説明

鋼床版用縦リブ及びその設置方法

【課題】 施工の品質保証を確保し、疲労き裂の有無をも容易に点検できる鋼床版の縦リブ用Uリブを提供する。
【解決手段】 鋼床版の縦リブ用のUリブ20を、一対の側板21と、それとは別体をなす底板21とに分割する。各側板21の幅方向の上端部を鋼床版のデッキプレート10に外側と内側の両側から隅肉溶接する。そして、底板22の幅方向の両端部に設けた第2嵌合部22aを各側板21の幅方向の下端部に設けた第1嵌合部21aに嵌合させ、これにより、一対の側板21の下端部どうし間に底板22を架け渡す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋼橋等において、Uリブを縦リブとして用いた鋼床版に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼床版は、RC床版に比較して重量が1/2〜1/3となるため、死荷重の影響が大きい長大スパンの橋梁に有利な床構造であり、上部工の重量を低減できることから、下部工への負担を減らすことができ、耐震性に優れている。また、鋼床版は工場で製作し、現地で組み立てることができるため、施工を短縮することができる。
一方、比較的薄い鋼板を溶接により組み立てる方式となるため、溶接による変形が生じやすい構造となり、細心の注意が必要となる。また、鋼床版は自動車荷重を直接支える構造となっているため、疲労損傷を受けやすく、耐久性を確保することが重要な課題となっている。
【0003】
図4に示すように、鋼床版は、デッキプレートの下面に縦リブや横リブを設けて補剛するとともに上面に舗装を施したものであり、縦桁、横桁を介して主桁で支持される構造となっている。鋼床版を主桁と合成することが構造上も有利となり、上記図4に示すような箱桁形式の他、図5に示すようなI桁形式の鋼床版桁も多用されている。縦リブと横リブの交差部は、縦リブからのせん断力を横リブに確実に伝達できる構造でなければならない。また、橋桁端部で端横桁に取り付く場合や、横リブを境にして縦リブ断面が変化する場合を除き、図4に示すように、縦リブは、横リブの腹板を貫通して、連続させるのが望ましい。縦リブと横リブの交差部のように、溶接線が集中する箇所では交差部の構造、スカラップの取り方、溶接サイズなどに留意して、溶接施工が実施される。最近、Uリブを大型化したりデッキプレートを厚板化したりして床組としての断面性能を増加させ、応力の低減、疲労損傷の低減を図った合理化構造も採用されている。
【0004】
鋼床版の縦リブとしては、平鋼、バルブプレート、Uリブ等が多用されている。特に、Uリブ(トラフリブ)は、横桁間隔を長くすることができることから、近年、主流となっている。
平鋼やバルブプレ―ト等の開断面の縦リブをデッキプレートに溶接するには、両側からすみ肉溶接を行うことができる。しかし、閉断面のUリブの場合、外側からの片側溶接にならざるを得ない。そこで、図6(a)に示すように、例えば板厚6mm以上の場合、開先を設けてグルーブ溶接を行うものとしている。施工性の面ではすみ肉溶接のほうがよいが、内側から溶接ができないため、十分な溶け込みが見込めるグルーブ溶接が使用されている。なお、図6(a)においては、Uリブの左側を溶接前の状態で示し、右側を溶接後の状態で示してある(同図(b)において同様)。
【特許文献1】登録実用新案第3064047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の大型車の交通量の増加、過積載の問題等により、鋼床版の疲労損傷は従来以上に顕在化している。
図7は、鋼床版の疲労き裂の主な発生箇所を例示したものであり、その詳細は以下の通りである。
(1)輪荷重直下のUリブ現場突合せ溶接部
(2)デッキプレートとUリブからなる縦リブのすみ肉溶接部
(3)デッキプレートと横リブ現場溶接部、スカラップのすみ肉溶接部
(4)デッキプレートと垂直補剛材のすみ肉溶接部
(5)コーナープレートの溶接部
(6)横リブと縦リブ交差部のスカラップ及び回し溶接部
(7)縦リブ端部のすみ肉溶接部
(1)〜(7)の表面に発生する疲労き裂については、入念な目視点検により検出可能であり、何らかの対策を講じることができる。しかし、(2)のデッキプレートとUリブの片側すみ肉溶接部では、図6(b)の仮想線に示すように、閉断面の内側から疲労き裂が発生する。図6(a)に示すように、(2)の箇所を片側すみ肉溶接に代えて片側グルーブ(開先)溶接にした場合も同様である。このため、点検、診断及び対策等をどのように行うかが大きな問題となっている。特に内側から発生した疲労き裂がデッキプレートを貫通して床版を大きく変形させるケースも報告されており、その対策は急務である。
現状では、合理化構造(デッキプレートの板厚を厚くする、Uリブの板厚を厚くする、開先を設けてグルーブ溶接とする等)を採用し、疲労き裂の発生を抑えようとしているが、十分とは言い難い。
【0006】
鋼床版の縦リブ等にUリブを用いた場合の問題点をまとめると、次のようになる。
a)施工が容易でない。
b)片側のみの溶接では品質保証が容易でない。
c)目視点検ができない。
d)非破壊検査法が確立されていない。
e)補修・補強の対策が容易でない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、本発明に係る鋼床版用縦リブは、一対の側板と、これら側板とは別体をなす底板とを有して、一方向に延び、前記各側板の長手方向と直交する幅方向の一端部が鋼床版のデッキプレートに接合されるとともに他端部には第1嵌合部が設けられ、前記底板の幅方向の両端部には前記第1嵌合部に嵌合される第2嵌合部がそれぞれ設けられていることを特徴とする。これによって、側板を、外側からだけの片側溶接ではなく、外側と内側からの両側溶接にてデッキプレートに接合でき、溶接施工の品質保証を確保できる。また、保守に際しては必要に応じて底板を取り外すことができ、内部を目視点検でき、非破壊検査も可能であり、疲労き裂の有無を容易かつ確実に確認できる。これにより、補修・補強の対策を容易に行なうことができる。
【0008】
本発明に係る鋼床版は、デッキプレートをUリブからなる縦リブにて補剛してなるものであって、前記縦リブが、一対の側板と、これら側板とは別体をなす底板とに分割されており、前記各側板の長手方向と直交する幅方向の一端部が鋼床版のデッキプレートに両側溶接され、これら側板の他端部どうし間に前記底板が着脱可能に架け渡されることを特徴とする。これによって、上記と同様に、溶接施工の品質保証を確保できる。また、疲労き裂の有無を容易かつ確実に確認でき、補修・補強の対策を容易に行なうことができる。
【0009】
ここで、前記底板が幅方向に引っ張られるようにして前記一対の側板どうしを連結していることが望ましい。これによって、インターロッキング効果が発現し、側板と底板を強固に連結することができ、所要の剛性を確実に確保することができる。
【0010】
本発明に係る鋼床版用縦リブの設置方法は、鋼床版用の縦リブとなるべきUリブの構成部材として、一対の側板と、これとは別体の底板を用意し、前記各側板の幅方向の一端部を鋼床版のデッキプレートに外側と内側からそれぞれ溶接し、その後、各側板の幅方向の他端部に設けた第1嵌合部に前記底板の幅方向の両端部に設けた第2嵌合部を嵌合させ、これにより、一対の側板の他端部どうし間に底板を架け渡すことを特徴とする。これによって、上記と同様に、溶接施工の品質保証を確保できる。また、疲労き裂の有無を容易かつ確実に確認でき、補修・補強の対策を容易に行なうことができる。
【0011】
前記側板のデッキプレートへの接合の際は、一対の側板の第1嵌合部どうしの間隔が、前記底板の両端部の第2嵌合部どうしの間隔より若干小さくなるようにしておき、前記底板が前記一対の側板によって幅方向に引っ張られるようにするのが望ましい。これによって、側板と底板をインターロッキング効果にて強固に連結することができ、所要の剛性を確実に確保することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、両側溶接によって施工の品質保証を確保できる。また、疲労き裂の有無を容易かつ確実に点検でき、補修・補強の対策を容易に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1に示すように、鋼橋の鋼床版は、デッキプレート10と、このデッキプレート10を補剛する縦横のリブ20,30を備えている。縦リブ20は、図1の紙面と直交する橋軸方向に延びるとともに、橋幅方向(左右)に離間して複数(図1では1つのみ図示)並設されている(図4参照)。横リブ30は、この縦リブ20と直交するようにして左右に延びている。横リブ30には、逆さ台形状の貫通凹部31が形成され、これに縦リブ20が貫通されている。貫通凹部31の両隅には、スカラップ32が形成されている。
【0014】
縦リブ20は、Uリブにて構成されている。すなわち、一対の側板21と底板22からなり、U字断面をなしている。図2に示すように、縦リブ20の側板21と底板22は、分割され、互いに別体をなしている。各板21,22は、橋軸方向に長く延びる圧延鋼板にて構成されている。
【0015】
図1に示すように、一対の側板21は、互いに左右に対向するように並行して配置されている。これら側板21は、幅方向(高さ方向)を略上下に向けるとともに下方に向かって互いに接近するように傾斜されている。各側板21の上端部(一端部)は、デッキプレート10の下面に突き当てられ、両側すみ肉溶接されている。すなわち、側板21は、外側(他方の側板21側とは反対側)からだけでなく内側(他方の側板21側)からも溶接されている。
各側板21の下端部(他端部)には、第1嵌合部21aが形成されている。この実施形態の第1嵌合部21aは、側板21の本体部分から内側及び上側へ丸く折曲された爪状をなしている。
【0016】
これら一対の側板21の下端部どうし間に底板22が水平に架け渡されている。底板22の左右両端部には、第2嵌合部22aがそれぞれ設けられている。この実施形態の第2嵌合部22aは、底板22の本体部分から上側及び外側へ丸く折曲された爪状をなしている。これら第2嵌合部22aが、左右の側板21の第1嵌合部21aにそれぞれ長手方向にスライド可能かつ長手方向以外の方向への変位を拘束可能に嵌合されている。これによって、一対の側板21の下端部どうしが底板22で連結されている。
【0017】
ここで、底板22の両端部の第2嵌合部22aどうしの間隔L1(図1)は、この底板22で連結される前の自然状態における一対の側板21の第1嵌合部21aどうしの間隔L0(図2)より若干小さい。これによって、底板22が幅方向(左右)に引っ張られるようにして一対の側板21どうしを連結している。これによって、インターロッキング効果が発現し、側板21と底板22が強固に連結されている。
【0018】
上記の嵌合部21a,22a付き側板21及び底板22は、圧延等にて容易に製造することができる。
これら分割板21,22からなる縦リブ20は、次のようにしてデッキプレート10に取り付けられる。
図2に示すように、側板21を所定の角度傾け、その上端部をデッキプレート10に突き当てる。側板21の傾きは、例えば、上記所定角度の傾斜面を有する当て板を用い、この当て板の傾斜面に側板21を宛がうことにより、精度を出すことができる。そして、側板21とデッキプレート10を仮溶接する。
次に、側板21の上端部をデッキプレート10に外側と内側の両側からすみ肉溶接する。この段階の側板21は、外側は勿論、内側も開放されているので、内側からも容易に溶接作業を行なうことができ、施工品質を向上できる。
以上の側板取り付け作業を、左右の側板21について順次行なう。この際、これら一対の側板21の第1嵌合部21aどうしの間隔L0が、底板22の両端部の第2嵌合部22aどうしの間隔L1より僅かに大きくなるようにしておく。
【0019】
次に、図3に示すように、橋軸方向(長手方向)の手前側の端部において、底板22の左右の第2嵌合部21aを、左右の側板21の第1嵌合部21aにそれぞれ嵌合させる。この時、一対の側板21の下端部どうしを少し接近させ、底板20の幅に合うようにする。そして、底板22を橋軸に沿って奥側へスライドさせ、側板21と長手方向の位置を一致させる。
一対の側板21の下端部どうしは、互いに離間しようとするため、底板22に引っ張り力が働く。これによって、インターロッキング効果が発現する。その後、ボルトにて側板21と底板22どうしを連結固定する。
【0020】
この分割型Uリブ20によれば、各側板21が両側溶接されているので、品質保証が容易なだけでなく、疲労耐久性、溶接継手等級を大幅に向上させることができる。これによって、疲労き裂の発生を従来の一体型Uリブよりも抑えることができる。また、グルーブ溶接より簡易なすみ肉溶接を採用でき、溶接作業の簡素化を図ることができる。
一対の側板21と底板22には、インターロッキング効果が発現しているので、これら板21,22どうしを強固に連結することができる。これによって、縦リブとしての所要の形状と剛性を確実に確保できる。Uリブの大断面化への対応も容易である。
維持管理においては、必要に応じて底板22をスライドさせて容易に取り外すことができる。これにより、Uリブの内部を目視で容易に点検することができる。上記溶接時に十分な施工管理を行なっておくことにより、専らすみ肉溶接の止端部の表面き裂のみを問題とすることができ、点検作業を一層容易化できる。非破壊検査も容易に実施することができる。そして、き裂等があれば、外部に変状が現れる前に確実に発見でき、早期に適切な対処を講じることができる。この対処手段は、十字すみ肉溶接継手に対して実施されている補修・補強法を適用することができる。
【0021】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変が可能である。
例えば、側板の第1嵌合部と底板の第2嵌合部は、両者が分離可能に噛み合うものであればよく、種々の形状を採用することができる。長手方向にスライドさせて嵌合する形式に限らず、例えば底板を、斜めにして一対の側板の中間高さ部分どうし間に入れた後、水平に戻しながら下降させて、第2嵌合部を第1嵌合部に嵌合させる等、種々の形式を採用することができる。
側板のデッキプレートへの溶接は、すみ肉溶接に代えて、グルーブ溶接を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、例えば鋼橋の鋼床版に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る鋼床版の要部の正面図である。
【図2】上記鋼床版の施工手順を、デッキプレートに一対の側板を接合した状態で示す正面図である。
【図3】上記鋼床版の分割Uリブからなる縦リブの分解斜視図である。
【図4】一般的な鋼橋の一例を示す斜視図である。
【図5】一般的な鋼橋の他の一例を示す正面図である。
【図6(a)】従来の片側開先(グルーブ)溶接方式のUリブを示す正面図である。
【図6(b)】従来の片側すみ肉溶接方式のUリブを示す正面図である。
【図7】鋼床版の疲労き裂の主な発生箇所を例示した斜視図である。
【符号の説明】
【0024】
10 デッキプレート
20 縦リブ(Uリブ)
30 横リブ
31 貫通凹部
32 スカラップ
21 側板
22 底板
21a 第1嵌合部
22a 第2嵌合部
L1 底板の両第2嵌合部どうしの間隔
L0 自然状態における一対の側板の第1嵌合部どうしの間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の側板と、これら側板とは別体をなす底板とを有して、一方向に延び、
前記各側板の長手方向と直交する幅方向の一端部が鋼床版のデッキプレートに接合されるとともに他端部には第1嵌合部が設けられ、
前記底板の幅方向の両端部には前記第1嵌合部に嵌合される第2嵌合部がそれぞれ設けられていることを特徴とする鋼床版用縦リブ。
【請求項2】
デッキプレートをUリブからなる縦リブにて補剛してなる鋼床版において、
前記縦リブが、一対の側板と、これら側板とは別体をなす底板とに分割されており、
前記各側板の長手方向と直交する幅方向の一端部が鋼床版のデッキプレートに両側溶接され、これら側板の他端部どうし間に前記底板が着脱可能に架け渡されることを特徴とする鋼床版。
【請求項3】
前記底板が幅方向に引っ張られるようにして前記一対の側板どうしを連結していることを特徴とする請求項2に記載の鋼床版。
【請求項4】
鋼床版用の縦リブとなるべきUリブの構成部材として、一対の側板と、これとは別体の底板を用意し、
前記各側板の幅方向の一端部を鋼床版のデッキプレートに外側と内側からそれぞれ溶接し、
その後、各側板の幅方向の他端部に設けた第1嵌合部に前記底板の幅方向の両端部に設けた第2嵌合部を嵌合させ、これにより、一対の側板の他端部どうし間に底板を架け渡すことを特徴とする鋼床版用縦リブの設置方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6(a)】
image rotate

【図6(b)】
image rotate

【図7】
image rotate