説明

鋼線張力付与方法及びその装置

【課題】簡単な機構と低コストで効率よく鋼線に一定の張力を与える鋼線張力付与方法及びその装置を提供する。
【解決手段】鋼線Wをスプール17より巻き出し、巻き出された鋼線Wを調整バネの付勢力により入側押さえ材3で押圧し、入側押さえ材3を通過した鋼線Wを中央部全周に断面円弧状の溝が形成されたロール2の溝部に1回または複数回捲回する。ロール2を通過した鋼線Wを出側押さえ材4を通過させて鋼線Wに一定の張力を与える。その後鋼線Wをスクリーンドラム16の駆動装置に付設され、スクリーンドラム16回動軸方向に移動自在な鋼線ガイド18を介してスクリーンドラム16外周上の濾布に巻き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーンドラムの外周全面に濾布を捲回するために鋼線に一定の張力を与え、スクリーンドラム外周上の濾布に巻き付ける方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉工場で使用される連続真空濾過機(オリバーフィルター)のスクリーンドラム外周に濾布を取り付けるために、スクリーンドラムの外周全面に捲回された濾布に鋼線を巻き付け、濾布を固定している。
【0003】
この鋼線巻付作業は従来、図6に示すように、熟練の作業者がテーパを有する一対の木製部材19a、19bを重ね合わせ、鋼線を押圧して、作業者の経験と勘により木製部材19a、19bと鋼線間に適正な摺動抵抗を与え、鋼線の張力を一定に調整していた。
【0004】
従来、鋼線に対して一定の張力を与えドラム等に巻き取る方法あるいは装置が提案されている。たとえば特許文献1には、鋼線に対して一定のテンションを与える定テンション装置に掛け、次いで各鋼線を束ねた状態で引き揃えキャプスタン装置を通過させ、その後スプールに巻き取る鋼線の巻き取り方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−309492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図6に示す鋼線巻付作業は鋼線の張力が一定に保てず、鋼線が緩んだり破断したりして、作業品質が保てないという問題がある。
【0006】
特許文献1に記載のものは、各鋼線に掛かるテンションのばらつきを制御して巻き長さを同一としてスプールに巻き取る方法に関するものであり、この種のスクリーンドラムの外周に濾布を取り付けるために、スクリーンドラムの外周全面に捲回された濾布に鋼線を巻き付け、濾布を固定する方法を対象とするものではない。また、特許文献1に記載の方法は大掛かりで複雑な構成となっており、多大なコストがかかる。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、簡単な機構と低コストで効率よく鋼線に一定の張力を与える鋼線張力付与方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う請求項1記載の鋼線張力付与方法は、スクリーンドラムの外周全面に濾布を捲回するために鋼線に一定の張力を与えスクリーンドラム外周上の濾布に巻き付ける方法であって、前記鋼線をスプールより巻き出し、巻き出された前記鋼線を調整バネの付勢力により入側押さえ材で押圧し、前記入側押さえ材を通過した前記鋼線を中央部全周に断面円弧状の溝が形成されたロールの前記溝部に1回または複数回捲回し、前記ロールを通過した前記鋼線を出側押さえ材を通過させて前記鋼線に一定の張力を与え、その後前記鋼線を前記スクリーンドラムの駆動装置に付設され、前記スクリーンドラム回動軸方向に移動自在な鋼線ガイドを介して前記スクリーンドラム外周上の濾布に巻き付けること特徴とする。
【0009】
請求項2記載の鋼線張力付与装置は、スクリーンドラムの外周全面に濾布を捲回するために鋼線に一定の張力を与えスクリーンドラム外周上の濾布に巻き付ける装置であって、前記鋼線をストックするスプールと、前記スプールから巻き出された前記鋼線を調整バネの付勢力により押圧する入側押さえ材と、前記入側押さえ材を通過した前記鋼線を捲回するため、中央部全周に断面円弧状の溝が形成されたロールと、前記ロールを通過した前記鋼線をガイドする出側押さえ材とを備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の鋼線張力付与装置は、前記鋼線に一定の張力を与えるため、前記ロールに貫装されたロール軸の一端にトルク保持器を設けたことを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の鋼線張力付与装置は、前記鋼線に与えられた張力を測定するため、前記出側押さえ材の後方適所に設けられた転向滑車に張力測定器を連結したことを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の鋼線張力付与装置は、前記入側押さえ材及び前記出側押さえ材が樫材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の鋼線張力付与方法及び請求項2〜5記載の鋼線張力付与装置においては、鋼線をスプールより巻き出し、調整バネの付勢力により入り側押さえ材で押圧し、入側押さえ材を通過した鋼線を中央部全周に断面円弧状の溝が形成されたロールの溝部に1回または複数回捲回し、ロールを通過した鋼線を出側押さえ材に通して、鋼線に一定の張力を与えることができる。簡単な機構でかつ軽量で広いスペースを必要としない。
【0014】
特に請求項3記載の鋼線張力付与装置においては、ロール軸の一端にトルク保持器を設けているので、鋼線の張力を一定に保ちかつ容易に調整することができる。
【0015】
請求項4記載の鋼線張力付与装置においては、出側押さえ材の後方適所に設けられた転向滑車に張力測定器を連結したので、鋼線張力を定量的に計測することができる。
【0016】
請求項5記載の鋼線張力付与装置においては、入側押さえ材及び出側押さえ材に樫材を使用するので、耐磨耗性が増すとともに鋼線に適正な摺動抵抗を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に基づき、本発明による鋼線張力付与方法及びその装置の好適な実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係る鋼線張力付与装置の組立平面図、図2は同鋼線張力付与装置の組立正面図、図3は図2の右側面図、図4は入側押さえ材3または出側押さえ材4の組立正面図及び右側側面図、図5は同鋼線張力付与装置を使用して、連続真空濾過機(オリバーフィルター)のスクリーンドラム外周全面に捲回された濾布に鋼線を巻き付け、濾布を固定する作業内容を示す概略斜視図である。図6は従来の鋼線巻き付け作業内容を示す概略斜視図である。
【0018】
図1〜図3は、この実施形態における鋼線張力付与装置1の構成を示している。本発明の鋼線張力付与装置1は、コモンベッド5上に設けられた中央部全周に断面円弧状の溝2aが形成されたロール2と、ロール2を中心として、その前後に配設された入側押さえ材3及び出側押さえ材4とから構成されている。また、ロール2にはロール軸6が貫装され、このロール軸6は、コモンベッド5の上端部に設けられた固定部11,12に回転可能に水平方向に軸支されている。
【0019】
スプール17から直径2.9mmのステンレス鋼線W(以下、鋼線)を手動で巻き出し、ロール2の前方に配設された入側押さえ材3の上部材3aと下部材3bとの間を通す。上部材3aと下部材3bの垂直方向に貫設した通しボルト7の一端に螺合したナット9を締め、通しボルト7に環装された調整バネ(圧縮コイルバネ)8の付勢力により、上部材3aを押圧して鋼線Wに適正な摺動抵抗を与える。なお、本例の場合、上部材3aと下部材3bには耐磨耗性のある堅牢な樫材を用いる。
【0020】
入側押さえ材3を通過した鋼線Wをロール2中央部の溝2a部に1回または複数回捲回して、鋼線Wがロール2の外周上をスリップすることを防止する。また、溝2aはその断面が円弧状に形成されているので、鋼線Wがロール2から離脱するのを防止することができる。なお、本例の場合、ロール2の直径は200mmである。
【0021】
ロール2に貫装されたロール軸6の一端に固設されたトルク保持器10のトルクを、鋼線Wの張力が一定に保持されるのに必要な値に設定する。なお、本例の場合、トルク設定値は69.6〜341N・m(7.1〜34.8kgf・m)の間で調整する。
【0022】
ロール2中央部の溝2a部に1回または複数回捲回された鋼線Wを、ロール2の後方に配設された出側押さえ材4の上部材4aと下部材4bとの間を通して鋼線の走行をガイドする。このように鋼線Wを走行させることで、鋼線Wに適正な摺動抵抗を与える。上部材4aと下部材4bには、入側押さえ材3と同様に耐磨耗性のある堅牢な樫材を用いる。
【0023】
図6に示すように、鋼線Wの張力は転向滑車13に連結した張力測定器14で測定し、適正な値に調整することができる。なお、本例の場合、張力測定器14にはバネ秤を用い、鋼線Wの張力は2940〜3528N(300〜360kgf)の間で調整する。
【0024】
以上の一連の作業により、鋼線Wがロール2の外周上をスリップするのを防止することができ、かつ鋼線Wに一定の張力を与えることができる。
【0025】
鋼線Wは転向滑車13を通過後、連続真空濾過機(オリバーフィルター)15のスクリーンドラム16の駆動装置(図示しない)に付設され、スクリーンドラム16の回動軸方向に移動自在な鋼線ガイド18を介してスクリーンドラム16の外周上の濾布(図示しない)に巻き付けられる。
【0026】
なお、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更等が可能である。
上記実施形態ではステンレス鋼線に一定の張力を付与する場合を説明したが、銅線や番線(例えば、亜鉛メッキ鉄線)等の線材に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態に係る鋼線張力付与装置の組立平面図である。
【図2】同鋼線張力付与装置の組立正面図である。
【図3】図2の右側面図である。
【図4】(A)は入側押さえ材または出側押さえ材の組立正面図、(B)は(A)の右側側面図である。
【図5】同鋼線張力付与装置を使用して、連続真空濾過機(オリバーフィルター)のスクリーンドラム外周全面に捲回された濾布に鋼線を巻き付け、濾布を固定する作業内容を示す概略斜視図である。
【図6】従来の鋼線巻き付け作業内容を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0028】
1 鋼線張力付与装置
2 ロール
2a 溝
3 入側押さえ材
4 出側押さえ材
5 コモンベッド
6 ロール軸
7 通しボルト
8 調整バネ(圧縮コイルバネ)
9 ナット
10 トルク保持器
11,12 固定部
13 転向滑車
14 張力測定器
15 連続真空濾過機(オリバーフィルター)
16 スクリーンドラム
17 スプール
18 鋼線ガイド
19a 木製部材(上部)
19b 木製部材(下部)
W 鋼線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーンドラムの外周全面に濾布を捲回するために鋼線に一定の張力を与えスクリーンドラム外周上の濾布に巻き付ける方法であって、
前記鋼線をスプールより巻き出し、巻き出された前記鋼線を調整バネの付勢力により入側押さえ材で押圧し、
前記入側押さえ材を通過した前記鋼線を中央部全周に断面円弧状の溝が形成されたロールの前記溝部に1回または複数回捲回し、前記ロールを通過した前記鋼線を出側押さえ材を通過させて一定の張力を与え、
その後前記鋼線を前記スクリーンドラムの駆動装置に付設され、前記スクリーンドラム回動軸方向に移動自在な鋼線ガイドを介して前記スクリーンドラム外周上の濾布に巻き付けること特徴とする鋼線張力付与方法。
【請求項2】
スクリーンドラムの外周全面に濾布を捲回するために鋼線に一定の張力を与えスクリーンドラム外周上の濾布に巻き付ける装置であって、
前記鋼線をストックするスプールと、前記スプールから巻き出された前記鋼線を調整バネの付勢力により押圧する入側押さえ材と、前記入側押さえ材を通過した前記鋼線を捲回する中央部全周に断面円弧状の溝が形成されたロールと、前記ロールを通過した前記鋼線をガイドする出側押さえ材とを備えたことを特徴とする鋼線張力付与装置。
【請求項3】
前記鋼線に一定の張力を与えるため、前記ロールに貫装されたロール軸の一端にトルク保持器を設けたことを特徴とする請求項2に記載の鋼線張力付与装置。
【請求項4】
前記鋼線に与えられた張力を測定するため、前記出側押さえ材の後方適所に設けられた転向滑車に張力測定器を連結したことを特徴とする請求項2及び3のいずれか1項に記載の鋼線張力付与装置。
【請求項5】
前記入側押さえ材及び前記出側押さえ材が樫材であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の鋼線張力付与装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−75766(P2006−75766A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−263921(P2004−263921)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000178011)山九株式会社 (48)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】