説明

鋳造用中子及びその製造方法

【課題】破壊する際に大きな砂塊が残り難い中子を提供する。
【解決手段】中子10は、ウォータージャケット付きのシリンダヘッドWを鋳造するのに用いられる。中子10には、非キャビティ面である上部円柱部上面14eに伝熱孔18が設けられている。伝熱孔18は、中子10の中心に向かって伸びている。中子10は、砂とレジンを混ぜた材料を金型に入れて焼成して作られる。金型には伝熱孔18を形成するための突出部が設けられている。突出部は金型の他の部分と同等に熱せられるので、中子の表面と伝熱孔内部は同等に焼成されて同じ程度の硬さとなる。中子10は内部まで均一な硬さとなるので、破壊する際に大きな砂塊が残り難い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造に用いる中子に関する。
【背景技術】
【0002】
複雑な形状の鋳造品、特に、内部に空間を有する鋳造品を作る場合、鋳造品の外形状を画定するための金型セットのほかに、鋳造品の内部空間を画定するために、鋳造品の外形状を画定する金型セットとは独立した別の金型が用いられることがある。鋳造品外形状を画定するための金型セットには、典型的には、下型、上型、横型がある。下型と上型だけで、キャビティの外形状を画定できる金型セットもあれば、上型と下型と複数の横型でキャビティを画定する金型セットもある。なお、金型セットを組み上げてキャビティ閉空間を画定することを「金型を閉じる」という。
【0003】
他方、鋳造品の内部空間を画定するための金型は、中子といわれる。なお、本明細書では、中子も含めて金型セットと称する。また、本明細書では、中子の一部(端部)を巾木部と称し、巾木部以外を鋳造形状形成部と称する。「巾木部」とは、鋳造の技術者の間でよく使われている俗語であり、鋳造品の形状形成に寄与しない中子端部であって、上下を別の部材で挟まれる部分をいう。巾木部は通常、上型と下型、あるいは下型と横型で挟まれることが多い。他方、「鋳造形状形成部」とは、巾木部を除いた中子の部分、即ち、鋳造品の形状形成に寄与する部分をいう。さらに、金型セットを閉じたときにキャビティを確定する金型表面をキャビティ面と称し、キャビティ面以外の面を非キャビティ面と称する。中子の鋳造形状形成部とは、キャビティ面を有する部分に相当する。また、「非キャビティ面」の典型は、金型セットを閉じたときに、他の金型の表面と密着する面、及び、巾木部の表面である。
【0004】
鋳造、例えばアルミダイキャスティングでは、中子は砂とレジンの混合物を焼いて作られる。レジンがバインダとなって砂を固めるのである。そのような材質は、レジンコーテッドサンドと呼ばれる。
【0005】
鋳造の後、中子は、次のようにして除去される。まず、金型から中子ごと鋳造品をとり出す。次いで、鋳造品に衝撃を与えて中子を破壊する。崩れて粒状となった砂塊を、鋳造時に設けられた孔から排出する。鋳造品に衝撃を与える装置はノックアウトマシンとよばれる。また、鋳造時に設けられた孔とは、鋳造品の形状として形成される孔の場合があれば、砂塊を排出するために設けられる孔の場合もある。後者の場合は、砂塊を除去した後に塞がれる。中子を破壊する方法は、例えば特許文献1に開示されている。また、破壊後の中子の砂塊を排出する方法については、例えば特許文献2や特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−239521号公報
【特許文献2】特開昭61−009961号公報
【特許文献3】特開平3−297552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
中子の破壊が十分でないと、大きな砂塊が残ってしまい、鋳造品から排出し難くなる。さりとて、鋳造品にあまりに強い衝撃を加えることは、鋳造品に損傷を与える虞があるので避けたい。本明細書は、破壊する際に大きな砂塊が残り難い中子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
まず、大きな砂塊が残ってしまう原理を解説する。中子は砂とレジンを混合して焼成したものであるが、その材料は熱を加えていくと徐々に硬くなり、さらに熱を加えると逆に柔らかくなる。図5は、中子の材料の単位質量当たりに加える熱量とその材料の硬さの変化を模式的に示したグラフである。中子は焼成工程によって製造されるが、このとき、中子の材料が硬化域に属するように焼成する。中子は鋳造工程においても溶湯にて加熱されるが、このときは硬化域から崩壊域へと遷移する。崩壊域に達した中子は崩れ易くなる。ところが、中子自体が大きくなると、焼成工程にて内部まで十分に焼成されない。すなわち、中子の表面近傍は硬化域に達するが、内部は未硬化域にとどまったままとなることがある。別言すれば、中子の内部がいわゆる生焼け状態となる。そのような中子を使って鋳造すると、溶湯の熱によって表面付近は崩壊域へと移るが、内部は硬化域にとどまる。このため、鋳造工程の後、中子内部は硬い状態となってしまう。そのため、中子の内部が崩れ難くなり、ノックアウトマシンで破壊しても大きな砂塊が残ってしまうことになる。
【0009】
本明細書が開示する技術は、上記の解析に基づく。本明細書が開示する中子は、砂を焼き固めて作られた鋳造用中子であって、鋳造対象品の形状を画定するキャビティ面以外の非キャビティ面に孔を有する。非キャビティ面に形成された孔を以下、伝熱孔と称することにする。焼成時にこの孔を通して熱を中子内部まで伝えるからである。中子は、レジンと砂の混合物を金型に入れて焼成するが、このとき、伝熱孔を形成するための突出部を備えた金型によって焼成する。焼成工程では金型の突出部も高温となるので、伝熱孔を通して中子の内部までよく加熱することができる。即ち、均一に加熱した中子を形成することができる。別言すれば、キャビティ面における中子の強度と、孔内面における中子の強度がほぼ同じとなる。そのような中子は、鋳造後に内部まで均一に崩壊域に達するから、破壊する際、大きな砂塊が残り難い。さらに伝熱孔は、結果的に中子の内部に空間を確保することになるから、物理的に大きな砂塊が残り難くなるという利点もある。
【0010】
本明細書が開示する中子の別の態様では、伝熱孔は、非キャビティ面から中子中心に向かって伸びていることが好ましい。
【0011】
また、本明細書が開示する技術は、上記した鋳造用中子を用いて製造された鋳造品にも具現化される。そのような鋳造品は、中子を容易に除去することができるから、コストを抑えて製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例の中子の模式的斜視図である。
【図2】中子を使って製造される鋳造品の斜視図である。
【図3】鋳造品(中子を含む)の断面図である。
【図4】中子を焼成するための金型の断面図である。
【図5】中子材料に与える熱量と硬さの関係を示す模式的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に、一態様の中子10の斜視図を示す。この中子10は、エンジンのシリンダヘッドを鋳造する際に用いる中子である。図2に、中子10を使って鋳造されるシリンダヘッドWの模式図を示す。なお、図1、図2は、説明のために中子10、シリンダヘッドWの形状を模式的に表しているにすぎず、それらの形状を正確には示していないことに留意されたい。シリンダヘッドWは、ボア孔14b、及びウォータージャケット用の空間20を有する。中子10は、ボア孔および、ボアの周りのウォータジャケット用の空間を形成するために用いられる。
【0014】
中子10の本体12は、ウォータージャケット用の空間20を作るための鋳造形状形成部である。中子10の上部円柱部14aは、シリンダヘッドWのボア孔14bを作るための鋳造形状形成部である。図1の符号16aが示す円柱部分(連結部16a)は、中子本体12と巾木部を連結する部分である。なお、巾木部は図示を省略している。シリンダヘッドWにおいて連結部16aに相当する円筒孔16bは、鋳造品の目的の形状には必要ないが、鋳造型の内部にて中子10を支持するために必要な部分である。円筒孔16bは後に埋めることになる。図1と図2を比較すると明らかなとおり、中子本体12の表面、及び、上部円柱部14aの周面は、シリンダヘッドWの内部空間を画定する。すなわち、中子本体12の表面、及び、上部円柱部14aの周面が、キャビティ面に相当し、それ以外の面が非キャビティ面に相当する。図1に示しているように、非キャビティ面である上部円柱部14aの上面14eには、伝熱孔18が設けられている。なお、図1では隠れて見えないが、中子10の下面には、砂排出孔を形成するための突部が形成されている。
【0015】
図3に、図2のIII−III線に沿った断面図を示す。図3の断面図は、中子10を含むシリンダヘッドWの断面図である。図3に示すように、中子10には、上部円柱部14aの上面14eから中子10の中心に向かって伝熱孔18が設けられている。符号17は、破壊した中子10の砂塊を排出するための排出孔を設けるための突出部17である。排出孔も、シリンダヘッド鋳造後に埋められる。
【0016】
図4は、中子10を焼成するための金型30セットの断面図である。金型セット30は、上型32と下型34で構成される。上型32と下型34を閉じると、中子10の形状と同じ形状の閉区間であるキャビティ空間CVが形成される。上型32には、中子10の伝熱孔18を形成するための突出部32aが設けられている。
【0017】
中子10は、砂とレジンを混合したものを金型セット30に詰めたのち、加熱して作られる(焼成される)。焼成工程において金型セット30(上型32と下型34)はほぼ均一に熱せられる。即ち、突出部32aも、金型の他の部分とほぼ同じ温度となる。それゆえ、中子の表面と伝熱孔18の内面はほぼ同じ加熱を受ける。その結果、中子は内部まで均一に熱せられ、表面も内部もほぼ同じ硬さとなる。この中子10を使ってシリンダヘッドWを鋳造する際、中子10は再び均一に熱せされる。中子10の表面も内部も均一に熱せられ、中子10全体が崩壊域に達する。
【0018】
さらに図3から明らかなとおり、伝熱孔18によって中子の中心まで達する空間が形成されており、この空間が、中子を崩壊し易くする。この中子10を用いてシリンダヘッドWを鋳造した後、ノックアウトマシン(不図示)を使ってシリンダヘッドに衝撃を与えると、中子10は均一に細かく砕かれる。細かくなった砂塊は、砂排出孔やボア孔14bから容易に除去することができる。
【0019】
以上説明したとおり、本明細書が開示する技術によれば、伝熱孔18を設けることによって、内部まで均一な硬さを有する中子10を実現できる。そのような中子10は破壊する際、大きな砂塊が残り難いため、鋳造品から容易に除去することができる。
【0020】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0021】
10:中子
12:中子本体
14a:上部円柱部
14b:ボア空間
14e:上部円柱部上面
16a:連結部
16b:円筒孔
18:伝熱孔
30:金型セット
32:上型
32a:突出部
34:下型
CV:キャビティ空間
W:シリンダヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂を焼き固めて作られた鋳造用中子であって、鋳造対象品の形状を画定するキャビティ面以外の非キャビティ面に孔を有する鋳造用中子。
【請求項2】
前記孔は、非キャビティ面から中子の中心に向かって伸びていることを特徴とする請求項1に記載の鋳造用中子。
【請求項3】
キャビティ面における中子の強度と、孔内面における中子の強度が同じであることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳造用中子。
【請求項4】
前記孔を形成するための突出部を備えた金型によって形成されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の鋳造用中子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載された鋳造用中子を用いて製造された鋳造品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−218057(P2012−218057A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88860(P2011−88860)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】