説明

鋼矢板の打設方法

【課題】後続鋼矢板の継手部を先行鋼矢板の継手部に嵌合させつつ、後続鋼矢板を地盤に打設する際の後続鋼矢板の打設抵抗を低減し、かつ打設作業の煩雑化及び打設コストの増加を抑制する。
【解決手段】鋼矢板の打設方法では、先行鋼矢板10Pを地盤26に打設した後に、後続鋼矢板10Fの継手部16を先行鋼矢板10Pの継手部16に嵌合すると共に、後続鋼矢板10Fにおける継手部16の内面側に形成されたポケット溝内に水等の液体Fを供給しつつ、後続鋼矢板10Fを地盤26に打設する。これにより、後続鋼矢板10Fのポケット溝の下端部から流出する液体Fの圧力により先行鋼矢板10Pの継手部16内に浸入した土砂等を継手部16内から排出すると共に、後続鋼矢板10Fの継手部16内に土砂等が浸入することを抑止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、他の鋼矢板の継手部と連結可能とされた継手部及び、この継手部の内面側に形成されたポケット溝をそれぞれ有する複数の鋼矢板を、順次地盤に打設する際に用いられる鋼矢板の打設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼矢板は、その幅方向の両端側それぞれに設けられた継手部を他の鋼矢板(先行鋼矢板)の継手部に嵌合させ、先行鋼矢板に連結することにより、高い耐久性を有する壁体を形成できる。このような複数枚の鋼矢板からなる壁体は、例えば、汚染水等の拡散を防止する遮水壁や、各種廃棄物の処分場を外部の地盤と分離するための分離壁等として用いられる。このような鋼矢板を地盤へ打設する際には、鋼矢板の継手部の内側に土砂等の地盤構成物が浸入することがある。この継手部内の地盤構成物は、既に地盤に打設された鋼矢板(先行鋼帯)の継手部に後続する鋼矢板(後続鋼矢板)の継手部を嵌合させつつ、この後続鋼矢板を地盤に打設する際の抵抗(後続鋼矢板の打設抵抗)を増大させる要因になる。このような打設抵抗の増加は、鋼矢板の打設速度を低下させ、又は打設完了前に鋼矢板が打設不能になって鋼矢板の打設作業を最初からやり直す必要が生じるため、工事遅延の原因になるおそれがある。
【0003】
上記問題を解決するための従来技術としては、例えば、特許文献1及び特許文献2にそれぞれ記載されたものが知られている。特許文献1には、鋼矢板の継手部にウレタン系の発泡性樹脂、発泡性樹脂及び水防膨潤性エマルジョンを充填硬化させ、あるいは鋼矢板の継手部の内面側に水防膨潤性エマルジョンを塗布後、ウレタン系の発泡性樹脂を充填硬化することにより、これらの充填材により継手部に土砂等が浸入することを防止する方法が開示されている。
また特許文献2には、後続鋼矢板の継手部を先行鋼矢板の継手部と嵌合させつつ、後続鋼矢板を地盤に打設する際に、後続鋼矢板における継手部の先端にジェットノズルを取り付け、このジェットノズルから継手部内へ高圧水を噴出しながら後続鋼矢板を打設する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平1−207520号公報
【特許文献2】特許2987141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、鋼矢板(先行鋼矢板)の打設時に、継手部内への土砂の浸入を阻止するためには、継手部内から充填材が脱落することを防止する必要がある。そのためには、充填材の強度をある程度大きくする必要があるが、充填材の強度が過度に大きくなると、後続鋼矢板を地盤に打設する際に、後続鋼矢板の継手部により充填材を圧縮又は剪断し、あるいは継手部内から排除するために必要となる荷重が過大になり、継手部の内側寸法、充填材の種類等の打設条件の組合せが不適切な場合には、却って後続鋼矢板の打設抵抗が大きくなってしまうおそれもある。
【0005】
また特許文献2に記載された方法では、先行鋼矢板の継手部内に高圧水を噴射しつつ、後続鋼矢板を地盤に打設することができるので、後続鋼矢板の打設抵抗を低減できるが、地盤中でジェットノズルを継手部の先端と共に移動(降下)させるために、地表から鋼矢板と共にロッド部材を地盤に打込み、このロッド部材を介してジェットノズルに打設力を伝達する作業が必要になり、また鋼矢板の打設完了後には、ジェットノズル自体が地盤中に埋設された状態になるので、その回収は困難である。このため、鋼矢板を打設するための作業が煩雑になると共に、鋼矢板を地盤に打設するためのコストも増加する。
本発明の目的は、上記事実を考慮し、後続鋼矢板の継手部を先行鋼矢板の継手部に嵌合させつつ、後続鋼矢板を地盤に打設する際の後続鋼矢板の打設抵抗を効果的に低減でき、かつ打設作業の煩雑化及び打設コストの増加を抑制できる鋼矢板の打設方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る鋼矢板の打設方法は、細長いプレート状に形成されたウェブ部と、前記ウェブ部の側端部から所定の延出方向へ延出するフランジ部と、前記フランジ部の先端部に形成されたラルゼン型の継手部と、前記継手部の内面側に前記ウェブ部の長手方向に沿って延在するように形成されたポケット溝と、を有する複数枚の鋼矢板を順次地盤に打設する際に用いられる鋼矢板の打設方法であって、先行鋼矢板を地盤に打設する先行打設工程と、前記先行打設工程の完了後に、後続鋼矢板の継手部を先行鋼矢板の継手部に嵌合すると共に、後続鋼矢板のポケット溝内に液体を供給しつつ、後続鋼矢板を地盤に打設する後続打設工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
上記請求項1に係る鋼矢板の打設方法では、後続打設工程にて、先行鋼矢板を地盤に打設する先行打設工程の完了後に、後続鋼矢板の継手部を先行鋼矢板の継手部に嵌合すると共に、後続鋼矢板における継手部の内面側に形成されたポケット溝内に液体を供給しつつ、後続鋼矢板を地盤に打設することにより、後続鋼矢板を地盤に打設すると同時に、後続鋼矢板のポケット溝を通して先行鋼矢板の継手部内に液体を流入させると共に、後続鋼矢板のポケット溝内の液体を、先行鋼矢板の継手部と後続鋼矢板の継手部との隙間内に流入させ、この隙間を通して液体を地盤中へ排出できる。
【0008】
この結果、後続鋼矢板を地盤に打設すると同時に、後続鋼矢板のポケット溝の先端部から流出する液体の圧力により先行鋼矢板の継手部内に浸入した土砂等の地盤構成物を継手部内から排出すると共に、後続鋼矢板の継手部内に地盤構成物が浸入することを抑止できるので、後続鋼矢板を地盤に打設する際に地盤構成物との摩擦により後続鋼矢板の打設抵抗が増加することを効果的に防止できる。このとき、例えば、液体として潤滑性を有するものを用いれば、後続鋼矢板の継手部と先行鋼矢板の継手部との間の摩擦抵抗を低減でき、又は継手部間の隙間から地盤に浸透した液体により後続鋼矢板の地盤との摩擦抵抗も抑制できる。
【0009】
さらに請求項1に係る鋼矢板の打設方法は、従来の鋼矢板の打設方法と比較し、後続鋼矢板を地盤に打設する際に、この後続鋼矢板のポケット溝に液体を供給する作業を追加しただけのものなので、後続鋼矢板を打設する作業が煩雑になることを抑制でき、また新たな消耗品が発生することもないので、打設コストの増加も効果的に抑制できる。
また請求項2に係る鋼矢板の打設方法は、請求項1記載の鋼矢板の打設方法において、前記後続打設工程の完了後に、鋼矢板のポケット溝内に打設方向後端側から液体を供給して、該ポケット溝内の液体を、先行鋼矢板の継手部と後続鋼矢板の継手部との隙間内を通して地盤側へ排出させる後給液工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
上記請求項2に係る鋼矢板の打設方法では、後給液工程にて、後続打設工程の完了後に、鋼矢板のポケット溝内に液体を供給して、このポケット溝内の液体を、互いに嵌合した継手部間の隙間を通して地盤側へ排出させることにより、継手部間の隙間内を液体により洗浄して地盤構成物外側(地盤側)へ排出できるので、先行鋼矢板の継手部と後続鋼矢板の継手部との隙間の目詰まりを効果的に防止することができる。
【0011】
この結果、例えば、打設された鋼矢板付近の地盤中に地盤改良用の薬液等の液体を滲透させたい場合には、鋼矢板のポケット溝に液体を供給すれば、この液体を継手部間の隙間を通して地盤の深層部から表層部までの広い範囲に効率的に滲透させることができる。
また請求項3に係る鋼矢板の打設方法は、請求項1又は2記載の鋼矢板の打設方法において、前記後続打設工程及び/又は前記後給液工程では、後続鋼矢板のポケット溝内に加圧状態となった液体を流入させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明に係る鋼矢板の打設方法によれば、後続鋼矢板の継手部を先行鋼矢板の継手部に嵌合させつつ、後続鋼矢板を地盤に打設する際の後続鋼矢板の打設抵抗を効果的に低減でき、かつ打設作業の煩雑化及び打設コストの増加を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る鋼矢板の打設方法について図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1には本発明の第1実施形態に係る鋼矢板の打設方法が適用される鋼矢板が示され、図2には図1に示される鋼矢板の継手部が拡大されて示されている。鋼矢板10は、図1に示されるように、全体として一方向へ細長いプレート状に形成されており、略U字状の断面形状を有している。鋼矢板10には、幅方向(矢印W方向)中央部に長手方向(図1(B)の矢印L方向)に沿って細長く、一定の幅を有する平板状のウェブ部12が全長に亘って形成されると共に、このウェブ部12における幅方向一端部及び他端部からそれぞれ斜め方向へ屈曲されたフランジ部14が形成されている。一対のフランジ部14は、それぞれ幅方向Wに沿って外側へ広がるテーパ状に形成されており、ウェブ部12の幅方向中心に対して互いに対称となる形状を有している。
【0014】
図1(A)の断面図に示されるように、フランジ部14の先端部には、幅方向Wに沿った断面形状が略フック状となったラルゼン型の継手部16が形成されている。この継手部16には、フランジ部14の先端部から幅方向Wに沿って外側へ突出する底板部17が形成されると共に、この底板部17の先端部から鋼矢板10の厚さ方向(矢印T方向)に沿ってウェブ部12側へ突出する爪部18が一体的に形成されている。爪部18は、幅方向Wに沿って内側(フランジ部14側)へ傾斜しており、その先端側の断面形状が略楔状になっている。この爪部18の内側には略平面状の噛合面20が形成されている。図2に示されるように、継手部16には、底板部17の内側面に凹状のポケット溝22が全長に亘って形成されている。ポケット溝22は、その深さ方向が厚さ方向T(図1参照)と略一致しており、断面形状が略台形状に形成されている。
【0015】
本実施形態に係る鋼矢板10は、図3に示されるように、垂直遮水壁等の壁体24の構造部品として用いられるものである。この壁体24は、複数枚の鋼矢板10を順次、地盤26中に打込み、これらの鋼矢板10を幅方向Wに沿って略直線的に配列することにより構築されている。このとき、互いに隣接する一対の鋼矢板10は、図3(A)〜(C)の部分拡大図にそれぞれ示されるように、継手部16同士が互いに噛合うように地盤26中に打込まれており、これらの継手部16を介して互いに連結されている。
【0016】
次に、上記のように構成された鋼矢板10により壁体24を構築する方法(鋼矢板の打設方法)について説明する。図3に示されるように、鋼矢板10を地盤26に打設する際には、クローラクレーン54のクレーン56に吊り下げられたバイブロハンマ58のクランプにより鋼矢板10の上端部を把持し、バイブロハンマ58により鋼矢板10を上下方向へ振動させつつ、クレーン56によりバイブロハンマ58を所定の打込み速度で鋼矢板10と共に下降させる。これにより、鋼矢板10の自重及び振動の衝撃力により鋼矢板10が地盤26に所定の打込み速度で打込まれる。
【0017】
このとき、図4に示されるように、後続鋼矢板10Fは、その他方の継手部16が先行鋼矢板10Pの一方の継手部16に嵌合した状態とされつつ、地盤26中に打込まれて行く。これにより、先行鋼矢板10Pに後続鋼矢板10Fがそれぞれの継手部16を介して連結されて、後続鋼矢板10Fにより壁体24が幅方向Wへ延長される。
本実施形態に係る鋼矢板の打設方法では、鋼矢板10を地盤26に打設する際には、その打設作業を行うために、上述したようにクレーン56及びバイブロハンマ58が用いられると共に、図5に示されるように、給液装置60が打設作業を補助するために用いられる。給液装置60は、水、薬液等の液体Fが貯留可能とされた液体タンク62、接続ホース64を通して液体タンク62の底部付近に接続された給液ポンプ66及び、この給液ポンプ66に接続された給液ホース68を備えている。なお、本実施形態では、液体タンク62内には液体Fとして水が貯留されているものとする。
【0018】
本実施形態に係る鋼矢板の打設方法では、図4に示されるように、先行鋼矢板10Pを地盤26に打設完了した後、クレーン56により後続鋼矢板10Fの継手部16を先行鋼矢板10Pの継手部16に噛み合わせた状態にすると共に、給液ホース68の先端付近を連結金具(図示省略)により先行鋼矢板10Pの上端部付近に連結固定し、この給液ホース68の先端(開口端)を含む先端部を後続鋼矢板10Fのポケット溝22内へ挿入する。次いで、給液ポンプ66を作動させ、給液ポンプ66により液体タンク62内の液体Fを加圧状態としつつ、給液ホース68を通して後続鋼矢板10Fのポケット溝22内へ供給する。このポケット溝22内への液体Fの供給と並行し、後続鋼矢板10Fを、その上端部が先行鋼矢板10Pの上端部と略一致するまで地盤26に打込む。これにより、後続鋼矢板10Fが先行鋼矢板10Pに連結されると共に地盤26に対して固定され、後続鋼矢板10Fの地盤26に対する打設作業が完了する。
【0019】
なお、鋼矢板10を地盤26に打設する前に、好ましくは、図3に示されるように、鋼矢板10の一方の継手部16の下端(開口端)を鉄板等からなる閉塞部材50により閉塞する。この閉塞部材50は、例えば、溶接により継手部16に下端面に溶接されて先行鋼矢板10Pにおける一方の継手部16の下端を閉塞する。
この閉塞部材50は、複数枚の鋼矢板10を地盤26へ順次打設する際に先行鋼矢板10Pにおける一対の継手部16のうち、後続鋼矢板10Fの継手部16と嵌合する一方の継手部16(図3では、紙面右側の継手部16)を閉塞する。これにより、先行鋼矢板10Pの一方の継手部16の下端から継手部16内に地盤構成物26Cが侵入することを抑制でき、後続鋼矢板10F継手部16を先行鋼矢板10Pの継手部16に嵌合させつつ、後続鋼矢板10Fをより円滑に打設することが可能になる。
【0020】
上記した後続鋼矢板10Fの打設完了後、給液ホース68を先行鋼矢板10Pから取り外す。この状態から壁体24を更に延長する場合には、打設が完了して先行鋼矢板10Pから後続鋼矢板10Fになった鋼矢板10の上端部に給液ホース68を連結固定した後、後続鋼矢板10Fを地盤26に打設する作業を繰り返す。
また、本実施形態に係る鋼矢板の打設方法では、壁体24の構築完了後又は構築途中に必要に応じて後給液工程が実行される。この後給液工程では、図7に示されるように、壁体24を構成した複数枚の鋼矢板10における一方のポケット溝22に給液ホース68から分岐された分岐ホース70をそれぞれ接続する。このとき、分岐ホース70は、互いに嵌合した一対の継手部16を基準とし、後続鋼矢板10Fであった鋼矢板10のポケット溝22の上端部に接続される。
【0021】
後給液工程では、分岐ホース70をポケット溝22に接続した後、給液ポンプ66を作動させて複数本の分岐ホース70を通して複数枚の鋼矢板10における一方のポケット溝22内に加圧状態として液体F(この時点では、水)を供給する。これにより、図6に示されるように、ポケット溝22内に供給された液体Fが、互いに嵌合する一対の継手部16の隙間Gを通って地盤26側へ排出される。このとき、隙間G内に土砂等の地盤構成物26Cが浸入している場合には、この地盤構成物26Cが液体Fの圧力により継手部16の外側(地盤26中)へ排出される。
【0022】
また後給液工程では、液体Fとして水をポケット溝22内へ所要量供給した後、必要に応じて、引き続き水に代えて地盤改良用の液体Fとして薬液をポケット溝22内へ供給する。この薬液としては、例えば、地盤26中に存在する有機性有害物質の分解を促進するもの、地盤26が酸性又はアルカリ性である場合に、それを中和するためのもの等が用いられる。これにより、図7に示されるように、壁体24付近の地盤26における深層部から表層部までの広い範囲に液体F(薬液)を効率的に滲透させることができる。
【0023】
なお、本実施形態の後給液工程では、分岐ホース70を、互いに嵌合した一対の継手部16を基準とし、後続鋼矢板10Fであった鋼矢板10のポケット溝22に接続したが、分岐ホース70を、互いに嵌合した一対の継手部16を基準とし、先行鋼矢板10Pであった鋼矢板10のポケット溝22に接続しても、また分岐ホース70を、互いに嵌合した一対の継手部16のポケット溝22の双方にそれぞれ接続しても良い。
【0024】
また、本実施形態の後給液工程では、作業を効率的に行うために、給液ホース68の先端部に複数本の分岐ホース70を接続し、これらの分岐ホース70により複数枚の鋼矢板10に同時に液体Fを供給したが、無論、1本の給液ホース68を1枚の鋼矢板10のポケット溝22に接続し、液体Fを供給する作業を複数回繰り返すことにより、複数の鋼矢板10のポケット溝22に液体Fを供給しても良い。
【0025】
以上説明した本実施形態に係る鋼矢板の打設方法では、後続打設工程にて、先行鋼矢板10Pを地盤26に打設する先行打設工程の完了後に、後続鋼矢板10Fの継手部16を先行鋼矢板10Pの継手部16に嵌合すると共に、後続鋼矢板10Fにおける継手部16の内面側に形成されたポケット溝22内に水等の液体Fを供給しつつ、後続鋼矢板10Fを地盤26に打設することにより、後続鋼矢板10Fを地盤26に打設すると同時に、後続鋼矢板10Fのポケット溝22を通して先行鋼矢板10Pの継手部16内に液体Fを流入させると共に、後続鋼矢板10Fのポケット溝22内の液体Fを、先行鋼矢板10Pの継手部16と後続鋼矢板10Fの継手部16との隙間G内に流入させ、この隙間Gを通して液体Fを地盤26中へ排出できる。
【0026】
この結果、後続鋼矢板10Fを地盤26に打設すると同時に、後続鋼矢板10Fのポケット溝22の先端部(下端部)から流出する液体Fの圧力により先行鋼矢板10Pの継手部16内に浸入した土砂等の地盤構成物26Cを継手部16内から排出すると共に、後続鋼矢板10Fの継手部16内に地盤構成物26Cが浸入することを抑止できるので、後続鋼矢板10Fを地盤26に打設する際に地盤構成物26Cとの摩擦により後続鋼矢板10Fの打設抵抗が増加することを効果的に防止できる。
【0027】
このとき、例えば、水に潤滑用添加剤を拡散又は溶解させた水溶性潤滑剤を用いれば、後続鋼矢板10Fの継手部16と先行鋼矢板10Pの継手部16との間の摩擦抵抗を低減できると共に、一対の継手部16間の隙間Gから地盤26に浸透した水溶性潤滑剤により後続鋼矢板10Fの地盤26との摩擦抵抗も抑制できる。また、ポケット溝22に供給する液体Fについては、粘性が高いほうが地盤構成物26Cに対して物理的に高い洗浄作用が得られるので、水に粘性増加用の添加剤を溶解させたものや、水よりも粘性が高い液体Fを用いても良い。また給液ホース68からポケット溝22内へ供給される液体Fは、その圧力が高く、かつ流量が高いほど地盤構成物26Cに対する洗浄作用が増大する。
【0028】
さらに本実施形態に係る鋼矢板の打設方法は、従来の鋼矢板の打設方法と比較し、後続鋼矢板10Fを地盤26に打設する際に、この後続鋼矢板10Fのポケット溝22に水等の液体Fを供給する作業を追加しただけのものなので、後続鋼矢板10Fを打設する作業が煩雑になることを抑制でき、また新たな消耗品が発生することもないので、打設コストの増加も効果的に抑制できる。
【0029】
(第2実施形態)
図8には本発明の第2実施形態に係る鋼矢板の打設方法により構築された壁体及び、その鋼矢板の打設方法に用いられる給液装置が示されている。なお、本発明の第2実施形態に係る給液装置80にて、第1実施形態に係る給液装置60と同一の部分には同一符号を付して説明を省略する。また、第2実施形態に係る鋼矢板の打設方法により構築された壁体及び、この壁体を構成した鋼矢板については、第1実施形態に係る鋼矢板の打設方法により構築された壁体24及び、この壁体24を構成した鋼矢板10とそれぞれ同一のものである。
【0030】
本実施形態に係る鋼矢板の打設方法では、鋼矢板10を地盤26に打設する際には、その打設作業を行うために、クレーン56及びバイブロハンマ58(図3参照)が用いられると共に、図8に示されるように、給液装置80が打設作業を補助するために用いられる。給液装置80が第1実施形態に係る給液装置60と異なる点は、給液ポンプ66に接続された給液ホース82が後続鋼矢板10Fのポケット溝22に接続される点のみである。
すなわち、給液装置80では、給液ホース82が後続鋼矢板10Fにおける継手部16の上端(開口端)からポケット溝22内へ挿入されており、この状態で給液ホース82が後続鋼矢板10Fの上端部に連結固定されている。
【0031】
本実施形態に係る鋼矢板の打設方法でも、第1実施形態に係る鋼矢板の打設方法と同様に、先行鋼矢板10Pを地盤26に打設完了した後、後続鋼矢板10Fの継手部16を先行鋼矢板10Pの継手部16に噛み合わせた状態にすると共に、給液ポンプ66を作動させ、給液ポンプ66により液体タンク62内の水を加圧状態としつつ、給液ホース82を通して後続鋼矢板10Fのポケット溝22内へ供給する。このポケット溝22内への液体Fの供給と並行し、後続鋼矢板10Fを、その上端部が先行鋼矢板10Pの上端部と略一致するまで地盤26に打込む。これにより、後続鋼矢板10Fが先行鋼矢板10Pに連結されると共に地盤26に対して固定され、後続鋼矢板10Fの地盤26に対する打設作業が完了する。
【0032】
上記した後続鋼矢板10Fの打設完了後、給液ホース82を後続鋼矢板10Fから取り外す。この状態から壁体24を更に延長する場合には、打設が完了して後続鋼矢板10Fから先行鋼矢板10Pになった鋼矢板10から給液ホース82を取外し、この給液ホース82を次の後続鋼矢板10Fに取り付けた後に、後続鋼矢板10Fを地盤26に打設する作業を繰り返す。
また、本実施形態に係る鋼矢板の打設方法でも、第1実施形態に係る鋼矢板の打設方法と同様に、壁体24の構築完了後又は構築途中に必要に応じて後給液工程が実行される。この後給液工程は、第1実施形態に係る鋼矢板の打設方法の場合と同様の手順で行われ、同一の作用効果が得られるものであるので、ここでは説明を省略する。
【0033】
以上説明した本実施形態に係る鋼矢板の打設方法でも、第1実施形態に係る鋼矢板の打設方法と基本的に同一の作用及び効果が得られる。但し、本実施形態に係る鋼矢板の打設方法では、給液ホース82をポケット溝22の下端部付近まで挿入しておくことが可能になるので、このように給液ホース82をポケット溝22の下端部付近まで挿入しつつ、後続鋼矢板10Fを地盤26に打設するようにすれば、先行鋼矢板10Pの継手部16内における後続鋼矢板10F直下に存在する地盤構成物に、給液ホース82の先端開口を十分に近接させつつ、そこから加圧状態の液体Fを噴射できるので、所謂、ウォータジェット効果により先行鋼矢板10P内の地盤構成物26Cを効率的に排除できる。
また、後続鋼矢板10Fの打設完了後に、給液ホース82を後続鋼矢板10Fのポケット溝22から、十分に低い速度で引き抜いていくことにより、後続鋼矢板10Fの継手部16内及び隙間Gにそれぞれ浸入した地盤構成物26Cを加圧状態の液体Fにより効率的に排出できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態に係る鋼矢板の打設方法に用いられる鋼矢板の構成を示す幅方向に沿った断面図及び斜視図である。
【図2】図1に示される鋼矢板における継手部の構成を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る鋼矢板の打設方法により構築された壁体及び、この壁体の構築に用いられるクレーン及びバイブロハンマを模式図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る鋼矢板の打設方法に用いられる給液ホース及び、互いに嵌合した一対の継手部の構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る鋼矢板の打設方法に用いられる給液装置及び、その鋼矢板の打設方法により構築された壁体の構成を示す斜視図である。
【図6】図4に示される給液ホース及び、互いに嵌合した一対の継手部の断面図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る鋼矢板の打設方法の後給液工程に用いられる給液装置及び、その鋼矢板の打設方法により構築された壁体の構成を示す斜視図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る鋼矢板の打設方法により構築された壁体及び、その鋼矢板の打設方法に用いられる給液装置の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
10 鋼矢板
10F 後続鋼矢板
10P 先行鋼矢板
12 ウェブ部
14 フランジ部
16 継手部
17 底板部
18 爪部
20 噛合面
22 ポケット溝
24 壁体
26 地盤
26C 地盤構成物
50 閉塞部材
54 クローラクレーン
56 クレーン
58 バイブロハンマ
60 給液装置
62 液体タンク
64 接続ホース
66 給液ポンプ
68 給液ホース
70 分岐ホース
80 給液装置
82 給液ホース
F 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長いプレート状に形成されたウェブ部と、前記ウェブ部の側端部から所定の延出方向へ延出するフランジ部と、前記フランジ部の先端部に形成されたラルゼン型の継手部と、前記継手部の内面側に前記ウェブ部の長手方向に沿って延在するように形成されたポケット溝と、を有する複数枚の鋼矢板を順次地盤に打設する際に用いられる鋼矢板の打設方法であって、
先行鋼矢板を地盤に打設する先行打設工程と、
前記先行打設工程の完了後に、後続鋼矢板の継手部を先行鋼矢板の継手部に嵌合すると共に、後続鋼矢板のポケット溝内に液体を供給しつつ、後続鋼矢板を地盤に打設する後続打設工程と、
を有することを特徴とする鋼矢板の打設方法。
【請求項2】
前記後続打設工程の完了後に、鋼矢板のポケット溝内に打設方向後端側から液体を供給して、該ポケット溝内の液体を、先行鋼矢板の継手部と後続鋼矢板の継手部との隙間内を通して地盤側へ排出させる後給液工程と、
を有することを特徴とする請求項1記載の鋼矢板の打設方法。
【請求項3】
前記後続打設工程及び/又は前記後給液工程では、後続鋼矢板のポケット溝内に加圧状態となった液体を流入させることを特徴とする請求項1又は2記載の鋼矢板の打設方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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