説明

鍵盤装置

【課題】 口棒部取り付け部の位置を高くして、肉厚を厚くすることなく口棒部の精度及び剛性を高める。
【解決手段】 鍵フレーム10は、最下位置である第2取付部92から傾斜面96aを形成して斜め前方に立ち上がり、この立ち上がった最上部近傍に第1取付部91が位置する。すなわち、第1取付部91は、第2取付部92より高い位置に浮いたように配設されている。口棒部63の被取付部である上ケース60の床敷部61乃至座部62は、第1取付部91の下部に対してネジ71で固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤の前方に口棒部が配設される鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されるように、鍵盤装置における口棒部は、例えば、左右の腕木及び棚板等に取り付けられる。口棒部は、ほぼ全鍵盤幅の長さを有し、鍵前端との間の小さく一定の隙間を全長に亘って確保することが求められるため、高い剛性が必要とされる。従って、下記特許文献1では、口棒部を金属板で構成し、その剛性を確保している。
【0003】
一方、電子鍵盤楽器等の鍵盤装置においては、内装部品である鍵盤フレームとは別に、樹脂製の外装の下ケース及び/又は上ケースを有し、口棒部も、下ケースまたは上ケース(あるいは上下一体のケース)と一体に形成されるものがある。口棒部は、例えば、下ケースの底板部の前部から立ち上がって形成され、鍵の先端に近接して配設される。また、鍵盤フレームは、例えば、下ケースの底板部の前部に固定される。
【特許文献1】実公平4−47750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような、口棒部が樹脂等で構成される鍵盤装置において、口棒部が、下ケースの底板部から立ち上がって形成される場合は、口棒部は、実質的な支持部である下ケースの底板部の前部から延設された形態となる。この場合、口棒部の支持位置(底板部の前部)から口棒部の上端までは距離が長い。そのため、口棒部の上端の主に前後方向の位置がばらつきやすく、高い精度を確保することが容易でないという問題があった。
【0005】
しかも、樹脂製のケースはもともと剛性が高くないことから、口棒部の支持位置から口棒部の上端までの距離が長いことで、口棒部自体の剛性も低くなって、口棒部が曲がりやすく、鍵先端との隙間を口棒部の全長に亘って均一に維持することが容易でないという問題があった。例えば、設計の意に反して、鍵域の中央で、鍵盤と口棒部との間隔が開きすぎ、そこに異物が落ち込み、容易に取り出せない、というような不都合も生じる。
【0006】
一方、口棒部にリブを設ける等によって、実質的に肉厚を厚くして剛性を高めることが考えられる。しかし、口棒部の近傍には、白鍵の鍵動作ガイドや押鍵ストッパ等の部品が配設されるため、そのようにすると、スペース的な制約が多くなってくる。
【0007】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、口棒部取り付け部の位置を高くして、肉厚を厚くすることなく口棒部の精度及び剛性を高めることができる鍵盤装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明の請求項1の鍵盤装置は、支持部材(10)と、前記支持部材に配設され、該支持部材に揺動自在にされた複数の鍵から成る鍵盤(KB)と、前記鍵盤の前方に配設された口棒部(63)と、前記支持部材に設けられ、前記口棒部を前記支持部材に取り付けるための口棒部取り付け部(91)とを有し、前記支持部材は、その前部の最下位置(92)から上方に立ち上がった立ち上がり部(96)を有し、前記口棒部取り付け部は、前記立ち上がり部における前記最下位置より高い位置に設けられて、前記最下位置から浮いていることを特徴とする。
【0009】
好ましくは、前記立ち上がり部は、前記最下位置から、傾斜面(96a)を形成して斜め前方に立ち上がっている(請求項2)。
【0010】
好ましくは、前記口棒部の下方から前記傾斜面の下方までの領域に、鍵盤楽器としての機能を実現するための機能部品が配設される配設スペース(95)が形成される(請求項3)。
【0011】
好ましくは、前記口棒部は、前記口棒部取り付け部の下部に対して取り付けられ、前記口棒部取り付け部の上部には、前記鍵のうち白鍵の押離鍵動作をガイドする鍵動作ガイド部(12)が設けられる(請求項4)。
【0012】
なお、上記括弧内の符号は例示である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1によれば、口棒部取り付け部の位置を高くして、肉厚を厚くすることなく口棒部の精度及び剛性を高めることができる。
【0014】
請求項2によれば、傾斜した立ち上がり部による剛性確保により、口棒部取り付け部の剛性を高めることができる。
【0015】
請求項3によれば、立ち上がり部を形成したことで生じた空きスペースを利用して機能部品を配設することで、設計の自由度が増し、省スペースにもなる。
【0016】
請求項4によれば、口棒部取り付け部が、口棒部を取り付ける機能と鍵動作ガイド部を設ける機能とを兼ねるので、構成が簡単で省スペースになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態に係る鍵盤装置の縦断面図である。この鍵盤装置1は、電子鍵盤楽器として構成される。以降、鍵盤装置1の奏者側(同図左方)を前方と呼称する。
【0019】
図1に示すように、鍵盤装置1において、いずれも樹脂製の上ケース60と下ケース70とで構成される筐体内に、樹脂製の鍵フレーム10が配設される。鍵フレーム10には、複数の白鍵20及び複数の黒鍵40から成る鍵盤KBが配設される。鍵盤KBの共通基端部30が鍵フレーム10に固定的に保持され、白鍵20、黒鍵40の各々の自由端部が上下方向に回動(乃至揺動)自在にされている。
【0020】
鍵フレーム10には、白鍵20、黒鍵40の各々に対応して、質量体50(50W、50B)が設けられる。各質量体50W、50Bは、鍵フレーム10に形成された質量体支持リブ13に設けられた回動軸14を中心に上下方向に回動自在に支持される。質量体50は、対応する鍵によって駆動されて、該鍵と連動して回動する。そして、回動することで、対応する鍵に対して適当な慣性力を付与し、アコースティックピアノのようなタッチ感触を実現している。
【0021】
鍵フレーム10の後部10bにおいて、上側に上限ストッパ83、下側に下限ストッパ84が設けられる。質量体50の後端部が下限ストッパ84に当接することで、質量体50及びそれに対応する鍵の非押鍵位置(初期位置)が規制される。一方、質量体50の後端部が上限ストッパ83に当接することで、質量体50及びそれに対応する鍵の押鍵終了位置(回動終了位置)が規制される。
【0022】
また、鍵フレーム10に設けられた基板80上に、押鍵スイッチ81が、白鍵20、黒鍵40の各々に対応して設けられ、これらの押鍵スイッチ81が、対応する鍵の押下操作を検出する。押鍵スイッチ81による検出結果に基づき、不図示の楽音発生部により楽音が発生する。
【0023】
図2は、鍵盤装置1の前部の拡大断面図である。図3(a)は、鍵フレーム10の前部の断面図、同図(b)は上ケース60の前部の断面図、同図(c)は下ケース70の前部の断面図である。図4(a)は、下ケース70の前部の部分平面図、同図(b)は、鍵フレーム10の前部の部分平面図、同図(c)は、鍵フレーム10の前部の部分正面図である。図5(a)は、白鍵20の前端部の断面図、同図(b)は、白鍵20の前端部の裏面図である。
【0024】
図1に示すように、鍵フレーム10の前部10aから後部10bにかけての下部には、第1〜第4取付部91〜94が設けられている。鍵フレーム10は、第2、第3、第4取付部92、93、94において、下ケース70に対して、それぞれ複数のネジ72、73、74で結合される。鍵フレーム10はまた、前部に設けられたボスである第1取付部91において、下ケース70及び上ケース60に対して、複数のネジ71で共締めにより結合される(後述する)。さらに、下ケース70と上ケース60とが、各々の後部の適所において複数のネジで結合される(図示せず)。下ケース70の下部には、電池収容等のための凹部18が形成されている。
【0025】
図2、図3(c)、図4(a)に示すように、下ケース70の前部の、上記第1取付部91に対応する位置には、断面凸状に盛り上がった上部である水平な床敷部75が形成され、床敷部75の上部に座部76が連接形成されている。座部76は、適当な間隔を保って鍵並び方向(左右方向)に複数設けられる。また、座部76の位置に対応して、座部76及び床敷部75を貫通する締結用穴77が上下方向に穿設されている。
【0026】
図1、図2、図3(b)に示すように、上ケース60の最前部は、断面凸状に上方に盛り上がった口棒部63が形成されている。口棒部63は、全鍵盤幅に亘って上ケース60と一体に形成され、白鍵20の前端部20aの直前に位置し、前端部20aと近接している。図2、図3(b)に示すように、上ケース60の前部の、上記第1取付部91に対応する位置には、口棒部63の後部63aの下端に連接して、水平な床敷部61が形成され、床敷部61の上部に座部62が連接形成されている。座部62は、下ケース70の座部76に対応する位置に形成され、各座部62及び床敷部61に、締結用穴77に連通される締結用穴64が上下方向に穿設されている(図3(b)参照)。
【0027】
図2、図3(a)、図4(b)、(c)に示すように、鍵フレーム10の前部10aにおいて、基部98から、下方に垂下リブ99が延設される。基部98及び垂下リブ99は、鍵盤幅に亘って一体に形成される。鍵フレーム10の上記第1取付部91は、垂下リブ99の直前において、基部98の下面から下方に複数延設される(図4(c)参照)。第1取付部91は、上ケース60の座部62及び下ケース70の座部76に対応して設けられ、各第1取付部91には、締結用穴64、77に対応するネジ穴97が設けられる。また、図2、図3(a)、図4(b)に示すように、鍵フレーム10の上記第2取付部92は、水平な底板部であり、前部10aにおける最下位置に設けられる。
【0028】
図2、図3(a)、図4、(c)に示すように、第2取付部92の前端から垂下リブ99の下端にかけて、複数の傾斜リブ96が鍵フレーム10と一体に形成されている。傾斜リブ96は、鍵並び方向における第1取付部91に近接した位置に形成され、第1取付部91の剛性が高められている。傾斜リブ96の前面は、前方下方を向く傾斜面96aとなっている。従って、傾斜リブ96は、最下位置である第2取付部92から傾斜面96aを形成して斜め前方に立ち上がり、この立ち上がった最上部近傍に第1取付部91が位置する。すなわち、第1取付部91は、第2取付部92より高い位置に浮いたように配設されている。
【0029】
図3、図4(b)、(c)に示すように、鍵フレーム10の基部98の上部に連接して、鍵並び方向に平行なリブ11が、各白鍵20に対応する位置に形成されている。さらに、基部98の上部及びリブ11の前面に連接して、押鍵動作の案内をするキーガイド部12が一体に上下方向に延設形成されている。一方、図5(a)、(b)に示すように、白鍵20の前端部20aには、キーガイド部12に係合する被キーガイド部33が上下方向に延設形成され、両者の係合により、白鍵20の前端部20aは、その左右方向の移動が規制されて、上下方向に適切に動作するようになっている。
【0030】
鍵盤装置1の組み付けは次のようにしてなされる。まず、鍵フレーム10に、すべての質量体50と鍵盤KBを配設し、その鍵フレーム10を、第1〜第4取付部91〜94において、上ケース60乃至下ケース70に対してネジ71〜74で螺合締結する。特に、第1取付部91については、図2、図3(a)〜(c)に示すように、下ケース70の座部76の上に上ケース60の対応する床敷部61を当接させ、さらに、上ケース60の各座部62の上に鍵フレーム10の対応する第1取付部91を当接させる。そして、下方から、締結用穴77、64を介してネジ穴97にネジ71を螺合することで、鍵フレーム10、上ケース60及び下ケース70が、それぞれの前部において共締め状態で固定される。
【0031】
ところで、図2に示すように、第1取付部91の下方から傾斜面96aの下方までの領域には、空きスペース95が生じる。この空きスペース95は、鍵盤楽器としての機能を実現するための各種機能部品を配設するための配設スペースとして利用することができる。各種機能部品には、例えば、各種基板類(インターフェイス基板、アフタセンサ基板、接近センサ基板、ヘッドフォン基板、オフセット調整ボリューム基板等)、各種センサ、アクチュエータ等が考えられる。
【0032】
本実施の形態によれば、鍵フレーム10において口棒部63を支持する位置である第1取付部91は、鍵フレーム10の前部10aの最下位置である第2取付部92から前方に立ち上がって第2取付部92より高い位置に浮いた位置にある(図2、図3(a)参照)。これにより、従来の多くの鍵盤装置のように、口棒部が下ケースの底板部から立ち上がって形成される構成に比し、口棒部63の支持位置である第1取付部91から口棒部63の上端までの距離が短くなる。従って、口棒部63にリブを設ける等によって、実質的に肉厚を厚くするようなことをしなくても、十分な剛性が確保されると共に、口棒部63の上端の主に前後方向の位置がばらつきにくくなる。そのため、口棒部63が樹脂製でありながら、曲がり量が少なくて済むので、白鍵20の先端との隙間を高い精度で口棒部63の全長に亘って均一に維持することが容易となる。よって、肉厚を厚くすることなく口棒部63の精度及び剛性を高めることができる。
【0033】
また、キーガイド部12は、基部98の上部に設けられ、第1取付部91より高い位置から上方に延びているので、鍵フレーム10の最下位置に近い位置から上方に立ち上がって形成される構成に比し、キーガイド部12の基部を鍵に近い位置に設けることができるだけでなく、キーガイド部12を短く設計することができる。これにより、キーガイド部12の鍵並び方向への変形も少なく、剛性も高くなることから、高い精度が確保容易となり、鍵操作性の向上に繋がる。
【0034】
しかも、一般に、口棒部の近傍には、白鍵の鍵動作ガイドや押鍵ストッパ等の部品が配設されることが多いが、本実施の形態では、口棒部63を補強する必要が小さいので、スペース的な制約が少なくなる点でも有利である。
【0035】
また、傾斜リブ96を設けたことで、鍵フレーム10は、最下位置である第2取付部92から傾斜面96aを形成して斜め前方に立ち上がっているので、第1取付部91の剛性が高い。しかも、傾斜リブ96は、第1取付部91に近接しているので、第1取付部91の剛性を一層高めることができる。
【0036】
また、口棒部63の支持位置(第1取付部91)が、最下位置(第2取付部92)より十分に高い結果、下ケース70の最前部の奏者に対向する前面70a(図2参照)の前後方向の位置を、口棒部63の前面より後方に引っ込ませることが可能となった。これにより、奏者から見ると、前面70aが見にくい結果、主に口棒部63が視認されるので、上下方向において薄い口棒部63の厚みが鍵盤装置1自体の厚みであるかのように見え、見栄えがよい。
【0037】
また、第1取付部91を高い位置に配設した結果、第1取付部91の下方から傾斜面96aの下方までの領域に、各種機能部品を配設するための空きスペース95が生じるので、この空きスペース95を利用して、機種に応じた所望の機能部品を配設することができ、設計の自由度が増すと共に、省スペースにもなる。
【0038】
また、口棒部63の被取付部である上ケース60の床敷部61乃至座部62は、第1取付部91の下部に対して固定されるが、第1取付部91の上部には、キーガイド部12が設けられる。これにより、第1取付部91が、口棒部63を取り付ける機能と鍵動作ガイド部を設ける機能とを兼ねるので、構成が簡単で省スペースにもなる。
【0039】
なお、本実施の形態では、口棒部63は、上ケース60に一体に形成されるものであったが、これに限るものでなく、下ケース70から延設形成されたものでもよいし、上ケースと下ケースとが一体となった一体型ケースから延設形成されたものであってもよい。あるいは、口棒部63は、独立別体のものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施の形態に係る鍵盤装置の縦断面図である。
【図2】鍵盤装置の前部の拡大断面図である。
【図3】鍵フレームの前部の断面図(図(a))、上ケースの前部の断面図(図(b))、及び下ケースの前部の断面図(図(c))である。
【図4】下ケースの前部の部分平面図(図(a))、鍵フレームの前部の部分平面図(図(b))、及び鍵フレームの前部の部分正面図(図(c))である。
【図5】白鍵の前端部の断面図(図(a))、白鍵の前端部の裏面図(図(b))である。
【符号の説明】
【0041】
1 鍵盤装置、 10 鍵フレーム(支持部材)、 12 キーガイド部(鍵動作ガイド部)、 20 白鍵、 40 黒鍵、 63 口棒部、 91 第1取付部(口棒部取り付け部)、 92 第2取付部(最下位置)、 95 空きスペース(配設スペース)、 96 傾斜リブ(立ち上がり部)、 96a 傾斜面、 KB 鍵盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材と、
前記支持部材に配設され、該支持部材に揺動自在にされた複数の鍵から成る鍵盤と、
前記鍵盤の前方に配設された口棒部と、
前記支持部材に設けられ、前記口棒部を前記支持部材に取り付けるための口棒部取り付け部とを有し、
前記支持部材は、その前部の最下位置から上方に立ち上がった立ち上がり部を有し、
前記口棒部取り付け部は、前記立ち上がり部における前記最下位置より高い位置に設けられて、前記最下位置から浮いていることを特徴とする鍵盤装置。
【請求項2】
前記立ち上がり部は、前記最下位置から、傾斜面を形成して斜め前方に立ち上がっていることを特徴とする請求項1記載の鍵盤装置。
【請求項3】
前記口棒部の下方から前記傾斜面の下方までの領域に、鍵盤楽器としての機能を実現するための機能部品が配設される配設スペースが形成されたことを特徴とする請求項2記載の鍵盤装置。
【請求項4】
前記口棒部は、前記口棒部取り付け部の下部に対して取り付けられ、前記口棒部取り付け部の上部には、前記鍵のうち白鍵の押離鍵動作をガイドする鍵動作ガイド部が設けられたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の鍵盤装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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