説明

鋳造用金型の塗型方法

【課題】簡単な構成で塗型剤の被膜を安定して確実に鋳造用金型に形成することができる鋳造用金型の塗型方法を提供する。
【解決手段】本発明の鋳造用金型の塗型方法は、鋳造用金型に水性塗型剤を塗型するものであって、鋳造用金型を予熱する工程S1と、この鋳造用金型に対して珪酸ナトリウムまたは珪酸カリウムの濃度が1.9〜5.0重量%の水性塗型剤を塗布する工程S2とを行う。そして、本発明の鋳造用金型の塗型方法はさらに、予熱工程S1で鋳造用金型を170〜250°Cに予熱する。また、本発明の鋳造用金型の塗型方法はさらに、水性塗型剤が塗布された鋳造用金型を130°C以下に冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用金型の塗型方法に関し、特に、水性塗型剤を塗型する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳造用金型には、溶湯の接触からの保護、溶湯の流動性の向上や溶湯の保温、鋳物の凝固コントロール、離型性等を目的として、塗型剤を塗布する塗型が一般に行われている。塗型は、所定ショット毎に行われる。塗型剤は、珪酸ナトリウムや珪酸カリウムを所定の濃度となるように希釈したバインダーを用いる。一般に、このような水性塗型剤を用いて塗型する際には、例えば珪酸ナトリウムが9〜25重量%程度のものを、スプレーにより鋳造用金型の溶湯と接触する部分に塗布する。
【0003】
ところで、塗型剤に含まれる珪酸ナトリウム及び珪酸カリウムは、大気中に含まれる水分を吸湿しやすい。また鋳造用金型は、一般に温度調節をするために冷却水などの温調流体を流通させる温調回路を有しており、この温調回路には温調流体を供給・排出させるためのホースが接続される。このホースを着脱する際には、冷却水などの温調流体がこぼれて、塗型剤に付着することがある。このとき、塗型剤の珪酸ナトリウム及び珪酸カリウムが水を含むと、鋳造用金型の表面から塗型剤の被膜が剥離し、上述した塗型の目的を安定して達成することができなくなる。
【0004】
そのため、鋳造用金型の塗型方法に関する従来の技術では、耐水性を有する塗型剤の被膜を形成するために、一般に図2に示すように、例えば塗型剤の原液を水で希釈して珪酸ナトリウムが9〜25重量%程度の濃度となるように調整する工程S10と、この調整された塗型剤を鋳造用金型にスプレーなどで吹き付け塗布する工程S11と、塗布された塗型剤を乾燥させる工程S12と、塗型剤が乾燥した鋳造用金型を炉内に収容するなどして塗型剤を焼成する工程S13とを行っていた。そして、焼成工程S13では、例えば450°Cで10分以上維持していた。
【0005】
また、例えば特許文献1には、自然乾燥させたり、ガスバーナー等を使用して所定の温度で強制乾燥させること(0029)、さらに実施例として、LPGバーナー等を使用して400°C以上の温度で20分間強制乾燥することなどが開示されている(0047)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−122159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図2に示したように乾燥工程S12と焼成工程S13を行う場合の従来の技術にあっては、水性塗型剤を乾燥させる工程S12に必要な時間や、焼成工程S13に用いる炉などの設備、焼成温度に加熱するためのエネルギを必要とするという問題や、乾燥工程S12から焼成工程S13に至るまでの管理に多くの工数を必要とするなどの問題があった。
【0008】
また、特許文献1にあっても、図2に示した乾燥工程S12と焼成工程S13を行う場合と同様に、塗型剤を自然乾燥させるための時間や、強制乾燥させるために比較的高い温度に加熱するためのエネルギを必要とするという問題や、自然乾燥させてから強制乾燥に至るまでの管理に多くの工数を必要とするなどの問題があった。そして、特許文献1にあっては、遠心鋳造用金型内に溶湯を供給するための遠心鋳造用注湯部材の表面に、低温焼成セラミックコーティング剤の塗布によって形成されたセラミックス層と、黒鉛を主体とする塗型剤の塗布によって形成された塗型層と、からなる断熱層を形成するものである。すなわち、特許文献1では、製品には転写されない遠心鋳造用注湯部材に塗型層を形成するものであることから、塗型の厚み、通気度、保温性、強度など、塗型の精度や性能に対して要求が高くないため、製品に塗型面が転写されるために高い性能が要求される部分の塗型には適用することが困難である。
【0009】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたもので、製品に塗型面が転写されるために高い性能が要求される部分に対する塗型であっても、簡単な構成で塗型剤の被膜を安定して確実に鋳造用金型に形成することができる鋳造用金型の塗型方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の鋳造用金型の塗型方法に係る発明は、上記目的を達成するため、鋳造用金型に水性塗型剤を塗型する方法であって、鋳造用金型を予熱する工程と、該鋳造用金型に対して珪酸ナトリウムまたは珪酸カリウムの濃度が1.9〜5.0重量%の水性塗型剤を塗布する工程とからなることを特徴とするものである。
請求項2の鋳造用金型の塗型方法に係る発明は、上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明において、前記予熱工程で、鋳造用金型を170〜250°Cに予熱することを特徴とするものである。
請求項3の鋳造用金型の塗型方法に係る発明は、上記目的を達成するため、請求項1または2のいずれかに記載の発明において、前記水性塗型剤が塗布された鋳造用金型を130°C以下に冷却することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、鋳造用金型を予熱する工程と、該鋳造用金型に対して珪酸ナトリウムまたは珪酸カリウムの濃度が1.9〜5.0重量%の水性塗型剤を塗布する工程とを行うという簡単な構成により、塗布の前に予熱しているために水性塗型剤が鋳造用金型に塗布された瞬間に蒸発することから、塗型剤が液だれするのを抑制することができ、塗型剤の被膜を安定して確実に鋳造用金型に形成することができる。
請求項2の発明によれば、請求項1に記載の発明において、前記予熱工程で、鋳造用金型を予熱する温度を上記の焼成温度や強制乾燥温度と比較して低い170〜250°Cとするだけで、塗型剤の被膜を安定して確実に鋳造用金型に形成することが具現化できる。
請求項3の発明によれば、請求項1または2のいずれかに記載の発明において、前記水性塗型剤が塗布された鋳造用金型を130°C以下に冷却することで、塗型により形成された被膜が確実に耐水性を有することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の鋳造用金型の塗型方法による構成を説明するために各工程を概念的に示したブロック図である。
【図2】従来の一般的な鋳造用金型の塗型方法による構成を説明するために各工程を概念的に示したブロック図である。
【図3】実施例の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
最初に、本発明の鋳造用金型の塗型方法の実施の一形態を、図1に基づいて詳細に説明する。同じ構成要素または相当する構成要素には、同一符号を付するものとする。
本発明の鋳造用金型の塗型方法は、概略、鋳造用金型に水性塗型剤を塗型するものであって、鋳造用金型を予熱する工程S1と、この鋳造用金型に対して珪酸ナトリウムまたは珪酸カリウムの濃度が1.9〜5.0重量%の水性塗型剤を塗布する工程S2とを行うものである。そして、本発明の鋳造用金型の塗型方法はさらに、予熱工程S1で鋳造用金型を170〜250°Cに予熱するものである。
【0014】
本発明を実施するに当たり、珪酸ナトリウムまたは珪酸カリウムを含む塗型剤の原液を水で希釈し攪拌するなどして、珪酸ナトリウムまたは珪酸カリウムの濃度を1.9〜5.0重量%の水性塗型剤を調整しておく(S0)。例えば、塗型剤の原液の成分が珪酸トリウムを10重量%を含む場合、この原液の比率1を水の比率4.3〜1.0で希釈する。その結果、水性塗型剤の珪酸ナトリウムの濃度は、1.9〜5.0重量%に調整されることとなる。
【0015】
ここで、従来の技術で使用されていた水性塗型剤の成分は一般に、例えば珪酸ナトリウムが9〜25重量%程度の濃度となっており、塗型剤の原液を希釈するための水の含有比率が比較的低い(少ない)。これに対して、本発明で使用される水性塗型剤は、珪酸ナトリウム等の濃度が1.9〜5.0重量%となるように水で希釈されることから、水の含有比率が従来の技術と比較して高く(多く)なっている。
【0016】
予熱工程S1では、鋳造用金型を170〜250°Cに、より好ましくは180〜210°Cに予熱する。この鋳造用金型を予熱するためには、ガスバーナーを使用したり炉内に収容するなど、従来と同様の手法を用いることができる。しかしながら、本発明による予熱の温度は、図2のS13に参照される従来の焼成工程(温度450°Cで10分以上)や、特許文献1に開示された強制乾燥(LPGバーナー等を使用して400°C以上の温度で20分間)と比較して温度が低いので、予熱に要するエネルギが少なくて済み、しかも、鋳造用金型の温度が上述した所定の予熱温度に達するだけでよいので、その予熱に要する時間も少なくて済む。
【0017】
本発明では、従来の技術と比較して、乾燥工程(S12)や焼成工程(S13)や、特許文献1に開示された強制乾燥(LPGバーナー等を使用して400°C以上の温度で20分間)を必要としないことから、製品を成形するために使用する全体のエネルギの低減や設備の廃止、これらの工程の管理のための多くの工数や、工程数自体を低減させることができる。
【0018】
予熱工程(S1)で鋳造用金型が所定の温度に予熱されると、この予熱された鋳造用金型に対して珪酸ナトリウムまたは珪酸カリウムの濃度が1.9〜5.0重量%の水性塗型剤を塗布する(図1のS2)。この水性塗型剤の鋳造用金型に対する塗布は、スプレーで所定の厚さ、及び通気度、保温性、強度などの性能を有する被膜が形成されるよう吹き付ける。本発明で使用される水性塗型剤は、予熱された鋳造用金型に塗布されると、直ちに水が蒸発し乾燥して定着するため、水性塗型剤が液だれすることなく、所定の厚さ、及び通気度、保温性、強度などの精度や性能を有する被膜が鋳造用金型の表面から剥離することなく安定して形成される。
【0019】
なお、鋳造用金型に形成された塗型剤の被膜は、130°C以下となったときに耐水性を有することが知見されている。そのため、鋳造用金型に塗型剤を塗布してから温度が130°C以下となるよう冷却させる。鋳造用金型は、130°C以下となれば、直ちに鋳造に用いることができる。
【0020】
この鋳造用金型を冷却するためには、塗型剤を塗布した後に放置して自然冷却させてもよく、また、例えば乾燥させた空気や不活性ガスなどを当てるなどして強制冷却させてもよい。しかしながら、塗型剤が塗布された鋳造用金型の温度は、周囲の温度や、塗布する水性塗型剤の温度、塗布する量、鋳造用金型が予熱によって保有する熱量などによって異なり、塗型剤を塗布してから実際に金型を鋳造に使用するまでに130°C以下となっている場合がある。そのため、本発明の塗型方法では、水性塗型剤が塗布された鋳造用金型を130°C以下に冷却する必要がない場合もある。
【0021】
[実施例]
図3に示した表に基づいて、水性塗型剤の成分として珪酸ナトリウムの濃度を変化させた場合を説明する。なお、図3の表中、試験Aは、本発明による方法で塗型剤が塗布され被膜が形成された状態、すなわち、予熱された鋳造用金型を想定して所定の温度に加熱されたテストピースの表面に各濃度の水性塗型剤を塗布して130°Cとなったときの所謂フクレの発生状態を目視で評価したものである。試験Bは、本発明により形成された被膜の耐水性を評価するためのテストとして、試験Aを行った後にテストピースを一度水に浸漬し、次いで、水から上げて大気中に24時間放置したときの、テストピースの塗型の溶け出しの状態を目視で評価したものである。試験Cは、鋳造前に金型を予熱するバーナ昇温と鋳込み時の溶湯の熱負荷環境を再現するためのものであり、試験Bを行った後にさらに、テストピースに水を掛けてから従来の技術と同様にバーナを用いて約400°Cで焼成したときの、テストピースの塗型の剥離の発生状態を目視で評価したものである。各評価結果は、問題がなく塗型による被膜の状態が良好であると評価された場合には○を、また、問題が生じており塗型による被膜の状態が不良であると評価された場合には×を付している。
【0022】
なお、この実施例においては、テストピースを清掃した後に電気炉で180〜210°Cに予熱するとともに、珪酸ナトリウムが各濃度となるよう水性塗型剤を調整して30秒攪拌し、この水性塗型剤を予熱されたテストピースの表面にスプレーガンにより吹き付け塗布する。そして、テストピースの表面に塗型により形成される被膜の厚さが150μmとなるように、水性塗型剤を塗布した。
【0023】
図3から明らかであるように、試験Aにおいては、珪酸ナトリウムの含有量が6.5重量%以上の水性塗型剤を採用した場合には、それぞれ、被膜がテストピースの表面から浮いた状態である所謂フクレが生じていることが目視で確認された(図3に示した表で×)。そして、珪酸ナトリウムの含有量が多いほど、このフクレの発生する数が多くなることが知見された。これに対して、珪酸ナトリウムの含有量が6.0重量%以下の水性塗型剤を採用した場合には、それぞれ、フクレの発生は認められず、被膜がテストピースの表面に密着して形成されていることが目視で確認された(図3に示した表で○)。
【0024】
また、試験Bにおいては、珪酸ナトリウムの含有量が6.5重量%以上の水性塗型剤を採用した場合には、それぞれ、被膜の表面にシワが発生していることから、塗型剤の溶け出しが発生していることが目視で確認された(図3に示した表で×)。これに対して、珪酸ナトリウムの含有量が6.0重量%以下の水性塗型剤を採用した場合には、それぞれ溶け出しの発生は認められず、被膜がテストピースの表面に密着して形成されていることが目視で確認された(図3に示した表で○)。
【0025】
試験Cにおいては、珪酸ナトリウムの含有量が5.5重量%以上の水性塗型剤を採用した場合には、それぞれ、被膜がテストピースの表面から剥離した状態が生じていることが目視で確認された(図3に示した表で×)。これに対して、珪酸ナトリウムの含有量が5.0重量%以下の水性塗型剤を採用した場合には、それぞれ、剥離が認められず、被膜がテストピースの表面に密着して形成されていることが目視で確認された(図3に示した表で○)。
【0026】
この実施例の結果から、本発明では、珪酸ナトリウムまたは珪酸カリウムの含有量が1.9〜5.0重量%の水性塗型剤を採用することとした。
【符号の説明】
【0027】
S0:塗型剤調整工程、 S1:予熱工程、 S2:塗布工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造用金型に水性塗型剤を塗型する方法であって、
鋳造用金型を予熱する工程と、
該鋳造用金型に対して珪酸ナトリウムまたは珪酸カリウムの濃度が1.9〜5.0重量%の水性塗型剤を塗布する工程と
からなることを特徴とする鋳造用金型の塗型方法。
【請求項2】
前記予熱工程で、鋳造用金型を170〜250°Cに予熱することを特徴とする請求項1に記載の鋳造用金型の塗型方法。
【請求項3】
前記水性塗型剤が塗布された鋳造用金型を130°C以下に冷却することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の塗型方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−103256(P2013−103256A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249634(P2011−249634)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】