説明

鋼管の曲げ加工装置及び鋼管の曲げ加工方法

【課題】、鋼管をその軸線方向に沿って圧縮して鋼管を曲げる構成において、構成の小型化を図る。
【解決手段】ジャッキ22を繰り出すと共に、ジャッキ21で引張ることにより、前部押圧板15及び後部押圧板16で把持された鋼管1の環状加熱部2には、軸圧縮力が作用する。これと共に、押しローラ12が鋼管1を押圧することにより、鋼管1の環状加熱部2にせん断力が作用する。このように、軸圧縮力とせん断力とが作用するので、鋼管1が円弧状に曲がる。鋼管1の環状加熱部2には、軸圧縮力とせん断力が同時に作用するので、圧縮力のみによる曲げ加工に比べて、小さな軸圧縮荷重で曲げることができる。そのため、ジャッキ22および21とチェーン20を小さくでき、装置の小型化が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管の曲げ加工装置及び鋼管の曲げ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管の曲げ加工方法としては、例えば、押しロールを用いて鋼管を曲げる「押しロール曲げ」と、軸圧縮力を利用して鋼管を曲げる「軸圧縮曲げ」とがある。
【0003】
「押しロール曲げ」の加工方法が、例えば、特許文献1、2、3、4に開示され、「軸圧縮曲げ」の加工方法が、例えば、特許文献5、6、7に開示されている。
【0004】
まず、「押しロール曲げ」の加工方法の一例として、特許文献3の加工方法について説明する。特許文献3の加工方法では、まず、送り機構部Aにより送り出されるパイプ1を加熱コイル6が局部的に加熱すると共に、押曲げローラ10がパイプ1にその側面から押圧力を加える(特許文献3の図1参照)。これにより局部的な加熱部位にある角度で曲がりが形成される。そしてこれら一連の操作を、Xテーブル8とYテーブル9の移動の組み合わせにより曲げローラ10を所定軌跡で移動させつつ繰り返すことで所定の曲げ半径による曲げを所望の曲げ角度で形成することができる。
【0005】
このような「押しロール曲げ」の加工方法は、簡便である一方で、曲げ半径精度が劣り、曲げによる肉厚減少が発生するという問題点がある。
【0006】
次に、「軸圧縮曲げ」の加工方法の一例として、特許文献6の加工方法について説明する。
【0007】
特許文献6の加工方法では、鋼管移動装置7を駆動して鋼管1を前方に送り、油圧ジャッキ5によりチェーン4に引張り力を加えると、両者4、5の固定端は鋼管1の偏心軸線上にあるから、鋼管1は、その偏心軸線方向の圧縮力を受けながら順次後方へ移動する環状の局部加熱部tにおいて連続して曲がっていく(特許文献6の図2参照)。
【0008】
このとき、チェーン4の引張り速度を上げれば(引張り力を大きくすれば)、単時間あたりの曲げ量が大きくなるので、曲げ半径を小さくすることができる。逆に、チェーン4の引張り速度を下げれば(引張り力を小さくすれば)、単位時間あたりの曲げ量が小さくなるので、曲げ半径を大きくすることができる。また、鋼管移動装置7の移動速度を下げれば、同様の理由で曲げ半径を小さくすることができる。
【0009】
したがって、いま、チェーン4の引張り速度をV、鋼管移動装置7の移動速度をVとすると、両者の比(V/V)の値を大きくすれば、曲げ半径は小さくなり、小さくすれば、曲げ半径は大きくなる。
【0010】
このように、特許文献6の加工方法においては、鋼管1の偏心軸線上に設定した2つの力の作用点の間に引張り力を付与することにより鋼管の曲げ加工をする際に、前記引張り速度(引張り力)と、前記局部加熱部と鋼管の相対速度を調節できるから、鋼管1曲げ半径を、例えば、床に描いた曲げ加工線を基準にして制御することができる。
【0011】
また、特許文献6の加工方法においては、鋼管の曲げ加工をする際に、鋼管の偏心軸線上に設定した2つの力の作用点の間に引張り力を付与し、鋼管を長さ方向に圧縮するから、鋼管の曲げ加工による減肉を抑制することができる。
【特許文献1】特開昭47−034067号公報
【特許文献2】特開昭47−034155号公報
【特許文献3】特開平11−221626号公報
【特許文献4】特開平11−226656号公報
【特許文献5】特開2000−015350号公報
【特許文献6】特開2001−239321号公報
【特許文献7】特開2004−337960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記のような「軸圧縮曲げ」の加工方法では、「押しロール曲げ」の加工方法に比べ、曲げ半径精度が高く、曲げによる肉厚減少が抑制できるが、装置が大型化してしまう。
【0013】
本発明は、上記事実を考慮し、鋼管をその軸線方向に沿って圧縮して鋼管を曲げる構成において、構成の小型化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1に係る鋼管の曲げ加工装置は、鋼管の一部を環状に加熱する加熱手段と、前記加熱手段によって加熱された前記鋼管の環状加熱部を環状に冷却する冷却手段と、前記環状加熱部にその軸線方向に沿って圧縮力を付与する圧縮力付与手段と、前記環状加熱部にせん断力を付与するせん断力付与手段と、曲げられた鋼管が所定の形状を保つように前記鋼管を拘束する拘束手段と、前記鋼管に対して前記加熱手段及び前記冷却手段を、前記鋼管の未だ曲げられていない部位側へ前記鋼管の軸方向に相対移動させる移動手段と、
を備えている。
【0015】
この構成によれば、加熱手段により鋼管の一部が環状に加熱される。この加熱手段は、移動手段により、鋼管の未だ曲げられていない部位側へ前記鋼管の軸方向に相対移動されるので、鋼管の軸方向に沿って連続的に環状加熱部を形成することができる。
【0016】
加熱手段によって加熱された鋼管の環状加熱部は、冷却手段により環状に冷却される。
【0017】
環状加熱部には、圧縮力付与手段より、その軸線方向に沿って圧縮力を付与される。また、環状加熱部には、せん断力付与手段により鋼管の曲がる方向にせん断力を付与する。
【0018】
このように、本発明の請求項1の構成では、軸圧縮力及びせん断力が環状加熱部に作用するので、圧縮力のみにより鋼管を曲げる場合に比べて、小さな軸圧縮荷重で鋼管を曲げることができる。そのため、圧縮力付与手段の構成を小さくでき、装置構成の小型化が図れる。なお、圧縮力のみによる変形に比べて、圧縮力とせん断力とを組み合わせて変形させると、圧縮力を小さくすることができるという現象は、ミーゼスの降伏条件として知られている。
【0019】
本発明の請求項2に係る鋼管の曲げ加工装置は、請求項1の構成において、前記加熱手段は、前記鋼管がクランク形状に曲がるように、前記鋼管の軸線に対して斜めに前記鋼管の一部を環状に加熱する。
【0020】
この構成によれば、加熱手段が鋼管の軸線に対して斜めに鋼管の一部を環状に加熱して、鋼管をクランク形状に曲げることができる。
【0021】
本発明の請求項3に係る鋼管の曲げ加工方法は、鋼管の一部を環状に加熱して、前記鋼管の軸方向に沿って連続的に環状加熱部を形成する加熱工程と、前記環状加熱部を連続的に冷却する冷却工程と、前記環状加熱部にその軸線方向に圧縮力を付与すると共に、前記環状加熱部にせん断力を付与して鋼管を連続的に曲げる付与工程と、を備えている。
【0022】
この構成によれば、加熱工程において、鋼管の一部を環状に加熱して、鋼管の軸方向に沿って連続的に環状加熱部を形成する。冷却工程において、環状加熱部を連続的に冷却する。付与工程において、環状加熱部にその軸線方向に圧縮力を付与すると共に、環状加熱部にせん断力を付与して鋼管を連続的に曲げる。
【0023】
このように、本発明の請求項3の構成では、環状加熱部には、軸圧縮力及びせん断力が作用するので、圧縮力のみにより鋼管を曲げる場合に比べて、小さな軸圧縮荷重で鋼管を曲げることができる。そのため、圧縮力付与手段の構成を小さくでき、装置構成の小型化が図れる。
【0024】
本発明の請求項4に係る鋼管の曲げ加工方法は、請求項3の構成において、前記加熱工程は、前記鋼管がクランク形状に曲がるように、前記鋼管の軸線に対して斜めに前記鋼管の一部を環状に加熱する。
【0025】
この構成によれば、加熱工程において、鋼管の軸線に対して斜めに鋼管の一部を環状に加熱して、鋼管がクランク形状に曲げることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、上記構成としたので、鋼管をその軸線方向に沿って圧縮して鋼管を曲げる構成において、構成の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明に係る実施形態の一例を図面に基づき説明する。
(第1実施形態に係る鋼管の曲げ加工装置100の構成)
まず、第1実施形態に係る鋼管の曲げ加工装置100の構成を説明する。図1は、第1実施形態に係る曲げ加工装置100の構成を示す概略図である。
【0028】
第1実施形態に係る曲げ加工装置100は、鋼管支え装置7と、前部押圧板15を有する把持装置8と、後部押圧板16と、回転体としての円板17と、架台14と、チェーン20と、ジャッキ21と、ジャッキ22と、せん断力付与手段の一例としての押しローラ12と、加熱手段及び冷却手段の一例としての加熱冷却装置9と、移動手段の一例としての台車23と、レール25とを備えて構成されている。
【0029】
曲げ加工装置100が曲げようとする鋼管1は、その中間部が鋼管支え装置7で支持され、前部(一端部)が把持装置8の前部押圧板15により把持され、後部(他端部)が後部押圧板16により把持されている。鋼管1の前部側が、曲げられる曲げ開始側となる。
【0030】
後部押圧板16は架台14に固着されている。一方、把持装置8は、円板17の側面に固着されている。
【0031】
把持装置8の前部押圧板15は、円板17の半径方向に平行に配置されている。この円板17は、鋼管1を曲げる方向に回転可能に台車23に設けられている。円板17に固着された把持装置8は、円板17と一体に鋼管1を曲げる方向に回転するようになっている。
【0032】
円板17は、チェーンに適合したスプロケット加工が外周に施されており、円板17の外周に巻き掛けられたチェーン20は、円板17の外周に形成された係合歯に係合している。チェーン20の一端部は、繰り出しジャッキ22に締結されており、チェーン20の他端部は、引張りジャッキ21に締結されている。ジャッキ22および21は、その軸方向に移動可能に架台14に設けられている。
【0033】
ジャッキ22および21は、前部押圧板15及び後部押圧板16で把持される鋼管1を挟んで、半径方向の両側(図1の上方と下方)に、鋼管1の軸方向に沿って配置されている。
【0034】
ジャッキ22および21が、鋼管1にその軸線方向に沿って圧縮力を発生させるための駆動部として機能し、その駆動力を伝達する伝達部材として、チェーン20、円板17及び前部押圧板15が機能する。
【0035】
この駆動部及び伝達部材が、鋼管1の環状加熱部2にその軸線方向に沿って圧縮力を付与する圧縮力付与手段として機能する。
【0036】
鋼管1の上部には押しローラ12が置かれ、鋼管1を半径方向(図1における下方)に押すことができる。
【0037】
円板17は台車23に搭載されており、台車23は、レール25の上を車輪24により走行できる。加熱冷却装置9および押しローラ12は、例えば、台車23に設けられ、鋼管1の軸方向に走行できる構造になっている。押しローラ12と加熱冷却装置9と円板17と台車23は一体となって、走行可能とされ、その走行速度は任意に制御でき、速度Vとされる。
【0038】
また、円板17には、拘束板19を挿入する穴18があり、図2に示すように、曲がり部の外側半径部分に拘束板19を挿入することにより、鋼管1の曲がり部の変形が抑制される。図1及び図2に示す構成では、円板17が1枚で構成され、鋼管1を片持ちで支えている。なお、図3に示すように、円板17が2枚で構成され、鋼管1を両持ちで支える構成であってもよい。
【0039】
図4には、加熱冷却装置9の構成が示されている。加熱冷却装置9は、例えば、加熱しようとする鋼管1の外周に配置される高周波誘導加熱コイルを備えて構成される。
【0040】
高周波誘導加熱コイルは、コイルに電流を通ずると鋼管1には誘導電流が発生し、鋼管1の電気抵抗により鋼管1は発熱し、鋼管1の周方向に環状加熱部2が形成される。鋼管1の軸線に対して垂直方向に環状加熱部2が形成される。すなわち、鋼管1の半径方向から見たときに、鋼管1の軸線と環状加熱部2が直交する。
【0041】
鋼管1の材質により適正な加熱温度があるが、炭素鋼鋼管であれば、A3変態点以上の例えば900℃前後であり、ステンレス鋼鋼管であれば溶体化熱処理温度以上の1000℃以上である。
【0042】
加熱コイルには大電流が流れるのでコイルを冷却するための水ないしエアーが循環している。また加熱コイルには鋼管1の円周を冷却するための冷却水11を噴出する噴出孔があけられており、環状加熱部2を環状に冷却している。このようにして加熱しながら、鋼管1をVの速度で押し出すと鋼管は加熱コイルを通過しながら加熱と冷却を受けるので、鋼管1の軸方向に連続的に狭い幅の環状加熱部2を形成することができる。環状加熱部2とその両側の鋼管1は温度差が大きいので機械的性質にも大きな差があり、鋼管1に力を加えると環状加熱部2に塑性変形が集中する。塑性変形の直後は水冷されるので塑性変形の形状を保つことができる。
【0043】
(ジャッキ21及びジャッキ22の操作態様)
次に、ジャッキ21及びジャッキ22の操作態様について説明する。
【0044】
図5に、外径D、長さLのパイプが半径R、曲げ角度θで曲がったときの一般的な軸方向変形挙動を示す。曲げる前と曲げた後において、軸方向長さLが変化しない位置の半径を塑性中立半径bとする。半径bより大きい位置においては軸方向に伸びが生じ、半径bより小さい位置においては軸方向に圧縮されている。いま塑性中立半径bに注目すると、半径bの仮想円が仮想直線X−X’に接しながら互いに滑らずに転がることにより、曲げ半径R及び曲げ角度θで曲げられていると考えることができる。従ってこの運動は、半径bの円が直線X−X’に接しながらサイクロイド運動していると見ることができるのである。
【0045】
図6に半径bの円が直線X−X’に接しながら滑ることなく180°転がったときのサイクロイド運動の軌跡を示す。前記の図5に示した外径Dで長さLのパイプが、半径Rで曲がったときの塑性中立半径bの運動に注目して示している。
【0046】
図7では、半径aおよび半径bの2つの円が一体となって同心円に置かれたモデルを考える。その同心円が前記図6と同様に半径bの円が直線X−X’に接しながら互いに滑ることなく180°転がったときのサイクロイド運動の軌跡を示す。半径bの円が角度θだけ転がったときX方向の円板移動距離Sは、S=bθである。
【0047】
次に図7をXY座標上のサイクロイド運動として解析する。円板の半径をaとし曲げ管の塑性中立半径をbとする。パイプ先端は円板に固定されている。塑性中立半径bの円が直線X−X’と互いに滑ることなく右方向にころがるときの半径aの円板外周の座標(Xa,Ya)および塑性中立半径bの座標(Xb,Yb)のサイクロイド運動は次のように表すことができる。
【0048】
a:円板の半径、b:塑性中立半径、θ:ころがり角度、S:ころがり距離、λ:a/b
D:パイプ外径 とすると、
Xa=b(θ−λsinθ)、Ya=b(λcosθ−1)
Xb=b(θ−sinθ)、Yb=b(cosθ−1)
図8には半径aおよび半径bの円板が一体となって同心円に置かれたモデルを考える。このモデルにおいて半径bの円が直線X−X’に接しながら互いに滑ることなく角度θだけ転がったときのサイクロイド運動を示す。このとき半径aの円板17の外周には、チェーン20が巻かれている。転がる前のチェーン20の両端末をFおよびGとし、円板17が角度θだけ転がった後のチェーン20の両端末をF’およびG’とする。端末Fの移動距離は(a+b)θであり、端末Gの移動距離は(a−b)θである。従って逆に言えば、端末Fを(a+b)θだけ引張り、端末Gを(a−b)θだけ繰り出せば、半径bの円板は直線X−X’に接しながら滑ることなく角度θだけ転がり、S=bθだけ移動することになる。従って以上のことから、図8のように、チェーン20が移動するように、ジャッキ21及びジャッキ22を操作すれば、曲げ加工装置100において曲げ加工が実行できることがわかる。以下、具体的にその方法について述べる。
【0049】
先ず、半径bなる仮想円の大きさは任意に計画し設定することができる。すなわち前述の、端末Fの移動距離=(a+b)θおよび、端末Gの移動距離=(a−b)θにおいて、円板の半径aおよび曲げ角度θは変わらないとしたとき、bを任意に計画すれば、bの計画値に応じて端末Fの移動距離=(a+b)θおよび、端末Gの移動距離=(a−b)θもそれぞれ決定される。逆に言えば、目標としているbの大きさとなるように、端末Fおよび、端末Gの移動距離を調節すれば目標のbを得ることができる。
【0050】
前記までは半径bの仮想円が、これと接する仮想直線と「すべらないで」反時計回りに転がるようにジャッキ21および22を操作した。次に応用として、半径bの仮想円が、これと接する仮想直線と「すべりながら」時計回りに転がるようにジャッキを操作することもできる。
【0051】
すべりながら転がる形態としてはS>bθおよびS<bθの2つがある。
S>bθとする場合は ΔLF および ΔL の長さを同じ比率で増加させる。すると塑性中立半径bが増大し、パイプを押し縮める効果が増大するので曲がり部の肉厚は、S=bθの場合より増加する。
【0052】
S<bθ とするときは ΔLF および ΔL の長さを同じ比率で減少させる。すると塑性中立半径bが減少し、パイプを押し縮める効果が減少するので曲がり部の肉厚は、S=bθの場合より減少する。さらにもう一つのすべりながら転がる形態としては、ΔLFおよび ΔL の長さをそれぞれ異なる比率で減少あるいは増加させることもできる。
【0053】
なお、図1では、架台14を固定し、円板17を移動させているが、これと逆に架台14を距離Sだけ移動させ、円板17は固定する構成であってもよい。
【0054】
(第1実施形態に係る曲げ加工装置100の作用効果)
次に、第1実施形態に係る曲げ加工装置100の作用効果を説明する。
【0055】
第1実施形態に係る曲げ加工装置100による加工方法は、加熱工程と、冷却工程と、付与工程とで構成される。
【0056】
加熱工程では、鋼管1の一部を環状に加熱して、鋼管1の軸方向に沿って連続的に環状加熱部2を形成する。冷却工程で、環状加熱部2が連続的に冷却される。
【0057】
付与工程では、ジャッキ22を速度V1Gで繰り出し、ジャッキ21を速度V1Fで引張る。両ジャッキの速度関係は、V1G<V1Fである。ジャッキ22は引張り荷重Wが発生し、ジャッキ21は引張り荷重Wが発生する。このため、鋼管1にはその軸方向に軸圧縮荷重(W+W)が強力に作用するので、鋼管1を押し縮めながら曲げ加工される。
【0058】
すなわち、環状加熱部2は集中的に軸圧縮されるのであるが、環状加熱部2の断面の軸方向圧縮速度は不均等な傾きを与えられているので、圧縮速度の傾きによる圧縮量の傾きに応じて圧縮されるから、環状加熱部2は曲げ角度θ及び曲げ半径Rをもつ形状に曲がる。このような局部的な圧縮加工が連続的に行われるので曲げ加工は連続して進行する。
【0059】
鋼管1が曲がり始めたら押しローラ12を鋼管1に押し当て、鋼管1にせん断力を作用させる。尚、図1(A)においては、前部押圧板15と加熱冷却装置9との間隔が狭い構成となっているので、鋼管1が曲がり始めたら押しローラ12を鋼管1に押し当てているが、押しローラ12がこの間隔に予め入ることができるように構成すれば、軸圧縮力とせん断力を曲げ開始と同時に付与することもできる。
【0060】
このように、軸圧縮力とせん断力とが作用するので、図9に示すように、鋼管1が円弧状に曲がる。例えば、軸圧縮力が作用せず、せん断力のみであれば、図10に示すように、せん断ひずみを生じ、鋼管1は円弧状に曲げることができない。
【0061】
鋼管1の環状加熱部2には、軸圧縮力とせん断力が同時に作用するので、圧縮力のみによる曲げ加工に比べて、小さな軸圧縮荷重で曲げることができる。そのため、ジャッキ22および21とチェーン20を小さくでき、装置の小型化が図れる。
【0062】
また、本実施形態では、ワイヤロープの配置位置を、曲げようとする側の(パイプ外径/2)の範囲の外側に置くことができるので、ワイヤロープの曲げ直径A=2aを十分に大きくすることが可能となった。これによりワイヤロープの疲労寿命を向上することとなる。
【0063】
また、本実施形態では、従来に比較して、加工後の管の減肉率と曲げ半径の制御が容易となる。
(第2実施形態に係る鋼管の曲げ加工装置200の構成)
まず、第2実施形態に係る鋼管の曲げ加工装置200の構成を説明する。図11は、第2実施形態に係る曲げ加工装置200の構成を示す概略図である。
【0064】
第2実施形態に係る曲げ加工装置200は、鋼管1の一端部を支持する支持部材30と、鋼管1の他端部を支持する支持部材32と、圧縮力付与手段、せん断力付与手段及び移動手段として機能する押圧装置34と、支持部材32に回転可能に設けられたコロ36と、加熱手段及び冷却手段としての加熱冷却装置9とを備えて構成されている。
【0065】
支持部材32は、コロ36が転がることにより、鋼管1の半径方向に沿って形成された壁体36に沿って、鋼管1の半径方向に移動可能とされている。
【0066】
押圧装置34は、支持部材30を介して鋼管1の一端部を鋼管1の軸線方向へ押圧する。加熱冷却装置9は、鋼管1がクランク形状に曲がるように、鋼管1の軸線に対して斜めに鋼管1の一部を環状に加熱して、環状加熱部2を形成する。なお、加熱冷却装置9は、図4に示す構成と同様に構成されている。
【0067】
本実施形態では、側面視にて、環状加熱部2は、上部がコロ36側(曲げ開始側)に傾けられ、下部が押圧装置34側(曲げ終了側)に傾けられており、鋼管1の軸線に対して斜めに配置されている。
【0068】
本実施形態の構成によれば、例えば、加熱冷却装置9の加熱コイルを、鋼管1の軸線方向に対して、任意の角度φ°傾けて配設することにより、鋼管の軸線方向に対してφ°傾いた環状加熱部2を形成される(角度φ°の範囲は 0°<φ°<90°)。
【0069】
この状態で鋼管の軸線方向に圧縮応力σを作用させると、分力として環状加熱部2に対して垂直方向の圧縮応力成分σ’および環状加熱部2に対して平行方向のせん断応力成分τが発生する。これにより環状加熱部にはτ=σ・sinφおよびσ’=σ・cosφの組み合わせ応力が形成される。軸方向圧縮速度をVCとし、せん断速度をVSに制御すると環状加熱部2が逐次変形することにより、鋼管1はクランク状に変形する。このように、押圧装置34は、鋼管1を押圧することにより、鋼管1の環状加熱部2に軸圧縮力及びせん断力を発生させるとともに、鋼管1に対して、加熱冷却装置9を相対移動させる。鋼管1の変形部は、拘束手段としての拘束装置38で拘束する。これにより、変形された鋼管1の形状を維持できる。
【0070】
このように、鋼管1の環状加熱部2には、軸圧縮力とせん断力が同時に作用するので、圧縮力のみによる曲げ加工に比べて、小さな軸圧縮荷重で曲げることができる。そのため、押圧装置34を小さくでき、装置の小型化が図れる。
なお、鋼管1を下方へ押して、鋼管1にせん断力およびせん断速度を付与する装置を別途配置しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第1実施形態に係る曲げ加工装置の構成を示す概略図である。
【図2】第1実施形態に係る曲げ加工装置において、拘束板で鋼管を拘束する状態を示す概略図である。
【図3】第1実施形態に係る曲げ加工装置において、円板を2枚構成とした変形例を示す概略図である。
【図4】第1実施形態に係る加熱冷却装置の構成を示す概略図である。
【図5】曲げ加工によるパイプの軸方向長さ変化量と塑性中立半径の説明図である。
【図6】塑性中立半径bのサイクロイド運動の説明図である。
【図7】半径aおよびbからなる同心円のサイクロイド運動説明図である。
【図8】半径aの円板を操作して半径bの円板をサイクロイド運動させる説明図である。
【図9】軸圧縮力とせん断力とを作用させた場合において、鋼管が曲がる様子を示した図である。
【図10】せん断力のみを作用させた場合において、鋼管が曲がる様子を示した図である。
【図11】第2実施形態に係る曲げ加工装置の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0072】
1 鋼管
2 環状加熱部
9 加熱冷却装置(加熱手段、冷却手段)
12 押しローラ(せん断力付与手段)
15 前部押圧板(圧縮力付与手段)
17 円板(圧縮力付与手段)
19 拘束板(拘束手段)
20 チェーン(圧縮力付与手段)
21 ジャッキ(圧縮力付与手段)
22 ジャッキ(圧縮力付与手段)
23 台車(移動手段)
34 押圧装置(せん断力付与手段、圧縮力付与手段、移動手段)
38 拘束装置(拘束手段)
100 曲げ加工装置
200 曲げ加工装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の一部を環状に加熱する加熱手段と、
前記加熱手段によって加熱された前記鋼管の環状加熱部を環状に冷却する冷却手段と、
前記環状加熱部にその軸線方向に沿って圧縮力を付与する圧縮力付与手段と、
前記環状加熱部にせん断力を付与するせん断力付与手段と、
曲げられた鋼管が所定の形状を保つように前記鋼管を拘束する拘束手段と、
前記鋼管に対して前記加熱手段及び前記冷却手段を、前記鋼管の未だ曲げられていない部位側へ前記鋼管の軸方向に相対移動させる移動手段と、
を備えた鋼管の曲げ加工装置。
【請求項2】
前記加熱手段は、前記鋼管がクランク形状に曲がるように、前記鋼管の軸線に対して斜めに前記鋼管の一部を環状に加熱する請求項1に記載の鋼管の曲げ加工装置
【請求項3】
鋼管の一部を環状に加熱して、前記鋼管の軸方向に沿って連続的に環状加熱部を形成する加熱工程と、
前記環状加熱部を連続的に冷却する冷却工程と、
前記環状加熱部にその軸線方向に圧縮力を付与すると共に、前記環状加熱部にせん断力を付与して鋼管を連続的に曲げる付与工程と、
を備えた鋼管の曲げ加工方法。
【請求項4】
前記加熱工程は、前記鋼管がクランク形状に曲がるように、前記鋼管の軸線に対して斜めに前記鋼管の一部を環状に加熱する請求項3に記載の鋼管の曲げ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−131649(P2010−131649A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311246(P2008−311246)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(501241645)学校法人 工学院大学 (14)
【出願人】(398008284)
【出願人】(591117413)株式会社菊池製作所 (33)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】