説明

長寿命還元型電子伝達体

【課題】空気開放系の酸素存在下でも、特に光増感色素および補酵素が存在する系において、還元型電子伝達体としての寿命が長いメチルビオロゲン系の還元型電子伝達体を提供する。
【解決手段】下記一般式


(但し、式中、Rはメチル基、FGは官能基、nは5〜29の整数を意味する。)で示される還元型電子伝達体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、長寿命の還元型電子伝達体に関し、さらに詳しくは水性媒体などの反応媒体中で光増感色素が存在する系において空気開放系などの酸素存在下でも寿命が長い還元型電子伝達体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子伝達体としてメチルビオロゲンは知られており、酵素が関与する酸化還元系の反応において電子伝達メディエータを含ませるレドックス系バイオリアクター、そして酵素とともに光増感色素が存在する系において電子伝達メディエータを含ませる光化学酵素反応系、さらには電子伝達体を用いた測定方法などが提案されている(特許文献1〜3、非特許文献1)。
【特許文献1】特開平2−312592号公報
【特許文献2】特表2003−505066号公報
【特許文献3】特開2004−85374号公報
【非特許文献1】ケミストリー・レターズ(Chemistry Letters)2004年、Vol.33、No.12、1544−1545頁
【0003】
上記の特開平2−312592号公報には、酵素が関与する酸化還元化学反応系においてメディエータを含ませるレドックス系バイオリアクターが記載されており、メディエータとしてメチルビオロゲンが開示されている。さらに、このメチルビオロゲンを使用することによって反応系を窒素ガスパージしたレドックス系バイオ反応収率が時間とともに増大する結果が図(文献の図4)に示されている。
【0004】
上記の特表2003−505066号公報には、無機の電子供与源、電子供与源から酵素に電子を伝達することができるメディエータおよび酸化還元特性を有する特定の酵素を含む電子供与体系が記載されている。そして、メディエータとしてメチルビオロゲンの記載があり、メディエータとしてコバルト(III)セパルクレートを使用して酸素雰囲気下で長時間の高変換収率が達成された結果が図(文献の図4、図6)に示されているが、具体例としてメチルビオロゲンをメディエータとして使用した例は開示されていない。
【0005】
上記のケミストリー・レターズには、酵素とともに光増感色素が存在する系において電子伝達メディエータとしてメチルビオロゲンを含ませた光化学酵素合成化学反応によるHCOからのメタノール合成反応が記載されている。さらに、反応系をアルゴンガスパージして、メチルビオロゲンを使用することによってメタノール合成反応収率が時間とともに増大する結果が図(文献の図1)に示されている。
【0006】
また、上記の特開2004−85374号公報には、電極表面に電子伝達物質を存在させて過酸化水素または酸素の存在下に電極に流れる酸素の還元電流値を測定する測定方法が記載されている。そして、電子伝達体としてビオロゲン誘導体が、このビオロゲン誘導体を金電極に装飾して用いること、測定においては前もって窒素ガスなどを通気して脱酸素処理すること、さらに系に供される過酸化水素の量は極く微量であることが示されている。しかし、上記文献には光増感色素が存在する系についての記載はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
つまり、公知文献によれば、電子伝達物質であるメチルビオロゲンは不活性ガスなどによって酸素を除いた系での例が一般的であった。
これは、空気開放系などの酸素が存在する系では、光照射に基く還元型電子伝達体としてのメチルビオロゲンは酸素によって電子が奪われるため化学反応系において還元体としての能力が急速に失われてしまうことによると考えられる。
従って、この発明の目的は、空気開放系などの酸素存在下でも、特に光増感色素および補酵素が存在する光照射に基く反応系、特に化学反応系において、寿命が長いメチルビオロゲン系の電子伝達体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、下記一般式
【0009】
【化1】

(但し、式中、Rはメチル基、FGは官能基、好適にはCOOH、NHあるいはOHを、nは5〜29、好適には5〜19、特に9〜19の整数を意味する。)で示される還元型電子伝達体に関する。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、空気開放系のような酸素存在下でも、特に光増感色素(光増感剤)が存在する系において、還元型の電子伝達体として酸素によって還元体としての能力が急速に失われることが低減され、寿命が長いメチルビオロゲン系の還元型電子伝達体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明における好適な態様を次に示す。
1)前記式においてFGはCOOH、NHあるいはOHを意味する前記の還元型電子伝達体。
2)前記式においてFGはCOOHを意味する前記の還元型電子伝達体。
3)前記式においてnは5〜19の整数を意味する前記の還元型電子伝達体。
【0012】
4)光増感色素が存在する系にある前記のいずれかに記載の還元型電子伝達体。
5)前記官能基によって基材と直接固定できる前記の還元型電子伝達体。
6)空気開放系の反応媒体中で光照射に基く酸化還元反応に使用され得る前記の還元型電子伝達体。
【0013】
この発明において、還元型電子伝達体とは、電子を受け取って他の物質に電子を伝達する電子供与機能を有するものをいい、例えば光照射された系において光増感色素を通じてあるいは光励起型の電子供与補助剤の存在下に光増感色素を通じて電子を受け取った還元型電子伝達体が一旦は電子を保持し、補酵素などの電子受容体に電子を供与する機能、すなわち還元機能を有することをいう。反応系においては、酵素系に供与された電子によって原料物質が化学変換されて生成物質が得られる。
【0014】
この明細書において、還元型電子伝達体の寿命は、適した方法、例えば後述の実施例で詳細に記載する方法で空気開放系での光増感色素(ルテニウムトリスピリジン)、還元型電子伝達体、補酵素および光励起型の電子供与補助剤(トリエタノールアミン)を含む水溶液に光照射して還元型電子伝達体に電子が付与され、この還元型電子伝達体の還元性が溶存する酸素によって消失すなわち電子を失って着色(青色)が無色になる変化を吸光度で求めて、初期の吸光度が−2.0未満になるまでに要する時間として評価されるものである。
【0015】
この発明における還元型電子伝達体を示す前記一般式において、C2nで示されるアルキレン基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、好適には直鎖状の(CHで示されるアルキレン基であり、nが5〜29、好適には5〜19、特に9〜19を意味する。
【0016】
前記一般式中におけるC2nで示されるアルキレン基として、例えばC10、C12、C14、C16、C18、C1020、C1122、C1224、C1326、C1428、C1530、C1632、C1734、C1836、C1938、C2040、C2142、C2244、C2346、C2448、C2550、C2652、C2754、C2856、C2958などを挙げることができる。
【0017】
この発明における前記一般式で示される還元型電子伝達体は、例えば反応容器に所定量の4−メチルピリミジウム沃化物と溶媒、例えばアセトニトリルとを加え、混合して均一溶液とし、攪拌機で混合しながらに加熱(例えば、約85℃程度)し、予め溶媒、例えばアセトニトリルに溶解しておいた過剰量、例えば約10倍モル量の下記式
【0018】
【化2】

(但し、式中、FGは官能基、好適にはCOOH、NHあるいはOHを、nは5〜29、好適には5〜19、特に9〜19の整数を意味する。)
で示される臭素化合物を加え、引き続いて前記の温度に保ちながら反応が完了するまで、例えば数時間程度攪拌を続け、攪拌終了後に適当な時間、例えば数時間〜1昼夜かけて放冷し、沈澱物を吸引ろ集・乾燥する方法によって、得ることができる。
【0019】
前記の臭素化合物としては、ブロモ脂肪酸、ブロモ脂肪族アルコール、ブロモ脂肪族アミン、ブロモ脂肪族チオール、ブロモ脂肪族スルホン酸を挙げることができ、好適には炭素数5〜19のブロモ脂肪酸、ブロモ脂肪族アルコールを挙げることができる。特に、11−ブロモウンデカン酸、8−ブロモオクタン酸、6−ブロモヘキサン酸などのω―ブロモアルカン酸を挙げることができる。
【0020】
この発明の前記一般式で示される還元型電子伝達体は、水の存在する系において水分子と親和性を有する式中のビオロゲンイオンと非水性のアルキレン基によって水性媒体中でミセルを形成し得るため、水性媒体などの反応媒体中で空気開放系による溶存酸素の存在下であってもメチルビオロゲンに比べて還元体の寿命が長くなると考えられる。このため前記一般式におけるC2nのnは大きいほど好ましいが、反応性も考慮すると前記の範囲内であることが好ましい。
【0021】
この発明の前記一般式で示される還元型電子伝達体は、光増感色素、さらに補酵素の存在下に水媒体中で、反応場への光照射によって開放系(従って、酸素存在下)であっても種々の化学反応をもたらすことができる。例えば、水媒体中において、還元型電子伝達体とともに光増感色素、および場合により電子供与補助剤を含む水溶液に光照射して還元型電子伝達体に電子を付与して還元し、還元型電子伝達体が補酵素に電子を伝達して化学反応などの反応を進行させる。
【0022】
また、この発明の前記一般式で示される還元型電子伝達体は、還元型電子伝達体を化学的あるいは物理的、例えば吸着によって固定化できる無機基材あるいは官能基を有する樹脂などの基材の少なくとも表面に前記官能基FGによって直接固定して基板とすることができる。このため基材に固定した還元型電子伝達体の前記一般式中のビオロゲンイオンと非水性のアルキレン基によって水媒体中でミセルを形成し得るため、前記の電子供与体とともに光増感色素分子を固定した基材は、水媒体中で、開放系(従って、酸素存在下)であっても還元体が長寿命であり、表面への光照射に加えて、裏面からの光照射にも対応でき、光エネルギー変換デバイスとして高い設計自由度が得られる。
また、基材としては光透過性の基材、例えばガラスやアルミナなどの無機基材あるいは水酸基などの極性基含有プラスチックなどの基材が好適である。
【0023】
この発明の前記還元型電子伝達体は、反応媒体中で光増感色素の存在下、酸素を除去することなく光照射を受けることによってメチルビオロゲンに比べて長時間電子を保持するため、還元体としての能力が急速に失われることが低減される。そして、この電子は、通常は系に存在する補酵素に受け取られて化学反応を生じさせる。この空気開放系のような酸素存在下で、光増感色素が存在する系において、還元体の寿命が長い電子伝達体として機能することが可能になる。
【0024】
前記の反応媒体としては、水性媒体が好適であり、水または水と混合可能な有機溶媒との混合媒体が挙げられる。前記の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、エチレングリコール等の低級アルコール、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。水性媒体としてはリン酸カリウムなどによって緩衝能力を付与してもよい。
【0025】
前記の光増感色素としては、特に制限はなく、例えばポルフィリン誘導体、ルテニウムビピリジン錯体誘導体、ピエン誘導体などを挙げることができ、例えば、テトラキス(4−メチルピリジル)ポルフィリン亜鉛(ZnTMPyP)、テトラフェニルポルフィリンテトラスルフォネート亜鉛(ZnTPPS)、ルテニウムトリスビピリジンなどが好適である。
【0026】
前記の電子供与補助剤としては、特に制限はなく、例えばトリエタノールアミン、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸塩、エチレンジアミン塩酸塩、トリエチルアミンなどを挙げることができる。
【0027】
また、前記の光照射の光源としては、特に制限はなく、太陽光、蛍光灯、紫外線ランプ、水銀ランプ、ハロゲンランプなどの光励起型光源装置を挙げることができる。
【0028】
また、前記の補酵素としては、特に制限はなく、例えばFAD(フラビンーアデニンジヌクレオチド)、NAD(ニコチンアミド−アデニンジヌクレオチド)、NADP(ニコチンアミド−アデニンジヌクレオチドリン酸)、FMN(フラビンモノヌクレオチド)などの補酵素が挙げられる。反応には、これらの補酵素と酸化還元酵素、加水分解酵素、異性化酵素、合成酵素などの酵素と組み合わせて用いられる。これらの酵素として、例えばADH(アルコールデヒドロナーゼ)、AldDH(アルデヒドデヒドロナーゼ)、FDH(ホルメートデヒドロナーゼ)LDH(ラクテートデヒドロゲナーゼ)などの酵素系が挙げられる。
【0029】
前記の化学反応の一例として、二酸化炭素からのメタノールの生成反応が挙げられるがこれに限定されない。例えば、前記の原料物質としては、二酸化炭素、蟻酸、ホルムアルデヒドなどが挙げられる。また、前記の生成物質としてはメタノール、マレイン酸、リンゴ酸などが挙げられる。
【0030】
この発明の還元型電子伝達体は、前記のように空気開放系において長寿命であり効果的であるが、空気密閉系(例えば、不活性ガス雰囲気下)を排除するものではない。
さらに、この発明の還元型電子伝達体を基材に固定した場合は、反応系における電子伝達固定化基板の運搬性・分離し易さなど取り扱いが容易になり、工程全体が簡素化される。
【実施例】
【0031】
以下、この発明をさらに説明するために実施例を示すが、この発明は実施例に限定されるものではない。
各例において、還元型電子伝達体の寿命評価は以下によって行った。
空気飽和状態で、石英セルに入れた還元型電子伝達体水溶液に400Wハロゲンランプを照射して還元型電子伝達体を還元した後、暗所における所定時間後の還元型メチルビオロゲン類の消失をUVスペクトルで測定した。セル(形状:10x10x45mm)および紫外可視吸収スペクトル測定装置を用いて、還元型メチルビオロゲン類の吸収帯605nmでの吸光度[log10(I/I)]を求めた。吸光度が−2.0より小さいと還元型電子伝達体は還元能力がない、すなわち失活と判断した。
【0032】
実施例1
1)還元型電子伝達体の調製
三角フラスコに4−メチルピリミジウムヨウ化物(C1111IN、分子量:298.13)0.1g(0.3354ミリモル)を採り、50mlのアセトニトリルに溶解した。ホットスターラーで加熱攪拌しながら、予めアセトニトリルに溶解しておいた11−ブロモウンデカン酸(C1121BrO、分子量=265.19)0.8895g(3.354ミリモル)を加え、85℃に保ちながら約5時間攪拌した。加熱・攪拌終了後、放冷し、15時間後に沈殿物を吸引ろ過し、デシケーターで乾燥して、合成物を得た。
沈殿物ができることによって、下記の化学式で示される還元型電子伝達体1であった。
【0033】
【化3】

(但し、式中、Rはメチル基、FGはCOOH、nは10である。)
【0034】
実施例2
1)還元型電子伝達体水溶液の調製
実施例1で得られた還元型電子伝達体1を用いて、下記の組成からなる還元型電子伝達体を含む水溶液を得た。
トリエタノールアミン(電子付与補助剤) 0.3モル/リットル
ルテニウムトリスビピリジン(光増感色素) 1ミリモル/リットル
還元型電子伝達体1 1ミリモル/リットル
【0035】
2)還元型電子伝達体の寿命評価試験
空気飽和状態で400Wハロゲンランプを照射して実施例2の水溶液中の還元型電子伝達体1を還元し、暗所にてメチルビオロゲン類の消失をUVスペクトルでメチルビオロゲン類の吸収帯605nmの吸光度変化について、スタート時の吸光度0(=log1)に対して5分後、10分後、20分後の変化を求めた。結果は次の通りであった。
【0036】
還元型電子伝達体の寿命評価試験結果
スタート時 0
5分後 −0.7
10分後 −1.4
20分後 −1.6
この結果は、メチルビオロゲン系の還元型電子伝達体1は空気開放系で20分後にも還元能力を有することを示す。
【0037】
比較例1
1)還元型電子伝達体水溶液の調製
実施例1で得られた還元型電子伝達体1に代えてメチルビオロゲンを用いた他は実施例2と同様にして、下記の組成からなる電子伝達体を含む水溶液を得た。
トリエタノールアミン(電子付与補助剤) 0.3モル/リットル
ルテニウムトリスビピリジン(光増感色素) 1ミリモル/リットル
メチルビオロゲン 1ミリモル/リットル
【0038】
2)還元型電子伝達体の寿命評価試験
空気飽和状態で400Wハロゲンランプを照射して比較例1の水溶液中のメチルビオロゲンを還元し、暗所にて還元型化合物の消失をUVスペクトルで還元型化合物の吸収帯605nmの吸光度変化を測定した。結果は次の通りであった。
【0039】
還元型電子伝達体の寿命評価試験結果
0分後(スタート時) 0
5分後 −1.4
10分後 −1.8
20分後 −2.5
この結果は、メチルビオロゲンは空気開放系では20分より前に還元能力が消失したことを示す。
【0040】
実施例3
1)基材に還元型電子伝達体を固定した基板の調製
厚さ3mm、大きさが1x4cmのシリカゲル上にテトラフェニルポルフィリンテトラスルフォネート亜鉛(ZnTPPS)と実施例1で得られた還元型電子伝達体1を以下の水溶液を用い、浸漬して、両成分をシリカゲル表面に固定し、還元型電子伝達体が基材に固定した電子伝達体固定化基板を得た。
【0041】
固定化のための処理液組成
テトラフェニルポルフィリンテトラスルフォネート亜鉛 1モル/リットル
還元型電子伝達体1 0.4ミリモル/リットル
また、両成分が固定されたことを、以下の方法で確認した。
固定化確認試験
蒸留水でシリカゲル表面を洗浄し、洗浄液を紫外可視吸収スペクトルで確認したところ、両成分が検出されなかったため、固定化されていると判断した。
以上の結果から、基材の表面に還元型電子伝達体1が固定されたことを確認した。
【0042】
2)基材に固定した還元型電子伝達体の電子伝達性評価試験
NADP(ニコチンアミド−アデニンジヌクレオチドリン酸)1ミリモル/リットルの溶液中に実施例3で得られた基板を浸して、空気開放系で、400Wハロゲンランプを所定時間照射し、1時間毎の着色の変化を目視で観察した。還元型電子伝達体1に電子が付与され還元されたことは青色に着色したことで確認できた。光照射時間と着色を次に示す。
【0043】
基材に固定した還元型電子伝達体の電子伝達性評価試験結果
光照射時間 着色
0時間 橙色
1時間 橙色
2時間 橙色
3時間 青緑色
4時間 青色
5時間 青色
6時間 青色
以上の結果から、基材に固定した還元型電子伝達体は3時間後には電子を付与されて還元性を保持していることが確認された。
【0044】
実施例4
1)アルミナ膜基材の調製
アルミニウムイソプロポキシド5g/50ml蒸留水を90℃で20分間攪拌した後ポリエチレングリコール2.5g添加し、90℃で5分間攪拌した後、濃硝酸0.58mlを添加し、90℃で19時間攪拌した後、室温で24時間攪拌して、アルミナゾルーゲル溶液を調製した。
ガラス板(25x15mm)をアセトンで洗浄した後、電気炉で500℃で2時間加熱した。蒸留水で10分の1に薄めた上記のアルミナゾルーゲル溶液をガラス板に湿布した後、この薄めたアルミナゾルーゲル溶液100μlを3000rpm、60秒でスピンコートし、電気炉で500℃で30分間加熱、乾燥して、アルミナ膜基材を調製した。
【0045】
2)電子伝達体固定化基板の調製
シリカゲル膜基材に代えて上記のアルミナ膜基材を使用した他は実施例3と同様にして、電子伝達体固定化基板を得た。両成分が固定されたことを、前記と同様にして確認した。
【0046】
3)電子伝達体固定化基板の評価試験
NADP(ニコチンアミド−アデニンジヌクレオチドリン酸)1ミリモル/リットルの溶液中に実施例4で得られた基板を浸して、空気開放系で、400Wハロゲンランプを所定時間照射し、還元型電子伝達体1が還元されたことを示す実施例3と同様の結果が得られた。
【0047】
比較例2
1)電子伝達体固定化基板の調製
実施例1で得られた還元型電子伝達体1に代えてメチルビオロゲンを使用した他は実施例3と同様にして、基板を得た。
【0048】
2)電子伝達体固定化基板の評価試験
NADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)1ミリモル/リットルの溶液中に比較例2で得られた基板を浸して、400Wハロゲンランプを照射した。6時間照射後もメチルビオロゲンが還元されたことを示す青色は確認できなかった。
【0049】
電子伝達体固定化基板の評価試験結果
光照射時間 着色
0時間 橙色
1時間 橙色
2時間 橙色
3時間 橙色
4時間 橙色
5時間 橙色
6時間 橙色
【0050】
以上の実施例1〜2と比較例1とから明らかなように、この発明の還元型電子伝達体は電子伝達体の長寿命化が達成される。これに対して、メチルビオロゲンは空気開放系での電子伝達体としての寿命が短い。さらに、実施例3〜4と比較例2とから明らかなように、この発明の電子伝達体は基材に固定することが可能であるのに対して、メチルビオラーゲンは基材への固定化が困難である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は実施例で得られた還元型電子伝達体と比較例で得られた電子伝達体の開放系における吸光度の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式
【化1】

(但し、式中、Rはメチル基、FGは官能基を、nは5〜29の整数を意味する。)
で示される還元型電子伝達体。
【請求項2】
前記式においてFGはCOOH、NHあるいはOHを意味する請求項1に記載の還元型電子伝達体。
【請求項3】
前記式においてFGはCOOHを意味する請求項1に記載の電子伝達体。
【請求項4】
前記式においてnは5〜19の整数を意味する請求項1〜3のいずれか1項に記載の還元型電子伝達体。
【請求項5】
光増感色素が存在する系にある請求項1〜4のいずれかに記載の還元型電子伝達体。
【請求項6】
前記官能基によって基材と直接固定できる請求項1〜4のいずれかに記載の還元型電子伝達体。
【請求項7】
空気開放系の反応媒体中で光照射に基く反応に使用され得る請求項1〜6のいずれか1項に記載の還元型電子伝達体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−239581(P2008−239581A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85661(P2007−85661)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】