説明

鋼管矢板の連結構造

【課題】真円度矯正が不要である鋼管矢板の連結構造を提供する。
【解決手段】軸芯X方向に沿って延在すると共に、第一鋼管矢板1を構成する鋼管3,4の外周部に固着された第一連結部材5と、軸芯X方向に沿って延在すると共に、第二鋼管矢板2を構成する鋼管3,4の外周部に固着され、第一連結部材5と係合可能な第二連結部材6と、を備え、第一鋼管矢板1を構成するに際して、下側の第一連結部材5の端部と上側の第一連結部材5の端部との隙間を塞ぐように、下側の第一連結部材5の外周部及び上側の第一連結部材5の外周部に亘る第一カバー部材50を取付けると共に、第二鋼管矢板2を構成するに際して、下側の第二連結部材6の端部と上側の第二連結部材6の端部との隙間を塞ぐように、下側の第二連結部材6の外周部及び上側の第二連結部材6の外周部に亘る第二カバー部材60を取付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第一鋼管矢板と、少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第二鋼管矢板と、を水平方向に連結可能な鋼管矢板の連結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第一鋼管矢板と、少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第二鋼管矢板と、を水平方向に連結可能な鋼管矢板の連結構造として、例えば、特許文献1に記載のようなものがあった。
【0003】
特許文献1に記載の鋼管矢板の連結構造は、第一鋼管矢板を構成する鋼管の軸芯方向に沿って延在すると共に、第一鋼管矢板を構成する鋼管の外周部に固着された第一連結部材(文献では「鋼製継手」)と、第二鋼管矢板を構成する鋼管の軸芯方向に沿って延在すると共に、第二鋼管矢板を構成する鋼管の外周部に固着された第二連結部材(文献では「鋼製継手」)と、を備えている。第一連結部材及び第二連結部材には各軸芯に沿ってスリットが設けてあり、第一連結部材と第二連結部材とは、その各スリットを介して一方を他方に対して軸芯方向に沿って挿入して係合させることにより、第一鋼管矢板と第二鋼管矢板とを水平方向に連結可能である。
【0004】
特許文献1に記載の鋼管矢板の連結構造では、第一鋼管矢板及び第二鋼管矢板を構成するに際しては、下側の鋼管と上側の鋼管とは溶接によって接合している。また、第一鋼管矢板を構成するに際して、下側の鋼管における第一連結部材の端部と上側の鋼管における第一連結部材の端部とを溶接により接合し、また、第二鋼管矢板を構成するに際して、下側の鋼管における第二連結部材の端部と上側の鋼管における第二連結部材の端部とを溶接により接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平04−37954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の鋼管矢板の連結構造のように、下側の鋼管における第一連結部材の端部と上側の鋼管における第一連結部材の端部とを溶接により接合し、また、下側の鋼管における第二連結部材の端部と上側の鋼管における第二連結部材の端部とを溶接により接合すると、第一連結部材及び第二連結部材は溶接によって軸芯方向に収縮する。そして、第一連結部材と第二連結部材とは鋼管に対して全周のうちの一部分に固着されているため、第一連結部材及び第二連結部材の収縮力が夫々の鋼管に対して局所的に作用し、上側の鋼管のうちの上側の端部(未溶接)において、図8に示すごとく、径方向の変形が生じることがある。
【0007】
作業エリアの高さが確保できない施工環境の場合は、各鋼管長を短くして打設作業を行うが、鋼管長を短くすると、上述の変形は顕著に表れる。
【0008】
従来は、このように鋼管の断面に変形が生じた場合、真円度矯正を行って鋼管の断面形状の修復を図っていたが、真円度矯正には手間が掛かるため、作業効率の低下や施工コストの増大を招来していた。
【0009】
また、上下の鋼管の接合を溶接によって行う場合は、鋼管の端部の形状が単純であるので真円度矯正が可能であるが、機械式継手によって上下の鋼管を接合する場合には、鋼管の端部の形状が複雑であるので真円度矯正が出来ない。即ち、鋼管矢板の連結構造において、上下の鋼管を接合する構成として、機械式継手を採用すること自体難しかった。
【0010】
本発明の目的は、このような実情に鑑み、真円度矯正が不要である鋼管矢板の連結構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る鋼管矢板の連結構造の特徴構成は、少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第一鋼管矢板と、少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第二鋼管矢板と、を水平方向に連結可能な鋼管矢板の連結構造であって、前記第一鋼管矢板を構成する前記鋼管の軸芯方向に沿って延在すると共に、前記第一鋼管矢板を構成する前記鋼管の外周部に固着された第一連結部材と、前記第二鋼管矢板を構成する前記鋼管の軸芯方向に沿って延在すると共に、前記第二鋼管矢板を構成する前記鋼管の外周部に固着され、前記第一連結部材と係合可能な第二連結部材と、を備え、前記第一鋼管矢板を構成するに際して、下側の前記鋼管における前記第一連結部材の端部と上側の前記鋼管における前記第一連結部材の端部との隙間を塞ぐように、下側の前記第一連結部材の外周部及び上側の前記第一連結部材の外周部に亘る第一カバー部材を取付けると共に、前記第二鋼管矢板を構成するに際して、下側の前記鋼管における前記第二連結部材の端部と上側の前記鋼管における前記第二連結部材の端部との隙間を塞ぐように、下側の前記第二連結部材の外周部及び上側の前記第二連結部材の外周部に亘る第二カバー部材を取付ける点にある。
【0012】
そもそも、第一鋼管矢板の剛性または第二鋼管矢板の剛性は、上下の鋼管の接合箇所の接合強度に依存するものであり、上下の第一連結部材同士及び上下の第二連結部材同士は、高強度に接合する必要はない。一方で、上下の第一連結部材の端部同士や、上下の第二連結部材の端部同士に隙間があると、鋼管矢板全体としての止水性が低下する。本特徴構成であれば、上下の第一連結部材の端部同士の隙間を第一カバー部材で塞ぎ、上下の第二連結部材の端部同士の隙間を第二カバー部材で塞ぐので、溶接による第一連結部材及び第二連結部材の収縮が発生せず、鋼管の断面変形が生じない。この結果、鋼管矢板全体としての止水性は維持しつつも、真円度調整が不要な鋼管矢板の連結構造とすることができる。
【0013】
本発明に係る鋼管の継手構造においては、前記第一カバー部材は、下側の前記第一連結部材の外周部及び上側の前記第一連結部材のうち何れか一方にのみボルト固定可能であり、前記第二カバー部材は、下側の前記第二連結部材の外周部及び上側の前記第二連結部材のうち何れか一方にのみボルト固定可能であると好適である。
【0014】
本特徴構成によると、第一カバー部材と第二カバー部材とは、上下一方の第一連結部材または第二連結部材にボルトによって、片持ち状に固定されることになる。しかし、第一カバー部材の固定端側と第二カバー部材の固定端側とをボルトで締め付けることにより、第一カバー部材の自由端側と第二カバー部材の自由端側とは、他方の第一連結部材または第二連結部材に押付けられ、上下の第一連結部材の端部同士の隙間、及び、上下の第二連結部材の端部同士の隙間は十分に塞がれる。したがって、第一カバー部材と第二カバー部材とを上下両方の第一連結部材または第二連結部材にボルト固定する場合と比較して、止水性を維持しながら、作業手間を軽減できる。
【0015】
本発明に係る鋼管の継手構造においては、前記第一カバー部材及び前記第二カバー部材は、止水部材を介在させて前記第一連結部材の外周部または前記第二連結部材の外周部に取付けると好適である。
【0016】
本特徴構成であれば、第一カバー部材と第一連結部材の外周部との間、及び、第二カバー部材と第二連結部材の外周部との間に、止水部材が介在するので、鋼管矢板の止水性が向上する。特に、第一カバー部材と第二カバー部材とを上下一方の第一連結部材または第二連結部材のみにボルト固定する場合には、作業手間を軽減しながらも、より確実な止水性を発揮できる。
【0017】
本発明に係る鋼管矢板の連結構造の別の特徴構成は、少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第一鋼管矢板と、少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第二鋼管矢板と、を水平方向に連結可能な鋼管矢板の連結構造であって、前記第一鋼管矢板を構成する前記鋼管の軸芯方向に沿って延在すると共に、前記第一鋼管矢板を構成する前記鋼管の外周部に固着された第一連結部材と、前記第二鋼管矢板を構成する前記鋼管の軸芯方向に沿って延在すると共に、前記第二鋼管矢板を構成する前記鋼管の外周部に固着され、前記第一連結部材と係合可能な第二連結部材と、を備え、前記第一鋼管矢板を構成するに際して、下側の前記鋼管における前記第一連結部材の端部と上側の前記鋼管における前記第一連結部材の端部との間に第一スペーサ部材を介在させた上で、下側の前記第一連結部材の端部と上側の前記第一連結部材の端部とを溶接すると共に、前記第二鋼管矢板を構成するに際して、下側の前記鋼管における前記第二連結部材の端部と上側の前記鋼管における前記第二連結部材の端部との間に第二スペーサ部材を介在させた上で、下側の前記第二連結部材の端部と上側の前記第二連結部材の端部とを溶接する点にある。
【0018】
本特徴構成であれば、上下の第一連結部材の端部同士の間に第一スペーサ部材が介在され、上下の第二連結部材の端部同士の間に第二スペーサ部材が介在されているので溶接量が減る。このため、溶接による第一連結部材及び第二連結部材の収縮が大幅に軽減され、鋼管の断面変形の発生が抑制される。この結果、鋼管矢板全体としての止水性は維持しつつも、真円度調整が不要な鋼管矢板の連結構造とすることができる。特に、第一連結部材及び第二連結部材の断面形状が、上述したカバー部材を使用しにくい形状の場合に有用である。
【0019】
本発明に係る鋼管の継手構造においては、前記第一スペーサ部材及び前記第二スペーサ部材は、接着剤であると好適である。
【0020】
本特徴構成のように、第一スペーサ部材及び第二スペーサ部材を接着剤とすると、上下の第一連結部材同士の接合、及び、上下の第二連結部材同士の接合が、接着剤によっても達成されるので、溶接量をさらに減らすことができる。また、接着剤は溶剤であるので、接着剤が、上下の第一連結部材の端部同士の隙間、及び、上下の第二連結部材の端部同士の隙間に密に充填されて、鋼管矢板の止水性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る鋼管矢板の連結構造によって連結された複数の鋼管矢板の全体像を表す図である。(a)は平面図であり、(b)は斜視図であり、(c)は連結箇所の拡大平面図である。
【図2】本発明に係る鋼管矢板の連結構造を示す縦断側面図である。
【図3】本発明に係る鋼管矢板の連結構造を示す横断平面図である。
【図4】本発明に係る鋼管矢板の連結構造を示す側面図である。
【図5】第一別実施形態に係る鋼管矢板の連結構造を示す横断平面図である。(a)は通常のカバー部材を示す図であり、(b)はカバー部材を押し広げた状態を示す図であり、(c)はカバー部材の取付要領を示す図である。
【図6】第二別実施形態に係る鋼管矢板の連結構造によって連結された複数の鋼管矢板の全体像を表す斜視図である。
【図7】第二別実施形態に係る鋼管矢板の連結構造を示す縦断側面図である。
【図8】従来の鋼管矢板の連結構造を適用した場合の鋼管の変形を表す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る鋼管矢板の連結構造の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
〔鋼管矢板の概要〕
鋼管矢板は、図1(a),(b)に示すごとく、複数の鋼管をほぼ同一の軸芯X上に位置させて、長手方向に互いに抜き差し不能に接合して構成する。鋼管矢板の長さは、数十メートルにも至る場合があるため、工場で鋼管を接合してから施工現場に搬送するというのは不可能である。よって、通常は施工現場で打設を行いながら順次接合を行う。そして、複数の鋼管矢板を水平方向に連結することにより、土留め壁、河川等の護岸壁、鋼管矢板基礎等の用途に使用する。
【0024】
鋼管矢板が何本の鋼管から構成されていようとも、各鋼管同士の接合は全ての箇所において同一の工法で行う。便宜上、上下関係にある任意の鋼管を、上鋼管4と下鋼管3とに呼び分けるが、これらは実質的には同じ鋼管である。即ち、上鋼管4と下鋼管3とが本発明に係る「二つの鋼管」に相当する。同様に、水平方向に連結される任意の二つの鋼管矢板を、第一鋼管矢板1と第二鋼管矢板2とに呼び分けるが、これらは実質的には同じ鋼管矢板である。なお、本実施形態においては、上鋼管4と下鋼管3とは、溶接によって接合する。
【0025】
第一鋼管矢板1においても、第二鋼管矢板2においても、上鋼管4の外周部には、上鋼管4と同じ長さの鋼製パイプである第一連結部材5が軸芯Xと平行な状態で溶接により固着されている。また、同様に、上鋼管4の外周部のうち第一連結部材5が取付けられたのとは異なる位置には、上鋼管4と同じ長さの鋼製パイプである第二連結部材6が軸芯Xと平行な状態で溶接により固着されている。第一連結部材5及び第二連結部材6は、便宜上、名称を呼び分けて区別してあるが、基本的には同じ部材である。下鋼管3の外周部には、上鋼管4と同じように、第一連結部材5と第二連結部材6とが固着されている。本実施形態においては、第一連結部材5と第二連結部材6とは、軸芯Xを挟んで対称となる位置に取付けられているが、鋼管矢板1,2の用途によってこれらの位置は変更するものである。
【0026】
また、第一連結部材5及び第二連結部材6には、図1(c),図3に示すごとく、管全長に亘って軸芯Xに沿ったスリットSを設けて、C字断面形状としてある。スリットSを設けることにより、第一連結部材5と第二連結部材6とは、図1(c)に示すごとく、第二連結部材6のスリットSに第一連結部材5を挿入しつつ、第一連結部材5のスリットSに第二連結部材6を挿入することにより、互いに係合可能である。
【0027】
鋼管矢板1,2の施工に際しては、先ず、下鋼管3と上鋼管4とを順次接合して第一鋼管矢板1を構成しながら施工地盤に打設する。下鋼管3と上鋼管4とを接合するとき、上下の第一連結部材5及び第二連結部材6の位置合わせをし、下鋼管3と上鋼管4とを溶接する。そして、下鋼管3の第一連結部材5及び第二連結部材6と、上鋼管4の第一連結部材5及び第二連結部材6との隙間を、後述する第一カバー部材50または第二カバー部材60によって塞ぎ込む。この作業を繰り返すことにより第一鋼管矢板1が構成され、第一鋼管矢板1の全長に亘って、第一連結部材5と第二連結部材6が軸芯Xに平行に一直線状に繋がる。続いて、第二鋼管矢板2の下鋼管3を、その第二連結部材6を第一鋼管矢板1の第一連結部材5に対して挿入しながら打設し、さらに、下鋼管3と上鋼管4とを順次溶接により接合して、第二鋼管矢板2を構成しながら施工地盤に打設する。即ち、第一鋼管矢板1の第一連結部材5と第二鋼管矢板2の第二連結部材6とは、夫々の全長に亘って係合し、この結果、第一鋼管矢板1と第二鋼管矢板2とは、図1(a),(b)に示すごとく、水平方向に連結される。
【0028】
〔連結部材の接合について〕
上述したように、第一連結部材5と第二連結部材6とは、また、第一カバー部材50と第二カバー部材60とは、同じ部材であり、その接合構造も同じであるので、第一連結部材5の接合構造についての説明によって、第二連結部材6の接合構造の説明を代用する。なお、以下の第一連結部材5の接合構造の説明と図2乃至図4とにおいて、第一連結部材5に係る構成の符号に対して括弧書きで第二連結部材6に係る構成の符号を記載してある。以下の説明において「第一連結部材」を「第二連結部材」とに読み替えると共に、「第一カバー部材」を「第二カバー部材」と読み替えることにより、第二連結部材6の説明となる。
【0029】
図2,図3に示すごとく、第一連結部材5(6)の上端部において、周方向全体に亘って外周面を均一に面落ちさせて、上凹入部11を形成してある。また、第一連結部材5(6)の下端部においても、周方向全体に亘って外周面を均一に面落ちさせて、下凹入部12を形成してある。なお、上凹入部11の面落ち深さと下凹入部12の面落ち深さとは同じ寸法である。また、上凹入部11の軸芯X方向の長さと、下凹入部12の軸芯X方向の長さとも同じ寸法である。下鋼管3と上鋼管4とを接合すると、上凹入部11と下凹入部12とは、協働して径方向でC字形状断面の嵌合溝10を構成する。図4に示すごとく、嵌合溝10に対して後述する第一カバー部材50(60)を嵌め込むと、第一カバー部材50(60)が、下側の第一連結部材5(6)の外周部及び上側の第一連結部材5(6)の外周部に亘って配設されるので、下側の第一連結部材5(6)の上端部と、上側の第一連結部材5(6)の下端部との隙間が塞がれる。なお、上凹入部11が、本発明に係る下側の第一連結部材5(6)の「外周部」に相当し、下凹入部12が、本発明に係る上側の第一連結部材5(6)の「外周部」に相当する。
【0030】
第一カバー部材50(60)は、図3に示すごとく、鋼製かつ円弧形状の三つのカバー片51(61)から構成されている。三つのカバー片51(61)を周方向に繋げると、嵌合溝10の形状と一致する。各カバー片51(61)には、周方向に沿って二つのボルト孔H1を形成してある。そして、上凹入部11のうちボルト孔H1に対応する六箇所に、ボルト孔H2を形成してある。図2,図3に示すごとく、三つのカバー片51(61)を嵌合溝10に嵌合し、ボルトBをボルト孔H1及びボルト孔H2に締め付けて、全てのカバー片51(61)を上凹入部11に固定する。ボルトBの頭部には、ボルト孔H1のネジに対応するネジが形成してあり、ボルトBの軸部にはボルト孔H2のネジに対応するネジが形成してある。なお、三つのカバー片51(61)は同一形状としてあるので、取り違いが生じず、作業性が良い。
【0031】
また、各カバー片51(61)の内側面には、ゴムパッキン等の止水部材52(62)を貼り付けてある。したがって、第一カバー部材50(60)と嵌合溝10と間には止水部材52(62)が介在することとなり、鋼管矢板1,2の止水性が向上する。なお、本構成によると、カバー片51(61)は下側の第一連結部材5のみに固定されて、片持ち状に支持されることになる。しかし、ボルトBをしっかりと締め付ければ、止水部材52(62)によってカバー片51(61)のうちの下凹入部12の側の部分と下凹入部12との隙間が確実に塞がれて、止水性が損なわれることはない。この結果、カバー片51(61)を下凹入部12と上凹入部11との両方にボルト固定する場合と比較して、作業手間が軽減されつつも、止水性が向上される。
【0032】
以上のように、上下の第一連結部材5の端部同士の隙間を機械的に第一カバー部材50(60)で塞ぐので、溶接による第一連結部材5の収縮が発生せず、鋼管の断面変形が生じない。この結果、鋼管矢板1,2全体としての止水性は維持しつつも、真円度調整が不要な鋼管矢板の連結構造とすることができる。
【0033】
〔第一別実施形態〕
上述の実施形態においては、第一カバー部材50及び第二カバー部材60を、三つのカバー片51(61)に分割した例を示したがこれに限られるものではない。第一カバー部材50及び第二カバー部材60を、図5(a)に示すごとく、一つの部材から構成してあっても良い。この場合は、第一カバー部材150及び第二カバー部材160は、C字断面形状の弾性体から構成する。第一カバー部材150及び第二カバー部材160は、図5(b)に示すごとく、間口を押し広げた状態で嵌合溝10に挿入すれば、その後は自身の復元力によって嵌合溝10に嵌合する。第一カバー部材150及び第二カバー部材160は、その復元力だけでも嵌合溝10に十分に固定されるが、図5(c)に示すごとく、ボルトBによって嵌合溝10に固定すればより好ましい。
【0034】
〔第二別実施形態〕
上述の実施形態においては、第一カバー部材50,150及び第二カバー部材60,160を用いる構成について説明したが、これに限られるものではない。図7に示すごとく、下側の第一連結部材5の上端部と上側の第一連結部材5の下端部との間に、第一スペーサ部材250を介在させた上で、下側の第一連結部材5の上端部と上側の第一連結部材5の下端部とを溶接(W)しても良い。同様に、下側の第二連結部材6の上端部と上側の第二連結部材6の下端部との間に、第一スペーサ部材250を介在させた上で、下側の第二連結部材6の上端部と上側の第二連結部材6の下端部とを溶接(W)しても良い。
【0035】
本構成であれば、上下の第一連結部材5,5の端部同士の間に第一スペーサ部材250が介在され、また、上下の第二連結部材6,6の端部同士の間に第一スペーサ部材250が介在されているので、径方向における溶接(W)の厚みが薄くなって、溶接量が減る。このため、溶接(W)による第一連結部材5及び第二連結部材6の収縮が大幅に軽減され、上鋼管4の上端部における断面変形の発生が抑制される。この結果、鋼管矢板1,2全体としての止水性は維持しつつも、真円度調整が不要な鋼管矢板の連結構造とすることができる。
【0036】
〔その他の別実施形態〕
(1)上述の実施形態においては、第一カバー部材50及び第二カバー部材60を、三つのカバー片51(61)に分割した例と、一つの部材で構成した第一カバー部材150及び第二カバー部材160の例と、を示したが、これらに限られるものではない。特に、図示はしないが、第一カバー部材50及び第二カバー部材60は、第一連結部材5及び第二連結部材6の管径等に応じて、適宜、二つ、または、四つ以上の部材に分割してあっても良い。
【0037】
(2)上述の実施形態においては、カバー片51(61)の内側面に止水部材52(62)を設けた例を示したが、止水部材52(62)は必ずしも設ける必要はない。
【0038】
(3)上述の実施形態においては、第一スペーサ部材250及び第一スペーサ部材250として、スチール部材を用いた例を示したが、これに限られるものではない。例えば、弾性部材や、接着剤を、第一スペーサ部材250及び第一スペーサ部材250として用いても良い。特に、接着剤を用いれば、上下の第一連結部材5,5同士の接合、及び、上下の第二連結部材6,6同士の接合が、接着剤によっても達成されるので、溶接量をさらに減らすことができる。また、接着剤は溶剤であるので、接着剤が、上下の第一連結部材5,5の端部同士の隙間、及び、上下の第二連結部材6,6の端部同士の隙間に密に充填されて、鋼管矢板1,2の止水性が向上する。
【0039】
(4)上述の実施形態においては、下鋼管3と上鋼管4との接合を溶接によって行う鋼管矢板1,2に本発明を適用した例を示したが、これに限られるものではない。本発明によると、上下の第一連結部材5の連結及び上下の第二連結部材6の連結によって上鋼管4が変形することがないので、下鋼管3と上鋼管4との接合に機械式継手を使う鋼管矢板に本発明を適用することも可能である。
【0040】
(5)上述の実施形態においては、第一連結部材5及び第二連結部材6を、鋼管3,4の上端部から下端部までの全長に亘るように固着してあったが、これに限られるものではない。例えば、特に図示はしないが、鋼管3,4の上端部及び下端部を避けて第一連結部材5及び第二連結部材6を固着し、上下の連結部材同士5,5(6,6)を連結する連結継手を使用しても良い(JIS A5530参照)。この場合は、連結継手の下端部と下側の連結部材5,6の上端部との連結、及び、連結継手の上端部と上側の連結部材5,6の下端部との連結に、カバー部材50,60(150,160)、または、スペーサ部材250,260を介在させた上での溶接(W)を適用する。なお、この場合は、連結部材は、本発明に係る「第一連結部材」の一部、または、本発明に係る「第二連結部材」の一部に相当することになる。
【0041】
(6)上述の実施形態においては、第一連結部材5及び第二連結部材6をC字形状断面とした例(JIS A5530におけるP-P形)を示したが、これに限られるものではない。例えば、JIS A5530におけるL-T形や、P-T形の連結構造を採用しても良い。これらの場合は、第一連結部材5及び第二連結部材6の形状によって、カバー部材50,60(150,160)とスペーサ部材250,260を介在させた上での溶接(W)とを使い分ければ良い。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第一鋼管矢板と、少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第二鋼管矢板と、を水平方向に連結可能な鋼管矢板の連結構造に適用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 第一鋼管矢板
2 第二鋼管矢板
3 下鋼管(二つの鋼管)
4 上鋼管(二つの鋼管)
5 第一連結部材
6 第二連結部材
11 上凹入部(外周部)
12 下凹入部(外周部)
50 第一カバー部材
52 止水部材
60 第二カバー部材
62 止水部材
150 第一カバー部材
160 第二カバー部材
250 第一スペーサ部材
260 第二スペーサ部材
X 軸芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第一鋼管矢板と、少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第二鋼管矢板と、を水平方向に連結可能な鋼管矢板の連結構造であって、
前記第一鋼管矢板を構成する前記鋼管の軸芯方向に沿って延在すると共に、前記第一鋼管矢板を構成する前記鋼管の外周部に固着された第一連結部材と、
前記第二鋼管矢板を構成する前記鋼管の軸芯方向に沿って延在すると共に、前記第二鋼管矢板を構成する前記鋼管の外周部に固着され、前記第一連結部材と係合可能な第二連結部材と、を備え、
前記第一鋼管矢板を構成するに際して、下側の前記鋼管における前記第一連結部材の端部と上側の前記鋼管における前記第一連結部材の端部との隙間を塞ぐように、下側の前記第一連結部材の外周部及び上側の前記第一連結部材の外周部に亘る第一カバー部材を取付けると共に、
前記第二鋼管矢板を構成するに際して、下側の前記鋼管における前記第二連結部材の端部と上側の前記鋼管における前記第二連結部材の端部との隙間を塞ぐように、下側の前記第二連結部材の外周部及び上側の前記第二連結部材の外周部に亘る第二カバー部材を取付ける鋼管矢板の連結構造。
【請求項2】
前記第一カバー部材は、下側の前記第一連結部材の外周部及び上側の前記第一連結部材のうち何れか一方にのみボルト固定可能であり、
前記第二カバー部材は、下側の前記第二連結部材の外周部及び上側の前記第二連結部材のうち何れか一方にのみボルト固定可能である請求項1に記載の鋼管矢板の連結構造。
【請求項3】
前記第一カバー部材及び前記第二カバー部材は、止水部材を介在させて前記第一連結部材の外周部または前記第二連結部材の外周部に取付ける請求項1または2に記載の鋼管矢板の連結構造。
【請求項4】
少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第一鋼管矢板と、少なくとも二つの鋼管を鉛直方向に接合して構成した第二鋼管矢板と、を水平方向に連結可能な鋼管矢板の連結構造であって、
前記第一鋼管矢板を構成する前記鋼管の軸芯方向に沿って延在すると共に、前記第一鋼管矢板を構成する前記鋼管の外周部に固着された第一連結部材と、
前記第二鋼管矢板を構成する前記鋼管の軸芯方向に沿って延在すると共に、前記第二鋼管矢板を構成する前記鋼管の外周部に固着され、前記第一連結部材と係合可能な第二連結部材と、を備え、
前記第一鋼管矢板を構成するに際して、下側の前記鋼管における前記第一連結部材の端部と上側の前記鋼管における前記第一連結部材の端部との間に第一スペーサ部材を介在させた上で、下側の前記第一連結部材の端部と上側の前記第一連結部材の端部とを溶接すると共に、
前記第二鋼管矢板を構成するに際して、下側の前記鋼管における前記第二連結部材の端部と上側の前記鋼管における前記第二連結部材の端部との間に第二スペーサ部材を介在させた上で、下側の前記第二連結部材の端部と上側の前記第二連結部材の端部とを溶接する鋼管矢板の連結構造。
【請求項5】
前記第一スペーサ部材及び前記第二スペーサ部材は、接着剤である請求項4に記載の鋼管矢板の連結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−180680(P2012−180680A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44229(P2011−44229)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】