説明

鋼管の曲げ部の損傷評価方法

【課題】抜管や精密研磨を必要としない非破壊方法であって、鋼管の曲げ部の外径、管厚、扁平率を計測するだけの簡単な評価方法で以って、高精度の探傷評価が可能な鋼管の曲げ部の損傷評価方法を提供する。
【解決手段】鋼管の曲げ加工を行うに際し、鋼管の曲げ後における扁平率:S0を((鋼管の最大外径−鋼管の最小外径)/(公称外径))×100に設定し、さらに扁平変化率:S1を(使用中途時の扁平率S/未使用材の扁平率S0)×100を設定し、該扁平変化率S1が、予め設定された一定値よりも小さくなったとき、前記鋼管に異常が発生したものと判定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系耐熱鋼等の鋼管の曲げ加工を行うに際し、鋼管の曲げ部の状況を、鋼管を破損することなく評価可能にした鋼管の曲げ部の損傷評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電プラント等の高温応力下で用いられているオーステナイト系耐熱鋼のクリープ、クリープ疲労等の高温損傷を評価する方法としては、従来下記の手法が用いられてきた。
1)使用されている材料を抜管し(切り出し)、クリープ破断試験、クリープ疲労試験等の破壊試験を行って、未使用状態からの強度低下度を評価する破壊試験法。
2)使用された温度、応力、時間から未使用材の強度を用いて、損傷度を推定する応力解析法。
3)実際に使用されたオーステナイト系耐熱鋼において、高温探傷と直接関係する粒界析出物及びボイドを定量化して探傷評価する非破壊法(SUS材等は、簡易的な寿命評価技術をして、ボイド線密度またはボイド面密度などの非破壊手法が確立されている)。
尚、かかる非破壊手法には、特許文献1(特開平6−34625号公報)および特許文献2(特開平6−50966号公報)等の技術も含まれる。
【0003】
前記1)〜3)の方法を、図4のブロック図に示し、前記1)は図4の(1)、前記2)は図4の(2)、前記3)は図4の(3)にそれぞれ対応する。
【0004】
【特許文献1】特開平6−34625号公報
【特許文献2】特開平6−50966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記1)〜3)の手法には、次のような問題がある。
1)の破壊試験法では、使用材を抜管する必要があり、その後の運転のためには、切断工事に加えて、復旧工事の費用、工期がかかってしまう。また、長時間使用された傷を評価するには、運転条件に近い状態で試験を実施する必要があり、評価に時間を要する。また、曲げ部によってはクリープ破断試験片を採取できないという問題もある。
2)の強度評価法では、使用材を抜管する必要はないが、評価に実際に使用された材料ではなく、同じ種類の材料データを用いることから、実際に使用された材料強度データと応力解析の評価に用いた材料強度との差に起因した誤差が生じることがあった。
【0006】
3)の非破壊法は比較的有効な手法であるが、ボイド自体のばらつきが大きく、精度が低い。また、曲げ部の挙動がそれと同じかどうかの検証もできていない。
また、前記特許文献1(特開平6−34625号公報)および特許文献2(特開平6−50966号公報)等の技術も同様な問題を有している。
【0007】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、抜管や精密研磨を必要としない非破壊方法であって、鋼管の曲げ部の外径、管厚、扁平率を計測するだけの簡単な評価方法で以って、高精度の探傷評価が可能な鋼管の曲げ部の損傷評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はかかる目的を達成するもので、次の2つの手法を特徴としている。
(1)鋼管の曲げ加工を行うに際し、鋼管の曲げ後における扁平率:S0((鋼管の最大外径−鋼管の最小外径)/(公称外径))×100に設定し、さらに高温応力下で使用中の扁平変化率:S1(使用中途時の扁平率S/未使用材の扁平率S0)×100に設定し、該扁平変化率S1が、予め設定された一定値よりも小さくなったとき、前記鋼管に異常が発生したものと判定することを特徴とする(請求項1)。
【0009】
(2)鋼管の曲げ加工を行うに際し、鋼管の曲げ後における扁平率:S0を((鋼管の最大外径−鋼管の最小外径)/(公称外径))×100、扁平変化率:S1を(使用中途時の扁平率S/未使用材の扁平率S0)×100とし、鋼管の曲げ後における外径変化率:Uを(使用中途時の外径/未使用材の外径))×100に設定し、鋼管の曲げ後における管厚変化率:Tを(使用中途時の肉厚/未使用材の肉厚)×100とし、K=T・S1/Uが予め設定された一定値よりも小さくなったとき、前記鋼管に異常が発生したものと判定することを特徴とする(請求項2)。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、
1)鋼管の扁平変化率:S1を(使用中途時の扁平率S/未使用材の扁平率S0)×100に設定し、さらに該扁平率:S0を((鋼管の最大外径−鋼管の最小外径)/(公称外径))×100に設定して、かかる扁平変化率:S1の実績データを、前記鋼管の曲げ部の内圧クリープ中途止め試験により蓄積して、許容の一定値を実績として設定しておく。
そして、任意の試験鋼管で曲げ部の内圧クリープ試験を行い、その試験結果から扁平変化率:S1を求めて、この扁平変化率:S1を前記許容の一定値と比較する。そして該扁平変化率:S1が前記許容の一定値よりも小さくなったとき、前記鋼管に異常が発生したものと判定することができる。
【0011】
2)また、係数K=T・S1/U、Tは管厚変化率(使用中途時の肉厚/未使用材の肉厚)×100、Uは外径変化率(使用中途時の外径/未使用材の外径))×100)とし、
かかる係数K=T・S1/Uの実績データを、前記鋼管の曲げ部の内圧クリープ中途止め試験により蓄積して、許容の係数Kの一定値K0を実績として設定しておく。
そして、任意の試験鋼管で曲げ部の内圧クリープ試験を行い、その試験結果から前記係数K=T・S1/Uを求めて、この係数Kを前記許容の一定値K0と比較する。そして係数Kが前記許容の一定値K0よりも小さくなったとき、前記鋼管に異常が発生したものと判定することができる。
【0012】
以上の2つの方法により、鋼管の扁平変化率:S1あるいは係数K=T・S1/Uを求めておき、この、鋼管の扁平変化率:S1あるいは係数K=T・S1/Uの2つの値のいずれか又は双方が許容の一定値よりも小さくなったとき、鋼管に異常が発生したものと判定するので、抜管や精密研磨を必要としない非破壊方法であって、鋼管の曲げ部の外径、管厚、扁平率を計測するだけの簡単な評価方法で以って、高精度の探傷評価が可能な鋼管の曲げ部の損傷評価方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0014】
図1(A)は本発明の実施例にかかるオーステナイト系耐熱鋼からなる鋼管の曲げ試験時の部分図、(B)は(A)のA―A断面図である。
図1において、鋼管100を半径R0で曲げる。tは肉厚である。前記半径R0で曲げたときの、鋼管100の曲げ後の各寸法から、次の値を算出する。
尚、Dmxが最大外径、Dmnが最小外径である。また、100aが曲げ後、100bが未使用時である。
【0015】
まず、前記鋼管100において、曲げ後の各寸法から、
扁平率:S0を((鋼管の最大外径Dmx−鋼管の最小外径Dmn)/(公称外径))×100を測定し、さらに、
扁平変化率:S1を(使用中途時の扁平率S/未使用材の扁平率S0)×100
を測定する。
【0016】
即ち、鋼管100の扁平変化率:S1を(使用中途時の扁平率S/未使用材の扁平率S0)×100に設定し、この扁平率:S0を((鋼管の最大外径−鋼管の最小外径)/(公称外径))×100に設定する。
そして、かかる扁平変化率:S1の実績データを下記実施例に示すように、前記鋼管100の曲げ部の内圧クリープ中途止め試験により実績として蓄積しておき、該扁平変化率:S1の許容の一定値を実績として設定しておく。
次いで、任意の試験鋼管100の曲げ部の内圧クリープ試験を行い、その試験結果から扁平変化率:S1を求めて、この扁平変化率:S1を下記実施例に対応させ、許容の一定値S10よりも小さくなったとき、前記鋼管に異常が発生したものと判定することができる。
【0017】
また、前記鋼管100において、
鋼管の曲げ後における外径変化率:Uを(使用中途時の外径D/未使用材の外径))×100
及び
鋼管の曲げ後における管厚変化率;T(使用中途時の肉厚t/未使用材の肉厚)×100
を測定し、これに、
前記扁平変化率:S1を(使用中途時の扁平率S/未使用材の扁平率S0)×100
を用いて、
K=T・S1/U (1)
を算出する。
【0018】
この場合は、係数K=T・S1/U (1)式は、管厚変化率T(使用中途時の肉厚/未使用材の肉厚)×100、外径変化率U(使用中途時の外径/未使用材の外径))×100及び
前記扁平変化率:S1を(使用中途時の扁平率S/未使用材の扁平率S0)×100の関数とする。
そして、かかる係数K=T・S1/Uの実績データを下記実施例に示すように、前記鋼管100の曲げ部の内圧クリープ中途止め試験により実績として蓄積しておき、許容の係数Kの一定値K0を実績として設定しておく。
そして、任意の試験鋼管100の曲げ部の内圧クリープ試験を行い、この係数Kを、下記実施例に対応させ、許容の一定値K0よりも小さくなったとき、前記鋼管に異常が発生したものと判定することができる。
【0019】
以上の2つの方法により、鋼管100の扁平変化率:S1あるいは係数K=T・S1/Uを求めておき、この、鋼管100の扁平変化率:S1あるいは係数K=T・S1/Uの2つの値のいずれか又は双方が前記許容の一定値よりも小さくなったとき、鋼管100に異常が発生したものと判定するので、抜管や精密研磨を必要としない非破壊方法であって、鋼管100の曲げ部の外径D、管厚t、扁平率Sを計測するだけの簡単な評価方法で以って、高精度の探傷評価が可能な鋼管100の曲げ部の損傷評価方法を得ることができる。
【実施例】
【0020】
図2は、本発明の実施例を示すオーステナイト系耐熱鋼からなる鋼管の曲げ部の内圧クリープ中途止め試験の結果、つまり破断までに数回中途めして測定した評価成績表、図3は図2の評価成績評価表を示すグラフで、いずれもT(中途止め時間)/Tr(破断時間)をベースに示している。
図2〜図3において、S1が扁平変化率、Kが前記係数を示す。
【0021】
図2〜3において、オーステナイト系耐熱鋼からなる鋼管においては、S1及びKは、クリープ初期ではT/Trに対して大きく減少し、T/Trの初期から中期に掛けては略一定で、T/Trの中期から後期にかけてまた減少する。
かかる図2〜3に示す、クリープ曲げ試験の結果に、前記のような鋼管100の扁平変化率:S1あるいは係数K=T・S1/Uを対応させてプロットする。
【0022】
そして、前記S1が許容の一定値SI0以下となったとき、前記鋼管100に異常が発生したものと判定することができる。
また、前記Kが許容の一定値K0以下となったときにも前記鋼管100に異常が発生したものと判定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、抜管や精密研磨を必要としない非破壊方法であって、鋼管の曲げ部の外径、管厚、扁平率を計測するだけの簡単な評価方法で以って、高精度の探傷評価が可能な鋼管の曲げ部の損傷評価方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(A)は本発明の実施例にかかるオーステナイト系耐熱鋼からなる鋼管の曲げ試験時の部分図、(B)は(A)のA―A断面図である。
【図2】前記実施例におけるオーステナイト系耐熱鋼からなる鋼管の曲げ試験データの一例である。
【図3】前記オーステナイト系耐熱鋼からなる鋼管の曲げ部の内圧クリープ中途止め試験データの線図である。
【図4】従来方法を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0025】
100 鋼管
100a 曲げ後
100b 未使用時
S1 扁平変化率
K 係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の曲げ加工を行うに際し、鋼管の曲げ後における扁平率:S0((鋼管の最大外径−鋼管の最小外径)/(公称外径))×100を設定し、さらに高温応力下で使用中の扁平変化率:S1(使用中途時の扁平率S/未使用材の扁平率S0)×100を設定し、該扁平変化率S1が、予め設定された一定値よりも小さくなったとき、前記鋼管に異常が発生したものと判定することを特徴とする鋼管の曲げ部の損傷評価方法。
【請求項2】
鋼管の曲げ加工を行うに際し、鋼管の曲げ後における扁平率:S0を((鋼管の最大外径−鋼管の最小外径)/(公称外径))×100、扁平変化率:S1を(使用中途時の扁平率S/未使用材の扁平率S0)×100とし、鋼管の曲げ後における外径変化率:Uを(使用中途時の外径/未使用材の外径))×100に設定し、鋼管の曲げ後における管厚変化率:Tを(使用中途時の肉厚/未使用材の肉厚)×100とし、K=T・S1/Uが予め設定された一定値よりも小さくなったとき、前記鋼管に異常が発生したものと判定することを特徴とする鋼管の曲げ部の損傷評価方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−180610(P2009−180610A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19689(P2008−19689)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】