説明

鍛造品の内部欠陥検出方法

【課題】段付き部を有する鍛造品について、内部欠陥の探傷精度を高めることができる、鍛造品の内部欠陥検出方法を提供する。
【解決手段】断面積の異なる少なくとも2つの軸部22a,22b,22cが接続し、且つ軸方向一端側に向かうに従い軸部22a,22b,22cの外径が大きくなる段付き部22を有する鍛造品であるハブ20を用い、該ハブ20と超音波探傷用探触子40とを超音波伝達媒体中に配置し、超音波探傷によってハブ20の内部欠陥を検出するハブ20の内部欠陥検出方法であって、超音波探傷用探触子40は、ハブ20の段付き部22と軸方向で対向するように、ハブ20の軸方向他端側に配置されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造品の内部欠陥検出方法に関し、より詳細には、自動車用ハブ軸受のハブなど、段付き部を有する冷間鍛造軸受部材の内部欠陥検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ハブ軸受のハブなど、段付き部を有する冷間鍛造軸受部材は、加工条件などによって、その中心軸を起点とした円錐状の割れである材料内部欠陥(シェブロンクラック)が発生することがある。このため、内部欠陥が生じにくい材料の開発及び加工条件の選定など、様々な対策が講じられている。
【0003】
また、内部欠陥は部材の外部からは観察することができないため、超音波探傷法を用いて内部欠陥の有無を検査するのが一般的である。例えば、特許文献1に記載の超音波探傷法では、円筒形状の被検査物に対して主に径方向から超音波を入射して探傷を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平5−85023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、単純な円筒形状の被検査物を対象にしたものであり、より複雑な鍛造後の製品形状を対象としたものではない。特に、上述の内部欠陥は冷間鍛造時に発生し易いため、超音波探傷は鍛造後の製品形状で行うことが望ましい。
【0006】
また、特許文献1に記載の技術を、段付き部などを含む複雑な形状の鍛造品に適用し、該鍛造品の外径面の径方向から超音波探傷すると、段付き部などで超音波が乱反射して高い探傷精度が得難い、という問題があった。
【0007】
本発明は上述した課題を鑑みてなされたものであり、段付き部を有する鍛造品について、内部欠陥の探傷精度を高めることができる、鍛造品の内部欠陥検出方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 断面積の異なる少なくとも2つの軸部が接続し、且つ軸方向一端側に向かうに従い前記軸部の外径が大きくなる段付き部を有する鍛造品を用い、
前記鍛造品と超音波探傷用探触子とを超音波伝達媒体中に配置し、超音波探傷によって前記鍛造品の内部欠陥を検出する鍛造品の内部欠陥検出方法であって、
前記超音波探傷用探触子は、前記鍛造品の段付き部と軸方向で対向するように、前記鍛造品の軸方向他端側に配置されることを特徴とする鍛造品の内部欠陥検出方法。
(2) 前記鍛造品は、全浸しないように、前記段付き部の軸方向他端側から前記超音波伝達媒体中に浸漬されることを特徴とする(1)に記載の鍛造品の内部欠陥検出方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の鍛造品の内部欠陥検出方法によれば、超音波探傷用探触子は、鍛造品の段付き部と軸方向で対向するように、鍛造品の軸方向他端側に配置されるので、鍛造品は段付き部の最小径の軸部側から軸方向に超音波探傷される。したがって、段付き部における超音波の乱反射を防ぐことができ、探傷精度を維持することができる。
【0010】
また、鍛造品を超音波伝達媒体中に全浸せずに、一部のみ浸漬するようにしたため、鍛造品を超音波伝達媒体中に出し入れするセット時間が短縮できる。また、超音波探傷検査後、鍛造品に付着した超音波伝達媒体を除去する時間を短縮することができる。したがって、検査時間及び検査コストの低減が図れる。
さらに、鍛造品を超音波伝達媒体中に全浸する場合に比べ、超音波伝達媒体中に空気や不純物等が混入することを減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態に係る鍛造品の内部欠陥検出方法に使用する超音波探傷装置の概略図である。
【図2】第2実施形態に係る鍛造品の内部欠陥検出方法に使用する超音波探傷装置の概略図である。
【図3】図2の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態に係る鍛造品の内部欠陥検出方法を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る鍛造品の内部欠陥検出方法に使用する超音波探傷装置1の概略図である。
【0014】
なお、本実施形態では、内部欠陥検出対象の鍛造品として、冷間鍛造成形品の自動車用ハブ軸受のハブ20を用いる。このハブ20は、3つの略円柱状の軸部22a,22b,22cが接続し、且つ軸方向一端側(図1中におけるZ軸方向)に向かうに従いこれら軸部22a,22b,22cの外径が大きくなる段付き部22と、段付き部22の軸方向一端面に接続し、且つ段付き部22よりも大径のフランジ部24と、フランジ部24の軸方向一端面から軸方向に突出し、フランジ部24よりも小径の突出部26と、を有している。
【0015】
この超音波探傷装置1は、略平面の台15の上面に載置され、且つ内部に超音波伝達媒体である水を貯留した水槽10と、ハブ20を保持し、且つ台15に対して円周方向に回転可能なハブ保持部30と、超音波探傷用探触子40(以下、探触子と呼ぶ)を保持し、且つX方向に位置調整可能な位置調整機構50と、から構成される。
【0016】
ハブ保持部30は、水槽10に対して回転自在に支持される基部32と、ハブ20の突出部26を収容する収容部33を備える回転盤34と、を有し、回転盤34は、ハブ20を水槽10内で保持しながら図示しない駆動機構によって回転駆動される。
【0017】
位置調整機構50は、ハブ保持部30の軸方向他端側に離間して設けられた探触子保持部52を有しており、探触子保持部52は探触子40を保持しながらX方向に変位可能な機構を備えている。
【0018】
このように構成された超音波探傷装置1を用いて超音波探傷検査を行う方法を以下説明する。
【0019】
先ず、ハブ20を水槽10の水中に全浸し、ハブ20の突出部26が軸方向一端側を向くように、ハブ保持部30の回転盤34の収容部33に収容して固定する。そして、回転盤34を回転駆動することによって、ハブ20は回転盤34とともに所定速度で回転する。
【0020】
次いで、探触子40は、位置調整機構50によって移動され、その先端がハブ20の段付き部22の最小径の軸部22aと軸方向で対向し、ハブ20の中心軸と探触子40の中心軸とが一致するようにX方向の位置が設定される。また、探触子40はハブ20の軸方向他端側に所定の距離だけ離間して配置され、探触子40の先端部は水槽10の水中に浸漬される。
【0021】
そして、探触子40に所定の大きさの電圧を印加することにより、探触子40からハブ20の軸方向他端側面に向けて、電圧の大きさに応じた出力の超音波を送波する。そして、エコーをこの探触子40により受波し、電圧信号に変換しハブ20の内部欠陥の有無を検出する。
【0022】
本実施形態の場合には、このような超音波探傷を、ハブ20を回転盤34によって所定速度で回転させつつ、探触子40をハブ20との離間距離を維持しながらX軸方向に一軸変位させて行う(走査する)。
【0023】
以上、説明したように、本実施形態のハブ(鍛造品)の内部欠陥検出方法によれば、ハブ20は冷間鍛造成形後の製品形状で超音波探傷するため、冷間鍛造時に発生し易い内部欠陥を有する短寿命品を確実に排除できる。したがって、安定的な寿命が保証された高信頼性の自動車用ハブ軸受のハブを提供できる。
【0024】
さらに、超音波探傷用探触子40は、ハブ20の段付き部22と軸方向で対向するようにハブ20の軸方向他端側に配置されるため、段付き部22の外径が小さい軸端側から軸方向に向かって超音波探傷することができる。したがって、段付き部22からの超音波の乱反射を防ぐことが可能となり、探傷精度を高めることができる。
【0025】
(第2実施形態)
図2及び3は、本発明の第2実施形態に係る鍛造品の内部欠陥検出方法に使用する超音波探傷装置の概略図である。なお、本実施形態の超音波探傷装置は、第1実施形態と比べて、ハブ保持部及び位置調整機構の構成が異なるのみであるため、他の第1実施形態と同一又は相当部分には同一又は相当符号を付すことにより説明を簡略化または省略する。なお、本実施形態においては、軸方向一端側とはZ軸負方向を指す。
【0026】
本実施形態の超音波探傷装置1Aは、略平面の台15の上面に載置され、内部に超音波伝達媒体である水を貯留した水槽10と、冷間鍛造成形品の自動車用ハブ軸受のハブ20を保持及び回転可能なハブ保持部30Aと、超音波探傷用探触子40を保持及び位置調整可能な位置調整機構50Aと、から構成される。
【0027】
ハブ保持部30Aは、台15の上面に固定され、水槽10の外側面に沿うように水槽10より上方まで延びる柱部36と、柱部36の上部からX方向に延びた延出部38と、を有しており、断面略L字形状となるように形成されている。また、延出部38の先端部には、貫通穴38aが形成されており、該貫通穴38a内には、ハブ20を保持し、且つ延出部38に対して円周方向に回転可能な回転部39が形成される。
【0028】
また、位置調整機構50Aの探触子保持部52は、ハブ保持部30Aの延出部38の軸方向他端側に設けられており、探触子保持部52は探触子40を保持しながらX方向に変位可能な機構を備えている。
【0029】
このように構成された超音波探傷装置1Aを用いて超音波探傷検査を行う方法を以下説明する。
【0030】
先ず、ハブ20を段付き部22の軸方向他端側、すなわち段付き部22の最小径の軸部22a側から、水槽10の水中に全浸しないように、ハブ保持部30の延出部38の回転部39に固定する。より具体的には、ハブ20は、段付き部22の最小径の軸部22aの一部のみが水中に浸漬されるように、回転部39に固定される。そして、回転部39を図示しない駆動機構により回転駆動することによって、ハブ20は回転部39とともに所定速度で回転する。
【0031】
次いで、探触子40は、位置調整機構50Aによって移動され、その先端がハブ20の段付き部22の最小径の軸部22aと軸方向で対向し、ハブ20の中心軸と探触子40の中心軸とが一致するようにX方向の位置が設定される。また、探触子40は、ハブ20の軸方向他端側に所定の距離だけ離間して配置され、水槽10の水中に全浸される、
【0032】
そして、ハブ20を回転部39によって所定速度で回転させつつ、探触子40をハブ20との離間距離を維持しながらX方向に一軸変位させて超音波探傷を行う。
【0033】
以上説明したように、本実施形態のハブ(鍛造品)の内部欠陥検出方法によれば、ハブ20は、全浸しないように段付き部22の軸方向他端側から水中に浸漬される。すなわち、ハブ20の一部のみを水中に浸漬するようにしたため、ハブ20を水に出し入れするセット時間を短縮することが可能となる。また、超音波探傷後、ハブ20に付着した水を除去する時間を短縮することができるため、検査に要する時間及びコストを低減することができる。さらに、水中に、ハブ20の表面に付着した空気や不純物等が混入することを抑制することが可能となる。
【0034】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0035】
例えば、水槽10には超音波伝達媒体として水を貯留するとしたが、水の代わりに、防錆油等の液体を用いてもよい。
【0036】
また、探触子40は、ハブ20と軸方向で対向するように、軸方向他端側に所定の距離だけ離間して配置されるとしたが、これに限定されず、例えば、グリセリンなどの接触媒質を介して探触子40とハブ20とを軸方向に密着させて超音波探傷してもよい。
【0037】
また、ハブ20をハブ保持部30に固定する際、及びハブ保持器30から他の場所に搬送する際には、公知の搬送機構を用いることによって自動化してもよい。
【0038】
また、上述の実施形態においては、ハブ20を所定速度で回転させ、探触子40をX方向に一軸変位させながら超音波探傷を行うとしたが、これに限定されず、探触子40をX方向及びY方向に二軸変位させながら超音波探傷を行うようにしてもよい。この場合、位置調整機構は、X方向及びY方向に移動可能であるように構成される。
【0039】
また、第2実施形態において、ハブ20は段付き部22の最小径の軸部22aの一部のみが水中に浸漬されるとしたが、本発明の効果が得られる範囲であれば、軸部22bが水中に浸漬されてもよいし、軸部22cが水中に浸漬されてもよい。
【0040】
また、鍛造品として、従動輪用ハブを用いたが、中空軸からなる駆動輪用ハブを用いてもよい。
【0041】
また、鍛造品としては、自動車用ハブ軸受のハブに限定されず、断面積の異なる少なくとも2つの軸部が接続し、且つ軸方向一端側に向かうに従い軸部の外径が大きくなる段付き部を有する軸部材であればよい。
【符号の説明】
【0042】
1 超音波探傷装置
10 水槽
15 台
20 ハブ(鍛造品)
22 段付き部
22a,22b,22c 軸部
24 フランジ部
26 突出部
30、30A ハブ保持部
32 基部
33 収容部
34 回転盤
36 柱部
38 延出部
38a 貫通穴
39 回転部
40 超音波探傷用探触子
50、50A 位置調整機構
52 探触子保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面積の異なる少なくとも2つの軸部が接続し、且つ軸方向一端側に向かうに従い前記軸部の外径が大きくなる段付き部を有する鍛造品を用い、
前記鍛造品と超音波探傷用探触子とを超音波伝達媒体中に配置し、超音波探傷によって前記鍛造品の内部欠陥を検出する鍛造品の内部欠陥検出方法であって、
前記超音波探傷用探触子は、前記鍛造品の段付き部と軸方向で対向するように、前記鍛造品の軸方向他端側に配置されることを特徴とする鍛造品の内部欠陥検出方法。
【請求項2】
前記鍛造品は、全浸しないように、前記段付き部の軸方向他端側から前記超音波伝達媒体中に浸漬されることを特徴とする請求項1に記載の鍛造品の内部欠陥検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−173046(P2012−173046A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33358(P2011−33358)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】