説明

錯体形成基を有する多孔性中空糸膜及び該多孔性中空糸膜による酸化ゲルマニウムの回収方法

【課題】廃棄物のゲルマニウムを回収することのできる多孔性中空糸膜、及びこの多孔性中空糸膜による酸化ゲルマニウムの回収方法を提供する。
【解決手段】ポリエチレン製多孔性中空糸膜の表面に、放射線グラフト重合されたエポキシ基を含有する化合物の残基と、該残基と反応して式:


又は、シス−1,2−ジオール構造で表される構造を含む残基を与える化合物とを反応させて得られる、キレート形成を有する多孔性中空糸膜及びこの多孔性中空糸膜と酸化ゲルマニウムを含有する水溶液を接触させて捕集した酸化ゲルマニウムを酸性溶液で溶出させて、酸化ゲルマニウムを回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキレート形成能を有する多孔性中空糸膜及び該多孔性中空糸膜による酸化ゲルマニウムの回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゲルマニウムは、光ファイバーや太陽電池等のいわゆるハイテク産業用の材料開発に、又、ポリエチレンテレフタレート樹脂の重合促進触媒や、更には、生理活性物質の製造のための原料として、様々な分野における不可欠な元素である。
【0003】
特に最近になって、ゲルマニウムの供給がその需要に追いつかず、需要−供給がアンバランスな状態が続くために問題視されているが、我国ではゲルマニウムの供給はそのほとんどを輸入に依存しているため、従来は廃棄されるに任されていたゲルマニウムを何らかの手段で回収することができれば、需要−供給のバランスが改善されると共に、資源の再利用の観点からも好ましい。
【0004】
しかしながら、現時点では、ゲルマニウム、特にそれ自体で触媒として使用されたり、或いは、各種用途のゲルマニウムの原料となる酸化ゲルマニウムの有効な回収方法は提案されておらず、その開発が望まれていた。
【特許文献1】特開平8−199480
【特許文献2】特開平7−24314
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決し、従来は廃棄されるに任されていたゲルマニウム、特に酸化ゲルマニウムを経済的かつ効率的に回収することのできる多孔性中空糸膜、及び、この多孔性中空糸膜によるゲルマニウム、特に酸化ゲルマニウムの経済的かつ効率的な回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明が採用した多孔性中空糸膜の構成は、ポリエチレン製多孔性中空糸膜の表面に放射線グラフト重合されたエポキシ基を含有する化合物の残基と、該残基と反応して式
【化7】

(式中、R1及びR2は水素原子又は低級アルキル基を示す。)、又は、式
【化8】

で表される構造を含む残基を与える化合物とを反応させて得られることを特徴とするものであり、同様に本発明が採用した多孔性中空糸膜による酸化ゲルマニウムの回収方法の構成は、このキレート形成能を有する多孔性中空糸膜に対し、酸化ゲルマニウムを含有する水溶液を接触させることにより、該水溶液中の酸化ゲルマニウムを、前記キレート形成能を有する多孔性中空糸膜で捕集し、その後、酸性溶液により前記捕集された酸化ゲルマニウムを溶出することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のキレート形成能を有する多孔性中空糸膜は、例えばトリエタノ一ルアミン構造或いはジ又はポリオール構造のようなキレート形成能を有する官能基を有しているので、高い効率で酸化ゲルマニウムを吸着することができる。
【0008】
又、本発明のキレート形成能を有する多孔性中空糸膜に吸着された酸化ゲルマニウムは、酸処理をすることにより、溶出率ほぼ100%で回収することができ、吸脱着の繰り返し使用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明で使用するポリエチレン製の多孔性中空糸膜とは、ポリエチレンにより製造された中が空の糸である中空糸膜(中空糸或いは中空繊維とも呼ばれる)に対し、中から外に通ずる孔が多数設けられたものであり、抽出法或いは延伸法により製造されるが、市販品を利用することが簡便である。
【0011】
本発明のキレート形成能を有する多孔性中空糸膜を製造するには、上記ポリエチレン製の多孔性中空糸膜の表面に、エポキシ基を含有する化合物を重合するのであり、この重合反応は放射線グラフト重合により行われる。
【0012】
上記放射線グラフト重合は、電子線やγ線等の放射線により、ポリエチレンラジカルを発生させ、これとモノマー(本発明でいうエポキシ基を含有する化合物)を反応させるものである。
【0013】
上記エポキシ基を含有する化合物としては、例えば、グリシジルメタクリレートを挙げることができ、これを上記ポリエチレン製の多孔性中空糸膜の表面に放射線グラフト重合した場合、以下のような構造のエポキシ基を含有する化合物の残基を有するポリエチレン製の多孔性中空糸膜を得ることができる。
【化9】

【0014】
尚、上記エポキシ基を含有する化合物の使用量としては、例えば、グリシジルメタクリレートの場合、得られる多孔性中空糸膜1Kg当たりのエポキシ基量が4.0モル程度となる量を挙げることができる、尚、エポキシ基を含有する化合物の使用量により、得られる多孔性中空糸膜のエポキシ基量を調整することができる。
【0015】
次いで、上記エポキシ基を含有する化合物の残基を有するポリエチレン製の多孔性中空糸膜の、上記エポキシ基を含有する化合物の残基と、第1には該残基と反応して式
【化10】

で表される構造を含む残基を与える化合物とを反応させて、本発明のキレート形成能を有する第1の多孔性中空糸膜を得るのである。
【0016】
上記式中のR1及びR2は、同一或いは異なって、水素原子又は低級アルキル基を示している。
【0017】
上記第1の多孔性中空糸膜を得るために使用する化合物としては、上記式で表される構造を含む残基を与える化合物であれば特に限定されないが、例えば、2,2−イミノジエタノール又はジ−2−プロパノールアミンを挙げることができる。
【0018】
2,2−イミノジエタノールを使用した場合、本発明のキレート形成能を有する第1の多孔性中空糸膜は、
【化11】

のような構造をとり、ジ−2−プロパノールアミンを使用した場合は、
【化12】

のような構造をとることになる。
【0019】
上記第1の多孔性中空糸膜を得る際の製造条件としては、例えば、上記エポキシ基を含有する化合物の残基を有するポリエチレン製の多孔性中空糸膜を、上記第1の多孔性中空糸膜を得るために使用する化合物の溶液に浸漬し、多孔性中空糸膜のエポキシ基に第1の多孔性中空糸膜を得るために使用する化合物を付加すればよい。尚、第1の多孔性中空糸膜を得るために使用する化合物の使用量により、得られる多孔性中空糸膜のキレート形成能を有する構造の量を調整することができる。
【0020】
尚、本発明のキレート形成能を有する第1の多孔性中空糸膜は、以下に示すように、酸化ゲルマニウムの場合はゲルマトラン構造を形成することにより、これを捕集するものである。
【化13】

【0021】
一方、上記エポキシ基を含有する化合物の残基を有するポリエチレン製の多孔性中空糸膜の、上記エポキシ基を含有する化合物の残基と、第2には該残基と反応して式
【化14】

で表される構造(シス−1,2−ジオール構造)を含む残基を与える化合物とを反応させれば、本発明のキレート形成能を有する第2の多孔性中空糸膜を得ることができる。
【0022】
上記第2の多孔性中空糸膜を得るために使用する化合物としては、上記式で表される構造を含む残基を与える化合物であれば特に限定されないが、例えば、N−メチルグルカミン又は3−アミノ−1,2プロパンジオールを挙げることができる。
【0023】
N−メチルグルカミンを使用した場合、本発明のキレート形成能を有する第1の多孔性中空糸膜は、
【化15】

のような構造をとり、3−アミノ−1,2プロパンジオールを使用した場合は、
【化16】

のような構造をとることになる。
【0024】
上記第2の多孔性中空糸膜を得る際の製造条件としては、例えば、上記エポキシ基を含有する化合物の残基を有するポリエチレン製の多孔性中空糸膜を、上記第2の多孔性中空糸膜を得るために使用する化合物の溶液に浸漬し、多孔性中空糸膜のエポキシ基に第2の多孔性中空糸膜を得るために使用する化合物を付加ればよい。尚、第2の多孔性中空糸膜を得るために使用する化合物の使用量により、得られる多孔性中空糸膜のキレート形成能を有する構造の量を調整することができる。
【0025】
尚、本発明のキレート形成能を有する第2の多孔性中空糸膜は、以下に示すように、酸化ゲルマニウムの場合はシス−1,2−ジオール構造との錯体を形成することにより、これを捕集するものである。
【化17】

【0026】
以上のようにして得られた本発明のキレート形成能を有する多孔性中空糸膜によりゲルマニウムを回収するには、まず、例えば酸化ゲルマニウムを含有する水溶液を接触させることにより、該水溶液中の酸化ゲルマニウムを、前記キレート形成能を有する多孔性中空糸膜で捕集すればよいが、具体的には、例えば酸化ゲルマニウムを含有する水溶液を、本発明のキレート形成能を有する多孔性中空糸膜の内面から外面にかけて透過させればよい。
【0027】
酸化ゲルマニウムを含有する水溶液を多孔性中空糸膜の内面から外面にかけて透過させる際の条件としては、例えば、水酸化ナトリウム及び塩酸でpHを3〜12に調整した0.01wt%酸化ゲルマニウム水溶液を、一定圧力及び一定温度で透過させた後、必要に応じ、水による洗浄操作を行えばよい。
【0028】
上記のように、酸化ゲルマニウムを含有する水溶液を多孔性中空糸膜の内面から外面にかけて透過させることにより、酸化ゲルマニウムは、上記ゲルマトラン構造か、或いは、シス−1,2−ジオール構造との錯体のいずれかをとり、これにより本発明のキレート形成能を有する多孔性中空糸膜で捕集される。
【0029】
最終的に、酸性溶液により前記捕集された酸化ゲルマニウムを溶出することにより、酸化ゲルマニウムを含有する水溶液から酸化ゲルマニウムを回収するのであるが、この際の酸性溶液としては、例えば1M程度の濃度の塩酸を挙げることができる。
【0030】
尚、酸性溶液により前記捕集された酸化ゲルマニウムを溶出するには、例えば捕集する場合と同様に、酸性溶液を多孔性中空糸膜の内面から外面にかけて透過させればよい。
【実施例】
【0031】
以下に本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【0032】
1.キレート形成能を有する多孔性中空糸膜の作成
ポリエチレン製多孔性中空糸膜(内径1.8mm、外径3.1mm、細孔径0.3μm、空孔率70%)に、窒素雰囲気下、室温で放射線を200KGy照射し、これをグリシジルメタクリレートのメタノール溶液の入ったガラス製のアンプルに投入し、40℃でグリシジルメタクリレートをグラフト重合した(グリシジルメタクリレート膜[以下、GMA膜という]1Kg当たりのエポキシ基量:4.0モル)。
【0033】
1−1)イミノジエタノール膜の作成
上記のように放射線グラフト重合したGMA膜を50vol%のイミノジエタノール水溶液に338K(65℃)で浸漬し、GMA膜のエポキシ基にイミノジエタノール基を付加させた膜(以下IDE膜という)を作成した。
【0034】
1−2)ジイソプロパノールアミン膜の作成
同様に、GMA膜を1Mジイソプロパノールアミン水溶液に338K(65℃)で浸漬し、GMA膜のエポキシ基にジイソプロパノールアミン基を付加させた膜(以下、DPA膜という)を作成した。
【0035】
1−3)N−メチルグルカミン膜の作成
同様に、GMA膜を0.5M N−メチルグルカミン/50vol%ジオキサン水溶液に353K(80℃)で浸漬し、GMA膜のエポキシ基にN−メチルグルカミン基を付加させた膜(以下、NMG膜という)を作成した。
【0036】
1−4)3−アミノ−1,2−プロパンジオール膜の作成
同様に、GMA膜を1M 3−アミノ−1,2−プロパンジオール/50vol%ジオキサン水溶液に353K(80℃)で浸漬し、GMA膜のエポキシ基に3−アミノ−1,2−プロパンジオール基を付加させた膜(以下、APD膜という)を作成した。
【0037】
2.キレート形成能を有する多孔性中空糸膜の構造の確認
これら膜の構造をIRスペクトルから確認した。即ち、GMA膜からIDE膜、DPA膜、NMG膜及びAPD膜に変換することによって、847、909cm-1のエポキシの吸収が消失して、3000〜3500cm-1に水酸基の吸収が新たに出現した。以下、それぞれの膜のIRスペクトルデータを記載する。
【0038】
GMA膜(基材グラフト率155.5%のもの)
2920、2851cm-1(CH伸縮振動)
l734cm-1(CO基)
1490cm-1 1262cm-1 1150cm-1付近 995cm-1 762cm-1
909cm-1(エポキシ逆対称環伸縮)
847cm-1(エポキシ逆対称環伸縮)
【0039】
IDE膜(変換率98%)
3000〜3500cm-1(OH基)
2917、2851cm-1(CH伸縮振動)
1725cm-1(CO基)
1474cm-1 1250cm-1 1163cm-1付近 1068cm-1
エポキシ逆対称伸縮の吸収は消失
【0040】
DPA膜(変換率90%)
3000〜3500cm-1(OH基)
2919、2851cm-1(CH伸縮振動)
1728cm-1(CO基)
1472cm-1 1271cm-1 1150cm-1 995cm-1
エポキシ逆対称環伸縮の吸収は消失
【0041】
NMG膜(変換率82%)
3000〜3500cm-1(OH基)
2919、2851cm-1(CH伸縮振動)
1717cm-1(CO基)
1474、1260、1170、1084cm-1
エポキシ逆対称環伸縮の吸収は消失
【0042】
APD膜(変換率68%)
3000〜2500cm-1(OH基)
2919、2851cm-1(CH伸縮振動)
l725cm-1(CO基)
1474、1269、1168cm-1
エポキシ逆対称環伸縮の吸収は消失
【0043】
3.キレート形成能を有する多孔性中空糸膜への酸化ゲルマニウムの吸着
上記のようにして製造した4種類のキレート形成能を有する多孔性中空糸膜(IDE膜、DPA膜、NMG膜及びAPD膜)を、図1に示すような透過装置にセットした。次に、以下の3種類の操作のために、3種類の溶液を順に、一定圧力(0.1MPa)及び一定温度(24℃)で透過させた。
1)吸着操作:0.01wt%酸化ゲルマニウム水溶液(水酸化ナトリウム及び塩酸でpHを3〜12に調整した。)
2)洗浄操作:水
3)溶出操作:1M塩酸
それぞれの操作について、透過液を連続的に試験管に分取した。その透過液中のゲルマニウム濃度をフェニルフルオロン法に従い定量し、多孔性中空糸膜へのゲルマニウム吸着量を、供給液のゲルマニウム濃度と透過液のゲルマニウム濃度の差から算出した。
【0044】
4.結果
4−1)ゲルマニウム吸着量の比較
多孔性中空糸膜(IDE膜、DPA膜、NMG膜及びAPD膜)に酸化ゲルマニウム水溶液を透過させたときのゲルマニウムの吸着量を、吸着量曲線として図2に、pH=4.6のときのそれぞれの多孔性中空糸膜の吸着性能を表1に示す。
【表1】

【0045】
図2及び表1から、IDE膜の吸着量が最も高く、膜1Kg当たり1.2mmol/gとなり、IDE膜及びDPA膜がNMG膜及びAPD膜より高い吸着能を示した。
【0046】
尚、上記「DEV」は透過液量/膜体積(但し、中空部を除く)を示している。
【0047】
又、すべての多孔性中空糸膜の溶出率がほぼ100%であり、吸脱着の繰り返し使用が可能であることがわかった。
【0048】
4−2)IDE膜のゲルマニウム吸着性能におけるpH依存性
IDE膜に対する酸化ゲルマニウム水溶液の供給時の初期pHを、3.2から11.7に変化させて透過させたときの、IDE膜における吸着量のpH依存性を図3に示す。図3の吸着量及び表1から、酸化ゲルマニウム吸着量は初期pHが3から12の範囲で変化することがわかった。pH=7.8のときのIDE基に対するゲルマニウムの結合モル比は0.88であり、pH=11.7のときより約3.4倍ほど高くなり、このことから酸化ゲルマニウム吸着量はpHによって変化し、pH=7.8のときが最適であることがわかった。
【0049】
5.高容量IDE膜に対する酸化ゲルマニウムの吸着
5−1)酸化ゲルマニウムの吸着量の比較
吸着量を更に高くするために、GMAグラフト率及びIDE基転化率を高めた高容量IDE膜(官能基密度:2.9mol/kg)による酸化ゲルマニウムの吸着実験(初期pH:7.1)を、上記と同様にして行った。そのときの酸化ゲルマニウムの破過曲線を図4に示した。又、比較のため、上記吸着実験における最適条件(官能基密度1.3mol/kg)における破過曲線を、同様に図4に示した。
【0050】
図4から明らかなように、高容量IDE膜によれば、高容量の酸化ゲルマニウムの吸着が可能である。
【0051】
5−2)マンノース側鎖キトサン樹脂及びN−2,3−ジヒドロキシプロピルキトサン樹脂との比較
高容量IDE膜の酸化ゲルマニウムの吸着量と、金属を吸着することが知られているマンノース側鎖キトサン樹脂及びN−2,3−ジヒドロキシプロピルキトサン樹脂(キチン・キトサン研究 Vol.4,No.2,1998)の酸化ゲルマニウムの吸着量を比較し、結果を表2に示す。高容量IDE膜のGe吸着量が2.7mol/kg(196g/kg)とこれまでより約2.3倍高くなり、基材樹脂がキトサンであるキトサン樹脂よりも吸着量の高いことがわかった。
【表2】

【0052】
5−3)IDE膜の吸着における流量依存性
IDE膜に酸化ゲルマニウムの水溶液(初期pH6.3)を、流量を5、10、25及び50ml/minで透過させたときのGeの破過曲線を図5に示す。流量が10倍までに変化しても、破過曲腺の形は変化せず、吸着量が一定であった。このことから、膜厚方向に垂直な方向の拡散移動抵抗は、無視できるほど非常に小さいことがわかる。尚、酸化ゲルマニウムの吸着量は4回の平均で0.99mol/kg(72.1g/kg)であり、又、DEtA基に対する酸化ゲルマニウムの結合モル比は0.72であった。
【0053】
5−4)IDE膜の繰り返し吸着特性
IDE膜による6回の吸着−溶出−再生サイクルを繰り返したときの溶出率と、6回のうち後半の4回の結合モル比を図6に示す。各回それぞれの溶出率が100%付近で一定となり、後半4回の膜へのGe吸着量に変化がなかった。これにより、IDE膜において、吸着−溶出−再生サイクルの繰り返し使用が可能になり、吸着−溶出−再生サイクルの繰り返し使用回数が増えても吸着容量や溶出率の性能が低下せず、工業的に使用できる吸着材であることがわかった。
【0054】
5−5)IDE膜の溶出特性
溶出特性を調べるために、IDE膜に酸化ゲルマニウムの水溶液(初期pH6.3)を透過させ、溶出操作での分取量を上記の透過液の分取量より1/10として操作した。その溶出曲線を図7に示す。溶出液のピーク濃度から、供給液濃度の約45倍に濃縮することができ、又、吸着していた酸化ゲルマニウムの90%が膜体積(約0.4mL)の3倍、100%が30倍の1M塩酸で溶出することができた。
【0055】
以上のように、本発明のキレート形成能を有する多孔性中空糸膜は、効率よく酸化ゲルマニウムを吸着することができるものであり、又、この多孔性中空糸膜をモジュール化することにより、酸化ゲルマニウムの回収をすばやく、大量に、繰り返し行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】多孔性中空糸膜への酸化ゲルマニウムの吸着能を検討するための透過装置の概念図である。
【図2】多孔性中空糸膜に酸化ゲルマニウム水溶液を透過させたときのゲルマニウムの吸着量を吸着量曲線として示すグラフである。
【図3】IDE膜のゲルマニウム吸着性能におけるpH依存性を示すグラフである。
【図4】高容量IDE膜に対する酸化ゲルマニウムの吸着能を示すグラフである。
【図5】IDE膜の吸着における流量依存性を示すグラフである。
【図6】IDE膜の繰り返し吸着特性を示すグラフである。
【図7】IDE膜の溶出特性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン製多孔性中空糸膜の表面に放射線グラフト重合されたエポキシ基を含有する化合物の残基と、該残基と反応して式
【化1】

(式中、R1及びR2は水素原子又は低級アルキル基を示す。)、又は、式
【化2】

で表される構造を含む残基を与える化合物とを反応させて得られることを特徴とするキレート形成能を有する多孔性中空糸膜。
【請求項2】
放射線グラフト重合されるエポキシ基を含有する化合物がグリシジルメタクリレートである請求項1に記載のキレート形成能を有する多孔性中空糸膜。
【請求項3】

【化3】

(式中、R1及びR2は水素原子又は低級アルキル基を示す。)で表される構造を含む残基を与える化合物が、2,2−イミノジエタノール又はジ−2−プロパノールアミンである請求項1に記載のキレート形成能を有する多孔性中空糸膜。
【請求項4】

【化4】

で表される構造を含む残基を与える化合物が、N−メチルグルカミン又は3−アミノ−1,2プロパンジオールである請求項1に記載のキレート形成能を有する多孔性中空糸膜。
【請求項5】
ポリエチレン製多孔性中空糸膜の表面に放射線グラフト重合されたエポキシ基を含有する化合物の残基と、該残基と反応して式
【化5】

(式中、R1及びR2は水素原子又は低級アルキル基を示す。)、又は、式
【化6】

で表される構造を含む残基を与える化合物とを反応させて得られるキレート形成能を有する多孔性中空糸膜に対し、酸化ゲルマニウムを含有する水溶液を接触させることにより、該水溶液中の酸化ゲルマニウムを、前記キレート形成能を有する多孔性中空糸膜で捕集し、その後、酸性溶液により前記捕集された酸化ゲルマニウムを溶出することを特徴とする、キレート形成能を有する多孔性中空糸膜による酸化ゲルマニウムの回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−181816(P2007−181816A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327003(P2006−327003)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【分割の表示】特願平11−127459の分割
【原出願日】平成11年5月7日(1999.5.7)
【出願人】(391001860)株式会社浅井ゲルマニウム研究所 (4)
【Fターム(参考)】