説明

鍵盤装置

【課題】簡単な操作で鍵のタッチ感を変更できるようにする。
【解決手段】鍵10と、質量体20と、質量体20による反力を鍵10に伝える駆動部材(伝達部)11と、を具備し、質量体20は、質量体支点7を介して揺動可能に設けられたガイドレール38、39と、ガイドレール38,39に沿って質量体支点7からの距離を調整可能に設けられ、その駆動力によりガイドレール38,39に沿って移動するモータ40とを備えて構成され、モータ40をガイドレール38,39に沿って移動させることで、モータ40の質量体支点7からの距離を調整し、質量体20による反力を調整することを特徴とする鍵盤装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ピアノや電子オルガンなどの電子楽器が備える鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子楽器が備える鍵盤装置の一例として、特許文献1に記載された鍵盤装置がある。特許文献1の鍵盤装置は、フレームやケースなどの支持体に対して揺動自在に支持された鍵と、鍵の下方で支持体に対して揺動可能に支持され、鍵の移動に伴い鍵によって駆動されて揺動する質量体(ハンマーアーム)とを備えている。質量体は、所定の重さを有し、その重心が支点に対して鍵で駆動される部分と反対側の位置にある。これにより、質量体には、鍵を押し返す方向への回転力(モーメント)が生じている。この回転力によって質量体から鍵に対して荷重が与えられている。この質量体から鍵に与えられる荷重によって、押鍵時の鍵のタッチ感(慣性質量感)をアコースティックピアノなど本来の鍵盤楽器のタッチ感に近づけることが可能となる。
【0003】
このような鍵盤装置を備える電子楽器において、その演奏感覚を本来の鍵盤楽器の演奏感覚にさらに近づけるためには、電子楽器が発生する楽音の音色や演奏者の好みなどに応じて、鍵のタッチ感を変更できるようにすることが望ましい。例えば、ピアノ音色ではタッチ感が重く、オルガン音色ではピアノ音色よりタッチ感が軽くなるように変更できるとよい。
【0004】
そこで、上記の特許文献1の鍵盤装置あるいは下記の特許文献2及び特許文献3の鍵盤装置では、質量体から鍵に与えられる荷重を変更可能な構成を採用している。特許文献1あるいは特許文献2に記載の鍵盤装置では、質量体に錘を取り付け、この錘の取付位置を質量体の長手方向に沿って変更できるように構成している。また、特許文献3に記載の鍵盤装置では、質量体の一部を切り取るなどして取り除くことで、質量体の質量及び質量分布を変更することができるようにしている。これらの鍵盤装置によれば、質量体の重心の位置を変えて、質量体から鍵に与えられる荷重を変えることができる。これにより、電子楽器の演奏状況などに応じて鍵のタッチ感を変更することが可能となる。
【特許文献1】実開平3−117289号公報
【特許文献2】特開平4−172398号公報
【特許文献3】実公平5−8635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の鍵盤装置では、錘の取付位置を変える機構として、質量体の本体部に形成したネジ軸と錘に形成したネジ穴とを有し、ネジ穴をネジ軸にネジ係合させて錘自体の回転によるネジの送りで錘を移動させる機構を採用している。この機構で錘の取付位置を変えるには、鍵盤装置の外部からドライバーなどの工具を挿入して、該工具を錘に係合させて錘を回転させる必要がある。
【0006】
また、特許文献2に記載の鍵盤装置では、押鍵時の質量体の揺動による遠心力で、錘が質量体の長手方向に動き、押鍵の強さあるいは速さに応じて鍵のタッチ感が変化するようになっているが、錘の質量体への取付位置を変更するには、錘を位置決めしているストッパーの固定ネジを緩めることでその作業を行う必要がある。
【0007】
特許文献1の鍵盤装置では、錘を移動させる際に錘が回転して工具から離れる方へ移動すると、錘の移動に伴って工具が鍵盤装置の内部に次第に深く挿入されてゆく。つまり、錘の移動に伴って錘を移動させる操作を行う位置が移動するので、一定の位置で操作を行うことができない。このため、錘の取付位置を変更する作業が行い難いという問題がある。
【0008】
また、特許文献1あるいは特許文献2に記載の鍵盤装置では、錘の取付位置を変える際に錘にドライバーなどの工具を係合させる必要がある。ところが、質量体は揺動可能な状態で支持されているため、錘に工具を係合させる際に工具で錘が押されると質量体が動いてしまい、錘の位置が一定に定まらない。このため、錘の取付位置を変更する作業が行い難いという問題がある。
【0009】
さらに、特許文献1乃至特許文献3の鍵盤装置では、複数の鍵に対応する複数の質量体に取り付けた錘の取付位置の変更は質量体ごとに行わなければならないため、複数の鍵のタッチ感を変更する作業に手間と時間がかかる。その上、複数の質量体に取り付けた錘を同じ移動量で移動させるなど、決められた移動量で移動させることが簡単に行えない。したがって、複数の鍵のタッチ感を統一して変えたり、複数の鍵のタッチ感をスケール方向で規則的に異ならせたりして所望のタッチ感を実現することが簡単に行えない。
【0010】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものでありその目的は、簡単な操作で鍵のタッチ感を所望のタッチ感に変更することができる鍵盤装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明の鍵盤装置は、鍵と、質量体と、質量体による反力を鍵に伝える伝達部と、を具備し、質量体は、支点を介して揺動可能に設けられたガイド部材と、ガイド部材に沿って支点からの距離を調整可能に設けられ、その駆動力によりガイド部材に沿って移動するモータと、を備えて構成され、モータをガイド部材に沿って移動させることで、モータの支点からの距離を調整し、質量体による反力を調整することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、質量体に設けたモータを移動させることで、質量体による反力を調整することができる。したがって、簡単な操作で鍵のタッチ感を変更することが可能となる。また、この構成によれば、質量体に取り付けたモータを錘として機能させるので、モータ以外に錘としての部材を質量体に取り付ける必要がなくなる。これにより、質量体の部品点数を少なくすることができ、鍵盤装置の構成を簡単にすることができる。
【0013】
また、この構成によれば、質量体に設けたモータを移動させて鍵のタッチ感を変更するので、鍵盤装置を備える電子楽器のスイッチなどの操作で鍵のタッチ感を変更することができる。したがって、特許文献1又は2に記載の鍵盤装置のように、質量体に取り付けた錘を直接操作する必要がなく、鍵のタッチ感を変更する操作が簡単に行えるようになる。また、複数の質量体の重心位置を一度に変更することが可能となるので、複数の鍵のタッチ感の変更が容易に行えるようになる。さらに、複数の鍵のタッチ感を統一したり、複数の鍵のタッチ感をスケール方向で規則的に異ならせたりして所望のタッチ感を実現することが簡単に行えるようになる。
【0014】
上記の鍵盤装置では、モータに設けられた導電摺動体と、ガイド部材に設けられ、ガイド部材に沿って移動するモータの導電摺動体を摺動させる導電被摺動体とを備えてもよい。
【0015】
この構成によれば、モータに接続する配線を省略できるので、質量体内でモータが移動し易くなり、質量体による反力の調整がスムーズに行えるようになる。また、モータの移動範囲に導電被摺動体を設けることによって、モータが移動範囲内の任意の位置にある状態でモータに電気を供給することができるようになる。したがって、モータを確実に移動させることが可能となる。
【0016】
上記の鍵盤装置では、モータに取り付けられた該モータの回転により回転する歯車と、ガイド部材に形成され、歯車に噛み合い該歯車を転動させてモータをガイドレールに沿って移動させるラックとを備えてもよい。
【0017】
この構成によれば、ラックと歯車との噛み合いによりモータを移動させるので、モータとガイド部材との間に滑りが生じることを防止でき、モータを確実に移動させることができる。また、ラックと歯車との噛み合いによりモータを移動させるので、モータをガイド部材に対して正確な移動量で移動させることができる。したがって、鍵のタッチ感を設定通りに正確に変更することが可能となる。
【0018】
また、上記の鍵盤装置では、ガイド部材とモータとの間に設置されたガイド部材上を移動するモータの位置を検出する位置検出手段を備えてもよい。
【0019】
この構成によれば、位置検出手段によってモータの位置を検出できるので、ガイド部材に沿って移動するモータを目標位置に正確に停止させることができる。これにより、鍵のタッチ感を設定通りに正確に変更することが可能となる。
【0020】
また、上記の鍵盤装置では、モータまたは位置検出手段に接続された配線を有すると共に、配線は、質量体に設けた引出部から質量体の外部に引き出されており、引出部は、質量体における支点の近傍位置に配置されていてもよい。
【0021】
この構成によれば、引出部が支点の近傍位置に配置されているため、質量体の揺動による引出部の位置の変化が少なくて済む。これにより、質量体の揺動による配線の移動量を最小限に抑えることができる。したがって、演奏時の押鍵によって質量体が繰り返し揺動しても、配線にかかる負担が少なくて済むので、配線に断線などの不具合が生じ難く、耐久性に優れた鍵盤装置となる。
【0022】
また、質量体の揺動による配線の移動量が最小限に抑えられることで、質量体の揺動がスムーズになる。したがって、鍵の操作感覚に質量体の本来の揺動に基づく感覚以外の感覚が加わらずに済み、演奏時の鍵の操作感覚が良好になる。
【0023】
また、上記の鍵盤装置では、質量体に設けられ、モータまたは位置検出手段に接続されている導電摺動体と、質量体に対して静止している固定部に設けられ、質量体の揺動に伴い質量体に設けた導電摺動体が摺動する導電被摺動体と、を備えてもよい。
【0024】
この構成によれば、質量体と外部との間で接続される配線を設けずに済むので、配線を介して揺動する質量体に余計な力が作用するおそれがなくなり、質量体の揺動がスムーズになる。したがって、鍵の操作感覚に質量体の本来の揺動に基づく感覚以外の感覚が加わらずに済み、演奏時の鍵の操作感覚が良好になる。
【0025】
また、上記の鍵盤装置では、質量体が揺動する際に導電摺動体と導電被摺動体とが接触する部分によって描かれる軌跡が、支点を中心とする円弧状になるようにしてもよい。
【0026】
この構成によれば、質量体と外部との間で接続される配線を設けなくても、質量体がその揺動範囲内の任意の位置にある状態で、モータあるいは位置検出手段を外部との間で電気的に接続することが可能となる。これにより、質量体の揺動位置に関わらずモータあるいは位置検出手段を動作させることが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の鍵盤装置によれば、簡単な操作で鍵のタッチ感を所望のタッチ感に変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明では、鍵盤装置が備える鍵の長手方向における両側のうち、鍵盤を演奏する演奏者の側を手前あるいは前といい、その反対側を奥あるいは後という。
【0029】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態にかかる鍵盤装置1が備える鍵10及びその周辺の構成部品を示す概略側断面図である。なお、同図では、鍵盤装置1が備える1個の鍵及びその周辺の構成部品のみを示している。鍵盤装置1は、棚板(固定部)2に取り付けられたフレーム部材(固定部)3と、フレーム部材3の上部でフレーム部材3に対して移動可能に支持された鍵10と、鍵10の下方でフレーム部材3に対して揺動可能に支持された質量体20とを備えて構成されている。なお、図1では、鍵10が白鍵である場合を示しているが、黒鍵の場合も同様の構成になっている。
【0030】
棚板2は、鍵10を配列する棚の底部を構成する平板状の部材である。フレーム部材3は、棚板2の上面に固定されている。フレーム部材3は、一体に形成された上壁3aと前後一対の側壁3b,3cとを有し、側断面形状が略コ字状に形成されている。棚板2及びフレーム部材3は、鍵盤装置1のスケール方向(図1の紙面に直交する方向)に延びており、複数の鍵10に対応する位置に跨って配置されている。棚板2やフレーム部材3は、移動する鍵10や質量体20に対して固定されている固定部であって、鍵10や質量体20を揺動自在に支持している支持体となっている。なお、鍵10や質量体20は、該支持体に対して揺動(回動)自在に設けられているが、その支持構造としては、鍵10や質量体20が支持体に対して直接揺動自在に支持されているもののみならず、間接部材(例えば支点部材)を介して間接的に支持される構造であってもよい。
【0031】
鍵10は、フレーム部材3の上壁3aの後端部から上方に突出する鍵支持片4に支持されている。鍵10は、その長手方向の後端部が鍵支持片4の上端に設けた鍵支点5に軸支されており、前端部が上下方向に移動するようになっている。鍵10の前端部近傍の下面には、下方に突出する駆動片11が形成されている。駆動片11は、鍵10の移動に伴って、後述する質量体20の被駆動部31を駆動(押圧)して質量体20を移動させ、質量体20による反力を鍵10に伝える伝達部として機能する。なお、該伝達部には、駆動片11と後述する被駆動部31、及びこれらの間に軸支された軸部trも含まれる。
【0032】
質量体20は、フレーム部材3の上壁3aと両側壁3b,3cと棚板2とによって囲まれた内側に配置され、対応する鍵10の真下位置に配置されている。質量体20は、フレーム部材3の上壁3aの下面から下方に突出する質量体支持片6に軸支された枠部材30と、枠部材30に取り付けられたモータ40とを備えて構成されている。枠部材30は、質量体支持片6の下端に設けた質量体支点7を中心に上下方向に揺動するようになっている。
【0033】
枠部材30は、合成樹脂あるいは金属などで一体形成された長尺形状の部材であり、その長手方向が鍵10の長手方向に沿って延びている。質量体支点7は、枠部材30の長手方向の途中位置に配置されており、枠部材30の前端部には、鍵10の駆動片11で駆動される被駆動部31が設けられている。被駆動部31は、駆動片11の下端に軸部trを介して軸支されており、駆動片11と共に上下に移動するようになっている。
【0034】
枠部材30における質量体支点7の後側には、モータ40を取り付ける取付部37が設けられている。取付部37は、枠部材30に一体形成された上下一対のガイドレール(ガイド部材)38,39を備えている。ガイドレール38,39は、枠部材30の上端と下端とにそれぞれ互いに平行に形成されており、質量体支点7から後側に向かって延びている。両ガイドレール38,39の後端は、枠部材30の後端部34に連結されている。
【0035】
モータ40は、その回転軸40cが本体部40aの下側で下方に延びるように配置されている。モータ40の本体部40aの上部には、突起状の支持部40bが形成されている。支持部40bには、上側のガイドレール38を挿通させるガイド穴41が設けられている。ガイド穴41は、その内周がガイドレール38の外周に摺接しながらガイドレール38に沿って移動可能になっている。
【0036】
モータ40の回転軸40cにはローラ42が取り付けられている。ローラ42は、下側のガイドレール39の側面に当接している。ローラ42は、ガイドレール39に対して摩擦力を有するゴムなどの部材で構成されており、回転軸40cの回転によってガイドレール39上を転動する。これにより、モータ40がガイドレール38,39に沿って枠部材30上を移動するようになっている。
【0037】
一方、フレーム部材3の上壁3aには、鍵スイッチ15aを搭載した鍵スイッチ基板15が取り付けられている。また、鍵10の下面における鍵スイッチ15aに対応する位置には、突起状の押圧部12が形成されている。鍵10が下方に移動すると押圧部12が鍵スイッチ15aを押圧してこれをオンするようになっている。なお、モータ40の配線40dは、鍵スイッチ基板15に接続されている。
【0038】
棚板2の上面の後側には、下ストッパー23が設置されている。下ストッパー23は、図1における時計回り方向に移動する質量体20を当接させて、質量体20の同方向への移動を規制するものである。下ストッパー23は、質量体20の衝突による衝撃を吸収可能なフェルトやゴムなどの柔軟性を有する材料で構成されている。一方、フレーム部材3の上壁の後側の下面には、上ストッパー24が設置されている。上ストッパー24は、図1における反時計回り方向に移動する質量体20を当接させて、質量体20の同方向への移動を規制するものである。上ストッパー24は、質量体20の衝突による衝撃を吸収可能なフェルトやゴムなどの柔軟性を有する材料で構成されている。
【0039】
上記構成の鍵盤装置1における演奏時の鍵10及び質量体20の動作を説明する。まず、質量体20の重心位置は、モータ40の重さによって質量体支点7よりも後側の位置にあるため、質量体20には、質量体支点7を中心に図1における時計回り方向の回転力(モーメント)が生じている。したがって、鍵10が押されていないとき、質量体20は下ストッパー23に当接して静止している。このとき、質量体20の被駆動部31は上昇した位置にあり、被駆動部31に連結された駆動片11を介して鍵10が上方に持ち上げられた状態で静止している。このときの鍵10及び質量体20の位置を非押鍵位置という。
【0040】
非押鍵位置にある鍵10を押し下げると、鍵10が下方に移動する。このとき、駆動片11によって質量体20の被駆動部31が駆動されて下方に移動する。これにより、質量体20が反時計回り方向に移動する。ところが、上記のように質量体20には時計回り方向の回転力が生じているため、この回転力によって、被駆動部31から駆動片11に反力としての荷重が付与される。この荷重は、鍵10を介して演奏者の指に掛かる荷重となる。この演奏者の指に掛かる荷重によって、鍵10のタッチ感(慣性質量感)が生じる。
【0041】
鍵10がさらに押し下げられてゆくと、質量体20が反時計回り方向にさらに移動する。質量体20が上ストッパー24に当接すると、質量体20及び鍵10の移動が停止する。一方、その状態で鍵10を押し下げている力を弱めると、質量体20がモータ40の重さによる回転力で時計回り方向に移動し、鍵10が上方に持ち上げられてゆく。鍵10を押し下げている力を完全に解除すると、質量体20が下ストッパー23に当接することで質量体20及び鍵10の移動が停止して、質量体20及び鍵10が非押鍵位置に復帰する。
【0042】
この鍵盤装置1では、質量体20に取り付けたモータ40を移動させてその位置を変えることで、鍵10のタッチ感を変更することができる。以下、この操作について説明する。モータ40を移動させるには、鍵盤装置1を備える電子楽器の操作パネル(図示せず)などの操作によってモータ40を回転させる。モータ40が回転すると、ローラ42がガイドレール39上を転動することで、モータ40がガイドレール38,39に沿って前後に移動する。これにより、質量体20の重心の位置が変わる。
【0043】
質量体20の重心の位置が変わると、質量体20にかかる回転力の大きさが変化するので、質量体20から鍵10に与えられる反力が変わり、鍵10のタッチ感が変更される。モータ40の移動量を詳細に調節すれば、鍵10のタッチ感を所望のタッチ感に変えることができる。したがって、この鍵盤装置1を備える電子楽器が発生する楽音の音色や演奏者の好みなどに応じて、所望のタッチ感を実現することが可能となる。
【0044】
本実施形態の鍵盤装置1では、質量体20に取り付けたモータ40を駆動して該モータ40を移動させることで、鍵10にかかる反力を調整することができる。したがって、簡単な操作で鍵10のタッチ感を変えることが可能となる。また、この鍵盤装置1では、質量体20に取り付けたモータ40をその駆動力で移動させるので、鍵10のタッチ感の変更を電子楽器のスイッチなどの操作で行うことができる。したがって、特許文献1又は2に記載の鍵盤装置のように、質量体に取り付けた錘などを直接操作しなくてよい。また、不安定な状態で支持されている質量体に工具を係合させる操作なども必要なくなる。したがって、鍵のタッチ感を変更する操作が行い易くなる。
【0045】
また、本実施形態の鍵盤装置1では、質量体20に取り付けたモータ40を質量体20から鍵10に反力を与えるための錘として機能させるように構成している。したがって、モータ40の他に錘として機能させるための部材を質量体20に取り付ける必要がなくなる。これにより、質量体20の部品点数を少なくすることができ、鍵盤装置1の構成を簡単にすることができる。
【0046】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態にかかる鍵盤装置について説明する。なお、第2実施形態の説明及び対応する図面においては、第1実施形態と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項については、第1実施形態と同じである。これらの点は他の実施形態についても同様とする。
【0047】
図2は、本発明の第2実施形態にかかる鍵盤装置1−2が備える質量体20の構成例を示す図で、(a)は、質量体20の概略側面図、(b)は、(a)のA−A断面図、(c)は、後述する摺動子43を示す斜視図である。本実施形態の鍵盤装置1−2にかかる質量体20は、モータ40に取り付けた摺動子(導電摺動体)43と、枠部材30に取り付けた摺動子43を摺動させる摺動パターン(導電被摺動体)33とを備えている。また、本実施形態の質量体20が備える枠部材30は、金属やカーボンなどの導電材料で構成されている。
【0048】
摺動パターン33は、上側のガイドレール38の側面に取り付けられている。摺動パターン33は、例えば、カーボン、銀、金などの導電性金属材料で構成された薄板(薄箔)状の部材からなる。摺動パターン33は、ガイドレール38の側面に導電性金属を含むペースト状材料を塗布して形成したものでもよい。あるいは、枠部材30が導電性金属からなる場合は、ガイドレール38の表面を摺動パターン33として用いるように構成することも可能である。摺動パターン33は、ガイドレール38に沿ってモータ40の移動範囲に形成されている。図2(b)に示すように、摺動パターン33は、ガイドレール38との間に絶縁部材32を介在させてガイドレール38に取り付けられている。これにより、ガイドレール38と摺動パターン33とは絶縁されている。
【0049】
一方、摺動子43は、モータ40の支持部40bに設置されている。図2(b)に示すように、支持部40bに設けたガイド穴41の内部には、ガイドレール38が挿通されており、ガイド穴41内におけるガイドレール38の側面に対向する位置に摺動子43が取り付けられている。摺動子43は、弾性を有する金属などからなる薄板状の部材であり、図2(c)に示すように、本体部43aから切り抜いた細片(接点部)43bを本体部43aの面から突出させるように起こしている。摺動子43は、細片43bを摺動パターン33に向けて突出させた状態で、ガイド穴41内に取り付けられている。これにより、細片43bが摺動パターン33に当接している。したがって、モータ40がガイドレール38に沿って移動する際に摺動子43が摺動パターン33に摺接する。なお、摺動子43は、モータ40の正負いずれかの電極に接続されている。
【0050】
本実施形態の質量体20では、モータ40の回転軸40cに取り付けたローラ44は、導電性ゴムなどの導電材料で構成されている。このローラ44が下側のガイドレール39に当接していることで、モータ40と枠部材30とが導通している。ローラ44は、回転軸40cを介してモータ40の正負いずれかの電極(摺動子43とは異なる電極)に接続されている。
【0051】
ガイドレール38に設けた摺動パターン33は、配線33aを介して質量体20の外部に導出されている。また、枠部材30は、適宜の位置に取り付けられた配線30aを介してその接点が質量体20の外部に導出されている。質量体20の外部に導出された摺動パターン33と枠部材30の接点とは、鍵スイッチ基板15(図1参照)などに接続されている。
【0052】
本実施形態の鍵盤装置1−2では、モータ40に取り付けた摺動子43と枠部材30に取り付けた摺動パターン33とを備え、摺動子43を摺動パターン33に摺動させるように構成したことで、質量体20内でモータ40に接続される配線を省略している。このようにモータ40の移動の妨げになる配線を省略したことで、モータ40の滑らかな移動が可能となり、質量体20の重心位置の変更がスムーズに行えるようになる。
【0053】
また、この鍵盤装置1−2では、モータ40がガイドレール38に沿って移動する際に摺動子43が摺動パターン33に摺動するので、モータ40がその移動範囲内の任意の位置にある状態でモータ40に電気を供給することが可能となる。したがって、モータ40をガイドレール38,39に沿って確実に移動させることができるようになる。
【0054】
〔第3実施形態〕
図3は、本発明の第3実施形態にかかる鍵盤装置1−3が備える質量体20の構成例を示す図で、(a)は、質量体20の概略側面図であり、(b)は、質量体20が備えるガイドレール38の上面38aを示す概略図(概略平面図)である。本実施形態の鍵盤装置1−3では、モータ40をハウジング45に収納している。モータ40は、ハウジング45に収納された状態で、ハウジング45を介してガイドレール38に取り付けられている。
【0055】
摺動パターン33は、ガイドレール38の上面38aの長手方向に沿って所定間隔で平行に2本形成されている。本実施形態の鍵盤装置1−3では、枠部材30は導電材料で構成されたものには限らず、合成樹脂などの絶縁材料で構成されていてもよい。枠部材30が絶縁材料で構成されている場合は、摺動パターン33とガイドレール38との間に介在させる絶縁材は不要となる。
【0056】
モータ40は、ハウジング45の下部に収納されており、ハウジング45の上部には、ガイドレール38を挿通させる挿通部46が形成されている。摺動子43は、挿通部46内の上面に取り付けた弾性金属材料などからなる細片状の部材である。摺動子43は、一端が挿通部46の上面に固定され、他端が、挿通部46内に突出している。そして、挿通部46内の摺動子43の下側にガイドレール38が配置されている。摺動子43は、両摺動パターン33,33に対応して1個ずつ設置されている。これにより、両摺動子43,43がガイドレール38の両摺動パターン33,33に弾接した状態になっている。なお、両摺動子43,43は、配線47を介してモータ40の正極と負極とにそれぞれ接続されている。
【0057】
また、本実施形態の鍵盤装置1−3では、第1実施形態の鍵盤装置1においてモータ40の回転軸40cに取り付けていたローラ42に代えて、モータ40の回転軸40cに歯車(ピニオン)48を取り付けている。そして、下側のガイドレール39の側面には、歯車48に噛み合うラック49が形成されている。歯車48は、モータ40の回転により回転してラック49上を転動する。これにより、モータ40がガイドレール38,39に沿って移動するようになっている。
【0058】
本実施形態の鍵盤装置1−3では、摺動子43がその弾性力によって摺動パターン33に弾性的に接触(押し当てられた状態で接触)している。これにより、ガイドレール38とハウジング45との間に生じるガタつきを防止でき、ガイドレール38に沿って移動するハウジング45及びモータ40の移動がスムーズになる。また、モータ40が移動する際に摺動子43が摺動パターン33に確実に摺接するようになる。したがって、摺動子43と摺動パターン33との接触部における電気的ノイズの発生を効果的に防止できるので、モータ40への電力の供給が安定し、モータ40を正確な移動量で移動させることができる。
【0059】
また、本実施形態の鍵盤装置1−3では、モータ40を収納するハウジング45を設けたことによって、モータ40とハウジング45とを合わせた重さによって質量体20に回転力が生じるようになる。したがって、ハウジング45の重さを調節することで、鍵10に与えられる反力の大きさやその変化の幅(レンジ)を調節でき、鍵10のタッチ感を所望のタッチ感に調整することが可能となる。
【0060】
また、本実施形態の鍵盤装置1−3では、モータ40の回転軸40cに取り付けた歯車48と、ガイドレール39の側面に形成したラック49とを備え、歯車48とラック49の噛み合いによりモータ40を移動させるように構成している。これにより、モータ40とガイドレール39との間に滑りが生じることを防止でき、モータ40を確実に移動させることができる。また、歯車48とラック49の噛み合いでモータ40を移動させるので、モータ40の回転の位相をモータ40の移動量として正確に伝達することができる。したがって、質量体20の重心位置を正確に変更することができ、鍵10のタッチ感を設定通りに正確に変えることが可能となる。
【0061】
〔第4実施形態〕
図4は、本発明の第4実施形態にかかる鍵盤装置1−4が備える質量体20におけるガイドレール38の上面38aを示す部分拡大図である。本実施形態の鍵盤装置1−4は、第3実施形態の鍵盤装置1−3の構成に加えて、枠部材30上を移動するモータ40の位置を検出する位置検出手段50を備えている。
【0062】
図4に示す位置検出手段50は、ガイドレール38の上面38aに取り付けた抵抗体パターン51と、モータ40のハウジング45に取り付けた摺動子(電極部材)52とを備えて構成されている。抵抗体パターン51は、ガイドレール38の上面38aにおける摺動パターン33に隣接する位置に摺動パターン33と平行に設けられている。抵抗体パターン51は、例えば、カーボン、白金、ニッケル、銅などで構成された所定の電気抵抗を有する薄板(薄箔)状の部材からなる。抵抗体パターン51は、ガイドレール38の上面38aにカーボン、白金、ニッケル、銅などを含むペースト状材料を塗布して形成したものでもよい。摺動子52は、第1実施形態の摺動子43と同様の構成である。この位置検出手段50では、抵抗体パターン51と摺動子52との間に位置検出用の電流を流しながらモータ40を移動させる。抵抗体パターン51上を摺動子52が摺動すると、抵抗体パターン51上の摺動子52の接点の位置が順に変化する。これにより、抵抗体パターン51と摺動子52との間に流れる電流が変化する。この電流値を測定することでモータ40の位置を検出することができる。
【0063】
図5は、本実施形態の他の鍵盤装置1−4’が備える質量体20の構成例を示す図で、(a)は質量体20が備えるモータ40及びハウジング45を示す部分拡大図、(b)は、質量体20が備えるガイドレール38の下面38bを示す部分拡大図である。同図に示す位置検出手段50は、ガイドレール38の下面38bに取り付けたデータ形成部53と、モータ40に取り付けたエンコーダ54とを備えて構成されている。データ形成部53は、デジタル情報のデータパターンなどが形成(表示)された薄板(薄箔)状の部材である。一方、エンコーダ54は、モータ40の上端部に取り付けられており、その読取部54aがデータ形成部53に対向して配置されている。エンコーダ54は、読取部54aがデータ形成部53に接触してその上を摺動する接触型のものでもよいし、読取部54aがデータ形成部53に対して間隔を有して対向する非接触型のものでもよい。
【0064】
データ形成部53には、エンコーダ54で読取可能なデータとして、例えば、モータ40の移動方向に沿って交互にlow/highのデジタル値を配列したデータパターンを形成することができる。この位置検出手段50では、モータ40が移動する際にデータ形成部53のデータパターンがエンコーダ54で読み取られ、これによりモータ40の移動量が検出されるようになっている。
【0065】
本実施形態の鍵盤装置1−4(1−4’)によれば、位置検出手段50によって移動するモータ40の位置を検出することができるので、枠部材30上を移動するモータ40を目標位置に正確に停止させることが可能となる。これにより、質量体20の重心位置を設定通りに変えて、鍵10のタッチ感を正確に変更することができるようになる。
【0066】
〔第5実施形態〕
図6は、本発明の第5実施形態にかかる鍵盤装置1−5が備える鍵10及びその周辺の構成部品を示す概略側面図である。本実施形態の鍵盤装置1−5では、質量体20にモータ60と錘部材70とを搭載し、モータ60によって錘部材70を移動させるように構成している。モータ60は、枠部材30における質量体支点7の直後の位置に取り付けられている。モータ60は、その回転軸60cが本体部60aの下側で下方に延びて配置されている。一方、枠部材30の後端部34には、プーリ61が取り付けられている。プーリ61は、軸方向が上下方向に延びる回転軸61aに回転自在に取り付けられている。モータ60の回転軸60cとプーリ61との間には、ベルト62が掛けられている。
【0067】
一方、枠部材30におけるモータ60とプーリ61との間の部分には、ガイドレール35が設けられている。ガイドレール35は、枠部材30に一体形成されており、モータ60及びプーリ61の下側で直線状に延びている。ガイドレール35には、錘部材70が取り付けられている。錘部材70は、金属材料などで構成された所定の質量を有する塊状の部材で、その重さにより質量体20に質量体支点7回りの回転力を付える部材である。錘部材70には、ガイドレール35を挿通させるガイド穴71が形成されている。錘部材70は、ガイド穴71の内周がガイドレール35の外周に摺接しながらガイドレール35に沿って移動するようになっている。
【0068】
錘部材70は、モータ60の回転軸60cとプーリ61との間のベルト62に固着されている。したがって、錘部材70は、モータ60の回転により送られるベルト62を介してガイドレール35に沿って前後に移動するようになっている。
【0069】
モータ60には、配線63が接続されている。配線63は、枠部材30を貫通して枠部材30に設けた引出部36から質量体20の外部に引き出されている。引出部36は、枠部材30における質量体支点7の近傍位置、詳細には、枠部材30における質量体支点7の直前の下面に配置されている。引出部36を設ける位置は、図6に示す位置には限定されず、質量体支点7の近傍であれば、上記以外の位置に設けることも可能である。なお、ここでいう近傍位置の具体例をとしては、質量体支点7から枠部材30における最も遠い端部(本実施形態では枠部材30の後端部)までの距離をLとすると、近傍位置とは質量体支点7から0.3L以内の距離にある部分を指し、さらに望ましくは、0.1L以内の距離にある部分を指すものとする。
【0070】
本実施形態の鍵盤装置1−5によれば、引出部36が質量体支点7の近傍位置に配置されているため、質量体20が揺動する際の引出部36の位置の変化が少なくて済む。これにより、質量体20の揺動による配線63の移動量を最小限に抑えることができる。したがって、演奏時の押鍵によって質量体20が繰り返し揺動しても配線63にかかる負担が少なくて済むので、配線63が断線するなどの不具合が生じ難くなり、耐久性に優れた鍵盤装置となる。
【0071】
また、質量体20の揺動による配線63の移動量が最小限に抑えられることで、質量体20の揺動がスムーズになる。したがって、鍵10の操作感覚に質量体20の本来の揺動に基づく感覚以外の感覚が加わらずに済み、演奏時の鍵10の操作感覚が良好になる。
【0072】
〔第6実施形態〕
図7は、本発明の第6実施形態にかかる鍵盤装置1−6が備える質量体20の構成例を示す図で、(a)は、質量体20の概略側面図、(b)は、質量体20における質量体支点7の近傍部分を正面側から見た概略図である。本実施形態の鍵盤装置1−6では、第5実施形態の鍵盤装置1−5において質量体20から外部に引き出されていた配線63に代えて、質量体20に取り付けた摺動パターン(導電摺動体)81と、棚板(固定部)2及びフレーム部材(固定部)3に取り付けた摺動パターン81に対して摺動する摺動子(導電被摺動体)82とを備えている。
【0073】
摺動パターン81は、枠部材30における質量体支点7の近傍の下面21と側面22とに取り付けられている。図7(a)に示すように、枠部材30の下面21は、質量体支点7を中心とする円弧形状の面として形成されている。下面21に設けた摺動パターン81aは、その長手方向が下面21の円弧方向に延びる長尺形状に形成されている。摺動パターン81aは、その長手方向に対する両側方向において所定間隔で複数本(図では3本)並べて形成されている。
【0074】
質量体支点7の近傍の側面22に設けた摺動パターン81bは、図7(a)に示すように、質量体支点7を中心とする円弧形状に形成されている。摺動パターン81bは、質量体支点7を中心に同心状に複数個(図では2個)が形成されている。摺動パターン81bは、図7(b)に示すように、枠部材30の両側の側面22,22にそれぞれ形成されている。摺動パターン81a,81bは、枠部材30上で配線64を介してモータ60と接続されている。なお、本実施形態の質量体20に第4実施形態の鍵盤装置1−4が備える位置検出手段50を設ける場合には、いずれかの摺動パターン81a又は摺動パターン81bを位置検出手段50に接続してもよい。
【0075】
下面21の摺動パターン81aに接触する摺動子82aは、棚板2の上面に取り付けられている。摺動子82aは、弾性を有する金属材料などで細片状に形成された部材である。摺動子82aは、下端が質量体支点7の真下近傍で棚板2に固定され、そこから上方に延びており、上端が枠部材30の下面21の摺動パターン81aに弾接している。
【0076】
また、枠部材30の側面22の摺動パターン81bに接触する摺動子82bは、詳細な図示は省略するが、一端がフレーム部材3などに固定されており、他端が摺動パターン81bに弾接している。なお、図6では、摺動パターン81aに接触する摺動子82aと、摺動パターン81bに接触する摺動子82bとをそれぞれ1個のみ図示しているが、他の摺動パターン81a又は摺動パターン81bに接触する摺動子82a又は摺動子82bも、図示したものと同様に設置されている。
【0077】
本実施形態の鍵盤装置1−6では、質量体20に取り付けた摺動パターン81a,81bと、棚板2に取り付けた摺動子82a,82bとを備え、質量体20の揺動に伴い摺動子82a,82bが摺動パターン81a,81b上を摺動するように構成したので、質量体20と外部との間を接続する配線を省略することができる。したがって、配線を介して揺動する質量体20に余計な力が作用するおそれがなくなり、質量体20の揺動がスムーズになる。よって、鍵10の操作感覚に質量体20の本来の揺動に基づく感覚以外の感覚が加わらずに済み、演奏時の鍵10の操作感覚が良好になる。
【0078】
また、本実施形態の鍵盤装置1−6では、枠部材30の下面21は、質量体支点7を中心とする円弧状の面になっており、枠部材30の側面22に設けた摺動パターン81bは、質量体支点7を中心とする円弧状に形成されている。したがって、押鍵により質量体20が質量体支点7を中心に揺動すると、質量体20に設けた摺動パターン81a,81bは、それらの長手方向が質量体支点7を中心とする円弧に沿って移動する。そうすると、質量体20が揺動する際に摺動パターン81a,81b上の摺動子82a,82bが接触する部分が通過して描かれる軌跡は、質量体支点7を中心とする円弧形状になる。このため、摺動パターン81a,81bと摺動子82a,82bとを上記円弧上の一定の位置(棚板2及びフレーム部材3に対する一定の位置)で接触させることが可能となる。
【0079】
これにより、質量体20がその揺動範囲内の任意の位置にある状態で、棚板2又はフレーム部材3に固定された摺動子82を質量体20に取り付けた摺動パターン81に接触させることが可能となる。これにより、質量体20と外部との間で接続される配線を設けなくても、質量体20がその揺動範囲内の任意の位置にある状態で、モータ60を外部との間で電気的に接続することが可能となる。
【0080】
図8は、本実施形態の鍵盤装置1−6の他の構成例を示す図で、質量体20における質量体支点7の近傍の部分拡大図である。この構成例では、図7に示す構成例に対して、摺動パターン81と摺動子82の配置を入れ換えており、質量体20に導電摺動体としての摺動子82を取り付け、棚板2に導電被摺動体としての摺動パターン81を取り付けている。摺動子82は、枠部材30における質量体支点7の近傍の下面21に設けた窪み21aに配置されており、枠部材30の回動により質量体支点7を中心とする円弧面に沿って移動するようになっている。一方、摺動パターン81は、棚板2上に設置された支持部材8の上面8aに取り付けられている。支持部材8の上面8aは、下側に窪む円弧面状に形成されており、該上面8aが枠部材30の下面21に対して所定間隔で対向して配置されている。これにより、枠部材30の回動に伴って摺動子82の接点が摺動パターン81に対して摺接するようになっている。
【0081】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載のない何れの形状・構造・材質であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。
【0082】
上記各実施形態に示す鍵盤装置1〜1−6の構成は、適宜に組み合わせることが可能である。例えば、第5実施形態の鍵盤装置1−5あるいは第6実施形態の鍵盤装置1−6では、モータ60で錘部材70を移動させて質量体20の重心の位置を変えるように構成しているが、第5実施形態の鍵盤装置1−5あるいは第6実施形態の鍵盤装置1−6でも、第1乃至第4実施形態の鍵盤装置1〜1−4と同様に、モータ40が枠部材30上を移動することで質量体20の重心の位置が変化するように構成することも可能である。
なお、上記各実施例では、本発明を手鍵盤に適用した例について説明したが、これに限らず、ペダル鍵盤においても適用することができるのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる鍵盤装置が備える鍵及びその周辺の構成部品を示す概略側断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態にかかる鍵盤装置が備える質量体を示す図で、(a)は、概略側面図、(b)は、(a)のA−A断面図、(c)は、質量体が備える摺動子を示す斜視図である。
【図3】本発明の第3実施形態にかかる鍵盤装置が備える質量体を示す図で、(a)は、概略側面図、(b)は、質量体が備えるガイドレールの概略平面図である。
【図4】本発明の第4実施形態にかかる鍵盤装置が備える質量体を示す図で、質量体が備えるガイドレールの概略平面図である。
【図5】本発明の第4実施形態にかかる鍵盤装置が備える他の質量体を示す図で、(a)は、質量体が備えるモータの概略拡大図、(b)は、質量体が備えるガイドレールの概略下面図である。
【図6】本発明の第5実施形態にかかる鍵盤装置が備える鍵及びその周辺の構成部品を示す概略側断面図である。
【図7】本発明の第6実施形態にかかる鍵盤装置が備える質量体を示す図で、(a)は、概略側面図、(b)は、枠部材における質量体支点の近傍を手前側から見た概略図である。
【図8】本発明の第6実施形態にかかる鍵盤装置が備える質量体の他の構成例を示す図で、質量体における質量体支点の近傍の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0084】
1 鍵盤装置
2 棚板
3 フレーム部材
5 鍵支点
7 質量体支点
10 鍵
11 駆動片(伝達部)
20 質量体
30 枠部材
30a 配線
33 摺動パターン(導電被摺動体)
35 ガイドレール
36 引出部
38 ガイドレール(上側)
39 ガイドレール(下側)
40 モータ
41 ガイド穴
42 ローラ
43 摺動子(導電摺動体)
44 ローラ
45 ハウジング
46 挿通部
47 配線
48 歯車(ピニオン)
49 ラック
50 位置検出手段
60 モータ
70 錘部材
71 ガイド穴
81 摺動パターン(導電被摺動体)
82 摺動子(導電摺動体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵と、質量体と、前記質量体による反力を前記鍵に伝える伝達部と、を具備し、
前記質量体は、
支点を介して揺動可能に設けられたガイド部材と、
前記ガイド部材に沿って前記支点からの距離を調整可能に設けられ、その駆動力により前記ガイド部材に沿って移動するモータと、を備えて構成され、
前記モータを前記ガイド部材に沿って移動させることで、前記モータの前記支点からの距離を調整し、前記質量体による前記反力を調整することを特徴とする鍵盤装置。
【請求項2】
前記モータに設けられた導電摺動体と、
前記ガイド部材に設けられ、該ガイド部材に沿って移動する前記モータの前記導電摺動体を摺動させる導電被摺動体と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤装置。
【請求項3】
前記モータに取り付けられた該モータの回転により回転する歯車と、
前記ガイド部材の長手方向に沿って形成され、前記歯車に噛み合い該歯車を転動させて前記モータを前記ガイド部材に沿って移動させるラックと、を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の鍵盤装置。
【請求項4】
前記ガイド部材と前記モータとの間に設置された前記ガイド部材に沿って移動する前記モータの位置を検出する位置検出手段を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項5】
前記モータまたは前記位置検出手段に接続された配線を有すると共に、
前記配線は、前記質量体に設けた引出部から前記質量体の外部に引き出されており、
前記引出部は、前記質量体における前記支点の近傍位置に配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項6】
前記質量体に設けられ、前記モータまたは前記位置検出手段に接続されている導電摺動体と、
前記質量体に対して静止している固定部に設けられ、前記質量体の揺動に伴い前記導電摺動体が摺動する導電被摺動体と、を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項7】
前記質量体が揺動する際に前記導電摺動体と前記導電被摺動体とが接触する部分によって描かれる軌跡が、前記支点を中心とする円弧状になることを特徴とする請求項6に記載の鍵盤装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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