説明

錠剤の製造方法

少量で薬理活性が高い医薬の錠剤は、製剤中の含量の均一性について特に注意を払う必要があり、通常、少量の医薬を賦形剤で倍々希釈して均一な混合物を得る方法や、医薬を溶媒に溶解させ、これを添加剤に加えて湿式造粒する方法等がとられている。しかし、倍々希釈する方法は、製剤工程数が多く生産効率の点で問題があり、湿気や酸素に対して安定性に問題がある医薬の場合は、湿式造粒する方法では、主薬の含量低下が生じ易い。ところが、医薬を平均粒子径が1〜20μmの微粉末として結合剤を含む不溶性の液体媒体中に均一に懸濁させ、得られた懸濁液を流動化している製剤上の添加物に噴霧して流動層造粒し、乾燥後医薬の割合が錠剤全体に対し0.1〜10重量%となるように圧縮成形すると、特別に工程数を増やすことなく、且つ短時間で医薬含量が均一な錠剤を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、少量で薬理活性が高い医薬、すなわち1回の投与量が少ない医薬の含量の均一性と保存性を確保し、しかも工業的有利に錠剤を製造する方法に関する。
【背景技術】
少量で薬理活性が高い医薬の錠剤は、製剤中の医薬含量が少なく、その僅かなばらつきが原因で期待通りの効果が得られなかったり、不測の副作用が出現する場合がある。したがって、医薬含量が少ない製剤を製造する場合は、医薬含量の均一性について特に注意を払う必要があり、通常、少量の医薬を賦形剤で倍々希釈して均一な混合物を得る方法や、医薬を溶媒に溶解させ、これを添加剤(賦形剤、増量剤などを含む。)に加えて湿式造粒する方法等がとられている。しかし、前記の倍々希釈する方法は、製剤工程数が多く生産効率の点で問題がある。また、湿気や酸素に対して安定性に問題がある医薬の場合、一旦溶液にして湿式造粒し、顆粒ないし錠剤とする方法では、主薬の活性低下が生じ易い。
本発明の課題は、製剤中の医薬含量が少ない錠剤を製造するに当たり、特別に工程数を増やすことなく医薬含量が均一な錠剤を短時間に製造することができ、しかも製剤化時及び製造後も医薬を安定に保持できる錠剤の製造方法を提供することにある。
【発明の開示】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、微粉末状医薬を結合剤を溶解した不溶性溶媒に懸濁させ、その懸濁液を流動化させている製剤上の添加物に噴霧して造粒し、乾燥後、圧縮成形すると、医薬含量の均一性の点、医薬の安定保存の点並びに打錠時の医薬の失活抑制の点でも優れた錠剤が得られることを見出し、更に研究を重ねて本発明を完成するに到った。
すなわち本発明は、
1.平均粒子径が1〜20μmの微粉末状医薬を不溶性の液体媒体中に均一に懸濁させ、得られた懸濁液を流動化している製剤上の添加物に噴霧して流動層造粒し、乾燥後医薬の割合が錠剤全体に対し0.1〜10重量%となるように圧縮成形する錠剤の製造法、
2.懸濁液が結合剤を含有する請求項1記載の製造法、
3.結合剤の懸濁液に対する割合が1〜30重量%である請求項1記載の製造法
4.製剤上の添加物が賦形剤と結合剤を含有する請求項1記載の製造法、
5.結合剤の製剤上の添加物に対する割合が1〜15重量%である請求項1記載の製造法、
6.結合剤の医薬に対する割合が100〜1000重量%である請求項1記載の製造法、および
7.医薬が、トランドラプリル、ペリンドプリル、エチゾラムまたはブチゾラムであり、液体媒体が水である請求項1記載の製造法、
である。
本発明で用いられる医薬は、前記のほか、室温で固体であり、少量で薬理活性が高く、したがって微量の投与量で効果を示し、湿式造粒の際に使用される溶媒に難溶であれば、特に限定されない。その医薬の微粉末の平均粒子経は、1〜20μmであるが、好ましくは2〜15μm、より好ましくは3〜10μmである。
錠剤に占める医薬の割合は、0.1〜10w/w%であるが、好ましくは、0.2〜5w/w%である。
前記不溶性の溶媒としては、製剤の際に通常用いられている水やエタノール、塩化メチレン等の有機溶媒が挙げられるが、本発明においては医薬を実質的に溶解しない溶媒が選択される。
本発明に用いられる製剤上の添加剤には、賦形剤、増量剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等が含まれる。
賦形剤又は増量剤としては、たとえば、乳糖、白糖、トウモロコシデンプン、結晶セルロース等が挙げられ、中でも乳糖や結晶セルロースが好ましい。
崩壊剤としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、部分アルファー化デンプン、トウモロコシデンプン等が使用できる。
結合剤としては、ポリビニルピロリドン、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プルラン、部分アルファー化デンプン、アルファー化デンプン、マクロゴール6000等が挙げられ、それらの混合物も好適に使用される。
滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、タルク、硬化油、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
必要に応じて矯味、矯臭、着色剤、その他の添加剤を加えてもよい。
流動層造粒法は、流動層造粒装置内の粉末(核粒子)の充填層の下から空気を送入し、粉末が空気流に浮遊、分散している状態、つまり流動層を形成させ、その流動層に結合剤を含む噴霧液をスプレーノズルから噴霧して粒子を相互に付着凝集させて粒子を成長させる方法である。
流動層造粒装置には操作上の分類から回分式、半連続式、連続式などが、またスプレーノズルの位置や噴霧方向により、流動層型、噴流流動層型、噴流層型などに分類されるが、本発明においてはいずれの装置も使用可能である。
本発明方法において用いられる核粒子粉末は、通常賦形剤であり、その平均粒子経は20〜200μm程度のものが好ましい。噴霧液量は、重量割合で仕込粉末の1/10〜2倍量、好ましくは1/7〜1倍量である。医薬粉末は噴霧液中に均一に懸濁される。
結合剤は、噴霧液中に溶解させてもよく、また、流動層を形成させる粉末の中に加えてもよく、その両者でもよい。結合剤の使用割合は、医薬に対して100〜1000重量%、好ましくは200〜700重量%である。噴霧液中または核粒子粉末中の結合剤の使用割合は、1〜30重量%、好ましくは2〜25重量%である。
流動層造粒装置の吸気温度は50〜100℃、好ましくは60〜90℃で、排気温度が20〜60℃、好ましくは25〜40℃となるよう吸気温度、噴霧液の噴霧速度及び送風量を調節するのがよい。噴霧時間は、原料粉末の仕込量、噴霧速度(量)によっても異なってくるが、通常20〜120分で終了する。噴霧が終了すれば5〜30分程度吸気を続けて乾燥すると乾燥造粒物が得らる。得られた造粒物の平均粒子経は50〜500μm程度である。
この造粒物に、必要によりさらに賦形剤、崩壊剤や滑沢剤を適宜混合し、常法に従って圧縮打錠する。
本発明の錠剤は、通常の方法、例えば第十四改正日本薬局方の製剤総則に記載されている方法により、容易に製造できる。
なお、得られた錠剤は、任意にコーティングされてもよい。
本発明を実施するための最良の形態
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
乳糖3195g、ポリビニルピロリドン90gおよび部分アルファー化デンプン150gを混合して流動層造粒機(FD−5S、パウレック社製)に投入し、流動層を形成させた。精製水690mLとポリビニルピロリドン60gからなる溶液に平均粒子経8μmのトランドラプリル粉末30gを均一に分散させた懸濁液を調製し、この液を40g/分の速度で流動層中に噴霧した。造粒機への吸気温度が60℃、排気温度が25〜30℃となるよう空気の温度と送風量を調節した。噴霧終了後、5分間送風乾燥し、造粒物を得た。
得られた造粒物を24メッシュのJIS標準篩で篩過して整粒末を得た。この整粒末に、硬化油75gを加え、タンブラー混合機(TM−15S、昭和技研株式会社製)を用いて均一に混合し、回転式打錠機で圧縮成型して次の組成を有する錠剤を得た。
〔成 分〕 〔1錠当たりの重量(mg)〕
トランドラプリル 1.0
乳糖 106.5
ポリビニルピロリドン 5.0
部分アルファー化デンプン 5.0
硬化油 2.5
合 計 120.0
【実施例2】
実施例1と同様にして、乳糖3300g、結晶セルロース2100gおよびトウモロコシデンプン600gを混合して流動層造粒機に投入し、流動層を形成させた。次いで、精製水1800mLとマクロゴール6000の120gからなる溶液に平均粒子径6μmのエチゾラム粉末60gを加えて均一に分散させた液を調製し、この液を100g/分の速度で流動層中に噴霧して、造粒した。得られた造粒物を、乾燥後、30メッシュのJIS標準篩で篩過し、整粒末を得た。この整粒末にカルボキシメチルセルロースカルシウム300gおよびステアリン酸マグネシウム120gを加え、タンブラー混合機を用いて均一に混合し、回転式打錠機で圧縮成形して下記組成の錠剤を得た。
〔成 分〕 〔1錠当たりの重量(mg)〕
エチゾラム 1.0
乳糖 55.0
結晶セルロース 35.0
トウモロコシデンプン 10.0
マクロゴール6000 2.0
カルボキシメチルセルロースカルシウム 5.0
ステアリン酸マグネシウム 2.0
合 計 110.0
比較例1
乳糖3195g、ポリビニルピロリドン150gおよび部分アルファー化デンプン150gを高速撹拌造粒機(バーチカルグラニュレータ、FM−VG−10 パウレック社製)に投入し、290/rpmで攪拌混合した。次いで、エチルアルコール900mLにトランドラプリル粉末30gを溶解した液を加えて造粒した。得られた造粒物を、乾燥後、30メッシュのJIS標準篩で篩過して整粒末を得た。
この整粒末に硬化油75gを加え、タンブラー混合機を用いて均一に混合し、回転打錠機で圧縮成型して下記組成の錠剤を得た。
〔成 分〕 〔1錠当たりの重量(mg)〕
トランドラプリル 1.0
乳糖 106.5
ポリビニルピロリドン 5.0
部分アルファー化デンプン 5.0
硬化油 2.5
合 計 120.0
比較例2
比較例1と同様の方法により、乳糖1650g、結晶セルロース1050gおよびトウモロコシデンプン300gを高速攪拌造粒機に投入し、攪拌混合した。次いで、エチルアルコール900mLにエチゾラム30gを溶解した液を加えて造粒した。得られた造粒物を、乾燥後、30メッシュのJIS標準篩で篩過し、整粒末を得た。この整粒末にカルボキシメチルセルロースカルシウム150gおよびステアリン酸マグネシウム60gを加え、タンブラー混合機を用いて均一に混合し、回転式打錠機で圧縮成形して下記組成の錠剤を得た。
〔成 分〕 〔1錠当たりの重量(mg)〕
エチゾラム 1.0
乳糖 55.0
結晶セルロース 35.0
トウモロコシデンプン 10.0
マクロゴール6000 2.0
カルボキシメチルセルロースカルシウム 5.0
ステアリン酸マグネシウム 2.0
合 計 110.0
試験例1(苛酷試験による製剤の保存安定性比較)
実施例1および2並びに比較例1および2で得た各錠剤を、温度60℃、湿度75%で密封保存およびシャーレ中開放保存し、10日後に各錠剤の医薬残存量を高速液体クロマトグラフ法により測定した。なお、定量は内標準法によった。結果(医薬の初期値に対する残存値の百分率)は下記のとおりである。
密封保存 シャーレ中開放保存
実施例1 97.0% 95.7%
比較例1 91.5% 80.5%
実施例2 98.6% 97.2%
比較例2 96.1% 93.7%
この結果から、本発明の実施例1および2の錠剤は、医薬の安定化効果の点で対応する比較例1および2より、それぞれ優れていることが判明した。
試験例2(含量均一性試験)
試験は、第十四改正日本薬局方に記載の「12.含量均一性試験法」に準拠した。すなわち、実施例1および2並びに比較例1および2で得た各錠剤10個づつについて医薬含量を高速液体クロマトグラフ法により測定し、各医薬含量の均一性を調べた。その結果、判定値は何れも適合であった。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、製剤中の医薬含量が少ない錠剤に関し、特別に工程数を増やすことなく且つ短時間で医薬含量が均一な錠剤を製造することができ、しかも打錠時の医薬の失活を抑制し、高い保存安定性を有する錠剤が製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が1〜20μmの微粉末状医薬を不溶性の液体媒体中に均一に懸濁させ、得られた懸濁液を流動化している製剤上の添加物に噴霧して流動層造粒し、乾燥後医薬の割合が錠剤全体に対し0.1〜10重量%となるように圧縮成形する錠剤の製造法。
【請求項2】
懸濁液が結合剤を含有する請求の範囲第1項記載の製造法。
【請求項3】
結合剤の懸濁液に対する割合が1〜15重量%である請求の範囲第1項記載の製造法。
【請求項4】
製剤上の添加物が賦形剤と結合剤を含有する請求の範囲第1項記載の製造法。
【請求項5】
結合剤の製剤上の添加物に対する割合が1〜15重量%である請求の範囲第1項記載の製造法。
【請求項6】
結合剤の医薬に対する割合が100〜1000重量%である請求の範囲第1項記載の製造法。
【請求項7】
医薬が、トランドラプリル、ペリンドプリル、エチゾラムまたはブチゾラムであり、液体媒体が水である請求の範囲第1項請求の範囲第1項記載の製造法。

【国際公開番号】WO2004/089344
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−570538(P2004−570538)
【国際出願番号】PCT/JP2003/004193
【国際出願日】平成15年4月1日(2003.4.1)
【出願人】(593030071)大原薬品工業株式会社 (40)
【Fターム(参考)】