錫めっき膜および該錫めっき膜を形成する錫めっき浴
【課題】ウィスカの発生を抑制可能で、錫めっき浴の管理の容易化並びにめっきコストの低価格化を図る。
【解決手段】リード基材22を被覆する錫めっき膜26には、非イオン性の高分子微粒子28が含有されている。高分子微粒子28は、錫めっき膜26の加わる応力によって変形して、該応力を緩和する。これによって、ウィスカの生成を抑制することができ、錫めっき膜26で被覆した外部リードを備える電子部品においては、ウィスカに起因する短絡の発生を防止し得る。
【解決手段】リード基材22を被覆する錫めっき膜26には、非イオン性の高分子微粒子28が含有されている。高分子微粒子28は、錫めっき膜26の加わる応力によって変形して、該応力を緩和する。これによって、ウィスカの生成を抑制することができ、錫めっき膜26で被覆した外部リードを備える電子部品においては、ウィスカに起因する短絡の発生を防止し得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非イオン性の高分子微粒子を含有する錫めっき膜および該錫めっき膜を形成するための錫めっき浴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、集積回路や、トランジスタ等の電子部品10は、図5に示す如く、その素子12が、例えばリードフレーム14上に固着された後、ワイヤボンディング等によりワイヤ16を介してリードフレーム14と電気的に接続され、更にモールド樹脂18等により樹脂封止されている。そして、電子部品10とプリント基板等の外部回路とを接続するためにモールド樹脂18の外側に露出した外部リード20は、図6に示す如く、リード基材22の表面に、例えば錫−鉛合金、所謂鉛半田のめっき膜24が形成されている。
【0003】
近年の鉛による環境汚染の問題に対する鉛フリー化の要請に伴い、鉛半田めっき膜24に含まれる鉛の使用が規制されつつある。そのため、鉛半田めっきに替わって、外部リード20のリード基材22を被覆するめっき膜に関する様々な提案がなされており、例えば錫だけから形成される、所謂純錫めっき膜の使用等が挙げられる。
【0004】
しかし、錫だけから形成されるめっき膜の場合、電子部品10の使用環境条件によっては、リード基材22の表面を被覆するように形成された純錫めっき膜の表面からウィスカと呼ばれるヒゲ状物が生成することが知られている。このウィスカは、幅が略数μm、長さが最大で数mm程度の細長いヒゲ状の生成物であるため、該ウィスカが隣接する外部リード20,20間の短絡の原因となる問題があった。
【0005】
そこで、純錫めっき膜に起因するウィスカの抑制方法について、幾つかの提案がされている。例えば、特許文献1には、前記純錫めっき膜に替えて、耐ウィスカ性に優れたビスマスを用い、ビスマス含有量が0〜1wt%の錫−ビスマス合金からなる下層めっき膜と、ビスマス含有量が1〜10wt%の錫−ビスマス合金からなる上層めっき膜とを備える複合めっき膜を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−330340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記ビスマスはレアメタルであるため、めっき膜の形成に係るコストが増大してしまう問題が指摘される。また、前記複合めっき膜を形成するためのめっき浴中に金属であるビスマスが含有されていると、めっき膜の形成に伴って該ビスマスがアノード(電極)に析出してしまう。アノードにビスマスが析出すると、該アノードからの電流放出が阻害されるため、めっきに必要な錫イオンをめっき浴中に効率的に供給できなくなって、被めっき部(カソード)に好適なめっき膜の形成が困難となってしまう。更に、めっき作業を行なうことでめっき浴中のビスマス含有量が減少するため、該ビスマス含有量の測定および調整といった煩雑な作業が不可欠となる。前記ビスマスの析出による弊害は、該ビスマスをアノードから除去することで回避されるが、該除去に係る作業を頻繁に実施しなければならず、やはりめっき浴の管理が煩雑になる問題を内在している。
【0008】
すなわち本発明は、従来の技術に内在する問題に鑑み、これらを好適に解決すべく提案されたものであって、ウィスカの生成を抑制すると共に、アノードおよび錫めっき浴の管理の容易化およびめっきコストの低価格化を図り得る錫めっき膜および該錫めっき膜を形成する錫めっき浴を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係る被めっき部に付与される錫めっき膜は、非イオン性の高分子微粒子を含有していることを特徴とする。
従って、請求項1に係る発明によれば、ウィスカの生成原因となる錫めっき膜に加わる応力を、該錫めっき膜に含有されている高分子微粒子が変形して緩和することでウィスカの生成を抑制し得る。すなわち、鉛やビスマスを用いることなくウィスカの生成を抑制することができるから、環境を汚染することはなく、かつコストを低廉に抑えることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、前記高分子微粒子の円形度を、
円形度=〔粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長〕/〔粒子を撮像した画像の周囲長〕
としたときに、該円形度が0.8〜1.0であることを要旨とする。
従って、請求項2に係る発明によれば、高分子微粒子の高い球状性および錫間への取り込まれ易さによって、錫めっき膜に加わる多方向からの応力を緩和することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、前記高分子微粒子は、100重量部の前記錫めっき膜に対して、0.01〜5重量部含有されることを要旨とする。
従って、請求項3に係る発明によれば、ウィスカの生成を好適に抑制すると共に、高分子微粒子に起因する錫めっき膜の剥離を防止し得る。
【0012】
請求項4に記載の発明では、前記高分子微粒子の平均粒子径は、前記錫めっき膜の厚さ未満にされることを要旨とする。
従って、請求項4に係る発明によれば、ウィスカの生成を好適に抑制し得る。
【0013】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、請求項5に記載の発明に係る被めっき部に錫めっき膜を付与するために使用される錫めっき浴は、非イオン性の高分子微粒子を含有していることを特徴とする。
従って、請求項5に係る発明によれば、被めっき部に、高分子微粒子を含有する錫めっき膜を低コストで付与することができる。また、アノードに析出するビスマス等の金属系含有物を用いていないので、アノードおよび錫めっき浴の管理を容易化し得る。
【0014】
請求項6に記載の発明では、前記高分子微粒子の円形度を、
円形度=〔粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長〕/〔粒子を撮像した画像の周囲長〕
としたときに、該円形度が0.8〜1.0であることを要旨とする。
従って、請求項6に係る発明によれば、高分子微粒子の高い球状性および錫間への取り込まれ易さによって、錫めっき浴中で安定的に分散するから、錫めっき膜の全体に高分子微粒子を均等に分散して含有させることができる。
【0015】
請求項7に記載の発明では、前記高分子微粒子は、1リットルの前記錫めっき浴に対して、10〜100グラム含有されることを要旨とする。
従って、請求項7に係る発明によれば、ウィスカの生成を好適に抑制すると共に、高分子微粒子に起因する剥離が防止される錫めっき膜を被めっき部に付与し得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る錫めっき膜によれば、ウィスカの生成を抑制し得ると共にめっき膜の付与コストを低減し得る。また、錫めっき膜を形成する錫めっき浴によれば、アノードおよびめっき浴の管理が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の好適な実施例に係る錫めっき膜を断面で示す説明図である。
【図2】実施例に係る錫めっき膜を形成する工程を示す概略工程図である。
【図3】実施例に係る高分子微粒子に無機材料が坦持されている状態を示す説明図である。
【図4】荷重試験を説明する概略図である。
【図5】電子部品を示す概略図である。
【図6】電子部品の外部リードを示す概略図である。
【図7】実験例1における比較例1のSEM写真である。
【図8】実験例1における実施例8のSEM写真である。
【図9】実験例1における実施例10のSEM写真である。
【図10】実験例2における比較例5のSEM写真である。
【図11】実験例2における実施例10の高分子微粒子のSEM写真である。
【図12】実験例2における比較例5の高分子微粒子のSEM写真である。
【図13】実験例3における比較例1のSEM写真である。
【図14】実験例3における比較例6のSEM写真である。
【図15】実験例3における実施例10のSEM写真である。
【図16】実験例3における比較例7のSEM写真である。
【図17】実験例4における比較例8のSEM写真である。
【図18】実験例4における実施例10のSEM写真である。
【図19】実験例4における比較例9のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明に係る錫めっき膜および該錫めっき膜を形成する錫めっき浴につき、その製造方法と共に、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下説明する。
【0019】
本願の発明者は、半導体製品等の電子部品において、他部位に対して電気的に接触する、例えば外部リードのリード基材等の被めっき部に好適な接合性を付与する錫めっき膜として、非イオン性の高分子微粒子を含有させた錫めっき膜を使用することで、電子部品の使用下において錫めっき膜に加わる内部応力および外部応力を緩和して、該応力によるウィスカの生成を抑制し得ることを知見したものである。また、本願の発明者は、錫めっき浴に非イオン性の高分子微粒子を含有させることで、ビスマスの如き金属系含有物と違い、電解めっきの実施によるアノードへの析出物の発生および該析出によるめっき浴内における金属系含有物の減少と云った問題を回避し、管理の容易なめっき浴とし得ることも併せて知見した。
【0020】
本実施例では、従来技術で説明した電子部品10としての半導体装置の外部リード20のリード基材(被めっき部)22に錫めっき膜26を付与する場合を説明する。また、本実施例において、前記リード基材22は、半導体装置のリードフレームとして多用される、例えば42アロイと称される鉄−42wt%ニッケル合金や、2wt%鉄含有の銅合金等で形成されている。なお、本発明で云う「高分子微粒子」とは、水に不溶な微粒子であり、「非イオン性の高分子微粒子」とは、イオン性官能基を持たない、所謂ノニオン系の高分子微粒子を意味する。また、「錫めっき」とは、めっきされた錫めっき膜における高分子微粒子を除いた錫の組成が99.9%以上の純度を有するものである。すなわち、従来のはんだ(錫とその他の金属を1種類以上混合したもの)と異なり、錫のみの単一金属で構成されためっき被膜である。更に「めっき浴」とは、めっき槽内に入れられためっき液そのものを指す用語である。
【0021】
実施例に係る錫めっき膜26は、図1に示す如く、該めっき膜26の内部に多数の高分子微粒子28が均等に分散して含有されている。このように錫めっき膜26内に高分子微粒子28が含有されることで、電子部品10が使用される状態下において該錫めっき膜26に加わる応力を受けて高分子微粒子28が変形し、該応力を緩和する作用を奏する。従って、前記錫めっき膜26における応力が低減されるため、該応力を原因とするウィスカの生成が抑制される。
【0022】
実施例に係る錫めっき膜26の付与は、図2に示す如く、該錫めっき膜26を付与するのに使用される通常の錫等の各原料と、該原料に含有させる非イオン系の高分子微粒子28とを準備する準備工程S1と、準備された各原料等から錫めっき浴を調整する調整工程S2と、調整された錫めっき浴に電子部品10の被めっき部であるリード基材22を浸漬・通電して錫めっき膜26を付与する付与工程S3とから基本的に構成される。
【0023】
前記準備工程S1で準備される各原料のうち高分子微粒子28を除く物質は、公知の錫めっき浴の原料と同様であるので省略する。これに対して前記高分子微粒子28は、仕込み量と被膜析出量の制御が簡単であるために、非イオン性の高分子微粒子に限定される。なお、カチオン性の高分子微粒子であると、リード基材22をカソードとする電解めっきにおいては、該カソード(リード基材22)側において錫イオンとの競争反応になり、リード基材22に析出する錫量の制御が難しくなる。また、アニオン性の高分子微粒子は、カソード側に泳動しないから、カソードとしてのリード基材22に形成する錫めっき膜26に高分子微粒子28を含有させることができない。
【0024】
前記非イオン性の高分子微粒子28としては、錫めっき膜26内において均等に分散すべく、錫めっき浴中においても均等に分散させるため、該錫めっき浴に対して馴染みのよい、親水性あるいは親水化処理が施された物質が好適に使用される。具体的には、一般にめっき浴は水系であるので、親水性官能基、例えばアミド結合やエステル結合を有するポリメチルア(メタ)クリレートまたは、架橋ポリアクリルアミド等のア(メタ)クリロイルポリマー、ポリ酢酸ビニルなどのポリカルボン酸ビニルおよびポリイミド、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン6,6等の縮合系ポリマー並びに水酸基を有する架橋ポリビニルアルコールなどの非水溶性ビニルポリマーが好適である。また、ポリエチレンやポリスチレンまたはポリプロピレン等の親水性官能基を持っていない疎水性の高分子物質であっても、界面活性剤の添加やアルコールあるいはアセトン等の両親媒性の溶媒の添加により親和させる方法の採用により、本願に係る高分子微粒子28の素材として使用可能である。
【0025】
前記高分子微粒子28の種類としては、自然由来の天然の高分子または人工的に製造される合成の高分子が挙げられる。前記天然の高分子としては、セルロース、でんぷん、プルラン、グルコマンナン、架橋プルランまたはキチン等の多糖類が挙げられる。このような天然の高分子から得られる高分子微粒子28は、親水性が高いため錫めっき膜26の付与が容易であり。また熱的安定性も高いため、電子部品10が耐熱性を要求される場合等には好適である。
【0026】
前記高分子微粒子28としての不溶性のでんぷんは、アミロースまたはアミロペクチンの何れも採用可能であるが、熱水に溶けないアミロペクチンの割合が多いでんぷんの方が有利である。またでんぷんの原料となる植物の種類は、トウモロコシ、小麦、米、豆、いも等の何れであってもよい。
【0027】
前記合成の高分子としては、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンまたはポリアクリルアミド等のポリアク(メタ)クリロイルポリマー、ポリ酢酸ビニル等のポリカルボン酸ビニルあるいは前述したポリイミド、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6またはナイロン6,6などの縮合系ポリマー等の人工的な合成の高分子が挙げられる。これら合成の高分子から得られる高分子微粒子28は、形状等の品質が安定でかつ高く、また量産されているので、安価にウィスカ抑制効果を有する錫めっき膜26を得ることができる。
【0028】
前記高分子微粒子28は、その円形度を、
円形度=〔粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長〕/〔粒子を撮像した画像の周囲長〕・・・式1
で定義した値としたときに、該円形度が0.8〜1.0であるのが好ましく、より好ましくは0.9〜1.0の範囲である。なお、円形度は、真円が「1」で、形状が複雑になるほど小さい値になる。すなわち、円形度が0.9〜1.0の範囲では、粒子の球状性は極めて高く、錫めっき浴中においては極めて安定的に分散して、リード基材22に形成される錫めっき膜26の全体に均等に分散させて含有させ得る。また、球状性の高い高分子微粒子28は、錫めっき膜26内に存在している状態で、該錫めっき膜26に係る多方向からの応力に対して良好に変形して応力緩和に寄与し得る。これに対し、円形度が0.9未満であると、粒子が球形でなくなるため、錫めっき膜26内での高分子微粒子28の安定した分散が阻害されたり、錫めっき膜26内に高分子微粒子28が存在している状態で、該粒子28における径が短かい部分と長い部分とによって応力緩和の度合が異なってしまう。
【0029】
前記高分子微粒子28の円形度が0.8以上、0.9未満の範囲にある場合には、錫めっき膜26内において高分子微粒子28の径が短い部分と長い部分によって、該高分子微粒子28による応力緩和の度合いが多少異なる。しかしながら、高分子微粒子28のいびつな凹凸によるアンカー効果によって、高分子微粒子28が錫の結晶間に取り込まれ易くなり、錫めっき浴中における高分子微粒子28の分散性の低下を補い得ると共に、高分子微粒子28が円形度が多少低くてもウィスカの抑制効果が発現する。これに対して、高分子微粒子の円形度が0.8未満になると、高分子微粒子28のいびつな凹凸によるアンカー効果が互いに強く作用し過ぎてしまい、錫めっき浴中で高分子微粒子28の凝集が生じ易く、分散性が悪くなるので、逆に高分子微粒子28が錫の結晶間に取り込まれ難くなる。更に、高分子微粒子28の円形度が0.8未満になると、高分子微粒子28の径の短い部分と長い部分との差によって応力緩和の度合いも大きく異なってしまうので、応力が不均等になり、ウィスカが生じ易くなる。
【0030】
前記高分子微粒子28の大きさについては、前記リード基材22に形成される錫めっき膜26の厚さより大きくても、一部が錫めっき膜26に埋もれていれば、錫めっき膜26に加わる応力を緩和する作用を奏する。但し、高分子微粒子28の大きさは、その平均粒子径を錫めっき膜26の厚さ未満とするのがより好適であり、この場合は高分子微粒子28の全体が錫めっき膜26内に埋没して、該錫めっき膜26に加わる応力を好適に緩和することができる。なお、具体的には、錫めっき膜26の膜厚が10μmであれば、高分子微粒子28の平均粒子径は、10μm未満、好適には錫めっき膜26の厚さの半分以下とされる。また、高分子微粒子28の平均粒子径を4〜5μmとした場合における粒度については、1〜15μmの範囲に分布しているものがよく、より好ましくは1〜8μmの範囲に分布するものがよい。
【0031】
ここで、前記錫めっき膜26の膜厚については、5〜25μmの範囲に設定される。すなわち、膜厚が5μm未満であると、リード基材22の表面まで貫通するピンホールが存在して、錫めっき膜26によるリード基材22の保護機能が低下する。また膜厚が25μmを超えると、錫めっき膜26でリード基材22が被覆された外部リード20を切断・分離および成形等の加工を行なう際に発生する錫金属バリが大きくなり、正常な切断・分離および成形等の加工に支障を来たすおそれがある。
【0032】
前記高分子微粒子28は、市販されている物質を利用してもよいし、公知の方法によって製造してもよい。自然由来の天然の高分子から、前記粒子径とされる高分子微粒子28を製造する方法としては、機械的粉砕、懸濁蒸発法、コアセルベートまたは噴霧造粒法(例えば下記の非特許文献1)等が挙げられる。また、セルロースの場合、例えば下記の特許文献2に記載の如く、ビスコースの微粒子分散液からセルロースの微粒子を生成し、セルロースの微粒子を母液から分離し、篩い分けて所要の平均粒子径とされた球状の高分子微粒子28を得ることができる。
【非特許文献1】J.Appl.Polym.Sci.,71,747-759(1999)
【特許文献2】特公平5−48772号公報
【0033】
一方、人工的に製造される合成の高分子から、前記粒子径とされる高分子微粒子28を製造する方法としては、例えば公知の機械的粉砕、懸濁蒸発法、コアセルベート法または懸濁重合法が挙げられる。具体的には、以下の(1)〜(4)の方法が挙げられる。
(1)ポリエチレンやポリプロピレンを高分子として用いる場合は、水中で分散剤や乳化剤と共に高分子を融点以上の温度で攪拌した後、該高分子の融点未満まで冷却して球状の微粒子状に分散して得た分散体をろ過、乾燥して、所要の平均粒子径とされた高分子微粒子28を得ることができる。
(2)ポリブタジエンを高分子として用いる場合は、下記の非特許文献2に記載の懸濁蒸発法によって高分子微粒子28の好適な製造が可能である。
(3)ポリアク(メタ)クリロイルポリマーまたはポリカルボン酸ビニルを高分子として用いる場合は、夫々のモノマーを相分離する粘性媒体中に添加し、懸濁重合により高分子微粒子28を得ることができる。またモノマーを相分離する際に、粘性媒体中にジビニルベンゼンのような架橋モノマーを添加してもよい。
(4)ポリイミド、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6およびナイロン6,6を高分子として用いる場合は、下記の非特許文献3に記載のように、モノマーの重縮合過程において触媒と分散媒とを添加することで高分子微粒子28を製造可能である。
【非特許文献2】J.Chromatography A,1082,185(2005)
【非特許文献3】高分子論文集、64,50(2007)
【0034】
更に、図3に示す如く、高分子微粒子28の表面に対して、各種無機材料30を担持するようにしてもよい。前記無機材料30は、有機物である高分子微粒子28と較べて、錫めっき膜26をなす金属錫に対して密着性が良好である。従って、前記高分子微粒子28の表面に無機材料30を担持して、該高分子微粒子28と錫めっき膜26を構成する金属錫結晶との間に介在させることで、該無機材料30が高分子微粒子28と金属錫結晶との密着性を向上させ得る。そして、高分子微粒子28と金属錫結晶との密着性が向上することで、錫めっき膜26に加わる応力によって高分子微粒子28が変形せずに錫めっき膜26内で移動してしまう事態を回避し、高分子微粒子28の変形による応力緩和を確実になし得るようになる。前記無機材料30としては、錫めっき膜26の主構成物質である金属錫に対して馴染みのよい、錫、ニッケル、ビスマス、銅、亜鉛、アルミニウム、チタン、金、銀、ブラチナまたはパラジウム等の金属元素や、ケイ素等の半金属元素あるいはこれらの酸化物が採用される。
【0035】
前記無機材料30は、例えば該無機材料30を無電解めっきあるいはチタネートやシラノールまたはアルミネート等のゾル−ゲル法その他の公知の方法を用いることで前記高分子微粒子28の表面に担持される。この他、高分子微粒子28を原料から製造する場合には、高分子微粒子28の原料中に予め無機材料30を配合したもとで、一度に無機材料30を担持した高分子微粒子28を製造するようにしてもよい。
【0036】
前記調整工程S2は、前記準備工程S1で準備された高分子微粒子28等の各原料から、前記電子部品10に錫めっき膜26を付与するための錫めっき浴を調整する工程であり、公知の錫めっき浴を調整し、ここに高分子微粒子28を投入して含有させている。前記高分子微粒子28の投入量は、1リットルの錫めっき浴に対して、10〜100グラムとされる。この投入量が10グラム未満であると、100重量部の錫めっき膜26内における高分子微粒子28の含有量が0.01重量部未満となってしまい、該錫めっき膜26に加わる応力を充分に緩和できなくなって短絡の原因となるウィスカが生成してしまう虞が高くなる。一方、投入量が100グラムを超えると、100重量部の錫めっき膜26内における高分子微粒子28の含有量が5重量部を超えてしまい、該錫めっき膜26が剥離してしまう虞が高くなる。
【0037】
次に、本実施例に係る錫めっき膜26の形成に用いられる錫めっき浴について説明する。前記錫めっき浴は、一般的な錫めっき浴中に、前記高分子微粒子28を分散させたものである。そして、前記錫めっき浴に投入された高分子微粒子28は、公知のスターラまたは循環ポンプ等の分散装置を使用することで、該錫めっき浴中に好適に分散して含有される。なお、前述した一般的な錫めっき浴は特に限定されず、例えば106Ω/cm程度の純水に対して市販の外部リード錫めっき用の原液、スルホン酸および市販の添加剤を所要の比率で混合して調整される。
【0038】
また、前記錫めっき浴を使用した電子部品10へのめっきは、例えば、該錫めっき浴に外部リード20となるリード基材22を浸漬したり、リード基材22に該錫めっき浴を噴流させる公知の方法によって付与可能であり、付与後の後処理も公知の方法と何等変わりがない。すなわち、予め錫めっき浴中に高分子微粒子28を投入する以外は、通常の錫めっき浴を用いた錫めっき膜26の付与と何等変わりがない。従って、これまで使用していた錫めっき膜26の付与に係る設備等をそのまま流用可能であり、本発明に係る錫めっき膜26を付与するにあたって必要とされる設備コストを殆ど考える必要がない利点がある。なお、錫めっき浴中に高分子微粒子28を分散しているため、錫めっき後の製品を洗浄した洗浄廃水中の浮遊固形物(SS)は増えるが、凝集沈殿、生物処理、すな濾過、活性炭処理等の一般的な処理施設を用いることで、SSの処理やBOD(生物化学的酸素要求量)を改善することができる。
【0039】
前記錫めっき膜26において、高分子微粒子28に無機材料30を担持させることで、無機材料30が錫めっき膜26を構成する金属錫結晶と高分子微粒子28との良好な密着性を発現するから、該高分子微粒子28を錫めっき膜26の応力によって確実に変形させて確実に応力を緩和し得る。また錫めっき膜26の膜厚を5μm〜25μmの範囲にすることで、被めっき部であるリード基材22の保護機能がピンホールによって低下するのを防止し得ると共に、リード基材22の切断・分離および成形等の加工に際して発生する錫金属バリを小さく抑え、該加工に支障を来たすのを防止し得る。更に、高分子微粒子28の平均粒子径を、被めっき部であるリード基材22に付与する錫めっき膜26の厚さ未満にすることで、ウィスカの生成がより好適に抑制される錫めっき膜26をリード基材22に付与することができる。
【0040】
前記錫めっき浴において、高分子微粒子28に無機材料30を担持させることで、無機材料30により高分子微粒子28と錫めっき膜26を形成する金属錫結晶との良好な密着性が確保された錫めっき膜26を被めっき部であるリード基材22に付与し得る。
【0041】
そして、前述した錫めっき浴によって錫めっき膜26が付与された電子部品は、電子部品の使用時に錫めっき膜26からのウィスカの生成を抑制し得るから、該ウィスカに起因する短絡等の問題を回避し得る。
【0042】
(変更例)
(1)実施例において高分子微粒子28の製造方法は例示であって、その他各種の方法を採用可能である。また、前記高分子微粒子28の形状については、球状粒子が好ましいが、錫めっき膜26に加わる応力に対して変形可能であり、該応力を緩和できるものであれば、例えばドーナツ状の扁平粒子、金平糖状粒子その他不定形粒子を採用することが可能である。
(2)実施例で外部リード20の断面形状は矩形形状であったが、これに限定されるものではなく、例えば、円形状または六角形等の多角形状等、その他の形状であってもよい。
(3)実施例における電子部品10である半導体装置のパッケージは、SOP(Small Outline Package)である(図5参照)が、本発明はこれに限定されるものではない。例えばQFP(Quad Flat Package)等の表面実装型のパッケージや、DIP(Dual in Line Package)等の挿入型のパッケージの半導体装置にも適用可能であって、パッケージ形態について限定されない。
(4)実施例では、錫めっき膜26は外部リード20に付与されたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、プリント基板等の電子部品を搭載する部材に形成された配線を被覆するように錫めっき膜26を付与する等、通常の錫めっき膜と同様に幅広く用いることが可能である。
【0043】
(実験例1)
以下に、本発明に係る錫めっき膜についての実験例1を示す。
【0044】
図5に示すような電子部品10を準備して、該電子部品10のリード基材22に錫めっき膜26を付与するに際して、錫めっき浴を下記する表1の条件に従って調整して、実施例1〜10および比較例1〜4に係る錫めっき膜26が付与された外部リード20を備える電子部品10を得た。なお、錫めっき膜26の膜厚については、実施例1,2,4〜8,10および比較例1,2では、電流密度5A/dm2の条件で10μmの膜厚を形成し、実施例3,9および比較例3,4については、電流密度5A/dm2の条件で15μmの膜厚を形成した。また、各実施例における高分子微粒子の膜に対する含有量については、100重量部の錫めっき膜に対するもので表示してある。
【0045】
そして、錫めっき膜26が付与された外部リード20に対して、電子部品10の実際の使用状態を再現する荷重試験AおよびB並びに温度サイクル試験を実施し、実施後の錫めっき膜26の表面状態をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察して、生成している最長のウィスカの長さを測定し、その結果を表1に示した。なお、比較例1および3は、高分子微粒子28を含有させない錫めっき浴を使用して純錫めっき膜を付与するものであり、比較例2および4は、高分子微粒子28に変えてビスマスを含有させた錫めっき浴を使用して錫めっき膜を付与する例である。また、比較例2および4のビスマス含有量は、何れも100重量部の錫めっき膜に対して、2重量部である。表1に記載した円形度は、シスメックス(株)製のフロー式粒子像分析装置FPIA−3000Sにより前記[式1]で算出した値である。
【0046】
【表1】
【0047】
(使用原料)
・高分子微粒子A:セルロース(平均粒子径5μm or 8μm)
・高分子微粒子B:でんぷん(平均粒子径5μm)
・高分子微粒子C:酸化錫担持セルロース(平均粒子径5μm)
・高分子微粒子D:ポリエチレン(平均粒子径4μm)
・高分子微粒子E:アクリル(平均粒子径4μm)
・錫めっき浴:106Ω/cm程度の純水に市販の外部リード錫めっき用の原液、スルホン酸および市販の添加剤を、汎用的な体積比で混合した汎用の錫めっき浴を使用
(使用装置)
・走査型電子顕微鏡(SEM):商品名 JSM−6380LA;JOEL製
【0048】
(各試験の内容について)
本実験で実施される前記荷重試験AおよびB並びに温度サイクル試験は、何れも錫めっき膜26に加わる応力を高め、ウィスカの生成を促進するためのものである。なお、前記各試験は、外部リード20のリード基材22に錫めっき膜26を付与し、外部リード20を図5に示すように曲げる前の状態で実施した。
・荷重試験AおよびB
各荷重試験は、前述の各実施例1〜10または比較例1〜4の条件によって錫めっき膜26が付与された各外部リード20を、図4に示すように、下側荷重板32上に載置した状態で、上方から上側荷重板34で2000g/mm2の条件で荷重を加えて、常温下で所要時間放置するものである。前記所要時間は、荷重試験Aでは500時間に、荷重試験Bでは1500時間に夫々設定される。なお、前記両荷重板32および34は、何れもアクリル樹脂製である。
・温度サイクル試験
温度サイクル試験は、高温保持条件を125℃、30分、低温保持条件を−40℃、30分として、この高温保持条件および低温保持条件を夫々1回ずつ実施するサイクルを1サイクルとして、これを100サイクル繰り返すものである。なお、高温保持条件から低温保持条件への移行および低温保持条件から高温保持条件への移行は、何れも昇降温レート3℃/分で、55分の時間を掛けて実施した。
【0049】
(温度サイクル試験の結果)
温度サイクル試験の結果から分かるように、比較例1の純錫めっき膜ではウィスカ長が略25μmまで成長しているのに対し、実施例1,3,6,7,9の錫めっき膜については、ウィスカ長は何れも略15μm以下であった。すなわち、錫めっき膜に高分子微粒子を含有させることで、ウィスカの成長を抑制し得ることが確認された。また、比較例2および4の錫めっき膜のウィスカ長も略15μm以下であることから、錫めっき膜に高分子微粒子を含有させることで、ビスマスを添加した場合と同程度のウィスカ抑制効果が得られることが確認された。
【0050】
なお、比較例3の純錫めっき膜のウィスカ長は略15μmであり、ウィスカの成長度合は実施例と同等である。しかるに、比較例3の純錫めっき膜の膜厚は15μmであり、同じく膜厚を15μmとした実施例3および9のウィスカ長が略10μmであることから、同じ膜厚であれば錫めっき膜に高分子微粒子を含有させることで、ウィスカの成長が抑制されることは明らかである。
【0051】
(荷重試験の結果)
荷重試験Aの結果から分かるように、比較例1の純錫めっき膜ではウィスカ長が略35μmまで成長しているが、実施例1,2,5〜10および比較例2ではウィスカ長が略30μm以下に抑制されている。すなわち、荷重試験Aにおいても、錫めっき膜に高分子微粒子を含有させることで、ウィスカの成長を抑制し得ることが確認された。また、無機材料を坦持した高分子微粒子を用いた実施例6および7においては、他の実施例に比べて高分子微粒子の含有量は少ないが、ウィスカ長は略10μm以下であり、無機材料を坦持することで、ウィスカの成長をより抑制し得ることが分かる。なお、実施例2は、錫めっき膜に対する高分子微粒子の含有量が0.01重量部未満(0.008重量部)であるため、高分子微粒子を含有しない比較例1よりはウィスカの成長抑制効果はあるものの、高分子微粒子の含有量が0.1重量部以上とした他の実施例に比べてウィスカの成長抑制効果が劣っている。また実施例5は、高分子微粒子の円形度が0.9未満(0.662)であるため、高分子微粒子を含有しない比較例1よりはウィスカの成長抑制効果はあるものの、高分子微粒子の円形度を0.9以上とした他の実施例に比べてウィスカの成長抑制効果は劣っている。この結果から、錫めっき膜に対する高分子微粒子の含有量は、0.01以上とするのが好ましく、また高分子微粒子の円形度は0.9以上とするのが好ましいといえる。
【0052】
図7,図8および図9は、夫々荷重試験Aを実施した比較例1、実施例8および実施例10の各めっき膜表面を、前記SEMで撮像した倍率1000倍での写真であり、実施例8および10の錫めっき膜に生成されているウィスカが、比較例1の純錫めっき膜に生成されているウィスカに比べて短かいことが分かる。
【0053】
荷重を加えた状態での放置時間を長くした荷重試験Bにおいても、荷重試験Aと同じく、純錫めっき膜に比べて錫めっき膜に高分子微粒子を含有させることで、ウィスカの成長が抑制されることが確認された。
【0054】
(実験例2)
高分子微粒子の円形度を0.9未満とし、その他の条件を前記実施例10と同一とした比較例5について、前記荷重試験Aを実施し、そのSEM写真(倍率1000倍)を図10に示す。この比較例5では、最長のウィスカは略30μmであり、高分子微粒子を含有しない比較例1よりはウィスカの成長抑制効果はある。但し、実施例10と比較例5とを比較すると、高分子微粒子の円形度を0.9以上とすることで、ウィスカの成長をより抑制し得ることが認められる。なお、図11は、実施例10における高分子微粒子を前記SEMにより倍率3000倍で撮像した写真を示し、図12は、比較例5における高分子微粒子を前記SEMにより倍率3000倍で撮像した写真を示す。
【0055】
(実験例3)
高分子微粒子の錫めっき膜に対する含有量を0.01重量部未満とし、その他の条件を前記実施例10と同一とした比較例6、高分子微粒子の錫めっき膜に対する含有量を5重量部より多くし、その他の条件を実施例10と同一とした比較例7、前記実施例10および前記比較例1について、荷重試験Cを実施した。なお、荷重試験Cは、前記上側荷重板34での荷重条件を4000g/mm2に変更したもので、その他の条件は前記荷重試験Aと同じである。
【0056】
そして、荷重試験Cの実施後の錫めっき膜の表面状態について、生成しているウィスカおよびリード基材に対する錫めっき膜の密着性をSEMで観察し、その結果を表2に示した。なお、図13は、比較例1の倍率400倍のSEM写真、図14は、比較例6の倍率300倍のSEM写真、図15は、実施例10の倍率400倍のSEM写真、図16は、比較例7の倍率1000倍のSEM写真である。
【0057】
【表2】
【0058】
表2および図13〜図16に示すように、高分子微粒子を含有しない比較例1および含有量を0.01重量部未満とした比較例6では、50μm以上のウィスカが多数発生した。これに対し、高分子微粒子の含有量が0.01重量部以上の実施例10および比較例7では、ウィスカの長さは50μm未満であった。また、リード基材に対する錫めっき膜の密着性については、比較例1、比較例6および実施例10は問題なかった。一方、高分子微粒子の含有量を5重量部より多くした比較例7においては、錫めっき膜がリード基材から剥離している箇所があった。この結果から、高分子微粒子の含有量を0.01〜5重量部の範囲に設定することで、ウィスカの抑制効果および錫めっき膜の高い密着性が得られることが認められる。
【0059】
(実験例4)
1リットルの錫めっき浴に対する高分子微粒子の投入量を10グラム未満とし、その他の条件を前記実施例10と同一とした比較例8、投入量を100グラムより多くし、その他の条件を実施例10と同一とした比較例9および実施例10について、前記荷重試験Cを実施した。
【0060】
そして、荷重試験Cの実施後の錫めっき膜の表面状態について、生成しているウィスカおよびリード基材に対する錫めっき膜の密着性をSEMで観察し、その結果を表3に示した。なお、図17は、比較例8の倍率300倍のSEM写真、図18は、実施例10の倍率400倍のSEM写真、図19は、比較例9の倍率100倍のSEM写真である。
【0061】
【表3】
【0062】
表3および図17〜図19に示すように、錫めっき浴中への高分子微粒子の投入量を10グラム未満とした比較例8では、50μm以上のウィスカが多数発生した。これに対し、高分子微粒子の投入量を10グラム以上とした実施例10および比較例9では、ウィスカの長さは50μm未満であった。また、リード基材に対する錫めっき膜の密着性については、比較例8および実施例10は問題なかった。一方、高分子微粒子の投入量を100グラムより多くした比較例9においては、リード基材に対して錫めっき膜が密着していない箇所があった。この結果から、錫めっき浴中への高分子微粒子の投入量を10〜100グラムの範囲に設定することで、ウィスカの抑制効果および錫めっき膜の高い密着性が得られることが認められる。
【0063】
(実験例5)
実験例1と同様に、図5に示すような電子部品10を準備して、該電子部品10のリード基材22に錫めっき膜26を付与するに際して、錫めっき浴を下記する表4の条件に従って調整して、実施例11〜14および比較例10〜11に係る錫めっき膜26が付与された外部リード20を備える電子部品10を得た。なお、実施例11〜14および比較例10〜11における錫めっき膜26の膜厚については、電流密度5A/dm2の条件で10μmの膜厚を形成した。
【0064】
錫めっき膜26が付与された外部リード20に対して、電子部品10の実際の使用状態を再現する荷重試験Aを実験例1と同一条件で実施し、実施後の錫めっき膜26の表面状態をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察して、生成している最長のウィスカの長さを測定し、その結果を表4に示した。表4に記載した円形度は、シスメックス(株)製のフロー式粒子像分析装置FPIA−3000Sにより前記[式1]で算出した値である。
【0065】
【表4】
【0066】
(使用原料)
・高分子微粒子F:微細粒子化不溶性でんぷん(平均粒子径5μm)
高分子微粒子Fは、液体窒素で凍結したでんぷんを高速ミルによって微細化したものである。
・高分子微粒子G:破砕不溶性でんぷん(平均粒子径5μm)
高分子微粒子Gは、でんぷんを高速ミルによって乾式で粉砕したものである。
・錫めっき浴:106Ω/cm程度の純水に市販の外部リード錫めっき用の原液、スルホン酸および市販の添加剤を、汎用的な体積比で混合した汎用の錫めっき浴を使用した。
(使用装置)
・走査型電子顕微鏡(SEM):商品名 JSM−6380LA;JOEL製
【0067】
(実験例5の結果)
荷重試験Aの結果から分かるように、高分子微粒子やビスマスを含有していない比較例1の純錫めっき膜ではウィスカ長が略35μmまで成長しているが、高分子微粒子FおよびGを含有している実施例11〜14および比較例10〜11では、ウィスカ長が20μm以下に抑えられている。すなわち、実験例5においても、錫めっき膜に高分子微粒子を含有させることで、ウィスカの成長を抑制し得ることが確認された。また、荷重試験Aの結果から分かるように、円形度が0.8未満の比較例10および11の純錫めっき膜ではウィスカ長が20μmまで成長しているが、円形度が0.8以上、0.9、未満の範囲にある実施例11〜14ではウィスカ長が10μm以下に抑制されている。すなわち、高分子微粒子の円形度が0.8以上、0.9未満の範囲であっても、ウィスカの成長を抑制し得ることが確認された。
【符号の説明】
【0068】
22 リード基材(被めっき部),26 錫めっき膜,28 高分子微粒子
【技術分野】
【0001】
この発明は、非イオン性の高分子微粒子を含有する錫めっき膜および該錫めっき膜を形成するための錫めっき浴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、集積回路や、トランジスタ等の電子部品10は、図5に示す如く、その素子12が、例えばリードフレーム14上に固着された後、ワイヤボンディング等によりワイヤ16を介してリードフレーム14と電気的に接続され、更にモールド樹脂18等により樹脂封止されている。そして、電子部品10とプリント基板等の外部回路とを接続するためにモールド樹脂18の外側に露出した外部リード20は、図6に示す如く、リード基材22の表面に、例えば錫−鉛合金、所謂鉛半田のめっき膜24が形成されている。
【0003】
近年の鉛による環境汚染の問題に対する鉛フリー化の要請に伴い、鉛半田めっき膜24に含まれる鉛の使用が規制されつつある。そのため、鉛半田めっきに替わって、外部リード20のリード基材22を被覆するめっき膜に関する様々な提案がなされており、例えば錫だけから形成される、所謂純錫めっき膜の使用等が挙げられる。
【0004】
しかし、錫だけから形成されるめっき膜の場合、電子部品10の使用環境条件によっては、リード基材22の表面を被覆するように形成された純錫めっき膜の表面からウィスカと呼ばれるヒゲ状物が生成することが知られている。このウィスカは、幅が略数μm、長さが最大で数mm程度の細長いヒゲ状の生成物であるため、該ウィスカが隣接する外部リード20,20間の短絡の原因となる問題があった。
【0005】
そこで、純錫めっき膜に起因するウィスカの抑制方法について、幾つかの提案がされている。例えば、特許文献1には、前記純錫めっき膜に替えて、耐ウィスカ性に優れたビスマスを用い、ビスマス含有量が0〜1wt%の錫−ビスマス合金からなる下層めっき膜と、ビスマス含有量が1〜10wt%の錫−ビスマス合金からなる上層めっき膜とを備える複合めっき膜を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−330340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記ビスマスはレアメタルであるため、めっき膜の形成に係るコストが増大してしまう問題が指摘される。また、前記複合めっき膜を形成するためのめっき浴中に金属であるビスマスが含有されていると、めっき膜の形成に伴って該ビスマスがアノード(電極)に析出してしまう。アノードにビスマスが析出すると、該アノードからの電流放出が阻害されるため、めっきに必要な錫イオンをめっき浴中に効率的に供給できなくなって、被めっき部(カソード)に好適なめっき膜の形成が困難となってしまう。更に、めっき作業を行なうことでめっき浴中のビスマス含有量が減少するため、該ビスマス含有量の測定および調整といった煩雑な作業が不可欠となる。前記ビスマスの析出による弊害は、該ビスマスをアノードから除去することで回避されるが、該除去に係る作業を頻繁に実施しなければならず、やはりめっき浴の管理が煩雑になる問題を内在している。
【0008】
すなわち本発明は、従来の技術に内在する問題に鑑み、これらを好適に解決すべく提案されたものであって、ウィスカの生成を抑制すると共に、アノードおよび錫めっき浴の管理の容易化およびめっきコストの低価格化を図り得る錫めっき膜および該錫めっき膜を形成する錫めっき浴を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係る被めっき部に付与される錫めっき膜は、非イオン性の高分子微粒子を含有していることを特徴とする。
従って、請求項1に係る発明によれば、ウィスカの生成原因となる錫めっき膜に加わる応力を、該錫めっき膜に含有されている高分子微粒子が変形して緩和することでウィスカの生成を抑制し得る。すなわち、鉛やビスマスを用いることなくウィスカの生成を抑制することができるから、環境を汚染することはなく、かつコストを低廉に抑えることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、前記高分子微粒子の円形度を、
円形度=〔粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長〕/〔粒子を撮像した画像の周囲長〕
としたときに、該円形度が0.8〜1.0であることを要旨とする。
従って、請求項2に係る発明によれば、高分子微粒子の高い球状性および錫間への取り込まれ易さによって、錫めっき膜に加わる多方向からの応力を緩和することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、前記高分子微粒子は、100重量部の前記錫めっき膜に対して、0.01〜5重量部含有されることを要旨とする。
従って、請求項3に係る発明によれば、ウィスカの生成を好適に抑制すると共に、高分子微粒子に起因する錫めっき膜の剥離を防止し得る。
【0012】
請求項4に記載の発明では、前記高分子微粒子の平均粒子径は、前記錫めっき膜の厚さ未満にされることを要旨とする。
従って、請求項4に係る発明によれば、ウィスカの生成を好適に抑制し得る。
【0013】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、請求項5に記載の発明に係る被めっき部に錫めっき膜を付与するために使用される錫めっき浴は、非イオン性の高分子微粒子を含有していることを特徴とする。
従って、請求項5に係る発明によれば、被めっき部に、高分子微粒子を含有する錫めっき膜を低コストで付与することができる。また、アノードに析出するビスマス等の金属系含有物を用いていないので、アノードおよび錫めっき浴の管理を容易化し得る。
【0014】
請求項6に記載の発明では、前記高分子微粒子の円形度を、
円形度=〔粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長〕/〔粒子を撮像した画像の周囲長〕
としたときに、該円形度が0.8〜1.0であることを要旨とする。
従って、請求項6に係る発明によれば、高分子微粒子の高い球状性および錫間への取り込まれ易さによって、錫めっき浴中で安定的に分散するから、錫めっき膜の全体に高分子微粒子を均等に分散して含有させることができる。
【0015】
請求項7に記載の発明では、前記高分子微粒子は、1リットルの前記錫めっき浴に対して、10〜100グラム含有されることを要旨とする。
従って、請求項7に係る発明によれば、ウィスカの生成を好適に抑制すると共に、高分子微粒子に起因する剥離が防止される錫めっき膜を被めっき部に付与し得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る錫めっき膜によれば、ウィスカの生成を抑制し得ると共にめっき膜の付与コストを低減し得る。また、錫めっき膜を形成する錫めっき浴によれば、アノードおよびめっき浴の管理が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の好適な実施例に係る錫めっき膜を断面で示す説明図である。
【図2】実施例に係る錫めっき膜を形成する工程を示す概略工程図である。
【図3】実施例に係る高分子微粒子に無機材料が坦持されている状態を示す説明図である。
【図4】荷重試験を説明する概略図である。
【図5】電子部品を示す概略図である。
【図6】電子部品の外部リードを示す概略図である。
【図7】実験例1における比較例1のSEM写真である。
【図8】実験例1における実施例8のSEM写真である。
【図9】実験例1における実施例10のSEM写真である。
【図10】実験例2における比較例5のSEM写真である。
【図11】実験例2における実施例10の高分子微粒子のSEM写真である。
【図12】実験例2における比較例5の高分子微粒子のSEM写真である。
【図13】実験例3における比較例1のSEM写真である。
【図14】実験例3における比較例6のSEM写真である。
【図15】実験例3における実施例10のSEM写真である。
【図16】実験例3における比較例7のSEM写真である。
【図17】実験例4における比較例8のSEM写真である。
【図18】実験例4における実施例10のSEM写真である。
【図19】実験例4における比較例9のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明に係る錫めっき膜および該錫めっき膜を形成する錫めっき浴につき、その製造方法と共に、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下説明する。
【0019】
本願の発明者は、半導体製品等の電子部品において、他部位に対して電気的に接触する、例えば外部リードのリード基材等の被めっき部に好適な接合性を付与する錫めっき膜として、非イオン性の高分子微粒子を含有させた錫めっき膜を使用することで、電子部品の使用下において錫めっき膜に加わる内部応力および外部応力を緩和して、該応力によるウィスカの生成を抑制し得ることを知見したものである。また、本願の発明者は、錫めっき浴に非イオン性の高分子微粒子を含有させることで、ビスマスの如き金属系含有物と違い、電解めっきの実施によるアノードへの析出物の発生および該析出によるめっき浴内における金属系含有物の減少と云った問題を回避し、管理の容易なめっき浴とし得ることも併せて知見した。
【0020】
本実施例では、従来技術で説明した電子部品10としての半導体装置の外部リード20のリード基材(被めっき部)22に錫めっき膜26を付与する場合を説明する。また、本実施例において、前記リード基材22は、半導体装置のリードフレームとして多用される、例えば42アロイと称される鉄−42wt%ニッケル合金や、2wt%鉄含有の銅合金等で形成されている。なお、本発明で云う「高分子微粒子」とは、水に不溶な微粒子であり、「非イオン性の高分子微粒子」とは、イオン性官能基を持たない、所謂ノニオン系の高分子微粒子を意味する。また、「錫めっき」とは、めっきされた錫めっき膜における高分子微粒子を除いた錫の組成が99.9%以上の純度を有するものである。すなわち、従来のはんだ(錫とその他の金属を1種類以上混合したもの)と異なり、錫のみの単一金属で構成されためっき被膜である。更に「めっき浴」とは、めっき槽内に入れられためっき液そのものを指す用語である。
【0021】
実施例に係る錫めっき膜26は、図1に示す如く、該めっき膜26の内部に多数の高分子微粒子28が均等に分散して含有されている。このように錫めっき膜26内に高分子微粒子28が含有されることで、電子部品10が使用される状態下において該錫めっき膜26に加わる応力を受けて高分子微粒子28が変形し、該応力を緩和する作用を奏する。従って、前記錫めっき膜26における応力が低減されるため、該応力を原因とするウィスカの生成が抑制される。
【0022】
実施例に係る錫めっき膜26の付与は、図2に示す如く、該錫めっき膜26を付与するのに使用される通常の錫等の各原料と、該原料に含有させる非イオン系の高分子微粒子28とを準備する準備工程S1と、準備された各原料等から錫めっき浴を調整する調整工程S2と、調整された錫めっき浴に電子部品10の被めっき部であるリード基材22を浸漬・通電して錫めっき膜26を付与する付与工程S3とから基本的に構成される。
【0023】
前記準備工程S1で準備される各原料のうち高分子微粒子28を除く物質は、公知の錫めっき浴の原料と同様であるので省略する。これに対して前記高分子微粒子28は、仕込み量と被膜析出量の制御が簡単であるために、非イオン性の高分子微粒子に限定される。なお、カチオン性の高分子微粒子であると、リード基材22をカソードとする電解めっきにおいては、該カソード(リード基材22)側において錫イオンとの競争反応になり、リード基材22に析出する錫量の制御が難しくなる。また、アニオン性の高分子微粒子は、カソード側に泳動しないから、カソードとしてのリード基材22に形成する錫めっき膜26に高分子微粒子28を含有させることができない。
【0024】
前記非イオン性の高分子微粒子28としては、錫めっき膜26内において均等に分散すべく、錫めっき浴中においても均等に分散させるため、該錫めっき浴に対して馴染みのよい、親水性あるいは親水化処理が施された物質が好適に使用される。具体的には、一般にめっき浴は水系であるので、親水性官能基、例えばアミド結合やエステル結合を有するポリメチルア(メタ)クリレートまたは、架橋ポリアクリルアミド等のア(メタ)クリロイルポリマー、ポリ酢酸ビニルなどのポリカルボン酸ビニルおよびポリイミド、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン6,6等の縮合系ポリマー並びに水酸基を有する架橋ポリビニルアルコールなどの非水溶性ビニルポリマーが好適である。また、ポリエチレンやポリスチレンまたはポリプロピレン等の親水性官能基を持っていない疎水性の高分子物質であっても、界面活性剤の添加やアルコールあるいはアセトン等の両親媒性の溶媒の添加により親和させる方法の採用により、本願に係る高分子微粒子28の素材として使用可能である。
【0025】
前記高分子微粒子28の種類としては、自然由来の天然の高分子または人工的に製造される合成の高分子が挙げられる。前記天然の高分子としては、セルロース、でんぷん、プルラン、グルコマンナン、架橋プルランまたはキチン等の多糖類が挙げられる。このような天然の高分子から得られる高分子微粒子28は、親水性が高いため錫めっき膜26の付与が容易であり。また熱的安定性も高いため、電子部品10が耐熱性を要求される場合等には好適である。
【0026】
前記高分子微粒子28としての不溶性のでんぷんは、アミロースまたはアミロペクチンの何れも採用可能であるが、熱水に溶けないアミロペクチンの割合が多いでんぷんの方が有利である。またでんぷんの原料となる植物の種類は、トウモロコシ、小麦、米、豆、いも等の何れであってもよい。
【0027】
前記合成の高分子としては、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンまたはポリアクリルアミド等のポリアク(メタ)クリロイルポリマー、ポリ酢酸ビニル等のポリカルボン酸ビニルあるいは前述したポリイミド、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6またはナイロン6,6などの縮合系ポリマー等の人工的な合成の高分子が挙げられる。これら合成の高分子から得られる高分子微粒子28は、形状等の品質が安定でかつ高く、また量産されているので、安価にウィスカ抑制効果を有する錫めっき膜26を得ることができる。
【0028】
前記高分子微粒子28は、その円形度を、
円形度=〔粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長〕/〔粒子を撮像した画像の周囲長〕・・・式1
で定義した値としたときに、該円形度が0.8〜1.0であるのが好ましく、より好ましくは0.9〜1.0の範囲である。なお、円形度は、真円が「1」で、形状が複雑になるほど小さい値になる。すなわち、円形度が0.9〜1.0の範囲では、粒子の球状性は極めて高く、錫めっき浴中においては極めて安定的に分散して、リード基材22に形成される錫めっき膜26の全体に均等に分散させて含有させ得る。また、球状性の高い高分子微粒子28は、錫めっき膜26内に存在している状態で、該錫めっき膜26に係る多方向からの応力に対して良好に変形して応力緩和に寄与し得る。これに対し、円形度が0.9未満であると、粒子が球形でなくなるため、錫めっき膜26内での高分子微粒子28の安定した分散が阻害されたり、錫めっき膜26内に高分子微粒子28が存在している状態で、該粒子28における径が短かい部分と長い部分とによって応力緩和の度合が異なってしまう。
【0029】
前記高分子微粒子28の円形度が0.8以上、0.9未満の範囲にある場合には、錫めっき膜26内において高分子微粒子28の径が短い部分と長い部分によって、該高分子微粒子28による応力緩和の度合いが多少異なる。しかしながら、高分子微粒子28のいびつな凹凸によるアンカー効果によって、高分子微粒子28が錫の結晶間に取り込まれ易くなり、錫めっき浴中における高分子微粒子28の分散性の低下を補い得ると共に、高分子微粒子28が円形度が多少低くてもウィスカの抑制効果が発現する。これに対して、高分子微粒子の円形度が0.8未満になると、高分子微粒子28のいびつな凹凸によるアンカー効果が互いに強く作用し過ぎてしまい、錫めっき浴中で高分子微粒子28の凝集が生じ易く、分散性が悪くなるので、逆に高分子微粒子28が錫の結晶間に取り込まれ難くなる。更に、高分子微粒子28の円形度が0.8未満になると、高分子微粒子28の径の短い部分と長い部分との差によって応力緩和の度合いも大きく異なってしまうので、応力が不均等になり、ウィスカが生じ易くなる。
【0030】
前記高分子微粒子28の大きさについては、前記リード基材22に形成される錫めっき膜26の厚さより大きくても、一部が錫めっき膜26に埋もれていれば、錫めっき膜26に加わる応力を緩和する作用を奏する。但し、高分子微粒子28の大きさは、その平均粒子径を錫めっき膜26の厚さ未満とするのがより好適であり、この場合は高分子微粒子28の全体が錫めっき膜26内に埋没して、該錫めっき膜26に加わる応力を好適に緩和することができる。なお、具体的には、錫めっき膜26の膜厚が10μmであれば、高分子微粒子28の平均粒子径は、10μm未満、好適には錫めっき膜26の厚さの半分以下とされる。また、高分子微粒子28の平均粒子径を4〜5μmとした場合における粒度については、1〜15μmの範囲に分布しているものがよく、より好ましくは1〜8μmの範囲に分布するものがよい。
【0031】
ここで、前記錫めっき膜26の膜厚については、5〜25μmの範囲に設定される。すなわち、膜厚が5μm未満であると、リード基材22の表面まで貫通するピンホールが存在して、錫めっき膜26によるリード基材22の保護機能が低下する。また膜厚が25μmを超えると、錫めっき膜26でリード基材22が被覆された外部リード20を切断・分離および成形等の加工を行なう際に発生する錫金属バリが大きくなり、正常な切断・分離および成形等の加工に支障を来たすおそれがある。
【0032】
前記高分子微粒子28は、市販されている物質を利用してもよいし、公知の方法によって製造してもよい。自然由来の天然の高分子から、前記粒子径とされる高分子微粒子28を製造する方法としては、機械的粉砕、懸濁蒸発法、コアセルベートまたは噴霧造粒法(例えば下記の非特許文献1)等が挙げられる。また、セルロースの場合、例えば下記の特許文献2に記載の如く、ビスコースの微粒子分散液からセルロースの微粒子を生成し、セルロースの微粒子を母液から分離し、篩い分けて所要の平均粒子径とされた球状の高分子微粒子28を得ることができる。
【非特許文献1】J.Appl.Polym.Sci.,71,747-759(1999)
【特許文献2】特公平5−48772号公報
【0033】
一方、人工的に製造される合成の高分子から、前記粒子径とされる高分子微粒子28を製造する方法としては、例えば公知の機械的粉砕、懸濁蒸発法、コアセルベート法または懸濁重合法が挙げられる。具体的には、以下の(1)〜(4)の方法が挙げられる。
(1)ポリエチレンやポリプロピレンを高分子として用いる場合は、水中で分散剤や乳化剤と共に高分子を融点以上の温度で攪拌した後、該高分子の融点未満まで冷却して球状の微粒子状に分散して得た分散体をろ過、乾燥して、所要の平均粒子径とされた高分子微粒子28を得ることができる。
(2)ポリブタジエンを高分子として用いる場合は、下記の非特許文献2に記載の懸濁蒸発法によって高分子微粒子28の好適な製造が可能である。
(3)ポリアク(メタ)クリロイルポリマーまたはポリカルボン酸ビニルを高分子として用いる場合は、夫々のモノマーを相分離する粘性媒体中に添加し、懸濁重合により高分子微粒子28を得ることができる。またモノマーを相分離する際に、粘性媒体中にジビニルベンゼンのような架橋モノマーを添加してもよい。
(4)ポリイミド、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6およびナイロン6,6を高分子として用いる場合は、下記の非特許文献3に記載のように、モノマーの重縮合過程において触媒と分散媒とを添加することで高分子微粒子28を製造可能である。
【非特許文献2】J.Chromatography A,1082,185(2005)
【非特許文献3】高分子論文集、64,50(2007)
【0034】
更に、図3に示す如く、高分子微粒子28の表面に対して、各種無機材料30を担持するようにしてもよい。前記無機材料30は、有機物である高分子微粒子28と較べて、錫めっき膜26をなす金属錫に対して密着性が良好である。従って、前記高分子微粒子28の表面に無機材料30を担持して、該高分子微粒子28と錫めっき膜26を構成する金属錫結晶との間に介在させることで、該無機材料30が高分子微粒子28と金属錫結晶との密着性を向上させ得る。そして、高分子微粒子28と金属錫結晶との密着性が向上することで、錫めっき膜26に加わる応力によって高分子微粒子28が変形せずに錫めっき膜26内で移動してしまう事態を回避し、高分子微粒子28の変形による応力緩和を確実になし得るようになる。前記無機材料30としては、錫めっき膜26の主構成物質である金属錫に対して馴染みのよい、錫、ニッケル、ビスマス、銅、亜鉛、アルミニウム、チタン、金、銀、ブラチナまたはパラジウム等の金属元素や、ケイ素等の半金属元素あるいはこれらの酸化物が採用される。
【0035】
前記無機材料30は、例えば該無機材料30を無電解めっきあるいはチタネートやシラノールまたはアルミネート等のゾル−ゲル法その他の公知の方法を用いることで前記高分子微粒子28の表面に担持される。この他、高分子微粒子28を原料から製造する場合には、高分子微粒子28の原料中に予め無機材料30を配合したもとで、一度に無機材料30を担持した高分子微粒子28を製造するようにしてもよい。
【0036】
前記調整工程S2は、前記準備工程S1で準備された高分子微粒子28等の各原料から、前記電子部品10に錫めっき膜26を付与するための錫めっき浴を調整する工程であり、公知の錫めっき浴を調整し、ここに高分子微粒子28を投入して含有させている。前記高分子微粒子28の投入量は、1リットルの錫めっき浴に対して、10〜100グラムとされる。この投入量が10グラム未満であると、100重量部の錫めっき膜26内における高分子微粒子28の含有量が0.01重量部未満となってしまい、該錫めっき膜26に加わる応力を充分に緩和できなくなって短絡の原因となるウィスカが生成してしまう虞が高くなる。一方、投入量が100グラムを超えると、100重量部の錫めっき膜26内における高分子微粒子28の含有量が5重量部を超えてしまい、該錫めっき膜26が剥離してしまう虞が高くなる。
【0037】
次に、本実施例に係る錫めっき膜26の形成に用いられる錫めっき浴について説明する。前記錫めっき浴は、一般的な錫めっき浴中に、前記高分子微粒子28を分散させたものである。そして、前記錫めっき浴に投入された高分子微粒子28は、公知のスターラまたは循環ポンプ等の分散装置を使用することで、該錫めっき浴中に好適に分散して含有される。なお、前述した一般的な錫めっき浴は特に限定されず、例えば106Ω/cm程度の純水に対して市販の外部リード錫めっき用の原液、スルホン酸および市販の添加剤を所要の比率で混合して調整される。
【0038】
また、前記錫めっき浴を使用した電子部品10へのめっきは、例えば、該錫めっき浴に外部リード20となるリード基材22を浸漬したり、リード基材22に該錫めっき浴を噴流させる公知の方法によって付与可能であり、付与後の後処理も公知の方法と何等変わりがない。すなわち、予め錫めっき浴中に高分子微粒子28を投入する以外は、通常の錫めっき浴を用いた錫めっき膜26の付与と何等変わりがない。従って、これまで使用していた錫めっき膜26の付与に係る設備等をそのまま流用可能であり、本発明に係る錫めっき膜26を付与するにあたって必要とされる設備コストを殆ど考える必要がない利点がある。なお、錫めっき浴中に高分子微粒子28を分散しているため、錫めっき後の製品を洗浄した洗浄廃水中の浮遊固形物(SS)は増えるが、凝集沈殿、生物処理、すな濾過、活性炭処理等の一般的な処理施設を用いることで、SSの処理やBOD(生物化学的酸素要求量)を改善することができる。
【0039】
前記錫めっき膜26において、高分子微粒子28に無機材料30を担持させることで、無機材料30が錫めっき膜26を構成する金属錫結晶と高分子微粒子28との良好な密着性を発現するから、該高分子微粒子28を錫めっき膜26の応力によって確実に変形させて確実に応力を緩和し得る。また錫めっき膜26の膜厚を5μm〜25μmの範囲にすることで、被めっき部であるリード基材22の保護機能がピンホールによって低下するのを防止し得ると共に、リード基材22の切断・分離および成形等の加工に際して発生する錫金属バリを小さく抑え、該加工に支障を来たすのを防止し得る。更に、高分子微粒子28の平均粒子径を、被めっき部であるリード基材22に付与する錫めっき膜26の厚さ未満にすることで、ウィスカの生成がより好適に抑制される錫めっき膜26をリード基材22に付与することができる。
【0040】
前記錫めっき浴において、高分子微粒子28に無機材料30を担持させることで、無機材料30により高分子微粒子28と錫めっき膜26を形成する金属錫結晶との良好な密着性が確保された錫めっき膜26を被めっき部であるリード基材22に付与し得る。
【0041】
そして、前述した錫めっき浴によって錫めっき膜26が付与された電子部品は、電子部品の使用時に錫めっき膜26からのウィスカの生成を抑制し得るから、該ウィスカに起因する短絡等の問題を回避し得る。
【0042】
(変更例)
(1)実施例において高分子微粒子28の製造方法は例示であって、その他各種の方法を採用可能である。また、前記高分子微粒子28の形状については、球状粒子が好ましいが、錫めっき膜26に加わる応力に対して変形可能であり、該応力を緩和できるものであれば、例えばドーナツ状の扁平粒子、金平糖状粒子その他不定形粒子を採用することが可能である。
(2)実施例で外部リード20の断面形状は矩形形状であったが、これに限定されるものではなく、例えば、円形状または六角形等の多角形状等、その他の形状であってもよい。
(3)実施例における電子部品10である半導体装置のパッケージは、SOP(Small Outline Package)である(図5参照)が、本発明はこれに限定されるものではない。例えばQFP(Quad Flat Package)等の表面実装型のパッケージや、DIP(Dual in Line Package)等の挿入型のパッケージの半導体装置にも適用可能であって、パッケージ形態について限定されない。
(4)実施例では、錫めっき膜26は外部リード20に付与されたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、プリント基板等の電子部品を搭載する部材に形成された配線を被覆するように錫めっき膜26を付与する等、通常の錫めっき膜と同様に幅広く用いることが可能である。
【0043】
(実験例1)
以下に、本発明に係る錫めっき膜についての実験例1を示す。
【0044】
図5に示すような電子部品10を準備して、該電子部品10のリード基材22に錫めっき膜26を付与するに際して、錫めっき浴を下記する表1の条件に従って調整して、実施例1〜10および比較例1〜4に係る錫めっき膜26が付与された外部リード20を備える電子部品10を得た。なお、錫めっき膜26の膜厚については、実施例1,2,4〜8,10および比較例1,2では、電流密度5A/dm2の条件で10μmの膜厚を形成し、実施例3,9および比較例3,4については、電流密度5A/dm2の条件で15μmの膜厚を形成した。また、各実施例における高分子微粒子の膜に対する含有量については、100重量部の錫めっき膜に対するもので表示してある。
【0045】
そして、錫めっき膜26が付与された外部リード20に対して、電子部品10の実際の使用状態を再現する荷重試験AおよびB並びに温度サイクル試験を実施し、実施後の錫めっき膜26の表面状態をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察して、生成している最長のウィスカの長さを測定し、その結果を表1に示した。なお、比較例1および3は、高分子微粒子28を含有させない錫めっき浴を使用して純錫めっき膜を付与するものであり、比較例2および4は、高分子微粒子28に変えてビスマスを含有させた錫めっき浴を使用して錫めっき膜を付与する例である。また、比較例2および4のビスマス含有量は、何れも100重量部の錫めっき膜に対して、2重量部である。表1に記載した円形度は、シスメックス(株)製のフロー式粒子像分析装置FPIA−3000Sにより前記[式1]で算出した値である。
【0046】
【表1】
【0047】
(使用原料)
・高分子微粒子A:セルロース(平均粒子径5μm or 8μm)
・高分子微粒子B:でんぷん(平均粒子径5μm)
・高分子微粒子C:酸化錫担持セルロース(平均粒子径5μm)
・高分子微粒子D:ポリエチレン(平均粒子径4μm)
・高分子微粒子E:アクリル(平均粒子径4μm)
・錫めっき浴:106Ω/cm程度の純水に市販の外部リード錫めっき用の原液、スルホン酸および市販の添加剤を、汎用的な体積比で混合した汎用の錫めっき浴を使用
(使用装置)
・走査型電子顕微鏡(SEM):商品名 JSM−6380LA;JOEL製
【0048】
(各試験の内容について)
本実験で実施される前記荷重試験AおよびB並びに温度サイクル試験は、何れも錫めっき膜26に加わる応力を高め、ウィスカの生成を促進するためのものである。なお、前記各試験は、外部リード20のリード基材22に錫めっき膜26を付与し、外部リード20を図5に示すように曲げる前の状態で実施した。
・荷重試験AおよびB
各荷重試験は、前述の各実施例1〜10または比較例1〜4の条件によって錫めっき膜26が付与された各外部リード20を、図4に示すように、下側荷重板32上に載置した状態で、上方から上側荷重板34で2000g/mm2の条件で荷重を加えて、常温下で所要時間放置するものである。前記所要時間は、荷重試験Aでは500時間に、荷重試験Bでは1500時間に夫々設定される。なお、前記両荷重板32および34は、何れもアクリル樹脂製である。
・温度サイクル試験
温度サイクル試験は、高温保持条件を125℃、30分、低温保持条件を−40℃、30分として、この高温保持条件および低温保持条件を夫々1回ずつ実施するサイクルを1サイクルとして、これを100サイクル繰り返すものである。なお、高温保持条件から低温保持条件への移行および低温保持条件から高温保持条件への移行は、何れも昇降温レート3℃/分で、55分の時間を掛けて実施した。
【0049】
(温度サイクル試験の結果)
温度サイクル試験の結果から分かるように、比較例1の純錫めっき膜ではウィスカ長が略25μmまで成長しているのに対し、実施例1,3,6,7,9の錫めっき膜については、ウィスカ長は何れも略15μm以下であった。すなわち、錫めっき膜に高分子微粒子を含有させることで、ウィスカの成長を抑制し得ることが確認された。また、比較例2および4の錫めっき膜のウィスカ長も略15μm以下であることから、錫めっき膜に高分子微粒子を含有させることで、ビスマスを添加した場合と同程度のウィスカ抑制効果が得られることが確認された。
【0050】
なお、比較例3の純錫めっき膜のウィスカ長は略15μmであり、ウィスカの成長度合は実施例と同等である。しかるに、比較例3の純錫めっき膜の膜厚は15μmであり、同じく膜厚を15μmとした実施例3および9のウィスカ長が略10μmであることから、同じ膜厚であれば錫めっき膜に高分子微粒子を含有させることで、ウィスカの成長が抑制されることは明らかである。
【0051】
(荷重試験の結果)
荷重試験Aの結果から分かるように、比較例1の純錫めっき膜ではウィスカ長が略35μmまで成長しているが、実施例1,2,5〜10および比較例2ではウィスカ長が略30μm以下に抑制されている。すなわち、荷重試験Aにおいても、錫めっき膜に高分子微粒子を含有させることで、ウィスカの成長を抑制し得ることが確認された。また、無機材料を坦持した高分子微粒子を用いた実施例6および7においては、他の実施例に比べて高分子微粒子の含有量は少ないが、ウィスカ長は略10μm以下であり、無機材料を坦持することで、ウィスカの成長をより抑制し得ることが分かる。なお、実施例2は、錫めっき膜に対する高分子微粒子の含有量が0.01重量部未満(0.008重量部)であるため、高分子微粒子を含有しない比較例1よりはウィスカの成長抑制効果はあるものの、高分子微粒子の含有量が0.1重量部以上とした他の実施例に比べてウィスカの成長抑制効果が劣っている。また実施例5は、高分子微粒子の円形度が0.9未満(0.662)であるため、高分子微粒子を含有しない比較例1よりはウィスカの成長抑制効果はあるものの、高分子微粒子の円形度を0.9以上とした他の実施例に比べてウィスカの成長抑制効果は劣っている。この結果から、錫めっき膜に対する高分子微粒子の含有量は、0.01以上とするのが好ましく、また高分子微粒子の円形度は0.9以上とするのが好ましいといえる。
【0052】
図7,図8および図9は、夫々荷重試験Aを実施した比較例1、実施例8および実施例10の各めっき膜表面を、前記SEMで撮像した倍率1000倍での写真であり、実施例8および10の錫めっき膜に生成されているウィスカが、比較例1の純錫めっき膜に生成されているウィスカに比べて短かいことが分かる。
【0053】
荷重を加えた状態での放置時間を長くした荷重試験Bにおいても、荷重試験Aと同じく、純錫めっき膜に比べて錫めっき膜に高分子微粒子を含有させることで、ウィスカの成長が抑制されることが確認された。
【0054】
(実験例2)
高分子微粒子の円形度を0.9未満とし、その他の条件を前記実施例10と同一とした比較例5について、前記荷重試験Aを実施し、そのSEM写真(倍率1000倍)を図10に示す。この比較例5では、最長のウィスカは略30μmであり、高分子微粒子を含有しない比較例1よりはウィスカの成長抑制効果はある。但し、実施例10と比較例5とを比較すると、高分子微粒子の円形度を0.9以上とすることで、ウィスカの成長をより抑制し得ることが認められる。なお、図11は、実施例10における高分子微粒子を前記SEMにより倍率3000倍で撮像した写真を示し、図12は、比較例5における高分子微粒子を前記SEMにより倍率3000倍で撮像した写真を示す。
【0055】
(実験例3)
高分子微粒子の錫めっき膜に対する含有量を0.01重量部未満とし、その他の条件を前記実施例10と同一とした比較例6、高分子微粒子の錫めっき膜に対する含有量を5重量部より多くし、その他の条件を実施例10と同一とした比較例7、前記実施例10および前記比較例1について、荷重試験Cを実施した。なお、荷重試験Cは、前記上側荷重板34での荷重条件を4000g/mm2に変更したもので、その他の条件は前記荷重試験Aと同じである。
【0056】
そして、荷重試験Cの実施後の錫めっき膜の表面状態について、生成しているウィスカおよびリード基材に対する錫めっき膜の密着性をSEMで観察し、その結果を表2に示した。なお、図13は、比較例1の倍率400倍のSEM写真、図14は、比較例6の倍率300倍のSEM写真、図15は、実施例10の倍率400倍のSEM写真、図16は、比較例7の倍率1000倍のSEM写真である。
【0057】
【表2】
【0058】
表2および図13〜図16に示すように、高分子微粒子を含有しない比較例1および含有量を0.01重量部未満とした比較例6では、50μm以上のウィスカが多数発生した。これに対し、高分子微粒子の含有量が0.01重量部以上の実施例10および比較例7では、ウィスカの長さは50μm未満であった。また、リード基材に対する錫めっき膜の密着性については、比較例1、比較例6および実施例10は問題なかった。一方、高分子微粒子の含有量を5重量部より多くした比較例7においては、錫めっき膜がリード基材から剥離している箇所があった。この結果から、高分子微粒子の含有量を0.01〜5重量部の範囲に設定することで、ウィスカの抑制効果および錫めっき膜の高い密着性が得られることが認められる。
【0059】
(実験例4)
1リットルの錫めっき浴に対する高分子微粒子の投入量を10グラム未満とし、その他の条件を前記実施例10と同一とした比較例8、投入量を100グラムより多くし、その他の条件を実施例10と同一とした比較例9および実施例10について、前記荷重試験Cを実施した。
【0060】
そして、荷重試験Cの実施後の錫めっき膜の表面状態について、生成しているウィスカおよびリード基材に対する錫めっき膜の密着性をSEMで観察し、その結果を表3に示した。なお、図17は、比較例8の倍率300倍のSEM写真、図18は、実施例10の倍率400倍のSEM写真、図19は、比較例9の倍率100倍のSEM写真である。
【0061】
【表3】
【0062】
表3および図17〜図19に示すように、錫めっき浴中への高分子微粒子の投入量を10グラム未満とした比較例8では、50μm以上のウィスカが多数発生した。これに対し、高分子微粒子の投入量を10グラム以上とした実施例10および比較例9では、ウィスカの長さは50μm未満であった。また、リード基材に対する錫めっき膜の密着性については、比較例8および実施例10は問題なかった。一方、高分子微粒子の投入量を100グラムより多くした比較例9においては、リード基材に対して錫めっき膜が密着していない箇所があった。この結果から、錫めっき浴中への高分子微粒子の投入量を10〜100グラムの範囲に設定することで、ウィスカの抑制効果および錫めっき膜の高い密着性が得られることが認められる。
【0063】
(実験例5)
実験例1と同様に、図5に示すような電子部品10を準備して、該電子部品10のリード基材22に錫めっき膜26を付与するに際して、錫めっき浴を下記する表4の条件に従って調整して、実施例11〜14および比較例10〜11に係る錫めっき膜26が付与された外部リード20を備える電子部品10を得た。なお、実施例11〜14および比較例10〜11における錫めっき膜26の膜厚については、電流密度5A/dm2の条件で10μmの膜厚を形成した。
【0064】
錫めっき膜26が付与された外部リード20に対して、電子部品10の実際の使用状態を再現する荷重試験Aを実験例1と同一条件で実施し、実施後の錫めっき膜26の表面状態をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察して、生成している最長のウィスカの長さを測定し、その結果を表4に示した。表4に記載した円形度は、シスメックス(株)製のフロー式粒子像分析装置FPIA−3000Sにより前記[式1]で算出した値である。
【0065】
【表4】
【0066】
(使用原料)
・高分子微粒子F:微細粒子化不溶性でんぷん(平均粒子径5μm)
高分子微粒子Fは、液体窒素で凍結したでんぷんを高速ミルによって微細化したものである。
・高分子微粒子G:破砕不溶性でんぷん(平均粒子径5μm)
高分子微粒子Gは、でんぷんを高速ミルによって乾式で粉砕したものである。
・錫めっき浴:106Ω/cm程度の純水に市販の外部リード錫めっき用の原液、スルホン酸および市販の添加剤を、汎用的な体積比で混合した汎用の錫めっき浴を使用した。
(使用装置)
・走査型電子顕微鏡(SEM):商品名 JSM−6380LA;JOEL製
【0067】
(実験例5の結果)
荷重試験Aの結果から分かるように、高分子微粒子やビスマスを含有していない比較例1の純錫めっき膜ではウィスカ長が略35μmまで成長しているが、高分子微粒子FおよびGを含有している実施例11〜14および比較例10〜11では、ウィスカ長が20μm以下に抑えられている。すなわち、実験例5においても、錫めっき膜に高分子微粒子を含有させることで、ウィスカの成長を抑制し得ることが確認された。また、荷重試験Aの結果から分かるように、円形度が0.8未満の比較例10および11の純錫めっき膜ではウィスカ長が20μmまで成長しているが、円形度が0.8以上、0.9、未満の範囲にある実施例11〜14ではウィスカ長が10μm以下に抑制されている。すなわち、高分子微粒子の円形度が0.8以上、0.9未満の範囲であっても、ウィスカの成長を抑制し得ることが確認された。
【符号の説明】
【0068】
22 リード基材(被めっき部),26 錫めっき膜,28 高分子微粒子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき部(22)に付与された錫めっき膜(26)は、非イオン性の高分子微粒子(28)を含有している
ことを特徴とする錫めっき膜。
【請求項2】
前記高分子微粒子(28)の円形度を、
円形度=〔粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長〕/〔粒子を撮像した画像の周囲長〕
としたときに、該円形度が0.8〜1.0である請求項1記載の錫めっき膜。
【請求項3】
前記高分子微粒子(28)は、100重量部の前記錫めっき膜(26)に対して、0.01〜5重量部含有される請求項1または2記載の錫めっき膜。
【請求項4】
前記高分子微粒子(28)の平均粒子径は、前記錫めっき膜(26)の厚さ未満にされる請求項1〜3の何れか一項に記載の錫めっき膜。
【請求項5】
被めっき部(22)に錫めっき膜(26)を付与するために使用される錫めっき浴は、非イオン性の高分子微粒子(28)を含有している
ことを特徴とする錫めっき浴。
【請求項6】
前記高分子微粒子(28)の円形度を、
円形度=〔粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長〕/〔粒子を撮像した画像の周囲長〕
としたときに、該円形度が0.8〜1.0である請求項5記載の錫めっき浴。
【請求項7】
前記高分子微粒子(28)は、1リットルの前記錫めっき浴に対して、10〜100グラム含有される請求項5または6記載の錫めっき浴。
【請求項1】
被めっき部(22)に付与された錫めっき膜(26)は、非イオン性の高分子微粒子(28)を含有している
ことを特徴とする錫めっき膜。
【請求項2】
前記高分子微粒子(28)の円形度を、
円形度=〔粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長〕/〔粒子を撮像した画像の周囲長〕
としたときに、該円形度が0.8〜1.0である請求項1記載の錫めっき膜。
【請求項3】
前記高分子微粒子(28)は、100重量部の前記錫めっき膜(26)に対して、0.01〜5重量部含有される請求項1または2記載の錫めっき膜。
【請求項4】
前記高分子微粒子(28)の平均粒子径は、前記錫めっき膜(26)の厚さ未満にされる請求項1〜3の何れか一項に記載の錫めっき膜。
【請求項5】
被めっき部(22)に錫めっき膜(26)を付与するために使用される錫めっき浴は、非イオン性の高分子微粒子(28)を含有している
ことを特徴とする錫めっき浴。
【請求項6】
前記高分子微粒子(28)の円形度を、
円形度=〔粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長〕/〔粒子を撮像した画像の周囲長〕
としたときに、該円形度が0.8〜1.0である請求項5記載の錫めっき浴。
【請求項7】
前記高分子微粒子(28)は、1リットルの前記錫めっき浴に対して、10〜100グラム含有される請求項5または6記載の錫めっき浴。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2009−209453(P2009−209453A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24105(P2009−24105)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人科学技術振興機構・平成19年度地域イノベーション創出総合支援事業「シーズ発掘試験」の研究成果に係る特許出願 独立行政法人科学技術振興機構・重点地域研究開発推進プログラム(平成20年度地域ニーズ即応型)の研究成果に係る特許出願
【出願人】(393007916)株式会社九州ノゲデン (10)
【出願人】(591202155)熊本県 (17)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人科学技術振興機構・平成19年度地域イノベーション創出総合支援事業「シーズ発掘試験」の研究成果に係る特許出願 独立行政法人科学技術振興機構・重点地域研究開発推進プログラム(平成20年度地域ニーズ即応型)の研究成果に係る特許出願
【出願人】(393007916)株式会社九州ノゲデン (10)
【出願人】(591202155)熊本県 (17)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】
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