説明

鍵盤楽器

【課題】 組み立て作業性が良く、電気的な配線作業および電気的な点検作業が容易にでき、生産性が高く、在庫管理も容易にできる鍵盤楽器を提供する。
【解決手段】 複数の鍵11が音階順に配列されてそれぞれ上下方向に回転可能に設けられた鍵盤シャーシ10に、スピーカ32を設けた。従って、鍵盤シャーシ10とスピーカ32とを一体化してユニット化を図ることができる。これにより、組み立て作業性の向上を図ると共に、鍵盤シャーシ10およびスピーカ32を楽器本体1内に組み込む前に、鍵盤シャーシ10とスピーカ32との電気的な配線作業ができると共に、その両者の電気的な点検をも行なうことができる。このため、生産性の高いものを提供することができると共に、鍵盤シャーシ10とスピーカ32とを一体化した状態で保管することができるので、保管場所のスペースが確保しやすいので、在庫管理も容易にできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子ピアノや電子オルガンなどの鍵盤楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鍵盤楽器においては、特許文献1に記載されているように、楽器全体の小型化を図るために、鍵盤シャーシ上に複数の鍵が配列された鍵盤部を楽器ケース内に設け、この鍵盤部が設けられた楽器本体の下面にスピーカボックスを設け、このスピーカボックス内にスピーカを垂直方向に対して斜め前下がり傾けて配置した構成のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−81885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の鍵盤楽器では、楽器本体に鍵盤部とスピーカとを別々に取り付けているので、組み立て作業が煩雑で面倒であるという問題があるほか、鍵盤部とスピーカとを楽器本体に組み付けなければ、鍵盤部とスピーカとを電気的に接続することができないため、配線作業が面倒であるばかりか、鍵盤部とスピーカとの電気的な点検ができないという問題がある。
【0005】
この発明が解決しようとする課題は、組み立て作業性が良く、電気的な配線作業および電気的な点検作業が容易にでき、生産性が高く、在庫管理も容易にできる鍵盤楽器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記課題を解決するために、次のような構成要素を備えている。
請求項1に記載の発明は、複数の鍵が音階順に配列されてそれぞれ上下方向に回転可能に設けられた鍵盤シャーシに、スピーカを設けたことを特徴とする鍵盤楽器である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記スピーカが、前記鍵盤シャーシの下面に取り付けられ、発生した音を前記鍵盤シャーシ内に向けて放音することを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器である。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記鍵盤シャーシが、その内外に貫通する隙間を有して内部が中空状に形成されており、この鍵盤シャーシの後部には、前記スピーカを取り付けるためのスピーカ取付部が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の鍵盤楽器である。
【0009】
請求項4に記載の発明は、前記鍵盤シャーシを収容する楽器本体を備えており、この楽器本体の底部には、前記スピーカが挿入して下側に突出する開口部が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鍵盤楽器である。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、鍵盤シャーシとスピーカとを一体化してユニット化を図ることができ、これにより組み立て作業性の向上を図ることができると共に、鍵盤シャーシおよびスピーカを楽器本体内に組み込む前に、鍵盤シャーシとスピーカとの電気的な配線作業ができると共に、その両者の電気的な点検をも行なうことができる。このため、組み立て作業性が良く、電気的な配線作業および電気的な点検作業が容易にできるので、生産性が高く、在庫管理も容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明を適用した鍵盤楽器の一実施形態を示した正面図である。
【図2】図1の鍵盤楽器の平面図である。
【図3】図1のA−A矢視における要部の拡大断面図である。
【図4】図1の鍵盤楽器において鍵盤シャーシと楽器本体とを分解して下側から見た要部の分解斜視図である。
【図5】図3の鍵盤楽器におけるスピーカ部を示した拡大底面図である。
【図6】図1のスピーカ部においてスピーカボックスを取り外し、且つ一方のスピーカを取り外した状態を示し、(a)はその状態において底板を下方から見た一部破断した底面図、(b)はそのB−B矢視においてスピーカを取り付けた状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1〜図6を参照して、この発明を適用した鍵盤楽器の一実施形態について説明する。
この鍵盤楽器は、図1および図2に示すように、楽器本体1を備えている。この楽器本体1は、左右両側の一対の側板2と、この一対の側板2間における上部側に設けられた底板3と、この底板3の前端部に起立して設けられた前板4と、底板3の後端部に起立して設けられた背面板5と、この背面板5および一対の側板2の各上端部に配置された天板6と、一対の側板2間における下端部に設けられたフットペダル7とを備えている。
【0013】
この場合、一対の側板2は、図1に示すように、楽器本体1のスタンドとしての脚部を兼ねるものであり、図3に示すように、その上端部における前側(図3では左側)の半分程度が前下がりに傾斜し、その後側の半分程度が水平に形成されている。前板4は、図3に示すように、背面板5の半分程度の高さに形成されている。また、天板6は、一対の側板2の上端部における後側の水平部分と背面板5の上端部とに亘って取り付けられている。これにより、楽器本体1は、図2および図3に示すように、前側(図3では左側)の半分程度が上方に開放された構成になっている。
【0014】
この楽器本体1内における底板3上には、図1〜図3に示すように、鍵盤部8が上方に開放された前側の半分程度に位置する箇所に対応して配置されている。この鍵盤部8は、図3に示すように、楽器本体1の底板3上に配置された鍵盤シャーシ10を備えている。この鍵盤シャーシ10は、合成樹脂からなり、内部がほぼ中空状に形成されている。
【0015】
この鍵盤シャーシ10には、上下方向に回動可能に設けられた複数の鍵11と、この複数の鍵11の押鍵操作に応じて各鍵11にそれぞれアクション荷重を付与する複数のハンマー部材12と、複数の鍵11の各押鍵操作に応じてそれぞれスイッチ信号を出力するスイッチ部13と、複数の鍵11の内側にそれぞれ光を照射する複数の発光部14と、楽音を発音するためのスピーカ部30とが設けられている。
【0016】
この場合、複数の鍵11は、図1〜図3に示すように、白鍵および黒鍵からなり、光透過性を有する合成樹脂によって形成され、その各後端部が鍵盤シャーシ10の後側上部(図3では右側上部)に設けられた鍵支持部10aにそれぞれ軸部11aによって上下方向に回動可能に設けられ、この状態で図2に示すように、音階順に複数配列された構成になっている。
【0017】
複数のハンマー部材12は、図3に示すように、複数の鍵11の下側にそれぞれ対応した状態で、鍵盤シャーシ10に設けられたハンマー支持部10bにそれぞれ軸部12aによって上下方向に回動可能に取り付けられている。この場合、ハンマー部材12は、その軸部12a側に位置する先端部(図3では左端部)が鍵盤シャーシ10に設けられた開口部10cに後方(図3では右側)から挿入されて鍵11の下面に下側から当接するように構成されている。
【0018】
これにより、複数のハンマー部材12は、図3に示すように、複数の鍵11が押鍵操作されると、その押鍵操作に応じてハンマー部材12の先端部(図3では左端部)がそれぞれ押し下げられると共に、各ハンマー部材12がその各重量に抗して軸部12aを中心にそれぞれ図3において反時計回りに回動することにより、各鍵11にそれぞれアクション荷重付与するように構成されている。
【0019】
また、この複数のハンマー部材12は、図3に示すように、鍵11が押鍵操作されない初期状態のときに、ハンマー部材12の後端部が鍵盤シャーシ10の後側下部に設けられた後述するスピーカ取付部15の底板部15aの前端部上に配置されたフェルトなどの下限ストッパ部16に上方から当接することにより、ハンマー部材12の下限位置が規制されるように構成されている。
【0020】
スイッチ部13は、図3に示すように、スイッチ基板17上に配置されたゴムシート18を備え、このゴムシート18にドーム状の膨出部を鍵11のスイッチ押圧部19にそれぞれ対応させて形成した構成になっている。これにより、スイッチ部13は、ゴムシート18の膨出部が鍵11のスイッチ押圧部19によって押圧された際に、その膨出部が弾性変形して、その内部の可動接点がスイッチ基板17上の固定接点に接触することにより、各鍵11の押鍵操作に応じてそれぞれスイッチ信号を出力するように構成されている。
【0021】
複数の発光部14は、それぞれ発光ダイオード(LED)などの発光素子からなり、図3に示すように、鍵盤シャーシ10上に複数の鍵11である各白鍵および各黒鍵の各前部側にそれぞれ対応して設けられている。この複数の発光部14は、鍵盤シャーシ10に設けられたスイッチ部13のスイッチ基板17にそれぞれ電気的に接続されている。この場合、白鍵に対応する発光部14は、鍵盤シャーシ10の前側上部に設けられて、白鍵の前側内部に光を照射するように構成されている。
【0022】
また、黒鍵に対応する発光部14は、図3に示すように、鍵盤シャーシ10の中間部における上部に設けられて、黒鍵の前側内部に光を照射するように構成されている。これにより、複数の発光部14は、発光した光をそれぞれ各鍵11の前側内部に照射し、その照射された光が各鍵11を透過することにより、各鍵11の前部側をそれぞれ光らせるように構成されている。
【0023】
ところで、この楽器本体1には、図3に示すように、鍵盤部8の上側を覆う鍵盤蓋20が開閉可能に設けられている。この鍵盤蓋20は、鍵盤部8を操作しないときに、鍵盤部8の上方に配置されて鍵盤部8を覆い、鍵盤部8を操作するときに、図3に示すように、楽器本体1内の後部側(図3では右側)に収納されて鍵盤部8を露出させるように構成されている。
【0024】
すなわち、この鍵盤蓋20は、前蓋20aと後蓋20bとに分割され、この分割された前蓋20aと後蓋20bとが連結部21によって回動可能に連結された構成になっている。この場合、前蓋20aの前端部(図3では左端部)には、図3に示すように、前側ガイド軸22が設けられていると共に、鍵盤蓋20を開閉するための取手部23が設けられている。また、後蓋20bの後端部(図3では右端部)には、後側ガイド軸24が設けられており、この後側ガイド軸24には、ピニオンギア25が回転自在に取り付けられている。
【0025】
また、楽器本体1における一対の側板2の内面における前側上部(図3では左側上部)には、図3に示すように、鍵盤蓋20の前蓋20aに設けられた前側ガイド軸22をスライド可能にガイドする前側ガイド部26が設けられている。この前側ガイド部26は、一対の側板2の内面に前後方向(図3では左右方向)に沿って設けられた溝部である。
【0026】
さらに、この楽器本体1における一対の側板2の内面における後部上側(図3では右上側)には、図3に示すように、鍵盤蓋20の後蓋20bに設けられた後側ガイド軸24をスライド可能にガイドする後側ガイド部27が後部下がり(図3では右下がり)に円弧状に湾曲した状態で傾斜して設けられている。この後側ガイド部27には、ピニオンギア25が噛み合って転動するラックギア28が後側ガイド部27に沿って設けられている。
【0027】
これにより、鍵盤蓋20は、取手部23を楽器本体1の前側(図3では左側)に移動させて、前側ガイド軸22を前側ガイド部26の前端部に位置させると、後側ガイド軸24が後側ガイド部27の前側上部に位置すると共に、ピニオンギア25がラックギア28の前側上部に位置し、これにより前蓋20aと後蓋20bとが前下がりに傾斜した状態で、鍵盤部8の上側を覆うように構成されている。
【0028】
また、この鍵盤蓋20は、図3に示すように、取手部23を持ち上げながら楽器本体1の後側(図3では右側)に移動させると、前側ガイド軸22が前側ガイド部26に沿って後方に移動すると共に、後側ガイド軸24が後側ガイド部27に沿って後方に移動しながらピニオンギア25がラックギア28に噛み合って後方に向けて転動するように構成されている。
【0029】
この場合、鍵盤蓋20は、図3に示すように、ピニオンギア25がラックギア28に沿って斜め下側に移動すると共に、後側ガイド軸24が後側ガイド部27に沿って斜め下側に移動することにより、後蓋20bが前蓋20aに対して連結部21を中心に徐々に折れ曲がりながら斜め後側下部(図3では右側下部)に向けて移動するように構成されている。
【0030】
また、この鍵盤蓋20は、図3に示すように、後側ガイド軸24が後側ガイド部27の後端下部(図3では右端下部)に位置し、ピニオンギア25がラックギア28の後端下部に位置すると、後蓋20bが楽器本体1内における鍵盤部8の後方に起立して配置されると共に、前蓋20aの前側ガイド軸22が前側ガイド部26の後端部(図3では右端部)に位置するように構成されている。
【0031】
このときに、鍵盤蓋20は、図3に示すように、前蓋20aの前部が前側ガイド軸22によって保持され、前蓋20aの後部が後蓋20bの前端部(図3では上端部)によって保持されると共に、前蓋20aが天板6の下側にこれとほぼ平行な状態で配置されることにより、鍵盤部8を上方に露出させるように構成されている。
【0032】
ところで、この鍵盤シャーシ10の下部両側には、図1および図4に示すように、スピーカ部30がそれぞれ下側に突出した状態で設けられている。このスピーカ部30は、図4に示すように、鍵盤シャーシ10のスピーカ取付部15に取り付けられた状態で、楽器本体1の底板3に設けられた開口部33を通して楽器本体1の底板3から下側に突出して配置されるように構成されている。
【0033】
この場合、鍵盤シャーシ10のスピーカ取付部15は、図3および図4に示すように、鍵盤シャーシ10の後端下部にその前後方向に水平に延出された底板部15aと、鍵盤シャーシ10の鍵支持部10aの前側(図3では左側)に位置する内面から垂下された取付ボス部15bとを備えている。また、楽器本体1の底板3の開口部33は、図3および図4に示すように、楽器本体1の内部と外部とに開放された貫通孔であり、底板3の両側にそれぞれ設けられている。
【0034】
スピーカ部30は、図3および図4に示すように、スピーカボックス31と、このスピーカボックス31によって覆われるスピーカ32とを備えている。スピーカボックス31は、図3〜図5に示すように、その上面側が上方に開放された箱状に形成されている。この場合、スピーカボックス31の外面には、図5に示すように、上下方向に細長いスリット状の多数の放音孔31aが設けられている。このスピーカボックス31は、図3に示すように、鍵盤シャーシ10のスピーカ取付部15にスピーカ32と共にビス30aによって取り付けられ、楽器本体1の底板3から下側に突出して配置されている。
【0035】
スピーカ32は、図3および図4に示すように、音を発生するバッフル面側(図3では上面側)を上に向けた状態で、図6(a)および図6(b)に示すように、鍵盤シャーシ10のスピーカ取付部15における底板部15aと取付ボス部15bとにスピーカボックス31と共にビス30aによって取り付けられている。
【0036】
これにより、スピーカ32は、図3に示すように、発音した音のほとんどが鍵盤シャーシ10の内部と楽器ケース1の内部とに放音されると共に、残りの音がスピーカボックス31の各放音孔31aから楽器本体1の底板3の下側に放音されるように構成されている。この場合、鍵盤シャーシ10には、図3に示すように、ハンマー部材12の先端部(図3では左端部)が挿入する開口部10cや、鍵支持部10aからハンマー支持部10bまでの間に設けられたスリット孔10dなどの各種の隙間が内外に貫通にて形成されている。
【0037】
次に、この鍵盤楽器を組み立てる場合について説明する。
まず、鍵盤部8を組み立てる。このときには、鍵盤シャーシ10上にスイッチ部13のスイッチ基板17を取り付けると共に、発光部14を取り付ける。この後、鍵盤シャーシ10上に複数の鍵11を上下方向に回転可能な状態で配列させて取り付けると共に、この複数の鍵11に対応させて複数のハンマー部材12を鍵盤シャーシ10に取り付ける。
【0038】
この後、鍵盤シャーシ10にスピーカ部30を取り付ける。このときには、鍵盤シャーシ10の後側下部に設けられたスピーカ取付部15にスピーカ32を上向きにして対応させ、この状態でスピーカ32をスピーカボックス31で覆い、このスピーカボックス31を鍵盤シャーシ10のスピーカ取付部15にビス30aによってスピーカ32と共に取り付ける。これにより、鍵盤シャーシ10とスピーカ部30とが一体化される。
【0039】
この状態では、鍵盤シャーシ10とスピーカ部30とが一体化されていることにより、鍵盤シャーシ10のスイッチ部13のスイッチ基板17、発光部14、およびスピーカ部30のスピーカ32を相互に配線して電気的に接続することができる。これにより、鍵盤部8は、製品としての検査ができる。すなわち、鍵盤シャーシ10に配列された複数の鍵11を押鍵操作してスピーカ32から楽音を発音させることにより、複数の鍵11およびこれに対応するハンマー部材12を調整すると共に、スピーカ32から発音される音を調整する。
【0040】
この後、スピーカ部30が設けられた鍵盤部8を楽器本体1内に組み込む。このときには、鍵盤シャーシ10の後側下部に取り付けられたスピーカ部30を楽器本体1の底板3に設けられた開口部33に上方から対応させ、この状態でスピーカ部30を底板3の開口部33に挿入させて、鍵盤シャーシ10を楽器本体1の底板3上に配置する。これにより、鍵盤シャーシ10が楽器本体1内に配置されると共に、スピーカ部30が楽器本体1の底板3から下側に突出した状態で配置される。
【0041】
次に、この鍵盤楽器を使用する場合について説明する。
まず、図3に示すように、鍵盤部8の上側を覆っている鍵盤蓋20を開いて、鍵盤部8を露出させる。このときには、前蓋20aの前端部に設けられた取手部23を持ち上げながら楽器本体1の後側(図3では右側)に移動させる。すると、前側ガイド軸22が前側ガイド部26に沿って後方に移動すると共に、後側ガイド軸24が後側ガイド部27に沿って後方に移動しながらピニオンギア25がラックギア28に噛み合って後方に向けて転動する。
【0042】
そして、ピニオンギア25がラックギア28に沿って斜め下側に移動すると共に、後側ガイド軸24が後側ガイド部27に沿って斜め下側に移動すると、後蓋20bが前蓋20aに対して連結部21を中心に徐々に折れ曲がりながら斜め後側下部(図3では右側下部)に向けて移動する。こときには、前蓋20aの前端部(図3では左端部)が前側ガイド軸22によって支持されながら前側ガイド部26に沿って後方に移動すると共に、前蓋20aの後端部が後蓋20bの前端部によって支持されながら後方に移動する。
【0043】
そして、図3に示すように、後側ガイド軸24が後側ガイド部27の後端下部(図3では右端下側)に位置して保持されると共に、ピニオンギア25がラックギア28の後端下部に位置して保持されると、後蓋20bが楽器本体1内における鍵盤部8の後方に起立する。このときには、後蓋20bが楽器本体1の背面板5に接近した状態で、その背面板5とほぼ平行に起立して配置される。
【0044】
また、前蓋20aは、図3に示すように、その前側ガイド軸22が前側ガイド部26の後端部に位置して、前蓋20aの前部が前側ガイド軸22によって保持され、前蓋20aの後部が後蓋20bの前端部(図3では上端部)によって保持された状態で、前蓋20aが天板6の下側に接近してほぼ平行に配置される。これにより、鍵盤蓋20がほぼ直角に折り曲げられた状態で楽器本体1内の後部側に収納されて、鍵盤部8を楽器本体1の前側上部に露出させる。
【0045】
この状態で、鍵盤部8の各鍵11を押鍵操作して演奏を行うと、その押鍵操作に応じてスピーカ32が演奏音を放音する。このときには、スピーカ32で発音された演奏音のほとんどが、鍵盤部8の鍵盤シャーシ10内と楽器本体1内とに放音され、この放音された演奏音が鍵盤部8側から楽器本体1の前側外部に向けて放音される。
【0046】
すなわち、スピーカ32から上方に放音された演奏音は、そのほとんどが鍵盤部8の鍵盤シャーシ10内を通り抜けて、鍵盤部8における複数の鍵11の各隙間を通り抜け、鍵盤部8の斜め前側上方に向けて放音される。このときには、スピーカ32から放音された100ヘルツ以下の音の振動が鍵盤シャーシ10に伝わって鍵盤シャーシ10を振動させ、この鍵盤シャーシ10の振動が、押鍵操作している演奏者の指先に伝わることにより、アコースティックピアノに近似した振動が体感できる。
【0047】
また、スピーカ32から楽器本体1内に放音された演奏音は、楽器本体1内の後部側に収納されてほぼ直角に折り曲げられた鍵盤蓋20によって反射されて鍵盤部8の上方から楽器本体1の前側に向けて放音されると共に、鍵盤蓋20と楽器本体1の背面板5および天板6との間の隙間6をも通り抜けて鍵盤部8の上方から楽器本体1の前側に向けて放音される。
【0048】
一方、スピーカ32で発音されて楽器本体1内に放音されない残りの演奏音は、スピーカボックス31の各放音孔31aから楽器本体1の底板3の下側に向けて放音されることにより、演奏者にその足元から回り込んで聞こえることになる。これにより、スピーカ32で発音された演奏音は、楽器本体1の鍵盤部8側から楽器本体1の前側に放音された演奏音と、楽器本体1の底板3の下側に放音された演奏音との両方によって、楽器全体から放音されているように、演奏者に聞こえる。
【0049】
このように、この鍵盤楽器によれば、複数の鍵11が音階順に配列されてそれぞれ上下方向に回転可能に設けられた鍵盤シャーシ10に、スピーカ32を設けた構成であるから、鍵盤シャーシ10とスピーカ32とを一体化してユニット化を図ることができる。これにより、組み立て作業性の向上を図ることができると共に、鍵盤シャーシ10およびスピーカ32を楽器本体1内に組み込む前に、鍵盤シャーシ10とスピーカ32との電気的な配線作業ができると共に、その両者の電気的な点検をも行なうことができる。
【0050】
このため、組み立て作業性が良く、鍵盤シャーシ10とスピーカ32との電気的な配線作業および電気的な点検作業が容易にできるので、生産性の高いものを提供することができると共に、鍵盤シャーシ10およびスピーカ32を楽器本体1内に組み込む前に、鍵盤シャーシ10とスピーカ32とを一体化した状態で保管することができるので、保管場所のスペースが確保しやすくなり、これにより在庫管理も容易にできる。
【0051】
この場合、スピーカ32は、鍵盤シャーシ10の後部下面に取り付けられ、発生した音を鍵盤シャーシ10内に向けて放音するので、スピーカ32から放音された演奏音が鍵盤シャーシ10内から複数の鍵11の各隙間を通り抜けることにより、その通り抜けた演奏音を鍵盤部8の斜め前側上方に向けて良好に放音することができる。このため、スピーカ32から放音された演奏音を楽器本体1内の鍵盤部8側から楽器本体1の前側外部に向けて放音させることができるので、音響性能が良く、演奏者が演奏音を違和感なく良好に聞くことができる。
【0052】
また、スピーカ32から放音された演奏音のうち、楽器本体1内に放音された演奏音は、楽器本体1内の後部側に収納されてほぼ直角に折り曲げられた鍵盤蓋20によって反射されて鍵盤部8の上方から楽器本体1の前側に向けて放音されると共に、鍵盤蓋20と楽器本体1の背面板5および天板6との間の隙間6をも通り抜けて鍵盤部8の上方から楽器本体1の前側に向けて放音されるので、これによっても音響性能が良く、演奏者が演奏音を違和感なく良好に聞くことができる。
【0053】
さらに、スピーカ32で発音されて上側に放音されない残りの演奏音は、スピーカボックス31の各放音孔31aから楽器本体1の底板3の下側に向けて放音されることにより、演奏者にその足元から回り込んで聞こえるように、演奏音を放音することができる。これにより、スピーカ32で発音された演奏音は、楽器本体1の鍵盤部8側から楽器本体1の前側に放音された演奏音と、楽器本体1の底板3の下側に放音された演奏音との両方によって、楽器全体から放音されることになるので、音響性能が良く、演奏者が演奏音を違和感なく良好に聞くことができる。
【0054】
また、この鍵盤楽器では、鍵盤シャーシ10が内外に貫通する開口部10cやスリット孔10dなどの各種の隙間を有して内部が中空状に形成されているので、スピーカ32から放音された演奏音を鍵盤シャーシ10内の全域に亘って導き、この導かれた演奏音を鍵盤シャーシ10の開口部10cやスリット孔10dなどの各種の隙間から鍵盤シャーシ10の外部に放音し、この放音された演奏音を複数の鍵11の各隙間から鍵盤部8の斜め前側上方に向けて良好に放音することができる。
【0055】
このときには、スピーカ32から放音された100ヘルツ以下の音の振動が鍵盤シャーシ10に伝わって鍵盤シャーシ10を振動させることができるので、この鍵盤シャーシ10の振動を、押鍵操作している演奏者の指先で感じることができ、これによりアコースティックピアノに近似した振動を体感することができる。
【0056】
また、この鍵盤シャーシ10の後側下部には、スピーカ32を取り付けるためのスピーカ取付部15が設けられているので、スピーカ32を簡単に且つ容易に鍵盤シャーシ10に取り付けることができ、これによっても取付作業性の向上を図ることができる。この場合、スピーカ取付部15は、鍵盤シャーシ10の後側下部に設けられた底板部15aと、鍵盤シャーシ10に設けられた取付ボス部15bとを備えているので、スピーカ取付部15にスピーカ32を上向きに取り付けても、スピーカ32で放音された演奏音を鍵盤シャーシ10内に良好に放音させることができる。
【0057】
さらに、この鍵盤楽器では、鍵盤シャーシ10を収容する楽器本体1を備えており、この楽器本体1の底板3には、スピーカ32が挿入して下側に突出する開口部33が設けられているので、鍵盤部8を楽器本体1内に組み込む際に、スピーカ32を楽器本体1の底板3の開口部33に挿入させるだけで、簡単に鍵盤シャーシ10を楽器本体1内に組み込むことができ、これによっても組み立て作業性の向上を図ることができると共に、スピーカ32を楽器本体1の底板3の下側に突出させているので、楽器本体1をコンパクトに構成することができ、これにより楽器全体の小型化を図ることができる。
【0058】
なお、前述した実施形態では、スピーカ32を鍵盤シャーシ10の下面に設けた場合について述べたが、これに限らず、例えば鍵盤シャーシ10の後端の立上がり部に設けても良く、また鍵盤シャーシ10における鍵11の配列方向の両側にそれぞれ設けても良い。この場合にも、開口部33は、鍵盤部8の後方に位置する箇所の背面板5の両側部、または鍵盤部8の両側に位置する箇所の一対の側板2にそれぞれ設ければ良い。
【0059】
また、前述した実施形態では、スピーカ部30がスピーカ32とこのスピーカ32を覆うスピーカボックス31とを備え、これらが鍵盤シャーシ10の後側下部に設けられたスピーカ取付部15に取り付けられた構成である場合について述べたが、これに限らず、スピーカ32のみを鍵盤シャーシ10のスピーカ取付部15に取り付け、スピーカボックス31を楽器本体1の底板3の下面にスピーカ32と別に取り付けた構成であっても良い。
【0060】
さらに、前述した実施形態では、鍵盤部8が複数の鍵11の押鍵操作に応じてそれぞれ各鍵11にアクション荷重付与する複数のハンマー部材12を備えた構成である場合について述べたが、必ずしもハンマー部材12を備えた構成である必要はなく、ハンマー部材12を用いない簡易型の鍵盤楽器にも適用することができる。この場合には、ハンマー部材12の下限位置を規制する下限ストッパ部16が不要であるから、楽器本体1の底板3に設けられる開口部33が下限ストッパ部16の制約を受けないため、開口部33を自由な形状および大きさで底板3に設けることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 楽器本体
2 側板
3 底板
4 前板
5 背面板
6 天板
8 鍵盤部
10 鍵盤シャーシ
10a 鍵支持部
10b ハンマー支持部
10c 開口部
10d スリット孔
11 鍵
15 スピーカ取付部
20 鍵盤蓋
30 スピーカ部
31 スピーカボックス
32 スピーカ
33 開口部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鍵が音階順に配列されてそれぞれ上下方向に回転可能に設けられた鍵盤シャーシに、スピーカを設けたことを特徴とする鍵盤楽器。
【請求項2】
前記スピーカは、前記鍵盤シャーシの下面に取り付けられ、発生した音を前記鍵盤シャーシ内に向けて放音することを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器。
【請求項3】
前記鍵盤シャーシは、その内外に貫通する隙間を有して内部が中空状に形成されており、この鍵盤シャーシの後部には、前記スピーカを取り付けるためのスピーカ取付部が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の鍵盤楽器。
【請求項4】
前記鍵盤シャーシを収容する楽器本体を備えており、この楽器本体の底部には、前記スピーカが挿入して下側に突出する開口部が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鍵盤楽器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−53434(P2011−53434A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202192(P2009−202192)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】