説明

鍛造部品の製造方法及び自動車用サスペンションアームの製造方法

【課題】製造時間の短縮を図りながら効率良く製品を仕上ることができる鍛造部品の製造方法を提供する。
【解決手段】 据込み加工により素材2を所定の長さL1(L1<L)となるように圧縮し、且つ両端部に拡径部4を成形する。次いで、素材2の曲げ加工、鍛造加工を行う。ここで、鍛造加工を行うときに、この鍛造加工で素材2の外周に発生するバリ8に据込み加工で発生したバリ6a,6bが含まれるようにする。次に、仕上げ加工により素材2の外周のバリ8を除去する。そして、穴開け加工により拡径部4にブッシュ装着用の穴10を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造部品の製造方法及び自動車用サスペンションアームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用サスペンションアーム等の鍛造部品を製造する方法として、例えば特許文献1に記載の従来技術が知られている。
この従来技術は、棒状部材を所要長さ、太さにロール加工するロール加工工程と、ロール加工された部材を圧縮加工する圧縮加工工程と、前記圧縮加工された部材を曲げながら荒地成形する曲げ荒地成形工程と、前記曲げ荒地成形された部材を密閉鍛造して仕上げ成形する仕上げ成形工程と、前記仕上げ成形された部材に穴開け加工する穴開け加工工程とを備えた製造方法である。
【特許文献1】特開平08−39183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術によると、曲げ荒地成形で製品の略最終形状に成形した部材を密閉鍛造によって加工するのでバリが発生せず、製品の歩留りを向上させることができる。
しかし、この従来技術は、ロール工程で棒状部材を所要長さ、太さに加工するために多くの加工時間を必要としており、製品一個当りの製造時間が長くなってしまう。したがって、従来技術は製造効率の面で問題がある。
本発明はこのような不都合を解消するためになされたものであり、製造時間の短縮を図りながら効率良く製品を仕上ることができる鍛造部品の製造方法及び自動車用サスペンションアームの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するため、本発明に係る鍛造部品の製造方法は、棒状の素材の外周をクランプ冶具で挟持した後、前記素材の両端に配置した一対の据込み金型により前記素材を所定形状に圧縮加工する据込み工程と、この据込み工程を行った前記素材を鍛造金型により所定形状に加工する鍛造工程と、前記素材に発生したバリを除去して仕上げを行う仕上げ工程とを備え、前記鍛造工程を行うときに、当該鍛造工程で前記素材の外周に発生するバリに前記据込み工程で発生したバリが含まれるように、前記素材の加工方向を設定した。
【0005】
ここで、据込み工程を行うときに、据込み工程により発生するバリの位置を示すマークを形成することが好ましい。また、前記素材の端面に当接する前記据込み金型の当接面に、凹形状のマーク用型を形成し、前記据込み工程が完了したときに、前記凹形状のマーク用型により前記素材の前記端面に形成された凸部を前記マークとすることが好ましい。
また、据込み工程を行うときに、据込み工程により発生するバリの位置を認識できるように、素材の形状を形成することができる。
また、前記棒状の素材は、自動車用サスペンションアームを製造する際の素材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る鍛造部品の製造方法によると、据込み加工による圧縮加工で素材を所定形状に成形しているので、従来技術と比較して大幅に加工時間の短縮化を図ることができる。
また、鍛造工程を行うときに、当該鍛造工程で素材の外周に発生するバリに据込み工程で発生したバリが含まれるように、据込み工程で形成したマークや素材の形状を利用して前記素材の加工方向を設定し、前記素材の鍛造方向を設定しているので、据込み工程で発生したバリを鍛造工程に入る前に除去する必要がなく、作業工程を短縮することができる。
したがって、本発明は、製造時間の短縮を図りながら効率良く鍛造部品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の鍛造部品の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る自動車用サスペンションアームの製造過程を示す図である。
図1の(a)は、所定長さLに設定した丸棒状の素材2を示している。図1の(b)は、据込み加工により所定の長さL1(L1<L)となるように圧縮され、且つ両端部に拡径部4が成形された素材2を示している。ここで、この素材2の長手方向に連続している符号6a,6bで示す部分は、据込み加工によって発生したひげ状のバリである。図1の(c)は、図1の(b)の状態から曲げ加工により曲げられた後の素材2を示している。図1の(d)は、図1の(c)の状態から鍛造加工された後の素材2を示している。ここで、この素材2の外周の長手方向に連続している符号8で示す部分は、鍛造加工によって発生したバリである。図1の(e)は、図1の(d)の状態から仕上加工により外周のバリ8が除去されて仕上げ成形された素材2を示している。図1の(f)は、図1の(e)の状態から穴開け加工により拡径部4に、ブッシュ装着用の穴10を設けた後の製品(サスペンションアーム)12を示している。
【0008】
次に、図2から図4は、素材2の据込み加工を行う装置を概略的に示したものである。
図2に示すように、丸棒状の素材2は、下部クランプ冶具14及び上部クランプ冶具14によって外周が挟持されている。下部クランプ冶具14及び上部クランプ冶具16は、図4に示すように、素材2の外周に当接するクランプ曲面14a,16bが形成されており、これらクランプ曲面14a,16aの曲率半径は素材2の半径より小さな値に設定されている。そして、素材2に対する下部クランプ冶具14及び上部クランプ冶具14のカジリ発生を防止するため、素材2を挟持するときには下部クランプ冶具14と上部クランプ冶具14の間に所定寸法の隙間Sが設けられている。
【0009】
また、図2に示すように、下部クランプ冶具14及び上部クランプ冶具16により挟持されている素材2の長手方向の一方の端面側に据込み金型18、他方の端面側に据込み金型20が配置されている。
一方の据込み金型18は、素材2の外周形状より大きな凹形状として形成した拡径部用型18aと、素材2の一方の端面が当接する拡径部用型18aの内壁に形成した凹溝形状のマーク用型18bとを備えている。また、他方の据込み金型20も、前記拡径部用型18aと同形状の拡径部用型20aと、素材2の他方の端面が当接する拡径部用型20aの内壁に形成した凹形状のマーク用型20bとを備えている。
【0010】
そして、図3に示すように、一対の据込み金型18,20を互いに近接する方向に移動させ、素材2を軸線方向の内方に圧縮して据込み加工を行うと、拡径部用型18a,20aにより両端部に拡径部4が成形され、マーク用型18b,20bにより各拡径部4の端面に凸状マーク22が成形された所定の長さL1の素材2となる。
ここで、素材2を挟持している下部クランプ冶具14及び上部クランプ冶具14の間に隙間Sを設けたため、図5に示すように、据込み加工が完了した素材2の外周には、素材2の軸線に対して線対称位置に2箇所のひげ状のバリ6a,6bが長手方向に連続して発生する(図1(b)も参照)。
そして、据込み加工により素材2の両端面に成形した凸状マーク22は、2箇所のひげ状のバリ6a,6bが発生している位置を結ぶ径方向に延在するように帯状に成形されている。
【0011】
次に、図6は、据込み加工が完了した素材2に対して曲げ加工を行う装置を概略的に示したものである。
図6に示すように、曲げ加工を行う装置は、メス金型24と、オス金型26と、これらメス金型24及びオス金型26の間に素材2を配置し、素材2の曲げ鍛造方向の向きを設定する素材セット部材28a,28bとを備えている。
メス金型24は台座(図示せず)に固定されており、オス金型26は、メス金型24に向けて移動自在に配置されている。
【0012】
また、一方の素材セット部分の端面には、素材2の一方の端面に成形した凸状マーク22が嵌まり込む位置決め溝30が形成されている。この位置決め溝30は、オス金型26が移動する方向(以下、A方向と略称する)に沿って直線状に延在している。また、他方の素材セット部分にも、素材2の他方の端面に成形した凸状マーク22が嵌まり込む位置決め溝30が、A方向に沿って直線状に延在して形成されている。
【0013】
そして、素材セット部分の位置決め溝30に凸状マーク22が嵌まり込み、メス金型24及びオス金型26の間にセットされた素材2は、図6に示すような曲げ方向の向きに設定される。すなわち、凸状マーク22がA方向に沿った方向に延在するので、外周に発生しているひげ状のバリ6a,6bもA方向に沿った方向に延在するようにして曲げ方向の向きが設定される。
【0014】
次に、図7及び図8は、曲げ加工が完了した素材2に対して鍛造加工の過程を概略的に示したものである。
図7に示すように、鍛造加工を行う金型は、メス金型32と、オス金型34とを備えている。メス金型32は台座(図示せず)に固定されており、オス金型34は、メス金型32に向けて移動自在に配置されている。
【0015】
鍛造加工される素材2は、メス金型32に上面視でU字状になるように設定される。すなわち、凸マーク22はオス金型34が移動する方向(以下、B方向と略称する)に対して直交する方向に延在するので、外周に発生しているひげ状のバリ6a,6bもB方向に対して直交する方向に延在するようにして鍛造方向の向きが設定される。
このように鍛造方向の向きが設定されている素材2が、メス金型32及びオス金型34により鍛造加工が行われると、図8に示すように、ひげ状のバリ6a,6bが発生している位置(B方向に対して直交する方向)と同一位置に、大きな形状のバリ8が発生する(図1の(d)参照)。
【0016】
そして、ひげ状のバリ6a,6bが発生していた位置と同一位置にバリ8が発生している素材2は、仕上加工により除去されて仕上げ成形される(図1の(e)参照)。
なお、前述した据込み加工が本発明の据込み工程に相当し、曲げ加工が本発明の曲げ工程に相当し、鍛造加工が本発明の鍛造工程に相当し、仕上加工が本発明の仕上げ工程に相当し、メス金型32及びオス金型34が本発明の鍛造金型に相当している。
【0017】
以上説明したように、本実施形態の自動車用サスペンションアームの製造方法は、従来技術のようにロール工程で素材2を所要長さ、太さに加工せず、据込み加工による圧縮加工で、所定の長さL1で、且つ両端部に拡径部4が成形されるので、従来技術と比較して大幅に加工時間の短縮化を図ることができる。
また、本実施形態の製造方法では、鍛造加工を行う際に素材2にバリ8が発生するが、このバリ8は、据込み加工で発生したひげ状のバリ6a,6bと同一位置に発生している。このように、据込み加工で発生したバリ6a,6bが鍛造加工で発生するバリ8に含まれるようにしているので、鍛造加工に移行する前にバリ6a,6bを削除する必要がなく、作業時間を短縮することができる。
【0018】
しかも、素材セット部分の位置決め溝30に、据込み加工で素材2の両端面に成形した凸状マーク22を嵌め込むだけで、鍛造加工を行うときに素材2に発生するバリ8が、据込み加工で発生したひげ状のバリ6a,6bと同一位置に発生するように、素材2の曲げ方向の向きを容易に設定することができる。つまり、素材2の位置決め部材として凸状マーク22を設けたことから、曲げ加工を行う際の素材2のセットを簡単に行うことができる。
したがって、本実施形態は、製造時間の短縮を図りながら効率良く自動車用サスペンションアームを製造することができる。
【0019】
なお、本実施形態では、据込み金型18,20に凹形状のマーク用型18b、20bを設け、据込み加工により素材2の両端面に凸状マーク22を形成し、この凸状マーク22を素材セット部材分の位置決め溝30に嵌め込むことで素材2の曲げ方向の向きを設定しているが、本発明の要旨がこれに限定されるものではなく、据込み金型18,20を素材軸直方向の断面が楕円になるように形成し、据込み加工時に素材2の両端部の断面が楕円になるように形成し、この端部を、メス金型24の位置決め凸部に嵌め込んで素材2の曲げ方向の向きを設定しても、同様の効果を奏することができる。また、素材セット部分も本実施形態の構造に限定されるものではない。
また、本実施形態では、自動車用サスペンションアームの製造について説明したが、他の鍛造部品の製造に用いても同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る自動車用サスペンションアームの製造過程を示す図である。
【図2】本発明に係るプランプ冶具と据込み金型の構造を示す図である。
【図3】本発明に係る据込み工程を示す図である。
【図4】図2のIV−IV線矢視図である。
【図5】据込み工程を行った後に素材の外周に発生するひげ状のバリと、素材の端面に成形した凸状マークを示す図である。
【図6】本発明に係る曲げ工程を行う装置を示す図である。
【図7】本発明に係る鍛造工程を行う装置を示す図である。
【図8】鍛造工程を行うときに素材に発生するバリの位置を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
2 素材
4 拡径部
6a,6b ひげ状のバリ(据込み工程で発生するバリ)
8 バリ(鍛造工程で発生するバリ)
14 下部クランプ冶具
16 上部クランプ冶具
18,20 据込み金型
18a,20a 拡径部用型
18b,20b マーク用型(凹形状のマーク用型)
22 凸状マーク(マーク)
24 曲げ加工を行う装置のメス金型
26 曲げ加工を行う装置のオス金型
28a,28b 素材セット部材
30 位置決め溝
32 鍛造加工を行う装置のメス金型
34 鍛造加工を行う装置のオス金型
S 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の素材の外周をクランプ冶具で挟持した後、前記素材の両端に配置した一対の据込み金型により前記素材を所定形状に圧縮加工する据込み工程と、この据込み工程を行った前記素材を鍛造金型により所定形状に加工する鍛造工程と、前記素材に発生したバリを除去して仕上げを行う仕上げ工程とを備え、
前記鍛造工程を行うときに、当該鍛造工程で前記素材の外周に発生するバリに前記据込み工程で発生したバリが含まれるように、前記素材の加工方向を設定することを特徴とする鍛造部品の製造方法。
【請求項2】
前記据込み工程を行うときに、当該据込み工程により前記素材の外周に発生するバリの位置を認識できるように、前記据込み工程によって前記素材の形状を形成することを特徴とする請求項1又は2記載の鍛造部品の製造方法。
【請求項3】
前記据込み工程を行うときに、当該据込み工程により前記素材の外周に発生するバリの位置を示すマークを形成することを特徴とする請求項1又は2記載の鍛造部品の製造方法。
【請求項4】
前記素材の端面に当接する前記据込み金型の当接面に、凹形状のマーク用型を形成し、前記据込み工程が完了したときに、前記凹形状のマーク用型により前記素材の前記端面に形成された凸部を前記マークとすることを特徴とする請求項3記載の鍛造部品の製造方法。
【請求項5】
棒状の素材の外周をクランプ冶具で挟持した後、前記素材の両端に配置した一対の据込み金型により前記素材を圧縮加工して両端部に拡径部を成形する据込み工程と、この据込み工程を行った前記素材を曲げ金型により曲げ加工する曲げ工程と、この曲げ加工を行った前記素材を鍛造金型により所定形状に加工する鍛造工程と、前記素材に発生したバリを除去して仕上げを行う仕上げ工程と、仕上げを行った前記素材の前記拡径部にブッシュ装着用の穴を開ける穴開け工程とを備え、
前記鍛造工程を行うときに、当該鍛造工程で前記素材の外周に発生するバリに前記据込み工程で発生したバリが含まれるように、前記素材の加工方向を設定することを特徴とする自動車用サスペンションアームの製造方法。
【請求項6】
前記据込み工程を行うときに、当該据込み工程により前記素材の外周に発生するバリの発生位置を確認できるように、前記据込み工程によって前記素材の形状を形成することを特徴とする請求項5記載の自動車用サスペンションアームの製造方法。
【請求項7】
前記据込み工程を行うときに、当該据込み工程により前記素材の外周に発生するバリの位置を示すマークを形成することを特徴とする請求項5又は6記載の自動車用サスペンションアームの製造方法。
【請求項8】
前記素材の軸方向の端面に当接する前記据込み金型の当接面に、凹形状のマーク用型を形成し、前記据込み工程が完了したときに、前記凹形状のマーク用型により前記素材の前記端面に形成された凸部を前記マークとすることを特徴とする請求項6記載の自動車用サスペンションアームの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−21237(P2006−21237A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203246(P2004−203246)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】