説明

鍵盤装置におけるハンマー部材の製造方法およびその鍵盤装置

【課題】 生産性が良く、低コストで、ハンマー部材の重量を高音側から低音側に亘って良好に変えることができる鍵盤装置におけるハンマー部材の製造方法およびその鍵盤装置を提供する。
【解決手段】 複数のハンマー部材3の各ハンマー本体24を高音側から低音側に亘って配列させた状態で吊り下げ、この複数のハンマー本体24の各下部を高音側から低音側に向けて徐々に低くなるように傾け、この状態で複数のハンマー本体24の各下部を溶液槽30内に収容されたコーティング樹脂28の溶液31に浸けて、複数のハンマー本体24の各下部に溶液31を付着させる。従って、複数のハンマー本体24に高音側から低音側に亘ってコーティング樹脂28を一度に被覆できると共に、その被覆量を高音側から低音側に亘って徐々に変えることができる。このため、生産性が良く、低コストで、ハンマー部材3の重量を高音側から低音側に亘って良好に変えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子ピアノや電子オルガンなどの鍵盤楽器の鍵盤装置におけるハンマー部材の製造方法およびその鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子ピアノなどの鍵盤楽器においては、特許文献1に記載されているように、アコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得るために、鍵盤シャーシ上に配列された複数の鍵に、その押鍵操作に伴ってアクション荷重をそれぞれ付与する複数のハンマー部材を備えた構成のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−187487号公報
【0004】
この種の鍵盤楽器におけるハンマー部材は、ハンマー本体を合成樹脂で形成し、このハンマー本体に錘取付部を形成すると共に、この錘取付部を開閉可能に覆うカバー部を折り曲げ可能に形成し、錘取付部に錘板を配置してカバー部で覆って取り付けることにより、ハンマー部材が所定の重量になるように構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の鍵盤楽器においては、複数の鍵の各鍵タッチ感を高音側から低音側に亘って徐々に重くするために、各ハンマー本体に取り付けられる錘板の寸法や形状を変えて、異なる重さを有する複数の錘板を用意し、この異なる重さの錘板を、高音側から低音側に亘って徐々に重くなるように、各ハンマー本体に取り付けなければならないため、部品点数が極めて多くなり、組立て作業が煩雑で面倒であるばかりか、ハンマー部材の製作コストが高くなるという問題がある。
【0006】
この発明が解決しようとする課題は、生産性がよく、低コストで、ハンマー部材の重量を高音側から低音側に亘って良好に変えることができる鍵盤装置におけるハンマー部材の製造方法およびその鍵盤装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記課題を解決するために、次のような構成要素を備えている。
請求項1に記載の発明は、鍵盤シャーシと、この鍵盤シャーシ上に配列された複数の鍵と、この複数の鍵の押鍵操作に伴って前記各鍵にアクション荷重をそれぞれ付与する複数のハンマー部材とを備えた鍵盤装置におけるハンマー部材の製造方法において、前記複数のハンマー部材の各ハンマー本体を高音側から低音側に亘って配列させた状態で吊り下げて、前記複数のハンマー本体の各下部を高音側から低音側に向けて徐々に低くなるように傾ける第1の工程と、前記複数のハンマー本体の各下部を溶液槽内に収容されたコーティング樹脂からなる溶液に浸けて、前記複数のハンマー部材の各下部に前記溶液を付着させる第2の工程と、前記複数のハンマー本体を前記溶液槽内から引き上げて、前記複数のハンマー本体に付着された前記溶液を前記コーティング樹脂として前記複数のハンマー本体に被覆する第3の工程と、を有することを特徴とする鍵盤装置におけるハンマー部材の製造方法である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記第1の工程において、前記複数のハンマー本体は、前記鍵盤シャーシに高音側から低音側に亘って配列された状態で吊り下げられていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤装置におけるハンマー部材の製造方法である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記第2の工程において、前記コーティング樹脂は、ウレタン樹脂などの軟質の熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鍵盤装置におけるハンマー部材の製造方法である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記複数のハンマー本体の各下部が、前記コーティング樹脂の前記溶液を付着し易い形状に形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の鍵盤装置におけるハンマー部材の製造方法である。
【0011】
請求項5に記載の発明は、鍵盤シャーシと、この鍵盤シャーシ上に配列された複数の鍵と、この複数の鍵の押鍵操作に伴って前記各鍵にアクション荷重をそれぞれ付与する複数のハンマー部材とを備えた鍵盤装置において、前記複数のハンマー部材には、コーティング樹脂がそれぞれ被覆されていると共に、このコーティング樹脂は、前記複数のハンマー部材における各被覆量が高音側から低音側に亘って徐々に異なっていることを特徴する鍵盤装置である。
【0012】
請求項6に記載の発明は、前記鍵盤シャーシに、前記複数のハンマー部材をそれぞれ上下方向に回転自在に支持するハンマー支持部が設けられていると共に、このハンマー支持部の近傍に位置する前記鍵盤シャーシの箇所には、前記複数のハンマー部材の一部がそれぞれ挿脱可能に挿入する複数のスリット孔が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の鍵盤装置である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、複数のハンマー部材の各ハンマー本体に高音側から低音側に亘ってコーティング樹脂を被覆する際に、複数のハンマー本体に高音側から低音側に亘ってコーティング樹脂からなる溶液を一度に付着させて、コーティング樹脂として被覆することができると共に、複数のハンマー本体の各被覆量を高音側から低音側に亘って徐々に変えることができる。このため、生産性が良く、低コストで、ハンマー部材の重量を高音側から低音側に亘って良好に変えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明を適用した鍵盤装置の一実施形態を示した拡大断面図である。
【図2】図1に示された鍵盤シャーシにハンマー部材のハンマー本体を回転可能に取り付けて吊り下げた状態を示した拡大断面図である。
【図3】図2に示された鍵盤シャーシにおいて、ハンマー本体の鍵当接部がスリット孔に挿入する状態を示した要部の拡大平面図である。
【図4】図2に示された鍵盤シャーシを前側から見た正面図である。
【図5】図4に示された鍵盤シャーシを高音側から低音側に向けて徐々に傾けて、複数のハンマー本体の各下部を溶液槽内の溶液に浸けた状態を示した断面図である。
【図6】図5に示された鍵盤シャーシを引き上げて、ハンマー本体に付着された溶液をコーティング樹脂としてハンマー本体に被覆した状態を示した正面図である。
【図7】図6に示された鍵盤シャーシのA−A矢視における拡大断面図である。
【図8】図1〜図7に示された一実施形態におけるハンマー本体の第1変形例を示し、(a)はその拡大側面図、(b)はその要部を示した拡大正面図である。
【図9】図1〜図7に示された一実施形態におけるハンマー本体の第2変形例を示した拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1〜図7を参照して、この発明を鍵盤装置に適用した一実施形態について説明する。
この鍵盤装置は、図1に示すように、合成樹脂製の鍵盤シャーシ1と、この鍵盤シャーシ1上に音階順に配列された状態で上下方向に回転可能に取り付けられた複数の鍵2と、この複数の鍵2にそれぞれアクション荷重を付与する複数のハンマー部材3と、複数の鍵2の押鍵操作に応じてそれぞれスイッチ信号を出力するスイッチ部4とを備えている。
【0016】
鍵盤シャーシ1は、図1に示すように、楽器ケースの下部ケースを兼ねるものであり、その前端部(図1では右端部)には、前脚部5が底部から上方に突出して形成されており、この前脚部5の前側上部には、鍵2の前端面に対応する前カバー部6が更に上方に突出して形成されている。また、この鍵盤シャーシ1のほぼ中間部には、図1に示すように、ハンマー部材3を回転可能に支持するハンマー支持部7が前脚部5とほぼ同じ高さで形成されている。
【0017】
この場合、ハンマー支持部7の前側(図1では右側)には、立上り部8が鍵盤シャーシ1の底部から上方に向けて起立した状態で形成されている。この立上り部8には、ハンマー部材3の後述する鍵当接部27が挿入する開口部8aが設けられている。また、鍵盤シャーシ1におけるハンマー支持部7の前側上部(図1では右側上部)には、図1に示すように、鍵2の横振れを防ぐための鍵ガイド部10が上方に突出して形成されている。
【0018】
この鍵盤シャーシ1における鍵ガイド部10とハンマー支持部7との間には、図2および図3に示すように、ハンマー部材3の先端部(図1では右端部)に位置する鍵当接部27が挿入可能なスリット孔11がそれぞれ形成されている。すなわち、このスリット孔11は、図2に示すように、鍵盤シャーシ1におけるハンマー支持部7の支持軸7aにハンマー部材3が回転可能に取り付けられ、ハンマー部材3が自重で回転して吊り下げられる際に、ハンマー部材3の鍵当接部27が挿入するように構成されている。
【0019】
また、ハンマー支持部7の後側(図1では左側)に位置する鍵盤シャーシ1上には、図1に示すように、スイッチ部4を搭載するためのスイッチ搭載部12が形成されている。このスイッチ搭載部12の後側(図1では左側)に位置する鍵盤シャーシ1上には、鍵2をそれぞれ回転可能に支持するための複数の鍵支持部13が上方に突出した状態で鍵2の配列方向に沿って所定間隔で形成されている。
【0020】
さらに、この鍵支持部13の後端下部(図1では左端下部)には、後脚部14が鍵盤シャーシ1の上部から底部に亘って垂下されている。また、この鍵盤シャーシ1の所定箇所における上部下面には、図1および図2に示すように、複数の取付ボス部9が底部に向けて垂下されており、この複数の取付ボス部9の各下端部には、図1に示すように、鍵盤シャーシ1の底部を塞ぐための底板15がビス15aによって取り付けられている。
【0021】
一方、複数の鍵2は、図1に示すように、白鍵と黒鍵とを備えている。ただし、この実施形態1では白鍵のみについて説明する。この鍵2は、その後端部(図1では左端部)が鍵盤シャーシ1の鍵支持部13に支持軸13aによって上下方向に回転可能に取り付けられている。この鍵2のほぼ中間部には、スイッチ部4を押圧するスイッチ押圧部16が下側に突出して形成されている。
【0022】
この場合、スイッチ部4は、図1に示すように、鍵盤シャーシ1のスイッチ搭載部12上に鍵2の配列方向に沿って連続して設けられたスイッチ基板20と、このスイッチ基板20上に配置されてスイッチ基板20の長手方向に連続する帯状のゴムシート21とを備えている。このゴムシート21には、ドーム形状の膨出部22が複数の鍵2の各スイッチ押圧部16にそれぞれ対応して形成されている。
【0023】
これにより、スイッチ部4は、図1に示すように、ドーム形状の膨出部22が鍵2のスイッチ押圧部16によって押圧された際に、ドーム形状の膨出部22が弾性変形して、膨出部22内に設けられた可動接点がスイッチ基板20上に設けられた固定接点(いずれも図示せず)に接触することにより、スイッチ信号を出力するように構成されている。
【0024】
また、鍵2におけるスイッチ押圧部16の前側(図1では右側)には、図1に示すように、ハンマー部材3を押圧して回転させるためのハンマー押圧部17が、鍵盤シャーシ1の立上り部8に沿って下側に突出して形成されている。この場合、ハンマー押圧部17の下部には、ハンマー部材3の先端部(図1では右端部)に位置する鍵当接部27が摺動可能に挿入した状態で保持するハンマー保持部18が形成されている。
【0025】
ところで、ハンマー部材3は、図1に示すように、ハンマー本体24と、このハンマー本体24の後部(図1では左側部)に設けられた錘部25と、ハンマー本体24の前側部(図1では右側部)に設けられた回転取付部26と、ハンマー本体24の前側に位置する先端部に設けられた鍵当接部27と、錘部25の表面に被覆されたクッション性を有するコーティング樹脂28とを備えている。
【0026】
このハンマー部材3は、図1に示すように、ハンマー本体24の鍵当接部27を鍵盤シャーシ1の下側から立上り部8の開口部8a内に挿入させ、この状態で回転取付部26を鍵盤シャーシ1のハンマー支持部7に設けられた支持軸7aに回転可能に取り付けることにより、ハンマー本体24がハンマー支持部7の支持軸7aを中心に上下方向に回転するように構成されている。
【0027】
また、このハンマー部材3は、図1に示すように、ハンマー本体24の回転取付部26を鍵盤シャーシ1のハンマー支持部7の支持軸7aに取り付ける際に、ハンマー本体24の前側(図1では右側)に位置する先端部に設けられた鍵当接部27を、鍵2に形成されたハンマー押圧部17のハンマー保持部18内に摺動可能に挿入することにより、鍵2の押鍵操作に連動して回転するように構成されている。
【0028】
これにより、ハンマー部材3は、図1に実線で示す状態で、鍵2が上方から押鍵操作されると、鍵2のハンマー押圧部17によってハンマー本体24の鍵当接部27が錘部25の重量に抗して押し下げられ、これに伴ってハンマー本体24の鍵当接部27がハンマー押圧部17のハンマー保持部18内を摺動しながら、図1に2点鎖線で示すように、ハンマー本体24がハンマー支持部7の支持軸7aを中心に時計回りに回転するように構成されている。
【0029】
この場合、このハンマー部材3は、図1に実線で示すように、鍵2が押鍵されていない初期状態のときに、錘部25の重量によって反時計回りに回転して、クッション性を有するコーティング樹脂28が鍵盤シャーシ1の底板15に当接することにより、下限位置が規制されると共に、この状態でハンマー本体24の鍵当接部27が鍵2のハンマー押圧部17を押し上げていることにより、鍵2の上限位置を規制するように構成されている。
【0030】
また、このハンマー部材3は、図1に2点鎖線で示すように、鍵2が押鍵されて錘部25の重量に抗して時計回りに回転すると、クッション性を有するコーティング樹脂28が鍵盤シャーシ1の鍵支持部13に対応する箇所の下面に当接することにより、上限位置が規制されると共に、この状態でハンマー部材24の鍵当接部27を鍵2のハンマー押圧部17のハンマー保持部18が保持していることにより、鍵2の下限位置を規制するように構成されている。
【0031】
この場合、ハンマー本体24における後側(図1では左側)の端部に位置する錘部25には、図1に示すように、コーティング樹脂28が被覆されている。このコーティング樹脂28は、ウレタン樹脂、スチロール樹脂、塩化ビニル樹脂などの軟質の熱可塑性樹脂、またはこの熱可塑性樹脂にアルミニウムなどの金属粉末を混入させたものであり、クッション性を有している。これにより、コーティング樹脂28は、鍵盤シャーシ1の底板15および鍵盤シャーシ1の上部下面に当接した際に、その衝撃を吸収するように構成されている。
【0032】
また、このコーティング樹脂28は、図6に示すように、複数の鍵2にそれぞれ対応する複数のハンマー本体24における各錘部25にそれぞれ被覆された各被覆量が高音側から低音側に亘って徐々に異なっている。すなわち、コーティング樹脂28は、複数のハンマー本体24における各錘部25の被覆量が高音側から低音側に亘って徐々に多くなり、これにより複数のハンマー部材3の各重量を高音側から低音側に亘って徐々に重くするように形成されている。
【0033】
次に、この鍵盤装置におけるハンマー部材3の製造方法について説明する。
この製造方法では、まず、図2および図4に示すように、複数のハンマー部材3の各ハンマー本体24を鍵盤シャーシ1にそれぞれ取り付ける。このときには、図1に示すように、ハンマー本体24の鍵当接部27を鍵盤シャーシ1の下側から立上り部8の開口部8a内に挿入させ、この状態でハンマー本体24の回転取付部26を鍵盤シャーシ1のハンマー支持部7に設けられた支持軸7aに回転可能に取り付ける。
【0034】
この状態で、鍵盤シャーシ1を持ち上げると、図2に示すように、ハンマー本体24がハンマー支持部7の支持軸7aを中心に錘部25の重量によって反時計回りに回転して垂下する。このときには、図2および図3に示すように、ハンマー本体24の鍵当接部27が鍵盤シャーシ1の立上り部8の開口部8aからスリット孔11内に挿入する。これにより、複数のハンマー本体24は、図2および図4に示すように、音階順に配列された状態で、各錘部25が鍵盤シャーシ1の下側にそれぞれ突出して、鍵盤シャーシ1に吊り下げられる。
【0035】
次に、図5に示すように、鍵盤シャーシ1に吊り下げられた複数のハンマー本体24を傾斜用冶具32によって高音側から低音側に向けて徐々に低くなるように傾ける。この場合、傾斜用冶具32は、鍵盤シャーシ1が傾いて配置されることにより、複数のハンマー本体24の各下部を高音側から低音側に向けて徐々に低くなるように傾ける構成になっている。
【0036】
この状態で、図5に示すように、傾斜用冶具32を溶液槽30上に配置して、鍵盤シャーシ1に吊り下げられた複数のハンマー本体24の下部側に位置する各錘部25を溶液槽30内に収容された溶液31に浸ける。この場合、溶液槽30内の溶液31は、ウレタン樹脂、スチロール樹脂、塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂、またはこの熱可塑性樹脂にアルミニウムなどの金属粉末を混入させたコーティング樹脂28を液状にしたものである。
【0037】
また、この溶液槽30内の底部には、図5に示すように、溶液31を加熱するための加熱ヒータ33が設けられている。この加熱ヒータ33は、ニクロム線などの電熱線からなり、交流電源34から交流がスイッチ35のオン動作によって供給されると、発熱して溶液31を加熱するように構成されている。この場合、加熱ヒータ33は、コーティング樹脂28を溶融点以上の温度に加熱することにより、所定の粘性、つまり互いに隣接するハンマー本体24の各錘部25同士にコーティング樹脂28が連結して付着しない程度の粘性を有する液状にする。
【0038】
これにより、複数のハンマー本体24の各錘部25に溶液31をそれぞれ付着させる。このときには、図5に示すように、高音側に位置するハンマー本体24の錘部25が溶液31内に浅く挿入し、低音側に向かうに従ってハンマー本体24の錘部25が溶液31内に徐々に深く挿入する。
【0039】
このため、各ハンマー本体24の錘部25の表面には、溶液31が一定の厚みで付着するが、高音側に位置するハンマー本体24の錘部25に付着される溶液31の付着面積は小さく、低音側に向かうに従ってハンマー本体24の錘部25に付着される溶液31の付着面積は徐々に大きくなる。
【0040】
次に、図6および図7に示すように、鍵盤シャーシ1に吊り下げられた複数のハンマー本体24を溶液槽30内から引き上げる。すると、図6に示すように、高音側に位置するハンマー本体24の錘部25に付着された溶液31は、その付着量が少なく、低音側に向かうに従ってハンマー本体24の錘部25に付着される溶液31は、その付着量が徐々に多くなっている。
【0041】
この状態で、ハンマー本体24の錘部25に付着された溶液31を自然乾燥や温風乾燥などによって乾燥させて、溶液31を硬化させる。これにより、図7に示すように、ハンマー本体24の錘部25の表面にコーティング樹脂28が被覆される。このコーティング樹脂28は、ハンマー本体24の錘部25に被覆された被覆量が高音側から低音側に亘って徐々に多くなっているので、複数のハンマー部材3は、高音側から低音側に亘って徐々に重量が重くなる。
【0042】
次に、このような鍵盤装置を組み立てる場合について説明する。
この場合には、図6および図7に示すように、高音側から低音側に亘って徐々に重量が重くなるようにコーティング樹脂28がそれぞれ形成された複数のハンマー部材3が、鍵盤シャーシ1のハンマー支持部7の支持軸7aに回転可能に取り付けられて吊り下げられていることにより、鍵盤シャーシ1に複数のハンマー部材3を改めて取り付ける必要がない。
【0043】
このため、鍵盤シャーシ1の底部に底板15をビス15aによって取り付けると、図1に示すように、複数のハンマー部材3がハンマー支持部7の支持軸7aを中心に時計回りに回転する。このときには、複数のハンマー部材3の各鍵当接部27が鍵盤シャーシ1のスリット孔11から立上り部8の開口部8a内に配置される。この状態で、鍵盤シャーシ1のスイッチ搭載部12上にスイッチ部4を取り付ける。
【0044】
この後、図1に示すように、複数の鍵2における各ハンマー押圧部17のハンマー保持部18に、複数のハンマー部材3の各鍵当接部27を挿入させて、複数の鍵2の各後端部を鍵盤シャーシ1の各鍵支持部13に支持軸13aによって上下方向に回転可能に取り付ける。これにより、複数の鍵2の各スイッチ押圧部16が鍵盤シャーシ1上に設けられたスイッチ部4に対応した状態で、鍵盤装置が組み立てられる。
【0045】
次に、このように組み立てられた鍵盤装置を使用する場合について説明する。
この鍵盤装置では、図1に実線および2点鎖線で示すように、鍵2を押鍵操作すると、鍵2が鍵盤シャーシ1の各鍵支持部13の支持軸13aを中心に時計回りに回転する。すると、鍵2のスイッチ押圧部16が鍵盤シャーシ1上のスイッチ部4を押圧して、ゴムシート21の膨出部22を弾性変形させると共に、鍵2におけるハンマー押圧部17がハンマー部材3の鍵当接部27を押し下げる。
【0046】
これにより、ハンマー部材3がその錘部25の重量に抗して鍵盤シャーシ1のハンマー支持部7の支持軸7aを中心に時計回りに回転し、鍵2にアクション荷重を付与する。このとき、複数の鍵2のうち、低音側の鍵2を押鍵すると、ハンマー部材3の重量が高音側のハンマー部材3よりも重いので、鍵タッチ感が重くなる。また、高音側の鍵2を押鍵すると、ハンマー部材3の重量が低音側のハンマー部材3よりも軽いので、鍵タッチ感が軽くなる。これにより、アコースティックピアノの鍵タッチ感に、より一層、近似した鍵タッチ感を得ることができ、良好に演奏することができる。
【0047】
このように、この鍵盤装置におけるハンマー部材3の製造方法によれば、複数のハンマー部材3の各ハンマー本体24を高音側から低音側に亘って配列させた状態で吊り下げ、複数のハンマー本体24を高音側から低音側に向けて徐々に低くなるように傾け、この状態で複数のハンマー本体24の各下部を溶液槽30内に収容されたコーティング樹脂28からなる溶液31に浸け、複数のハンマー本体24の各下部に溶液31をそれぞれ付着させてコーティング樹脂28として被覆するので、生産性が良く、低コストで、ハンマー部材3の重量を高音側から低音側に亘って良好に変えることができる。
【0048】
すなわち、このハンマー部材3の製造方法では、複数のハンマー本体24に高音側から低音側に亘ってコーティング樹脂28を被覆する際に、複数のハンマー本体24の各下部を高音側から低音側に向けて徐々に低くなるように傾けて、溶液槽30内に収容されたコーティング樹脂28の溶液31に浸けることにより、複数のハンマー本体24に高音側から低音側に亘って溶液31を一度に付着させてコーティング樹脂28として被覆することができる。このため、コーティング樹脂28を複数のハンマー本体24ごとに、1つずつ個別に形成する必要がないので、生産性が極めて良い。
【0049】
また、このときには、複数のハンマー本体24の各下部が高音側から低音側に向けて徐々に低くなるように傾いているので、高音側に位置するハンマー本体24の下部を溶液31内に浅く挿入させることができると共に、低音側に向かうに従ってハンマー本体24の下部を溶液31内に徐々に深くなるように挿入させることができ、これにより複数のハンマー本体24の各下部にそれぞれ付着される溶液31の各付着量を高音側から低音側に亘って徐々に多くすることができる。
【0050】
このため、ハンマー本体24に付着された溶液31を乾燥させて硬化させることにより、コーティング樹脂28の被覆量を高音側から低音側に亘って徐々に重くすることができるので、ハンマー部材3の重量を高音側から低音側に亘って良好に変えることができると共に、高音側から低音側に亘って被覆量がそれぞれ異なるコーティング樹脂28を複数のハンマー本体24ごとに、1つずつ個別に形成する必要がないので、これによっても生産性が極めて良いばかりか、ハンマー部材3ごとにコーティング樹脂28の被覆量が異なっていても、効率良く生産することができる。
【0051】
このように、このハンマー部材3の製造方法では、複数のハンマー本体24の各下部を高音側から低音側に向けて徐々に低くなるように傾けて、溶液槽30内に収容されたコーティング樹脂28の溶液31に浸けるだけで、複数のハンマー本体24に一度にコーティング樹脂28を被覆することができると共に、ハンマー部材3の重量を高音側から低音側に亘って徐々に重くなるように変えることができるので、その製作が簡単で容易にできると共に、生産性が良く、製作コストを大幅に下げることができる。
【0052】
この場合、複数のハンマー本体24は、鍵盤シャーシ1のハンマー支持部7に高音側から低音側に亘って配列された状態で回転可能に吊り下げられていることにより、鍵盤装置の組立て途中において、複数のハンマー本体24にコーティング樹脂28を一度に被覆することができると共に、鍵盤シャーシ1を高音側から低音側に向けて徐々に低くなるように傾けるだけで、コーティング樹脂28の被覆量を高音側から低音側に亘って徐々に変えることができる。
【0053】
このため、鍵盤装置の組立て途中において、コーティング樹脂28をハンマー本体24に被覆するので、コーティング樹脂28が被覆された複数のハンマー部材3を改めて鍵盤シャーシ1に取り付ける必要がないので、組立作業の向上を図ることができると共に、これによっても生産性を高めることができ、製作コストを下げることができる。
【0054】
また、このハンマー部材3の製造方法では、コーティング樹脂28が、ウレタン樹脂、スチロール樹脂、塩化ビニル樹脂などの軟質の熱可塑性樹脂、またはこの熱可塑性樹脂にアルミニウムなどの金属粉末を混入させたものであることにより、クッション性を有しているので、ハンマー部材3が鍵2の押鍵操作に応じて回転した際に、コーティング樹脂28が鍵盤シャーシ1の上部下面に当接しても、その衝撃をコーティング樹脂28によって吸収することができる。
【0055】
また、鍵2の押鍵操作に応じて回転したハンマー部材3が初期位置に復帰する際に、コーティング樹脂28が鍵盤シャーシ1の底板15に当接しても、その衝撃をコーティング樹脂28によって吸収することができる。これにより、押鍵操作時における異音の発生を防ぐことができるので、良好な演奏音を聴くことができる。また、鍵盤シャーシ1にハンマー部材3の上限位置および下限位置を規制するためのフェルトなどのストッパー部材を設ける必要がないので、鍵盤シャーシ1の構造を簡素化することができると共に、より一層、部品点数を削減することができる。
【0056】
さらに、この鍵盤装置によれば、鍵盤シャーシ1と、この鍵盤シャーシ1に配列された複数の鍵2と、この複数の鍵2の押鍵操作に伴って各鍵2にアクション荷重をそれぞれ付与する複数のハンマー部材3とを備え、複数のハンマー部材3に、コーティング樹脂28がそれぞれ被覆されていると共に、複数のハンマー部材3における高音側から低音側に亘ってコーティング樹脂28の被覆量が徐々に異なっていることにより、ハンマー部材3の重量を高音側から低音側に亘って良好に変えることができるので、より一層、アコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得ることができる。
【0057】
すなわち、この鍵盤装置では、鍵2を押鍵操作し、鍵2がハンマー部材3を押し下げて、ハンマー部材3がその重量に抗して回転し、鍵2にアクション荷重を付与する際に、複数のハンマー部材3の重量を高音側から低音側に亘って徐々に重くすることにより、複数の鍵2のうち、低音側の鍵2を押鍵操作した際に、高音側の鍵2よりも鍵タッチ感を重くすることができ、また高音側の鍵2を押鍵操作した際に、低音側の鍵2よりも鍵タッチ感を軽くすることができる。これにより、アコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得ることができるので、良好に演奏することができる。
【0058】
この場合、鍵盤シャーシ1には、複数のハンマー部材3をそれぞれ上下方向に回転自在に支持するハンマー支持部7が設けられていると共に、このハンマー支持部7の近傍に位置する鍵盤シャーシ1の箇所には、複数のハンマー部材3の一部である鍵当接部27がそれぞれ挿入する複数のスリット孔11が設けられていることにより、複数のハンマー部材3の各ハンマー本体24を鍵盤シャーシ1に吊り下げる際に、ハンマー本体24がその重量によって回転しても、ハンマー本体24の鍵当接部27を鍵盤シャーシ1のスリット孔11に挿入させることができ、これによりハンマー本体24を円滑に且つ良好に回転させて鍵盤シャーシ1に吊り下げることができる。
【0059】
なお、上述した実施形態では、ハンマー部材3におけるハンマー本体24の端部に位置する錘部25が、単純な平板状に形成されている場合について述べたが、これに限らず、例えば図8(a)および図8(b)に示す第1変形例、または図9に示す第2変形例のように、ハンマー本体24の端部に位置する錘部25を、溶液31が付着し易い形状に形成しても良い。
【0060】
すなわち、図8(a)および図8(b)に示された第1変形例は、錘部25をハンマー本体24の長手方向(図8(a)では上下方向)に沿って波形の凹凸形状に形成した構成になっている。このように錘部25を波形の凹凸形状に形成すれば、ハンマー本体24の錘部25を溶液槽30内の溶液31に浸けた際に、溶液31を波形の凹凸形状の間に良好に付着させ易くすることができ、これにより溶液31を錘部25に十分に且つ確実に付着させることができる。
【0061】
また、図9に示された第2変形例は、ハンマー本体24の錘部25に複数の小孔25aを設けると共に、錘部25の周囲に複数の切欠部25bを設けた構成になっている。このように錘部25に複数の小孔25aおよび複数の切欠部25bを形成すれば、ハンマー本体24の錘部15を溶液槽30内の溶液31に浸けた際に、錘部25の複数の小孔25a内および複数の切欠部25b内にそれぞれ溶液31を詰まり易くすることができができ、これにより溶液31を錘部25に十分に且つ確実に付着させることができる。
【0062】
また、上述した実施形態では、コーティング樹脂28が、ウレタン樹脂、スチロール樹脂、塩化ビニル樹脂などの軟質の熱可塑性樹脂、またはこの熱可塑性樹脂にアルミニウムなどの金属粉末を混入させたものである場合について述べたが、これに限らず、コーティング樹脂は、熱硬化性樹脂であっても良く、また紫外線硬化型樹脂であっても良い。
【0063】
例えば、熱硬化性樹脂を用いた場合には、ハンマー本体24に付着した熱硬化性樹脂からなる溶液を乾燥させる際に、熱風や焼成によって乾燥させて硬化させれば良い。また、紫外線硬化型樹脂を用いた場合には、ハンマー本体24に付着した紫外線硬化型樹脂からなる溶液を乾燥させる際に、付着した溶液に紫外線を照射させて硬化させれば良い。
【0064】
さらに、上述した実施形態では、複数のハンマー本体24を鍵盤シャーシ1に取り付けて吊り下げてコーティング樹脂28の溶液31を付着させるように構成した場合について述べたが、必ずしも鍵盤シャーシ1に吊り下げる必要はなく、複数のハンマー本体24を音階順に取り付けて吊り下げることができる吊下げ冶具を用いても良い。
【符号の説明】
【0065】
1 鍵盤シャーシ
2 鍵
3 ハンマー部材
4 スイッチ部
7 ハンマー支持部
7a 支持軸
11 スリット孔
13 鍵支持部
13a 支持軸
17 ハンマー押圧部
24 ハンマー本体
25 錘部
26 回転取付部
27 鍵当接部
28 コーティング樹脂
30 溶液槽
31 溶液
32 傾斜用冶具
33 加熱ヒータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵盤シャーシと、この鍵盤シャーシ上に配列された複数の鍵と、この複数の鍵の押鍵操作に伴って前記各鍵にアクション荷重をそれぞれ付与する複数のハンマー部材とを備えた鍵盤装置におけるハンマー部材の製造方法において、
前記複数のハンマー部材の各ハンマー本体を高音側から低音側に亘って配列させた状態で吊り下げて、前記複数のハンマー本体の各下部を高音側から低音側に向けて徐々に低くなるように傾ける第1の工程と、
前記複数のハンマー本体の各下部を溶液槽内に収容されたコーティング樹脂からなる溶液に浸けて、前記複数のハンマー部材の各下部に前記溶液を付着させる第2の工程と、
前記複数のハンマー本体を前記溶液槽内から引き上げて、前記複数のハンマー本体に付着された前記溶液を前記コーティング樹脂として前記複数のハンマー本体に被覆する第3の工程と、
を有することを特徴とする鍵盤装置におけるハンマー部材の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程において、前記複数のハンマー本体は、前記鍵盤シャーシに高音側から低音側に亘って配列された状態で吊り下げられていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤装置におけるハンマー部材の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程において、前記コーティング樹脂は、ウレタン樹脂などの軟質の熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鍵盤装置におけるハンマー部材の製造方法。
【請求項4】
前記複数のハンマー本体の各下部は、前記コーティング樹脂の前記溶液が付着し易い形状に形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の鍵盤装置におけるハンマー部材の製造方法。
【請求項5】
鍵盤シャーシと、この鍵盤シャーシ上に配列された複数の鍵と、この複数の鍵の押鍵操作に伴って前記各鍵にアクション荷重をそれぞれ付与する複数のハンマー部材とを備えた鍵盤装置において、
前記複数のハンマー部材には、コーティング樹脂がそれぞれ被覆されていると共に、このコーティング樹脂は、前記複数のハンマー部材における各被覆量が高音側から低音側に亘って徐々に異なっていることを特徴する鍵盤装置。
【請求項6】
前記鍵盤シャーシには、前記複数のハンマー部材をそれぞれ上下方向に回転自在に支持するハンマー支持部が設けられていると共に、このハンマー支持部の近傍に位置する前記鍵盤シャーシの箇所には、前記複数のハンマー部材の一部がそれぞれ挿脱可能に挿入する複数のスリット孔が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の鍵盤装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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