説明

鏡像体に富むα−ヒドロキシカルボン酸及びα−ヒドロキシカルボン酸アミドの製造方法

本発明は、一工程において、シアノヒドリンの中間段階を経ての対応する酸/アミドへのカルボニル化合物の転化を含んでなる鏡像体に富むα−ヒドロキシカルボン酸及びアミドを製造する酵素的方法を記載する。本発明はまた、そのようにして操作する反応系及びこの反応の使用に有利である全細胞触媒を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鏡像体に富む(enantiomer-enriched)α−ヒドロキシカルボン酸及びα−ヒドロキシカルボン酸アミドを製造する方法に関する。特に本発明は、第一工程においてシアノヒドリンをオキシニトリラーゼ(oxynitrilase)の存在でシアン化物供与体、アルデヒド及びケトンから製造し、その際に前記シアノヒドリンを第二工程において、ニトリラーゼ(nitrilase)又はニトリルヒドラターゼにより対応する酸にさらに転化する方法に関する。さらに本発明は、そのようにして操作する反応系、並びに前記の二段階反応を実施することのできる新規生物に関する。
【0002】
鏡像体に富むα−ヒドロキシカルボン酸及びそれらのアミドは、有機化学の分野における重要な合成産物である。これらの化合物は、配位子合成のための前駆物質分子として、キラルなラセミ化合物−分割剤として、又は生物学的に活性な物質を製造するための中間産物として、成果を上げて使用されることができる。
【0003】
このタイプの化合物の古典的な合成は一般的に、シアノヒドリン反応によってその後の酸加水分解及びジアステレオマー塩形成を経るラセミ化合物の分割を伴って行われる(Bayer-Walter, Lehrbuch der Organischen Chemie, S. Hirzel Verlag Stuttgart, 第22版, p. 555)。該加水分解は場合によりアミドの段階で停止されることができるか、又は酸に関しては全て実施されることができる。
【0004】
光学活性α−ヒドロキシカルボン酸の製造は、今までに、キラルな触媒、例えばオキシニトリラーゼのような酵素の存在でのアルデヒドへのシアン化物供与体の不斉付加の形で実施されるシアノヒドリンの形成、続いて“古典的な”加水分解によるか、又は選択的にラセミのシアノヒドリンの製造、続いてニトリラーゼの存在でのエナンチオ選択的加水分解によっても得られている。酵素としてオキシニトリラーゼの存在でのアルデヒドを用いるシアン化水素酸の転化による、キラルなシアノヒドリンの形成の最初に挙げた変法は、例えば、Effenberger他により記載されている(F. Effenberger他, Angew. Chem. 1987, 99, 491-492)。ここに示された反応は、水と混和性でない有機溶剤相、好ましくは酢酸エチル、並びに水相からなる2相系中で行われる。該転化は、この場合に、少なくとも一部のアルデヒドについて、卓越した収率及び光学純度を伴い行われる。該シアノヒドリンの光学純度に関連して、酵素(R)−オキシニトリラーゼ及び(S)−オキシニトリラーゼの存在でのアルデヒドへのシアン化物供与体の酵素的付加は、既に徹底的に研究されている。選択的に、該反応は純粋に水性の系中で実施されることもでき、その際に作業は好ましくは低いpH値で行われる(U. Niedermeyer, M.R. Kula, Angew. Chem. 1990, 102, 423)。固定化酵素は既にこのタイプの反応にも使用されている(DE-PS 13 00 111)。有機媒体中で酵素的反応を行うことも試みられている(P. Methe他, US-PS 5,122,462; J. Am. Chem. Soc., 1999, 120, 8587; US 5,177,242)。さらに転化方法は次のものに見出すことができる:US-PS 5,122,462; Biotechnol. Prog. 1999, 15, 98 - 104; J. Am. Chem. Soc., 1999, 120, 8587)。付加的に、(S)−オキシニトリラーゼを固定化する方法も、それらの操作モードにおいて(R)−オキシニトリラーゼのそれに匹敵して開発されている。このようにして、ニトロセルロース−担体への結合の結果としての(S)−オキシニトリラーゼの固定化はEffenberger他により得られる(F. Effenberger他, Angew. Chem. 1996, 108, 493-494)。Andruski他は、多孔性膜への酵素の結合による固定化を説明する(US 5,177,242)。これらの、ある程度、綿密に見込みがあると提案された固定化酵素を用いる解決手段にもかかわらず、最近、非−固定化酵素を用いる研究を報告する刊行物が再び増えているようである(例えば、EP-A 0 927 766及びUS 5,714,356)。
【0005】
シアノヒドリンの生体触媒による不斉合成の過程で達成される顕著なエナンチオ選択性にもかかわらず、相当の欠点は、必要とされ、かつ強鉱酸での酸加水分解により“古典的に”実施される、その後の加水分解工程にある。これは、経済的及び生態学的の双方に問題を構成している多量の塩廃棄物をまねく。そのうえ、必要とされる加水分解条件は好ましくない、それというのも、数時間の長い反応時間及び高い温度の双方が要求されるからである。加水分解条件下ではラセミ化の高いリスクが存在する。
【0006】
所望の光学活性α−ヒドロキシカルボン酸及び光学活性α−ヒドロキシカルボン酸アミドを入手する選択的な変法は−前記のように−ラセミのシアノヒドリンの酵素的加水分解を含んでいる。
【0007】
この変換は、ニトリラーゼにより触媒されることができる。ニトリラーゼは、有機シアノ化合物を対応するカルボン酸へ変換することができる酵素である。それらはクラスE.C. 3.5.5.1に属し、かつとりわけ(+)−イブプロフェンの合成のために、商業的に使用される。公知技術水準の概要は、Enzyme Catalysis in Organic Synthesis, VCH, 1995, p. 367以降に見出すことができる。鏡像体に富むマンデル酸を製造するためのニトリラーゼの使用もYamamoto他により記載されている(Appl. Environ. Microbiol. 1991, 57, 3028-32)。
【0008】
ニトリルヒドラターゼはクラスE.C. 4.2.1.84に属する。それらはα,β−サブユニットからなり、かつ20個までの異なるユニットを有する多重結合の(multimeric)ポリペプチドとして存在しうる(Bunch A.W. (1998), Nitriles: Biotechnology, 8a巻, Biotransformations I, 6章, Rehm H.J., Reed G.編, Wiley-VCH, pp. 277-324; Kobayashi, M.; Shimizu, S. (1998) Metalloenzyme nitrile hydratase: structure, regulation, and application to biotechnology. Nature Biotechnology 16(8), 733-736)。多数の刊行物にはアミドへのニトリルの酵素的変換が示されている(EP 0 362 829 (Nitto); DE 44 80 132 (Institute Gniigenetika); WO 98/32872 (Novus); US 5,200,331; DE 39 22 137; EP 0 445 646; Enzyme Catalysis in Organic Synthesis, VCH, 1995, p. 365以降)。
【0009】
しかしながら、これらの選択的な方法も多数の欠点を有する。エナンチオ選択性はしばしばee>99%ではなく、しかしながらこのee>99%は特に薬剤学的基準の前提条件である。そのうえ、ニトリラーゼ及びニトリルヒドラターゼがシアン化物供与体の存在に過敏でありうるというリスクが存在するので、出発点は極めて純粋なシアノヒドリンでなければならない。
【0010】
前記の全ての方法の一般的な欠点は、該方法の二段階の本質であり、その場合に空時収量及び全方法の効率の明らかな減少をまねく。この二段階の方法は2つの再状態調節段階を含めて必要であった、それというのも、酵素的シアノヒドリン合成及び酵素的ニトリルけん化の反応条件の不適合性が想定されなければならなかったからである。
【0011】
本発明の対象は、鏡像体に富むα−ヒドロキシカルボン酸/α−ヒドロキシカルボン酸アミドを製造するための他の方法を記載することであった。この方法は、経済的及び生態学的の双方の観点から工業的規模で有利であるべきである。特に、使用される材料のコスト、頑強性(robustness)及び効率(例えば空時収量)に関して技術水準の方法より優れているべきであり、かつ先行技術水準の前記の欠点を回避すべきである。特に、これまでに全ての方法において生じている方法の二段階の本質は、回避されるべきである。
【0012】
これらの対象は、特許請求の範囲に挙げた方法において達成される。
【0013】
鏡像体に富むα−ヒドロキシカルボン酸又は鏡像体に富むα−ヒドロキシカルボン酸アミドを製造する方法において、出発点がシアン化物供与体、アルデヒド又はケトンであり、かつ後者が、オキシニトリラーゼ及びニトリラーゼ又はニトリルヒドラターゼの存在で反応が引き起こされるという事実によって、極度に意外でかつ、本発明によれば、特に有利な方法で、挙げた対象への解決手段に到達する。鏡像体に富むα−ヒドロキシカルボン酸/α−ヒドロキシカルボン酸アミドは、本発明による系を用いて極めて良好な収率で及び特に高く鏡像体に富んで得られることができる。本発明の時点で、記載されている酵素カスケードが、存在している反応媒体中でそのようにして有効に使用されることができることは当業者に決して公知ではなかった。これに関連して、特に、かなりの量の入手可能なシアン化物が、特にニトリラーゼ又はニトリルヒドラターゼに関して、先行技術水準から予想されるべきである阻害作用をもたらさないことは、特に意外であると考えられる。
【0014】
それゆえ、具体的な発明の一構成は、鏡像体に富むα−ヒドロキシカルボン酸を製造する方法において、オキシニトリラーゼ及びニトリラーゼの存在でシアン化物供与体がアルデヒド又はケトンを用いて転化されるという事実に関係する。
【0015】
同様に、鏡像体に富むα−ヒドロキシカルボン酸アミドは、オキシニトリラーゼ及びニトリルヒドラターゼの存在でシアン化物供与体、アルデヒド又はケトンから出発して得ることができる。
【0016】
この目的のために当業者に容易に思い出される全ての酵素がオキシニトリラーゼとして使用されることができる。選択は、Enzyme Catalysis in Organic Synthesis, K. Drauz, H. Waldmann編, VCH, 1995, p. 580及び次の頁から集められることができる。与えられた反応条件下で、長い耐用寿命及び十分な転化をもたらすものの使用が有利である。これらは、特に、ソルガム ビコロル(Sorghum bicolor;モロコシ)、ヘウェア ブラジリエンシス(Hevea brasiliensis;パラゴムノキ)及びマニホット エスクレンタ(Mannihot esculenta;キャッサバ)からなる群から選択される生物に由来するそれらのオキシニトリラーゼである。(R)−シアノヒドリンを製造するためには、名を挙げた微−生物由来又はアーモンド核(almond kernels)由来のオキシニトリラーゼが使用される。これに関連して、(S)−α−ヒドロキシカルボン酸を製造するためには、好ましくは(S)−シリーズのオキシニトリラーゼが使用され、逆に言えば、最終分子への十分な転化を保証することができるためであることに注意すべきである。
【0017】
ニトリラーゼとして、与えられた環境条件下でそれらが十分な安定性及び転化を保証するという条件で原則的には、同様に入手可能な全てのものが使用されることができる。選択は、Enzyme Catalysis in Organic Synthesis, K. Drauz, H. Waldmann編, VCH, 1995, p. 365及び次の頁から集められることができる。これらはとりわけ、ロドコッカス(Rhodococcus)株又はアルカリゲネス フェカーリス(Alcaligenes faecalis)からなる群から選択される生物に由来するものである。可逆的に作用するオキシニトリラーゼとの相互作用で、該ニトリラーゼは、カルボン酸へのニトリル官能基の不可逆的な転化をもたらす。このようにして、形成されるシアノヒドリンが平衡を奪われることが保証され、その際にどの成分が過剰量で使用されるかに依存して、アルデヒド又はケトン又はシアン化物供与体の完全転化をもたらす。該ニトリラーゼは、最終生成物中の所望の鏡像体純度を保証するために、できるだけ高くエナンチオ選択的な方法で反応すべきである。この場合に使用されるオキシニトリラーゼのエナンチオ選択性への要求はそれほど高くない。しかしながら、エナンチオ選択性が不十分であるニトリラーゼが使用される場合には、適切に区別するオキシニトリラーゼの存在を重要視すべきである。
【0018】
ニトリルヒドラターゼとして、与えられた環境条件下でそれらが十分な安定性及び転化を保証するという条件で原則的には、同様に入手可能な全てのものが使用されることができる。選択は、Enzyme Catalysis in Organic Synthesis, K. Drauz, H. Waldmann編, VCH, 1995, p. 365及び次の頁から集められることができる。これらはとりわけ、ロドコッカス(Rhodococcus)株、特にロドコッカス種(R. spec.)、ロドコッカス ロドクラウス(R. rhodochrous)及びロドコッカス エリスロポリス(R. erythropolis)からなる群から選択される生物に由来するものである。これに関連して、EP03001715.6及びそこに名が挙げられ、かつ好ましくは使用されるニトリルヒドラターゼが参照される。可逆的に作用するオキシニトリラーゼとの相互作用で、該ニトリルヒドラターゼはカルボン酸へのニトリル官能基の不可逆的な転化をもたらす。このようにして、形成されるシアノヒドリンが平衡を奪われることが保証され、その際にどの成分が過剰量で使用されるかに依存して、アルデヒド又はケトン又はシアン化物供与体の完全転化をもたらす。ニトリルヒドラターゼは、最終生成物中の所望の鏡像体純度を保証するために、できるだけ高くエナンチオ選択的な方法で反応すべきである。この場合に、使用されるオキシニトリラーゼのエナンチオ選択性への要求はそれほど高くない。しかしながら、エナンチオ選択性が不十分であるニトリルヒドラターゼが使用される場合には、適切に区別するオキシニトリラーゼの存在を重要視すべきである。さらなる酵素的又は古典的な加水分解の結果、この系を用いて製造された鏡像体に富むα−ヒドロキシカルボン酸アミドが、対応する酸へ転化されることができることに注意すべきである。これに関連して不十分な鏡像体純度がアミドの段階で生じる場合には、これは、エナンチオ選択的に働く別のアミダーゼを用いることにより改善されることができる。適しているアミダーゼはEnzyme Catalysis in Organic Synthesis, VCH, 1995, p. 367以降に見出すことができる。
【0019】
前記の酵素は、本発明による方法において、野生型として及び突然変異生成により改善されているさらに開発された突然変異体としての双方で適用されることができる。酵素の改善された安定性及び/又は選択性を生じさせることができる突然変異誘発性の方法は当業者に公知である。これらの方法は特に、飽和突然変異生成、ランダム突然変異生成、シャッフリング法並びに指定部位突然変異生成である(Eigen M. and Gardinger W. (1984) Evolutionary molecular engineering based on RNA replication. Pure & Appl. Chem. 56(8), 967-978; Chen & Arnold (1991) Enzyme engineering for nonaqueous solvents: random mutagenesis to enhance activity of subtilisin E in polar organic media. Bio/Technology 9, 1073-1077; Horwitz, M. and L. Loeb (1986) "Promoters Selected From Random DNA Sequences" Proceedings Of The National Academy Of Sciences Of The United States Of America 83(19): 7405-7409; Dube, D. and L. Loeb (1989) "Mutants Generated By The Insertion Of Random Oligonucleotides Into The Active Site Of The Beta-Lactamase Gene" Biochemistry 28(14): 5703-5707; Stemmer PC (1994). Rapid evolution of a protein in vitro by DNA shuffling. Nature. 370; 389-391 and Stemmer PC (1994) DNA shuffling by random fragmentation and reassembly: In vitro recombination for molecular evolution. Proc Natl Acad Sci USA. 91; 10747-10751)。‘改善された選択性’という用語は、本発明によれば、エナンチオ選択性の増加及び/又は基質選択性の減少を意味すると理解されるべきである。
【0020】
与えられたケースで考慮されている酵素は、均質に精製された化合物として、遊離形で適用するために使用されることができる。さらに、該酵素は、無損傷のゲスト生物の成分として又はホスト生物の分解され、かつ任意に高度に精製された細胞マス(cell mass)と一緒に使用されることもできる。固定化された形での酵素の使用も可能である(Bhavender P. Sharma, Lorraine F. Bailey and Ralph A. Messing, "Immobilisierte Biomaterialien - Techniken und Anwendungen", Angew. Chem. 1982, 94, 836-852)。固定化は有利には凍結乾燥により行われる(Dordick他 J. Am. Chem. Soc. 194, 116, 5009-5010; Okahata他 Tetrahedron Lett. 1997, 38, 1971-1974; Adlercreutz他 Biocatalysis 1992, 6, 291-305)。表面活性物質、例えばAerosol OT又はポリビニルピロリドン又はポリエチレングリコール(PEG)又はBrij 52(ジエチレングリコールモノセチルエーテル)の存在での凍結乾燥(Goto他 Biotechnol. Techniques 1997, 11, 375-378)はかなり特に好ましい。CLECsとしての使用も考えられる(St Clair他 Angew Chem Int Ed Engl 2000 Jan, 39(2), 380-383)。
【0021】
原則的には、本発明の具体的な方法は、純粋な水溶液中で実施されることができる。しかしながら、例えば、水に難溶性の基質に関して反応を最適化するために、水溶性有機溶剤の任意の部分を水溶液に添加することも可能である。エチレングリコール、DME又はグリセリンは、特にそのような溶剤として考慮の対象になる。しかし、さらに、溶剤混合物として水相を有している、多相系、特に2相系は、本発明による方法に利用されることができる。ここで、水溶性でない特定の溶剤の使用が有用であることが既に判明している(DE 10233107)。この点に関してこの中で述べたことはここで相応して適用される。
【0022】
原則的には、当業者は、反応の間に優勢である温度を自由に選択できる。当業者は好ましくは、生成物のできるだけ高い収量をできるだけ高い純度で及びできるだけ短い時間で受け取れるように導かれる。そのうえ、使用される酵素は、使用される温度で十分に安定であるべきであり、かつ該反応は、できるだけ高いエナンチオ選択性で進行すべきである。好熱性生物から誘導された酵素の使用に関して、80〜100℃の温度が明らかに、反応の過程での温度範囲の上限でありうる。水性系における下限として−15℃の温度が確かに実際的である。有利には、温度間隔は、10℃〜60℃、特に好ましくは20℃〜40℃に調節されるべきである。
【0023】
反応の間のpH値は、酵素安定性及び転化の速度に基づいて当業者により確かめられ、かつ本発明による方法のために適切に調節される。一般的に、酵素についての好ましい範囲はpH 3〜11から選択される。3.0〜10.0、特に6.0〜9.0のpH範囲が好ましくは得ることができる。
【0024】
別の構成において本発明は、オキシニトリラーゼ、ニトリラーゼ又はニトリルヒドラターゼ、水、シアン化物供与体及びアルデヒド又はケトンを有している酵素的反応系に関する。そのうえ場合により、有機溶剤の存在は、上記で詳細に記載されているように、可能であり得る。
【0025】
原則的には、同じ利点及び好ましい実施態様は、本発明による方法に関して既に述べたようにこの反応系に関して適用される。
【0026】
該反応系は有利には、例えば、撹拌タンク中で、撹拌−タンクカスケード中で又はバッチ操作及び連続的の双方で操作されることができる膜反応器中で使用される。
【0027】
本発明の範囲内で‘膜反応器’という用語は、触媒が反応器中に閉じこめられるのに対し、低分子量物質が反応器に供給されるか又は反応器を出ることができる任意の反応容器を意味すると理解されるべきである。これに関連して該膜は、反応室中へ直接統合されていてよく、又は別個のろ過モジュール中で外側に組み込まれていてよく、その際に反応溶液は連続的に又は断続的にろ過モジュールを流れ、かつ濃縮水は反応器中へ再循環される。適している実施態様は、とりわけ、WO 98/22415に及びWandrey他、Jahrbuch 1998, Verfahrenstechnik und Chemieingenieurwesen, VDI p. 151以降; Wandrey他、Applied Homogeneous Catalysis with Organometallic Compounds, Vol. 2, VCH 1996, p. 832以降; Kragl他, Angew. Chem. 1996, 6, 684及び次の頁に記載されている。
【0028】
バッチ操作モード及び半連続的操作モードに加えてこの装置において可能である連続的な操作モードは、所望のように、十字流ろ過モード(図1)において又は全量(dead-end)ろ過(図2)として実施されることができる。双方の変法は、原則的に技術水準に記載されている(Engineering Processes for Bioseparations, L.R. Weatherley編, Heinemann, 1994, 135-165; Wandrey他, Tetrahedron Asymmetry 1999, 10, 923-928)。
【0029】
本発明の別の態様は、オキシニトリラーゼ及びニトリラーゼ又はニトリルヒドラターゼについてクローニングされた遺伝子を有している全細胞触媒(whole-cell catalyst)により構成される。本発明による全細胞触媒は好ましくは、オキシニトリラーゼ又は選択的にニトリラーゼ又はニトリルヒドラターゼとして前記の代表例の1つを有するべきである。ニトリルヒドラターゼが存在する場合には、全細胞触媒は好ましくは同様にアミダーゼについてクローニングされた遺伝子を含有する。
【0030】
そのような生物の製造は当業者に公知である(PCT/EP00/08473; PCT/US00/08159; Sambrook他 1989, Molecular cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Balbas P & Bolivar F. 1990; Design and construction of expression plasmid vectors in E. coli, Methods Enzymology 185, 14-37; Vectors: A Survey of Molecular Cloning Vectors and Their Uses. R.L. Rodriguez & D.T. Denhardt, Eds: 205-225)。その中で述べられたプロセシングモードは、ここでは同等の方法で実施されることができる。一般的な手順(PCR、クローニング、発現等)に関して、次の文献及びその中のそれぞれの引用も参照されることができる:Universal GenomeWalker登録商標 Kit User Manual, Clontech, 3/2000及びその中で引用された文献; Triglia T.; Peterson, M.G. and Kemp, D.J. (1988), A procedure for in vitro amplification of DNA segments that lie outside the boundaries of known sequences, Nucleic Acids Res. 16, 8186; Sambrook, J.; Fritsch, E.F. and Maniatis, T. (1989), Molecular cloning: a laboratory manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York; Rodriguez, R.L. and Denhardt, D.T. (編) (1988), Vectors: a survey of molecular cloning vectors and their uses, Butterworth, Stoneham。
【0031】
そのような生物の利点は、双方の酵素系の同時発現であり、それにより1つのrec生物だけが該反応のために飼養される必要があるに過ぎない。それらの転化速度に関して酵素の発現を適合させるために、適切にコードする核酸断片は、異なるコピー数を有する異なるプラスミドに順応されることができ、及び/又は遺伝子の可変的に強い発現について可変的に強いプロモーターが使用されることができる。そのようにして適合されていた酵素系を用いて、適切な状況において阻害する方法で作用する、有利には中間体化合物の濃縮(accumulation)は生じず、かつ考慮される反応は、最適な全体速度で進行することができる。しかしながらこれは当業者に十分公知である(PCT/EP00/08473; Gellissen他, Appl. Microbiol. Biotechnol. 1996, 46, 46-54)。微−生物として、原則的には、当業者によりこのために考慮の対象になる全ての生物、例えば、酵母、例えばハンゼヌラ ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、ピチア種(Pichia sp.)、サッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、原核生物、例えばエシェリキア コリ(E. coli)、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)又は真核生物、例えば哺乳動物細胞、昆虫細胞が使用されることができる。エシェリキア コリ(E. coli)の株は好ましくはこのために使用されるはずである。次のものがかなり特に好ましい:エシェリキア コリ(E. coli) XL1 Blue、NM 522、JM101、JM109、JM105、RR1、DH5α、TOP 10又はHB101。極度に好ましい方法において、生物として、DE 101 55 928に名が挙げられたものが使用されることができる。
【0032】
アルデヒド又はケトンとして、脂肪族又は芳香族/ヘテロ芳香族の残基を有するものが使用されることができる。これらは、これらの残基が実際の転化に関して不活性であることが判明しているという条件で、任意に分枝鎖状であってよい及び/又は置換されていてよい。有利には一般式(I)の化合物が該反応において使用される。
【0033】
【化1】

[式中、
は(C〜C)−アルキル、(C〜C)−アルケニル、(C〜C)−アルキニル、(C〜C)−アルコキシアルキル、(C〜C)−シクロアルキル、(C〜C18)−アリール、(C〜C19)−アラルキル、(C〜C18)−ヘテロアリール、(C〜C19)−ヘテロアラルキル、((C〜C)−アルキル)1〜3−(C〜C)−シクロアルキル、((C〜C)−アルキル)1〜3−(C〜C18)−アリール、((C〜C)−アルキル)1〜3−(C〜C18)−ヘテロアリールを表すことができ、かつ
はH、Rを表すことができる]。
【0034】
シアン化物供与体として、与えられた状況下で当業者に入手可能な全ての化合物が考慮の対象になる。特に、できるだけ安価に得ることができるものが使用されるが、しかしながら、それにより、本発明による反応においてこれらの化合物の最適な転化が重要視されるべきである。シアン化物供与体は、定義によれば、与えられた反応条件下でCNイオンが放出されることを可能にする化合物である。特に、これらは、シアン化水素酸、金属シアン化物、例えばアルカリ金属シアン化物、トリメチルシリルシアニドを有している群から選択されるものである。
【0035】
一般的に、本発明による反応において手順は、該酵素がそれ自体として(野生型、組換え手段により調製された)、バイオマスとして又は無損傷のゲスト生物(例えば全細胞触媒)中で、アルデヒド又はケトンと一緒に水性反応マトリックス中に投入され、その後にシアン化物供与体、例えば、アルカリ金属シアン化物(シアン化ナトリウム)が添加されるような手順である。適切な反応条件下で対応するシアノヒドリンは、中間体を経て直ちに形成され、かつ鏡像体に富むα−ヒドロキシカルボン酸又はα−ヒドロキシカルボン酸アミドはそれから形成される。これらは、当業者に公知の方法に従って反応混合物から単離されることができる。これは好ましくは、相対的に高分子量の成分がろ過により除去され、かつ酸又はアミドが、結晶化により直ちに混合物から単離されるか、又は親油性の酸又はアミドの場合に、有機媒体中への抽出の工程が単離の前に挿入されるようにして行われる。イオン交換クロマトグラフィーを用いる酸の再状態調節も可能である。
【0036】
そのようにして、例えば、ベンズアルデヒドは、シアン化ナトリウムを用いて、>80%、好ましくは>85%、なおより好ましくは>90%、91%、92%、93%、94%、さらに好ましくは>95%、96%、97%の高い収率で及び>90%、91%、92%、93%、94%、さらに好ましくは>95%、96%、97%及び、極度に好ましくは、>98%、99%の鏡像体に富んで、対応するマンデル酸に変換されることができる。
【0037】
本発明による全細胞触媒を製造する目的で、当業者は、技術水準の予め記載された方法を使用する。詳細には、ニトリラーゼ又はニトリルヒドラターゼ並びにオキシニトリラーゼは、そのような全細胞触媒中に含まれている。関連遺伝子の配列は、公的に利用できる遺伝子データバンクから、例えばNCBI遺伝子データバンク(インターネット:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Genbank/GenbankOverview.html)から集められることができる。これに関連して、高いシアン化物耐性を有する、酵素、特にニトリラーゼ又はニトリルヒドラターゼが特に好ましい。これに関連して手順は好ましくは、対応する配列が、対応する必要な遺伝子配列、例えばプロモーター等と一緒に、プラスミド中へ又は幾つかのプラスミド上へ連結されるような手順である。この後に、前記のプラスミドは選択された生物中へ形質転換され、後者は複製され、ついで活性なクローンは−無損傷で又は粉砕されたバイオマスの形で−反応へ挿入される。本発明の時点で、そのようにして、記載されたような転化が、そのような良好な結果を伴い、可能であることは決して明らかではなかった。
【0038】
(C〜C)−アルキルと見なすべきものは、全ての結合異性体を含め、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル又はオクチルである。これらは、(C〜C)−アルコキシ、(C〜C)−ハロアルキル、OH、ハロゲン、NH、NO、SH、S−(C〜C)−アルキルでモノ置換又はポリ置換されていてよい。
【0039】
‘(C〜C)−アルケニル’という用語は、メチルを除く、少なくとも1つの二重結合を有する上記の(C〜C)−アルキル残基を意味すると理解されるべきである。
【0040】
‘(C〜C)−アルキニル’という用語は、メチルを除く、少なくとも1つの三重結合を有する上記の(C〜C)−アルキル残基を意味すると理解されるべきである。
【0041】
‘(C〜C)−シクロアルキル’という用語は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル又はシクロヘプチル残基等を意味すると理解されるべきである。これらは、1つ又はそれ以上のハロゲン及び/又はN、O、P、S原子を有する残基で置換されていてよく、及び/又は環中にN、O、P、S原子を有する残基、例えば、1−、2−、3−、4−ピペリジル、1−、2−、3−ピロリジニル、2−、3−テトラヒドロフリル、2−、3−、4−モルホリニルを有していてよい。後者は、(C〜C)−アルコキシ、(C〜C)−ハロアルキル、OH、ハロゲン、NH、NO、SH、S−(C〜C)−アルキル、(C〜C)−アルキルでモノ置換又はポリ置換されていてよい。
【0042】
‘(C〜C18)−アリール残基’という用語は、炭素原子6〜18個を有する芳香族残基を意味すると理解されるべきである。これらは、特に、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、ビフェニル残基のような化合物を含む。後者は、(C〜C)−アルコキシ、(C〜C)−ハロアルキル、OH、ハロゲン、NH、NO、SH、S−(C〜C)−アルキル、(C〜C)−アルキルでモノ置換又はポリ置換されていてよい。
【0043】
(C〜C19)−アラルキル残基は、(C〜C)−アルキル残基を介して分子に結合している(C〜C18)−アリール残基である。
【0044】
(C〜C)−アルコキシは、酸素原子を介して考慮される分子に結合される(C〜C)−アルキル残基である。
【0045】
(C〜C)−ハロアルキルは、1つ又はそれ以上のハロゲン原子で置換されている(C〜C)−アルキル残基である。
【0046】
(C〜C18)−ヘテロアリール残基は、本発明の範囲内で、環中にヘテロ原子、例えば、窒素、酸素又は硫黄を有する炭素原子3〜18個からなる5−、6−又は7−員の芳香族環系を表す。そのようなヘテロ芳香族環系と見なされるのは、特に、1−、2−、3−フリル、例えば1−、2−、3−ピロリル、1−、2−、3−チエニル、2−、3−、4−ピリジル、2−、3−、4−、5−、6−、7−インドリル、3−、4−、5−ピラゾリル、2−、4−、5−イミダゾリル、アクリジニル、キノリニル、フェナントリジニル、2−、4−、5−、6−ピリミジニルのような残基である。後者は、(C〜C)−アルコキシ、(C〜C)−ハロアルキル、OH、ハロゲン、NH、NO、SH、S−(C〜C)−アルキル、(C〜C)−アルキルでモノ置換又はポリ置換されていてよい。
【0047】
‘(C〜C19)−ヘテロアラルキル’という用語は、(C〜C19)−アラルキル残基に対応するヘテロ芳香族系を意味すると理解されるべきである。
【0048】
ハロゲンとしてフッ素、塩素、臭素及びヨウ素が考慮の対象になる。
【0049】
‘鏡像体に富む’という用語は、1つの光学対掌体が、>50%の量になる割合で、その他方のものとの混合物中に存在するという事実を表す。
【0050】
示されている構造は、1つの立体中心が存在する場合には、双方の可能な鏡像体に関係し、かつ1つを上回る立体中心が分子中に存在する場合には、全ての可能なジアステレオマーに関係し、かつジアステレオマーに関しては、そのもとに含まれる問題となる化合物の可能な2つの鏡像体に関係する。
【0051】
文献からの述べた一節は、この発明の開示により包含されると見なすべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化物供与体、アルデヒド又はケトンから出発して、オキシニトリラーゼ(oxynitrilase)及びニトリラーゼ(nitrilase)又はニトリルヒドラターゼの存在で、鏡像体に富むα−ヒドロキシカルボン酸又は鏡像体に富むα−ヒドロキシカルボン酸アミドを製造する方法。
【請求項2】
シアン化物供与体、アルデヒド又はケトンから出発して、オキシニトリラーゼ及びニトリラーゼの存在で、鏡像体に富むα−ヒドロキシカルボン酸を製造する方法。
【請求項3】
シアン化物供与体、アルデヒド又はケトンから出発して、オキシニトリラーゼ及びニトリルヒドラターゼの存在で、鏡像体に富むα−ヒドロキシカルボン酸アミドを製造する方法。
【請求項4】
ソルガム ビコロル(Sorghum bicolor)、ヘウェア ブラジリエンシス(Hevea brasiliensis)、マニホット エスクレンタ(Mannihot esculenta)及びアーモンド核(almond kernels)からなる群から選択される生物又は植物の成分のオキシニトリラーゼを使用する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
ロドコッカス(Rhodococcus)株又はアルカリゲネス フェカーリス(Alcaligenes faecalis)からなる群から選択される生物のニトリラーゼを使用する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項6】
ロドコッカス種(Rhodococcus spec.)、ロドコッカス ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)及びロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)からなる群から選択される生物のニトリルヒドラターゼを使用する、請求項1又は3記載の方法。
【請求項7】
反応を水性媒体中で6.0〜9.0のpH値で実施する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
反応を20〜40℃の温度間隔内で実施する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
オキシニトリラーゼ、ニトリラーゼ又はニトリルヒドラターゼ、水、シアン化物供与体及びアルデヒド又はケトンを有している、酵素的反応系。
【請求項10】
オキシニトリラーゼ及びニトリラーゼ又はニトリルヒドラターゼについてクローニングされた遺伝子を有している、全細胞触媒(whole-cell catalyst)。
【請求項11】
ニトリルヒドラターゼが存在する場合に、前記の全細胞触媒が同様にアミダーゼについてクローニングされた遺伝子を有している、請求項9記載の全細胞触媒。

【公表番号】特表2007−508005(P2007−508005A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530108(P2006−530108)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【国際出願番号】PCT/EP2004/011183
【国際公開番号】WO2005/040393
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(501073862)デグサ アクチエンゲゼルシャフト (837)
【氏名又は名称原語表記】Degussa AG
【住所又は居所原語表記】Bennigsenplatz 1, D−40474 Duesseldorf, Germany
【Fターム(参考)】