説明

鏡支持機構

【課題】弾性ヒンジを有する2本の脚の軸線交点とラテラル支持点が厳密に合致していない場合にも、弾性ヒンジ部に大きな曲げモーメントが発生しない鏡支持機構を得る。
【解決手段】鏡支持機構は、鏡の面内方向の動きを前記鏡の外周で拘束するとともに、部材軸線がV字型となるように該面内に配置される2本の弾性ヒンジ脚31および2本の該弾性ヒンジ脚を結合する結合部32から構成され、前記鏡と架台を結合する鏡支持機構において、前記弾性ヒンジ脚は両端にそれぞれ該部材軸線に対して2方向の弾性ヒンジを有し、2本の該弾性ヒンジ脚それぞれの一方の片端部が前記鏡の外周に接合され、他方の片端部が前記結合部を介して前記架台に接合され、前記結合部が前記弾性ヒンジ脚と前記架台との接合箇所の相対的な動きを、該面内での回転については拘束し、2本の前記弾性ヒンジ脚の軸線交点と前記鏡の中心を結ぶ方向については自在にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光学望遠鏡の鏡を支持する鏡支持機構に関するものであり、特に鏡の面内の支持機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大型光学望遠鏡では、荷重が作用する環境の中で鏡面を歪ませずに、様々な方向に鏡を保持する鏡支持機構が必要とされている。特に、鏡の面内(以下、ラテラルと称す)方向を支持するときに、荷重が集中することにより歪みが大きくなったり、鏡が壊れたりするなどの問題を解決するため、過剰な拘束にならないようにしながら、荷重を分散することができる安定した鏡支持機構が必要とされている。また、この鏡支持機構には熱変形により発生する鏡の歪みを低減する工夫も必要とされている。
【0003】
従来の鏡支持機構は、部材端部に弾性ヒンジを有する2本脚構造を鏡の側面3箇所に固定し、その2本の脚の軸線が交わる交点の位置を、ラテラル支持アームで鏡の外周接線方向に拘束することによって、ラテラル方向の動きを拘束する。1つの鏡支持機構が2本の脚で鏡に接合することで、荷重を分散することができる。また、各脚の弾性ヒンジは過剰な拘束を回避するとともに、熱変形を逃がすことで鏡の歪みを低減させる効果がある。尚、鏡の法線(以下、アキシャルと称す)方向の支持は、別途、多点の支持機構によっている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】R.GEYL、他2名,「SOFIA Primary Mirror Fabrication & Testing」,Proceedings of SPIE,SPIE,2001,Vol.4451,p.126−130
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の鏡支持機構は、1本の脚毎に、その部材両端に2方向の弾性ヒンジを有する形状(即ち脚1本毎に2箇所×2方向の弾性ヒンジ)となっており、2本脚1組あたり合計4箇所×2方向の弾性ヒンジを有する。この2本脚構造はラテラルにおいて、4結節点リンクになっているので、2本の脚の軸線交点が、ラテラル支持アームとの結合点(支持点)と厳密に合致していない場合、弾性ヒンジ部に大きな曲げモーメントが作用して、材料の強度限界を超えることがある。
【0006】
この発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、弾性ヒンジを有する2本の脚の軸線交点とラテラル支持点が厳密に合致していない場合にも、弾性ヒンジ部に大きな曲げモーメントが発生しない鏡支持機構を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る鏡支持機構は、鏡の面内方向の動きを前記鏡の外周で拘束するとともに、部材軸線がV字型となるように該面内に配置される2本の弾性ヒンジ脚および2本の該弾性ヒンジ脚を結合する結合部から構成され、前記鏡と架台を結合する鏡支持機構において、前記弾性ヒンジ脚は両端にそれぞれ該部材軸線に対して2方向の弾性ヒンジを有し、2本の該弾性ヒンジ脚それぞれの一方の片端部が前記鏡の外周に接合され、他方の片端部が前記結合部を介して前記架台に接合され、前記結合部が前記弾性ヒンジ脚と前記架台との接合箇所の相対的な動きを、該面内での回転については拘束し、2本の前記弾性ヒンジ脚の軸線交点と前記鏡の中心を結ぶ方向については自在にする。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る鏡支持機構は、弾性ヒンジを有する2本の脚の軸線交点とラテラル支持点が厳密に合致しない場合にも、弾性ヒンジ部に大きな曲げモーメントが作用することを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1に係る鏡支持機構で支持された鏡を示す全体図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る鏡支持機構の詳細図である。
【図3】この発明の実施の形態1と2に係る鏡支持機構の原理図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る鏡支持機構の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の鏡支持機構の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
図1は、この発明の実施の形態1に係る鏡支持機構で支持された鏡を示す全体図である。
この発明の実施の形態1に係る鏡支持機構は、図1に示すように、鏡1の下方に位置する架台2と、鏡1を架台2に結合する3個のラテラル支持機構3からなり、ラテラル支持機構3は鏡1の外側面の3箇所に接合されている。アキシャル方向の支持は、ラテラル支持機構3と干渉しない多点の図示しない支持機構によっている。座標軸は、鏡1の中心を原点とし、ラテラル方向にx軸とy軸、アキシャル方向にz軸とする。
【0011】
図2は、この発明の実施の形態1に係るラテラル支持機構3の詳細図である。
ラテラル支持機構3は、2本の弾性ヒンジ脚31およびR軸並進自在結合部32から構成されている。弾性ヒンジ脚31は、部材の軸線に対して直交する2方向の弾性ヒンジを部材両端に設けられており、片端部を鏡1の外周側面に、もう一方の片端部をR軸並進自在結合部32に固定されている。
【0012】
ここで,R軸並進自在結合部32の詳細構成を説明するために、別の座標軸を設定する。この座標軸は、2本の弾性ヒンジ脚31の軸線交点を原点とし、アキシャル方向にZ軸、鏡1の中心から2本の弾性ヒンジ脚31の軸線交点を通過する軸をR軸、Z軸とR軸に直交する方向をT1軸、Z軸に交差する点がT1軸より下方でT1軸に平行な方向をT2軸である。
【0013】
R軸並進自在結合部32の詳細構成を図2を参照して説明する。
R軸並進自在結合部32は、T1軸回転軸受ホルダ321、T2軸回転軸受ホルダ322、T1軸/T2軸回転軸部材323、T1軸回転軸受324、T2軸回転軸受325から構成される。
T1軸回転軸受ホルダ321には、弾性ヒンジ脚31と、T1軸回転軸受324の外輪が固定されている。
T2軸回転軸受ホルダ322には、架台2と、T2軸回転軸受325の外輪が固定されている。
T1軸/T2軸回転軸部材323には、T1軸回転軸受324の内輪と、T2軸回転軸受325の内輪が固定されている。
【0014】
次に、この発明の実施の形態1に係る鏡支持機構の作用ついて説明する。
弾性ヒンジ脚31は、両端部に設けられた2方向の弾性ヒンジによりZ軸方向の並進とR軸まわりの回転が自在である。
R軸並進自在結合部32は、T1軸回転軸受ホルダ321、T2軸回転軸受ホルダ322、T1軸/T2軸回転軸323、T1軸回転軸受け324、および、T2軸回転軸受け325によるT1軸周りとT2軸周りの平行する2つの回転自在結合によりR軸方向の並進が自在である。
これより、2本の弾性ヒンジ脚31とR軸並進自在結合部32から構成される3つのラテラル支持機構3により、鏡1と架台2を結合することで、架台2に対して鏡1のラテラルの動き(x軸とy軸の2つの並進と、z軸まわりの回転)を拘束する。
【0015】
尚、x軸周りとy軸周りの回転と、z軸方向の並進は、別途設けられる多点のアキシャル支持機構により拘束することにより、鏡1の6個の自由度を過度に拘束することなく、支持する。
また、このラテラル支持機構3は、鏡1と架台2の熱変形などによる、R軸方向の相対変形をR軸並進自在結合部32のR軸方向の並進の動きにより、鏡1の外周に沿った相対変形を弾性ヒンジ脚31で比較的剛性の低いヒンジ部の曲げ変形により逃がすことで,鏡1に発生する歪みを低減することができる。
【0016】
また、R軸並進自在結合部32は、2本の弾性ヒンジ脚31をZ軸まわりの回転を拘束して結合するため、2本の弾性ヒンジ脚31の軸線交点と支持点が厳密に合致しない場合にも、弾性ヒンジ脚31のヒンジ部に大きな曲げモーメントが作用するのを回避することができる。この理由について以下詳細に説明する。
ラテラル支持機構3はR軸とT1軸からなる平面内において、図3に示すように、4結節点リンクとみなすことができる。弾性ヒンジジョイント301は、弾性ヒンジ脚31のR軸とT1軸からなる平面内で曲がる弾性ヒンジを表しており、脚リンク302は弾性ヒンジ脚31から弾性ヒンジジョイント301を除いた部材を表している。
結合リンク303は、R軸並進自在結合部32を表しており、Z軸まわりの回転を拘束するための回転拘束力307が作用する。支持点304には、支持力308が作用する。2本の脚リンク部302は、軸線交点305で交わる。荷重点306は、弾性ヒンジジョイント301に荷重309が作用する点である。
【0017】
前述の先行技術は図3の4結節点リンクにおいて、結合リンク303に回転拘束力307が作用しない構成とみなすことができる。軸線交点305と支持点304が合致する場合には、支持力308による回転モーメントと、荷重309による回転モーメントが打消し合うため、弾性ヒンジジョイント301に相当する弾性ヒンジ部に大きな曲げモーメントは作用しない。
しかし、軸線交点305と支持点304が合致しない場合には、支持力308による回転モーメントと、荷重309による回転モーメントが打消し合わず、弾性ヒンジジョイント301に相当する弾性ヒンジ部に大きな曲げモーメントが作用し、材料の強度限界を超えることがある。
【0018】
一方、本発明の実施の形態1に係る鏡支持機構は、結合リンク303は回転拘束力307により拘束されるため、4つのリンクの形状は動くことがない。これは、支持力308による回転モーメントと、荷重309による回転モーメントで打消しあわない回転モーメントを回転拘束力307により打消しているとみることもできる。従って、図2のラテラル支持機構3では、支持点304と2本の弾性ヒンジ脚31の軸線交点305が合致しない場合にも、弾性ヒンジジョイント301に相当する弾性ヒンジ部に大きな曲げモーメントが作用することを回避できる。
【0019】
実施の形態2.
図4は、この発明の実施の形態2に係る鏡支持機構の詳細図である。
この発明の実施の形態2に係るラテラル支持機構は、この発明の実施の形態1に係るラテラル支持機構3のR軸並進自在結合部32をR軸回転/R軸並進自在結合部33に置き換えた構成であることが異なっており、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記し説明を省略する。
R軸回転/R軸並進自在結合部33は、R軸回転軸受ホルダ331、T1軸/T2軸回転軸受ホルダ332、R軸/T1軸回転軸333、T2軸回転軸334、R軸回転軸受335、T1軸回転軸受336、T2軸回転軸受337から構成されている。
【0020】
R軸回転軸受ホルダ331には弾性ヒンジ脚31と、R軸回転軸受335の外輪が固定されている。T1軸/T2軸回転軸受ホルダ332にはT1軸回転軸受336の外輪と、T2軸回転軸受337の外輪が固定されている。R軸/T1軸回転軸333にはR軸回転軸受335の内輪と、T1軸回転軸受336の内輪が固定されている。T2軸回転軸334にはT2軸回転軸受337の内輪と、架台2が固定されている。
【0021】
次に、この発明の実施の形態2に係るラテラル支持機構の作用ついて説明する。
実施の形態1に係るラテラル拘束機構では、弾性ヒンジ脚31の2方向の弾性ヒンジによりR軸まわりの回転を自在にしていたが、実施の形態2に係るラテラル支持機構では、R軸回転軸受ホルダ331、R軸/T1軸回転軸部材333、およびR軸回転軸受335により、より大きな回転に対してもR軸まわりの回転を自在にすることができる。
【符号の説明】
【0022】
1 鏡、2 架台、3 ラテラル支持機構、301 弾性ヒンジジョイント、302 脚リンク、303結合リンク、304 支持点、305 軸線交点、306 荷重点、307 回転拘束力、308 支持力、309 荷重、31 弾性ヒンジ脚、32 R軸並進自在結合部、321 T1軸回転軸受ホルダ、322 T2軸回転軸受ホルダ、323 T1軸/T2軸回転軸部材、324 T1軸回転軸受、325 T2軸回転軸受、33 R軸回転/R軸並進結合部、331 R軸回転軸受ホルダ、332 T1軸/T2軸回転軸受ホルダ、333 R軸/T1軸回転軸部材、334 T2軸回転軸、335 R軸回転軸受、336 T1軸回転軸受、337 T2軸回転軸受。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡の面内方向の動きを前記鏡の外周で拘束するとともに、部材軸線がV字型となるように該面内に配置される2本の弾性ヒンジ脚および2本の該弾性ヒンジ脚を結合する結合部から構成され、前記鏡と架台を結合する鏡支持機構において、
前記弾性ヒンジ脚は両端にそれぞれ該部材軸線に対して2方向の弾性ヒンジを有し、
2本の該弾性ヒンジ脚それぞれの一方の片端部が前記鏡の外周に接合され、他方の片端部が前記結合部を介して前記架台に接合され、
前記結合部が前記弾性ヒンジ脚と前記架台との接合箇所の相対的な動きを、該面内での回転については拘束し、2本の前記弾性ヒンジ脚の軸線交点と前記鏡の中心を結ぶ方向については自在にすることを特徴とする鏡支持機構。
【請求項2】
前記結合部が、2本の前記弾性ヒンジ脚の軸線交点と前記鏡の中心を結ぶ直線と、前記鏡の円周が交わる点における接線方向に平行、且つ、前記鏡の面外方向の座標が異なる2つの軸まわりの回転を自在にする軸受を有することを特徴とする請求項1に記載の鏡支持機構。
【請求項3】
鏡の面内方向の動きを前記鏡の外周で拘束するとともに、部材軸線がV字型となるように該面内に配置される2本の弾性ヒンジ脚および2本の該弾性ヒンジ脚を結合する結合部から構成され、前記鏡と架台を結合する鏡支持機構において、
前記弾性ヒンジ脚は、両端にそれぞれ前記部材軸線に対して2方向の弾性ヒンジを有し、
2本の前記弾性ヒンジ脚それぞれは、一方の片端部が鏡の外周に接合され、他方の片端部が前記結合部を介して前記架台に接合され、
前記結合部は、前記弾性ヒンジ脚と前記架台との接合箇所の相対的な動きを、該面内での回転については拘束、2本の前記弾性ヒンジ脚の軸線交点と前記鏡の中心を結ぶ直線まわりの回転と並進については自在にすることを特徴とする鏡支持機構。
【請求項4】
前記結合部は、2本の前記弾性ヒンジ脚の軸線交点と前記鏡の中心とを結ぶ直線が、前記鏡の円周と交わる点における接線方向に平行、且つ、前記鏡の面外方向の座標が異なる2つの軸まわりの回転を自在にする軸受と、2本の前記弾性ヒンジ脚の軸線交点と前記鏡の中心とを結ぶ軸まわりの回転を自在にする軸受と、を有することを特徴とする請求項3に記載の鏡支持機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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