説明

鋼の連続鋳造方法

【課題】縦割れ等の表面欠陥がなく、表面性状に優れた鋳片を安定して連続鋳造することが可能な方法を提供する。
【解決手段】水冷式の鋳型を振動装置によって昇降振動させながら鋼を連続鋳造する方法であって、前記鋳型に供給される冷却水の温度と、前記鋳型から排出された冷却水の温度をそれぞれ測定し、これらの温度の差から算出した鋳型による溶鋼からの抜熱量に応じて、前記鋳型の振動ストロークと振動周波数を設定し、モールドパウダーの流入量を制御することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。前記振動装置として油圧シリンダーを備える油圧式振動装置を用い、湾曲型連続鋳造機において湾曲面の内側および外側に前記油圧シリンダーを設け、前記鋳型と前記油圧シリンダーを直接連結させ、それぞれの油圧シリンダーによる前記鋳型の振動ストロークおよび振動周波数を独立して制御し、前記鋳型を昇降振動させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型振動装置を用いた鋼の連続鋳造方法に関し、特に鋳型による溶鋼からの抜熱量に応じて振動条件を制御する鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、鋳型と鋳片との間の摩擦を軽減し、焼付きを防止して安定した鋳造を行うため、モールドパウダーを潤滑材として使用し、鋳型にはオシレーションと呼ばれる上下振動を付与する。
【0003】
鋳型振動装置としては、特許文献1に記載されるような電油アクチュエータおよびリンクを用いた機械式振動装置や、特許文献2に記載されるような油圧式振動装置が挙げられる。
【0004】
従来から、鋳型の振動条件(鋳型の振動ストロークおよび振動周波数)が鋳片表面に形成されるオシレーションマークの深さや、モールドパウダーの流入量に影響を与えることが知られている。一般に、鋳型の振動ストロークが短く且つ周波数が高いほどモールドパウダーの消費量が少なくなり、それとともにオシレーションマークの深さが浅くなることが認められている。
【0005】
また、モールドパウダーは、鋳型の壁面と鋳片との間に流れ込み、潤滑材として作用をするのに加えて、鋳型の壁面による溶鋼からの抜熱量を低減させる熱抵抗材として作用する。
【0006】
モールドパウダーの消費量が少ない場合等、鋳片の鋳造時において、鋳型による溶鋼からの抜熱量が過剰に大きくなった場合、凝固シェルの厚さ方向に大きな温度勾配が生じる。この温度勾配によって生じる内部応力を分散させるために凝固シェルの厚さが不均一となる結果、凝固シェルが変形し、鋳片の縦割れ等の表面欠陥が発生する可能性が高くなることが知られている。
【0007】
鋳型による抜熱量の過剰または不足による鋳片の表面割れ等の悪影響を抑制するため、特許文献3では、鋳型冷却水について、流量をほぼ一定とし温度を所定の範囲に制御する鋳型内冷却制御方法が開示されている。しかし、この方法では、鋳型冷却水の供給時の温度を検出し、その温度を所定の範囲内に制御するための大規模な装置が必要であるという問題がある。
【0008】
特許文献4では、縦割れ等の表面欠陥が少ない鋳片を安定して鋳造できる技術として、鋳型銅板に測温素子を埋設するとともにこの測温素子の近傍に測温センサーを埋設し、これらの素子とセンサーで測定した鋳型銅板内部の温度とモールドフラックスフィルムの表面温度からモールドフラックスフィルムと鋳型銅板との界面の熱抵抗を算出し、この熱抵抗が所定の範囲となるように鋳造条件を制御する技術が開示されている。しかし、この技術には、埋設された測温センサーに不具合が生じた場合には、装置の構造が複雑であるため修理が困難であり、熱抵抗を算出できなくなることにより鋳造条件の制御が困難となるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3026173号公報
【特許文献2】特表平11−506982号公報
【特許文献3】特開平8−90188号公報
【特許文献4】特開2002−11558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、大規模かつ構成が複雑である装置を必要とせず、また、縦割れ等の表面欠陥がなく、表面性状に優れた鋳片を安定して連続鋳造することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
鋼の連続鋳造過程における鋳片表面の縦割れの発生のメカニズムは次の通りである。鋳型による溶鋼からの抜熱量(以下「溶鋼抜熱量」という。)が大きい場合、初期凝固シェルの厚さが不均一となり、これに伴って凝固シェルの厚い部分に凝固収縮が生じる。これにより、凝固シェルの薄い部分に引張応力が発生して凝固シェルに座屈が生じると鋳片表面に縦割れが発生する。
【0012】
本発明者らは、このメカニズムに基づいて検討した結果、連続鋳造時の鋳型による溶鋼抜熱量を監視し、この溶鋼抜熱量の変化に応じて鋳型の振動条件を適切に制御して、モールドパウダーの流入量を適切に制御し、溶鋼抜熱量を所定範囲に保持することで、鋳片表面の縦割れ等の表面欠陥の発生を抑制することが可能であることを知見した。
【0013】
本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、その要旨は、下記の(1)〜(3)に示す鋼の連続鋳造方法にある。
【0014】
(1)水冷式の鋳型を振動装置によって昇降振動させながら鋼を連続鋳造する方法であって、前記鋳型に供給される冷却水の温度と、前記鋳型から排出された冷却水の温度をそれぞれ測定し、これらの温度の差から算出した鋳型による溶鋼からの抜熱量に応じて、前記鋳型の振動ストロークと振動周波数を設定し、モールドパウダーの流入量を制御することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【0015】
(2)前記振動装置として油圧シリンダーを備える油圧式振動装置を用い、湾曲型連続鋳造機において湾曲面の内側および外側に前記油圧シリンダーを設け、前記鋳型と前記油圧シリンダーを直接連結させ、それぞれの油圧シリンダーによる前記鋳型の振動ストロークおよび振動周波数を独立して制御し、前記鋳型を昇降振動させることを特徴とする前記(1)に記載の鋼の連続鋳造方法。
【0016】
(3)前記油圧式振動装置が共振を利用した直動型であることを特徴とする前記(2)に記載の鋼の連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の鋼の連続鋳造方法によれば、連続鋳造時のモールドパウダーの流入量および鋳型による溶鋼抜熱量を適正な範囲に保つことができるため、縦割れ等の表面欠陥の少ない表面性状に優れた鋳片を安定して連続鋳造することができる。また、大規模かつ構成が複雑である装置を必要とせず、鋳片を連続鋳造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】鋳型による溶鋼抜熱量、モールドパウダーの消費量および鋼片の表面性状の関係を示す図である。
【図2】本発明の方法に適用可能な油圧式振動装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.本発明の鋼の連続鋳造方法
本発明の鋼の連続鋳造方法は、水冷式の鋳型を振動装置によって昇降振動させながら鋼を連続鋳造する方法であって、前記鋳型に供給される冷却水の温度と、前記鋳型から排出された冷却水の温度をそれぞれ測定し、これらの温度の差から算出した鋳型による溶鋼からの抜熱量に応じて、前記鋳型の振動ストロークと振動周波数を設定し、モールドパウダーの流入量を制御する方法である。
【0020】
連続鋳造中の、鋳型による溶鋼抜熱量は、下記(1)式で表すことができる。
D={W×(Tout−Tin)×C}/(L/Vc) …(1)
ここで、D:鋳型による溶鋼抜熱量、W:鋳型冷却水量、Tout:鋳型の排水口における鋳型冷却水の温度、Tin:鋳型の給水口における鋳型冷却水の温度、C:鋳型冷却水の比熱、L:溶鋼と鋳型壁面の接触部分の鋳造方向の長さ、Vc:鋳造速度である。
【0021】
ここで、連続鋳造中の鋳造速度および鋳型冷却水量は原則として一定に維持される。そのため、鋳型からの溶鋼抜熱量の変化の支配的因子は、鋳型冷却水の鋳型の排水口における温度と給水口における温度の差(Tout−Tin)、すなわち鋳型内での鋳型冷却水の温度変化である。この鋳型冷却水の温度変化が大きい場合には、鋳型による溶鋼抜熱量が多く、温度変化が小さい場合には溶鋼抜熱量は少ないといえる。
【0022】
上述のように、鋳片表面の縦割れ等の表面欠陥は、鋳型による溶鋼抜熱量が多い場合に生じる不均一凝固に起因する。本発明の鋼の連続鋳造方法では、鋳型による溶鋼抜熱量が多い場合でも、鋳型の振動ストロークを増加させること、または振動周波数を低減することで、モールドパウダーの流入量を増加させることによって、鋳片の表面欠陥が生じない程度まで抜熱量を低減することが可能である。
【0023】
また、モールドパウダーの流入量が多すぎる場合には、鋳片の表面に深いオシレーションマークが形成され、この鋳片を圧延した鋼片では表面割れが発生する可能性がある。この場合、鋳型による溶鋼抜熱量が少なく、鋳型内での鋳型冷却水の温度変化が小さいため、本発明の鋼の連続鋳造方法では、鋳型の振動ストロークを低減させること、または振動周波数を増加させることで、モールドパウダーの流入量を低減させることによって、鋳片の表面に形成されるオシレーションマークの深さを、圧延した鋼片に表面割れが発生しない程度とすることが可能である。
【0024】
本発明の方法では、鋳型冷却水の温度は、鋳型の給水口および排水口またはその近傍に設けた測温センサーによって測定できる。このように測温センサーは、鋳型の外部に設けることができるため、故障した場合でも容易に修理や交換が可能である。
【0025】
本発明の鋼の連続鋳造方法では、鋳型の振動の制御について、鋳型冷却水の量、鋳型内での鋳型冷却水の温度変化および鋳造速度に対してあらかじめ設定した鋳型の振動条件(振動ストロークおよび周波数)の設定値に基づいて、各時点における鋳型内での鋳型冷却水の温度変化、鋳造速度に応じて鋳型の振動条件を自動的に変化させる手法を用いることができる。
【0026】
鋳型の振動の制御の目的は、鋳型のモールドパウダーの流入量を制御することによって、鋳型内での鋳片の冷却強度、すなわち前記(1)式で表される鋳型による溶鋼抜熱量を適正範囲に保つことにある。
【0027】
鋳型冷却水の温度変化が大きい場合は、鋳型による溶鋼抜熱量が多く、鋳片の初期凝固段階での不均一凝固に起因して鋳片表面の縦割れ等の表面欠陥が発生する可能性がある。この場合には、モールドパウダーの流入量を増加させて鋳型壁面と溶鋼との間の熱抵抗を増加させ、鋳片の緩冷却化を図る。
【0028】
鋳型振動条件とモールドパウダーの消費量について下記(2)式に示す関係が知られている。
Q=k/(T1.6η0.5)×(A0.4/Vc)×COS-1{−1000Vc/(2πfA)} …(2)
ここで、Q:モールドパウダー消費量(kg/m2)、k:比例定数、T:モールドパウダーの結晶化温度(℃)、η:1300℃におけるモールドパウダーの粘度(poise)、A:鋳型の振動ストローク(mm)、Vc:鋳造速度(m/min)、f:鋳型の振動周波数(cpm:counts per minute)である。
【0029】
上記(2)式に基づけば、モールドパウダーの流入量を増加させるには、鋳型振動条件のうち振動ストロークを増加させること、または振動周波数を低減することによって、ネガティブストリップ率(鋳型の振動の1周期において、鋳型の下降速度が鋳造速度を超えている時間の割合)を低下させればよい。
【0030】
鋳型冷却水の温度変化が小さい場合は、モールドパウダーの流入が過多となっているおそれがある。この場合、オシレーションマークが深くなりすぎる可能性があることから、モールドパウダーの消費量を低減させるため、鋳型の振動ストロークを低減し、振動周波数を増加させてネガティブストリップ率を増加させる。
【0031】
一般に、モールドパウダーの流入量は、鋳型の振動条件によって変化し、振動ストロークが大きいほど流入量は多く、振動周波数が大きいほど流入量が小さい傾向にある。そのため、振動ストロークと振動周波数の両方の条件を適切に制御することが重要である。
【0032】
3.溶鋼抜熱量の閾値
鋳型による溶鋼抜熱量およびモールドパウダーの消費原単位と、鋳片を分塊圧延して得られた鋼片の表面性状との間には、図1に示す関係がある。
【0033】
図1は、鋳型による溶鋼抜熱量、モールドパウダーの消費量および鋼片の表面性状の関係を示す図である。同図では、横軸を鋳型による溶鋼抜熱量、縦軸をモールドパウダーの消費原単位とした。モールドパウダーの消費原単位とは、鋳造した鋼の1tあたりのモールドパウダーの消費量である。また、同図中の試験番号は、後述する実施例の試験番号に対応し、図中の記号(○および△)は後述する表2中の鋼片の表面性状の評価に対応する。○は鋼片の表面性状の評価が良好であったことを意味し、△は可であったことを意味する。
【0034】
図1に示すように、モールドパウダーの消費原単位が適正であった試験番号1および2では、表面性状が良好な鋼片が多く得られた。一方、モールドパウダーの消費原単位が過小であった試験番号3では、多くの鋳片で表面に縦割れが発生した。モールドパウダーの消費原単位が過多であった試験番号4では、鋳片の表面に形成されたオシレーションマークが深かったため、この鋳片を圧延した多くの鋼片で表面割れが発生した。
【0035】
図1に示す結果から、本発明の鋼の連続鋳造方法において鋳型冷却水の温度変化に基づいて鋳型の振動条件を変更する場合、鋳型による溶鋼抜熱量は21.5〜33.0kcalとするのが好ましい。
【0036】
4.好ましい振動条件
鋳型の振動ストロークは、振幅で2.0〜4.0mmが好ましく、振動周波数は32〜255cpmが好ましい。
【0037】
振動ストロークが小さくかつ振動周波数が高いほど、鋳型の振動加速度が大きく、設備への負荷が大きくなる。そのため、上記の好ましい条件の振動ストロークの下限値(2.0mm)と振動周波数の上限値(255cpm)は、この負荷が過度とならない値とした。
【0038】
また、振動ストロークが大きすぎる場合、モールドパウダーの流入量が過多となり、鋳片表面に発生するオシレーションマークの深さが深くなりすぎ、圧延する際にそのオシレーションマークを起点とした鋼片の表面割れが発生するおそれがある。そのため、鋼片の表面割れが生じない程度の値として振動ストロークの上限を4.0mmとした。
【0039】
さらに、振動周波数の下限(32cpm)は、低鋳造速度時(0.30m/min以下)において安定鋳造が可能な閾値の下限である。振動周波数が32cpmを下回った場合、モールドパウダーの流入量が減少することによって鋳片と鋳型との間で焼き付きが生じ、連続鋳造の続行が困難な状態となるおそれがある。
【0040】
5.その他の鋳造条件
本発明の鋼の連続鋳造方法は、炭素鋼全般、低合金鋼および高合金鋼といった多岐にわたる鋼種を適用対象とする。そのため、特に規制は必要ない。
【0041】
また、好ましい鋳造条件として、鋳片の断面サイズは厚さ300〜400mm、幅400〜500mm、鋳造速度は0.40〜0.85m/min、2次冷却比水量は0.15〜0.50L/kg−steelが挙げられる。
【0042】
以上の鋳造条件のうち、鋳造速度の上限および下限は、安定した連続鋳造で可能な範囲かつ連続鋳造工程よりも上流側の工程である溶鋼精錬処理工程の所要時間等によって制約される。
【0043】
2次冷却比水量は、鋼種によって異なり、鋳造速度とともに変化する鋳片内最終凝固位置の制御を目的として制御される。
【0044】
6.振動装置
図2は、本発明の方法に適用可能な油圧式振動装置の構成図である。油圧式振動装置の2個の油圧シリンダー1は、連続鋳造機の鋳型2に連結され、浸漬ノズル3から鋳型2内に供給された溶鋼が凝固した鋳片4をはさむように配置され、鋳型2を昇降振動させる。垂直曲げ型および湾曲型の連続鋳造機に適用する場合は、湾曲部の内側および外側のそれぞれに油圧シリンダー1を配置する。各油圧シリンダー1の振動ストロークおよび振動周波数は独立に制御可能である。鋳型2は、水冷式であり、鋳型冷却水の給水口と排水口を有する。
【0045】
この油圧式振動装置は、連続鋳造装置の形式によらず適用可能である。垂直型や垂直曲げ型の連続鋳造装置では、両方の油圧シリンダー1の振動ストロークおよび振動周波数を同一とし、同期して振動させる。湾曲型の連続鋳造装置では、鋳型部分での湾曲の曲率半径、および湾曲面の内側と外側の面との距離に応じて、鋳型の振動ストロークの上限位置および下限位置における鋳型の厚さ方向中心部と連続鋳造機の湾曲半径中心点とを結ぶ直線上に位置するように湾曲部の内側および外側の油圧シリンダー1の振動ストロークの大きさを制御する。
【0046】
連続鋳造過程で鋳型の振動ストロークおよび周波数を随時変化させる制御を行う場合、鋳型を振動させる振動装置としては、油圧式振動装置が好ましい。油圧式振動装置によれば、リンクを用いた機械式の鋳型振動装置よりも、高い自由度で振動制御を行うこと、および低コストで設置することができる。機械式の鋳型振動装置は、油圧式振動装置と比較して構造が複雑で、設備が大がかりであり、設置費用が莫大となる。
【0047】
油圧式振動装置としては、鋳型2を図示しない板ばねによって支持し、振動に板ばねによる共振を利用する、直動型のものが好ましい。共振を利用する直動型油圧式振動装置は、構造が簡単であり、慣性が小さく応答性がよい。また、設備自体がコンパクトであり、取り替え作業を比較的容易に行うことができる。
【実施例】
【0048】
本発明の鋼の連続鋳造方法の効果を確認するため、以下に示す試験を実施して、その結果を評価した。
【0049】
1.試験条件
連続鋳造装置として湾曲型の連続鋳造機を使用し、鋳型振動装置として前記図2に記載のものを使用した。使用した鋼種は表1に示すAおよびBとし、鋳造条件は鋳型の振動条件も含め、表2に示す条件とした。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
表2に示す試験番号1〜4のうち、試験番号1および2は、鋳型の振動条件を、前記(1)式を用いて算出した鋳型による溶鋼抜熱量に応じて変化させた本発明例である。同表に示す「鋳型冷却水温度変化」は、鋳型の排水口に設けた測温センサーで測定した鋳型冷却水の温度と鋳型の給水口に設けた測温センサーで測定した温度の差(前記(1)式におけるTout−Tin)である。
【0053】
試験番号3および4は比較例であり、鋳型内での鋳型冷却水の温度変化がわずかに異なることおよび鋳型の振動条件を変更せず一定としたこと以外はそれぞれ試験番号1および2の振動条件変更前と同様の条件とした。また、各条件で製造した鋳片は、分塊圧延して鋼片(ビレット)とした。各条件について36本の鋼片を製造した。
【0054】
試験番号1では、鋳型内での鋳型冷却水の温度変化が10.2℃で鋳型による溶鋼抜熱量が32.6kcalと多かったため、鋳型の振動ストロークを振幅で3.0mmから3.5mmに増加させ、かつ振動周波数を1.63Hz(97.8cpm)から1.08Hz(64.8cpm)に低減させた。これにより、モールドパウダーの消費原単位が0.38kg/tから0.43kg/tに増加した。また、このモールドパウダーの消費原単位の増加による熱抵抗の増大に伴い、鋳型内での鋳型冷却水の温度変化が8.9℃となり、鋳型による溶鋼抜熱量は28.5kcalに減少した。
【0055】
試験番号2では、鋳型内での鋳型冷却水の温度変化が7.2℃で鋳型による溶鋼抜熱量が21.4kcalと少なかったため、鋳型の振動ストロークを振幅で3.5mmから3.0mmに減少させ、かつ振動周波数を1.17Hz(70.2cpm)から1.75Hz(105cpm)に増加させた。これにより、モールドパウダーの消費原単位が0.52kg/tから0.48kg/tに減少した。また、このモールドパウダーの消費原単位の減少による熱抵抗の低下に伴い、鋳型内での鋳型冷却水の温度変化が8.4℃となり、鋳型による溶鋼抜熱量は25kcalに増加した。
【0056】
2.試験結果
上記条件で製造した鋳片については縦割れ等の表面欠陥の有無を、鋳片を分塊圧延した鋼片については鋼片軽手入率を、それぞれ評価項目として表面性状に関する評価を行った。
【0057】
鋼片軽手入率とは、表面疵手入れ成績であり、鋼片の表面性状の指標である。分塊圧延して得られた鋼片は、表面割れ等の欠陥を手入れする疵取りを行い、その疵取りを行った長さにより、鋼片1本毎に表面性状を評価した。この表面性状の評価結果に応じて各鋼片を、軽手入鋼片、中手入鋼片および重手入鋼片に分類し、このうち最も疵取りの長さが短く表面性状が良好な軽手入鋼片の本数の、全鋼片本数に占める割合を鋼片軽手入率と定義した。鋼片軽手入率が高いほど、表面性状が良好な鋼片が多く得られたことを示す。
【0058】
ここで、軽手入鋼片とは、鋼片の4つの側面で疵取りを行った結果、各側面とも疵取り総長さが2m未満であった鋼片をいう。中手入鋼片とは、鋼片の4つの側面のうち1面で疵取り総長さが2m以上の面があった鋼片をいう。大手入鋼片とは、鋼片の4つの側面のうち2面以上疵取り総長さが2m以上の面があった鋼片をいう。
【0059】
前記表2には、鋳造条件と併せて鋼片軽手入率の結果を示す。鋼片軽手入率は、90%以上である場合を○(鋼片の表面性状良好)、90%未満である場合を△(鋼片の表面性状可)と評価した。また、前記図1には、鋳型による溶鋼抜熱量、モールドパウダーの消費量および鋼片の表面性状の関係を示す。
【0060】
表2および図1に示すように、溶鋼抜熱量に応じて鋳型の振動条件を変化させ、溶鋼抜熱量を適正とした試験番号1および2では、鋼片軽手入率はいずれも94%以上と良好な値であり、評価は○であった。
【0061】
一方、溶鋼抜熱量が過多または過小であったにもかかわらず鋳型の振動条件を変化させなかった試験番号3および4では、鋳片軽手入率は81%以下と低位であり、評価は△であった。モールドパウダーの消費原単位が少なく、溶鋼抜熱量が過多であった試験番号3では、多くの鋳片で表面に縦割れが発生した。また、モールドパウダーの消費原単位が過多であった試験番号4では、鋳片の表面に形成されたオシレーションマークが深かったため、この鋳片を圧延した多くの鋼片で表面割れが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の鋼の連続鋳造方法によれば、連続鋳造時のモールドパウダーの流入量および鋳型による溶鋼抜熱量を適正な範囲に保つことができるため、縦割れ等の表面欠陥の少ない表面性状に優れた鋳片を安定して連続鋳造することができる。また、大規模かつ構成が複雑である装置を必要とせず、鋳片を連続鋳造することができる。
【符号の説明】
【0063】
1:油圧シリンダー、 2:鋳型、 3:浸漬ノズル、 4:鋳片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水冷式の鋳型を振動装置によって昇降振動させながら鋼を連続鋳造する方法であって、
前記鋳型に供給される冷却水の温度と、前記鋳型から排出された冷却水の温度をそれぞれ測定し、これらの温度の差から算出した鋳型による溶鋼からの抜熱量に応じて、前記鋳型の振動ストロークと振動周波数を設定し、モールドパウダーの流入量を制御することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【請求項2】
前記振動装置として油圧シリンダーを備える油圧式振動装置を用い、
湾曲型連続鋳造機において湾曲面の内側および外側に前記油圧シリンダーを設け、
前記鋳型と前記油圧シリンダーを直接連結させ、それぞれの油圧シリンダーによる前記鋳型の振動ストロークおよび振動周波数を独立して制御し、前記鋳型を昇降振動させることを特徴とする請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項3】
前記油圧式振動装置が共振を利用した直動型であることを特徴とする請求項2に記載の鋼の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−66912(P2013−66912A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207144(P2011−207144)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】