説明

鋼床版Uリブの密閉ダイヤフラム、その設置方法、及び既設の鋼床版の補修方法

【課題】鉛直力に強く抵抗することがなく、かつ、施工が容易な鋼床版Uリブの密閉ダイヤフラムの設置方法を提供する。
【解決手段】密閉ダイヤフラム22の少なくとも一部を、熱硬化型樹脂および光硬化型樹脂の少なくともいずれか一方で構成し、Uリブ20内部の設置位置に該密閉ダイヤフラム22を取り付ける際には前記樹脂を硬化させておらず、Uリブ20内部の設置位置に該密閉ダイヤフラム22を取り付けた後に加熱および光照射の少なくともいずれか一方を行うことにより、前記樹脂を硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼床版Uリブの密閉ダイヤフラム、その設置方法、及び既設の鋼床版の補修方法に係り、特に、橋梁構造物の鋼床版に用いるのに好適なUリブの密閉ダイヤフラム、その設置方法、及び既設の鋼床版の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁における床版構造として、RC床版、合成床版、鋼床版等があるが、鋼床版は、軽量であることや、工場において一定の大きさまで製作し、現場に設置することが可能であり、施工工期を短くできること等の特徴を有するため、多くの実績がある。しかしながら、鋼床版は、比較的薄い鋼板の溶接構造であるため、車両の輪荷重の影響を直接受け易く、疲労亀裂が発生する事例が見られるようになった。特に、横リブと縦リブの交差部やスカラップ等から亀裂が進展する事例が多く見られる。
【0003】
橋梁構造で用いられる鋼床版構造において、その縦リブ(トラフリブ)構造に、図1に例示する如く、比較的剛性が高く施工が簡単なU型の閉断面縦リブ(以下Uリブ)構造を採用することが主流となっている。Uリブ20を用いる場合、1〜3m程度の間隔で横リブ30を設置するのが一般的である。又、製作上、運搬上の理由等から、鋼床版10は横リブ間隔(スパン)10m程度の長さで製作し、現場で接合している。図1において、14はデッキプレート、16は主桁である。図2に示す現場ボルト継手部12の位置は、曲げ力が比較的小さい位置(横リブスパンLの1/4)に設けるのが一般的である。
【0004】
上記のような、縦リブ構造にUリブ20を用いた鋼床版10の場合、基本的に気密性の高いUリブ内部は塗装や防錆処理を実施していない。しかし、現場ボルト継手部12付近においては、開口部(ハンドホール20H、スカラップ32やボルト継手部12等)が設けられており、この開口部からUリブ内部に外気が侵入する。そこで、図2に示す如く、現場ボルト継手部12の両端に、周囲を溶接した鋼製のダイヤフラム(以下密閉ダイヤフラムと称する)22を設けて、Uリブ20内部の気密性を保っている。通常、この密閉ダイヤフラム22は、工場内でUリブ20内に外周を溶接して設置する。設置位置は、継手部12から200〜500mm程度の位置であるため、横リブ30に近い側の密閉ダイヤフラム22の横リブ30との距離は0〜425mm程度である。又、板厚は、Uリブ20の板厚と同等の6〜8mm程度が一般的であるが、裏当て材と兼用する場合には12〜19mm程度の鋼板を用いる場合もある。
【0005】
図3に示すように、デッキプレート14上を通過する車輪8等により、密閉ダイヤフラム22の配設位置近傍のUリブ20に、Uリブ断面中央から偏心した垂直下向きの力Fが作用した場合、該密閉ダイヤフラム22が配設された位置において、Uリブ20が該断面形状を保ったまま剛体回転し、横リブ30とUリブ20との交差部の溶接止端部等、構造詳細部の応力が2倍程度に増加することが非特許文献1に報告されている。図3において、32はスカラップである。
【0006】
この原因として、図4に示すように、鋼製の密閉ダイヤフラム22Sの剛体的な回転Rによるねじり力が、横リブ30上のUリブ20のウェブのオイルキャニング変形(Uリブ側壁の歪み)を誘発し、Uリブウェブの局部曲げにより、スカラップ32の回し溶接等に応力集中が発生することがある。この応力集中により横リブ30とUリブ20との交差部におけるスカラップ32溶接止端等、疲労上の弱点となり得る構造詳細部から疲労亀裂が発生する可能性がある。
【0007】
鋼床版の補強方法としては、特許文献1に、縦リブの内部空間に充填剤の軽量発泡コンクリートを注入して、溶接継手部の疲労強度を向上させることが記載され、特許文献2に、鋼主桁間に補強横桁を締結固定して架設すると共に、該補強横桁の縦リブと対応する位置に支持金具を設け、該支持金具によって縦リブを支持することが記載されている。
【0008】
又、前記非特許文献1などでは、密閉ダイヤフラムの剛性が影響を与えることを指摘している。
【0009】
【特許文献1】特開2001−248114号公報
【特許文献2】特開2002−173912号公報
【非特許文献1】井口ら「鋼床版SFRC舗装施工前の静的載荷試験」土木学会第60回年次学術講演会(平成17年9月)CS10−017、333〜334頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
Uリブが一定間隔で横リブにより外部拘束され、且つ、内部からは密閉ダイヤフラムで拘束されていると、UリブにUリブ断面中央から偏心した垂直下向きの力によるねじり力が作用した場合に、該密閉ダイヤフラムが配設された位置において、Uリブが該断面形状を保ったまま変形した場合には、該横リブ拘束位置に亀裂が入る等のトラブルが発生する。しかしながら、従来は、これに対する対処法についてはほとんど研究されておらず、本発明者のうちの一人による公知ではない先の出願(特願2005−349824)で、対処法として、密閉ダイヤフラムを鉛直力に抵抗しない構造体とした、鋼床版Uリブの密閉ダイヤフラム構造及び鋼床版が提案されているのみである。
【0011】
本発明は、この先の出願(特願2005−349824)に係る鋼床版Uリブの密閉ダイヤフラム構造について、密閉ダイヤフラムの材料面および施工面での検討ならびに補修への応用面での検討をさらに進めたもので、鉛直力に強く抵抗することがなく、かつ、施工が容易な鋼床版Uリブの密閉ダイヤフラム、その設置方法、および該設置方法を用いての既設の鋼床版の補修方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る密閉ダイヤフラムは、デッキプレートと、該デッキプレートの下面に配設されたUリブと、該Uリブの内部に設置される密閉ダイヤフラムと、該Uリブ側面を外部から拘束する横リブと、を有してなる鋼床版の密閉ダイヤフラム構造であって、前記密閉ダイヤフラムの設置位置近傍において、前記Uリブに、該Uリブ断面中央から偏心した位置に垂直下向きの力が作用した場合に、該密閉ダイヤフラムの設置位置近傍の該Uリブが断面形状を保持したままねじり変形しないように、該密閉ダイヤフラムの少なくとも一部を、熱硬化型樹脂および波長350nmを超えて900nm以下の光で硬化する光硬化型樹脂の少なくともいずれか一方で構成したことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る密閉ダイヤフラムの設置方法の第1の態様は、デッキプレートと、該デッキプレートの下面に配設されたUリブと、該Uリブ側面を外部から拘束する横リブと、を有してなる鋼床版におけるUリブの内部に設置される密閉ダイヤフラムの設置方法であって、該密閉ダイヤフラムの少なくとも一部は、熱硬化型樹脂および光硬化型樹脂の少なくともいずれか一方で構成されており、前記Uリブ内部の設置位置に該密閉ダイヤフラムを取り付ける際には前記樹脂を硬化させておらず、Uリブ内部の設置位置に該密閉ダイヤフラムを取り付けた後に加熱および光照射の少なくともいずれか一方を行うことにより、前記樹脂を硬化させることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る密閉ダイヤフラムの設置方法の第2の態様は、デッキプレートと、該デッキプレートの下面に配設されたUリブと、該Uリブ側面を外部から拘束する横リブと、を有してなる鋼床版におけるUリブの内部に設置される密閉ダイヤフラムの設置方法であって、該密閉ダイヤフラムの少なくとも一部は、熱硬化型樹脂および光硬化型樹脂の少なくともいずれか一方で構成されており、前記Uリブ内部の設置位置に該密閉ダイヤフラムを取り付ける際には前記樹脂を硬化させておらず、Uリブ内部の設置位置に該密閉ダイヤフラムを取り付けた後に、太陽光およびそれに伴う熱の少なくともいずれか一方を受けさせることにより、前記樹脂を硬化させることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る密閉ダイヤフラムの設置方法の第3の態様は、デッキプレートと、該デッキプレートの下面に配設されたUリブと、該Uリブ側面を外部から拘束する横リブと、を有してなる鋼床版におけるUリブの内部に設置される密閉ダイヤフラムの設置方法であって、該密閉ダイヤフラムの少なくとも一部は、熱硬化型樹脂で構成されており、前記Uリブ内部の設置位置に、前記熱硬化型樹脂を硬化させないまま前記密閉ダイヤフラムを取り付けた後、該Uリブを前記デッキプレート下面に取り付けて前記鋼床版とし、該鋼床版上面へのアスファルト施工の際の熱により前記熱硬化型樹脂を硬化させることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る既設の鋼床版の補修方法は、デッキプレートと、該デッキプレートの下面に配設されたUリブと、該Uリブの内部に設置された鋼製の密閉ダイヤフラムと、該Uリブ側面を外部から拘束する横リブと、を有してなる既設の鋼床版の補修方法であって、前記鋼製の密閉ダイヤフラムを撤去し、少なくとも一部が、熱硬化型樹脂および光硬化型樹脂の少なくともいずれか一方で構成されている密閉ダイヤフラムを新たに設置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る密閉ダイヤフラムは、少なくとも一部が、熱硬化型樹脂および波長350nmを超えて900nm以下の光で硬化する光硬化型樹脂の少なくともいずれか一方で構成されている。350nm以下の光線を照射せずに硬化させることができるので、照射設備を比較的安価で小型化できる。
【0018】
本発明に係る密閉ダイヤフラムの設置方法、および該設置方法を用いての既設の鋼床版の補修方法によれば、設置する密閉ダイヤフラムは、熱硬化型樹脂および光硬化型樹脂の少なくともいずれか一方で構成されているので、鉛直力に強く抵抗することはない。このため、横リブ30上のUリブ20のウェブのオイルキャニング変形(Uリブ側壁の歪み)が誘発されることを抑制し、Uリブウェブの局部曲げにより、スカラップ32の回し溶接等に応力集中が発生することを抑制する。
【0019】
また、本発明に係る密閉ダイヤフラムの設置方法、および該設置方法を用いての既設の鋼床版の補修方法によれば、Uリブ内部の設置位置に密閉ダイヤフラムを取り付ける際には、該密閉ダイヤフラムが有する樹脂を硬化させておらず、Uリブ内部の設置位置に取り付けた後に加熱および光照射の少なくともいずれか一方を行うことにより該密閉ダイヤフラムが有する樹脂を硬化させるので、該密閉ダイヤフラムの設置は容易である。また、溶接を実施せずに設置可能となり、溶接熱による変形が発生せず、疲労上の弱点となることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0021】
[密閉ダイヤフラム構造に係る実施形態]
本実施形態における密閉ダイヤフラムは、少なくとも一部を、熱硬化型樹脂および波長350nmを超えて900nm以下の光で硬化する光硬化型樹脂の少なくともいずれか一方で構成している。
【0022】
光硬化型樹脂としては、波長が350nm以下の紫外線の照射を受けることにより硬化する紫外線硬化型樹脂が、さまざまな分野(建材や家具のクリア塗装や金属の防錆塗料、ドライフィルム・半導体・液晶ディスプレイ用のレジスト材、プラスチックや紙のコーティング、印刷インキや製版材料、接着剤等の分野)で幅広く利用されているが、本実施形態の密閉ダイヤフラムで用いる光硬化型樹脂は、波長350nmを超えて900nm以下の光で硬化するタイプであり、人体への安全性が高い光線(波長350nmを超えて800nm以下の光)および近赤外線(波長800nmを超えて900nm以下の光)により硬化するため、安価で取扱いが容易となる。
【0023】
[密閉ダイヤフラムの設置方法に係る実施形態]
(第1実施形態)
第1実施形態に係る設置方法に用いる密閉ダイヤフラムは、その少なくとも一部が熱硬化型樹脂および光硬化型樹脂の少なくともいずれか一方で構成されている板状体であり、デッキプレートと、該デッキプレートの下面に配設されたUリブと、該Uリブ側面を外部から拘束する横リブとを有してなる鋼床版におけるUリブの内部に設置される。
【0024】
前記熱硬化型樹脂としては、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリイミドなどを用いることができる。前記光硬化型樹脂の硬化前の状態は、光硬化モノマー及び光硬化オリゴマーの少なくともいずれか一方であり、光硬化モノマーとしては、例えばアクリレート、メタクリレート、カチオン重合ポリマー等があり、光硬化オリゴマーとしては、例えばウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート等がある。
【0025】
前記熱硬化型樹脂および光硬化型樹脂は、不織布、ガラスクロス、ロービングクロス、ガラスマット等に含浸させられており、密閉ダイヤフラムは、樹脂の硬化前でも、一定の形状を保持できるようになっている。
【0026】
前記熱硬化型樹脂および光硬化型樹脂の少なくともいずれか一方が含浸させられた不織布、ガラスクロス、ロービングクロス、ガラスマット等が硬化した後は、樹脂内に短繊維および長繊維の少なくともいずれか一方が含有された繊維強化樹脂となる。該繊維強化樹脂のヤング係数が鋼材のヤング係数(200,000N/mm2)の2分の1以下程度であれば、鉛直力が加わった際、密閉ダイヤフラムの存在によって発生する応力も半減すると考えられ、発生応力は密閉ダイヤフラムがない構造と同等となると考えられる。
【0027】
このように、第1実施形態に係る設置方法に用いる密閉ダイヤフラムは、鉛直力に強く抵抗することはない。このため、横リブ30上のUリブ20のウェブのオイルキャニング変形(Uリブ側壁の歪み)が誘発されることを抑制し、Uリブウェブの局部曲げにより、スカラップ32の回し溶接等に応力集中が発生することを抑制する。
【0028】
本実施形態においては、Uリブ内部の設置位置に前記密閉ダイヤフラムを取り付ける際には該密閉ダイヤフラムが有する樹脂を硬化させておらず、Uリブ内部の設置位置に取り付けた後に加熱および光照射の少なくともいずれか一方を行うことにより該密閉ダイヤフラムが有する樹脂を硬化させる。このため、密閉ダイヤフラムの設置が容易である。また、溶接を実施せずに設置可能なため、溶接熱による変形が発生せず、疲労上の弱点となることもない。
【0029】
実際の取り付け作業は、図5(A)〜(C)に示すように、以下のようにして行う。
【0030】
(1)取り付け位置の確認を行う。そして、その取り付け位置をアセトンを含浸させた布等で拭き、脱脂・洗浄を行う。
【0031】
(2)Uリブ20の断面形状に合わせた硬化前の前記密閉ダイヤフラム22を取り付け位置に設置する(図5(A)参照)。設置に際しては、テープなどで仮固定をする。
【0032】
(3)前記熱硬化型樹脂および光硬化型樹脂の少なくともいずれか一方が含浸させられた不織布、ガラスクロス、ロービングクロス、ガラスマット等を5〜10cm程度のテープ状に切断して、樹脂含浸テープ24を作製する。仮固定用のテープを外しながら、設置した前記密閉ダイヤフラム22の周囲に、作製した樹脂含浸テープ24を貼り付ける(図5(B)参照)。この時、できるだけ空気が入らないように貼り付けを行う。隙間ができる場合、作製した樹脂含浸テープ24を重ねて貼り付けて隙間を埋める。
【0033】
(4)隙間がないことを確認し、加熱装置または光照射装置26により硬化作業を行う(図5(C)参照)。例えば、光照射装置により硬化作業を行う場合、光源から密閉ダイヤフラム22までの距離を10cm程度にし、光照射時間を40分程度にする。ただし、この数値は機器によって異なり、おおよその目安である。
【0034】
(5)硬化後、隙間が無いかどうか確かめ、隙間を発見した場合は、コーキング材などで隙間を埋める。
【0035】
(第2実施形態)
第1実施形態では、樹脂の硬化を、加熱装置または光照射装置26により行ったが、第2実施形態では、図6に示すように、太陽光およびそれに伴う熱により行う。具体的には、樹脂を硬化させる前の密閉ダイヤフラム22を、現場で溶接する前のUリブ鋼床版に取り付け、太陽光およびそれに伴う熱が当たる屋外に仮置きする。この際、図6に示すように、太陽光側にUリブ20の下面を向けたほうが、密閉ダイヤフラム22に太陽光およびそれに伴う熱が照射されやすく好ましい。
【0036】
また、太陽光に代わる光源を有するヤード内に仮置きして、樹脂を硬化させてもよい。この場合、夜間においても樹脂の硬化を進行させることができる。
【0037】
太陽光およびそれに伴う熱により硬化させる場合には、硬化のための加熱装置および光照射装置を用いる必要がなく、コスト的に有利である。ただし、硬化のための時間が長くなる。
【0038】
(第3実施形態)
第3実施形態では、樹脂の硬化を、図7に示すように、アスファルト舗装27を施工する時の放射熱によって行う。アスファルト舗装27を施工する時の放射熱により樹脂を硬化させるので、第3実施形態において用いる密閉ダイヤフラム22が有する樹脂は熱硬化型樹脂である。
【0039】
具体的には、アスファルト舗装27を施工する前に、第1実施形態における工程(1)〜(3)と同様にして、Uリブ20内の所定の位置に樹脂を硬化させる前の密閉ダイヤフラム22を取り付ける。その後、アスファルト舗装27の施工を行い、その際の放射熱により樹脂を硬化させる。そのため、第1実施形態における工程(4)が不要となるので、コスト的に有利であり、かつ、施工工期を短くできる。ただし、施工後のアスファルト舗装27が常温になった段階で、密閉ダイヤフラム22が有する樹脂の硬化状態を確認する必要がある。硬化が不十分な場合は、加熱装置により、追加的な加熱を行う。
【0040】
[密閉ダイヤフラムの補修方法に係る実施形態]
本実施形態においては、既存の鋼製の密閉ダイヤフラム22Sを除去し、その代わりに、少なくとも一部が、熱硬化型樹脂および光硬化型樹脂の少なくともいずれか一方で構成されている板状体の密閉ダイヤフラム22を設置する。
【0041】
実際の補修作業は、図8(A)〜(C)に示すように、以下のようにして行う。
【0042】
(1)鋼製の密閉ダイヤフラム22Sが設置された既存の鋼床版構造(図8(A)参照)において、ハンドホール20Hなどからガス切断装置28などの鋼材切断装置をUリブ20内に挿入して使用し、既存の鋼製密閉ダイヤフラム22Sを除去する(図8(B)参照)。完全な除去が望ましいが、難しいようであれば、周辺部を残し、中心部のみを除去してもよい。
【0043】
(2)その後、所定の位置(例えば、既存の鋼製密閉ダイヤフラムから10cm程度ハンドホール側の位置)に、密閉ダイヤフラム22を、前述した設置方法に係る実施形態のようにして設置して(図8(C)参照)、補修完了となる(図8(D)参照)。この時、必ずしも既存の位置に設置する必要はない。むしろ、なるべくハンドホール20H等の作業用空孔部から近い位置に設置することにより、その後に密閉ダイヤフラム22の健全度を調査する際に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】鋼床版の一部の形状を示す斜視図
【図2】同じく密閉ダイヤフラムの配設状態を示す斜視図
【図3】従来の問題点を説明するための、密閉ダイヤフラムに作用する偏心曲げを示す斜視図
【図4】同じくオイルキャニング変形を示す断面図
【図5】本発明に係る設置方法の第1実施形態の手順を模式的に示す斜視図
【図6】本発明に係る設置方法の第2実施形態において、樹脂の硬化を行っている状況を模式的に示す斜視図
【図7】本発明に係る設置方法の第3実施形態において、樹脂の硬化を行っている状況を模式的に示す斜視図
【図8】本発明に係る補修方法の実施形態の手順を模式的に示す斜視図
【符号の説明】
【0045】
10…鋼床版
12…継手部
14…デッキプレート
20…Uリブ(縦リブ)
20H…ハンドホール
22…密閉ダイヤフラム
22S…鋼製密閉ダイヤフラム
24…樹脂含浸テープ
26…加熱装置または光照射装置
27…アスファルト舗装
28…ガス切断装置
30…横リブ
32…スカラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デッキプレートと、該デッキプレートの下面に配設されたUリブと、該Uリブの内部に設置される密閉ダイヤフラムと、該Uリブ側面を外部から拘束する横リブと、を有してなる鋼床版の密閉ダイヤフラム構造であって、
前記密閉ダイヤフラムの設置位置近傍において、前記Uリブに、該Uリブ断面中央から偏心した位置に垂直下向きの力が作用した場合に、該密閉ダイヤフラムの設置位置近傍の該Uリブが断面形状を保持したままねじり変形しないように、該密閉ダイヤフラムの少なくとも一部を、熱硬化型樹脂および波長350nmを超えて900nm以下の光で硬化する光硬化型樹脂の少なくともいずれか一方で構成したことを特徴とする密閉ダイヤフラム構造。
【請求項2】
デッキプレートと、該デッキプレートの下面に配設されたUリブと、該Uリブ側面を外部から拘束する横リブと、を有してなる鋼床版におけるUリブの内部に設置される密閉ダイヤフラムの設置方法であって、
該密閉ダイヤフラムの少なくとも一部は、熱硬化型樹脂および光硬化型樹脂の少なくともいずれか一方で構成されており、
前記Uリブ内部の設置位置に該密閉ダイヤフラムを取り付ける際には前記樹脂を硬化させておらず、Uリブ内部の設置位置に該密閉ダイヤフラムを取り付けた後に加熱および光照射の少なくともいずれか一方を行うことにより、前記樹脂を硬化させることを特徴とする密閉ダイヤフラムの設置方法。
【請求項3】
デッキプレートと、該デッキプレートの下面に配設されたUリブと、該Uリブ側面を外部から拘束する横リブと、を有してなる鋼床版におけるUリブの内部に設置される密閉ダイヤフラムの設置方法であって、
該密閉ダイヤフラムの少なくとも一部は、熱硬化型樹脂および光硬化型樹脂の少なくともいずれか一方で構成されており、
前記Uリブ内部の設置位置に該密閉ダイヤフラムを取り付ける際には前記樹脂を硬化させておらず、Uリブ内部の設置位置に該密閉ダイヤフラムを取り付けた後に、太陽光およびそれに伴う熱の少なくともいずれか一方を受けさせることにより、前記樹脂を硬化させることを特徴とする密閉ダイヤフラムの設置方法。
【請求項4】
デッキプレートと、該デッキプレートの下面に配設されたUリブと、該Uリブ側面を外部から拘束する横リブと、を有してなる鋼床版におけるUリブの内部に設置される密閉ダイヤフラムの設置方法であって、
該密閉ダイヤフラムの少なくとも一部は、熱硬化型樹脂で構成されており、
前記Uリブ内部の設置位置に、前記熱硬化型樹脂を硬化させないまま前記密閉ダイヤフラムを取り付けた後、該Uリブを前記デッキプレート下面に取り付けて前記鋼床版とし、該鋼床版上面へのアスファルト施工の際の熱により前記熱硬化型樹脂を硬化させることを特徴とする密閉ダイヤフラムの設置方法。
【請求項5】
デッキプレートと、該デッキプレートの下面に配設されたUリブと、該Uリブの内部に設置された鋼製の密閉ダイヤフラムと、該Uリブ側面を外部から拘束する横リブと、を有してなる既設の鋼床版の補修方法であって、
前記鋼製の密閉ダイヤフラムを撤去し、少なくとも一部が、熱硬化型樹脂および光硬化型樹脂の少なくともいずれか一方で構成されている密閉ダイヤフラムを新たに設置することを特徴とする既設の鋼床版の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−297706(P2008−297706A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141809(P2007−141809)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【出願人】(592134125)阿南電機株式会社 (7)
【Fターム(参考)】