説明

鋳鉄の熱分析用容器

【課題】熱分析におけるテルルの使用量が低減可能となる鋳鉄の熱分析用容器の提供。
【解決手段】底板部12及び側壁部11の内部に多数の細かい空隙を内部に形成することで、底板部12及び側壁部11に断熱性を確保し、容器1の内部に入れた鋳鉄溶融の試料の温度を冷めにくくする。これにより、熱分析に供する試料の量を減らしても、試料温度の低下スピードが抑制され、凝固潜熱による発熱で一定温度が維持されるようになる。従って、熱分析に供する試料の量を減らすことで、熱分析におけるテルルの使用量を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テルルが添加された状態で鋳鉄溶湯を凝固させて初晶温度及び共晶温度を測定し、測定した初晶温度及び共晶温度に基づいて、鋳鉄に含まれる炭素及び珪素の含有量を分析するにあたり、凝固させる鋳鉄溶湯が入れられる鋳鉄の熱分析用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋳造製品を製造するにあたり、金属の溶湯を鋳型に流し込む前に、金属溶湯が凝固する際の温度変化である冷却曲線を測定し、得られた冷却曲線に基づいて溶湯の金属組成を分析する熱分析が行われている。
例えば、鋳鉄で鋳造製品を製造する際には、炉前で、次のような熱分析が行われる。
すなわち、溶鉱炉又は取瓶から取り出した鋳鉄溶湯の試料を熱電対付の熱分析用容器の中に入れて常温で冷却し、この試料が凝固する際の温度変化を熱電対で計測し、これにより、凝固における温度変化を示す冷却曲線を測定し、測定した冷却曲線から初晶温度や共晶温度を求める。このようにして、初晶温度及び共晶温度が得られれば、これらの初晶温度及び共晶温度から炭素及び珪素の含有量を確認することができ、炭素及び珪素の含有量が確認されたら、鋳鉄の熱分析が完了する(例えば、特許文献1参照)。
なお、このような熱分析では、熱分析用容器として、熱硬化性樹脂の粉末を含んだ珪砂を焼き固めたシェルモールドカップを利用するの一般的である。
【0003】
鋳鉄の熱分析では、温度測定から得られる冷却曲線に初晶温度及び共晶温度の両方が発現していることが必要となる。また、鋳鉄の冷却曲線に表れる共晶温度は、溶湯の鋳鉄の性状等によって値が異なるが、黒鉛共晶温度(安定系共晶温度)を上限とするとともにセメンタイト共晶温度(準安定系共晶温度)を下限とする範囲内の値に必ず収まる。
ここで、冷却曲線から鋳鉄の組成を確認するためには、冷却曲線に表れる共晶温度がセメンタイト共晶温度(準安定系共晶温度)であることを要するので、テルルの添加で鋳鉄溶湯をチル化して凝固させ、これにより、セメンタイト共晶温度(準安定系共晶温度)を確実に得られるようにする熱分析の方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
すなわち、熱分析に先立ち、粒状のテルルを計量によって鋳鉄溶湯の試料に対して所定の重量割合(通常、試料の0.2重量%以上)となるように用意しておき、さらに、用意した粒状テルルを熱電対付の熱分析用容器の底に塗型剤等で接着しておく。
溶鉱炉又は取瓶から鋳鉄溶湯の試料を取り出し、粒状テルルが底に接着された熱分析用容器の中に、取り出した試料を入れて凝固させる。すると、熱分析用容器の底に接着された粒状テルルの作用により、鋳鉄溶湯がチル化し、セメンタイト共晶(準安定系共晶)が生じるようになるので、セメンタイト共晶温度(準安定系共晶温度)が確実に得られ、これにより、炭素及び珪素の含有量の確認が確実に行えるようになる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−75431号公報
【非特許文献1】菅野利猛,外3名,「鋳造工学」,日本鋳造工学会,平成10年,第70巻,第7号,p.465
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のようなテルルを用いた熱分析では、レアメタルであるテルルが高価であるうえ、テルルによって鋳鉄溶湯をチル化する際に、有毒な二酸化テルルが発生し、鋳造製品を製造現場の作業環境を悪化させるので、熱分析で空気中に放出される二酸化テルルの量を少なくするためにも、熱分析におけるテルルの使用量をなるべく低減したい、という要望がある。
ここで、熱分析に供する試料の量を減らすことで、テルルの量を減らすことが考えられるが、試料の量を減らすと、その分、試料の冷却スピードが速くなり、初晶あるいは共晶が生じても、凝固潜熱による発熱では一定温度を維持することができず、冷却曲線に初晶温度や共晶温度が充分に発現しなくなるので、初晶温度や共晶温度の測定が困難、すなわち、熱分析の行うのが困難となる、という問題が発生する。
このため、熱分析に供する試料の量を減らすことも、これにより、テルルの量を減らすことも難しい、という問題がある。
【0007】
そこで、各請求項にそれぞれ記載された各発明は、上記した従来の技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、熱分析におけるテルルの使用量が低減可能となる鋳鉄の熱分析用容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
各請求項にそれぞれ記載された各発明は、前述の目的を達成するためになされたものである。以下に、各発明の特徴点を、図面に示した発明の実施の形態を用いて説明する。
なお、符号は、発明の実施の形態において用いた符号を示し、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0009】
(請求項1)
(特徴点)
請求項1記載の発明は、次の点を特徴とする。
すなわち、請求項1に記載された発明は、テルル(5)が添加された鋳鉄溶湯を凝固させて初晶温度及び共晶温度を測定し、測定した初晶温度及び共晶温度に基づいて、鋳鉄に含まれる炭素及び珪素の含有量を求める分析を行うにあたり、凝固させるべき鋳鉄溶湯を内部に収納する鋳鉄の熱分析用容器(1)であって、熱の出入を断つ断熱性及び気体を通過させる通気性を確保するための空隙が内部に形成されている底板部(12)及び側壁部(11)を備えていることを特徴とする。
【0010】
(請求項2)
(特徴点)
請求項2記載の発明は、前述した請求項1に記載の発明において、次の特徴点を備えているものである。
すなわち、請求項2記載の発明は、粒子状に形成された珪藻土と、珪藻土の粒子同士を結合させる結合材とを含んだ混合物を容器状に成形したものであることを特徴とする。
【0011】
(請求項3)
(特徴点)
請求項3記載の発明は、前述した請求項2記載の発明において、次の特徴点を備えているものである。
すなわち、請求項3記載の発明は、粒の大きさが異なる少なくとも2種類の珪藻土と、珪藻土の粒子同士を結合させる結合材とを含んだ混合物を容器状に成形したものであり、その密度が0.5×103 kg/m3 以上1.2×103 kg/m3 以下の範囲にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
(請求項1の効果)
以上のように構成されている本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
すなわち、請求項1記載の発明によれば、空隙を内部に形成することで底板部及び側壁部に断熱性を確保したので、熱分析に供する試料の量を減らしても、底板部及び側壁部によって試料が保温され、試料温度の低下スピードが抑制され、初晶あるいは共晶が生じた際に、測定に要する時間が経過するまでの間、凝固潜熱による発熱で一定温度が維持されるようになる。これにより、熱分析に供する試料の量を減らしても、冷却曲線に初晶温度や共晶温度が発現するので、初晶温度や共晶温度の測定が確実に行え、従って、熱分析に供する試料の量を減らすことで、熱分析におけるテルルの使用量を低減することができる。
【0013】
この際、テルルが底に接着された熱分析用容器の中に鋳鉄溶湯の試料が注ぎ込まれると、鋳鉄溶湯の熱でテルルが急激にガス化する。そして、底板部及び側壁部を通じてガス化したテルルが外部へ逃げることができない場合、容器中の鋳鉄溶湯をその周囲に吹きこぼしながら容器の外に飛び出す。このため、底板部及び側壁部で試料を保温しても、試料温度の低下スピードの抑制が行えない程、試料の量を減らしてしまうので、初晶あるいは共晶が生じても凝固潜熱による発熱で一定温度が維持されず、熱分析が困難となる。
本発明によれば、底板部及び側壁部に通気性を確保させたので、ガス化したテルルが底板部及び側壁部を通じて外部へ逃げるようになり、容器中の鋳鉄溶湯がその周囲に吹きこぼれることがなく、また、吹きこぼれで試料の量が減ることもないので、熱分析を確実に行うことができる。
【0014】
また、底板部及び側壁部を通じてガス化したテルルが外部へ逃げることができない場合、鋳鉄溶湯を吹きとばして容器の外に飛び出てしまうテルルの殆どが鋳鉄溶湯のチル化に寄与することがないので、その分を見越してチル化に必要な量よりも多くの量の粒状テルルを熱分析用容器の底に接着する必要がある。
本発明によれば、底板部及び側壁部に通気性を確保させ、ガス化したテルルを底板部及び側壁部を通じて外部へ逃がすようにしたので、チル化に寄与しないテルルの量を最低限に抑制することができ、この点からも、熱分析におけるテルルの使用量を低減することができる。
【0015】
(請求項2の効果)
請求項2記載の発明によれば、上記した請求項1記載の発明の効果に加え、次のような効果を奏する。
すなわち、請求項2記載の発明によれば、粒子状に形成された珪藻土と、珪藻土の粒子同士を結合させる結合材とを含んだ混合物を成形することで、熱分析用容器を製作したので、熱分析用容器の底板部及び側壁部に多数の細かい空隙が形成されるようになり、底板部及び側壁部に、熱の出入を断つ断熱性及び気体を通過させる通気性の両方を適度に確保することができ、これにより、熱分析におけるテルルの使用量の低減が確実に図れるようになる。
【0016】
(請求項3の効果)
請求項3記載の発明によれば、上記した請求項2記載の発明の効果に加え、次のような効果を奏する。
すなわち、粒の大きさが異なる少なくとも2種類の珪藻土のうち、粒の大きな珪藻土に比べて粒の小さな珪藻土の量を増やせば増やす程、内部に形成される空隙がより細かくなるうえ、形成される空隙の総体積がより増すので、容器は、全体の密度が小さくなるとともに、保温性が向上されるが、空隙が細かくなることから、ガスの通路として見ると、空隙の流通抵抗が大きくなるので、通気性が低下する。
反対に、粒の小さな珪藻土に比べて粒の大きな珪藻土の量を増やせば増やすほど、内部に形成される空隙がより大きく粗くなるが、形成される空隙の総体積はより減るので、容器は、全体の密度が大きくなるとともに、保温性が低下するが、空隙が大きくなることから、ガスの通路として見ると、空隙の流通抵抗が小さくなるので、通気性が向上する。
請求項3記載の発明によれば、熱分析用容器を製作するにあたり、熱分析用容器の密度が0.5×103 kg/m3 以上1.2×103 kg/m3 以下の範囲内となるように、粒の大きさが異なる2種類の珪藻土の配合を調整することより、底板部及び側壁部の内部に形成される空隙の大きさや、形成される空隙の総体積を適度なものにすることができるので、これにより、熱分析におけるテルルの使用量を低減するのに充分な保温性、及び、鋳鉄溶湯を外部に吹きこぼさないようにする最低限の通気性の両方を確実に確保でき、従って、熱分析におけるテルルの使用量を確実に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る鋳鉄の熱分析用容器を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例1及び従来例の各々に係る冷却曲線を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例2〜4の各々に係る冷却曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための形態である一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1には、本実施形態に係る鋳鉄の熱分析用容器である容器1が示されている。
この容器1は、熱分析の分析対象となる鋳鉄溶湯を、その内部に入れて凝固させるカップ状の器である。この容器1には、図1に示すように、円筒状に形成された側壁部11と、この側壁部11の一方の端部を塞ぐ底板部12とが備えられている。なお、側壁部11の他端は開放されている。
【0019】
底板部12は、中央部分に熱電対2を挿通するための挿通孔13が形成されている。この挿通孔13は、内部に石英ガラス等の耐熱性及び電気絶縁性を有する一対の耐熱絶縁パイプ3が挿通されている。
一対の耐熱絶縁パイプ3は、その基端部分が挿通孔13の内部に配置されるとともに、当該挿通孔13を完全に塞ぐものとなっている。一方、これらの耐熱絶縁パイプ3の先端部分は、容器1の内部の中央近傍まで延びている。
【0020】
また、各耐熱絶縁パイプ3の先端部分には、耐熱絶縁剤4に被覆された熱電対2の温接点2Aが配置されている。ここにおいて、熱電対2の温接点2Aは、容器1の内部の略中央位置に配置されている。
さらに、各耐熱絶縁パイプ3の内部には、熱電対2、あるいは、熱電対2の温接点2Aで得られる温度信号を外部に取り出すためのリード線等の導体2Bが挿通されている。
【0021】
ここで、容器1の底部近傍の内面、例えば、図1中、底板部12の上側の面等には、熱分析を行うにあたり、予め、鋳鉄溶湯の試料に対して所定の重量割合の粒状テルル5が塗型剤等で接着されるようになっている。
【0022】
このような容器1を利用して行われる熱分析は、分析対象となる鋳鉄の溶湯を容器1に入れると、当該鋳鉄溶湯にテルルが添加され、当該鋳鉄溶湯がチル化された状態で凝固するようになっている。そして、容器1の熱電対2で、当該鋳鉄溶湯の初晶温度及び共晶温度が測定されるようになっており、測定した初晶温度及び共晶温度に基づいて、その鋳鉄に含まれる炭素及び珪素の含有量を求めることが可能となっている。
なお、容器1は、いわゆる使い捨ての容器であり、熱分析が終了した後は、凝固した鋳鉄を内部に入れた状態で破棄されるようになっている。
【0023】
この際、容器1は、粒子状に形成された珪藻土と、珪藻土の粒子同士を結合させる結合材とを含んでいるとともに容器状に成形された混合物を容器状に成形したものである。
更に詳しく説明すると、容器1は、粒の大きさが異なる少なくとも2種類の珪藻土と、珪藻土の粒子同士を結合させる結合材とを含んだ混合物を、型に入れて押し固めることで容器状に成形したものであり、粒の大きさが異なる2種類の珪藻土の配合を適宜調整することで、成形後の密度が0.5×103 kg/m3 以上1.2×103 kg/m3 以下の範囲とされたものである。
容器1は、前述のような密度の付与により、底板部12及び側壁部11の内部に多数の細かい空隙(図示略)が形成され、これらの空隙によって、熱の出入を断つ断熱性、及び、気体を通過させる通気性が適度に確保されたものとなっている。
【0024】
前述のような本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、底板部12及び側壁部11の内部に多数の細かい空隙を内部に形成することで、底板部12及び側壁部11に断熱性を確保し、容器1の内部に入れた鋳鉄溶融の試料を保温し、試料の温度を冷めにくくしたので、容器1のサイズを小さくすることで、熱分析に供する試料の量を減らしても、試料温度の低下スピードが抑制され、初晶あるいは共晶が生じた際に、測定に要する時間が経過するまでの間、凝固潜熱による発熱で一定温度が維持されるようになる。これにより、容器1のサイズを小さくして、熱分析に供する試料の量を減らしても、冷却曲線に初晶温度や共晶温度が発現するので、初晶温度や共晶温度の測定が確実に行え、従って、熱分析に供する試料の量を減らすことで、熱分析におけるテルルの使用量を低減することができる。
【0025】
また、底板部12及び側壁部11に通気性を確保し、ガス化したテルルが底板部12及び側壁部11を通じて外部へ逃げるようにしたので、容器1のサイズを小さくしても、容器1の中に鋳鉄溶湯を注ぎ込む際に、テルルのガス化によって容器1の中に入れられた鋳鉄溶湯がその周囲に吹きこぼれることがなく、従って、吹きこぼれで試料の量が減ることもないので、従来よりも少量の資料で熱分析を確実に行うことができるうえ、吹きこぼれる試料の量を見越してテルルの量を増やす必要もないので、この点からも、熱分析におけるテルルの使用量を低減することができる。
【0026】
さらに、底板部12及び側壁部11に通気性を確保することで、ガス化したテルルを底板部12及び側壁部11を通じて外部へ逃がすようにしたので、鋳鉄溶湯を吹きこぼしながら容器1の外に噴出したためにチル化に寄与しないテルルをなくすことができる。ここで、底板部12及び側壁部11を通じて外部へ逃げるテルルの量は、鋳鉄溶湯を吹きこぼしながら容器1の外に噴出するテルルに比較すると、著しく少なくなるので、チル化に寄与しないテルルの量を最低限に抑制することができ、この点からも、熱分析におけるテルルの使用量を低減することができる。
【0027】
また、容器1を製作するにあたり、粒子状に形成された珪藻土と、珪藻土の粒子同士を結合させる結合材とを含んだ混合物を成形するようにしたので、底板部12及び側壁部11に多数の細かい空隙が形成されるようになり、底板部12及び側壁部11に、熱の出入を断つ断熱性及び気体を通過させる通気性の両方を適度に確保することができ、これにより、熱分析におけるテルルの使用量の低減が確実に図れるようになる。
【0028】
さらに、容器1を製作するにあたり、容器1の密度が0.5×103 kg/m3 以上1.2×103 kg/m3 以下の範囲内となるように、粒の大きさが異なる2種類の珪藻土を混合するようにし、これら2種類の珪藻土の配合を調整することで、底板部12及び側壁部11の内部に形成される空隙の大きさや、形成される空隙の総体積を適度なものにしたので、熱分析におけるテルルの使用量を低減するのに充分な保温性、及び、鋳鉄溶湯を外部に吹きこぼさないようにする最低限の通気性の両方を確実に確保でき、これにより、熱分析におけるテルルの使用量を確実に低減することができる。
【実施例】
【0029】
[実験1]
次に、本発明に基づく実施例1及び従来技術に基づく比較例を作成し、実施例1及び比較例を用いて実際に鋳鉄を熱分析する実験1を行い、その実験結果を比較し、本発明の効果を確認する。
【0030】
[実施例1]
実施例1は、粒の大きさが異なる少なくとも2種類の珪藻土と、珪藻土の粒子同士を結合させる結合材とを含んだ混合物を容器状に成形したものである。
この実施例1の各寸法(図1参照)は、以下の通りである。
高さH:47.5mm、深さD:40.0mm
外径E:34.0mm、内径C:20.0mm
底板部12の厚さT1:7.5mm
側壁部11の厚さT2:7.0mm
容積:12.6×103mm3(=12.6cc)
【0031】
[比較例]
比較例は、従来から一般的に利用されているシェルモールド製のカップである。
この従来例の深さDは、50.0mm、内径Cは、30.0mm、容積は、35.3×103mm3(=35.3cc)となっており、実施例1の約3倍の容積を有するものとなっている。
【0032】
[実験1の概要]
本実験1では、実施例1及び比較例の各々に、それぞれの容積に見合った量の溶融鋳鉄の試料を入れて、常温で冷却し、凝固させ、その冷却・凝固の際に発現する初晶温度及び共晶温度を測定する。
なお、本実験1を行うにあたり、予め、それぞれの容器内で凝固すべき溶融鋳鉄の試料に対して0.2重量%の粒状テルルが、実施例1及び比較例の各底部に予め塗布される。そして、実施例1では、比較例の約1/3の重さの粒状テルルが底部に予め塗布された状態で、比較例の約1/3の重さの試料が内部で入れられることとなる。
【0033】
[実験1の結果]
実験1の結果、実施例1では、比較例よりも試料の量が少ないにもかかわらず、換言すると、熱量が比較例の約1/3であるにもかかわらず、保温性が付与されているため、図2に示すように、その冷却曲線が比較例よりも緩やかとなっている。
このため、試料の量が少ない実施例1においても、比較例と同様に初晶温度及び共晶温度が発現するので、熱分析を行う際に何ら問題が発生することがなく、従って、熱分析で使用される粒状テルルの量を従来の約1/3に減少できることが判る。
【0034】
[実験2]
続いて、本発明に基づく実施例として、互いに容積の異なる実施例2〜4を作成し、実施例2〜4を用いて実際に鋳鉄を熱分析する実験2を行い、その実験結果から本発明の効果を確認する。実施例2〜4について更に詳しく説明すると、実施例2〜4は、前述の実施例1よりも更に内径を縮小することで、更に容積を縮小したものである。
実施例2〜4は、前記実施例1と同様に、粒の大きさが異なる少なくとも2種類の珪藻土と、珪藻土の粒子同士を結合させる結合材とを含んだ混合物を容器状に成形したものである。
なお、実施例2〜4の各寸法(図1参照)は、以下の通りである。
【0035】
[実施例2]
高さH:47.5mm、深さD:38.5mm
外径E:34.0mm、内径C:19.0mm
底板部12の厚さT1:9.0mm
側壁部11の厚さT2:7.5mm
容積:10.9×103mm3(=10.9cc)
【0036】
[実施例3]
高さH:47.5mm、深さD:38.5mm
外径E:34.0mm、内径C:17.0mm
底板部12の厚さT1:9.0mm
側壁部11の厚さT2:8.5mm
容積:8.74×103mm3(=8.74cc)
【0037】
[実施例4]
高さH:47.5mm、深さD:38.5mm
外径E:34.0mm、内径C:14.0mm
底板部12の厚さT1:9.0mm
側壁部11の厚さT2:10.0mm
容積:5.92×103mm3(=5.92cc)
【0038】
[実験2の概要及び結果]
本実験2では、実施例2〜4の各々に対して、予め、試料の0.2重量%の粒状テルルを底部に塗布しておき、その後、溶融鋳鉄の試料を入れ、常温で試料を冷却し凝固させ、冷却時に発現する初晶温度及び共晶温度を測定する。
実験2の結果、実施例2〜4のいずれにおいても、図3に示すように、初晶温度及び共晶温度が発現している。このため、従来に比べて、熱分析で使用される粒状テルルの量を、最大、約1/6にまで減少できることが判る。
【0039】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲における変形及び改良などをも含むものである。
例えば、熱分析用容器としては、粒の大きさが異なる少なくとも2種類の珪藻土を成形したものに限らず、例えば、成形後に断熱性及び通気性が得られるカオリン等の粘土状物質を成形したものでもよい。しかしながら、実施形態のように、粒の大きさが異なる少なくとも2種類の珪藻土を成形したものを採用すれば、熱分析用容器を製造する際に、粒の大きさが異なる珪藻土の配合量を調節することで、適度な断熱性及び通気性を容易に確保できるという効果を得ることができる。
また、熱分析用容器としては、円筒状の外径を有するものに限らず、底部側が窄んだ円錐台状のものでもよく、あるいは、断面形状が六角形に形成されたもの等、多角形の断面形状を有する筒状のものでもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 (熱分析)用容器
5 (粒状)テルル
11 側壁部
12 底板部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テルルが添加された鋳鉄溶湯を凝固させて初晶温度及び共晶温度を測定し、測定した初晶温度及び共晶温度に基づいて、鋳鉄に含まれる炭素及び珪素の含有量を求める分析を行うにあたり、凝固させるべき鋳鉄溶湯を内部に収納する鋳鉄の熱分析用容器であって、
熱の出入を断つ断熱性及び気体を通過させる通気性を確保するための空隙が内部に形成されている底板部及び側壁部を備えていることを特徴とする鋳鉄の熱分析用容器。
【請求項2】
粒子状に形成された珪藻土と、珪藻土の粒子同士を結合させる結合材とを含んだ混合物を容器状に成形したものであることを特徴とする請求項1記載の鋳鉄の熱分析用容器。
【請求項3】
粒の大きさが異なる少なくとも2種類の珪藻土と、珪藻土の粒子同士を結合させる結合材とを含んだ混合物を容器状に成形したものであり、その密度が0.5×103 kg/m3 以上1.2×103 kg/m3 以下の範囲にあることを特徴とする請求項2記載の鋳鉄の熱分析用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−232105(P2011−232105A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101310(P2010−101310)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(393025002)株式会社ニッサブ (2)
【Fターム(参考)】