説明

鎖内塩基対を形成するような配列の設計による、組換えウイルスベクターからの一本鎖の異種ヌクレオチド配列の発現の増大

【課題】組換えウイルスベクターおよびこのようなベクターを含む組換えウイルスによる、異種配列の発現の改善のための組成物および方法を提供すること。
【解決手段】異種配列の亢進された発現を可能とする組換えウイルスベクター、特に、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターのようなパルボウイルス、ならびにそれらの構築および使用のための方法を提供する。ベクターは、異種配列における少なくとも1つの領域の鎖内塩基対形成に関する構造を有すか、または、急速にこのような構造をとることが可能である。また、本発明は、鎖内塩基対を形成する領域を含む一本鎖異種ヌクレオチド配列を含み、その結果、ベクター中での目的の配列の発現が、発現を増強するに十分な鎖内塩基対形成を欠くベクターと比較して増強される、組換えウイルスベクターを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
適用なし。
【0002】
(連邦政府によって支援された研究のもとで行われた発明に対する権利に関する陳述)
適用なし。
【0003】
(技術分野)
本発明は、遺伝子療法およびゲノム学的スクリーニングにおいて使用する、遺伝子送達のためのウイルス構築物、特に、組換えウイルスベクター(例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター)の分野にある。
【背景技術】
【0004】
(背景)
パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV))に基づいた組換えベクターは、遺伝子療法についての有望性を示す。しかし、種々の細胞型において効率的で十分なレベルの導入遺伝子の発現を得ることは、問題を呈している。いくつかの細胞型は、導入遺伝子の転写または翻訳の開始が、たとえ一旦始まったとしても、非効率的であり、従って発現が非常に遅く開始するという意味で、非許容的である。なお多くの状況において、十分に迅速な発現を達成することが所望され得る。
【0005】
パルボウイルスは、キャプシドに包まれた小さな一本鎖DNAウイルスであり、そのDNAゲノムは、逆方向末端反復(ITR)配列に隣接されている。パルボウイルスのDNAゲノムは、複製(Rep)およびキャプシド形成(Cap)に必要とされるタンパク質をコードする。アデノ随伴ウイルス(AAV)は、「ヘルパー機能」と呼ばれる特定の機能が与えられている細胞においてのみ複製する、欠損性パルボウイルスである。通常、これらの機能は、ヘルパーウイルス感染によって与えられる。AAVを含むパルボウイルスに関する概論は、例えば、以下において見出され得る:Carter(1989)Handbook of Parvoviruses;Berns(1995)Virology,第2巻,Raven Press,New York 2173−2197頁;Carterら(1983)「The Parvoviruses」(K.I.Berns編)Plenum Press,New York;Berns。
【0006】
ネイティブなAAVゲノムは、約4,675ヌクレオチドの線状一本鎖DNA分子である。Srivastavaら(1983)J.Virol.45:555−564。ネイティブなAAVゲノムは、145ヌクレオチドの逆方向末端反復(ITR)配列によって隣接された、Repタンパク質およびCapタンパク質をコードする配列(それぞれ、rep遺伝子およびcap遺伝子)を含む。Hermonatら(1984)J.Virol.51:329−339;およびTratschinら(1984)J.Virol.51:611−619。AAVのライフサイクルを以下に示す。他のパルボウイルスのライフサイクルは、他のパルボウイルスが複製のためにヘルパー機能を必要としないということを除いて、類似している(それらが、S期に入るために宿主細胞を必要とし得る程度を除く)。
【0007】
(AAVライフサイクル)
概要で、第2のヘルパーウイルスに感染した細胞における(すなわち、ヘルパー機能が存在する細胞における)生産的AAV感染サイクルを、以下に続ける(図1を参照のこと)。宿主細胞へのAAVの吸着に次いで、「形質導入」として当該分野で一般的に公知のプロセスにおいて、一本鎖ウイルスゲノムが挿入される。複製に関連した特定の宿主細胞機能(例えば、DNAポリメラーゼ)の存在下では、移入した一本鎖ウイルスゲノムは、二本鎖複製形態へと変換される。図2を参照のこと。この一本鎖から二本鎖への(SS→DS)変換の開始は、AAV ITR内の配列によるヘアピン構造の形成(これは、DNA複製の開始を進行し得るテンプレート−プライマー構造を生成する)を伴うと考えられる。このSS→DS変換の産物である複製形態(RF)は、一端(複製を開始した末端)で共有結合的に閉じられた、自己相補性二本鎖分子である。図3を参照のこと。従って、RFは、移入したAAVゲノムと同じ配列複雑性を有するが、約2倍の分子量を有する二本鎖分子である(すなわち、約4.7キロベースのネイティブなゲノムについて、RFは、4.7キロベース対に対応する分子量を有する)。複製を開始するための末端ヘアピンの形成は迅速に生じると考えられるが、二本鎖RFを形成するためのこのヘアピンの伸長は、AAV複製における律速工程の一つであると仮定されている。このRF生成プロセスは、ヘルパー機能の不在下で生じ得るが、ヘルパー機能によって増強されると考えられる。Carter,B.ら(1990)第I巻,169−226および255−282頁を参照のこと。AAV子孫を生成し得る細胞は、一般的に、「許容的(permissive)」細胞と当業者にみなされており、そしてこの二本鎖テンプレートへの変換プロセスはまた、「代謝活性化(metabolic activation)」として公知である。
【0008】
その形成に引き続き、RFは、AAV rep遺伝子産物および特定のヘルパー機能(以下を参照のこと)によって促進されるプロセスにおいて、子孫RFを生成するために複製する。さらに、RFは、子孫AAVゲノムの形成のためのテンプレートとして供され、この子孫AAVゲノムは、ウイルス粒子中にパッケージングされる。これらのゲノムは、約4.7kbの一本鎖DNA分子であり、そして二本鎖RF分子において見出されるような両極性を示す。
【0009】
子孫AAVゲノムの合成に必要とされることに加えて、RFの形成は、ウイルスタンパク質の転写(または、組み換えAAVの場合、異種配列(例えば、導入遺伝子)の転写)が生じるために必要とされる。なぜなら、細胞性RNA重合化系は、二本鎖のテンプレートを必要とするからである。AAVのrep遺伝子およびcap遺伝子の転写により、Repタンパク質およびCapタンパク質の産生が生じる。ウイルスRepタンパク質は、RFの増幅、子孫ウイルスゲノムの生成を促進し、そしてまた、ウイルス転写調節において役割を果たし得る。ウイルスCapタンパク質は、ウイルスキャプシドの構造タンパク質である。両極性の一本鎖子孫ウイルスゲノムは、娘ウイルス粒子中にキャプシド化され、次いで、これは宿主細胞から放出される。
【0010】
上記のような、RFの複製に関与するヘルパー機能は、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、またはポックスウイルスでのAAV感染細胞の同時感染によって与えられ得る。Carter(1990)、前出。あるいは、細胞は、ヘルパー機能を供給する、組み込まれた遺伝子、ウイルスまたは他のものを含み得る。さらに、ヘルパー機能の必要性は時として、例えば、細胞の修復、組換え、および/もしくは複製系を誘導し得るか、またはさもなくば、細胞のDNA代謝に影響し得る化学的または物理的な因子(例えば、ヒドロキシ尿素、紫外線照射、X線照射またはγ線照射)でのAAV感染細胞の処理によって、回避され得る。Yakobsonら(1987)J.Virol.61:972−987;Yakobsonら(1988)J.Virol.63:1023−1030;Bantel−Schaal,U.ら(1988)Virology 164:64−74;Bantel−Schaal,U.ら(1988)Virology 166:113−122;および、Yalkinogluら(1988)Cancer Res.48:3123−3125。RFの複製はヘルパー機能の不在下で、ある程度まで生じ得るが;一般的に、このプロセスは、ヘルパー機能の不在下では緩徐および/または非効率的である。
【0011】
De la MazaおよびCarter(1980)J.Biol.Chem.255:3194−3203は、AAV粒子から得られた改変体AAV DNA分子を記載する。これらの分子のいくつかは、単位長(unit length)よりも短く、そして、これらが自己相補性の領域を保有することを示唆する特性を示す。HauswirthおよびBerns(1979)Virology 93:57−68は、AAV感染細胞から得られた、類似の改変体分子を記載する。図4を参照のこと。これらの分子は、異種配列を含まなかった;結果として、異種配列を発現するこれらの能力を、評価し得なかった。
【0012】
(組換えAAVベクターおよびウイルス)
ネイティブなAAVゲノムを、哺乳動物細胞のような宿主細胞における異種遺伝子の送達および発現のため(例えば、遺伝子療法のため)のベクター系の基礎として使用した。Muzyczka(1992)Curr.Top.Microbiol.Immunol.158:97−129;Carter,B.J.(1992)Curr.Op.Biotechnol.3:535−539;およびFlotteら(1995)Gene Therapy 2:357−362。ネイティブなAAVゲノムに基づいた、組換えAAV(rAAV)ベクターは、一般的に、rep配列および/またはcap配列の欠失、ならびに異種配列による置換によって生成される。従って、rAAVベクターは、一般的に、少なくとも1つのAAV ITR、そして代表的には、2つ(各末端に1つずつ)のAAV ITRによって隣接された、異種遺伝子配列(1または複数)を含む、一本鎖DNA分子を含む。異種配列の発現の調節に関与するさらなる配列(例えば、プロモーター、スプライス部位、イントロン、mRNAの輸送および安定性に関与する配列、ポリアデニル化シグナル、ならびにリボソーム結合部位)もまた、rAAVベクター中に含まれ得る。
【0013】
rAAVベクターは、AAVウイルス粒子中にキャプシド化されて、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を形成し得る。一般的に、AAVウイルス粒子中への効率的で生産的なパッケージングは、ほぼAAVゲノムサイズ(すなわち、約4.7kb)または、より小さなサイズを有するベクターに制限される;しかし、約5,200ヌクレオチドまでの長さを有する配列は、AAVウイルス粒子中にパッケージングされ得る。
【0014】
パッケージング効率に対するゲノム長の影響に関する1つの研究では、2kbと6kbとの間のサイズを有するrAAVゲノムが比較された。Dongら(1996)Hum.Gene Therapy 7:2101−2112。約2kbと約6kbとの間のサイズを有するベクターは、類似した効率でウイルス粒子中にパッケージングされたが、5.2kbよりも大きな長さを有するベクター分子を含むウイルスは、感染性ではないことが観察された。さらに、ベクターが、ネイティブなAAVゲノムのサイズの半分よりも小さい場合、2つのベクター分子が単一のウイルス粒子中にパッケージングされ得るという考えに合致した証拠が、前述の研究において観察された。このような短いベクターが、ビリオン内部で二本鎖分子を形成する能力に関するさらなる推測が提示された。クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)導入遺伝子の発現レベルは、ベクターDNAの一本鎖を含むゲノムサイズのベクターおよび短いベクターについて等価であり、これらは、二本鎖のベクターゲノムを含むと考えられ、そして感染細胞において、高レベルのベクターDNAを産生した。これらの結果により、ベクターサイズの減少も、潜在的に二本鎖のベクターDNAの存在も、発現レベルに対して有意な影響を有さないことが示された。
【0015】
rAAVベクター、およびrAAVベクターを含むrAAVウイルス粒子の両方が、それぞれ、形質転換または形質導入により宿主細胞において種々の異種遺伝子産物を発現させるために使用され得る。このようなベクターによって達成される発現レベルは、ネイティブなAAVの複製および転写に影響するのと同じ因子によって影響される。従って、rAAVによる宿主細胞の感染後、末端ヘアピンの迅速な形成が生じ得るが、RFを形成するためのヘアピンの伸長は、さらに長く緩徐に進行する。Ferrariら(1996)J.Virol.70:3227−3234;およびFisherら(1996)J.Virol.70:520−532。
【0016】
rAAVからの異種配列の効率的な最大レベルの発現を達成しようとする試みは、いくつかの理由のために妨げられた。rAAVベクターによる異種配列の発現は、ヘルパーウイルスに感染されたか、ヘルパー機能を発現するか、または細胞性DNA代謝に影響することによってヘルパー機能を模擬する因子で処理された細胞において最大である。Russellら(l995)J.Virol.68:5719−5723;Ferrariら,前出;およびFisherら,前出。遺伝子療法適用について、宿主細胞をヘルパーウイルスで感染させることは、ヘルパーウイルスの他の特性およびヘルパー機能に関連した安全性の懸念が理由で、望ましくなくあり得る。ヘルパー細胞機能を模擬する因子での細胞の処理もまた、さらなる非特異的影響および/または潜在的毒性が理由で、望ましくなくあり得る。さらに、これらの因子によるヘルパー機能の供給は、野生型AAVでの感染についてのみで有効であり得る。
【0017】
さらに、AAV Repタンパク質機能が、rAAVベクターによってコードされる異種配列の最大発現のために必要とされる。rAAVベクターは、一般的にrep配列を欠失するので、これらは外因的に供給されなければならず、それによって、rAAVベクターを使用するいかなる遺伝子療法適用も複雑にする。他方で、Repタンパク質の外因性供給源の不在下において、rAAVベクターを含むウイルスで細胞を感染させることは、rAAVゲノム増幅の制限を生じ、そして結果として、異種配列の低レベル発現を生じさせる。
【0018】
十分なレベルでのrAAVベクターからの異種配列発現およびこのようなベクターを含むウイルスを得るにおいては困難が存在し得るので、発現効率を増加させる改善が所望され得る。
【0019】
本明細書中で引用されるすべての刊行物および特許の開示が、それらの全体において、本明細書中で参考として援用される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
(発明の要旨)
本発明は、組換えウイルスベクター(例えば、アデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター)およびこのようなベクターを含む組換えウイルスによる、異種(すなわち、非ウイルス性)配列の発現の改善のための組成物および方法を提供する。
【0021】
従って、1つの局面では、本発明は、鎖内(intrastrand)塩基対を形成する領域(1以上の領域)を含む一本鎖異種ヌクレオチド配列を含み、その結果、ベクター中での目的の配列(例えば、異種配列)の発現が、発現を増強するに十分な鎖内塩基対形成を欠くベクターと比較して増強される、組換えウイルスベクターを提供する。いくつかの実施形態では、コード領域内の配列が、鎖内塩基対を形成する。他の実施形態では、コード領域が、鎖内塩基対を形成する。いくつかの実施形態では、この組換えウイルスベクターは、対応するウイルス粒子中にパッケージングされ得る。
【0022】
いくつかの局面では、ウイルスベクターは、パルボウイルスベクターであり、これは、この異種配列に隣接する1以上の逆方向末端反復(ITR)配列を含む。
【0023】
別の局面では、本発明は、一本鎖ポリヌクレオチドを含むrAAVベクターを提供し、これは、5’末端および3’末端で、AAV逆方向末端反復(ITR)によって一端または両端を隣接された異種配列を含み、この異種配列は、鎖内塩基対形成し得る(すなわち、鎖内塩基対を形成する)1以上の領域を含む。好ましい実施形態では、コード領域内の配列が、鎖内塩基対を形成する。好ましい実施形態では、本発明のrAAVベクターは、AAVウイルス粒子中にパッケージングされ得る。
【0024】
いくつかの実施形態では、異種配列は、本質的にその全長に沿って塩基対を形成し、従って、AAV複製形態(RF)と類似する。このような実施形態では、異種配列の配列複雑性は、異種配列の長さの約半分である。いくつかの実施形態では、rAAVのポリヌクレオチドは、さらなる内部ITR(すなわち、非末端ITR)を、好ましくは一本鎖のほぼ中心に含む。
【0025】
本発明の組換えウイルスベクターを含む宿主細胞およびウイルス粒子もまた提供される。別の局面では、本明細書中に記載の組換えウイルスベクターのライブラリーが提供される。
【0026】
別の局面では、本発明は、本明細書中に記載の組換えパルボウイルス(rAAVを含む)ベクターを含む、パルボウイルス粒子(例えば、AAVウイルス粒子)を生成する方法を包含する。これらの方法は、一本鎖パルボウイルスベクター(例えば、rAAV)の使用を包含し、ここでこのベクターの長さは、ネイティブなパルボウイルス(例えば、AAV)ゲノムの長さの約半分であり、そしてここで、このベクターは、異種ヌクレオチド配列、およびこの異種配列に隣接する1以上の逆方向末端反復(ITR)配列を含む。このベクターは、rep機能、cap機能、そして必要な場合には、ヘルパー機能を提供する宿主細胞中に導入され;そして感染した宿主細胞は、ウイルスの複製およびキャプシド形成へと導く条件下でインキュベートされる。本方法に従って生成された組換えウイルスベクター(すなわち、組換えウイルスベクターの集団)、およびこのようなベクターを含むウイルス(すなわち、このようなベクターを含むウイルスの集団)もまた、本発明によって提供される。
【0027】
別の局面では、本発明は、本明細書中に記載のベクターを使用して、宿主細胞中に異種配列(例えば、目的の遺伝子)を導入する方法、および本明細書中に記載のベクターを使用して、宿主細胞(例えば、哺乳動物細胞)中で異種配列(例えば、目的の遺伝子産物)を発現させる方法を包含する。本方法は、目的の配列もしくは遺伝子を含む本発明の組換えウイルスベクター(例えば、組換えパルボウイルス(parovirus)ベクター(例えば、rAAVベクター))、またはこのようなベクターを含む組換えウイルス粒子(例えば、rAAV粒子)を、宿主細胞と、ベクター(これは、外因性ポリヌクレオチドである)の取り込みを許容する条件下で接触させ、それによって、組換えウイルスベクターが宿主細胞中にトランスフェクトする工程を包含する。発現の場合には、異種配列由来のコード領域または配列が、転写および/または翻訳される。
さらに、本発明は、本発明の組換えウイルスベクター(例えば、組換えパルボウイルスベクター(例えば、rAAV))中のコード領域の発現と関連した表現型をスクリーニングまたは同定する方法を提供する。このような方法は、例えば、標的同定および標的確証の技術において有用である。これらの方法は、本明細書中に記載の組換えウイルスベクターを含む細胞(または、細胞集団)を、発現に有利な条件に供する工程、およびこの細胞の表現型を、このような組換えベクターを含まない細胞の表現型に対して比較する工程を伴い、ここで表現型の差異は、組換えウイルスベクターのコード領域の発現に関連した表現型を示す。いくつかの実施形態では、これらの方法は、目的の組換えウイルスベクターを導入する工程を包含する。
本発明はまた、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)1本鎖の異種ヌクレオチド配列を含む組換えウイルスベクターであって、該1本鎖の異種ヌクレオチド配列は、鎖内の塩基対を形成する領域を含み、その結果、該異種配列のコード領域の発現が、該発現を亢進するために十分な鎖内の塩基対形成を欠く組換えウイルスベクターに比較して亢進される、組換えウイルスベクター。
(項目2)鎖内の塩基対を形成する前記領域がコード領域である、項目1に記載の組換えウイルスベクター。
(項目3)項目1に記載の組換えウイルスベクターであって、該組換えウイルスベクターは組換えパルボウイルス属のベクターであり、前記異種配列に隣接する1以上の逆方向末端反復(ITR)配列を含む、組換えウイルスベクター。
(項目4)組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターである、項目3に記載の組換えウイルスベクター。
(項目5)前記rAAVベクターがAAV粒子に包まれ得る、項目4に記載のrAAVベクター。
(項目6)前記異種配列の配列複雑性が該異種配列の約半分である、項目4に記載のrAAVベクター。
(項目7)異種配列によって両側に隣接されるITRをさらに包含する、項目6に記載のrAAVベクター。
(項目8)項目1に記載の組換えウイルスベクターを含む、宿主細胞。
(項目9)項目5に記載のrAAVベクターを含む、宿主細胞。
(項目10)哺乳動物である、項目9に記載の宿主細胞。
(項目11)項目1に記載の組換えウイルスベクターを含む組換えウイルス粒子。
(項目12)項目5に記載のrAAVベクターを含む組換えAAV粒子。
(項目13)項目6に記載のrAAVベクターを含む組換えAAV粒子。
(項目14)項目1に記載の組換えウイルスベクターを含む組成物。
(項目15)項目5に記載のrAAVベクターを含む、組成物。
(項目16)薬学的に受容可能な賦形剤をさらに含む、項目15に記載の組成物。
(項目17)項目1に記載の組換えウイルスベクターの集団を含むライブラリー。
(項目18)項目5に記載のrAAVベクターの集団を含むライブラリー。
(項目19)項目6に記載のrAAVを調製するための方法であって、ここで、該方法は、AAVの複製およびキャプシド形成を可能にする条件下で、宿主細胞をインキュベートする工程を包含し、ここで、該宿主細胞が、以下:
(a)異種ヌクレオチド配列および該異種配列に隣接する1以上のAAV逆方向末端反復(ITR)配列を含むrAAVベクターであって、ここで、該ベクターは約2.5kb未満である、ベクター、ならびに、
(b)AAV rep機能、AAV cap機能、およびAAVのためのヘルパーウイルス機能
を含む、方法。
(項目20)前記宿主細胞ゲノムにおいて安定に統合されたrep機能およびcap機能が、rep−capカセットによって提供される、項目19に記載の方法。
(項目21)rep機能およびcap機能がプラスミドによって提供される、項目19に記載の方法。
(項目22)前記rAAVベクターがプラスミド内で提供される、項目19に記載の方法。
(項目23)前記rAAVベクターが前記宿主細胞ゲノムの中に安定に統合される、項目19に記載の方法。
(項目24)ヘルパー機能がアデノウイルス感染によって提供される、項目19に記載の方法。
(項目25)項目19に記載の方法に従って産生されるrAAV粒子の集団。
(項目26)項目19に記載の方法に従って産生されるrAAVベクターの集団。
(項目27)宿主細胞にポリヌクレオチドを導入する方法であって、該細胞を、項目1に記載の組換えウイルスベクターと、該ベクターの取り込みを可能とする条件下で接触させる工程を包含し、これによって、該ベクターが該細胞に導入される、方法。
(項目28)宿主細胞にポリヌクレオチドを導入する方法であって、該細胞を、項目4に記載のrAAVベクターと、該rAAVベクターの取り込みを可能とする条件下で接触させる工程を包含し、これによって、該rAAVベクターが該細胞に導入される、方法。
(項目29)宿主細胞内にポリヌクレオチドを発現するための方法であって、該宿主細胞は、項目1に記載の組換えウイルスベクターを含み、該方法は、該細胞を、該ウイルスベクターの前記異種配列の前記コード領域の発現を可能にする条件に供する工程を包含し、これによって、該異種配列のコード領域が発現される、方法。
(項目30)宿主細胞内にポリヌクレオチドを発現するための方法であって、該宿主細胞は、項目4に記載のrAAVベクターを含み、該方法は、該細胞を、該rAAVベクターの前記異種配列のコード領域の発現を可能にする条件に供する工程を包含し、これによって、該異種配列のコード領域が発現される、方法。
(項目31)宿主細胞にrAAVベクターを導入する方法であって、該方法は、感染を可能とする条件下で、項目12に記載のrAAVベクターと該細胞を接触させる工程を包含し、これによって、該rAAVベクターが、該細胞に導入される、方法。
(項目32)ライブラリーを構築するための方法であって、以下:(a)宿主細胞の集団を、項目1に記載の組換えウイルスベクターと、該ベクターの該細胞への導入を可能とする条件下で接触させる工程;および(b)組換えウイルスベクターを含む細胞を選択する工程、
を包含する、方法。
(項目33)ライブラリーを構築するための方法であって、以下:(a)宿主細胞の集団を、項目4に記載のrAAVベクターと、該ベクターの該細胞への導入を可能とする条件下で接触させる工程;および(b)rAAVベクターを含む細胞を選択する工程、
を包含する、方法。
(項目34)ライブラリーを構築するための方法であって、以下:(a)宿主細胞の集団を、感染を可能とする条件下で、項目12に記載のrAAV粒子と接触させる工程;および(b)前記rAAVベクターを含む細胞を選択する工程、
を包含する、方法。
(項目35)項目1に記載の組換えウイルスベクターのコード領域の発現と関連する表現型を同定する方法であって、以下;
(a)宿主細胞を、項目1に記載の組換えウイルスベクターと、該ベクターの取り込みを可能とする条件下で接触させる工程;
(b)該ベクターの異種コード領域の発現について、該細胞をアッセイする工程;および
(c)該異種コード領域を発現する該細胞の表現型を、該ベクターを欠く細胞の表現型と比較する工程、
を包含し、ここで、表現型の違いは、該異種配列を発現する該細胞の表現型が、該コード領域の発現と関連する表現型であることを示す、方法。
(項目36)項目4に記載のrAAVベクターのコード領域の発現と関連する表現型を同定する方法であって、以下;
(a)宿主細胞を、項目4に記載のrAAVベクターと、該rAAVベクターの取り込みを可能とする条件下で接触させる工程;
(b)該rAAVベクターの異種コード領域の発現について、該細胞をアッセイする工程;および
(c)該異種コード領域を発現する該細胞の表現型を、該rAAVベクターを欠く細胞の表現型と比較する工程、
を包含し、ここで、表現型の違いは、該異種配列を発現する細胞の表現型が、該コード領域の発現と関連する表現型であることを示す、方法。
(項目37)項目1に記載の組換えウイルスベクターのコード領域の発現と関連する表現型を同定する方法であって、該組換えウイルスベクターを含む宿主細胞を、発現を可能とする条件に供する工程を包含し、ここで、該宿主細胞と該組換えウイルスベクターを含まない宿主細胞との間の表現型の違いは、該コード領域の発現と関連する表現型を示す、方法。
(項目38)項目4に記載のrAAVベクターのコード領域の発現と関連する表現型を同定する方法であって、該rAAVベクターを含む宿主細胞を、発現を可能とする条件に供する工程を包含し、ここで、該宿主細胞と該rAAVベクターを含まない宿主細胞との間の表現型の違いが、該コード領域の発現と関連する表現型を示す、方法。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、AAVライフサイクルの説明図である。
【図2】図2は、移入した一本鎖AAVゲノムの二重鎖複製形態(RF)への変換の説明図である。ネイティブなAAVゲノムの場合、RFの形成は、rep遺伝子およびcap遺伝子の発現を可能にする;rAAVベクターの場合、RFの形成は、導入遺伝子(すなわち、ベクターカセット中に含まれる遺伝子)の発現を可能にする。
【図3】図3は、AAVの複製についてのモデルを示す説明図である。+鎖(図の左側)または−鎖(図の右側)のいずれかが、最初に二重鎖RFへと変換される。複製の第二ラウンドが、頭−頭コンカテマーまたは尾−尾コンカテマーを生成し、ここで「頭」を、任意に、左末端(すなわち、+鎖の5’末端)として規定し、そして「尾」を、任意に、右末端(すなわち、−鎖の5’末端)として規定する。
【図4】図4は、AAV DI(不完全干渉)ゲノムの説明図である。AAVゲノムを、上部の2つの分子において、両方の末端が開放(分解)されているか、または一方の末端がRFにおいてのように閉鎖されているかのいずれかである、その二重鎖形態において示す。下部の2つの分子は、2つの部位δとδ’との間の欠失を導入した結果を例示する。δとδ’との間の領域がAAVゲノムの約50%以上である場合、最も下部に示した分子は、AAVキャプシド中に直接パッケージングされ得る。Carter(1983)「The Parvoviruses」(K.I.Berns編)Plenum Press,New York,209−258頁から改作。
【図5】図5A〜5Eは、半分のサイズのAAV−GFPベクターの構築を例示する。
【図6】図6A〜6Fは、全長サイズのAAV−GFPベクターの構築のための2つのストラテジーを例示する。
【図7】図7A〜Bは、ウイルス粒子由来のベクターDNAのアガロースゲル電気泳動分析のハーフトーン複写物である。マーカーの並行分析によって決定された分子量値を、左側に示す。図7Aは、アルカリ性条件下での電気泳動を示す。レーン1は、プラスミドpAAVGFP(0.5)から単離された半分のサイズのベクターゲノムを含むDNAフラグメントの分析を示す。レーン2は、半分のサイズのベクター粒子から単離されたDNAを示す。レーン3は、プラスミドpAAVGFP(Sal)から単離された全長サイズのベクターゲノムを含むDNAフラグメントの分析を示す。レーン4は、全長サイズのベクター粒子から単離されたDNAを示す。図7Bは、中性条件下での電気泳動を示す。レーン1は、プラスミドpAAVGFP(0.5)から単離された半分のサイズのベクターゲノムを含むDNAフラグメントの分析を示す。レーン2は、ゲルにローディングする前に変性された、プラスミドpAAVGFP(0.5)から単離された半分のサイズのベクターゲノムを含むDNAフラグメントの分析を示す。レーン3は、半分のサイズのベクター粒子から単離されたDNAの分析を示す。レーン4は、ゲルにローディングする前に変性された、半分のサイズのベクター粒子から単離されたDNAを示す。レーン5は、プラスミドpAAVGFP(Sal)から単離された全長サイズのベクターゲノムを含むDNAフラグメントの分析を示す。レーン6は、ゲルにローディングする前に変性された、プラスミドpAAVGFP(Sal)から単離された全長サイズのベクターゲノムを含むDNAフラグメントの分析を示す。レーン7は、全長サイズのベクター粒子から単離されたDNAを示す。レーン8は、ゲルにローディングする前に変性された、全長サイズのベクター粒子から単離されたDNAを示す。
【図8】図8A〜Bは、感染した細胞由来のベクターDNAゲノムのアガロースゲル電気泳動分析のハーフトーン複写物である。図8Aは、中性条件下での電気泳動を示す。レーン1は、プラスミドpAAVGFP(0.5)から単離された半分のサイズのベクターゲノムを含むDNAフラグメントの分析を示す。レーン2は、半分のサイズのベクター粒子から単離されたDNAを示す。レーン3は、半分のサイズのベクターでの感染後6時間目に単離された、アデノウイルス感染HeLa細胞由来のベクターDNAを示す。レーン4は、半分のサイズのベクターでの感染後6時間目に単離されたHeLa細胞由来のベクターDNAを示す。レーン5は、半分のサイズのベクターでの感染後24時間目に単離されたHeLa細胞由来のベクターDNAを示す。レーン6は、半分のサイズのベクターでの感染後48時間目に単離されたHeLa細胞由来のベクターDNAを示す。レーン7は、半分のサイズのベクターでの感染後72時間目に単離されたHeLa細胞由来のベクターDNAを示す。レーン8は、pAAVGFP(Sal)から単離された全長サイズのベクターゲノムを含むDNAフラグメントの分析を示す。レーン9は、全長サイズのベクター粒子から単離されたDNAを示す。レーン10は、全長サイズのベクターでの感染後6時間目に単離された、アデノウイルス感染HeLa細胞由来のベクターDNAを示す。レーン11は、全長サイズのベクターでの感染後6時間目に単離されたHeLa細胞由来のベクターDNAを示す。レーン12は、全長サイズのベクターでの感染後24時間目に単離されたHeLa細胞由来のベクターDNAを示す。レーン13は、全長サイズのベクターでの感染後48時間目に単離されたHeLa細胞由来のベクターDNAを示す。レーン14は、全長サイズのベクターでの感染後72時間目に単離されたHeLa細胞由来のベクターDNAを示す。図8Bは、アルカリ性条件下での電気泳動を示す。レーンの指定は、図8Aと同じである。マーカーの並行分析によって決定された分子量値を、左側に示す。
【図9】図9A〜Bは、CsCl勾配において分画された粒子由来のベクターDNAゲノムのアガロースゲル電気泳動分析のハーフトーン複写物である。図9Aは、中性条件下での電気泳動を示す。図9Bは、アルカリ性条件下での電気泳動を示す。レーンの指定は、図9Aおよび9Bの両方について同じである。レーン1〜5は、半分のサイズのベクター粒子由来のベクターゲノムの分析を示す。レーン1は、1.388g/mlの密度でバンド形成する粒子の分析を示す。レーン2は、1.379g/mlの密度でバンド形成する粒子の分析を示す。レーン3は、1.375g/mlの密度でバンド形成する粒子の分析を示す。レーン4は、1.371g/mlの密度でバンド形成する粒子の分析を示す。レーン5は、1.362g/mlの密度でバンド形成する粒子の分析を示す。レーン6〜10は、全長サイズのベクター粒子由来のベクターゲノムの分析を示す。レーン6は、1.394g/mlの密度でバンド形成する粒子の分析を示す。レーン7は、1.387g/mlの密度でバンド形成する粒子の分析を示す。レーン8は、1.381g/mlの密度でバンド形成する粒子の分析を示す。レーン9は、1.377g/mlの密度でバンド形成する粒子の分析を示す。レーン10は、1.372g/mlの密度でバンド形成する粒子の分析を示す。マーカーの並行分析によって決定された分子量値を、左側に示す。
【図10】図10は、米国特許第5,605,690号からのTNFR:Fc融合ポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(発明を実施するための形態)
本発明者らは、組換えパルボウイルスベクターが鎖内塩基対を形成する能力が、このようなベクターに含まれる異種配列の発現のレベルおよび/または速度の増加に寄与することを発見した。緑色蛍光タンパク質(GFP)の2つのコピーを対向する配向で含み、従って鎖内の塩基の対合に起因して二本鎖分子を形成し得る、rAAVベクターは、GFP遺伝子の鎖内塩基対合を形成し得ない別のベクターと比較して、293細胞およびHeLa細胞における有意により高い発現レベル(レポーター遺伝子を発現する細胞の百分率により示される場合)を示した。HeLa細胞において観察される結果は、特に著しい。なぜなら、これらの細胞は、rAAVベクターの発現の効率が低いことが公知であるからである。鎖内の塩基対合の特性は、異種配列のより効率的な発現を得ることが所望される状況において(例えば、特定の遺伝子治療適用およびゲノムのスクリーニングにおいて)特に有利である。パルボウイルスベクターの効率の悪い発現(発現の時間経過に起因するかそして/または発現のレベルに起因するか)の意味で、許容されないと伝統的に考えられた細胞型は、現在は実用的な、便利な宿主である。
【0030】
理論により束縛されることを望まないが、本発明のrAAVベクターによって増強された発現のレベルおよび/または速度は、これらが二本鎖構造を形成する容易さに起因し得る。ネイティブなAAVゲノムは、ビリオン内で一本鎖DNA分子として存在するので、rAAVベクターにおける異種配列の発現は、二本鎖複製型の形成に依存する。なぜなら、転写は二本鎖テンプレートを必要とするからである。その結果、組換えAAVベクターゲノムの、二本鎖複製型への転換(ベクターの「代謝活性化」としてもまた公知のプロセス)は、異種配列の発現において重要な工程である。入ってくるベクターゲノムが二本鎖形態であるか、または速やかに二本鎖コンホメーションをとり得る形態であるかのいずれかであり、感染サイクルの間により効率的かつ/またはより早く転写テンプレートを提供する場合には、挿入される配列の発現が、他のrAAVベクターと比較して、増強される。換言すれば、代謝的に活性化されたrAAVベクターのゲノムは、ウイルス粒子内または感染した細胞内のいずれかで、0次の速度論で二本鎖になる。従って、代謝的に活性化した本発明のrAAVベクターについては、塩基対合した構造の形成は、目的の異種配列または遺伝子の発現において、重要ではなく、そして/または律速段階ではない。
【0031】
従って、本発明は、異種配列の鎖内の塩基の対合を形成し得るrAAVベクター、ならびにこれらのベクターを含む組成物および宿主細胞を提供する。本発明はまた、例えば、トランスフェクション、形質導入、発現、およびゲノムのスクリーニングのために、これらのベクターを使用する方法を提供する。
【0032】
上記のように、異種配列(例えば、導入遺伝子)の、組換えパルボウイルスベクター(例えば、rAAVベクター)からの発現は、多数の工程に依存する。これらの工程は、宿主細胞に入ること、一本鎖の二本鎖形態への転換、ならびに異種配列の転写および翻訳で開始する。このプロセスは、当該分野において許容性であると表現型によって分類された細胞において、起こる。当業者に一般的に公知であるように、用語形質導入、転写、翻訳、および許容性とは、分子および表現型によって区別可能な事象であり、全て、当業者に公知の方法および本明細書中に記載される方法に従って、導入遺伝子の発現によって実験的に測定され得る(そして種々の刊行物において測定された)。本明細書中に記載される本発明は、異種配列の発現の増加した効率を示し、従って当業者によって、形質導入を改善する、細胞を許容性にする、そして/または転写もしくは翻訳の速度を増加させるといわれ得る、組換えウイルスベクター(例えば、rAAVベクター)に関する。
【0033】
(一般的な技術)
本発明の実施は、他に示さない限り、当該分野の技術範囲内であるような、ウイルス学、生化学、分子生物学、微生物学、遺伝学、組換えDNA、および関連する分野の従来の技術を使用する。これらの技術は、文献に完全に説明されている。例えば、Maniatis,FritschおよびSambrook,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1982);Sambrook,FritschおよびManiatis,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);Ausubelら、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley & Sons(1987および毎年の最新版);ならびに関連する参考文献を参照のこと。
【0034】
(定義)
本明細書中において使用される場合に、単数形「a」、「an」および「the」は、他に示さない限り、複数の言及を含む。例えば、「鎖内の塩基の対合を形成する領域(「a」 region)」を含むポリヌクレオチドとは、1つ以上のこのような領域を含み得る。
【0035】
「組換え」とは、一般的に天然に見出される実体とは異なる遺伝的実体をいう。ポリヌクレオチドまたは遺伝子に適用される場合に、この用語は、このポリヌクレオチドが、クローニング、制限および/または連結の工程、ならびに天然に見出されるポリヌクレオチドとは異なる構築物の生成を生じる他の手順の、種々の組み合わせの生成物であることを意味する。
【0036】
「ベクター」とは、本明細書中において使用される場合に、インビトロまたはインビボでのいずれかで宿主細胞内に送達される、ポリヌクレオチドを含む組換えプラスミドまたはウイルスをいう。送達されるポリヌクレオチドは、時々、「異種配列」、「標的ポリヌクレオチド」、「導入遺伝子」、または「目的の遺伝子」と呼ばれ、遺伝子治療における目的の配列(例えば、治療目的のタンパク質またはRNA転写物(例えば、アンチセンス転写物またはリボザイム)をコードする遺伝子)および/または選択マーカーもしくは検出可能なマーカーを含み得る。
【0037】
「組換えウイルスベクター」とは、1つ以上の異種配列(すなわち、ウイルス起源ではないポリヌクレオチド配列)を含む組換えポリヌクレオチドベクターをいう。組換えパルボウイルスベクターの場合には、組換えポリヌクレオチドには、少なくとも1つ、好ましくは2つの、逆方向末端反復配列(ITR)が隣接する。
【0038】
「組換えAAVベクター(rAAVベクター)」とは、少なくとも1つ、好ましくは2つの、AAV逆方向末端反復配列(ITR)が隣接する1つ以上の異種配列(すなわち、AAV起源ではないポリヌクレオチド配列)を含む、ポリヌクレオチドベクターをいう。このようなrAAVベクターは、適切なヘルパーウイルスにより感染され(または適切なヘルパー機能を発現している)そしてAAV rep遺伝子産物およびAAV cap遺伝子産物(すなわち、AAV Repタンパク質およびAAV Capタンパク質)を発現している宿主細胞中に存在する場合に、複製され得、そしてパッケージされて感染性のウイルス粒子になり得る。rAAVベクターがより大きなポリヌクレオチド(例えば、染色体、またはクローニングもしくはトランスフェクションのために使用されるプラスミドのような別のベクター)に組み込まれる場合には、このrAAVベクターは、「プロベクター」と呼ばれ得、これは、AAVパッケージング機能および適切なヘルパー機能の存在下で、複製およびキャプシド化によって、「レスキュー」され得る。rAAVは、多数の形態(プラスミド、直鎖人工染色体、リップ(lip)と複合体化した形態、リポソーム内にカプセル化された形態、および最も好ましくは、ウイルス粒子(特に、AAV)内にキャプシド化された形態が挙げられるがこれらに限定されない)のいずれでもあり得る。
【0039】
rAAVベクターは、AAVウイルス粒子内にパッケージされて、「組換えアデノ随伴ウイルス」(rAAV)を生成し得る。感染性のウイルス粒子を得るためにパッケージされ得る最大のサイズのベクターは、約5.2kbである。
【0040】
「異種」とは、実体の残りとは遺伝子型が異なる実体由来であることを意味する(この実体は、この実体の残りと比較されるか、またはこの実体の残りに導入されるかもしくは取り込まれる)。例えば、遺伝子操作技術によって異なる細胞型に導入されたポリヌクレオチドは、異種ポリヌクレオチドである(そして発現される場合には、異種ポリペプチドをコードし得る)。同様に、ウイルスベクターに取り込まれる細胞性配列(例えば、遺伝子またはその一部)は、そのベクターに対する異種ヌクレオチド配列である。本発明の目的で、「異種」とは、組換えウイルスベクターの基礎であるウイルスに対する異種を意味する。従って、そして例として、本発明のrAAVベクターは、哺乳動物配列、および従って「異種」配列を、哺乳動物細胞に導入および/または発現するために、使用され得る。
【0041】
ポリヌクレオチドの「領域」とは、一連の連続したヌクレオチドである。領域は、少なくともおおよそ以下のうちのいずれかの、連続したヌクレオチドであり得る:5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、75、85、100、110、120、130、145、150、160、175、200、250、300、350、400、450、500、またはそれより多く。
【0042】
ポリヌクレオチドの「コード領域」(本発明においては、異種配列の「コード領域」)とは、転写産物および/または翻訳産物に対して宿主において生じる、一連の連続したヌクレオチドである。例えば、「コード領域」は、アンチセンス転写物であるリボザイムのような、RNA分子を生じ得る。別の非限定的な例としては、コード領域は、ポリペプチドを生じ得る。「コード領域」が転写産物または翻訳産物の全てまたは一部、ならびに改変体および他の修飾形態を生じ得ることが、理解される。所望の転写産物および/または翻訳産物は、機能を示しても示さなくてもよい(すなわち、宿主細胞中に存在する場合に、検出可能かまたは測定可能な表現型を示しても示さなくてもよい)。このことは、候補配列が機能について試験されるゲノムのスクリーニング適用において、特に考慮されるべきことである。コード領域は、少なくともおおよそ以下のうちのいずれかの、連続したヌクレオチドであり得る:5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、75、85、100、110、120、130、145、150、160、175、200、250、300、350、400、450、500またはそれより多く。
【0043】
「鎖内塩基対を形成する領域(または配列)」(鎖内塩基対を形成するコード領域を含む)とは、同じ鎖における別の領域と配列が相補的である領域(例えば、コード領域)であり、従って、この相補的配列を有する塩基対を形成し得る(すなわち、自己アニーリングする)。塩基の対合の相互作用は、ヌクレオチド塩基の周知かつ当該分野で認められた分子特性に従って進行し、その結果、アデニンは、チミンまたはウラシルと塩基対合し、そしてグアニンは、シトシンと塩基対合する。従って、アデニンは、チミジンおよびウラシルの両方に対して相補的であり、そして逆もまたそうである;同様に、グアニンは、シトシンに対して相補的であり、そして逆もまたそうである。第一のポリヌクレオチド配列がその全長にわたって、第二のポリヌクレオチド配列と相補的である場合には、これら2つの配列は、互いに完全に(perfectly)相補的である、完全に(perfectly)一致する、または完全に(fully)相補的であるといわれる。第一のポリヌクレオチド配列における大部分の塩基が、第二のポリヌクレオチド配列における塩基と相補的であるが、1つ以上の塩基が非相補的である場合には、これら2つのポリヌクレオチド配列は、これらの相補の程度が二重鎖形成を可能にするに十分であるならば、互いに実質的に相補的であるといわれる。本発明の目的で、鎖内塩基対を形成する配列または領域を含む組換えウイルスベクターは、鎖内の塩基の対合の程度を除いてその他の点では類似(または同一)のベクターと比較した場合に、増強された発現を示すことが、理解される。従って、鎖内の塩基の対合の程度は、その配列の100%である必要はなく、少なくともおおよそ以下のうちのいずれかであり得る:25%、40%、50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、88%、90%、92%、95%、98%、99%。いくつかの局面においては、鎖内の塩基の対合は、その鎖の事前のDNA複製なしで転写を可能にするに十分である。一般に、本発明の目的で、鎖内塩基対は、目的のコード領域の発現および/または複製の間に、宿主細胞中に存在する。しかし、鎖内塩基対は、本発明の組換えウイルスベクターが宿主細胞に導入される(例えば、rAAV粒子内にパッケージされる)前に起こり得るが、必ずしもそうである必要はない。
【0044】
「逆方向末端反復」配列または「ITR」配列は、当該分野において十分に理解される用語であり、そして対向する配向でウイルスゲノムの末端に見出される、比較的短い配列をいう。
【0045】
「AAV逆方向末端反復(ITR)」配列は、当該分野において十分に理解される用語であり、ネイティブな一本鎖AAVゲノムの両末端に存在する、約145ヌクレオチドの配列である。ITRの最外の125ヌクレオチドは、2つの逆の配向のいずれかで存在して、異なるAAVゲノム間、および単一のAAVゲノムの2つの末端間の、異種性をもたらし得る。この最外の125ヌクレオチドはまた、自己相補的ないくつかのより短い領域を含み、ITRのこの部分において鎖内の塩基の対合が起こることを可能にする。
【0046】
AAVに対する「ヘルパーウイルス」とは、AAV(これは、欠損パルボウイルスである)が宿主細胞によって複製され、そしてパッケージされることを可能にするウイルスをいう。多数のこのようなヘルパーウイルスが同定されており、アデノウイルス、ヘルペスウイルスおよびポックスウイルス(例えば、ワクシニア)が挙げられる。アデノウイルスは、多数の異なるサブグループを包含するが、サブグループCのアデノウイルス5型(Ad5)が、最も通常使用される。ヒト、非ヒト哺乳動物および鳥類を起源とする、多数のアデノウイルスが公知であり、ATCCのような寄託機関から入手可能である。ヘルペス科のウイルス(これらもまた、ATCCのような寄託機関から入手可能である)としては、例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)、エプスタイン−バーウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)および仮性狂犬病ウイルス(PRV)が挙げられる。
【0047】
「ヘルパー機能」とは、パルボウイルスの必要な複製および/またはパッケージングのためであるがこのパルボウイルスにコードされない活性をいう。ヘルパー機能は、ヘルパーウイルスによって提供され得る。ヘルパー機能はまた、いくつかのAAVプロモーター(p5を含む)の転写を刺激し、そしてヘルパー機能が発現される細胞において、複製の進行性を増強し得ると考えられる。
【0048】
「プロモーター」とは、本明細書中において使用される場合に、作動可能に連結する遺伝子またはコード配列の転写を指向する、ヌクレオチド配列をいう。
【0049】
「作動可能に連結(する)」とは、このように記載される成分が調和した様式で機能することを可能にする関係にある、2つ以上の成分の配置をいう。例示として、転写調節配列またはプロモーターがコード配列の転写の何らかの局面を容易にする場合に、この転写調節配列またはプロモーターは、このコード配列に作動可能に連結する。転写プロセスの局面としては、開始、伸長、転写減衰および終止が挙げられるが、これらに限定されない。作動可能に連結した転写調節配列は、一般に、コード配列とシスで結合するが、必ずしもこのコード配列にすぐ隣接する必要はない。
【0050】
「レプリコン」とは、適切な宿主細胞においてポリヌクレオチドの複製を可能にする複製起点を含む、ポリヌクレオチドをいう。レプリコンの例としては、ウイルス、エピソーム(プラスミドを含む)、および染色体(例えば、核染色体またはミトコンドリア染色体)が挙げられる。
【0051】
「複製起点」とは、AAV DNA複製の開始の1つ以上の局面(例えば、複製開始、DNA二重鎖の巻き戻し、プライマー形成、および/または相補鎖のテンプレート依存合成)に関与するヌクレオチド配列である。AAV複製起点は、AAVの逆方向末端反復(ITR)配列内に位置し、そしてこれが作動可能に連結する配列の複製を容易にする。本発明の実施において、AAV起点は、共有にかかるPCT WO99/20779に開示されるように、ori様配列で置換され得る。
【0052】
「パッケージング」とは、ウイルスベクター(例えば、rAAVベクター)の組み立ておよびキャプシド化を生じる、一連の細胞内事象をいう。従って、適切なベクターが、適切な条件下でパッケージング細胞株に導入される場合に、これは、ウイルス粒子に組み立てられ得る。
【0053】
「形質導入」とは、ウイルス感染による細胞内への外因性遺伝子の導入であり、ここで、この外因性遺伝子は、組換えウイルスゲノムの一部である。
【0054】
「rep遺伝子およびcap遺伝子」とは、それぞれ複製タンパク質およびキャプシド化タンパク質をコードする、遺伝子である。「AAV rep遺伝子およびAAV cap遺伝子」とは、複製タンパク質およびキャプシド化タンパク質をコードする、AAV遺伝子である。AAV repタンパク質およびAAV capタンパク質は、試験した全てのAAV血清型において見出され、そして本明細書および引用される参考文献に記載されている。野生型AAVにおいては、rep遺伝子およびcap遺伝子は、一般に、ウイルスゲノムにおいて互いに隣接して見出され(すなわち、これらは隣接するかまたは重なる転写ユニットとして、一緒に「結合」される)、そしてこれらは一般に、複数のAAV血清型の間で保存される。AAV rep遺伝子およびAAV cap遺伝子は、個々に、そしてひとまとめに、「AAVパッケージング遺伝子」と呼ばれ得る。欠失または点変異によって改変されたか、あるいは組換えによって再連結され得る成分に細分された、AAVパッケージング遺伝子(例えば、共有にかかるPCT WO98/27204(これの開示は、本明細書中に参考として援用される)に記載されるように)もまた、本発明において使用され得る。AAVパッケージング遺伝子もまた、他の転写調節配列(プロモーター、エンハンサーおよびポリアデニル化(「ポリA」)配列が挙げられる)に作動可能に連結され得る(これらのさらなる転写調節配列もまた、異種であり得る)。「AAVパッケージングカセット」とは、1つ以上のAAVパッケージング遺伝子を含む、組換え構築物である。
【0055】
「宿主細胞」とは、本発明のベクターに対するレシピエントであったか、またはレシピエントであり得る、細胞およびその子孫である。この子孫は、天然、偶発性、または故意の変異に起因して、元の親細胞と必ずしも完全に(形態またはDNAの全相補性のゲノムが)同一である必要はない。宿主細胞は、好ましくは、真核生物細胞であり、好ましくは、哺乳動物細胞であり、最も好ましくは、ヒト細胞である。
【0056】
用語「治療遺伝子」、「標的ポリヌクレオチド」、「導入遺伝子」、「目的の遺伝子」、「異種配列」などは、一般に、ベクターを使用して移入される配列(単数または複数)をいう。好ましくは、このような配列は、組換えパルボウイルスベクター内、より好ましくは、rAAVベクター(このベクターには、少なくとも1つ、好ましくは2つのITR領域が隣接し、従って、rAAV粒子内に複製およびキャプシド化され得る)に位置する。標的ポリヌクレオチドは、本発明において、多数の異なる適用のための組換えパルボウイルスベクター(好ましくは、rAAV)を生成するために、使用され得る。このようなポリヌクレオチドとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:(i)欠失、欠損または最適以下のレベルの構造タンパク質または酵素によって引き起こされる欠損を軽減するための遺伝子治療の他の形態で有用なタンパク質をコードするポリヌクレオチド;(ii)アンチセンス分子に転写されるポリヌクレオチド;(iii)転写因子または翻訳因子を結合するおとり(decoy)に転写されるポリヌクレオチド;(iv)サイトカインのような細胞調節因子をコードするポリヌクレオチド;(v)レシピエント細胞を特定の薬物に対して感受性にし得るポリヌクレオチド(例えば、ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子);(vi)癌治療のためのポリヌクレオチド(例えば、種々の癌の処置のための、E1A腫瘍抑制遺伝子またはp53腫瘍抑制遺伝子)ならびに(vii)抗原または抗体をコードするポリヌクレオチド。導入遺伝子の発現をレシピエント宿主細胞において生じさせるためには、プロモーターまたは他のそのような転写調節配列に、その独自のプロモーターまたは異種プロモーターのいずれかを、作動可能に連結させることが好ましい。多数の適切なプロモーターが、当該分野において公知であり、これの選択は、標的ポリヌクレオチドの発現の所望のレベル;構成的発現、誘導的発現、細胞特異的発現または組織特異的発現などを要求するか否かに依存する。組換えベクターはまた、選択マーカーを含み得る。
【0057】
「遺伝子産物」とは、核酸配列(好ましくは、DNA配列)によりコードされる産物であり、そしてRNAまたはタンパク質であり得る。RNA遺伝子産物の例としては、mRNA、rRNA、tRNA、構造RNA、触媒RNAおよびリボザイムが挙げられる。mRNA中間体によりコードされるタンパク質遺伝子産物の例としては、構造タンパク質および酵素が挙げられる。
【0058】
「発現」は、転写および/または翻訳を含む。転写を検出する方法(例えば、ノーザン分析)および翻訳を検出する方法(例えば、ウェスタン分析またはELISA)は、当該分野において周知である。これらの方法はまた、異なるレベルの転写および/または翻訳を、その差異が異なるベクター間のものであるか、異なる時間の間のものであるか、異なる宿主細胞間のものであるかなどにかかわらず、測定することを、可能にする。
【0059】
「ポリヌクレオチド」とは、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態をいう。ポリヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、これらのアナログ、または上記のものの任意の組み合わせを含み得る。この用語は、一本鎖、二本鎖、および三本鎖の核酸、ならびにより高次の構造(例えば、四分子)を含む。この用語はまた、改変ポリヌクレオチド(例えば、メチル化ポリヌクレオチドまたはキャップポリヌクレオチド)、およびポリヌクレオチドアナログ(例えば、ポリアミド(ペプチド)核酸)を含む。ポリヌクレオチドは、直鎖、分枝鎖、または環状の分子であり得る。直鎖ポリヌクレオチドは、2つの末端を有する;一本鎖ポリヌクレオチドの場合には、これらの末端は、5’末端および3’末端として特徴付けられ得る。
【0060】
用語「配列複雑性」または「複雑性」とは、ポリヌクレオチドに存在する独特の配列の総量をいう。例えば、500ヌクレオチドの長さを有する非反復ヌクレオチド配列は、500ヌクレオチドの複雑性を有し、一方で同一の(またはほぼ同一の)250ヌクレオチド配列の2つのコピーからなる500ヌクレオチドの長さを有する配列は、250ヌクレオチドの複雑性を有する。配列複雑性は、2つの相補ポリヌクレオチドの間の再会合の速度を測定することによって決定され得、より高い複雑性が、より遅い速度に相関する。例えば、Brittenら、(1985)「Nucleic Acid Hybridisation:A Practical Approach」(B.D.HamesおよびS.J.Higgins編)IRL Press、Oxford、第1章、3−15頁、およびこれに引用される参考文献を参照のこと。配列複雑性はまた、DNA配列決定によって直接決定され得る。
【0061】
「ライブラリー」とは、ベクターの集団であり、ここで、個々のベクターは、異なる異種配列を含み、そしてこれらの異種配列は、例えば、特定の細胞、組織、または発達段階の核酸集団を反映する。例えば、「cDNAライブラリー」とは、複数の異なるcDNAインサートを含むベクターの集団であり、ここで、これらのcDNAインサートは、mRNA集団に由来する。「ゲノムライブラリー」とは、複数の異なるインサートを有するベクターの集団であり、ここで、各インサートは、細胞または生物のゲノムの一部を表す。
【0062】
ある事象(例えば、外因性ポリヌクレオチド(例えば、組換えウイルスベクター)の細胞(例えば、哺乳動物細胞)への取り込み、またはウイルスによる感染)が起こることを「可能にする」条件とは、このような事象が起こることを妨げない条件である。従って、これらの条件は、その事象(例えば、細胞内に外因性ポリヌクレオチドが入ること)を許容し、増強し、容易にし、そして/または導き得る。当該分野において公知であり、そして本明細書に記載されるような条件は、細胞の性質および外因性ポリヌクレオチドの性質(すなわち、裸のベクターとして導入されるか、複合体化されたベクターとして導入されるか、パッケージされたベクターとして導入されるか)に依存する。これらの条件はまた、どの事象(例えば、発現または感染)が所望であるかに依存する。
【0063】
「表現型」とは、細胞または生物の遺伝組成から生ずる、細胞および/または分子の検出可能な事象または条件である。
【0064】
「個体」とは、脊椎動物、好ましくは哺乳動物であり、そして家畜動物、飼育動物、げっ歯類、霊長類、およびヒトが挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
「有効量」とは、有利な結果または所望の結果(臨床的結果を含む)を生じるに十分な量である。有効量は、1回以上の投与で投与され得る。疾患状態の観点からは、有効量とは、その疾患を軽減するか、安定化するか、またはその疾患の発生を遅延させるに十分な量である。
【0066】
(本発明の組換えウイルスベクターおよびこの組換えウイルスベクターを含む組成物)
本発明は、1以上の領域が鎖内塩基対を形成する、一本鎖異種ヌクレオチド配列を含む組換えウイルスベクターを提供する。このベクターの基礎を形成するウイルスは、任意のウイルスであり得、そして好ましくは、通常(すなわち、天然で見出される場合)1以上の一本鎖領域を含む、そしてより好ましくは、通常一本鎖である、ウイルスである。
【0067】
好ましい実施形態では、このウイルスベクターは、パルボウイルスベクターである。パルボウイルスの例は、MVM、MVH1、MMV(マウスマイニュートウイルス)、イヌパルボウイルス、ネコパルボウイルス、ネコ汎白血球減少、HBパルボウイルス、CMV(イヌマイニュートウイルス)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、デンソウイルスである。本明細書中に例示される、特に好ましい実施形態は、AAVである。しかし、AAVについて記載されたような多くの原理が他のパルボウイルスに適用されることが理解される。さらに、ウイルスベクターを作製および使用するための技術は、当該分野で記載されている。
【0068】
いくつかの実施形態では、本発明は、異種の配列の1以上の領域(好ましくは、コード配列)が鎖内塩基対を形成する、一本鎖ポリヌクレオチドrAAVベクターを提供する。本発明のrAAVベクターは、5’末端および3’末端(すなわち、環状ではない)、ならびに一方の末端または両方の末端に隣接するITRを含む。
【0069】
組換えウイルスベクター中の鎖内相補性領域(すなわち、鎖内塩基対を形成する領域)は、ベクター内に含まれる目的のヌクレオチド配列の発現を、塩基対合の位置および/または量以外は構造的に同様であるベクターと比較して増強するために位置的および/または量的に十分であり、その結果、この同様のベクターは、目的のヌクレオチド配列の発現を増強するために十分な鎖内相補性を欠く。好ましい実施形態では、鎖内塩基対合の領域は、コード領域内にある。すなわち、鎖内塩基対合は、発現されるべきヌクレオチド配列内で生じる。好ましい他の実施形態では、コード領域全体が塩基対合される。
【0070】
鎖内相補性領域は、異種配列に沿ったどこかの場所であり得、そして連続したヌクレオチドに関して多様な大きさのいずれかであり得る。さらに、鎖内塩基対合領域または鎖内塩基対合配列は、異種配列のコード領域内にあってもなくてもよいことが理解される。いくつかの実施形態では、領域は、(5’または3’)末端に隣接するか、あるいは、(5’または3’)末端付近にある。他の実施形態では、領域は、rAAV分子の中心に隣接するか、またはrAAV分子の中心付近にある。領域は、少なくともほぼ、以下のうちのいずれかであり得る:5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、75、85、100、110、120、130、145、150、160、175、200、250、300、350、400、450、500以上連続したヌクレオチド。いくつかの実施形態では、鎖内塩基対(これは、1以上の領域において存在し得る)を形成する配列の総量は、約125ヌクレオチドより大きく、約250ヌクレオチドより大きく、約500ヌクレオチドより大きく、そして/または約1,000ヌクレオチドより大きい。
【0071】
異種配列が1を超えるこのような領域を含む場合、この領域は、数ヌクレオチド〜数百ヌクレオチドによって隔てられ得る。最も好ましくは、この領域は、発現(すなわち、転写および/または翻訳)が所望される配列を含むべきである。例えば、rAAVベクターは、アンチセンス発現のための2つの配列または2つの小さな遺伝子を、連続する(すなわち、介在ヌクレオチドが存在しない)かまたは非コードヌクレオチドによって隔てられるかのいずれかで含み得る。このベクターはまた、2つの「コード」配列についての相補性配列(反対の配向にあり、塩基対合を可能にする)を含む。
【0072】
1つの実施形態では、本発明の組換えウイルスベクターは、その長さの約2分の1である配列複雑性を有し、この配列は、この分子のある部分が別の部分の逆方向相補体を含むように配置されている。これらの状況下で、ベクターは、その長さの大部分または全てに沿って二重鎖であり、従って、AAV感染の間に産生されるRFと類似する、「スナップバック」分子を形成し得る。好ましくは、この「半分の複雑性(half−complexity)」のベクターは、rAAVベクターである。
【0073】
他の実施形態では、組換えパルボウイルスベクター(好ましくは、rAAVベクター)はさらに、内部ITR(すなわち、両側に異種配列が隣接しているITR)を含み、この内部ITRは、異種配列に隣接しているITR以外のものである。この内部ITRは好ましくは、鎖内塩基対合が内部ITRのいずれかの側の領域の間で生じるように異種配列を分ける。最も好ましくは、ITRのいずれかの側の本質的に全ての異種配列は、鎖内塩基対合に関与する。実施例4〜7は、このようなベクターを例示する。
【0074】
一般に、本発明の組換えウイルスベクターは、ウイルス粒子(特に、このベクターの基礎である型のウイルス粒子)中にパッケージングされ得る。例えば、本発明の組換えパルボウイルスベクターは、パルボウイルス粒子中にパッケージングされ得る。好ましい実施形態では、本発明のrAAVベクターは、AAV粒子中にパッケージングされ得る;従って、rAAVベクターの大きさは、約5.2kbおよび/または用いられるAAVのパッケージング限界までの範囲にわたり得る。しかし、本発明の組換えウイルスベクターが、パッケージング限界よりも小さいかもしれず、そしてしばしば、パッケージング限界よりも小さいことが理解される。本発明のrAAVベクターの場合、その長さは、ほぼ以下のいずれか未満であり得る:5.5、5.2、5.0、4.8、4.5、4.0、3.8、3.5、3.0、2.8、2.5、2.0、1.8、1.5、1.0、0.8、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2キロベース。
【0075】
別の実施形態では、本発明の組換えウイルスベクターを含む組換えウイルス粒子が提供される。1つの実施形態では、本発明は、本発明のrAAVベクターを含む組換えAAV粒子を提供する。ウイルス粒子(例えば、パルボウイルス粒子)を作製するための方法は、当該分野で公知であり、そしてrAAVを作製するための方法は、本明細書中に、ならびに当該分野で提供される。AAVに関して、任意の血清型が適切である。なぜなら、種々の血清型は、遺伝レベルでさえ、機能的および構造的に関連しているからである(例えば、Blacklow,165−174頁、「Parvoviruses and Human Disease」J.R.Pattison,編(1988);およびRose,Comprehensive Virology 3:1,1974を参照のこと)。AAV2血清型を、実施例において示す本発明の例示のいくつかにおいて用いた。しかし、AAV2の分析から導かれる同じ原理が、他のAAV血清型に適用され得ることが十分予測される。なぜなら、種々の血清型が、遺伝レベルでさえ、機能的および構造的の両方で極めて密接に関連していることが公知であるからである。例えば、Blacklow(1988)Parvoviruses and Human Disease,J.R.Pattison(編)165−174頁;およびRose(1974)Comprehensive Virology 3:1−61を参照のこと。全てのAAV血清型は、相同なrep遺伝子によって媒介される類似の複製特性を明らかに示す;そして全てが一般的に、3つの関連したキャプシドタンパク質(例えば、AAV2において発現されるキャプシドタンパク質)を保有する。関連性の程度はさらに、ゲノムの長さに沿った、血清型の間の広範囲なクロスハイブリダイゼーション;および類似の自己アニーリング性セグメントの、ITRに対応する末端での存在を示す、ヘテロ二重鎖分析によって示唆される。類似の感染性パターンもまた、各血清型における複製機能が、類似の制御調節下にあることを示唆する。種々のAAV血清型間で、AAV2は最も普通に用いられる。AAVの生物学および遺伝学の一般的概説については、例えば、Carter,「Handbook of Parvoviruses」,第I巻,169−228頁(1989)、およびBerns,「Virology」,1743−1764頁,Raven Press,(1990)を参照のこと。rAAVベクター構築の一般原則は、当該分野で公知である。例えば、Carter,1992,Current Opinion in Biotechnology,3:533−539;およびMuzyczka,1992,Curr.Top.Microbiol.Immunol.,158:97−129を参照のこと。
【0076】
このベクター、このベクターを含むウイルス粒子、組成物およびこれらの上記の部分を用いた方法に関して、このようなベクター(および/またはウイルス)の集団が作製および使用され得る。例えば、以下に考察されるように、このようなウイルスベクターを作製するいくつかの方法は、鎖内塩基対合を有するベクターを含むベクター集団をもたらし得る。(これらのベクターの作製において)複製プロセスの間、いくつかの一本鎖ゲノムは、ニックが入り得、そしてそれらの二重鎖構造を保持し得る。これらの二重鎖分子は、本明細書中に記載される鎖内二重鎖分子に機能的に等価であるとみなされ、従って、本発明は、このような集団および他の密接に関連した部分(ならびにこれらの集団および密接に関連した部分を用いた方法)(例えば、「ニックの入った」ベクター)を包含する。
【0077】
従って、本発明は、異種領域が、宿主細胞DNA複製を伴わない二重鎖を形成する組換えウイルスベクターを提供する。この二重鎖形成は、目的の配列の発現が、目的の配列の発現を増強するに十分な二重鎖形成を欠く構造的に類似したベクターと比較して増強されるような二重鎖形成である。
【0078】
(組成物)
他の実施形態では、本発明は、組換えウイルスベクターのいずれか(および/または本明細書中に記載される組換えウイルス粒子、例えばrAAVベクター(および/またはrAAVベクターを含むrAAVウイルス粒子))を含む組成物を提供する。これらの組成物は、とりわけ、遺伝子送達ならびに表現型スクリーニングのための適切な宿主細胞との接触の目的のための、個体への投与のために有用である。
【0079】
一般に、これらの組成物は、それらの使用を促進する成分(例えば、薬学的賦形剤および/または適切な緩衝剤)を含む。薬学的用途については、この組成物は一般に、有効量の組換えウイルスベクター(例えば、rAAVベクター)を、好ましくは、薬学的に受容可能な賦形剤中に含む。当該分野で周知のように、薬学的に受容可能な賦形剤は、薬理学的に有効な物質の投与を促進し、そして液体の溶液もしくは懸濁物として、乳濁物として、または使用前に液体に溶解もしくは懸濁するのに適切な固体の形態として供給され得る、比較的不活性な物質である。例えば、賦形剤は、形態もしくは粘稠度を与え得るか、または希釈剤として作用し得る。適切な賦形剤としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:安定薬剤、湿潤剤および乳化剤、容量オスモル濃度を変化させるための塩、カプセル化剤および緩衝剤。賦形剤ならびに非経口薬物送達および経口(nonparenteral)薬物送達のための処方物は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第19版、Mack Publishing(1995)に示される。この薬学的組成物はまた、凍結乾燥形態および/または再構成形態の本発明の組換えウイルスベクターを含み得、そしてインビトロでの状況ならびにインビボでの状況において用いられ得る。
【0080】
一般的に、これらの薬学的組成物は、(例えば、関節内、静脈内、筋肉内などの)注射による投与のために処方される。従って、これらの組成物は好ましくは、薬学的に受容可能なビヒクル(例えば、生理食塩水、リンゲル平衡塩溶液(pH7.4)、デキストロース溶液など)と組み合わされる。必要とはされないが、薬学的組成物は必要に応じて、正確な量の投与のために適切な単位投薬量で供給され得る。
【0081】
宿主細胞へのインビトロ導入のために、例えば、スクリーニング適用において、この組成物は、ウイルス感染および/または細胞によるウイルスベクターの取り込みを促進する薬剤(例えば、塩および緩衝剤)を含む。このような薬剤は、当該分野で周知である。
【0082】
本発明はまた、処置(治療的遺伝子の発現に起因する)における使用のために上記のベクター(またはこのベクターを含む組成物)のいずれかを含む。本発明はさらに、処置のための医薬の製造における上記のベクター(またはこのベクターを含む組成物)のいずれかの使用を提供する。
【0083】
(宿主細胞およびライブラリー)
本発明はまた、本明細書中に記載される組換えウイルスベクターを含む宿主細胞を提供する。好ましい実施形態では、このウイルスベクターは、rAAVベクターである。真核生物宿主細胞の中では、酵母、昆虫、鳥類、植物および哺乳動物の細胞である。好ましくは、宿主細胞は、哺乳動物(細胞株および初代細胞を含む)である。例えば、宿主細胞としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:HeLa、293および初代胎仔包皮線維芽細胞(全て、ヒト起源のものであり、そして容易に入手可能である)。これらの細胞は、核酸の取り込みおよびゲノムへの外因性核酸の非相同挿入を可能にする条件下で、細胞に核酸を導入するために当該分野で周知の方法を用いた、ベクターポリヌクレオチドと宿主細胞との接触から生じる。宿主細胞中に組換えベクターを導入し、そして宿主細胞がそのベクターを含むか否かを決定するための方法および組成物は、rAAVベクターによって例示されるように本明細書中で考察され、そして当該分野で周知である。
【0084】
これらの実施形態に含まれ、そして以下に考察されるのは、パッケージングされたrAAVベクターを産生するための基礎として用いられる、いわゆる「プロデューサー細胞」である。
【0085】
また含まれるのは、本明細書中に記載される組換えウイルスベクター(例えば、rAAVベクター)を含むライブラリーである。外因性DNAの取り込みを可能にする条件下で多数の本発明の組換えウイルスベクター(すなわち、種々の異種配列を含むベクター)に曝露された細胞集団が、複数の細胞から構成され、ここで、この集団における他の細胞と比較して、この細胞の大多数が、各細胞が特定のウイルスベクターを有することによって特徴付けられることが当業者には明らかである。すなわち、細胞のライブラリーが生成され、ここでは、このライブラリー中の大多数の細胞が、このライブラリーにおける任意の他の(または大部分の他の)細胞におけるコードとは異なる独特のコード配列を有する。印を付けられた細胞のこのライブラリーは、種々の型の機能的ゲノム調査(例えば、罹病細胞と、それらの正常な対応物との比較、異なる発生段階での細胞の比較など)において有用である。
【0086】
(本発明の組換えウイルスベクターの産生)
本発明の組換えウイルスベクターは、当該分野で十分に記載された当該分野で公知の任意の方法(例えば、組換え法および合成法)によって産生され得る。パルボウイルス実施形態については、少なくとも1つのITRに隣接される、記載されるような一本鎖ポリヌクレオチド分子を生成する任意の方法が適切である。一例として、公知の合成技術を用いて、1以上のITR配列が隣接した目的の配列を含む二本鎖分子を合成し得る。このような分子は変性され得、そしてその構成成分である一本鎖が回収され得る。あるいは、一本鎖は、例えば、当業者に公知のように、このような二本鎖分子を糸状ファージクローニングベクター(例えば、M13、flまたはfd)にクローニングした後に入手され得る。精製された一本鎖は、短いヘアピンをその末端の各々に形成し得る。なぜなら、ITR配列がそこに存在するからである。デオキシヌクレオシド三リン酸の存在下での核酸ポリメラーゼによる短いヘアピンの伸長は、代謝的に活性化されたベクターを作製する。
【0087】
別の実施形態では、一方の末端にITRを有する目的の配列を含む一本鎖ポリヌクレオチドが用いられる。このようなポリヌクレオチドは、例えば、対応する二本鎖ポリヌクレオチドの変性によって、または糸状ファージクローニングベクターからの回収によって入手され得る。末端ITR配列によって形成された短いヘアピンの伸長は、部分的ITR配列を共有結合的に閉鎖された末端に有する、一方の末端で共有結合的に閉鎖された二本鎖分子を作製する。必要に応じて、二本鎖ITR配列は、当業者に周知の技術によって、反対の末端に連結され得る。
【0088】
別の実施形態では、本発明の組換えパルボウイルスベクターは、ネイティブなゲノムの約2分の1の大きさを有し、そしてこのようなベクターが宿主細胞中で複製することを可能にする、パルボウイルスベクター(例えば、rAAVベクター)を構築することによって産生され得る。従って、rAAVの場合、宿主細胞は、rep機能およびcap機能、ならびにヘルパー機能を提供する。複製によって、半分の大きさのゲノムは、一方の末端でそのテンプレートに共有結合された相補的DNA鎖へとコピーされて(図1および図3を参照のこと)、ヘアピン二重鎖へと「スナップバック」される構造を形成する。これらのゲノム構造は、ネイティブなゲノム(例えば、AAV)の一本鎖長に匹敵する一本鎖長を有し、ヘルパー機能の発現によって許容性にされ(AAVの場合)、そしてrep遺伝子およびcap遺伝子もまた発現される細胞において適切な条件下でウイルス粒子へとパッケージングされ得る。これらの組換えパルボウイルスベクターは、ITR配列を異種配列(すなわち、異種配列が両方の側に隣接したITR配列)の間に含む。
【0089】
この産生方法の一例として、ネイティブなAAVゲノムの約2分の1の大きさ(すなわち、約2,300塩基対〜2,400塩基対)のプラスミドは、さらに、ヘルパーウイルスによって感染されているかまたはヘルパー機能を発現するかのいずれかであるプロデューサー細胞株にトランスフェクトされる。プロデューサー細胞株の非限定的な例は、C12株である。C12は、rep遺伝子およびcap遺伝子カセットを含むHeLa細胞株であり、ここで、RepおよびCapの発現は、アデノウイルスでの感染の際に誘導される。C12細胞(または同等の細胞株)がアデノウイルスで同時に感染され、そしてベクタープラスミドでトランスフェクトされる場合、このベクターゲノムは増幅され、そしてAAV粒子中にキャプシド化される。ネイティブなAAVゲノムに匹敵する大きさを有するrAAVゲノムについては、このベクターのいずれかの鎖に対応するゲノムがウイルス粒子中にパッケージングされ得る。
【0090】
上記のように、本発明の組換えウイルスベクターは、異種ポリヌクレオチドを含む。このベクターにおける異種ポリヌクレオチドの転写は意図される標的細胞において一般的に所望されるので、異種ポリヌクレオチドは、当該分野で公知のように、例えば、標的細胞内での転写の所望のレベルおよび/または特異性に依存して、それ自体に、または異種プロモーターおよび/もしくは異種エンハンサーに作動可能に連結され得る。種々の型のプロモーターおよびエンハンサーは、この状況における使用に適切である。例えば、Feldhaus(1998年10月20日出願の米国特許出願09/171,759号)は、rAAVからの発現を調節するプロモーターを含む改変されたITRを記載する。構成的プロモーターは、進行中のレベルの遺伝子転写を提供し、そして治療的ポリヌクレオチドが継続的に発現されることが所望される場合、好ましい。誘導性プロモーターまたは調節性プロモーターは一般的に、誘導因子の非存在下で低い活性を示し、そして誘導因子の存在下でアップレギュレートされる。これらは、特定の時点もしくは特定の位置でのみ発現が所望される場合、または誘導因子を用いた発現のレベルを力価測定することが望ましい場合、好適であり得る。プロモーターおよびエンハンサーはまた、組織特異的であり得る。すなわち、これらは、おそらく、特定の細胞において固有に見出される遺伝子調節エレメントに起因して、それらの活性をその細胞型でのみ示す。このような組織特異的プロモーターおよび組織特異的エンハンサーは、当該分野で公知である。例示のために、組織特異的プロモーターの例としては、筋肉における発現のための種々のミオシンプロモーターが挙げられる。組織特異的プロモーターおよび組織特異的エンハンサーの別の例は、関節における細胞および/または組織型についての調節エレメントの組織特異的プロモーターおよび組織特異的エンハンサーである。
【0091】
プロモーターのさらなる例示的な例は、シミアンウイルス40由来のSV40後期プロモーター、バキュロウイルス多角体エンハンサー/プロモーターエレメント、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV tk)、サイトメガロウイルス(CMV)由来の前初期プロモーターおよび種々のレトロウイルスプロモーター(LTRエレメントを含む)である。さらなる誘導性プロモーターとしては、重金属イオン誘導性プロモーター(例えば、マウス乳癌ウイルス(mMTV)プロモーターまたは種々の成長ホルモンプロモーター)およびT7 RNAポリメラーゼの存在下で活性であるT7ファージ由来のプロモーターが挙げられる。非常に多様な他のプロモーターが当該分野で公知であり、そして一般的に入手可能であり、そしてこのような多くのプロモーターについての配列は、配列データベース(例えば、GenBankデータベース)において入手可能である。
【0092】
翻訳もまた意図された標的細胞において所望される場合、異種ポリヌクレオチドは好ましくはまた、翻訳を容易にする制御エレメント(例えば、リボソーム結合部位すなわち「RBS」、およびポリアデニル化シグナル)を含む。従って、異種ポリヌクレオチドは一般的に、適切なプロモーターに作動可能に連結された少なくとも1つのコード領域を含み、そしてまた例えば、作動可能に連結されたエンハンサー、リボソーム結合部位およびポリAシグナルを含み得る。この異種ポリヌクレオチドは、1つのコード領域または1より多くのコード領域を同じかまたは異なるプロモーターの制御下で含み得る。この単位全体は、制御エレメントとコード領域との組み合わせを含み、しばしば、発現カセットと呼ばれる。
【0093】
異種ポリヌクレオチドは、組換え技術によって、ウイルスゲノムコード領域中に、または好ましくはウイルスゲノムコード領域の代わりに(例えば、AAV rep遺伝子およびcap遺伝子の代わりに)組み込まれるが、パルボウイルスの場合は一般的に、いずれかの側がITRに隣接している。このことは、組換えの確率を減らすために、直接並列して、好ましくは(必ずしもその必要はないが)ウイルス起源の何の介在配列をも伴わずにのいずれかで、ITRがコード配列の上流および下流の両方に出現することを意味する。AAVの場合、このような組換えは、複製能力のあるAAV(「RCA」)ゲノムを再生し得る。近年の証拠は、単一のITRが、2つのITRを含む構成に通常関連した機能を実行するために十分であり得ることを示唆し(米国特許第5,478745号)、従って、1つだけITRを有するベクター構築物は、本明細書中に記載されるパッケージング方法および産生方法に関連して用いられ得る。得られる組換えウイルスベクターは、特定のウイルスコード配列がこのベクターから欠失された場合、ウイルス機能が「欠損性」であるといわれる。
【0094】
組換えウイルスベクターは、種々の形態で、例えば、細菌プラスミド、ウイルス粒子、リポソームまたはそれらの任意の組み合わせの形態で提供される。他の実施形態では、組換えウイルスベクター配列は、ウイルスベクターでトランスフェクトされた宿主細胞中に提供される。
【0095】
以下は、rAAVベクター(およびこれらのベクターを含むAAV)について適切な産生系の例および原理のより詳細な説明である。本明細書中に記載される原理の多くが他のパルボウイルスに適用されることが理解される。
【0096】
AAV2粒子内でのキャプシド化のために、異種ポリヌクレオチドは好ましくは、約5kb未満であるが、他の血清型および/または改変を用いて、より長い配列がAAVウイルス粒子内にパッケージングされるのを可能にし得る。種々のAAVゲノムの相対的なキャプシド化の大きさの制限を考慮して、このゲノムへの大きな異種ポリヌクレオチドの挿入は、AAVゲノムの一部の除去を必要とする(特に、1以上のパッケージング遺伝子が除去され得る)。1以上のAAV遺伝子の除去はいずれにせよ、RCAを生じる確率を減らすために望ましい。従って、rep、capまたはその両方についてのコード配列またはプロモーター配列は好ましくは、除去される。なぜなら、これらの遺伝子によって提供される機能はトランスで提供され得るからである。
【0097】
rAAVがパッケージングされたrAAV粒子の形態での使用されるべき場合、および遺伝子治療での使用が意図される場合、遺伝子移入において用いるために望ましい、少なくとも3つのrAAVウイルス調製の特徴が存在する。第1に、rAAVウイルスが標的組織中の有効な比率の細胞を形質導入するために十分高い力価で生成されるべきことが好ましい。多数のrAAVウイルス粒子は代表的に、インビボでの遺伝子移入に必要とされる。例えば、いくつかの処置は、108を超える粒子を必要とし得る。第2に、rAAVウイルス調製物が複製能力のあるAAV(すなわち、ヘルパーウイルスまたはヘルパーウイルス機能の存在下で複製され得る、表現型的に野生型のAAV)を本質的に含まないべきことが好ましい。第3に、rAAVウイルス調製が全体として、他のウイルス(例えば、AAV産生において用いられるヘルパーウイルス)ならびにヘルパーウイルスおよび細胞タンパク質、ならびに他の成分(例えば、脂質および炭水化物)を本質的に含まず、その結果、遺伝子移入の状況において免疫応答を生じる危険性を最少にするかまたは危険性を全て排除することが好ましい。
【0098】
rAAVベクターを複製およびパッケージングするためにrAAVベクターがAAV粒子中にパッケージングされるべき場合、失われている機能は、種々の失われているrep遺伝子産物および/またはcap遺伝子産物について必要な機能を一緒にコードするパッケージング遺伝子(または複数のパッケージング遺伝子)で補完される。パッケージング遺伝子または遺伝子カセットは好ましくは、AAV ITRに隣接しておらず、そして好ましくは、実質的な相同性をrAAVゲノムと全く共有しない。従って、複製の間の、ベクター配列と別に提供されたパッケージング遺伝子との間の相同組換えを最少にするためには、この2つのポリヌクレオチド配列の重複を回避することが望ましい。相同性のレベルおよび対応する組換え頻度は、相同配列の長さが増大するに伴って、そして共有される同一性のそれらのレベルに伴って増大する。所定の系に関心を与える相同性レベルは、当該分野で公知のように、理論的に決定され得、そして経験的に確認され得る。しかし、一般的に、組換えは、重複する配列が、その長さ全体にわたって少なくとも80%同一であるならば約25ヌクレオチド未満の配列である場合、またはその長さ全体にわたって少なくとも70%同一であるならば約50ヌクレオチド未満の配列である場合、実質的に減少し得るかまたは排除され得る。もちろん、さらにより低いレベルの相同性が好ましい。なぜなら、これらは、組換えの確率をさらに減少させるからである。重複する相同性を全く用いない場合でさえ、RCAを生成する頻度がいくらか残存しているようである。(例えば、非相同組換えによる)RCAを生成する頻度のなおさらなる減少は、1996年12月18日に出願された米国特許出願08/769,728号においてAllenらによって記載されるように、AAVの複製機能とキャプシド化機能とを「分ける」ことによって得られ得る。
【0099】
そのrAAV構築物およびその相互的パッケージング遺伝子構築物は、多数の異なる形態で本発明において実現され得る。ウイルス粒子、プラスミドおよび安定に形質転換された宿主細胞は、すべて、このパッケージング細胞中にこのような構築物を、一過性にかまたは安定にかのいずれかで導入するために使用され得る。
【0100】
従って、遺伝的に改変された種々の異なる細胞が、本発明の状況において使用され得る。例示として、哺乳動物宿主細胞が、安定な組み込まれたrAAVベクターの少なくとも1つのインタクトなコピーとともに使用され得る。プロモーターに作動可能に連結された少なくとも1つのAAV rep遺伝子を含むAAVパッケージングプラスミドが、複製機能を供給するために(米国特許第5,658,776号に記載されるように)使用され得る。あるいは、プロモーターに作動可能に連結されたAAV rep遺伝子を含む安定な哺乳動物細胞株が、複製機能を供給するために使用され得る(例えば、Trempeら、米国特許第5,837,484号;Bursteinら、WO 98/27207;およびJohnsonら、米国特許第5,658,785号を参照のこと)。上記のようなカプセル化タンパク質を提供する、AAV cap遺伝子が、AAV rep遺伝子とともにかまたは別個に、提供され得る(例えば、上記に参照された出願および特許、ならびにAllenら(WO 96/17947)を参照のこと)。他の組み合わせも可能である。
【0101】
当該分野で記載され、そして上記に引用された参考文献および下記の実施例に示されるように、遺伝物質が、細胞(例えば、rAAVの産生のための哺乳動物「プロデューサー」細胞)中に、そのような細胞を形質転換もしくは形質導入するための種々の手段のうちのいずれかを使用して、導入され得る。例示として、そのような技術としては、細菌プラスミドでのトランスフェクション、ウイルスベクターでの感染、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、および種々の脂質ベースの組成物のいずれかを使用する導入(「リポフェクション」としばしば呼ばれるプロセス)が挙げられるが、これらに限定されない。これらの技術を実施するための方法および組成物は、当該分野で記載されており、そして広く利用可能である。
【0102】
適切に改変された細胞の選択は、当該分野における任意の技術により行われ得る。例えば、細胞を改変するために使用されるポリヌクレオチド配列は、当該分野で公知であるように、1つ以上の検出可能なマーカーもしくは選択マーカーと同時に導入され得るか、またはそれらに作動可能に連結されて導入され得る。例示として、選択マーカーとして、薬物耐性遺伝子を使用し得る。次いで、薬物耐性細胞が、選ばれ得そして増殖され得、次いで所望の配列の発現(すなわち、異種ポリヌクレオチドの生成物)について試験され得る。導入されたポリヌクレオチドの獲得、位置決定および/または維持についての試験が、DNAハイブリダイゼーションベースの技術(例えば、サザンブロッティングおよび当該分野で公知の他の手順)を使用して実施され得る。発現についての試験は、遺伝的に改変された細胞から抽出されたRNAのノーザン分析によってか、または対応する遺伝子産物についての間接的免疫蛍光検査法によって、容易に実施され得る。パッケージング能力および効率の試験および確認は、その細胞にAAVの残りの機能的成分およびヘルパーウイルスを導入して、AAV粒子の生成について試験することによって、得られ得る。細胞が複数のポリヌクレオチド構築物で遺伝的に改変される場合、それら構築物を細胞に別々に導入し、そして各段階を逐次確認することが、一般的により便利である(が、必須ではない)。このような技術を記載する参考文献としては、本明細書中に引用される文献が挙げられる。
【0103】
AAV粒子中にrAAVベクターをパッケージングする1つのアプローチにおいて、rAAVベクター配列(すなわち、AAV ITRが隣接する配列)およびトランスで提供されるAAVパッケージング遺伝子が、別個の細菌プラスミド中にて宿主細胞に導入される。このアプローチの例は、Ratschinら、1984、Mol.Cell.Biol.4:2072;Hermonatら、1984、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6466;Tratschinら、1985、Mol.Cell.Biol.5:3251;McLaughlinら、1988、J.Virol.62、1963;Lebkowskiら、1988、Mol.Cell.Biol.7:349;Samulskiら、1989、J.Virol.63:3822〜3823;ならびにFlotteら、1992、Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.7:349に記載される。
【0104】
第2のアプローチは、rAAVベクター配列またはAAVパッケージング遺伝子のいずれかを、AAV複製に使用される哺乳動物細胞においてエピソーム性プラスミドの形態で提供することである。例えば、米国特許第5,173,414号を参照のこと。
【0105】
第3のアプローチは、rAAVベクター配列またはAAVパッケージング遺伝子のいずれかあるいは両方を、下記実施例2に例示されるように、複製に使用される哺乳動物細胞のゲノム中に安定に組み込んで提供することである。
【0106】
この第3のアプローチの1つの例示的技術は、国際特許出願WO 95/13365(Targeted Genetics CorporationおよびJohns Hopkins University)および対応米国特許第5,658,776号(Flotteら)に概説される。この例は、安定に組み込まれたrAAVベクターの少なくとも1つのインタクトなコピーを含む哺乳動物細胞を使用し、ここで、そのベクターは、AAV ITR、および標的ポリヌクレオチドに作動可能に連結された転写プロモーターを含むが、repの発現はその細胞中では限定的である。好ましい実施形態において、異種プロモーターに作動可能に連結されたrep遺伝子を含むAAVパッケージングプラスミドが、その細胞に導入され、次いでその細胞は、rAAVベクター配列の複製および粒子中へのパッケージングを可能にする条件下でインキュベートされる。
【0107】
別のアプローチは、Trempeら、米国特許第5,837,484号に概説される。この例は、機能性Repタンパク質を発現し得るように異種プロモーターに作動可能に連結されたAAV rep遺伝子を含む、安定な哺乳動物細胞株を使用する。種々の好ましい実施形態において、そのAAV cap遺伝子も安定に提供され得るし、または一過的に(例えば、プラスミド上で)導入され得る。rAAVベクターもまた、安定にかもしくは一過的に導入され得る。
【0108】
別のアプローチは、特許出願WO 96/17947(Targeted Genetics Corporation)に概説される。この例は、安定に組み込まれたAAV cap遺伝子、およびヘルパーウイルス誘導性異種プロモーターに作動可能に連結された安定に組み込まれたAAV rep遺伝子を含む、哺乳動物細胞を使用する。そのrAAVベクター配列を含むプラスミドもまた、その細胞中に(安定にかまたは一過性にかのいずれかで)導入される。次いで、粒子中へのrAAVベクターのパッケージングが、そのヘルパーウイルスの導入により開始される。
【0109】
ウイルスおよび/またはウイルスタンパク質もしくは細胞タンパク質を実質的に混入していない高力価のrAAVウイルス調製物を達成するための方法が、AtkinsonらによってWO 99/11764に概説される。その中に記載される技術は、rAAVウイルス粒子調製物の大規模産生のために使用され得る。
【0110】
これらの種々の例は、十分に高力価でrAAVウイルス粒子を生成し、rAAVベクターとパッケージング成分をコードする配列との間の組換えを最小にし、哺乳動物細胞株におけるAAV rep遺伝子の発現に関連する潜在的困難を減少もしくは回避し(なぜなら、Repタンパク質は、それ自体の発現を限定し得るのみならず、細胞代謝にも影響し得るからである)、そしてウイルスおよび/またはウイルスタンパク質もしくは細胞タンパク質を実質的に混入していないrAAVウイルス調製物を生成するという問題に取り組む。
【0111】
ウイルス粒子中へのAAVベクターのパッケージングは、AAVに適切なヘルパーウイルスの存在またはヘルパーウイルス機能の提供に依存する。AAV複製を支持し得るヘルパーウイルスは、アデノウイルスにより例示されるが、ヘルペスウイルス(HSV1、サイトメガロウイルスおよびHHV−6を含むが、これらに限定されない)ならびにポックスウイルス(特にワクシニアウイルス)のような、他のウイルスも含む。このような任意のウイルスが使用され得る。
【0112】
しばしば、そのヘルパーウイルスは、意図される宿主細胞に感染し得る型およびサブグループのアデノウイルスである。サブグループC(特に、血清型1、2、4、6および7)のヒトアデノウイルスが、一般的に使用される。血清型5が一般的に好ましい。
【0113】
アデノウイルスの特徴および増殖パターンは、当該分野で公知である。例えば、Horowitz「Adenoviridae and their replication」771〜816頁「Fundamental Virology」Fieldsら編を参照のこと。パッケージされたアデノウイルスゲノムは、線状DNA分子であり、末端タンパク質複合体を介して左手末端および右手末端でアデノウイルスITRを介して連結されて、環を形成する。初期成分、中期成分および後期成分についての制御領域およびコード領域は、そのゲノム中で重複する。初期領域遺伝子は、アデノウイルスゲノムの複製に関与し、そしてその位置に依存して、E1領域、E2領域、E3領域およびE4領域にグループ分けされる。
【0114】
必須ではないが、原則的に、最終的に遺伝子治療を受ける被験体における複製が欠損したヘルパーウイルス株が望ましい。従って、rAAVウイルス調製物中に残存するいかなるヘルパーウイルスも、複製非適合性である。E1A領域またはE1AおよびE3領域の両方が除去されたアデウイルスは、ほとんどのヒト細胞に感染しない。それらは、欠損している活性を相補し得る許容性細胞株(例えば、ヒト293細胞株)において複製され得る。おそらくヘルパー機能に関連しているアデノウイルス領域、ならびにそうでない領域が、当該分野において同定されそして記載されている(例えば、P.Colosiら、WO97/17458およびその中に引用される参考文献を参照のこと)。
【0115】
例えば、Atkinsonら(WO 99/11764)に記載されるように、「条件選択的」ヘルパーウイルスもまた、ヘルパーウイルス活性を提供するために使用され得る。このようなヘルパーウイルス株は、宿主細胞において、それ自体は効率的ゲノム複製を起こさない少なくとも1組の条件下で、AAV複製を支持し得る特性を最小限有さなければならない。ヘルパーウイルス活性がインタクトなウイルス粒子として供給される場合、そのウイルスが第2の条件の組の下で宿主細胞において複製し得ることもまた、一般的に必要である。第1の条件の組は、容易に制御可能な特徴(例えば、必要な補因子(例えば、カチオン)の存在もしくは不在、阻害薬物の存在もしくは不在、または環境条件(例えば、温度)の変化)により第2の条件の組と異なる。より簡便には、その2つの条件の間の差異は、温度であり、従って、そのような条件選択的ウイルスは、温度感受性ヘルパーウイルスと呼ばれる。
【0116】
ヘルパーウイルスは、ウイルス複製について許容性の任意の細胞において調製され得る。アデノウイルスについて、好ましい細胞としては、293細胞およびHeLa細胞が挙げられる。播種密度の増加を可能にする培養技術を使用することが好ましい。懸濁培養に適合された293細胞改変体およびHeLa細胞改変体が利用可能である。HeLaは、懸濁物における細胞増殖、生存性および形態という理由のために好ましい。これらの細胞は、温度感受性アデノウイルス株の低い方の複製速度を構成するに十分な密度(2×106/ml)で増殖され得る。一旦樹立されると、細胞は、このウイルスに感染され、そして十分な期間(一般的には3〜7日間そして代表的には約5日間)、許容性温度で培養される。
【0117】
ヘルパーウイルスの調製、単離および濃縮に有用な方法の例は、Atkinsonら(WO 99/11764)に見出され得る。
【0118】
いくつかの基準が、本明細書中に記載されるようなrAAV粒子を産生する際の使用のための細胞の選択に影響する。最初の問題として、その細胞は、選択されたヘルパーウイルスを使用する場合に、rAAVベクターの複製およびパッケージングを許容しなければならない。しかし、ほとんどの哺乳動物細胞は、AAVに再現可能に感染され得、そして多くは、アデノウイルスのようなヘルパーウイルスに感染され得るので、多数の種類の哺乳動物細胞および細胞株が、これらの基準を有効に満たすことが明らかである。これらのうち、より好ましい細胞および細胞株は、rAAVウイルス調製物の大規模産生を容易にするように、培養中で容易に増殖され得る。また、しかし、このような多くの細胞がこの基準を有効に満たす。大規模産生が望まれる場合、産生方法の選択もまた、宿主細胞の選択に影響する。例えば、Atkinsonら(WO99/11764)および当該分野でより詳細に記載されるように、いくつかの産生技術および培養容器もしくは培養チャンバーは、接着細胞もしくは付着細胞の増殖用に設計され、一方、他は、懸濁物中での細胞の増殖用に設計される。後者の場合、従ってその宿主細胞は、好ましくは、懸濁物中での増殖に適合されるかまたは適合可能である。しかし、接着性もしくは足場依存性と見なされる細胞および細胞株の場合でさえ、懸濁物中で増殖可能な細胞について連続選択することによって、足場依存性の親株の懸濁物適合改変体を誘導することが可能である。例えば、Atkinsonら(WO99/11764)を参照のこと。
【0119】
最終的には、ヘルパーウイルス、rAAVベクター配列、ならびに複製およびパッケージングに必要なAAV配列すべてが、同じ細胞中に存在しなければならない。1つ以上のAAVパッケージング遺伝子がベクターと別々に提供される場合、以下を含む宿主細胞が提供される:(i)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子(そのAAVパッケージング遺伝子各々がAAV複製タンパク質もしくはキャプシドタンパク質をコードする);(ii)rAAVベクターを使用してその宿主細胞中に導入される異種ポリヌクレオチド(そのrAAVベクターは、少なくとも1つのAAV ITRが隣接するその異種ポリヌクレオチドを含み、かつそのAAVパッケージング遺伝子が欠損している);ならびに(iii)ヘルパーウイルス、または必要なヘルパーウイルス機能をコードする配列。しかし、これらのエレメントのうちの1つ以上が、単一のレプリコン上で組合され得ることが、留意されるべきである。
【0120】
そのヘルパーウイルスは、好ましくは、培養中でその細胞のほとんどに感染するに十分なレベルで細胞培養物中に導入されるが、そうでなければ、生じる調製物中に存在するヘルパーウイルスの量を限定するために最小に維持され得る。感染多重度すなわち「MOI」1〜100が使用されるが、代表的には、MOI 5〜10で十分である。
【0121】
同様に、rAAVベクターおよび/またはパッケージング遺伝子がそのパッケージング細胞に一過性導入される場合(安定に導入されるのとは対照的に)、それらは好ましくは、培養中の細胞のほとんどを遺伝的に改変するに十分なレベルで導入される。一般的に必要な量は、細菌プラスミドとして供給される場合は10μg/106細胞のオーダーであり;またはAAV粒子として供給される場合は108粒子/105細胞のオーダーである。最適な量の決定は、当業者の範囲内にある慣用的力価決定(titration)の実行である。
【0122】
これらのエレメントは、同時にか、または任意の順序で連続してかのいずれかで、細胞中に導入され得る。その細胞がこれらエレメントのいずれかにより遺伝的に改変される場合、その細胞は、その次のエレメントを導入する前に選択され得そして増殖させられ得る。
【0123】
1つの好ましい例において、そのヘルパーウイルスは、内在するrAAVベクターをレスキューしそしてパッケージングするために、細胞中に最後に導入される。その細胞は、一般的には、必要な程度まですでにAAVパッケージング遺伝子を補充されている。好ましくは、rAAVベクターまたはパッケージング遺伝子のいずれか、そしてより好ましくはその両方が、その細胞中に安定に組み込まれる。他の組み合わせが可能であることが、容易に理解される。そのような組み合わせは、本発明の範囲内に含まれる。
【0124】
一旦宿主細胞が必要なエレメントを備えると、その細胞は、AAVの複製について許容性の条件下で培養されて、rAAVベクターの複製およびパッケージングを可能にされる。培養時間は、好ましくは、ピークの産生レベルに対応するように調整され、そして代表的には3〜6日間である。次いで、rAAV粒子が収集され、そしてそれらを調製するために使用される細胞から単離される。
【0125】
必要に応じて、rAAVウイルス調製物は、rAAV粒子について富化するか、ヘルパーウイルス粒子を枯渇させるか、さもなければその調製物を被験体への投与に適切にするために、さらに処理され得る。例示的技術について、Atkinsonら(WO 99/11764)を参照のこと。精製技術としては、等密度勾配遠心分離およびクロマトグラフィー技術が挙げられ得る。感染性ヘルパーウイルス活性の減少は、当該分野で公知である、熱処理もしくはpH処理による不活化を含み得る。他のプロセスとしては、濃縮、濾過、ダイアフィルトレーション、または適切な緩衝液もしくは薬学的賦形剤との混合が挙げられ得る。調製物は、分配のために単位用量および多用量のアリコートに分割され得、そのアリコートは、バッチの本質的特徴(例えば、抗原性および遺伝性内容物の均一性、および混入ヘルパーウイルスの相対的比率)を保持する。
【0126】
ウイルス調製物の感染力価の決定のための種々の方法が、当該分野で公知である。例えば、力価決定のための1つの方法は、Atkinsonら(WO 99/11764)により提供されるような高スループット力価決定アッセイである。この迅速かつ定量的方法により決定されるウイルス力価は、より古典的な技術により決定される力価に密接に対応する。しかし、さらに、この高スループット方法は、多くのウイルス複製反応の同時処理および分析を可能にし、従って、他の多くの用途(たとえば、ウイルス複製および感染性について許容性細胞株または非許容性細胞株のスクリーニングを含む)を有する。
【0127】
(本発明の組換えウイルスベクターについての用途)
本発明の組換えウイルスベクター、特にrAAVベクターのようなパルボウイルスベクターは、遺伝子治療およびゲノミクススクリーニングを含む、いくつかの状況において有用である。例えば、ネイティブのAAVゲノムに基づくrAAVベクターは、RFの形成のために宿主機能およびヘルパー機能を必要とするので、このようなベクターからの挿入された異種配列の発現は、しばしば効率的でない。かなりの期間(しばしば、数週間のオーダー)が、目的の遺伝子産物の有用なレベルを得るために必要であり得る。対照的に、本発明の代謝的に活性化されたベクターは、転写のために二重鎖鋳型を効率的かつ迅速に形成し得、それにより導入遺伝子の発現の増強を提供し得、そして目的の遺伝子産物の蓄積に必要な時間を、数週間でなく数日に減少し得る。本発明の代謝的に活性化されたベクターは、導入遺伝子のより迅速かつ効率的な発現を提供するので、このベクターはまた、目的の遺伝子産物の迅速な発現が望ましい分野で公知の手順を容易にする。これらの手順としては、例えば、ゲノミクススクリーニング、標的の同定および標的の確認が挙げられる。
【0128】
いくつかの実施形態において、本発明の組換えウイルスベクターが、宿主細胞(例えば、細菌細胞もしくは真核生物細胞(例えば、哺乳動物細胞))に目的の配列を導入するために使用される。好ましくは、その組換えウイルスベクターは、パルボウイルスベクター(例えば、rAAVベクター)である。宿主細胞への導入は、その細胞を本発明の組換えウイルスベクターと、外因性核酸の取り込みを可能にしてその組換えウイルスベクターがその細胞に導入されるような条件下で接触させることによって、達成される。いくつかの実施形態において、本発明は、目的のポリヌクレオチドを宿主細胞中に、本発明の組換えウイルスベクターを含む組換えウイルス粒子(例えば、本発明のrAAVベクターを含む組換えAAV)を介して導入する方法を提供し、この方法は、その細胞をこの組換えウイルス粒子と、感染を可能にする条件下で接触させ、それによりその組換えウイルスベクターをその細胞中に導入する工程を包含する。外因性ポリヌクレオチド配列が、それによってその細胞中に導入される。
【0129】
他の実施形態において、本発明の組換えウイルスベクターが、宿主細胞(例えば、哺乳動物細胞)におけるポリヌクレオチドの発現(例えば、目的の遺伝子産物)のために使用される。これらの方法は、組換えウイルスベクター(好ましくはrAAVのようなパルボウイルスベクター)を含む細胞を、発現を可能にする条件に供し、それによりその組換えウイルスベクターの異種配列のコード領域が発現される工程を包含する。遺伝子産物としては、RNA(例えば、アンチセンスRNAおよびリボザイム)ならびにタンパク質(例えば、酵素、構造タンパク質、およびサイトカイン)が挙げられるが、これらに限定されない。上記のように、その遺伝子産物をコードする異種配列は、その発現を調節する1つ以上の配列(例えば、プロモーターおよびエンハンサー)に作動可能に連結され得る。
【0130】
いくつかの実施形態において、本発明の組換えベクターの導入および/またはこのベクターからの発現は、形質導入によって達成され、その形質導入において、本発明の組換えウイルスベクターを含む組換えウイルス粒子(例えば、本明細書中に記載されるようなrAAVを含むrAAV粒子)が、ウイルス感染および/または異種配列の発現に都合の良い条件下で宿主細胞と接触させられ、その組換えウイルスベクターがその宿主細胞中に導入され、かつ/または発現されるようになる。
【0131】
本発明のポリヌクレオチドが導入され得る細胞の型としては、真核生物細胞、原核生物細胞および古細菌が挙げられるが、これらに限定されない。真核生物細胞としては、動物細胞、植物細胞、酵母細胞が挙げられ、そして好ましい実施形態においては、哺乳動物細胞が挙げられ、より好ましくは、ヒト細胞、哺乳動物(ヒトを含む)の細胞(細胞株ならびに初代細胞(例えば、初代包皮線維芽細胞)を含む)が挙げられる。
【0132】
細胞への核酸の導入は、以下を含むがこれらに限定されない、当該分野で公知の方法により達成され得る:マイクロインジェクション、トランスフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム共沈、DEAE−デキストラン、脂質媒介性遺伝子移入、および粒子ボンバードメント。rAAVベクターポリヌクレオチドと接触した細胞の集団において、レポーター機能の発現は、ベクターポリヌクレオチドが細胞中に導入された細胞を同定する。
【0133】
多くの細胞(好ましくは、ほとんどの細胞)が組み込まれたベクターを保有する細胞の集団(すなわち、印がついた(marked)細胞のライブラリー)が、レポーター遺伝子を発現しない細胞に対してネガティブ選択を使用することによって、得られ得る。ネガティブ選択についての1つの例示的だが限定はしない方法は、そのベクターと接触した細胞を、そのレポーター遺伝子が耐性を提供する細胞傷害性薬物の存在下で増殖させる工程を包含する。この場合、そのレポーター遺伝子を発現しない細胞は、その薬物の存在下で増殖しない。
【0134】
細胞中へのベクターポリヌクレオチドの導入後、ベクターポリヌクレオチドが導入された細胞についての選択は、標準的方法に従って、実施され得る。例示として、レポーター遺伝子(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子)が使用される場合、細胞は、G418を含む培地で増殖させられる。このG418は、ネオマイシン耐性を発現しない細胞の増殖を妨げる細胞傷害性薬物である。その培地との適切な接触期間の後、ネオマイシン耐性細胞のクローンが得られ、そのクローンは、標準的細胞培養技術を使用してより大集団の細胞へと拡大するのに適切である。あるいは、lacZがレポーター遺伝子として使用される場合、印がついた細胞が、例えば、有色コロニー(色素原性β−ガラクトシダーゼ基質を使用する)または蛍光細胞分析分離装置(FACS)によって、β−ガラクトシダーゼ活性を発現する細胞について選択することによって、選択され得る。
【0135】
特定の実施形態において、本発明のウイルスベクター(例えば、rAAVベクター)が、宿主細胞への導入後に、その細胞のゲノム中に安定に組み込まれ得る。これらの状況において、導入遺伝子の長期の残留および発現が、正常な細胞代謝を妨害することなく得られる。従って、宿主細胞中で、導入遺伝子産物の持続的供給源が提供され、その遺伝子産物の進行的投与が達成される。これは、他の処置様式と比較して異なりかつ重要な利点であり、他の処置様式のほとんどは、一過性の利益しか付与しない。
【0136】
本発明の組換えウイルスベクターを哺乳動物細胞被験体に投与して、哺乳動物細胞中に目的の配列を導入し、そして/または哺乳動物細胞中で目的の遺伝子産物を発現するようにすることは、いくつかの様式で達成され得、そして例としてパルボウイルスベクター(特に、rAAV)を使用して、本明細書中に記載される。好ましい投与様式としては、組織もしくは解剖学的部位への組成物の筋肉内送達、静脈内送達、および直接注入が挙げられるが、これらに限定されない。注入は、例えば、動脈内、静脈内、筋肉内または関節内であり得る。血管の細胞を形質導入する方法は、例えば、PCT US97/103134に記載される。
【0137】
本発明の組成物の投与の別の好ましい様式は、鼻咽頭経路および肺経路を介する。これらとしては、吸入、経気管支経路および経肺胞経路が挙げられるが、これらに限定されない。本発明は、吸入による投与に適切な組成物(エアロゾル形態および粉末形態の種々の型を含むが、これらに限定されない)を含む。吸入による組成物の投与に適切なデバイスとしては、噴霧器および気化器が挙げられるが、これらに限定されない。
【0138】
有効量の組換えウイルスベクター(例えば、rAAV)(好ましくは、AAV粒子の形態で)が、処置の目的に依存して投与される。有効量は、単一用量または複数用量で提供され得る。低い割合の形質導入が治療効果を達成する場合は、この処置の目的は、一般的に形質導入のこのレベルに合うか、またはこのレベルを超える。いくつかの場合、形質導入のこのレベルは、約1〜5%の標的細胞のみの形質導入によって達成され得るが、より代表的には、20%の所望の組織型の細胞、通常少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約95%、そしてよりさらに好ましくは少なくとも約99%の所望の組織型の細胞によって達成され得る。
【0139】
ガイドとして、1回の注射当たりに投与されるパルボウイルス粒子(例えば、rAAV粒子)の数は、一般的に、1×106と1×1014粒子との間、好ましくは、1×107と1×1013粒子との間、より好ましくは1×109と1×1012粒子との間、そしてよりさらに好ましくは約1×1011粒子である。
【0140】
1回の筋内注射および静脈内投与当たりに投与されるパルボウイルス粒子(例えば、rAAV粒子)の数は、例えば、一般的に、少なくとも約1×1010、そしてより代表的には5×1010、1×1011、5×1011、1×1012、5×1012であり、そしていくつかの場合、1×1013個の粒子であり、これらは、DNAse耐性粒子とDNAse感受性粒子の両方を含む。DNAse耐性粒子に関して、用量は、一般的に1×106と1×1014粒子との間、より一般的には、約1×1010と1×1013粒子との間である。
【0141】
ウイルス送達の効果は、いくつかの判断基準によってモニターされ得る。例えば、生検または外科的切除によって取り出されたサンプルは、インサイチュハイブリダイゼーション、ベクター特異的プローブを用いたPCR増幅、および/またはRNAse保護法によって分析され得、ウイルスDNAおよび/またはウイルスmRNA(例えば、rAAVのDNAまたはRNA)を検出する。または、例えば、収集された組織、髄液および/または血清サンプルは、免疫アッセイ(免疫ブロッティング、免疫沈降、免疫組織学および/または免疫蛍光細胞の計数が挙げられるが、これらに限定されない)または機能ベースのバイオアッセイを用いて、組換えウイルスベクターによってコードされるタンパク質産物の存在に関してモニターされ得る。そのようなアッセイの例は、当該分野で公知である。
【0142】
本発明はまた、エキソビボ戦略が、本明細書中に記載される組換えウイルスベクターを投与して、導入遺伝子を個体(好ましくは、哺乳動物)へ送達するために使用される方法を提供する。そのような方法および技術は、当該分野で公知である。例えば、米国特許第5,399,346号を参照のこと。一般的に、細胞は、個体から取り出され、インビトロにおいて組換えウイルスベクター(例えば、rAAVベクター)によって形質導入され、そして次いで、形質導入された細胞は、個体(indiivdual)に再び導入される。エキソビボ送達に適している細胞は、当業者に公知であり、そして例えば、種々の型の幹細胞が挙げられる。
【0143】
特定の組成物、投薬量レジメン(すなわち、用量、タイミングおよび反復)および投与経路の選択は、被験体の臨床病歴、および状態の特性および処置される被験体の特性を含むがこれらに限定されない多数の異なる因子に依存する。特定の投薬量レジメンは、経験的に決定され得る。
【0144】
本発明の1つの実施形態において、本発明の組換えウイルスベクター(特に、本発明のrAAVベクターのようなパルボウイルスベクター)のコード配列の発現と関連する表現型を同定するための方法が提供され、この方法は、本発明の組換えウイルスベクターを含む宿主細胞を、発現を可能にする条件に供する工程;この組換えウイルスベクターを欠く細胞の表現型に対して、これらを発現する細胞の表現型を比較する工程を包含し;ここで、表現型の差異は、このコード配列の発現と関連した表現型を示す。別の実施形態において、表現型のスクリーニングは、宿主細胞を、本明細書中に記載される組換えウイルスベクターと、ベクターの取り込みを可能にする条件下で接触させ;このベクターの異種コード領域の発現に関してこの細胞をアッセイし;異種コード領域を発現する細胞の表現型を、このベクターを欠く細胞の表現型と比較することによって達成される。表現型の差異は、この異種配列を発現する細胞の表現型が、そのコード領域の発現と関連する表現型であることを示す。そのような表現型の特徴は、次に、このコードの機能に関する価値のある情報、ならびに健康におけるこのコード配列の潜在的な役割または疾患状態に帰するこのコード配列の潜在的な役割、および有用な薬物標的としての潜在的な役割を提供する。
【実施例】
【0145】
(実施例)
以下の実施例を、本発明の例示のために提供するが、限定するものではない。
【0146】
(実施例1.半分の大きさのAAVベクターの構築)
AAVベクター(AAV−cmv−イントロン−EGFP)(rAAV−GFP(0.5)としてもまた公知であり、GFP遺伝子を発現し、AAVゲノムのサイズの50%以下のサイズを有するように設計した)を、図5に示されるように構築した。EGFPを含むpEGFP−C1(Clontech)(図5C)からのNheI〜SalIフラグメントを、プラスミドpCI(Promega、図5B)から得られた大きいNheI〜SalIフラグメントに連結した。次いで、生じるプラスミド構築物を、BglIIおよびSmaIを用いて消化し、ヌクレオチド三リン酸およびT4 DNAポリメラーゼを用いて充填し(図5D)、そしてAAV−syn pA(図5A)からのXhoI〜SpeIフラグメント(これは、T4 DNAポリメラーゼを用いて充填されていた)に連結した。最終構築物(図5E)は、開始の5’ITRから末端の3’ITRまで2265塩基対である。
【0147】
(実施例2.全長サイズのAAVベクターの構築)
2つの全長サイズのAAVベクター(これは、GFP遺伝子を発現し、AAVゲノムのサイズとほぼ等しいサイズを有するように設計した)を、図6に示されるように構築した。
【0148】
第1の全長サイズのベクター(Sal−AAV−cmv−イントロン−EGFP、rAAV−GFP(Sal)としてもまた公知)を、λファージDNAの2.3kb HindIIIフラグメント(ヌクレオチド三リン酸およびT4 DNAポリメラーゼを用いて充填されている、図6B)を、実施例1に記載の半分のサイズのベクター(これは、SalIで消化され、そしてT4 DNAポリメラーゼを用いて充填されている)(図6A)に連結することによって構築した。最終全長サイズのSal−AAV−cmv−イントロン−EGFP構築物(図6C)は、開始の5’ITRから末端の3’ITRまで4587ヌクレオチド長である。
【0149】
もう一方の全長サイズのベクター(Cla−AAV−cmv−イントロン−EGFP、rAAV−GFP(Cla)としてもまた公知)は、2.3kb Cla1フラグメント(PCRによってλファージDNAから得られる、図6E)を、ClaIで消化された実施例1に記載のベクター(図6D)に連結することによって構築した。最終全長サイズのCla−AAV−cmv−イントロン−EGFP構築物(図6F)は、開始の5’ITRから末端の3’ITRまで4486ヌクレオチド長である。
【0150】
従って、これら全長サイズのベクターの各々は、半分のサイズのベクターと同じ配列を含み、合成ポリA付加部位の前(全長サイズSal)または後ろ(全長サイズCla)のいずれかに挿入されたλDNA由来のスタッファー(stuffer)フラグメントの付加を有する。
【0151】
(実施例3.半分のサイズのベクタープラスミドおよび全長サイズのベクタープラスミドからの発現分析)
前の実施例に記載された半分のサイズのプラスミドおよび全長サイズのプラスミドを使用して、ヒト293細胞およびHeLa細胞をトランスフェクトし、各構築物から得られたGFPタンパク質の発現レベルを評価した。AAV構築物由来の発現レベルを、プラスミドEGFP−C1(図5C)のトランスフェクション後に得られたレベルと比較した。等モル量の各プラスミドを、各細胞株に導入し、そしてトランスフェクションの48時間後に、GFP発現の量を、フローサイトメーターでの分析によって評価した。結果を表1に示す。
【0152】
【表1】

これらの結果は、概して、半分のサイズのベクターおよび全長サイズのSalベクターが、その遺伝子に関するモル基準において、参照プラスミドEGFP−C1から得られる細胞の数に対して、等しい数の細胞で発現されらことが示される。全長ClaプラスミドからのGFP発現は、概して低かった。従って、引続く実施例において、比較は、全長サイズのSalベクターと半分のサイズのベクターとの間で実施した。
【0153】
(実施例4.半分のサイズのベクタープラスミドまたは全長サイズのベクタープラスミドから誘導されるrAAV粒子)
半分のサイズのベクタープラスミドまたは全長サイズのベクタープラスミドのいずれかから誘導されるAAVベクター粒子の調製物を、プロデューサー細胞株C12を用いて産生した。C12は、repおよびcap遺伝子カセットを含むHeLa細胞株であり、ここで、RepおよびCap発現は、アデノウイルスでの感染に対して誘導される。C12細胞が、同時にアデノウイルスで感染され、そしてベクタープラスミドでトランスフェクトされる場合、このベクターゲノムは、増幅され、そしてAAV粒子にパッケージングされる。
【0154】
C12細胞を播種した40個のT225フラスコを、トランスフェクションの1時間前に5型アデノウイルスを用いて(1細胞あたり10感染の多重度で)感染した。細胞を、DEAE−デキストラン方法によってプラスミドDNAでトランスフェクトし、そして4時間、37℃で、10% CO2雰囲気下でインキュベートした。培地を吸引し、そして細胞を、5分間室温で、10% DMSOを含む培地を添加することによってショックを与えた。次いで、DMSO含有培地を、完全培地に置換し、そして細胞を、72時間、37℃、10%CO2でインキュベートした。次いで、細胞を培地中へ擦り取り、そして3,000rpmで10分間遠心分離することによってペレットにした。次いで培地を吸引し、そして、この細胞ペレットを、10mM Tris、10mM MgCl2、pH8.1に再懸濁した。この細胞を、1回の急速な凍結/溶解サイクル、続く超音波処理(各15秒の4パルス)によって溶解した。BENZONASE(登録商標)を、2,500ユニット/mlの濃度までこの溶解物に添加した。そしてこの溶解物を、37℃で1時間インキュベートした。CsClを、benzonase(登録商標)処理された溶解物に1.3710の最終屈折率まで添加した。この溶解物を遠心チューブに移し、0.5mlのミネラルオイルをかぶせ、そして旋回バケットローター(SW41)中、35,000rpm、15℃で48時間遠心分離した。チューブの底部から1cmの所から始まりアデノウイルスバンドまで(だが、このバンドは含まない)のCsCl勾配の領域をプールし、そして50mM Tris、5mM MgCl2、1mM EDTA、5%(v/v)グリセロール、100mM NaCl、pH7.4(TMEG+NaCl)に対して、3時間、一回緩衝液を交換しながら透析した。この透析されたプールを、カラムクロマトグラフィーによって精製し、そして画分を、組換えアデノ随伴ウイルス粒子(rAAV)のピーク画分を突き止めるためにアッセイした。ピーク画分を、プールし、そして5%(v/v)グリセロールを含むリンガー緩衝化塩溶液(RBSS)に対して、1回緩衝液を交換しながら3時間透析した。ベクターの透析されたプールを、0.22μmフィルターを通してフィルターにかけ、アリコートにわけ、そして−70℃で保存した。
【0155】
(実施例5.rAAV力価の分析およびrAAV感染性の決定)
ベクター調製物中のベクター粒子の数を、スロットブロットDNAハイブリダイゼーションアッセイを用いてDNAse耐性粒子(DRP)の数を測定することによって概算した。ベクターサンプル(40μl)を、32μ1の2×DNAse緩衝液(80mM Tris、pH7.5、12mM MgCl2、4mM CaCl2を含む)および8μ1のDNAse(10U/ml)を混合し、37℃で20分間インキュベートすることによって、DNAseで処理した。この反応を、4μlの0.5M EDTAおよび116μlの水を添加し、そして室温で5分間インキュベートすることによって停止した。次いで、この反応混合物を、室温で、1mlの変性溶液(0.4N NaOH、1μg/ml サケ精子DNA、10mM EDTA、pH8.0を含む)に添加した。この変性物質の一部(1μlおよび10μl)を、スロットブロット装置のハイブリダイゼーションフィルターに移した。プラスミド標準物質を、同時にトランスフェクトし、フィルターの領域をわけた。このブロットを、ランダムプライムされた32P−標識GFP DNAプローブとハイブリダイズさせた。DRPの数を、標準と比較することによって算出し、そして各調製物中のベクター粒子の量を、DRP/mlとして表現した。
【0156】
ベクター調製物の感染性を、クローン37(C37)細胞における複製アッセイを用いて決定した。Atkinsonら(1998)Nucleic Acids Res.26:2821−2823。C37細胞は、AAVのrep遺伝子およびcap遺伝子を含むHeLa細胞株である。C37細胞をアデノウイルスで感染する場合、rep遺伝子の発現は、同時感染されたAAVベクターの複製を可能にする。PCT公開WO 96/17947を参照のこと。
【0157】
ベクター感染性を決定するために、96ウェルプレートに播種されたC37細胞を、アデノウイルス5を用いて(1細胞あたり10感染性の多重度で)、rAAV−GFPベクターまたはtgACAPSNベクター(標準として)のいずれかの3倍の連続希釈と共に、同時感染した。tgACAPSNベクターは、以下の順序:AAV ITR、CMVプロモーター配列、ヒトアルカリホスファターゼcDNA、SV40プロモーター、細菌ネオマイシン耐性遺伝子、ポリアデニル化配列およびAAV ITRを含むrAAVベクターである。例えば、PCT WO 97/32990;PCT WO 99/20779;およびLynchら(1997)Circ.Res.80:497−505を参照のこと。感染の72時間後、変性溶液(0.4M NaOH、1mM EDTA)を、各ウェルに添加し、そしてこのプレートを、65℃で60分間インキュベートした。変性サンプルを、膜上に吸引ブロットし、続いて、0.4M NaOHを用いて洗浄し、そして核酸を、UV照射によって膜に架橋させた。このブロットを、ランダムプライムされた32P−標識CMV DNAプローブとハイブリダイズさせた。このベクター調製物の感染性(複製単位として表現される(Atkinsonら、前出))を、tgACAPSN標準との比較によって決定した。
【0158】
粒子数(DRP)および感染性の決定を使用して、このベクター調製物に関する、粒子:感染性の比率を算出した。半分のサイズのベクタープラスミドrAAV−GFP(0.5)から誘導されたrAAVに関して、この比率は58であり、そして全長サイズのベクターrAAV−GFP(Sal)から誘導されたrAAVに関して、この比率は52であった。従って、両方のベクターは、等しい感染性の粒子を生成した。半分のサイズのベクタープラスミドから誘導されたrAAVベクターを含むrAAVは、これらの実施例において「半分の複雑性」のrAAVベクター(または「0.5」)として記載する。
【0159】
(実施例6.rAAVベクターを含むrAAVによるヒト293細胞における発現)
ヒト293細胞を、半分の複雑性のrAAV(半分のサイズのrAAV−GFP(0.5)ベクタープラスミドから誘導されたrAAV)またはrAAV−GFP(Sal)ベクターから誘導されたrAAVのいずれかを用いて、感染させた。そして、GFPタンパク質を発現する細胞の数を、蛍光顕微鏡によって決定した。
【0160】
293A(7×103細胞/ウェル)を、48ウェルプレートに播種した。次の日、0.2mlの培地中のこの細胞を、1細胞当たり100DRPまたは1000DRPのいずれかの多重度で感染させた。感染の24時間後に、この培地を、0.5mlの新鮮培地に置換した。感染の48時間および72時間後に、GFPタンパク質を発現する細胞の数を、蛍光顕微鏡を用いて計数した。表2に示されるように、この結果は、半分の複雑性のベクターが、全長サイズのベクターと比較して、蛍光293細胞の割合によって示されるように、検出可能なレベルのGFPを発現する有意により高い能力を有することを示す。
【0161】
【表2】

(実施例7.rAAVベクターによるHeLa細胞における発現)
HeLa細胞を、半分の複雑性(rAAV−GFP(0.5)由来)のベクターまたはrAAV−GFP(Sal)ベクターのいずれかで感染し、そしてGFPタンパク質を発現する細胞の数を、蛍光顕微鏡およびフローサイトメトリーによって決定した。
【0162】
HeLa5細胞(2.5×104細胞/ウェル)を、24ウェルプレートに播種した。次の日、0.5ml培地中のこの細胞を、1細胞当たり100DRPまたは1000DRPのいずれかの多重度で感染させた。感染の24時間後に、この培地を、1.0mlの新鮮培地に置換した。感染の72時間後に、GFPタンパク質を発現する細胞の数を、蛍光顕微鏡によって、およびさらにフローサイトメトリーにおける分析の両方によって決定した。表3に示されるこの結果は、半分の複雑性のベクターが、両方の方法によって測定された場合、全長サイズのベクターと比較して、蛍光HeLa細胞の割合によって示されるように、検出可能なレベルのGFPを発現する有意により高い能力を有することが示される。両方の方法は、GFP発現の類似した概算を提供した。HeLa細胞は、概して、rAAVからは非効率的にのみ導入遺伝子を発現すると考えられている。より高いMOIにおいて、293細胞と比較する場合、HeLa細胞での発現において、有意により高い倍率の増加が存在した。
【0163】
【表3】

(実施例8.rAAV粒子におけるベクターDNAゲノムの分析)
ベクター粒子からのDNAゲノムを分析するために、DNAを、このベクター粒子から抽出し、そして変性条件下のゲル電気泳動(アルカリ性ゲル)または非変性条件下(中性ゲル)のゲル電気泳動によって分析した。電気泳動分析のための調製において、rAAVベクターサンプルを、SDSおよびプロテインキナーゼKで処理し、50℃で4時間インキュベートし、フェノール、フェノール/クロロホルム、およびクロロホルムで連続的に抽出した。次いで、核酸をエタノールを用いて沈澱させ、再懸濁し、そしてアルカリ性アガロースゲルまたは中性アガロースゲルのいずれかにロードした。
【0164】
アルカリ性ゲル電気泳動を、30mM NaOH、2mM EDTAの泳動緩衝液を用いて、30mM NaOHおよび2mM EDTA中、1.5%のSeaKem(登録商標)(FMC Products)アガロースゲルのゲル上で実施した。アルカリ性ゲルのためのローディング緩衝液は、30mM NaOH、2mM EDTA、10%グリセロールおよび0.1%ブロモクレオゾールグリーン(最終濃度)であった。アルカリ性ゲルを、泳動緩衝液を循環させながら、一晩、20ボルトで泳動した。
【0165】
中性ゲルは、0.45M Tris−ボレート、0.001M EDTA(TBE)中、1.0% SeaKem(登録商標)(FMC Products)アガロースであった。この中性ゲルを、一晩、40ボルトで泳動した。
【0166】
ゲルの分析を以下のように実施した。ゲルを、変性条件に供し、次いで、中和し、そしてナイロン膜上に一晩ブロットした。このブロットを架橋させ、そしてランダムにプライムされた32P標識GFPプローブと「quick hyb(登録商標)」溶液(Stratagene,La Jolla,CA,カタログ番号201220)を用いて、ハイブリダイズさせた。ハイブリダイズされたブロットを、x線フィルムに露出した。結果を図7に示す。
【0167】
図7Aに示されるように、アルカリ性ゲル分析は、半分のサイズのプラスミドから作製されたベクターゲノムを有するウイルス粒子の調製物が、ネイティブなAAVゲノムと同じ一本鎖の長さを有するDNA分子を含むことを示す(左から2番目のレーン)。これは、「スナップバック」型のRF分子がこれらのウイルス粒子にパッケージングされた場合に期待されることである。同様に、ウイルスゲノムが、変性条件に供され、次いで、中性pHにおいて分析される場合(図7Bに示される)に、半分のサイズのベクターから作製されたウイルス由来のゲノムの有意な部分が変性されず、非変性の半分のサイズの二重鎖フラグメント(図7B、トラック1)と類似した位置に移動する(図7B、トラック4)。
【0168】
従って、半分のサイズのプラスミド(すなわち、半分の複雑性)から作製されたrAAVウイルス粒子中に存在するrAAVベクターは、ネイティブなAAVゲノムと同じサイズの長さを有し、そしておそらく鎖内塩基対形成の形態で有意な二次構造を保持する。実際、本実施例において示されるこの分析は、そのようなベクターのゲノム全体が、塩基対形成されていることを示す。
【0169】
(実施例9.感染した細胞におけるベクターゲノムの分析)
ベクターゲノムを、半分の複雑性のベクター(すなわち、半分のサイズ(これは、約50%の配列複雑性を有する自己相補的な一本鎖ポリヌクレオチドを生じる)のいずれか由来のベクター)を含むか、またはコントロールの全長サイズベクターゲノムを含むrAAVウイルス粒子で、アデノウイルスとの同時感染ありか、またはなしで感染した後に、HeLa細胞から抽出した。抽出したベクターゲノムを、実施例8に記載されるようなアルカリ性および中性のアガロースゲル中で電気泳動することによって分析した。
【0170】
HeLa細胞(2.5×105細胞/ウェル)を、6−ウェルのプレートに播種した。次の日に、1mlの完全培地中で、実施例8に記載されるような全長サイズまたは半分のサイズのベクターゲノム(これは、約50%、またはその半分の配列複雑性を有する全長サイズの分子を生じる)のいずれか由来のrAAV含有rAAVベクターに細胞を感染させた。rAAV単独(細胞当たり、500のDNase耐性粒子の多重度)での感染の6、24、48および72時間後、またはアデノウイルスと一緒にrAAV(細胞当たり、5の感染単位の多重度)で感染した6時間後に、細胞を収集し、そしてベクターDNAを、Hirt SDS−高塩沈殿手順(high salt precipitation procedure)を使用して選択的に抽出した。手短に言うと、細胞を培地にこすり入れ、1,500rpmで10分間遠心分離し、0.5mlの溶解緩衝液(0.6% SDS、10mM EDTA)に再懸濁し、5MのNaClを0.15ml添加することによって1MのNaClに調整し、そして4℃で一晩インキュベートした。次いで、この溶解物を14,000rpmで10分間遠心分離し、そしてこの上清を新しいチューブに移した。20μlの10% SDSおよびプロテイナーゼKの10mg/ml溶液2.5μlの添加の後に、この溶解物を50℃で4時間インキュベートし、次いでフェノール、フェノール/クロロホルムおよびクロロホルムで抽出した。DNAを、この水相からエタノールで沈殿させ、そしてこの沈殿したDNAを50μlの水中に再懸濁した。再懸濁したDNAのアリコート(25μl)を、アルカリ性および中性のアガロースゲル上にロードした。電気泳動およびゲルの分析を、実施例8に記載されるように行った。
【0171】
この結果を図8に示し(図8Aは中性ゲルを示し、そして図8Bはアルカリ性ゲルを示す)、そしてこれは、感染細胞において、半分の複雑性(すなわち、半分のサイズのベクターゲノム由来)のrAAVが、おそらく鎖内の塩基対形成に起因して高度の二次構造(図8および8B、レーン4〜7)を有するコンホメーションで存在することを示す。さらに、半分の複雑性のベクターは、アデノウイルスの同時感染の存在または非存在に関わらず(図8Aおよび8B、レーン3)、感染の6時間後に早くもこの二本鎖の形態で存在し(図8Aおよび8B、レーン4)、一方、全長サイズのベクターはこの形態ではない(図8A、レーン11)。
【0172】
(実施例10.CsCl勾配におけるベクターストックの、密度ベースの細分化)
上記のベクター調製物において、rAAVベクターを、CsClにおけるバルク細分化、続いてカラムクロマトグラフィーによって精製した。より高度に精製されたベクター調製物を分析するために、さらなる調製物を産生し、そして以前の実施例に記載されるバルク分離ではなく密度によって細分化した。
【0173】
半分の複雑性のベクターおよびコントロール全長サイズベクターの両方を、アデノウイルス5(細胞当たり、10の感染性単位の多重度)で感染し、そしてベクタープラスミド(フラスコ当たり37.5μg)でトランスフェクトしたC12細胞の5つのT225フラスコから上記に記載されるように調製した。Benzonase(登録商標)で処理した溶解物を、前出の実施例4に記載されるように調製し、そしてCsClを用いて1.3710の最終屈折率まで調整した。この溶解物を遠心分離チューブに移し、0.5mlの鉱油でオーバーレイし、そして旋回バケットローター(SW41)中で、Beckman超遠心分離器において、15℃、35,000rpmで48時間遠心分離した。各200μlの21の画分を各勾配から集めた。各画分について、Abbe屈折計を用いて屈折率を決定し、そしてこの屈折率値から密度を算出した。ピーク画分を、この粒子の力価(DRP)および感染性(複製単位、RUで表される)を決定するために各画分をアッセイし、次いで粒子:感染性の比を得ることによって位置付けた。バルク−分画化全長サイズベクターと比較した、半分の複雑性のベクターについてのピーク画分の分析を、表4に示す。
【0174】
表4.CsCl勾配画分の分析
【0175】
【表4】

ピーク画分を、ベクターDNAのコンホメーションを決定するために、ゲル電気泳動によってさらに分析した。1.362g/ml〜1.394g/mlの範囲の密度を有する画分を、前出に記載のように個別に透析し、溶解し、そしてSDSおよびプロテイナーゼKで消化し、50℃で4時間インキュベートし、フェノール、フェノール/クロロホルム、クロロホルムで抽出し、エタノールで沈殿させ、そしてアルカリ性および中性のアガロースゲル上にロードした。ゲルを変性させ、中和し、そしてナイロン膜上にブロットした;核酸をこの膜に架橋させ、そしてこの膜をランダムにプライムした32P標識GFPプローブでハイブリダイズした。プローブ化ブロットを、フィルムおよび蛍光体スクリーンに曝露した。図9(図9Aは中性のゲルを示し、そして図9Bはアルカリ性のゲルを示す)に示されるこの結果は、半分の複雑性のベクターが、この粒子において2つのコンホメーション:半分のゲノム長の一本鎖(図9B、レーン3〜7)、または二重鎖(この鎖の各々は、半分のゲノム長である)を形成する全ゲノム長の鎖(図9A、レーン3〜7)のいずれかで存在することを示す。rAAV−GFP(0.5)ゲノムの後者のコンホメーションは、全長rAAV−GFP(Sal)ベクターを含む粒子の密度と同様の密度を有する粒子において、優先的に富化される(図9A、レーン3〜5を、図9A、レーン11および12と比較のこと)。
【0176】
(実施例11.密度細分化rAAVベクターによるHeLa細胞における発現)
半分の複雑性のベクターまたは全長サイズのベクター(これらは、実施例10に記載されるようなCsCl勾配における密度分画化によって調製された)による、ヒトHeLa細胞の形質導入を試験した。比較のために、実施例4に記載のバルクCsClおよびカラムクロマトグラフィー法によって精製された、半分の複雑性のベクターを使用した。陰性コントロールは、形質導入されていないHeLa細胞であり、そしてGFP発現プラスミドで安定に形質導入される細胞を陽性コントロールとして使用した。形質導入を、感染の72時間後にフローサイトメトリーによってGFP発現を測定することによってアッセイした。この結果を表5に表し、ここで「%形質導入」とは、GFPを発現する細胞のパーセンテージをいう。これらの結果は、この半分の複雑性のベクターが、全長サイズのベクターよりも少なくとも20倍効率的に形質導入することを示す。さらに、二重鎖分子を急速に形成し得るゲノムを含む粒子についての、これらの密度における富化と一致して、より高い発現レベルが、より高密度な画分由来の半分の複雑性のベクターを用いて観察された。
【0177】
表5.密度細分化rAAVベクターによるHeLa細胞の発現
【0178】
【表5】

この実施例における結果は、導入遺伝子のより高い発現レベルが、代謝的に活性なベクターを含むウイルスでヒト細胞を感染した後に得られることを示す。
【0179】
まとめると、前述の実施例における証拠は、ヒト細胞における発現が、鎖内の塩基対を形成するベクター(この実施例においては、半分の複雑性のベクター)を用いる場合、この構造を想定されないベクターを用いる場合よりも、非常に効率的であることを実証する。
【0180】
(実施例12.安定なプロデューサー細胞株からの、半分の複雑性のベクターの産生)
rAAVベクターの産生のための好ましい方法は、Clark et al.(1995)Hum.Gene Therapy 6:1329−1341;および米国特許第5,658,785号;同第5,858,775号に従って細胞を作成することである。前述のC12細胞株は、組み込まれたrepおよびcap遺伝子カセット、ならびに安定に組み込まれたベクターを含む。このような細胞がアデノウイルスで感染される場合、このベクターゲノムを切除され、複製され、そしてAAVキャプシドに充填され、これは感染細胞の溶解物から精製され得る。
【0181】
プロデューサー細胞株を、C12細胞(rep−cap遺伝子カセットを含むHeLa細胞、実施例4もまた参照のこと)をAAV−GFP(0.5)プラスミドDNAで形質導入することによって作製し、そしてクローン(KAO)を選択した。このKAO−GFPクローンを、大量の培養液に展開し、そしてアデノウイルス5型で感染することによってrAAV−GFP(0.5)を作製するために使用する。8つの異なる調製物において、平均収量は、KAO−GFP細胞当たり10,000rAAV−GFP(0.5)粒子より高かった。従って、本発明のベクターの産生は、安定なプロデューサー細胞株を用いる好ましい方法を使用して、商業規模で日常的に達成され得る。
【0182】
(実施例13.代謝的に活性なベクターを使用する導入遺伝子のインビボ発現)
この実施例において、腫瘍壊死因子レセプター(TNFR)の融合タンパク質および免疫グロブリン分子(Fc)の定常領域をコードするrAAVベクターポリヌクレオチド(sTNFR(p75):Fc(ENBREL,Immunex)と表される)は、上記の実施例に従って産生される。sTNFR(075):Fcについてのアミノ酸配列を図10に示す;米国特許第5,605,690号を参照のこと。
【0183】
研究を、ラットにおける関節炎の連鎖球菌細胞壁モデルにおけるrAAVベクター遺伝子転移を用いて行った。これらの研究で使用したラットモデルは、関節炎の研究について当該分野で認容されており、そしてFDA認容のモデルであり、そしてこれは抗サイトカイン治療を評価するために使用される。
【0184】
この関節炎モデルにおいて、この疾患を、4週齢(100g)の遺伝的に感受性の雌Lewisラットへの、グループA SCWペプチドグリカン−多糖類(PG−APS)(体重30μg)の腹腔内(i.p.)への1回の注射によって惹起した。Cromartie et al.(1977)J.Exp.Med 146:1585−1602。代表的に、このモデルは、末梢性かつ対称的な、悪化した再発および緩解のサイクルを伴う二相性多発関節炎を示し、そしてこれは慢性間接リウマチと臨床的および組織学的に同様である。足根関節、手根および足の小さな関節の急性炎症は、24〜48時間以内に発生し、これは4〜5日間持続し、次いで部分的に回復する。次いで、この急性の好中球優性の炎症性応答に続いて、約15日目に自発的に再活性化する慢性炎症が生じ、これは慢性の、進行性の、侵食性の滑膜炎へと進行する。多発関節炎に加えて、このPG−APSモデルは、肝臓および脾臓の慢性肉芽腫性炎症を誘導する。関節炎の重症度(関節指数(articular index)、AI)を、0〜4のスケールでの腫脹、紅斑、および歪曲の程度に基づく各足根関節および手根関節のスコアリング、ならびに全ての四肢のスコアを合計することによって決定する。並行して、後足腫脹を、水置換プレチスモメトリによって測定し得る。
【0185】
月齢雌Lewisラットに、上記のようにSCWを腹腔内注射する。このラットを、発症および疾患の進行について、AIスコアを記録することによって毎日モニターする。ラットが疾患の慢性段階に進行する場合(14〜15日目)、これらのラットをグループに分け、そして種々の用量(1×107〜1×1012DRP)を後足根関節に投与する。
【0186】
ラットを、疾患の発症および進行について毎日観察し、そして関節炎の重症度(AI)を、上記のように2〜3日毎に記録する。AAVrTNFR−Fc、AAVコントロールベクター、およびビヒクル処理グループにおける疾患の発生率および重症度を比較する。後足腫脹を、プレスチモメーターを用いて測定し、そして各グループにおける関与する足の数(関節カウント)を記録し、そしてグループ間で比較する。関節直径の測定に基づく関節炎の過程における、グループ間の差異の有意性を、分散(ANOVA)統計学的プログラムの分析を使用して分析する。全体の観察スコアにおける統計学的な有意性を、スチューデントの不対t検定を使用して確認する。
【0187】
ラットを、ベクターまたはビヒクルの投与の約60日後に屠殺する。AAVコントロールベクター処理グループまたはビヒクル処理グループと比較して関節炎の症状における有意な減少(AIおよび後足腫脹における>20%の減少)を示すAAVrTNFR−Fcベクター処理グループの各々からの動物を生かしておき、そして約12か月までの間、治療効率の持続についてモニターする。
【0188】
関節形態学(例えば、軟骨および骨の吸収)におけるベクターおよびビヒクル処理の効果を、X線撮影法、ならびにヘマトキシリンおよびエオシン(H/E)染色した関節の凍結切片の組織病理学的試験による死後によって評価する。これらの切片を、滑膜の過形成、パンヌス形成、関節軟骨破壊、および大量の線維組織の生成について記録する。関節切片をまた、滑膜空間における白血球浸潤の証拠について試験する。
【0189】
AAVrTNFR−Fc形質導入細胞に対する細胞媒介免疫応答の存在を、動物のサブセット由来の局所流入領域リンパ節および脾臓から細胞を単離することによって評価し、これから単一細胞懸濁物を作製する。T細胞増殖アッセイを、抗原の供給源としてrTNFR−Fc融合タンパク質を使用して行う。細胞媒介細胞傷害性を、安定にトランスフェクトされたrTNFR−Fc発現同遺伝子型Lewisラット細胞株(RT−1適合性)を標的として用いるクロム放出アッセイを使用して試験する。
【0190】
肝臓および脾臓を、慢性肉芽腫性炎症について試験し、そして疾患の発生率および重症度をグループ間で比較する。さらに、肺、心臓GI路(heart GI tract)および腎臓を含む他の重要な器官を、病理の徴候について検査し、続いてパラフィン包埋したH/E−染色した組織切片の組織病理学的分析によって検査する。
【0191】
ベクターの組織分布を試験するために、全ての重要な器官、卵巣および関節からDNAを調製し、そしてベクターDNAの存在を、ベクター特異的プローブを使用するサザンブロット分析によって、およびベクター特異的プライマーを使用するPCRによって試験する。
【0192】
全ての動物由来の血清サンプルを、ベクターの投与の前、直後、および1週間後に集め、そしてビヒクルを以下についてアッセイする:
(i)TNFR−Fcの存在およびレベル。酵素結合免疫吸着剤アッセイ(enzyme−linked immunoabsorbent assay)(ELISA)は、全rTNFR−Fc血清レベルを測定し、そして標準的TNF−αバイオアッセイは、rTNFR−Fcの生物活性を測定する。
【0193】
(ii)AAVキャプシドタンパク質に対して指向される中和抗体の存在およびレベル。ELISAによって抗キャプシド抗体の全レベルを測定し、そしてAAV感染性アッセイの抗AAVキャプシド媒介阻害によって、抗キャプシド中和抗体の存在を試験する。
【0194】
(iii)rTNFR−Fcタンパク質に対して指向される中和抗体および/または非中和抗体の存在およびレベル。ELISAによって抗rTNFR−Fc抗体の全レベルを測定し、そして標準的TNF−αバイオアッセイによってrTNFR−Fc生物活性の阻害について試験する。このアッセイにおいて、血清サンプルを、rTNFR−Fcタンパク質活性(細胞の死滅からTNF−αをブロックするための)の阻害について試験する。
【0195】
前述の発明は、理解の明快さのための例示および例の目的で、ある程度詳細に記載されてきたが、種々の変更および改変が本発明の精神から逸脱することなくなされ得ることが当業者に明らかである。従って、前述の記載および実施例は、本発明の範囲を制限するように解釈されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載の発明。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−172349(P2010−172349A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116794(P2010−116794)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【分割の表示】特願2001−515820(P2001−515820)の分割
【原出願日】平成12年8月8日(2000.8.8)
【出願人】(500107315)ターゲティッド ジェネティクス コーポレイション (3)
【Fターム(参考)】