援方法。
(6)(4)又は(5)項に記載の鋳造内部欠陥検査支援方法において、前記予め定められる所定部位は、前記加熱処理前鋳巣モデルの中心であることを特徴とする鋳造内部欠陥検査支援方法。
【0013】
(1)から(6)項に記載の発明によれば、加熱処理前、後三次元形状モデルの各部分の変形量に相当する部分対応三次元形状モデル変形量を、前記各部分毎に算出し、計算対象範囲を部分対応三次元形状モデル変形量に基づいて設定し、当該設定された計算対象範囲で鋳巣モデル位置合わせ処理を実行し、この処理結果に基づいて鋳巣の種類判別を行う。鋳造品ひいては加熱処理前、後三次元形状モデルの各部分で異なる変形量に応じた計算対象範囲を用いて位置合わせ処理するので、変形量が大きい部分に対しても、確実に位置合わせできて、これに伴い、前記各部分全体にわたって鋳巣種類の判別を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、変形量が部分的に異なっても鋳造品の全体にわたって鋳巣の種類の判別を確実に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態に係る鋳造内部欠陥検査支援装置及び方法を図面に基づいて説明する。図1及び図2において、本発明の一実施の形態に係る鋳造内部欠陥検査支援装置(以下、検査支援装置ともいう。)1は、鋳造製品(以下、鋳造品という。)30をX線にて走査することでCT断層画像を撮影するX線CTスキャナ2と、ディスプレイ装置3と、入力装置4と、に接続されている。
ディスプレイ装置3は、検査支援装置1からの入力データの表示を行う。入力装置4は、検査支援装置1に対する指示、設定などの各種データの入力を検査支援装置1に対して行う。本実施形態では、鋳造品30としては、V6シリンダブロックを採用している。
【0016】
検査支援装置1は、X線CTスキャナ2からのCT断層画像に基づき検査対象の鋳造品30の内部欠陥検査の助けとなる情報を作成する装置であり、三次元形状モデル取得手段5、三次元形状モデル位置合わせ手段6、変形量算出手段7、計算対象範囲設定手段8、鋳巣モデル取得手段9、ベストフィット処理手段(鋳巣モデル位置合わせ手段)11、鋳巣体積変化率算出手段12、判別尺度計算手段13、鋳巣種類判別手段14、及びメモリ15を備えている。
検査支援装置1は、例えば、パーソナルコンピュータやワークステーションなどの汎用コンピュータシステムに、三次元形状モデル取得手段5、三次元形状モデル位置合わせ手段6、変形量算出手段7、計算対象範囲設定手段8、ベストフィット処理手段11、鋳巣体積変化率算出手段12、判別尺度計算手段13、鋳巣種類判別手段14などの処理内容を記述したプログラムを実行させることにより実現することができる。前記メモリ15は、前記プログラムを予め格納していると共に、検査支援装置1に備えられている前記各手段の作業エリアとして用いられるようになっている。
【0017】
三次元形状モデル取得手段5は、X線CTスキャナ2から入力される断層画像群から、ポリゴン(多角形面要素)で表現される鋳造品30のデータ(以下、三次元形状モデルという。)32を形成する。この際、この三次元形状モデル32の形成を、前記鋳造品30に施されるブリスタ前の実測及びブリスタ後の実測に基づいて行うことによって、ブリスタ前、後三次元形状モデル32M,32Aを得る。ブリスタ前、後三次元形状モデル32M,32Aを適宜、三次元形状モデル32と総称する。
ブリスタ前、後三次元形状モデル32M,32Aは、同等座標軸(本実施形態ではX、Y、Z軸の直交座標軸)で表示され形状及び位置が把握され得るようになっている。
三次元形状モデル位置合わせ手段6は、ブリスタ前、後三次元形状モデル32M,32A(三次元形状モデル32)について、ブリスタ前、後三次元形状モデル32M,32Aの中心〔予め定められる同等部位〕を基準にして位置合わせする。
【0018】
変形量算出手段7は、図2、図3及び図4に示すように、鋳造品30について16分割して得られる各部分(以下、部分対応鋳造品という。)30pに対応する三次元形状モデル32の各部分(以下、部分対応三次元形状モデルという。)32p毎に変形量(以下、部分対応三次元形状モデル32pの変形量という。)を算出する。
【0019】
なお、本実施形態で用いる鋳造品30(V6シリンダブロック)を含め鋳造品は、加熱処理(ブリスタ)を行うと、鋳造品30を例にすると、図3(A)に示すように、原点(鋳造品30の中心)位置を中心に放射状(放射線方向)に変形する。鋳造品30の変形に伴い、鋳造品30に対応する三次元形状モデル32さらには三次元形状モデル32に含まれる鋳巣モデル34も、放射線方向に移動(変形)する。
例えば、鋳造品30の一部(後述する部分対応鋳造品第1部分30paを例にする。)と、他の部分(後述する部分対応三次元形状モデル第2部分32pbを例にする。)とを例にすると、部分対応鋳造品第1、第2部分30pa,32pbの夫々に対応する鋳巣モデル34は、図3(B)、(C)に示すように、ブリスタ前においてはブリスタ前鋳巣モデル34Mであったものがブリスタ後にはブリスタ後鋳巣モデル34Aとなるように移動(変形)する。
部分対応三次元形状モデル32pの変形前、後(ブリスタ前、後)のモデルを、以下、適宜、部分対応ブリスタ前、後三次元形状モデル32pM,32pAという。
【0020】
鋳造品30ひいては三次元形状モデル32の変形量は、部分対応三次元形状モデル32p毎に異なっている。本実施形態では、図4及び図5(A)に示すように、鋳造品30の所定部分(便宜上、部分対応鋳造品第1部分という。)30paひいては三次元形状モデル32における部分対応鋳造品第1部分30paに対応する部分(部分対応三次元形状モデル第1部分という。)32paの変形量は小さい(本実施形態では、0.5mm)。
これに対して、部分対応鋳造品第1部分30paと異なる他の部分(部分対応鋳造品第2部分という。)30pbひいては三次元形状モデル32における部分対応鋳造品第2部分30pbに対応する部分(部分対応三次元形状モデル第2部分という。)32pbは、その変形量が、部分対応三次元形状モデル第1部分32paに比して大きい(本実施形態では、2.0mm)。
【0021】
部分対応三次元形状モデル32p(部分対応三次元形状モデル第1、第2部分32pa,32pbなど)の変形量としては、この部分対応三次元形状モデル32pにおいて定められた複数箇所(当該箇所としては、鋳造品30の外周部における複数部分を採用している)を対象にして得た複数箇所変形量の平均値を用いている。ここで、前記複数箇所変形量としては、原点を共通にして位置合わせされたブリスタ前、後三次元形状モデル32M,32Aにおけるブリスタ前三次元形状モデル32Mの所定箇所(便宜上、ブリスタ前モデル所定箇所という。)からブリスタ後三次元形状モデル32Aのブリスタ後モデル所定箇所(ブリスタ前三次元形状モデル32Mのブリスタ前モデル所定箇所に対応した箇所)までの距離を採用している。
【0022】
本実施形態では、ブリスタ温度を450℃として鋳造品30(V6シリンダブロック)から得られるブリスタ前、後三次元形状モデル32M,32Aを対象にして実測したところ、図5(A)に示すように、部分対応三次元形状モデル第1部分32paの変形量は0.5mm、部分対応三次元形状モデル第2部分32pbの変形量は2.0mm、他の部分の変形量は0.5mm〜2.0mmであるという結果を得た。
【0023】
ここで、図5(A)、(B)、(C)、(D)において、部分対応三次元形状モデル第1、第2部分32pa,32pbに判別対象となる鋳巣モデル34として第1、第3鋳巣モデル34‐1、34‐3が含まれているとする。また、第1、第3鋳巣モデル34‐1、34‐3のブリスタ前のモデルをブリスタ前第1、第3鋳巣モデル34‐1M、34‐3Mといい、ブリスタ後のモデルをブリスタ後第1、第3鋳巣モデル34‐1A、34‐3Aという。また、図5(C)、(D)において、34‐2A、34‐4Aは、第1、第3鋳巣モデル34‐1、34‐3とは別個にブリスタ後に生じる鋳巣モデル(以下、夫々ブリスタ後第2、第4鋳巣モデルという。)を示す。
【0024】
計算対象範囲設定手段8は、変形量算出手段7が算出した部分対応三次元形状モデル32p毎の変形量に基づいて、ベストフィット処理手段11が実行するベストフィット処理(鋳巣モデル位置合わせ処理)で計算対象となるブリスタ前鋳巣モデル34Mの中心(予め定められる所定部位)を中心として定まる球状の範囲(以下、計算対象範囲という。)Kの半径ひいては当該半径で定まる計算対象範囲Kを算出し、当該計算対象範囲Kを設定する。
【0025】
例えば、図5(A)、(B)、(C)に示すように、判別対象となる鋳巣に対応する鋳巣モデル34が第1鋳巣モデル34‐1である場合、第1鋳巣モデル34‐1が含まれる部分対応三次元形状モデル第1部分32paの変形量に基づいて、ブリスタ前第1鋳巣モデル34‐1Mの中心位置を中心として定まる球状の計算対象範囲Kの半径ひいては当該計算対象範囲Kを算出し、これを設定する。また、図5(A)、(B)、(D)に示すように、判別対象となる鋳巣に対応する鋳巣モデル34が第3鋳巣モデル34‐3である場合、第3鋳巣モデル34‐3が含まれる部分対応三次元形状モデル第2部分32pbの変形量に基づいて、ブリスタ前第3鋳巣モデル34‐3Mの中心を中心として定まる球状の計算対象範囲Kの半径ひいては当該計算対象範囲Kを算出し、これを設定する。
この実施形態では、図5(A)、(B)及び(D)に示すように、変形量が2.0mmであると算出された部分対応三次元形状モデル第2部分32pbを例にすると、当該部分32pbの計算対象範囲Kの半径を、「変形量(2.0mm)+使用ソフト調整分(0.1mm)」〔=2.1mm〕として算出している。前記使用ソフト調整分(0.1mm)は、ベストフィット処理を実行するソフトウェアが変形量算出手段7が用いるソフトウェアと異なることを考慮し、その調整分(±0.1mm)として設定される数値である。
【0026】
変形量が0.5mmであると算出された部分対応三次元形状モデル第1部分32paの計算対象範囲Kの半径は、部分対応三次元形状モデル第2部分32pMbの場合と同様にして算出され、図5(C)に示すように、「変形量(0.5mm)+使用ソフト調整分(0.025mm)」〔=0.525mm〕として決定される。この場合は、使用ソフト調整分(0.025mm)は、0.5〔mm〕×(0.1〔mm〕/2.0〔mm〕)で算出される。
そして、上述したように算出された計算対象範囲Kが、計算対象範囲設定手段8により設定され、設定された計算対象範囲Kがベストフィット処理手段11によるベストフィット処理に用いられる。
【0027】
鋳巣モデル取得手段9は、三次元形状モデル取得手段5が得たブリスタ前、後三次元形状モデル32M,32Aについて、前記鋳造品30の前記各部分(部分対応鋳造品30p)毎に、前記鋳造品30の鋳巣に該当する部分のモデルと、前記鋳造品における前記鋳巣に該当する部分を除く部分のモデル(以下、鋳造品外観モデルという。)と、に分離し、前記鋳造品30の鋳巣に該当する部分のモデルを鋳巣モデル34として得る。ブリスタ前、後三次元形状モデル32M,32Aに含まれる鋳巣モデル34を、ブリスタ前、後鋳巣モデル34M,34Aという。なお、便宜上、ブリスタ前、後鋳巣モデル34M,34Aを、適宜、鋳巣モデル34と総称する。
【0028】
ベストフィット処理手段11は、判別対象とされる鋳巣モデル34(ブリスタ前、後鋳巣モデル34M,34A)を対象にして、計算対象範囲設定手段8により設定された計算対象範囲K(判別対象とされる鋳巣モデル34を含む部分対応三次元形状モデル32pの計算対象範囲K)で、ブリスタ前鋳巣モデル34Mの中心と前記計算対象範囲Kの中心を合わせるようにして、位置合わせ(ベストフィット処理)を行う。
判別対象とされる鋳巣モデル34が複数ある場合、上述したのと異なる他の判別対象とされる鋳巣モデル34についても上述したのと同様にして、ベストフィット処理を行う。この場合、他の判別対象とされる鋳巣モデル34が上記と異なる部分対応三次元形状モデル32pに含まれているときには、当該異なる部分対応三次元形状モデル32pの計算対象範囲Kを用いてベストフィット処理を行う。
【0029】
上述したように構成された鋳造内部欠陥検査支援装置1の作用を、図6に基づいて説明する。
この鋳造内部欠陥検査支援装置1では、まず、X線CTスキャナ2による検査対象の鋳造品(ブリスタ前、後の鋳造品)に対して所定間隔でX線の走査によりCT断層画像を得る(ステップS1)。ステップS1で得たこのCT断層画像が三次元形状モデル取得手段5に入力され、三次元形状モデル取得手段5が、X線CTスキャナ2から入力される断層画像群から、ブリスタ前、後の鋳造品の三次元形状モデル(3Dモデル)〔ブリスタ前、後三次元形状モデル32M,32A〕を形成する(ステップS2。三次元形状モデル取得工程)。
【0030】
次に、三次元形状モデル位置合わせ手段6が、ブリスタ前、後三次元形状モデル32M,32Aについて原点位置(0,0,0)を基準にして位置合わせする(ステップS3。三次元形状モデル位置合わせ工程)。
ステップS3に続いて、変形量算出手段7が、鋳造品30の各部分(部分対応鋳造品30p)ひいては部分対応三次元形状モデル32p毎に、当該部分対応三次元形状モデル32p(部分対応ブリスタ前、後三次元形状モデル32pM,32pA)の変形量を算出する(ステップS4。変形量算出工程)。
【0031】
ステップS4に続いて、計算対象範囲設定手段8が、変形量算出手段7が算出した部分対応三次元形状モデル32pの変形量に基づいて、次のベストフィット処理(ステップS6)で用いられる部分対応三次元形状モデル32p毎の計算対象範囲Kを設定する(ステップS5。計算対象範囲設定工程)。
【0032】
ステップS5に続いて、ベストフィット処理手段11が、鋳巣モデル34(ブリスタ前、後鋳巣モデル34M,34A)を対象にして、計算対象範囲設定手段8が設定した計算対象範囲K(判別対象とされる鋳巣モデル34を含む部分対応三次元形状モデル32pの計算対象範囲K)で、ベストフィット処理を行う(ステップS6)。
ステップS6の処理の後、鋳巣体積変化率算出手段12による鋳巣モデル34毎のブリスタ後鋳巣モデル34Aの体積比の算出、判別尺度計算手段13による閾値(判別尺度)の算出が行われると共に、鋳巣種類判別手段14が、鋳巣体積変化率算出手段12により算出された各鋳巣の体積変化率と、判別尺度計算手段13が求めた閾値(判別尺度)とを比較することにより、鋳巣が、引け巣であるか、又はガス巣であるかの判定を行う(ステップS7)。
【0033】
上述したように、本実施形態では、鋳造品30の各部分毎に、部分対応三次元形状モデル32pの変形量を算出し(ステップS4)、この部分対応三次元形状モデル32p毎の変形量に基づいて、部分対応三次元形状モデル32p毎の計算対象範囲Kを設定し(ステップS5)、判別対象とされる鋳巣モデル34について、当該判別対象とされる鋳巣モデル34を含む部分対応三次元形状モデル32pの計算対象範囲Kで位置合わせ(ベストフィット処理)を行い(ステップS6)、鋳巣が、引け巣であるか、又はガス巣であるかの判定を行う(ステップS7)。上述したように、ベストフィット処理を、判別対象とされる鋳巣モデル34を含む部分対応三次元形状モデル32pの計算対象範囲Kで行うので、鋳造品の加熱処理に伴って部分的に大きい値となる変形量に起因して前記先行技術で生じる、ベストフィット処理における計算対象範囲k0からの対象となる鋳巣モデルの逸脱を回避でき、この分、鋳巣の種類の判別をより確実に行なうことができる。これにより、本実施形態によれば、変形量が部分的に異なっても鋳造品の全体にわたって鋳巣の種類の判別を確実に行なうことができる。
【0034】
なお、図7(A)に示すように、上記先行技術において、ベストフィット処理の計算対象範囲K0内に類似したデータが存在した場合、上記先行技術においては、位置合わせできず(計算が収束しない)、鋳巣の種類判別を行えないことが起こり得る。これに対して、本実施形態によれば、例えば、図7(B)に示すように、ブリスタ前、後鋳巣第1モデル70M、70Aの位置合わせを確実に行え、これにより鋳巣の種類判別を確実に行えることになる。
【0035】
上記実施形態では、ブリスタ前、後三次元形状モデル32M,32Aの三次元形状モデル位置合わせ処理を、ブリスタ前、後三次元形状モデル32M,32Aの中心〔予め定められる同等部位〕を基準にして行うようにしているが、これに代えて、他の部分(予め定められる同等部位)を基準にして、加熱処理前、後三次元形状モデル32M,32Aを位置合わせするように構成してもよい。
【0036】
また、上記実施形態では、ベストフィット処理手段11が実行するベストフィット処理で用いる計算対象範囲Kを、ブリスタ前鋳巣モデル34M〔より具体的にはブリスタ前第1、第3鋳巣モデル34‐1M、34‐3M〕の中心を「予め定められる所定部位」とした場合を例にしたが、これに代えて、ブリスタ前鋳巣モデル34Mにおける他の部分を「予め定められる所定部位」として計算対象範囲Kを算出しこれを設定するようにしてもよい。
例えば、図8(A)に示すように、ブリスタ前第1、第3鋳巣モデル34‐1Mの中心に代えて、ブリスタ前第1鋳巣モデル34‐1Mの外周側の一部34‐1tを「予め定められる所定部位」として計算対象範囲Kを算出するようにしてもよい。この場合にも、図8(B)に示すように、ブリスタ前、後第1鋳巣モデル34‐1M、34‐1Aの位置合わせを精度よく行え、ひいては鋳巣の種類判別の精度向上を図ることができる。
【0037】
また、上記実施形態では、鋳造品30ひいては三次元形状モデル32について16分割した場合を例にしたが、これに限らず、他の数の分割数で分割して、部分対応三次元形状モデル毎の変形量の算出及び計算対象範囲の設定を行うように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施の形態に係る鋳造内部欠陥検査支援装置を模式的に示すブロック図である。
【図2】図1の鋳造内部欠陥検査支援装置の検査対象とされる鋳造品を、鋳造品に基づいて得られる三次元形状モデルと共に示す斜視図である。
【図3】ブリスタによる鋳造品ひいては三次元形状モデルの変形について示し、(A)は、原点位置から放射方向に変形することを示す図であり、(B)、(C)は、(A)の部分拡大図である。
【図4】変形量が小、大とされる部分対応三次元形状モデルを含む三次元形状モデルを、この三次元形状モデルに対応する鋳造品と共に模式的に示す斜視図である。
【図5】本実施形態の作用を説明するための図で、(A)は、図1の変形量算出手段による変形量の算出方法を示す図であり、(B)は、図1の計算対象範囲設定手段が設定する計算対象範囲を説明するための図であり、(C)は、(A)の部分対応三次元形状モデル第1部分に含まれる鋳巣モデルを対象にした計算対象範囲の設定を説明するための図であり、(D)は、(A)の部分対応三次元形状モデル第2部分に含まれる鋳巣モデルを対象にした計算対象範囲の設定を説明するための図である。
【図6】図1の鋳造内部欠陥検査支援装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】先行技術に対する本実施形態の効果を説明するための図であり、(A)は、先行技術においてベストフィット処理の計算対象範囲に類似したデータが存在した場合、位置合わせできないことを示す図であり、(B)は、本実施形態により、ブリスタ前、後鋳巣モデルの位置合わせを確実に行えることを示す図である。
【図8】計算対象範囲を定める場合の所定部位として、鋳巣モデルの中心に代えて他の部分を用いた場合の例を示し、(A)は、計算対象範囲の設定例を示す図であり、(B)は、この設定例による鋳巣位置合せ処理を示す図である。
【図9】先行技術を説明するための図である。
【符号の説明】
【0039】
1…鋳造内部欠陥検査支援装置、6…三次元形状モデル位置合わせ手段、7…変形量算出手段、8…計算対象範囲設定手段、11…ベストフィット処理手段(鋳巣モデル位置合わせ処理手段)、14…鋳巣種類判別手段、30…鋳造品、32pM,32pA…部分対応ブリスタ前、後三次元形状モデル、34…鋳巣モデル、34M,34A…ブリスタ前、後鋳巣モデル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の鋳造品に施される加熱処理前、後の実測に基づいて該鋳造品に対する三次元形状モデルを、前記加熱処理前、後に対応して加熱処理前、後三次元形状モデルとして得る三次元形状モデル取得手段と、前記加熱処理前、後三次元形状モデルにおける前記鋳造品の鋳巣に対応する加熱処理前、後鋳巣モデルを対象にして予め定められる所定部位を中心として定まる計算対象範囲で行われる鋳巣モデル位置合わせ処理を行う鋳巣モデル位置合わせ処理手段と、該鋳巣モデル位置合わせ処理手段の処理結果に基づいて前記鋳造品の鋳巣の種類を判別する鋳巣種類判別手段と、を備えた鋳造内部欠陥検査支援装置であって、
前記加熱処理前、後三次元形状モデルについて、前記各モデルの予め定められる同等部位を三次元座標の原点に合わせて位置合わせする三次元形状モデル位置合わせ手段と、
前記鋳造品の各部分に対応する前記加熱処理前、後三次元形状モデルの各部分の変形量に相当する部分対応三次元形状モデル変形量を、前記各部分毎に算出する変形量算出手段と、
該変形量算出手段が算出した部分対応三次元形状モデル変形量に基づいて、前記鋳巣モデル位置合わせ処理手段が実行する鋳巣モデル位置合わせ処理で用いる前記計算対象範囲を設定する計算対象範囲設定手段と、
を有した
ことを特徴とする鋳造内部欠陥検査支援装置。
【請求項2】
検査対象の鋳造品に施される加熱処理前、後の実測に基づいて該鋳造品に対する三次元形状モデルを、前記加熱処理前、後に対応して加熱処理前、後三次元形状モデルとして得る三次元形状モデル取得工程を有し、前記加熱処理前、後三次元形状モデルにおける前記鋳造品の鋳巣に対応する加熱処理前、後鋳巣モデルを対象にして、予め定められる所定部位を中心として定まる計算対象範囲で行われる位置合わせ処理の結果に基づいて前記鋳造品の鋳巣の種類を判別する鋳造内部欠陥検査支援方法であって、
前記加熱処理前、後三次元形状モデルについて、前記各モデルの予め定められる同等部位を三次元座標の原点に合わせて位置合わせする三次元形状モデル位置合わせ工程と、
前記鋳造品の各部分毎に、前記加熱処理前、後三次元形状モデルの変形量を算出する変形量算出工程と、
前記変形量算出手段が算出した加熱処理前、後三次元形状モデルの変形量に基づいて前記計算対象範囲を設定する計算対象範囲設定工程と、
を備え、
前記加熱処理前、後鋳巣モデルを対象にした前記計算対象範囲での位置合わせ処理は、前記鋳造品の各部分に対応した三次元形状モデルの各部分毎に行うことを特徴とする鋳造内部欠陥検査支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−96624(P2010−96624A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267406(P2008−267406)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】