説明

鏡支持機構

【課題】交点オフセットが存在しても、弾性ヒンジに大きな曲げモーメントが作用することがなく、弾性ヒンジに大きい応力が発生し破壊することのない優れた鏡支持機構を得る。
【解決手段】鏡支持機構は、鏡の光軸方向に支持するアキシャル支持機構及び鏡の光軸に垂直な面内方向に支持するラテラル支持機構を備え、上記アキシャル支持機構と上記ラテラル支持機構とを組み合わせ、上記鏡全体としては空間的な剛体運動の6自由度が過不足無く拘束される条件になるように、上記鏡を支持する鏡支持機構において、上記ラテラル支持機構は、上記鏡の側面で上記鏡を面内方向に支持するラテラル拘束部材を有するとともに、上記鏡を上記ラテラル拘束部材を介して外枠構造体と接続され、上記ラテラル拘束部材は、略V字型をなす2本脚構造の一方の脚部材の両端部に弾性ヒンジを設け、他方の脚部材の片端部に弾性ヒンジを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大型の光学望遠鏡などに用いられる大型の反射鏡を支持する鏡支持機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の鏡支持機構は、鏡を光軸方向(アキシャル方向)に支持するアキシャル支持機構及び光軸に対する法面に平行な面内方向(ラテラル方向)に支持するラテラル支持機構を備える。ラテラル支持機構は、光軸に対する法面に平行なラテラル面内で略V字型をなす脚構造を用いて、略V字の谷位置で外部構造に接合されており、略V字の両端部で鏡に接合されている。このとき略V字型脚構造には、2本脚をなす2本の部材の各々ごとに、その両端近傍に弾性ヒンジが設けられている(例えば、非特許文献1、および非特許文献2参照)。
【0003】
非特許文献2において、鏡は、アキシャル支持機構とラテラル支持機構とによって、全体として空間的な剛体運動の6自由度(並進3方向、および回転3方向)が過不足無く拘束される条件になるように、支持されている。アキシャル支持機構は、鏡の裏面で鏡をアキシャル方向に支持しており、ラテラル支持機構は、鏡の側面で鏡をラテラル方向に支持している。
【0004】
ここでラテラル支持機構は、ラテラルサポートと、Aフレームとによって構成されており、ラテラルサポートとAフレームの接合点は、鏡の側面部位に円周角120度ごとに3箇所設けられ、これによって外枠構造体と接続されている。個々のAフレームは、略V字型の2本脚(2分岐)構造をなしており、その分岐の先端側2箇所(以下、分岐先端点)が鏡の側面に接合されており、分岐の根元側(以下、集約点)が、前記の、ラテラルサポートとAフレームの接合点になっている。このことによって、鏡をラテラル方向に支える際の部材荷重は、各々のラテラル支持機構ごとに、集約点から分岐先端点に向けて2分配される。これによって、鏡と支持機構との接合部に作用する荷重および応力を低減することができる。
【0005】
また、Aフレームは、2本脚構造のそれぞれの脚部材の両端部近傍に、局部的なくびれを形成することによって、弾性的にピボットを形成する、いわゆる弾性ヒンジを設けてあり、これによって、前記集約点と鏡とのアキシャル方向の変位差が生じても、Aフレームが弾性ヒンジにて変形することで上記の変位差を逃がしたり、Aフレームと鏡との熱膨張差が生じても、Aフレームの2本脚の相対角度が開いたり狭まったりすることでその変位差を逃がしたりすることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R.GEYL、他2名,「SOFIA Primary Mirror Fabrication & Testing」,Proceedings of SPIE,SPIE,2001,Vol.4451,p.126−130
【非特許文献2】H.Bittner、他3名,「SOFIA Primary Mirror Assembly:Structural Properties and Optical Performance」,Proceedings of SPIE,SPIE,2003,Vol.4857,p.266−273
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の鏡支持機構は、上記のように構成されているので、1箇所のラテラル方向支持機構を構成する2本の脚部材の両端付近に弾性ヒンジを各々設けているため、各々のラテラル方向支持機構は、ラテラル面内において弾性ヒンジを結節点とした4結節点リンク機構をなしている。
4結節点リンク機構は、結節点(ヒンジ)の回転剛性が、無視しうる程度に微小であれば、外力の作用に対して部材どうしの相互角度が自在に変化することができ、部材の長さだけでは形状が一意に定まらない、いわゆる形状不定の構造である。この形状不定は、構造各部の結節点の空間位置(この場合はラテラル面内における結節点の位置)が一意に定まるための拘束条件が、不足している状態であり、自由度が過剰にある状態、ということができる。
【0008】
実際の部材では、結節点が弾性ヒンジで構成されているので、回転剛性はゼロではなく、弾性ヒンジの素材や寸法で決まる、ある有意な回転剛性値を有する。従って、上記の形状不定の状況に際しては、実際の部材では、弾性ヒンジの回転剛性が、部材の相対角度を変化させようとする外力に対して抗してバランスすることで、形状が定まる。従って、弾性ヒンジ部には、曲げモーメントが作用しうることになる。
【0009】
この曲げモーメントによって、弾性ヒンジ部には大きな曲げ応力が発生しやすく、素材の強度上の限界を超える応力が発生する恐れがある。そのような曲げモーメントが極力作用しないように回避する方法としては、部材の軸線(部材上の弾性ヒンジの回転中心点を結ぶ直線)の交点と、外力の作用点とを合致させることが有効である。
【0010】
しかし、現実の部材の設計あるいは製造上の制約や、製造誤差などの存在により、前記軸線の交点と外力の作用点とを厳密に合致させることは必ずしも容易ではなく、不一致量(以下、交点オフセットという)が存在する場合も多い。交点オフセットがあれば、前記のように弾性ヒンジ部に曲げモーメントが作用して高い応力が発生し破壊に至る恐れが生ずるという問題点がある。
【0011】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、交点オフセットが存在しても、弾性ヒンジ部に大きな曲げモーメントが作用することがなく、従って弾性ヒンジ部に高い応力が発生し破壊する恐れがないという、優れた鏡支持機構を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る鏡支持機構は、鏡の光軸方向に支持するアキシャル支持機構及び上記鏡の光軸に垂直な面内方向に支持するラテラル支持機構を備え、上記アキシャル支持機構と上記ラテラル支持機構とを組み合わせ、上記鏡全体としては空間的な剛体運動の6自由度が過不足無く拘束される条件になるように、上記鏡を支持する鏡支持機構において、上記ラテラル支持機構は、上記鏡の側面で上記鏡をラテラル方向に支持するラテラル拘束部材を有するとともに、上記鏡を上記ラテラル拘束部材を介して、固定境界を提供する外枠構造体と接続され、上記ラテラル拘束部材は、略V字型をなす2本脚構造の一方の脚部材の両端部に弾性ヒンジを設け、他方の脚部材の片端部に弾性ヒンジを設ける。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る鏡支持機構は、ラテラル支持機構の各箇所の部材組合せを、ラテラル面内における3結節点リンクの構成にしたことにより、支持機構が形状不定の状態となることを回避することができるので、交点オフセットが存在しても、弾性ヒンジ部に大きな曲げモーメントが作用することがないという、従来にない優れた効果を奏するものである。
【0014】
また、この発明に係る他の鏡支持機構は、4結節点リンクの構成に加えて、2本脚部材の間を、両端に弾性ヒンジを有する別の部材で結合したことにより、支持機構が形状不定の状態となることを回避することができるので、交点オフセットが存在しても、弾性ヒンジ部に大きな曲げモーメントが作用することがないという、従来にない優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1に係る鏡支持機構を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るラテラル拘束部材を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係るラテラル拘束部材を示す上面図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係るラテラル拘束部材のラテラル面内での機能を原理的に説明する模式図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る鏡支持機構を、単純化して、両端がピンジョイントで結合された直線部材による平面トラス機構に変換した機構図を示す。
【図6】本発明の実施の形態1に係る鏡支持機構を、より厳密に、両端がピンジョイントで結合された直線部材による平面トラス機構に変換した機構図を示す。
【図7】従来例の鏡支持機構におけるラテラル支持部材を示した図である。
【図8】従来例の鏡支持機構におけるラテラル支持部材を、単純化して、等価なトラス構造におきかえた図である。
【図9】従来例の鏡支持機構におけるラテラル支持部材を、より厳密に、等価なトラス構造におきかえた図である。
【図10】本発明の実施の形態2に係る鏡支持機構のラテラル拘束部材を示す斜視図である。
【図11】本発明の実施の形態2に係る鏡支持機構のラテラル拘束部材のラテラル面内での機能を原理的に説明する模式図である。
【図12】本発明の実施の形態3に係る鏡支持機構の複合ラテラル拘束部材の構成を示す斜視図である。
【図13】本発明の実施の形態3に係る鏡支持機構の複合ラテラル拘束部材の構成を示す上面図である。
【図14】本発明の実施の形態3に係る鏡支持機構の複合ラテラル拘束部材の構成を、両端にピンジョイントを有する直線部材で構成された平面トラス構造に等価変換した機構図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明に係る鏡支持機構の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る鏡支持機構のラテラル拘束部材を鏡に設けた模式図である。図2は、この発明の実施の形態1に係る鏡支持機構のラテラル拘束部材の斜視図である。図3は、この発明の実施の形態1に係る鏡支持機構のラテラル拘束部材の側面である。
鏡支持機構は、鏡1を光軸方向(アキシャル方向)に支持する図示しないアキシャル支持機構及び光軸に対する法面に平行な面内方向(ラテラル方向)に支持するラテラル支持機構を備える。ラテラル支持機構は、図1に示すように、鏡1の側面の、側面円周上を概略3等分する位置(合計3箇所)に設けられる3個のラテラル拘束部材2を備える。
尚、ここで光軸方向の座標軸をZm、それに直交する鏡1の反射面内で直交する座標軸をXm軸、Ym軸とする。
【0017】
ラテラル拘束部材2は、図2に示すように、脚部材3及び他方の脚部材4を有しており、脚部材3および脚部材4の先端には鏡1との接合を担う接合パッド5A、5Bを有する。脚部材3および脚部材4の根元は、集積部6において連結されている。脚部材3の両端部近傍(1部材あたり合計2箇所)、および、脚部材4の先端側近傍(1部材あたり1箇所)には、2方向に局部的なくびれ形状を形成して弾性的なピボットを形成し2方向に曲がり易くする、2軸の弾性ヒンジ101が形成されている。
【0018】
すなわち、2軸の弾性ヒンジ101は、それぞれの脚部材ごとの局所座標系(脚部材の長手方向をXs軸、それに垂直なラテラル方向の軸をYs軸、Xs軸とYs軸に直交する方向をZs軸とする)において、Ys方向の極薄部と、Zs方向の極薄部を有することにより、Ys軸周りの回転(曲げ)および、Zs軸周りの回転(曲げ)が、生じやすいようになっている。
【0019】
また、脚部材4の集積部6側の端部近傍には、Ys方向のみの極薄部を有する、1軸の弾性ヒンジ102が設けられている。脚部材3および脚部材4の長さ方向の軸線(それぞれの脚部材の局所座標系のXs軸)の交点7は集積部6に位置し、この交点7の位置もしくはその近傍において、ラテラル拘束部材2は、図示されていない外部構造体に結合点8で結合されている。
【0020】
結合点8における局所的な座標系を定義し、鏡1の中心から、結合点8に向かう軸をRc軸、鏡軸方向に平行な軸をZc軸、鏡1の側面の概略接線方向の軸(Rc軸、およびZc軸に直交する軸)を、Tc軸とする。
結合点8において、ラテラル拘束部材2は、Zc軸周りに回転自由、Tc軸方向の並進自由度を固定、Rc軸方向の並進自由度を解放、Zc軸方向の並進自由度を固定する条件で外部構造体に結合されている。このとき、結合点8において、Zc軸周りの回転自由度以外の回転自由度は、外部構造体に対して拘束されていても解放されていてもかまわない。上記のような構成によって、鏡1は、ラテラル方向に支持されている。
【0021】
なお、鏡1は、ラテラル支持機構によるラテラル方向の支持のほかに、図示されていない、アキシャル方向の支持機構によって、ラテラル方向の支持とは独立に、アキシャル方向に支持されている。アキシャル方向の支持機構は、たとえば、非特許文献2に示されたものと同等のものを用いてもよい。
【0022】
このような構成によれば、鏡1は、外周上の3箇所で、各々の位置におけるローカル座標系のTc方向の並進自由度を固定したのと等価な拘束をうけることになり、鏡1全体として、ラテラル方向の並進自由度(Xm方向とYm方向)および光軸(Zm軸)周りの回転自由度を拘束されることと等価である。
また、図示しないアキシャル方向支持機構によって、鏡1は、Zm方向の並進自由度と、Xm軸周りおよびYm軸周りの回転自由度を拘束されているので、ラテラル拘束部材2による拘束条件とあわせて、全体で6自由度の剛体運動が拘束されていることと等価になる。
【0023】
その際に、鏡1とラテラル拘束部材2との結合点は、1個のラテラル拘束部材2ごとに各々2箇所(接合パッド5A、5B)に分散されているので、各々1箇所のみで結合する場合に比べて、鏡1とラテラル拘束部材2との結合点近傍に生ずる鏡1およびラテラル拘束部材2の応力を低減することができる。
【0024】
また、結合点8と鏡1とのアキシャル方向の変位差が生じても、ラテラル拘束部材2に設けられた弾性ヒンジ101、102がYs軸周りに変形して脚部材3、4の両端部のZ方向位置ずれを許容するように折れ曲がり変形する。
そのように変形することにより、アキシャル方向の変位差を逃がしたり、ラテラル拘束部材2と鏡1との熱膨張変位差が生じても、弾性ヒンジ101、102がZs軸周りに変形してラテラル拘束部材2の2本脚の相対角度が開いたり狭まったりすることでその変位差を逃がしたりすることができるので、そのような変位差が生じても、ラテラル拘束部材2から鏡1に余分な負荷が加わらないようにすることができる。
【0025】
図4〜図5は、ラテラル拘束部材2のラテラル面内での機能を原理的に説明するための模式図である。
ラテラル面内での動作を考えるにあたっては、アキシャル方向の動きは独立であり除外して考えることができるので、ラテラル拘束部材2の軸線を含むラテラル平面内に自由度を限定して考えることができる。従って、図4、図5においては、ラテラル面内の動きに限定して二次元平面内の動作のみを考える。
【0026】
図4は、ラテラル拘束部材2の、ラテラル平面内の動作を模式的に示した図であり、図4において、脚部材3、4の端部の弾性ヒンジ部101は近似的には回転フリーのピンジョイントとみなすことができ、機構的には結節点11A、11B、11Cとみなすことができる。脚部材4は、図4においては屈曲した形状で表されているが、機構学的に単純化すれば、両端にピンジョイントを有する直線部材4Aと等価であるため、図4の機構は、動作的には、図5に示すように3個の結節点を有するリンク機構と等価である。
【0027】
すなわち、図3の形状は、平面内における、3結節点の静定トラス構造とみなすこともできる。平面内の静定トラス構造であることは、以下のように自由度の過不足を判定することで判別できる。
判定条件は、「平面内のトラス構造において、結節点の個数がNs、結節点を結ぶ直線部材の本数がNm、拘束されている結節点の運動自由度の個数がNcのとき、式(1)を満足すればトラス構造は静定」である。そして、式(1)の左辺の値が0を超えると、自由度が過剰で、形状不定であり、逆に式(1)の左辺の値が0未満であれば、過拘束である。
【0028】
2Ns−Nm−Nc=0 (1)
【0029】
図3の場合には、結節点の個数Nsが3、結節点を結ぶ直線部材の本数Nmが2、拘束されている自由度の個数Ncは、結節点11A、および結節点11Cにおいて、各々、X方向とY方向に拘束されているので、Nc=2×2=4であり、式(1)の左辺2Ns−Nm−Nc=2×3−2−4=0となるので、図3の構成は静定であり、静定トラスと等価である。
【0030】
静定トラスと等価であれば、結節点において回転フリーに結合している部材の長さが定まれば、その構造の形状が一意に定まる。また、その際に結節点においてモーメントの伝達はない。そして、この状態で結節点11Bをある所望のラテラル方向に拘束すれば、このラテラル拘束部材2を介して、鏡1の側面をその所望のラテラル方向に拘束したのと等価になり、その際に結節点においてモーメントの伝達はない。従って、実際の構造では、結節点に相当する弾性ヒンジ部に対して、曲げモーメントが作用することがないという望ましい状態で、鏡1に対してラテラル方向の拘束を与えることが可能になるものである。
【0031】
なお、図5に図示したラテラル拘束部材2では、図4に図示したラテラル拘束部材2を、機構の自由度のみを考慮して等価な単純化をしたが、より厳密には、外部構造との接合点も結節点の一部として、等価なリンク機構に変換することも可能である。
【0032】
図6には、図2の機構をより厳密に、両端がピンジョイントで結合された直線部材による平面トラス機構に変換した機構図を示す。なお、このラテラル拘束部材2は外部構造と結合点8で接合されている。
図4における屈曲した脚部材4は、図6においては、結節点11B、11C、8、およびそれらの間を結ぶ直線部材によって構成される三角形トラスに置き換えられている。平面内における三角形トラスは、その形状が変わらないため、三角形トラスは、図4における屈曲した脚部材4と等価に置き換えされている。
【0033】
この場合について、式(1)による判定を行うと、結節点の個数Nsが4、部材数Nmが4、拘束されている自由度の個数Ncが、結節点11A、および11Cにおいて、各々、X方向、Y方向ともに拘束されているので、Nc=2×2=4であり、2Ns−Nm−Nc=2×4−4−4=0となっているので、静定トラスと等価であることが確認できる。従って、弾性ヒンジ部に対して、曲げモーメントが作用することがないという望ましい状態で、鏡1のラテラル方向の拘束を与えることが可能になるものである。
【0034】
図7、図8は、本発明に係る鏡支持機構のラテラル支持機構の特徴を明確に説明するために、従来例の鏡支持機構のラテラル支持機構の1つのラテラル拘束部材を示した図、およびそれを等価なトラス構造におきかえたものである。すなわち、従来例のラテラル拘束部材は、ラテラル平面内において4結節点リンクになっている。
また、図9は、同じく従来例のラテラル拘束部材を等価な平面トラス構造におきかえたものであるが、この図では、図6と同様にして、外部構造との接合点も結節点の一部として、等価な平面トラス機構に変換した機構図を示す。
【0035】
従来のラテラル拘束部材の自由度の判定を行うと、まず、図8では、結節点の個数Nsが4、部材数Nmが3、拘束されている自由度の個数Ncが、結節点11A、および11Cにおいて、各々、X方向とY方向に拘束されているので、Nc=2×2=4であり、2Ns−Nm−Nc=2×4−3−4=1となっているので、静定トラスとはなっておらず、自由度が1個余っている。
また、図9では、結節点の個数Nsが5、部材数Nmが5、拘束されている自由度の個数Ncが、結節点11A、および11Cにおいて、各々、X方向、Y方向ともに拘束されているので、Nc=2×2=4であり、2Ns−Nm−Nc=2×5−5−4=1となっているので、やはり、静定トラスとはなっておらず、自由度が1個余っている。
【0036】
すなわち、図8と図9に図示するラテラル拘束部材は、形状不定のトラス構造になっている。このことは、結節点で部材同士の相対的な回転がフリーであれば、形状が一意に定まらないことを意味しており、この構造を用いて、外部構造との結合点8をラテラル方向に拘束しても、鏡をラテラル方向に拘束することができない。
現実の構造では、結節点が弾性ヒンジで構成されているので、回転に対する剛性を有しており、その回転剛性の効果によって、外力と釣り合ってトラス構造の形状が定まることになる。
【0037】
従って、この構造を用いた場合には、外力が外部構造との結合点8に作用した場合には、必然的に、結節点の弾性ヒンジ部に、大きな曲げモーメントが作用しうることになる。曲げモーメントを軽減する便宜的な方法として、外力の作用点すなわち、外部構造との結合点8を、脚部材3および脚部材4の軸線の交点に合致させれば、そこに作用する並進外力は、弾性ヒンジ部に曲げモーメントを生じさせないようにすることができる。しかし、接合点と軸線交点との厳密な合致は必ずしも容易ではなく、オフセットが存在する場合も多い。このような交点オフセットがあれば、弾性ヒンジ部の曲げモーメントは回避できない。
【0038】
一方、本発明の実施の形態1に係るラテラル拘束部材2は、結節点が回転剛性を有していなくても形状が一意に定まる静定トラス構造に等価となっているため、外力が外部構造との結合点8に作用した場合でも、結節点の弾性ヒンジ部に、大きな曲げモーメントが作用することはない。従って、従来例に比較して、弾性ヒンジ部に発生する曲げ応力を軽減することができる。しかも、上記のような交点オフセットが存在していても、静定条件に影響はないので、弾性ヒンジ部の曲げモーメントが増大することはなく、弾性ヒンジ部に発生する曲げ応力を軽減することが容易にできる。
【0039】
なお、本発明の実施の形態1に係るラテラル拘束部材2は、鏡1に結合されている結節点11A、11Cの相対距離が、熱変形等によって変化した場合(ラテラル拘束部材2の熱膨張と、鏡1の熱膨張との相対的な差が生じた場合を含む)には、脚部材3と脚部材4の相対角度が変化することで、その熱膨張の差が吸収され、そのときに結節点が回転フリーであれば、部材内力の変化は生じない。
【0040】
結節点が弾性ヒンジ部で構成されている場合には、その回転剛性に応じた応力が弾性ヒンジ部に生じることになるが、一般に、鏡1およびそれに接合されるラテラル拘束部材2は、熱膨張率が極めて小さいものを使うことが一般的であるので、熱膨張差はごくわずかであり、相対角度の変化は極めて微量であることが多く、それによる弾性ヒンジ部の応力増大も微量である。
【0041】
実施の形態2.
図10は、この発明の実施の形態2に係る鏡支持機構のラテラル拘束部材22を示す斜視図である。図10において、図1と対応する部分には同一符号を付し、その詳細説明を省略する。
鏡1の側面には、側面円周上を概略3等分する位置(合計3箇所)に、図10に示す構成のラテラル拘束部材22が設けられている。鏡1に対するラテラル拘束部材22の配置は、図1におけるラテラル拘束部材2と同じである。
【0042】
この発明の実施の形態2に係るラテラル拘束部材22は、脚部材3および他方の脚部材14を有しており、脚部材3および脚部材14の先端部には鏡1との接合を担う接合パッド5A、5Bを有する。
脚部材3および脚部材14の根元側は、集積部6において一体化されている。脚部材3および脚部材14の両端部近傍(1部材あたり2箇所)には、各々、2軸の弾性ヒンジ101が形成されている。これら2軸の弾性ヒンジ101の構成は、実施の形態1におけるものと同等である。
【0043】
さらに、この実施の形態2に係るラテラル拘束部材22は、脚部材3および脚部材14のそれぞれの中間部同士を結合する、連結部材15が設けられており、その連結部材15の両端部近傍(すなわち、脚部材3あるいは脚部材14との接合点の近傍)には、2軸の弾性ヒンジ101が設けられている。
【0044】
脚部材3および脚部材14の長さ方向の軸線(それぞれの脚部材の局所座標系のXs軸)の交点7は集積部6にあり、この交点7の位置において、ラテラル拘束部材22は、図示されていない外部構造体に対して結合点8で結合されている。
結合点8における局所的な座標系を定義すると、鏡1の中心から、結合点8に向かう軸をRc軸、鏡軸方向に平行な軸をZc軸、鏡の側面の概略接線方向の軸(Rc軸およびZc軸に直交する軸)を、Tc軸とする。
【0045】
結合点8において、ラテラル拘束部材22は、Zc軸周りに回転自由で、Tc軸方向の並進自由度を固定、Rc軸方向の並進自由度を解放、Zc軸方向の並進自由度を固定する条件で外部構造体に結合されている。このとき、結合点8において、Zc軸周りの回転自由度以外の回転自由度は、外部構造体に対して拘束されていても解放されていてもかまわない。上記のような構成によって、鏡1は、ラテラル方向に支持されている。
【0046】
なお、鏡1は、ラテラル拘束部材22を介したラテラル方向の支持のほかに、図示されていない、アキシャル方向の支持機構によって、ラテラル方向の支持とは独立に、アキシャル方向に支持されている。アキシャル方向の支持機構は、たとえば、非特許文献2に示されたものと同等のものを用いることができる。
【0047】
図11は、図10に示したラテラル拘束部材22のラテラル面内での機能を原理的に説明するための模式図である。
図10において、中間部に分岐をもち、弾性ヒンジ101を介して連結部材15に結合されている脚部材3、14は、図11において、3角形トラスに等価変換されている。図11においては、機構としての動作を分かり易くするため、形状を変化しない三角形トラス部分(実構造では、結節点を3箇所以上有しつつ、形状の変化しない剛体部材と考えることができる部分)には、ハッチングを施してある。
【0048】
図11の構造に対して、式(1)の判定をおこなうと、結節点の個数Nsが7、部材数Nmが10、拘束されている自由度Ncは、結節点11A、および11Cにおいて、各々、X方向、Y方向ともに拘束されているので、Nc=2×2=4であり、2Ns−Nm−Nc=2×7−10−4=0となっているので、静定トラスと等価である。
【0049】
従って、本発明の実施の形態2に係るラテラル拘束部材22が静定トラスと等価であるから、本発明の実施の形態1に係るラテラル拘束部材22と同様の効果により、従来例に比較して、弾性ヒンジ部101に発生する曲げ応力を軽減することができ、しかも、前記のようなオフセットが存在していても、静定条件に影響はないので、弾性ヒンジ部の曲げモーメントが増大することはなく、弾性ヒンジ部101に発生する曲げ応力を軽減することが容易にできる。
【0050】
なお、この実施の形態2において、連結部材15は、図において左右が非対称となるように斜めに傾いた配置をなしている。実施の形態1で述べたように、鏡1に結合されている結節点11A、11Cの相対距離が、熱変形等によって変化した場合(ラテラル拘束部材22の熱膨張と、鏡1の熱膨張との相対的な差が生じた場合を含む)には、脚部材3と脚部材14の相対角度が変化することで、その熱膨張の差が吸収される。その際に、連結部材15の初期角度が、左右対称となる角度であったとすると、結節点11Aと11Cの相対距離が離れる方向の形状変化ができないため、熱膨張差を逃がせる方向が、限定されてしまう。本実施の形態のように非対称形状をあらかじめ形成しておくことにより、結節点11Aと11Cの相対距離が離れる方向にも、近づく方向にも変化することができるので、双方向の熱膨張差を吸収することができる。
【0051】
実施の形態3.
図12、図13は、本発明の実施の形態3に係る鏡支持機構の複合ラテラル拘束部材の構成を示す斜視図および上面図である。図12、図13において、前出の図と対応する部分には同一符号を付し、その詳細説明を省略する。
この発明の実施の形態3に係る複合ラテラル拘束部材30は、実施の形態1に係るラテラル拘束部材2の構成と同様の構成の2本脚構造(第1の2本脚構造31、および第2の2本脚構造32とする)を2組備え、近接させて配置し、鏡1の側面に接合パッド5A、5B、5C、5Dを接合する。また、2組の2本脚構造31、32の集積点に接合パッドが接合される第3の2本脚構造33を備える。
【0052】
第3の2本脚構造33は、ラテラル支持機構と同様に、ラテラル平面内においては、Zs方向に極薄部を有する弾性ヒンジ部103により、3結節点リンクと等価な静定な構成をなすものである。但し、第3の2本脚構造33においては、冗長を避けるため、Ys軸周りの弾性ヒンジは省略されている。
【0053】
第3の2本脚構造33の集積点34の結合点35に、図示していない外部構造体が接続され、ラテラル方向の自由度を拘束される。
また、近接させた2組の2本脚構造31、32において、近接する2本の脚部材36、37は、中間部分において、軸線が同一のラテラル平面内にありながら立体的に交差できるよう、脚部材36、37は、中間部分が互いに厚さを一部薄くするか、または部分的に屈曲させるかしてあり、互いに相手部材の空隙を通るように構成されている。
【0054】
この発明の実施の形態3に係る複合ラテラル拘束部材30は、3組の2本脚構造31、32、33を階層的に組み合わせた構造体である。そして、複合ラテラル拘束部材30が3組、鏡1の側面3箇所に配置されてラテラル支持機構となり、別途設けられるアキシャル支持機構と組み合わせて、全体として鏡1の剛体運動の6自由度を拘束することは、実施の形態1と同様である。
【0055】
ここで、複合ラテラル拘束部材30について、式(1)の判定条件を適用する。判定条件の適用を明快にするため、図12の構成を、両端にピンジョイントを有する直線部材で構成された平面トラス構造に等価変換すると、図14のごとくなる。図14の平面トラス構造に対して式(1)の判定条件を適用すると、結節点の個数Nsが10、部材数Nmが12、拘束されている自由度Ncが、結節点4箇所において、各々、X方向、Y方向ともに拘束されているので、Nc=2×4=8であり、2×Ns−Nm−Nc=2×10−12−8=0となり、静定トラスと等価である。
【0056】
上記の構成によれば、平面上の静定トラス構造と等価な構造によって、鏡1の側面を拘束しているので、実施の形態1と同様に、外力が外部構造との結合点35に作用した場合でも、結節点の弾性ヒンジ部に、大きな曲げモーメントが作用することはない。従って、従来例に比較して、弾性ヒンジ部に発生する曲げ応力を軽減することができる。
しかも、上記のようなオフセットが存在していても、静定条件に影響はないので、弾性ヒンジ部の曲げモーメントが増大することはなく、弾性ヒンジ部に発生する曲げ応力を軽減することが容易にできる。
【0057】
しかも、この実施の形態によれば、鏡1とラテラル拘束部材との接合点の個数が、1組のラテラル拘束部材あたり、2個であったものが4個に増大できているので、たとえば重力がラテラル方向に作用する場合などに1箇所あたりの接合点にかかる負荷荷重が分散される。従って、鏡に発生する応力を軽減することができ、一般的に脆弱なガラス等の素材で構成される鏡の破壊を防止することができる。
【0058】
また、同じく1箇所あたりの負荷荷重が分散されることにより、接合パッドと鏡1との間を接着によって接合する場合において、接合部の荷重が接着強度限界を上回って破壊されることを防止できる。
また、実施の形態3に係る複合ラテラル拘束部材は、脚部材36、37の一部を立体的に交差できる形状として、近接する脚部材36、37を交差させて配置しているので、交差させずに配置した場合に比べて、鏡1とラテラル支持機構の接合点の分布する範囲を狭めることができるとともに、接合点の間隔を等間隔にすることが容易にできる。このことによって、実施の形態3に係るラテラル拘束部材の大きさを小型化でき、かつ、接合点の間隔を均等に分散したり、所望の間隔に配置したりできるので、接合点が過度に近接して接合部の鏡の応力が過大になることを防止できる。
【0059】
なお、上記の実施形態では、複合ラテラル支持機構を構成する第一、第二、第三の2本脚構造を、第一の実施例に示したのと同等な3結節点リンク構造としたが、これを、第二の実施形態に示したのと同等な、4結節点リンクに連結部材を追加した機構を用いても、同等の効果を発揮できる。
【符号の説明】
【0060】
1 鏡、2 ラテラル拘束部材、3、4、14、36、37 脚部材、4A 直線部材、5A、5B 接合パッド、6 集積部、7 交点、8 結合点、11A、11B、11C 結節点、15 連結部材、22 ラテラル拘束部材、30 複合ラテラル拘束部材、31、32、33 2本脚構造、34 集積点、35 結合点、101、102、103 弾性ヒンジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡の光軸方向に支持するアキシャル支持機構及び上記鏡の光軸に垂直な面内方向に支持するラテラル支持機構を備え、上記アキシャル支持機構と上記ラテラル支持機構とを組み合わせ、上記鏡全体としては空間的な剛体運動の6自由度が過不足無く拘束される条件になるように、上記鏡を支持する鏡支持機構において、
上記ラテラル支持機構は、上記鏡の側面で上記鏡をラテラル方向に支持するラテラル拘束部材を有するとともに、上記鏡を上記ラテラル拘束部材を介して、固定境界を提供する外枠構造体と接続され、
上記ラテラル拘束部材は、略V字型をなす2本脚構造の一方の脚部材の両端部に弾性ヒンジを設け、他方の脚部材の片端部に弾性ヒンジを設けることを特徴とする鏡支持機構。
【請求項2】
鏡の光軸方向に支持するアキシャル支持機構及び上記鏡の光軸に垂直な面内方向に支持するラテラル支持機構を備え、上記アキシャル支持機構と上記ラテラル支持機構とを組み合わせ、上記鏡全体としては空間的な剛体運動の6自由度が過不足無く拘束される条件になるように、上記鏡を支持する鏡支持機構において、
上記ラテラル支持機構は、上記鏡の側面で上記鏡をラテラル方向に支持するラテラル拘束部材を有するとともに、上記鏡を上記ラテラル拘束部材を介して、固定境界を提供する外枠構造体と接続され、
上記ラテラル拘束部材は、略V字型をなす2本脚構造の両方の脚部材の両端部にそれぞれ弾性ヒンジを設け、上記2本の脚部材間を連結するとともに、両端に弾性ヒンジを有する連結部材を設けたことを特徴とする鏡支持機構。
【請求項3】
鏡の光軸方向に支持するアキシャル支持機構及び上記鏡の光軸に垂直な面内方向に支持するラテラル支持機構を備え、上記アキシャル支持機構と上記ラテラル支持機構とを組み合わせ、上記鏡全体としては空間的な剛体運動の6自由度が過不足無く拘束される条件になるように、上記鏡を支持する鏡支持機構において、
上記ラテラル支持機構は、上記鏡の側面で上記鏡をラテラル方向に支持する複合ラテラル拘束部材を有し、
上記複合ラテラル拘束部材は、略V字型をなす2本脚構造の2本のラテラル拘束部材と略V字型をなす2本脚構造部材を有し、
上記ラテラル拘束部材は、略V字型をなす2本脚構造の一方の脚部材の両端部に弾性ヒンジを設け、他方の脚部材の片端部に弾性ヒンジを設け、
2本の上記ラテラル拘束部材は、軸線が同一のラテラル平面内に位置し、
一方の上記ラテラル拘束部材の一方の上記脚部材と他方のラテラル拘束部材の一方の上記脚部材が交差し、
上記2本脚構造部材は、軸線が上記ラテラル拘束部材の軸線と同一のラテラル平面内に位置するとともに、2個の脚部材の一端同士で接続され、且つ他端で上記ラテラル拘束部材の脚部材に接合されることを特徴とする鏡支持機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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