説明

鋼の連続鋳造方法

【課題】浸漬ノズル内側からの不活性ガス流出量低下に起因して、浸漬ノズル内側から吐出する不活性ガス気泡が小さな浮上性に乏しい気泡となり、その結果、モールド内で溶鋼中の微小介在物を浮上分離する効果が充分に得られず、残存した溶鋼中の微小介在物に由来してスリバーが頻発する問題、を改善した鋼の連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】浸漬ノズルを介して、タンディッシュからモールド内に溶鋼を連続注入する際、浸漬ノズルへ不活性ガスを吹き込み、浸漬ノズル内周部を構成する通気性耐火物から気泡を吐出させて浸漬ノズルの閉塞を防止する連続鋳造方法において、浸漬ノズル内に供給される不活性ガス供給量の全体量(A)に占める、浸漬ノズル内側に位置する内孔体部3からの不活性ガス流出量(B)が、0.8≦B/A≦0.95となる浸漬ノズルを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶鋼を連続的に冷却凝固させて所定形状の鋳片を形成する連続鋳造方法では、浸漬ノズルを介してタンディッシュからモールド内に溶鋼が注入される。その際、溶鋼中に含有されるAl23等が浸漬ノズルの内面に付着して浸漬ノズルの閉塞を引き起こす問題を回避するために、浸漬ノズルの内壁に通気性耐火物からなる内部ガス吹き出し口を設け、浸漬ノズル内にArガスに代表される不活性ガスの吹き込みを行う方法が一般に採用されている。当該不活性ガスは浸漬ノズルから吐出される溶鋼と共に吐出され、その気泡表面に溶鋼中の微小介在物を吸着してモールド内で浮上分離するため、浸漬ノズル内への不活性ガス吹き込みは、溶鋼中の微小介在物を除去する方法としても不可欠の技術である。
【0003】
このような浸漬ノズル本体は、一般的に、Al−SiO−C(カーボン)耐火物やAl−C耐火物にて形成されており、かつ、浸漬ノズルの内壁は前記Arガス吹き出し口となる通気性耐火物(以下、内孔体という)から構成されている(例えば、特許文献1)。これらAl−C含有耐火物製の浸漬ノズルは、Alが耐火性および溶鋼に対する耐食性に優れ、Cが介在物(スラグ成分)に対して濡れ難く、膨張量が低く、かつ、熱伝導性が良好なことから、現在、溶鋼の連続鋳造において最も広く用いられている。ここで、溶鋼の連続鋳造の際、モールド内の溶鋼湯面上には、低塩基度で侵食性の強いモールドパウダーが浮遊している。このモールドパウダーは一般的にCaO、SiO、CaF、NaO、Cを含有しており、その塩基度は1程度であるため、AlやSiOを含む耐火物を著しく溶損させてしまう。このため、従来のAl−C含有耐火物では、浸漬ノズルの外周部におけるモールドパウダーに接する部位(以下、パウダーライン部と称す)の溶損が大きく、長期の使用に耐えられないという問題があった。
【0004】
この問題に対して、浸漬ノズルのパウダーライン部にZrO−C質の耐火物を使用する技術が開示されている(特許文献2)。ZrO−C質の耐火物は、ZrOのモールドパウダーに対する優れた耐食性と、Cの耐熱衝撃性とを組み合わせた特徴を有しており、このZrO−C質の耐火物をパウダーライン部に使用することで、浸漬ノズルの耐用性を向上できる。
【0005】
しかし、ZrO−C質の耐火物は通気性耐火物であるため、浸漬ノズルの閉塞防止のために浸漬ノズル内に吹き込まれた不活性ガスは、内孔体を介して浸漬ノズル内側に供給されるのみならず、当該パウダーライン部を介して浸漬ノズル外側にも小さな気泡径を有する気泡として漏洩してしまう現象が不可避的に生じてしまう。その結果、浸漬ノズルへの不活性ガス供給量の全体量(A)に占める、浸漬ノズル内側からの不活性ガス流出量(B)は低下する。このような状況下においては、浸漬ノズル内側から発生する不活性ガスの気泡は、小さく浮上性に乏しい気泡となり、溶鋼中の微小介在物を吸着してモールド内で浮上分離する効果が充分に発揮されず、当該溶鋼中の微小介在物に由来して鋳片の表面に表面欠陥(以下、スリバー)が発生する問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平2−59155号公報
【特許文献2】特開平11−302073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、浸漬ノズル内側からの不活性ガス流出量低下に起因する前記の問題、すなわち浸漬ノズル内側から発生する不活性ガスの気泡は、小さく浮上性に乏しい気泡となり、溶鋼中の微小介在物を吸着してモールド内で浮上分離する効果が充分に発揮されず、当該溶鋼中の微小介在物に由来してスリバーが発生するという問題を改善した鋼の連続鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る鋼の連続鋳造方法は、タンディッシュからモールド内に溶鋼を連続注入する浸漬ノズルに不活性ガスを吹き込み、浸漬ノズル内周部を構成する通気性耐火物から気泡を吐出させて浸漬ノズルの閉塞を防止する鋼の連続鋳造方法において、浸漬ノズル内に供給される不活性ガス供給量の全体量(A)に占める浸漬ノズル内側に位置する内孔体部からの不活性ガス流出量(B)が、0.8≦B/A≦0.95となる浸漬ノズルを使用することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の鋼の連続鋳造方法において、浸漬ノズル外周部で、モールドパウダーに接するパウダーライン部がZrO−C質の通気性耐火物から構成された浸漬ノズルを使用することを特徴とするものである。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の鋼の連続鋳造方法において、内孔体部から吐出される気泡径が0.7〜1.2mmとなる浸漬ノズルを使用することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る鋼の連続鋳造方法では、浸漬ノズル内に供給される不活性ガス供給量の全体量(A)に占める浸漬ノズル内側からの不活性ガス流出量(B)が0.8≦B/A≦0.95の要件を充足する浸漬ノズルを選択的に採用することにより、浸漬ノズル内側からの不活性ガス流出量低下に起因する前記の問題が解消され、浸漬ノズル内側から発生する不活性ガスの気泡は大きく浮上性に優れたものとなり、従って溶鋼中の微小介在物を吸着してモールド内で浮上分離する効果を充分に発揮でき、溶鋼中の微小介在物に由来するスリバー発生を防止することが可能となった。
【0012】
請求項2の発明に係る鋼の連続鋳造方法では、ZrOのモールドパウダーに対する優れた耐食性と、Cの耐熱衝撃性とを組み合わせた特徴を有するZrO−C質耐火物をモールドパウダーに接する浸漬ノズル外周部として採用することにより、外部溶損を防止し浸漬ノズルの耐用性を向上させている。一方、ZrO−C質の耐火物は通気性を有するが、本発明では、前記のように、浸漬ノズル内に供給される不活性ガス供給量の全体量(A)に占める浸漬ノズル内側からの不活性ガス流出量(B)が0.8≦B/A≦0.95の要件を充足する浸漬ノズルを選択的に採用することにより、浸漬ノズル内側からの不活性ガス流出量低下に起因する前記の問題を回避可能とている。従って、本発明に係る鋼の連続鋳造方法によれば、浸漬ノズルの内部閉塞および外部溶損を防止しつつ、浸漬ノズルに吹き込む不活性ガス気泡のモールド内浮上性を向上させ、溶鋼中の微小介在物に由来するスリバー発生率を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を用いて説明する。
図1には本発明に使用する浸漬ノズルの説明図を示し、表1には前記浸漬ノズルを構成する各部分の耐火物特性値を示している。本発明に使用する浸漬ノズルは、本体部1と、浸漬ノズル外周部でモールドパウダーに接する部分を構成するパウダーライン部2と、浸漬ノズル内周部で内部ガス吹き出し口となる内孔体部3とから構成されている。この実施形態においては、表1に示すように、パウダーライン部2と内孔体部3は各々約18%の見かけ気孔率を有する通気性耐火物により構成されている。従って、本来は内孔体部3からの吐出を目的として、不活性ガス供給口4から供給された不活性ガスの一部は、パウダーライン部2からも吐出される。
【0014】
【表1】

【0015】
浸漬ノズル内に供給される不活性ガス供給量の全体量(A)に占める浸漬ノズル内側からの不活性ガス流出量(B)の値(B/A)は、本体部1、パウダーライン部2、内孔体部3の各々の部分を構成する耐火物の組み合わせにより変動するものである。耐火物メーカーにおける浸漬ノズルの製造段階において、B/Aの値を調整することはもちろん可能であるが、所望のB/A値を厳密に満足する浸漬ノズルを製造することは、耐火物の特性上困難であってある程度のバラツキが生じる。従って、耐火物メーカーから納入された浸漬ノズルにつき、事前に不活性ガス供給口4からガスを供給する通気試験を行い、ガス供給量の全体量(A)、浸漬ノズル内側に位置する内孔体部3からの不活性ガス流出量(B)、及び、浸漬ノズル外側に位置するパウダーライン部2からの不活性ガス流出量(A−B)の関係を求め、当該試験結果が0.8≦B/A≦0.95の範囲となる浸漬ノズルを選択的に使用して連続鋳造を行うことが好ましい。
【0016】
図2には、B/A=0.92の浸漬ノズル、及びB/A=0.70の浸漬ノズル各々につき、ノズル全体へ供給されたガスが、浸漬ノズルの各部分からノズル外へ吐出される量を分布図として示している。B/A=0.92、及びB/A=0.70何れの浸漬ノズルにおいても、湯面位置下150mm付近の内孔体部3から最も多くガスが吐出されている。しかし、B/A=0.70の浸漬ノズルでは、湯面位置下100mm付近で、パウダーライン部2からも多くガスが吐出されているため、内孔体部3からのガスの吐出量が、B/A=0.92の浸漬ノズルに比べて少なくなる。
【0017】
図3は、内孔体部3から吐出されるガスの気泡径と、内孔体部通気量の関係図である。図3に示すように、内孔体部通気量が増加するに従って内孔体部3から吐出されるガスの気泡径が大きくなる。図4に示すように、内孔体部から吐出されるガスの気泡径が大きくなると、溶鋼と共に浸漬ノズル下部からモールド内へ吐出された気泡の浮力も向上する。その結果、溶鋼中の微小介在物を吸着してモールド内で浮上分離する効果が充分に発揮され、当該溶鋼中の微小介在物に由来して鋳片の表面にスリバーが発生する問題が回避可能となる。
【0018】
上記したB/Aの値が0.8未満となると内孔体部通気量が減少して従来品に近づき、本発明の効果を十分に発揮することができない。なお従来品におけるB/Aの値は0.4〜0.7の範囲にある。またB/Aの値の上限を0.95としたのは、現実的にこれ以上の特性を持つ浸漬ノズルを入手することが困難であるためである。
【0019】
また請求項3に記載のように内孔体部から吐出される気泡径が0.7〜1.2mmとなる浸漬ノズルを使用することが好ましいのは、この範囲未満では気泡の浮上力が不足し、この範囲を超える気泡は発生させることが容易ではなく、仮に発生させるとその部分にガスが集中して内面全体の均一発泡が妨げられるためである。
【実施例】
【0020】
溶鋼への浸漬深さが330mmの浸漬ノズルを用い、鋳造速度を1.6m/分として鋼の連続鋳造を行った。浸漬ノズルへの全体通気量(A)は24Nl/分の一定とした。鋳片の表面から3mmを手入れにより除去し、鋳片から得られた多数のコイルについて1コイルあたりのスリバーの個数をスリバー品位として表示した。B/Aの値が0.7未満の従来の浸漬ノズルを用いた64個のコイルと、B/Aの値が0.9の本発明の浸漬ノズルとを用いた32個のコイルとのスリバー品位の分布は図5に示す通りであった。
【0021】
図5に示すように、従来の浸漬ノズルを使用した場合には1コイルあたりの平均スリバーの個数が1.66であったのに対し、本発明の浸漬ノズルを使用した場合には、平均スリバーの個数を0.87まで低下させることができた。また全くスリバーが発生しなかったコイル個数は従来では39.1%であったが、本発明により53.1%まで高めることができた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に使用する浸漬ノズルの説明図である。
【図2】浸漬ノズルからのガス吐出量分布図である。
【図3】吐出ガス気泡径と、内孔体部通期量の関係図である。
【図4】吐出ガス気泡径と気泡浮力の関係図である。
【図5】実施例と比較例におけるスリバー品位の分布図である。
【符号の説明】
【0023】
1 本体部
2 パウダーライン部
3 内孔体部
4 不活性ガス供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンディッシュからモールド内に溶鋼を連続注入する浸漬ノズルに不活性ガスを吹き込み、浸漬ノズル内周部を構成する通気性耐火物から気泡を吐出させて浸漬ノズルの閉塞を防止する鋼の連続鋳造方法において、
浸漬ノズル内に供給される不活性ガス供給量の全体量(A)に占める浸漬ノズル内側に位置する内孔体部からの不活性ガス流出量(B)が、
0.8≦B/A≦0.95
となる浸漬ノズルを使用することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【請求項2】
浸漬ノズル外周部でモールドパウダーに接するパウダーライン部が、ZrO−C質の通気性耐火物から構成された浸漬ノズルを使用することを特徴とする請求項1記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項3】
内孔体部から吐出される気泡径が0.7〜1.2mmとなる浸漬ノズルを使用することを特徴とする請求項1または2記載の鋼の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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