説明

鋳造金属融解装置

【課題】 容器中の鋳造用金属を鋳込みに適した状態に融解する。
【解決手段】 容器(坩堝)4中の金属8を高周波誘導加熱手段10、13、16によって融解し、金属の融解状況を表わす信号dと予め設定された基準信号fとを比較器40で比較し、前記出力信号が基準信号を超過したときに低周波振幅変調高周波誘導加熱を開始させる。前記融解状況を表わす信号dが基準信号fを超過している期間が所定期間継続すると、高周波誘導加熱を停止させると共に金属を鋳込むための指令信号hを発生し、信号dが基準信号fを超過している期間が前記所定期間より短いときは、低周波振幅変調高周波誘導加熱を所定の期間延長する。ある制限時間内に信号dが基準信号fを前記所定期間継続して超過することがない場合は、高周波誘導加熱を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば義歯のような歯科用や装身具等の小型製品を鋳造するための金属融解装置に関するものであり、特に金属が鋳込みに適した状態に融解されたと判断されたときに融解金属を鋳型に鋳込み、金属の融解が適正に完了していないと判断されたときは鋳込みを中止すると共に金属の加熱を停止するようにした鋳造金属融解装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳造金属融解装置としては、例えば特許文献1に開示されているようなものがある。この文献の融解装置では、鋳造用容器内に金属材料を収容し、容器を高周波誘導加熱する。容器内の金属が発生する光を受光器によって受光し、その受光器からの受光電気信号の特定周波数成分の値が予め定めた基準値以上となると、高周波誘導加熱している高周波信号を低周波振幅変調し、この振幅変調された高周波信号によって高周波誘導加熱し、特定周波数成分の値が基準値以上となる状態が予め定めた時間以上にわたって継続すると、金属が融解されたとして、鋳型に鋳込む。
【0003】
【特許文献1】特開2001−252758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この装置において、融解される金属が例えば酸化皮膜形金属の場合、酸化皮膜が金属表面を覆っているので、変調された高周波信号に基づく融解された金属の動きが小さく、特定周波数成分の値が基準値以上となっても、直ぐに基準値を下回ることがある。この場合、高周波誘導加熱が継続される。従って、実際には金属が融解されているので、長時間にわたって金属への加熱が継続されることがあり、金属の沸騰あるいは一部金属の過熱が生じるので、人手によって加熱を停止させる必要がある。この場合、材料を入れ替えて、再度加熱を行わなければならず、材料と作業工程とが重複し、無駄が生じる。
【0005】
本発明は、融解失敗による作業のやり直しや材料の無駄をなくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による鋳造金属融解装置は、融解されるべき金属、例えば酸化皮膜によって覆われている金属を含む金属を収容した融解用容器と、該融解用容器に収容された金属を高周波誘導加熱して融解する高周波誘導加熱手段と、該高周波誘導加熱手段に高周波信号を供給する高周波信号源と、該高周波信号を低周波振幅変調する低周波信号を発生する低周波信号源と、前記金属の加熱時に該金属が発する光を受光し、この光に対応する受光電気信号を発生する受光器と、前記光の変化に伴う前記受光電気信号の急変に起因する周波数成分を抽出する周波数成分抽出手段と、抽出された前記周波数成分を表わす出力信号と予め設定された基準信号とを比較し、前記出力信号が前記基準信号を超過したときに前記低周波信号源を有効にして前記高周波信号を低周波振幅変調して低周波振幅変調高周波誘導加熱を開始させるための開始信号を発生する比較器と、前記周波数成分を表わす出力信号が前記基準信号を所定期間(後程図3で説明するT1)継続して超過すると、前記高周波誘導加熱を停止させると共に、融解した金属を鋳型に鋳込むための指令信号を発生するタイマ手段と、を含む。さらに、前記高周波誘導加熱手段は、前記周波数成分を表わす出力信号が前記基準信号を前記所定期間より短い期間超過するときは、所定の延長期間(後程図3で説明するT2)だけ前記低周波振幅変調高周波誘導加熱を延長して実行するように構成されている。必要があれば、高周波誘導加熱の開始後一定期間(後程図3で説明するT3の間)経過した後、または前記周波数成分の抽出後一定期間(後程図3で説明するT4の間)経過しても、前記出力信号が前記所定期間(T1)継続して前記基準値以上に維持されない場合は、高周波誘導加熱を停止し、必要に応じて金属材料を交換する。
【0007】
タイマ手段は、前記周波数成分抽出手段の出力信号が予め設定された一定期間(前述のT1)継続して低周波振幅変調高周波誘導加熱が継続したときのみ鋳込み指令信号を発生するように構成されている。これは次の理由による。即ち、容器中の金属の温度が未だ低い融解前の高周波誘導加熱期間中に何らかの原因で金属塊が、落下、移動、転倒、あるいは傾いたりすると、受光電気信号は、一瞬、金属が融解したときと同様な振動またはレベルの急増を呈する。これを誤って金属の融解と判断して低周波振幅変調高周波誘導加熱(以下では、これを低周波振幅変調加熱と称することがある)を開始すると、特に酸化皮膜で覆われた金属の場合、金属が完全に融解されていない状態で鋳込みが行われることがある。そこで、受光電気信号の振動あるいはレベルが急増した後、予め設定された一定期間低周波振幅変調高周波誘導加熱を実行した時点で鋳込み指令信号が発生されるようにしている。
【0008】
本発明の鋳造金属融解装置では、比較器の出力信号によって動作を開始するタイマが設けられており、該タイマは前記比較器が出力信号を発生し続ける間計時して、一定期間(T1)経過時に低周波振幅変調加熱を停止させる指令信号を発生する。また、第2のタイマを設けることも可能で、該第2のタイマは高周波誘導加熱の開始時点から一定期間(後程図3を参照して説明するT3の期間)、または前記比較器の出力信号の発生から一定期間(後程図3を参照して説明するT4の期間)経過すると、低周波振幅変調加熱を含む高周波誘導加熱をすべて停止する停止信号を発生する。
【0009】
周波数成分抽出手段の出力信号、即ち前述の比較器の出力信号が発生してから低周波振幅変調加熱をどの程度継続させるかは鋳造金属の種類、重量、さらに酸化膜の厚み等に基づいて熟練者の経験によって、あるいは事前の実験によって決定される。
【0010】
必要があれば、低周波振幅変調加熱の終了後、融解し、液化した金属の温度と粘度が全体的に確実に同一の状態に行き渡るようにするための係留時間と称される期間を設定し、この間に融解金属を安定化させ、静止させてから鋳込みを実行するようにすることもできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の鋳造金属融解装置では、受光電気信号の急変により周波数成分抽出手段の出力信号が基準値以上になったときに低周波振幅変調加熱を行うから、液化し始めた金属が電磁撹拌されて振動し、たとえ分厚い酸化皮膜が存在する場合でも、酸化皮膜が破れて融解が加速され、前記出力信号が所定の期間持続しなかった場合でも一定の延長期間(後程図3を参照して説明するT2の期間)内に周波数成分抽出手段の出力信号が再度基準値以上に立ち上がる機会が多くなり、このことにより特に酸化膜型金属でも融解を確実に行うことができ、均質の鋳造品を安定して製造することができる。また、何らかの原因で制限時間内に金属を完全に融解することができなかったと判断された場合は、加熱を停止し、無為に加熱を続け、金属が過熱され、沸騰するのを防止して、装置や鋳型に損傷を与えるのを未然に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明による鋳造金属融解装置一実施形態を概略的に示す図である。同図で、内部に金属融解容器、例えば坩堝4および鋳型6が配置されたチャンバ2は、上部チャンバ3、下部チャンバ5、および下部チャンバ5とピストン形式で結合されているシリンダ7とにより構成されている。坩堝4及び鋳型6がセットされた状態で、下部チャンバ5は、シリンダ7内に注入される不活性ガス圧力により押し上げられて上部チャンバ3と接触部分9において接触し、その接触部分9に設けられたOリング11により上下のチャンバ内は気密に保たれる。上部チャンバ3内に設けられた坩堝4の外周には高周波誘導加熱コイル10が配置されている。坩堝4内には融解される金属8が収容されており、上記気密状態において不活性ガスが供給された無酸素状態とされ、誘導加熱コイル10により高周波誘導加熱される。融解した金属は、坩堝4が縦方向に開いて2分割されることにより下部の鋳型6に注入される。坩堝4の構成および開閉機構は公知であるので、詳細な説明は省略する。
【0013】
坩堝4を加熱するための高周波誘導加熱コイル10は、共振用コンデンサ12と並列に接続されてタンク回路13を構成している。タンク回路13は、整合用変圧器14の2次側に接続されている。整合用変圧器14の1次側は、サイリスタ、IGBT、電力用FET、電力用バイポーラトランジスタなどの半導体スイッチング素子を含む高周波誘導加熱用のインバータ16の出力側に接続されている。高周波誘導加熱コイル10に供給される高周波信号は、坩堝4に収容された金属の種類、重量等によって決定されるが、一般には50〜100kHz以上の周波数に設定されている。
【0014】
インバータ16の入力側は、サイリスタ、IGBT、電力用FET、電力用バイポーラトランジスタなどの半導体スイッチング素子を含む直流出力電圧制御型整流回路18の出力側に接続されている。整流回路18の入力側は商用交流電源20に接続されている。
【0015】
整流回路18には整流回路制御回路22から制御信号が供給される。制御回路22は、定電圧制御用基準信号を有し、且つインバータ16の出力電圧を検出して、この出力電圧が前記定電圧制御用基準電圧に対応する定電圧となるように整流回路18の半導体スイッチング素子をフィードバック制御している。
【0016】
26はインバータ制御回路で、該制御回路26はインバータ16の出力電圧と出力電流の位相を検出し、タンク回路13の共振周波数にインバータ16の出力周波数が整合するように該インバータ16のスイッチング素子のスイッチング周波数を追尾制御する。
【0017】
インバータ制御回路26には、低周波発振回路24の出力信号を増幅器25で増幅した低周波変調信号iが供給される。低周波変調信号iの周波数は融解される金属8の種類、重量等によって異なるが、一般的には5〜30Hzの範囲で設定され、通常は約10Hz程度に設定される。この低周波変調信号としては、正弦波、矩形波またはこれらの合成波等の各種の波形の信号を使用することができる。低周波変調信号は、金属8の機械的な特性からあまり高い周波数になると、後述する融解金属の形状変化による振動が少なくなり、融解の検出が困難になる。低周波変調信号の波形、大きさ、周波数等も金属8の種類、重量、形状および坩堝4の形状、寸法等の各種の条件に対応して最適状態に設定されることが望ましいが、可及的に広範囲の金属に対して有効となるように選定する必要がある。従って、前記の10Hzの低周波変調信号の周波数は単なる一例に過ぎない。
【0018】
インバータ制御回路26は、インバータ16の出力電圧と出力電流との位相差を検出し、タンク回路13の共振周波数にインバータ16の出力周波数を整合させて、タンク回路13の共振電流が常に最大となるように設定している。ここで、低周波変調信号によって出力電圧と電流との間に強制的に僅かな位相差を発生させる。位相差があると、タンク回路13の共振周波数とインバータ16の出力周波数とが僅かに不整合となり、タンク回路13の共振電流が減少する。この不整合と整合の状態が低周波変調信号によって周期的に作られるので、タンク回路13の共振電流の大きさが変調信号によって振幅変調される。
【0019】
なお、低周波振幅変調によるインバータ16の出力電圧の変動が、整流回路制御回路22の定電圧制御に影響を与えないように、変調信号の周期に比べて整流回路制御回路22の定電圧制御の応答時間を充分に遅らせている。コイル10、コンデンサ12、変圧器14、インバータ16、整流回路18、整流回路制御回路22、インバータ制御回路16、増幅器25および低周波発振回路24によって金属8の高周波誘導加熱手段を構成している。
【0020】
チャンバ2の上部には、坩堝4内の金属8が融解されて発生する光を透過させる窓28が設けられている。坩堝4中の融解金属が発生する光は窓28を透過して受光器30で受光される。受光器30としては、例えば赤外線フォトダイオードまたは焦電型センサーが使用される。
【0021】
高周波誘導加熱コイル10による高周波誘導加熱により、坩堝4内の金属8が加熱されるにつれて金属8の温度が上昇し、この温度上昇にほぼ比例して金属8の発光光量が増加する。受光器30はこの発光光量を受けて受光電気信号aを発生する。負荷抵抗器32の両端間に発生する前記電気信号aを表わす電圧は周波数成分抽出手段、例えばフィルタ手段、より詳しくは低域遮断(ハイパス)フィルタ34に入力される。低域遮断フィルタ34は、低周波発振回路24が発生する低周波信号の周波数以上の周波数成分を通過させ、これよりも低い周波数成分を遮断するように構成されている。さらに、ノイズ混入による誤動作を防止するために。低周波発振回路24の低周波信号の周波数のみを通過させるバンドパスフィルタを使用することもある。
【0022】
図2(a)は金属8の融解開始からの受光器30の受光電気信号aのレベル変化を示す。高周波誘導による加熱期間t1では、加熱開始の直後は金属8の温度上昇が小さく、受光電気信号aは殆ど変化しない。加熱が進むにつれて金属8の温度は急速に上昇し、赤熱し始める。金属8が融解直前の期間t2に入ると、温度上昇は次第に緩やかになって受光電気信号aの上昇も緩やかになる。加熱がさらに進むと温度上昇はさらに緩やかになり、融解期間t3に入る。融解期間t3では、金属8の融解、液化が開始され、金属はその周辺から液化し始める。この期間中の温度上昇は殆どないため受光電気信号aは変化しない。金属全体が液化した後、さらに加熱すると沸騰が始まり、図2(a)に点線で示すように受光電気信号aは急速に増大する。
【0023】
図2(a)における加熱期間t1および融解直前の期間t2では、金属8は未だ充分に融解していないので、受光電気信号aの変化は低域遮断フィルタ34の遮断周波数よりも充分に低く、低域遮断フィルタ34の出力信号bは図2(b)に示すように実質的に0(ゼロ)である。
【0024】
融解期間t3に入って金属8の状態が次第に変化し、ほぼ全体が液化した時点で、金属8は電磁撹拌による振動の急増、表面酸化膜の破壊、発光光量の急増等により、受光器30の受光電気信号aが急激に変化し、受光電気信号aの高域周波数成分が受光電気信号a中に現われる。そのため、低域遮断フィルタ34の出力信号bには、図2(b)に示すような振動波形が発生する。この出力信号bは全波整流回路36で全波整流されて出力信号cを発生する。この出力信号cの波形を図2(c)に示す。出力信号cは高域遮断フィルタ38、例えば平滑回路38に入力されて平滑され、出力信号dとして電圧比較器40に入力される。前述の全波整流回路36に代えて半波整流回路を使用することもできる。
【0025】
受光電気信号aは、基準信号発生手段を構成する微分値ピーク検出回路35とサンプルホールド回路42にそれぞれ供給される。微分値ピーク検出回路35は、図2(a)に示す受光電気信号aの微分値を求めるもので、該微分値ピーク検出回路35内の微分値波形を図2(e1)に示す。この微分値波形(e1)において最初のピーク値が発生したとき、微分値ピーク検出回路35は、微分値の最大値ピークを検出し、その出力として図2(e2)に示すタイミング信号eを発生する。タイミング信号eは、サンプルホールド回路42に加えられ、サンプルホールドタイミング信号として使用される。サンプルホールド回路42は、このタイミング信号eが入力された時点での受光電気信号aのレベルをサンプルホールドし、そのレベルの信号は図2(f)に示す基準信号fとして電圧比較器40に供給される。この基準信号fは、加熱期間t1における加熱期間中の金属8の温度上昇率が最大になったときの受光電気信号レベルを表わしている。
【0026】
なお、この実施形態では微分値ピーク検出回路35で微分値ピークのタイミングを検出しているが、図2(e1)の微分値における微分値が最小になる時点(受光電気信号aの変化率が最小になる時点)、即ち、金属8の融解、液化直前のタイミングを表わす信号をサンプルホールドタイミング信号として出力してもよい。
【0027】
電圧比較器40は、高域遮断フィルタ38の出力信号dとサンプルホールド回路42の基準信号fとを比較し、出力信号dが基準信号fのレベルを超えている期間中、図2(g)に示すような比較出力信号gを発生する。この出力信号gは後述の低周波振幅変調高周波誘導加熱を開始させる開始信号として作用する。
【0028】
比較器出力信号gは増幅器25に低周波振幅変調の動作開始信号としてとして供給される。増幅器25は比較器出力信号gが供給される前は動作を停止しており、低周波信号iはインバータ制御回路26に供給されない。比較器出力信号gが増幅器25に供給されると、該増幅器25は動作を開始し、インバータ制御回路26に低周波発振回路24の低周波信号iが供給され、誘導加熱用の高周波信号を振幅変調する。金属の融解後、低周波振幅変調加熱を所定時間行うことにより、融解金属は一層撹拌され、特に酸化皮膜型金属の融解を加速させる作用がある。
【0029】
比較器出力信号gは、タイマ43にも供給される。タイマ43は、比較器出力信号gが予め設定された期間(後程図3を参照して説明するT1の期間)継続すると、タイマ出力信号hを発生し、この出力信号hは前記増幅器25に供給されてその動作を停止させる。また、出力信号hはインバータ16あるいは整流回路18に供給されて、誘導加熱用の高周波信号が高周波誘導加熱コイル10に供給されるのを停止させる。さらに、出力信号hは鋳込み指令信号として坩堝操作機構44に供給される。坩堝操作機構44は前記鋳込み指令信号に応答して直ちに、あるいは必要があれば係留と称される一定の時間を置いて坩堝4を操作して融解した金属を鋳型6に流し込む。
【0030】
なお、増幅器25として可変利得増幅器を使用し、これに比較器出力信号gが供給されたときは変調を有効に行うことのレベルの低周波信号iをインバータ制御回路26に供給し、比較器出力信号gが供給される前およびタイマ出力信号hが供給された後はインバータ制御回路26に供給される低周波信号iのレベルを実質的に0(ゼロ)にするように利得を低下させてもよい。また、比較器出力信号gおよびタイマ出力信号hによって低周波発振器24あるいはインバータ制御回路26の動作を制御するようにしてもよい。
【0031】
第2のタイマ58は、比較器出力信号gに応答して経過時間をカウントするか高周波誘導加熱の開始に伴って経過時間をカウントするもので、該第2のタイマ58は後程図3を参照して説明するように、比較器出力信号gの発生から第1の制限期間T4(例えば10〜20秒間)経過した時点、あるいは高周波誘導加熱の開始から第2の制限期間T3(例えば2分)経過した時点で高周波誘導加熱を停止させる出力信号を発生する。高周波誘導加熱を停止させるには、前述のようにインバータ16、整流回路18、あるいは商用交流電源20のいずれかの動作を停止させればよい。
【0032】
次に図3を参照して、比較器出力信号gの発生後の低周波振幅変調加熱動作について説明する。図3a〜図3eで、斜線を施した加熱期間は低周波振幅変調加熱が行われていることを表わし、斜線が施されていない加熱期間は無変調の高周波誘導加熱が行われていることを表わしている。
【0033】
図3(a)は正常な融解動作を表わすもので、最初は無変調の高周波誘導加熱を行い、受信電気信号aの急変による周波数成分が基準値以上になって比較器出力信号gが発生すると、増幅器25を動作させて斜線部で示した低周波振幅変調を加えた加熱、即ち低周波振幅変調高周波誘導加熱(低周波振幅変調加熱)を開始する。比較器出力信号gがT1(例えば2秒)継続すると、タイマ43は指令信号hを発生して、低周波振幅変調加熱を含む高周波誘導加熱を停止し、さらに坩堝操作機構44を動作させて坩堝4の融解金属を鋳型6に鋳込む動作を指令する。
【0034】
図3bは前述の周波数成分が基準値以上になってもその状態がT1の期間継続しない第1の場合の動作を表わすものである。比較器出力信号gにより斜線部で示した低周波振幅変調加熱が開始されるが、比較器出力信号gが、T1の期間継続せずに一旦リセットされ、タイマ43も同様にリセットされ、その後1〜2秒の延長時間T2の間低周波振幅変調加熱を継続する。この延長期間T2の間に前記周波数成分が基準値以上になって再度比較器出力信号gが発生し、これがタイマ43の設定時間T1の期間継続すると、タイマ43の指令信号hにより低周波振幅変調加熱を含む高周波誘導加熱を停止し、融解金属を鋳型6に鋳込む。
【0035】
図3cは前述の周波数成分が基準値以上になってもその状態がT1の期間継続しない第2の場合の動作を表わすものである。図3(c)の場合は、比較器出力信号gにより斜線部で示した低周波振幅変調加熱が開始されるが、比較器出力信号gの消滅後、延長時間T2の期間内に前記周波数成分が基準値以上に戻らない。この場合は、増幅器25の動作を停止させて低周波振幅変調加熱を一旦停止させ、最初の無変調の高周波誘導加熱を行い、周波数成分が再度基準値以上になるまでこの無変調高周波誘導加熱を続ける。その後、周波数成分が基準値以上になると再度比較器出力信号gが発生し、斜線部で示した低周波振幅変調加熱をT1の間継続する。T1経過した時点でタイマ43の指令信号hにより低周波振幅変調加熱を含む高周波誘導加熱を停止し、融解金属を鋳型6に鋳込む。この動作を行わせるために、増幅器25は、比較器出力信号gの消滅後、延長時間T2の時間内に再度比較器出力信号gが供給されなければ自動的に動作を停止するように構成されている。前述のように、比較器出力信号gおよびタイマ出力信号hによって低周波発振器24あるいはインバータ制御回路26等の増幅器25以外の動作を制御するようにしてもよい。
【0036】
図3dは周波数成分が基準値以上になって斜線部で示した低周波振幅変調加熱を開始してもその状態がT1の間継続せず、しかも加熱開始から制限時間T3の間(例えば2分間)に、周波数成分がT1の期間基準値以上を維持することがない場合を表わすもので、例えば電源オンにより計時を開始する第2のタイマ58がT3経過時点で高周波誘導加熱を停止する。高周波誘導加熱を停止する方法としては、インバータ16、整流回路18等の動作を停止させる。
【0037】
図3eは周波数成分が基準値以上になって斜線部で示した低周波振幅変調加熱を開始してもその状態がT1の間継続せず、しかも比較器出力信号gの最初の発生から制限時間T4の期間(例えば10〜20秒)、周波数成分が基準値以上をT1の期間継続することがない場合を表わすもので、この場合は、T4経過時点で、図3dと同様に高周波誘導加熱を停止する。
【0038】
前述の低周波振幅変調加熱を停止させる方法として、増幅器25或いは低周波発振回路24の動作を停止させる代わりに、増幅器25とインバータ制御回路26との間に低周波変調信号iを遮断するスイッチ手段を設けることもできる。
【0039】
高周波誘導加熱を停止させるために整合用変圧器14とインバータ16との間、インバータ16と整流回路18との間、整流回路18と交流電源20との間のいずれかをスイッチにより遮断するようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明による鋳造金属融解装置の一実施形態の構造、動作を説明するための概略ブロック図である。
【図2】図1の鋳造金属融解装置の動作を説明する各部の信号波形を示す図である。
【図3】図1の鋳造金属融解装置において、坩堝中の金属を高周波誘導加熱して融解するときの各種の加熱状態を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
2 チャンバ
4 坩堝(融解用容器)
10 高周波誘導加熱コイル(加熱手段)
13 タンク回路(加熱手段)
16 インバータ(加熱手段)
19 スイッチ(加熱停止手段)
24 低周波発振回路(低周波振幅変調手段)
25 増幅器(低周波振幅変調手段)
26 インバータ制御手段(加熱手段)
30 受光器
34 低域遮断フィルタ(周波数成分抽出手段)
40 電圧比較器
43 タイマ(加熱停止および鋳込み指令信号発生器)
58 タイマ(過熱停止信号発生器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融解されるべき金属を収容した融解用容器と、
前記融解用容器に収容された金属を高周波誘導加熱して融解する高周波誘導加熱手段と、
前記高周波誘導加熱手段に高周波信号を供給する高周波信号源と、
前記高周波信号を低周波振幅変調する低周波信号を発生する低周波信号源と、
前記金属の加熱時に該金属が発する光を受光し、この光に対応する受光電気信号を発生する受光器と、
前記光の変化に伴う前記受光電気信号の急変に起因する周波数成分を抽出する周波数成分抽出手段と、
抽出された前記周波数成分を表わす出力信号と予め設定された基準信号とを比較し、前記出力信号が前記基準信号を超過したときに前記低周波信号源を有効にして前記高周波信号を低周波振幅変調して低周波振幅変調高周波誘導加熱を開始させるための開始信号を発生する比較器と、
前記周波数成分を表わす出力信号が前記基準信号を所定期間(T1)継続して超過すると、前記高周波誘導加熱を停止させると共に、融解した金属を鋳型に鋳込むための指令信号を発生するタイマ手段と、
を含み、
前記高周波誘導加熱手段は、前記周波数成分を表わす出力信号が前記基準信号を前記所定期間より短い期間超過するときは、所定の延長期間(T2)だけ前記低周波振幅変調高周波誘導加熱を延長して実行するように構成されている、鋳造金属融解装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鋳造金属融解装置において、前記高周波誘導加熱手段は、
前記周波数成分を表わす出力信号が前記基準信号を前記所定期間より短い期間超過するときに、前記所定の延長期間(T2)だけ前記低周波振幅変調高周波誘導加熱を延長して実行し、この延長期間(T2)内に前記周波数成分を表わす出力信号が再度前記基準信号を超過した場合は、前記低周波振幅変調高周波誘導加熱を前記所定期間(T1)継続して、前記タイマ手段の指令信号によって前記高周波誘導加熱を停止させると共に、融解した金属の鋳込みを行い、
前記延長期間(T2)内に前記周波数成分を表わす出力信号が前記基準信号を超過しない場合は、低周波振幅変調を伴わない高周波誘導加熱を行い、その後、前記周波数成分を表わす出力信号が再度前記基準信号を超過した場合は、前記低周波振幅変調高周波誘導加熱を前記所定期間(T1)継続して、前記タイマの指令信号によって前記高周波誘導加熱を停止させると共に、融解した金属の鋳込みを行う、
ように構成されている鋳造金属融解装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鋳造金属融解装置において、前記高周波誘導加熱手段は、
所定の制限時間内(T3またはT4)に前記周波数成分を表わす出力信号が前記基準信号を前記所定期間(T1)継続して超過することがない場合は、高周波誘導加熱を停止させるように構成されている鋳造金属融解装置。
【請求項4】
請求項3に記載の鋳造金属融解装置において、前記所定の制限時間を設定する手段として、金属の高周波誘導加熱の開始からの経過時間(T3)、または前記周波数成分を表わす出力信号が最初に基準信号を超過した時点からの経過時間(T4)の双方またはいずれか一方を計時して、前記2つの経過時間の少なくとも一方に達したときに停止信号を発生する第2のタイマが設けられている、鋳造金属融解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−82114(P2006−82114A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270177(P2004−270177)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000144393)株式会社三社電機製作所 (95)
【Fターム(参考)】