説明

鍛造加工用潤滑液、温間または熱間鍛造加工方法および等速ジョイント外輪の製造方法

【課題】黒鉛を含まずに黒鉛潤滑剤と同等の潤滑性能をもつ鍛造加工用潤滑液、該潤滑液を用いる温間または熱間鍛造加工方法、および該鍛造加工方法を用いる等速ジョイント外輪の製造方法を提供する。
【解決手段】潤滑成分を水系溶媒に分散させてなり、鍛造加工用途に用いられる鍛造加工用潤滑液であって、上記潤滑成分がポリフェニレンサルファイド樹脂粉末であり、該樹脂粉末が鍛造加工用潤滑液全体に対して 1 重量%〜40 重量%含まれており、該潤滑液を用いる温間または熱間鍛造加工方法は、絞り込みダイ13および外輪成形用パンチ10から選ばれた少なくとも一つに上記鍛造加工用潤滑液を塗装し、外輪素材14が 500℃〜1300℃に加熱された後、鍛造成形加工される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鍛造加工用潤滑液、温間または熱間鍛造加工方法および等速ジョイント外輪の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鍛造加工に用いられる潤滑液には黒鉛粒子を鉱油および/または水に分散させた潤滑液が長く使用されてきた。黒鉛潤滑液は黒色のため、作業環境を激しく汚染させることから作業者に対する衛生的な負荷が大きいことが指摘されている。
また、黒鉛以外の潤滑成分に鉱油を含むものは排液処理や潤滑液の腐敗など環境・衛生面での問題が懸念される。
近年、作業者はもちろん、環境保全に対する意識の向上から、水溶性高分子やカルボン酸塩型有機化合物などを成分とした非黒色潤滑液が鍛造加工用として開発されている(特許文献1および特許文献2参照)。
また、ジチオリン酸亜鉛と、ポリフェニレンサルファイドとを含有する塑性加工用潤滑油組成物が知られている(特許文献3参照)。
【0003】
しかしながら水溶性高分子やカルボン酸塩などを主成分とする非黒色潤滑液は、黒鉛潤滑液と比較して成分自身にへき開性が無く、分解時の中間化合物を利用するため、一般的に潤滑性が劣るものが多いという問題がある。
また、非黒色潤滑液の最大限の潤滑性能を出すためには、濃度や金型温度、乾燥皮膜の形成時間など、加工条件の厳密な管理が必要である。金型に付着した潤滑液が湿潤である場合、加工時に鍛造加工面から潤滑成分が逃げやすく、適切な潤滑性能が得られない。鍛造時の表面積の拡大に対応して皮膜を追従させるためには、乾燥皮膜を一定以上の膜厚で形成させる必要があるが、これはサイクルタイムの増加につながり、生産工程の律速段階となる可能性があるという問題がある。
また、ジチオリン酸亜鉛と、ポリフェニレンサルファイドとからなる塑性加工用潤滑油組成物は、水系溶媒を使用することが考慮されていないという問題がある。
【特許文献1】特許第3099219号公報
【特許文献2】特許第3820285号公報
【特許文献3】特開2001−348588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、黒鉛を含まずに黒鉛潤滑剤と同等の潤滑性能をもつ鍛造加工用潤滑液、該潤滑液を用いる温間または熱間鍛造加工方法および該鍛造加工方法を用いる等速ジョイント外輪の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、潤滑成分を水系溶媒に分散させてなり、鍛造加工用途に用いられる鍛造加工用潤滑液であって、上記潤滑成分がポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと略称する)樹脂粉末であり、該樹脂粉末が鍛造加工用潤滑液全体に対して 1 重量%〜40 重量%含まれていることを特徴とする。
また、上記PPS樹脂粉末の平均粒子径が 1μm〜500μm であることを特徴とする。
潤滑成分を分散させる水系溶媒は、界面活性剤を含むことを特徴とする。また、粘度調整剤を含むことを特徴とし、特にこの粘度調整剤カルボキシメチルセルロースであり、鍛造加工用潤滑液全体に対して 5 重量%以下配合することを特徴とする。
【0006】
また、潤滑成分を分散させる水系溶媒は、レベリング剤を含むことを特徴とし、特にこのレベリング剤が水溶性ポリエステル樹脂であり、鍛造加工用潤滑液全体に対して 3 重量%以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明の温間または熱間鍛造加工方法は、上記本発明の鍛造加工用潤滑液を用いる方法であって、上記鍛造加工用潤滑液がパンチおよびダイの少なくとも1つに塗装され、上記ワークが 500℃〜1300℃に加熱された後、鍛造成形加工されることを特徴とする。
また、上記温間または熱間鍛造加工方法は、後方押出しまたは複合押出しの加工形態を用いることを特徴とする。
【0008】
本発明の等速ジョイント外輪の製造方法は、内輪および外輪からなる軌道輪の有するトラック溝と、転動体との係り合いによって回転トルクの伝達が行なわれる等速ジョイントにおける上記外輪を、上記本発明の温間または熱間鍛造加工方法を用いた鍛造加工方法で加工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の鍛造加工用潤滑液は、PPS樹脂粉末を水系溶媒に 1 重量%〜40 重量%分散させてなるので、黒鉛を含まずに黒鉛潤滑剤と同等の潤滑性能をもつことができる。
【0010】
本発明の上記鍛造加工用潤滑液を用いる温間または熱間鍛造加工方法は、ダイおよびパンチから選ばれた少なくとも一つに黒鉛を含まない上記鍛造加工用潤滑液を塗装し、潤滑被膜を形成し、上記ワークを 500℃〜1300℃に加熱した後、鍛造成形加工するので、作業環境を汚染させることなく、衛生的な環境下で鍛造加工を行なうことができる。
【0011】
本発明の等速ジョイント外輪の製造方法は、黒鉛を含まない上記鍛造加工用潤滑液を用いる上記鍛造加工方法で該外輪を加工するので、作業環境を汚染させることなく、衛生的な環境下で鍛造加工を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の鍛造加工用潤滑液は、潤滑成分としてPPS樹脂粉末を水系溶媒に分散させたもので、パンチおよび/またはダイに塗装された潤滑成分が、加熱したワークと鍛造時に接触するときに融解し、その溶融粘度が低いため鍛造時におけるワークの表面積の拡大に対し潤滑被膜が追従する。また、水系溶媒に、界面活性剤、粘度調整剤、レベリング剤を添加することにより、常温から高温まで幅広い温度範囲で塗装性を確保し、パンチおよび/またはダイに対する付着性を向上させることができる。
【0013】
潤滑成分として使用できるPPS樹脂は、芳香族基がチオエーテル結合で連結された構造を有する樹脂をいう。PPS樹脂は樹脂中に架橋構造が全くないものから部分的架橋構造を有するものに至るまで各種重合度のものを後熱処埋工程にかけて自由に製造することができるので、鍛造加工用潤滑液の潤滑成分として適正な溶融粘度特性を有するものを任意に選択使用することが可能である。また、上記した以外に架橋構造をとらない直鎖状の樹脂を採用することができる。
【0014】
PPS樹脂の溶融粘度は、300℃で 10 〜10,000 Pa・s 、好ましくは 30 〜3,000 Pa・s 、より好ましくは 30 〜1,000 Pa・s 、最も好ましくは 50 〜800 Pa・s である。また、PPS樹脂の末端にSH基を導入した樹脂であってもよい。PPS樹脂の市販品としては、T4AG(大日本インキ化学社、商品名)、サスティール160N(東ソー社、商品名)、KPS W214(呉羽化学工業社、商品名)等が挙げられる。
【0015】
本発明の鍛造加工用潤滑液に用いるPPS樹脂粉末の平均粒子径は 1μm〜500μm であることが好ましい。平均粒子径が 500μm をこえる場合は潤滑液の付着状況にムラがおこり、鍛造後のワーク寸法が不均一となる。また、潤滑液を金型に塗装する設備としてスプレーノズルやスプレーガンを使用する場合には吹付け装置内でノズルつまり等の不具合を引き起こす可能性がある。また、平均粒子径が 1μm 未満の場合、均一であっても全体的に付着量が少なく、最適な潤滑状態が得られない可能性がある。
【0016】
本発明の鍛造加工用潤滑液全体に対するPPS樹脂粉末の配合割合としては 1 重量%〜 40 重量%である。1 重量%未満の場合潤滑液が希薄で、適切な潤滑被膜を形成できない可能性がある。また、40 重量%をこえる場合は潤滑成分の配合割合が多いため、流動性が悪く、吹付け装置内で潤滑成分が詰まることがある。これらの理由からさらに好ましい配合割合は 3 重量%〜20 重量%である。
【0017】
本発明の鍛造加工用潤滑液に使用できる潤滑成分にはPPS樹脂を必須成分として任意のものを追加できる。例えば、潤滑液の性能を損なうことなく、潤滑液のコストを引き下げる目的でアジピン酸ナトリウムなどの有機酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム粉末や、ポリアクリル酸ナトリウムなど他の水溶性高分子を併用することが可能である。
【0018】
本発明に用いることができる水系溶媒は、水を少なくとも 50 重量%以上含む溶媒であれば使用することができる。この水系溶媒は水と他の成分が溶解した水溶性溶媒であっても、あるいは他の成分が乳化または分散している溶媒系であってもよい。また、水系溶媒は、常温で揮発性が低く、長期間保存可能であれば好ましく使用できる。
水系溶媒の例示としては、水と、鉱油、合成炭化水素油、ポリアルキレングリコール油、ジエステル油、ポリオールエステル油、リン酸エステル油、ポリフェニルエーテル油などを単独または 2 種類以上とを組み合わせて使用することができる。
【0019】
本発明に用いる界面活性剤としては、PPS樹脂が水系溶媒中に分散可能であれば特に制限なく任意に使用できる。陰イオン型、陽イオン型、両性イオン型、ノニオン型、シリコーン系、フッ素系の界面活性剤が単独または混合して添加できる。
界面活性剤の添加量は鍛造加工用潤滑液全体に対して、0.01 重量%〜3 重量%である。0.01 重量%未満では分散が十分でなく、3 重量%をこえてもそれ以上の分散性が得られない。
【0020】
本発明に用いる添加剤成分としては界面活性剤の他に、粘度調整剤、レベリング剤、pH調整剤、防腐・防カビ剤などを目的に応じて添加することができる。特にこの中でも鍛造加工用の金型等に良好な潤滑被膜を形成するために粘度調整剤、レベリング剤を添加剤成分として用いることが望ましい。
【0021】
本発明に用いる粘度調整剤としては、溶媒成分に相溶または分散可能であれば特に制限なく任意のものを使用できる。例えば、イオン性、非イオン性の水溶性高分子・界面活性剤などが使用可能であり、イオン性水溶性高分子としてはイソブチレン・マレイン酸共重合体の金属塩、ポリアクリル酸の金属塩、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)などが挙げられる。非イオン性の水溶性高分子としてはポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコールなどが使用できる。また、ポリオキシメチレン硬化ひまし油やヘクトライトなどの食品用/産業用増粘剤であればどの様なものでもよい。特にカルボキシメチルセルロースは少量の添加で増粘させる効果があり、優れた付着性をもたらすので好ましい。本発明の鍛造加工用潤滑液全体に対する粘度調整剤の配合割合としては 5 重量%以下が好ましい。5 重量%をこえる場合は粘度が高くなるため、流動性が悪く、スプレーガンやスプレーノズルでの塗装が困難となる。
【0022】
本発明に用いるレベリング剤としては、市販のもので、溶媒成分に溶解または分散可能なものであれば特に制限なく任意のものを使用可能である。例えばポリシロキサン誘導体やポリアクリル酸エステル類、水溶性ポリエステル樹脂類などが挙げられる。これらの中で、水溶性ポリエステル樹脂は金型温度が高温の場合に優れた付着性をもたらすので好ましい。
本発明の鍛造加工用潤滑液全体に対するレベリング剤の配合割合としては、3 重量%以下が好ましい。3 重量%をこえる場合は潤滑被膜中のレベリング剤が多くなり、潤滑性能が悪化する可能性がある。
【0023】
本発明の鍛造加工用潤滑液には、その他pH調整剤としては塩酸、硝酸水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどを、また、防腐剤・防カビ剤としては安息香酸ナトリウムやソルビン酸カリウムなどを、それぞれ使用できる。
【0024】
本発明の鍛造加工用潤滑液は、鍛造用の金型のうち、パンチおよび/またはダイに塗装できる。このとき、本潤滑液は常温から 300℃以下であれば適切な潤滑被膜をパンチおよび/またはダイに形成させることができる。
【0025】
本発明の鍛造加工用潤滑液は、パンチおよび/またはダイに種々の方法で塗装できる。生産工程を考慮するとパンチおよび/またはダイにスプレーガンやノズルからエアー圧力を利用して噴霧する塗装方法が、塗装面積が最も広く効率的である。また、生産性に支障を与えない限りディッピング、はけ塗り、へら塗り等を採用することもできる。
【0026】
本発明の温間または熱間鍛造加工方法を用いる鍛造加工方法について説明する。図1は該方法による等速ジョイント外輪の成形装置を示す縦断正面図であり、図2は図1の成形装置の作動状態を示す縦断正面図であり、図3は図2のA−A線に沿った断面図である。
【0027】
図1に示すように外輪成形装置は、絞り込みダイ13と組合わせパンチ1とで構成される。絞り込みダイ13の内周面および外輪成形用パンチ10の外周面から選ばれた少なくとも一つに本発明の鍛造加工用潤滑液を塗装する。塗布方法は刷け塗り、スプレ塗布、ディッピング塗装等を用いることができる。塗布量は、実際の後方押出し方式の鍛造形態により、潤滑被膜の表面拡大比などを考慮して定めることができる。塗布時期は、鍛造加工の開始直前、徐冷開始時など、鍛造開始前であればよい。塗布後、絞り込みダイ13の中に外輪素材14を収容配置し、絞り込みダイ13を 500℃〜1300℃の熱間鍛造温度以上に加熱する。
【0028】
外輪成形用パンチ10は外輪の球形内面を形成するための球面成形部11と、その球面成形部11上に設けられた曲線状のトラック成形部12とを有する(図3参照)。組合わせパンチ1は、プレススライド2にテーパベース3と、その外側に設けられたテーパ状の保持筒4とを固定し、テーパベース3と保持筒4との間にパンチホルダ5に取付けられた外輪成形用パンチ10の複数を、側面間に所要の間隔をおいて組込んでいる。
【0029】
また、テーパベース3の軸心上に形成された貫通孔6に先端パンチ7に設けられた軸部8をスライド自在に挿通し、その軸部8の外側に設けられたスプリング9によって先端パンチ7を上方に引き上げている。
【0030】
上記成形装置によって成形される外輪素材14は開口端に向けて拡がりをもち、内周には外輪成形用パンチ10と同数のトラック溝15が形成されている。
【0031】
上記外輪素材14を絞り込みダイ13の内側に挿入したのち、プレススライド2を下降させると、先端パンチ7が外輪素材14球面底部に当接し、外輪成形用パンチ10がトラック溝15に嵌合する。その状態でプレススライド2をさらに下降させることにより、外輪素材14は絞り込みダイ13により絞り込み作用を受けて縮径する(図2、図3参照)。その絞り込み時、トラック溝15の表面は外輪成形用パンチ10のトラック成形部12により拘束され、一方、外輪素材14の球形内面16は球面成形部11により拘束され、トラック溝15および球形内面16のそれぞれが、トラック成形部12および球面成形部11によって塑性成形され、所定の形状、寸法に仕上げられる(図3参照)。ここで、外輪素材14の絞り込みは、温間、熱間のいずれでもよい。
【0032】
外輪素材14の成形後、プレススライド2を上昇させると、そのプレススライド2と共にテーパベース3および保持筒4が上昇し、その上昇によって複数の外輪成形用パンチ10が縮径して、トラック溝15からトラック成形部12が外れ、外輪成形用パンチ10および先端パンチ7が成形後の外輪から引き抜かれる。
【0033】
上記のような外輪の塑性加工成形において、外輪成形用パンチ10に形成された球面成形部11およびトラック成形部12の表面それぞれは研削加工されたものであるため、各部の面精度は高く、その面精度の高い球面成形部11とトラック成形部12とでもってトラック溝15および球形内面16が形成されるため、トラック溝15および球形内面16の面精度も高く、後加工を不要とすることができる。したがって、外輪の製造コストを大幅にコストダウンさせることができる。
【0034】
図3に示すように、外輪成形用パンチ10の押込み量に応じて外輪素材14は絞り込みダイ13の内壁に沿って上部へ押出され、後方押出しの加工形態で成形される。このとき絞り込みダイ13および/または外輪成形用パンチ10に形成された潤滑被膜は、鍛造時の外輪素材14の表面積の拡大に追従して外輪素材14、絞り込みダイ13、外輪成形用パンチ10の相互の接触界面に介在できるので、円滑な鍛造加工を行なうことができる。
【0035】
上記鍛造加工方法は、適用可能な加工形態としては上述の後方押出し鍛造加工の他に、前方押出し鍛造加工、複合(前方後方)押出し鍛造加工、閉塞鍛造加工などに適用できる。これらの中で、特に後方押出し形態または複合押出し(前方後方押出し)形態の鍛造加工に対して有効である。
【0036】
上記鍛造加工方法である後方押出し加工または後方押出し加工で生産する機械部品としては、上述の等速ジョイントが代表的なものである。等速ジョイントの種類としては、摺動式等速ジョイントとして、ダブルオフセットジョイント(DOJ)、トリポードジョイント(TJ)、ピロージャーナルトリポードジョイント(PTJ)、クロスグルーブジョイント(LJ)などが挙げられ、固定式等速ジョイントとしてボールフィクストジョイント(BJ)、コンパクト化ボールフィクストジョイント(EBJ)、ステアリング用等速ジョイント(CSJ)などが挙げられる。上記各図で説明したように、これら等速ジョイントの外輪の鍛造加工に用いることができる。また、上記鍛造加工のうち、ワーク温度 500℃〜1300℃のワーク・金型間の潤滑に使用できる。
【0037】
本発明の等速ジョイント外輪の製造方法は、内輪および外輪からなる軌道輪の有するトラック溝と、転動体との係り合いによって回転トルクの伝達が行なわれる等速ジョイントの外輪の製造方法であり、上記外輪となるワークと、ダイと、パンチとの相互の接触界面に潤滑被膜が介在できる上述の後方押出しの加工形態または複合押出し(前方後方押出し)の加工形態を用いることが好ましい。
【0038】
図4は本発明の温間または熱間鍛造加工方法で製造された等速ジョイント外輪を有する等速ジョイントを示す一部切欠き断面図である。この等速ジョイントは、外輪17の球形内面18に複数の曲線状トラック溝19を形成し、内輪20の球形外面21に上記トラック溝19と同数のトラック溝22を設け、その外・内輪17、20のトラック溝19、22間に組込んだトルク伝達ボール23を両輪17、20間に組込んだケージ24で保持している。
【0039】
ケージ24は、外輪17の球形内面18と内輪20の球形外面21で接触案内される球面25を内外に有する。外輪17のトラック溝19の中心O1 と内輪20のトラック溝22の中心O2 は、ジョイントの角度中心O0 に対して左右に等距離オフセットされている。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。実施例および比較例に用いた潤滑成分、溶媒成分、添加剤成分等を以下に示す。
潤滑成分
PPS1:東ソー社製:サスティール160N(平均粒子径:約 20μm )
PPS2:大日本インキ化学社製:T4AG(平均粒子径:約 4μm )
アジピン酸ナトリウム:和光純薬社製:
ポリアクリル酸ナトリウム:日本触媒社製:アクアリックDL100
人造黒鉛粉末:LONZA社製:KS10
無添加タービン油:新日本石油社製:タービンオイル68
溶媒成分
水:イオン交換水
鉱油:新日本石油社製:FBKタービン68
グリコール油:松村石油研究所製:ハイドールHAW−32
粘度調整剤
カルボキシメチルセルロース:日本製紙ケミカル社製:SLD−F1
レベリング剤
水溶性ポリエステル樹脂:日本合成化学社製:ポリエスターWR905
界面活性剤
ラウリル硫酸ナトリウム:花王社製:エマール10PT
【0041】
実施例1〜実施例20
表1に示す潤滑液組成で潤滑成分を溶媒に分散または溶解させて鍛造加工用潤滑液を作製した。得られた鍛造加工用潤滑液を以下に示す色相試験、塗装性試験および潤滑性能試験に供し、色相、塗装膜厚および鍛造加工時の押込み荷重をそれぞれ測定した。それぞれの判定基準に基づく評価結果を表1に併記する。また、これら個別の評価結果を束ねて、以下に示す判定基準による総合評価結果を表1に併記する。
【0042】
<色相試験>
供試液の色相を目視観察し、色相を記録する。
【0043】
<塗装試験>
200℃に加熱したパンチをディッピングで塗装し、200℃で 20分間乾燥させ、得られた塗装膜厚および塗膜外観の目視観察から以下に示す判定基準で塗装性につき4段階評価を行なった。なお塗装膜厚は付着重量、比重から塗装膜厚を算出した。
(塗装膜厚) (塗膜外観) (塗装性評価) (表中の表記)
5μm 以上 均一な塗膜 非常に良好 ◎
2μm 以上 5μm 未満 均一な塗膜 良好 ○
1μm 以上 2μm 未満 塗膜が薄い 不十分 △
塗装不可(潤滑液の粘度高い) 不良 ×
【0044】
<潤滑性能試験>
市販のクランク・リンク式プレス( 450 kN )の固定側(下側)に圧縮引張型のロードセルを取り付け、パンチ側(上側)に温度調整用ヒータを設置したプレス装置を鍛造加工用潤滑液の潤滑性能試験に用いた。図5は潤滑性能試験に用いるプレス装置において鍛造加工前の状態を示す図であり、図6は後方押出し方式の鍛造がなされた状態を示す図である。図5および図6において、あらかじめ上側ヒータ29aおよび上側温度センサー31aによって 200℃に加熱・制御されたパンチ28(直径 10 mm、先端 R 1 mm )に潤滑液の供試液をディッピング塗装(浸漬時間:約 1 秒間)しておく。800℃以上に加熱した円柱状ワーク26(直径 13 mm、高さ 14 mm、S50C)を組み込んだダイ27をロードセル30上側に設置し、放射温度計32が 800℃を示した時点で、鍛造加工を行ない(ショット速度 70 min-1 )、加工前のワーク26表面から 4 mm の位置までパンチ28を下降させて、ダイ27の内面に沿ってパンチ28の進行方向と反対の方向にワーク26を押出す、後方押出しの形態で鍛造加工したときの押込み荷重をロードセル30で計測した。得られた計測値により以下に示す判定基準で潤滑性能を評価した。
(押込み荷重) (潤滑性能評価) (表中の表記)
85.0 kN 未満 可 ○
85.0 kN 以上 不可 ×
【0045】
<総合評価>
上記 3 種類の試験にて得られた結果を以下に示す判定基準で総合評価を行なった。
(1)上記色相試験において供試液の色相が非黒色であること
(2)上記塗装試験において塗装性評価が非常に良好(「◎」)または良好(「○」)であること
(3)潤滑性能試験において押込み荷重が 85.0 kN 未満であり、潤滑性能評価が可(「○」)であること
これら3点の判定基準を全てクリアしたものを総合評価として可と評価し表中に「○」を表記し、それ以外を不可と評価し表中に「×」を表記した。
【0046】
比較例1
鍛造加工用潤滑液をパンチに塗装せず、鍛造時の押込み荷重をロードセルで計測した。結果を表2に示す。
【0047】
比較例2〜比較例7
表2に示す組成で潤滑成分を溶媒に分散または溶解させて鍛造加工用潤滑液を作製した。実施例1と同様に処理して、実施例1と同様の項目を測定した。結果を表2に併記する。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
非黒色潤滑剤の潤滑成分としてPPS樹脂粉末が配合されている実施例1〜実施例20は良好な潤滑特性を示す。実施例8〜実施例11は粘度調整剤の添加に伴い、塗装性が改善され、良好な状態となった。また、実施例9と実施例12〜実施例15との比較において粘度調整剤とレベリング剤を配合したものは塗装状態が均一で、かつ、十分量の潤滑膜厚を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の鍛造加工用潤滑液は、PPS樹脂粉末を所定量含有し、かつ上記PPS樹脂粉末が分散しているので、黒鉛を含まずに黒鉛潤滑剤と同等の潤滑性能をもつことができる。このため作業環境を汚染させることなく、衛生的な環境下で鍛造加工を行なう鍛造加工用潤滑液として好適に利用できる。また、この潤滑液を用いて鍛造用の金型に被膜を形成することで、作業環境を汚染させることなく、衛生的な環境下で鍛造加工を行なう鍛造加工方法や等速ジョイント外輪の製造方法として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】外輪成形装置を示す縦断正面図である。
【図2】図1の成形装置の作動状態を示す縦断正面図である。
【図3】図2のA−A線に沿った断面図である。
【図4】本発明に係る等速ジョイントの実施の形態を示す断面図である。
【図5】プレス装置において鍛造加工前の状態を示す図である。
【図6】後方押出し方式の鍛造がなされた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 組合わせパンチ
2 プレススライド
3 テーパベース
4 保持筒
5 パンチホルダ
6 貫通孔
7 先端パンチ
8 軸部
9 スプリング
10 外輪成形用パンチ
11 球面成形部
12 曲線状のトラック成形部
13 絞り込みダイ
14 外輪素材
15 トラック溝
16 球形内面
17 外輪
18 球形内面
19 トラック溝
20 内輪
21 球形外面
22 トラック溝
23 トルク伝達ボール
24 ケージ
25 球面
26 ワーク
27 ダイ
28 パンチ
29a 上側ヒータ
29b 下側ヒータ
30 引張圧縮両用型ロードセル
31a 上側温度センサー
31b 下側温度センサー
32 放射温度計
33 架台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑成分を水系溶媒に分散させてなり、鍛造加工用途に用いられる鍛造加工用潤滑液であって、
前記潤滑成分がポリフェニレンサルファイド樹脂粉末であり、該樹脂粉末が前記鍛造加工用潤滑液全体に対して 1〜40 重量%含まれていることを特徴とする鍛造加工用潤滑液。
【請求項2】
前記ポリフェニレンサルファイド樹脂粉末の平均粒子径が 1〜500μm であることを特徴とする請求項1記載の鍛造加工用潤滑液。
【請求項3】
前記水系溶媒が界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の鍛造加工用潤滑液。
【請求項4】
前記水系溶媒が粘度調整剤を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の鍛造加工用潤滑液。
【請求項5】
前記粘度調整剤がカルボキシメチルセルロースであることを特徴とする請求項4記載の鍛造加工用潤滑液。
【請求項6】
前記粘度調整剤の配合割合が前記鍛造加工用潤滑液全体に対して 5 重量%以下であることを特徴とする請求項4または請求項5記載の鍛造加工用潤滑液。
【請求項7】
前記水系溶媒がレベリング剤を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の鍛造加工用潤滑液。
【請求項8】
前記レベリング剤が水溶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項7記載の鍛造加工用潤滑液。
【請求項9】
前記レベリング剤の配合割合が前記鍛造加工用潤滑液全体に対して 3 重量%以下であることを特徴とする請求項7または請求項8記載の鍛造加工用潤滑液。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項記載の鍛造加工用潤滑液を用いる温間または熱間鍛造加工方法であって、
前記鍛造加工用潤滑液がパンチおよびダイの少なくとも1つに塗装され、前記ワークが 500℃〜1300℃に加熱された後、鍛造成形加工されることを特徴とする温間または熱間鍛造加工方法。
【請求項11】
前記温間または熱間鍛造加工方法は、後方押出しまたは複合押出しの加工形態を用いることを特徴とする請求項10記載の温間または熱間鍛造加工方法。
【請求項12】
内輪および外輪からなる軌道輪の有するトラック溝と、転動体との係り合いによって回転トルクの伝達が行なわれる等速ジョイントの外輪の製造方法であって、
前記外輪を、請求項11記載の温間または熱間鍛造加工方法を用いた鍛造加工方法で加工することを特徴とする等速ジョイント外輪の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−106053(P2010−106053A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276333(P2008−276333)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】