説明

長手方向に延在する構造物の展開画像作成装置及び展開画像作成方法

【課題】長手方向に延在する構造物の側壁に目地がない場合にも撮影画像から側壁の展開画像を作成できる装置及び方法を提供する。特に、トンネルの側壁や橋梁の床版・高欄部等の展開画像を作成する方法に関する。
【解決手段】長手方向に延在する構造物の側壁の展開画像作成装置は、長手方向に延在する構造物の側壁に垂直な方向から側壁を撮像して側壁の撮像画像を得る撮像装置と、撮像装置と近接して設けられ、側壁に平行な軸を回転軸として配置され、側壁に平行な軸に対する回転角について、側壁と撮像装置との距離を計測する距離計と、側壁に側壁の湾曲している断面方向に延びる仮想的な目地を仮定し、撮像画像内に仮想的な目地を投影して、投影した仮想的な目地を利用して、撮像画像から側壁の展開画像を得る画像処理部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長手方向に延在する構造物の展開画像作成装置及び展開画像作成方法に関する。特に、トンネルの側壁や橋梁の床版・高欄部等の展開画像を作成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車道や列車用等の長手方向に延在する構造物であるトンネルや橋梁の水漏れの有無や、ひび割れ、剥離等の損傷点検を行うために、構造物の側壁を撮影し、その画像から損傷の点検をすることが行われている(例えば、特許文献1参照。)。たとえば、トンネル内側からトンネル側壁を撮影すると、トンネルが凹面状であるため、側壁の撮像画像は上下の辺が長く、中央の辺の長さが短くなり、歪んだ画像となってしまう。一方、橋梁の外側から床版・高欄部を撮影すると、床版・高欄部等は遠近がついた歪んだ画像となってしまう。このため、撮像画像から損傷箇所をCAD図面にするためには、歪んだ撮像画像を展開画像にする必要があった。しかし、この展開画像を作成するのは非常に困難な作業であった。
【0003】
そこで、従来、トンネルや橋梁の施工時に形成される目地を目印として使用し、撮像画像中に含まれる目地が直線形状となるように展開画像の作成が行われ、その展開画像を用いて損傷箇所をCAD図面にしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−347585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、トンネルや橋梁等の構造物の施工時に必ずしも目地が形成されるわけではない。また、目地が目立たない場合や、構造物の側壁や床版・高欄部を滑らかに仕上げる場合もあり、構造物の側壁や床版・高欄部を識別するための目印として目地を利用できない場合があった。このような場合には撮像画像と実際の構造物の側壁や床版・高欄部との対比が困難なため、側壁の展開画像を作成することが困難であった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、長手方向に延在する構造物であるトンネル側壁や橋梁の床版・高欄部に目地がない場合にも撮像画像からの展開画像を作成できる装置及び方法を提供することである。以後、説明を簡易にするために、長手方向に延在する構造物の代表としてトンネル側壁について説明するが、橋梁の床版や高欄部についても同様に実施することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る長手方向に延在する構造物の側壁の展開画像作成装置は、長手方向に延在する構造物の側壁に垂直な方向から前記側壁を撮像して前記側壁の撮像画像を得る撮像装置と、
前記撮像装置と近接して設けられ、前記側壁に平行な軸を回転軸として配置された距離計であって、前記側壁と平行な軸に対する回転角について、前記側壁と前記撮像装置との距離を計測する距離計と、
前記側壁の二箇所以上の断面を仮想的な目地として仮定し、前記撮像画像内に前記仮想的な目地を投影して、投影した前記仮想的な目地を利用して、前記撮像画像から前記側壁の展開画像を得る画像処理部と、
を備える。
【0008】
また、前記画像処理部は、前記撮像画像の画像座標と前記側壁の3次元座標との関係を表す関係式を作成してもよい。
【0009】
本発明に係る長手方向に延在する構造物の側壁の展開画像作成方法は、長手方向に延在する構造物の側壁の撮像画像に基づいて、展開画像を作成する方法であって、
長手方向に延在する構造物の側壁に対し垂直な方向から前記側壁を撮像して前記側壁の撮像画像を得るステップと、
前記側壁と平行な軸を回転軸として、回転軸に対する角度θについての前記側壁の点までの距離Lを計測するステップと、
前記構造物が柱状体であることを利用して、角度θ及び計測された距離データLと前記側壁の3次元座標(X,Y,Z)との関係式を得るステップと、
前記側壁の湾曲している断面方向に延びる仮想的な目地を仮定し、その仮想的な目地に対応する前記側壁における3次元座標を求めるステップと、
仮想的な目地の3次元座標に基づいて、前記撮像画像内で対応する仮想的な目地の画像座標を求め、前記撮像画像上に前記仮想的な目地がどのように映り込むかを計算して、前記撮像画像上に仮想的な目地を投影するステップと、
前記撮像画像に投影された前記仮想的な目地を利用して、前記側壁の展開画像を作成するステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る長手方向に延在する構造物の展開画像作成装置及び作成方法によれば、撮像画像内に仮想的な目地を投影できるので、構造物の側壁に目地がない場合にも撮影画像から側壁の展開画像を作成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1に係る長手方向に延在する構造物であるトンネル側壁の展開画像の作成装置の概略を示す概略図である。
【図2】実施の形態1に係るトンネル側壁の展開画像の作成装置のブロック図である。
【図3】距離計によって計測するトンネル側壁との距離Lと角度θとの関係を示す概略図である。
【図4】撮像画像の画像座標(u,v)及び1本の仮想的な目地を示す図である。
【図5】図4の撮像画像における仮想的な目地の曲線が、展開画像において直線となる例を示す概略図である。
【図6】(a)は、ZY平面における撮像画像の画像座標とトンネル側壁の3次元座標との関係を示す概略図であり、(b)は、(a)のうち撮像画像の画像座標vとトンネル側壁の3次元座標Yとの関係に関する図形表現であり、(c)は、撮像画像の画像座標uとトンネル側壁の3次元座標Xとの関係に関する図形表現である。
【図7】撮像画像内に2本の仮想的な目地(GH、IJ)を投影した概略図である。
【図8】図7の仮想的な目地を利用して作成した展開画像を示す概略図である。
【図9】実施の形態1に係る長手方向に延在する構造物であるトンネル側壁の展開画像の作成方法のフローチャートである。
【図10】実施の形態2に係る長手方向に延在する構造物である橋梁の高欄部の展開画像作成装置の概略を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態に係る長手方向に延在する構造物の展開画像の作成装置及び作成方法について、添付図面を用いて以下に説明する。なお、図面において、実質的に同一の部材には同一の符号を付している。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る長手方向に延在する構造物であるトンネル側壁の展開画像の作成装置の概略を示す概略図である。図2は、実施の形態1に係るトンネル側壁の展開画像の作成装置10のブロック図である。このトンネル側壁の展開画像の作成装置10は、撮像装置(カメラ)2と、距離計4と、画像処理部6とを備える。また、図1に示すように、トンネル側壁に平行な軸をX軸とする。撮像装置2は、トンネル側壁に垂直な方向に光軸を合わせて撮像する。撮像装置2の光軸の方向をZ軸とする。このため、図1に示すように、Y軸は、下方に向かう方向が正方向となる。次に、距離計4は、撮像装置2に近接して設けられ、X軸を回転軸として回転可能に配置される。距離計4は、X軸に対する回転角θiごとにトンネル側壁との距離Liを計測する。距離計4の回転角の間隔は任意であり、間隔を小さくすることで精密な形状を得られる。図3は、距離計4によって計測するトンネル側壁との距離Lと角度θとの関係を示す概略図である。図2において画像処理部6は、トンネル側壁の湾曲している断面方向に延びる仮想的な目地を仮定し、撮像画像内に仮想的な目地を投影すると共に、投影した仮想的な目地を利用して、撮像画像からトンネル側壁の展開画像を得る。なお、このトンネル側壁の展開画像の作成装置10は、撮像装置2と距離計4とをX軸方向に移動させる駆動部9を備えてもよい。
【0014】
実施の形態1に係るトンネル側壁の展開画像作成装置10によれば、撮像画像内に仮想的な目地を投影できるので、トンネル側壁に目地がない場合にも撮影画像からトンネル側壁の展開画像を作成できる。
なお、実施の形態1に係るトンネル側壁の展開画像作成装置10は、長手方向に延在する構造物の代表としてトンネル側壁を撮像対象とする場合について説明したが、実施の形態2で説明するように、トンネル側壁以外の長手方向に延在する構造物である橋梁の床版や高欄部等についても同様に撮像対象とすることができ、その展開画像を作成できる。また、長手方向に延在する構造物としては、上記のトンネル側壁、橋梁の床版や高欄部に限られず、その他の構造物も撮像対象とすることができ、その展開画像を作成できる。
【0015】
このトンネル側壁の展開画像作成装置を構成する各部材について説明する。
【0016】
<撮像装置(カメラ)>
撮像装置2は、トンネル側壁に垂直な方向に光軸を合わせて撮像することができ、2次元のデジタル画像を撮像できるものであれば、用いることができる。
【0017】
<距離計>
距離計4は、撮像装置2に近接して設けられ、X軸を回転軸として回転可能に配置できるものであればよい。また、トンネル側壁に平行な軸(X軸)を回転軸として回転角θiごとにトンネル側壁との距離Liを計測できるものであればよく、例えば、レーザ距離計を用いることができる。なお、レーザ距離計に限定するものではなく、それ以外の距離計も利用可能である。
また、距離計4は、トンネル側壁に平行な軸(X軸)を回転軸として回転させる回転部5を備えていてもよい。なお、回転部5は、回転角度θiを連続的に変化可能なものに限られず、所定角度ごとに回転させることができるものであってもよい。
【0018】
<画像処理部>
画像処理部6は、トンネル側壁の湾曲している断面方向に延びる仮想的な目地を仮定し、撮像画像内に仮想的な目地を投影すると共に、投影した仮想的な目地を利用して、撮像画像からトンネル側壁の展開画像を得る。なお、画像処理部6は、上記のそれぞれの機能ごとに、トンネル側壁の湾曲している断面方向に延びる仮想的な目地を仮定し、撮像画像内に仮想的な目地を投影する仮想目地投影部7と、投影した仮想的な目地を利用して、撮像画像からトンネル側壁の展開画像を得る展開画像作成部8と、を含んでもよい。
図4は、撮像画像の画像座標(u,v)及び1本の仮想的な目地を示す図である。また、図5は、図4の撮像画像における仮想的な目地の曲線が、展開画像において直線となる例を示す概略図である。画像処理部6は、図4に示すように、トンネル側壁の湾曲している断面方向に延びる直線に対応して、撮像画像内に仮想的な目地を投影し、この仮想的な目地を利用して、撮像画像内の仮想的な目地の周辺について展開画像を作成する。この場合、図5に示すように、投影された仮想的な目地は曲線を呈するが、展開画像では直線となることを利用して、投影された仮想的な目地の周辺の撮像画像を変換して展開画像を得ることができる。
また、画像処理部6の物理的な構成としては、CPU,メモリ、ハードディスク、入出力、表示装置等を備えたパーソナルコンピュータ等によって構成してもよい。
【0019】
<駆動部>
駆動部9は、撮像装置2と距離計4とをX軸方向に移動させることができればよい。例えば、台車等を利用できる。
【0020】
<トンネル側壁の展開画像作成方法>
図9は、実施の形態1に係る長手方向に延在する構造物であるトンネル側壁の展開画像の作成方法のフローチャートである。以下に、このトンネル側壁の展開画像の作成方法について説明する。
(A)トンネル側壁に垂直な方向からトンネル側壁を撮像してトンネル側壁の撮像画像を得る(S01)。
(B)トンネル側壁に平行な軸(X軸)を回転軸として、回転軸に対する角度θについてのトンネル側壁の点までの距離Lを計測する(S02)。
(C)トンネルが柱状体であることを利用して、計測された距離データLiとトンネル側壁の3次元座標(X,Y,Z)との関係式を得る(S03)。
(D)トンネル側壁の湾曲している断面方向に延びる仮想的な目地を仮定し、その仮想的な目地に対応するトンネル側壁における3次元座標を求める(S04)。
(E)仮想的な目地の3次元座標に基づいて、撮像画像内で対応する仮想的な目地の画像座標を求め、撮像画像上に仮想的な目地がどのように映り込むかを計算して、撮像画像上に仮想的な目地を投影する(S05)。
(F)撮像画像に投影された仮想的な目地を利用して、トンネル側壁の展開画像を作成する(S06)。
以上によって、トンネル側壁の展開画像を得ることができる。
【0021】
以下に、上記トンネル側壁の展開画像の作成方法の各ステップについて説明する。
<撮像画像を得る>
まず、トンネル側壁の撮像画像を得るステップS01について説明する。
(A−1)トンネル側壁の撮像画像は、トンネル側壁に垂直な方向からトンネル側壁を撮像して得られる。
【0022】
<トンネル側壁の三次元座標>
次に、距離計4によって、トンネル側壁との距離Liを計測するステップS02と、計測された距離データLiとトンネル側壁の3次元座標(X,Y,Z)との関係式を得るステップS03とについて説明する。
トンネル側壁に平行な軸をX軸とし、X軸に垂直な方向のうち、撮像装置(カメラ)2の光軸の方向をZ軸とする。
(B−1)トンネル側壁に垂直な方向に対して距離計4によって距離L(iは0〜nまでの整数である。以下、同じ)を計測する。このときの距離計4のX軸回りの角度をθとする。なお、撮像画像一枚の全ての画像座標について距離が計測されるわけではなく、画像座標のうち、距離が計測されるトンネル側壁と対応する画像座標は、光軸中心の画像座標(u、v)を含むX軸に垂直な方向の画像座標のみである。また、光軸中心の画像座標であるvの位置にある側壁を測っている時の距離計の角度をθOrgとする。ここで、光軸中心の画像座標(u、v)は近似的に画像の中心座標としてもよい。
(C−1)次に、距離を計測したトンネル側壁の一点の三次元座標(X,Y,Z)は、図3に示すように、角度θと計測した距離Lとに基づいて、それぞれ以下のように表される。
=0.0 (X軸回りに距離計4を回転させるため、X値は0とする)
=−L×sin(θ−θorg) (1)
=L×cos(θ−θorg) (2)
なお、Yの座標値に負符号が入るのは、図3に示すように、トンネル側壁に平行な方向をX軸とし、距離計4の方向をZ軸としているため、Y軸の正方向と角度θの正方向とが互いに反対方向となるためである。
【0023】
また、撮像装置2及び距離計4は、トンネル側壁に平行な方向であるX軸に沿って移動可能であり、トンネル中心方向への移動距離をSj(jは、0〜mまでの整数)とすると、距離を計測したトンネル断面の一点の三次元座標(X,Y,Z)は、それぞれ以下のように表される。
=S
=−L×sin(θ−θorg
=L×cos(θ−θorg
【0024】
<3次元座標と画像座標との関係>
図6(a)は、ZY平面における撮像画像の画像座標とトンネル側壁の3次元座標との関係を示す概略図である。図6(b)は、図6(a)のうち撮像画像の画像座標vとトンネル側壁の3次元座標Yとの関係に関する図形表現である。また、図6(c)は、撮像画像の画像座標uとトンネル側壁の3次元座標Xとの関係に関する図形表現である。
図6(a)〜(c)に基づいて、トンネル側壁に対して垂直方向に撮像装置(カメラ)2の光軸が向いている場合、トンネル側壁の3次元座標(Xi、Yi、Zi)と撮影した撮像画像の2次元の画像座標(u,v)との関係は、撮像装置(カメラ)2の内部パラメータαを用いて、射影変換の関係式から以下のように表すことができる。

なお、この内部パラメータαは、図6(a)〜(c)に示すように、撮像装置2内の焦点距離に対応する。内部パラメータαの単位は、画像座標の単位と同じで、通常は、ピクセルや長さを表す単位(例えばmm)となる。
【0025】
<仮想的な目地の仮定及び3次元座標の計算>
トンネル側壁の湾曲している断面方向に延びる仮想的な目地を仮定し、その仮想的な目地に対応するトンネル側壁における3次元座標を求めるステップS04と、撮像画像上に仮想的な目地を投影するステップS05とについて説明する。
仮想的な目地に基づいてトンネル側壁が曲面であることに起因する歪みを補正して展開画像を作成するため、指標となる仮想的な目地は撮像画像内でできるだけ大きく映り込むことが望ましい。そこで、撮像画像内に仮想的な目地を作成するにあたって、撮像画像の端を通る仮想的な目地を作成することを考える。
(D−1)トンネル側壁の湾曲している断面方向に延びる仮想的な目地を仮定する。
(E−1)撮像画像の上端として点(u,v)を定める。
(E−2)点(u,v)のうち、画像座標vを用いて、画像中心(u,v)を含むYZ平面内でのZ軸からの角度θを下記式に基づいて求める。
(v−v)/α=−tan(θ−θorg
(θ−θorg)=tan−1(−(v−v)/α)
θ=tan−1(−(v−v)/α)+θorg
(E−3)次に、点(u,v)に対応するトンネル側壁の3次元座標(X、Y、Z)を、上記式(2)〜(4)から変形した下記式(5)〜(7)に基づいて求める。
=(u−u)*Z/α (5)
=(v−v)*Z/α (6)
=L*cos(θ−θorg) (7)
【0026】
(E−4)画像の下端として点(u,v)を定める。なお、ここで必要な画像座標はvのみである。
(E−5)点(u,v)のうち、画像座標vを用いて、画像中心(u,v)を含むYZ平面内でのZ軸からの角度θを下記式に基づいて求める。
θ=tan−1(−(v−v)/α)+θorg
(E−6)θ≦θ≦θとなる角度範囲において、角度θと距離計による距離Lとのデータに基づいて、仮想的な目地に対応するトンネル側壁の3次元座標(X、Y、Z)は、以下の式で表される。
=X1 (8)
=−L*sin(θ−θorg) (9)
=L*cos(θ−θorg) (10)
上記式(8)において、X座標をX1一定として、仮想的な目地であることを表している。
【0027】
(E−7)上記式(8)〜(10)の仮想的な目地に対応するトンネル側壁の3次元座標(X、Y、Z)を、上記(3)及び(4)式に代入して、対応する仮想的な目地の画像座標(u、v)を求める。

(E−8)上記式(11)及び(12)による画像座標(ui、vi)を撮像画像内に描くことで仮想的な目地を投影することができる。
【0028】
なお、上記関係式(11)及び(12)を整理すると、仮想的な目地の画像座標(ui、vi)の間の下記の関係式(13)が得られる。

上記関係式(13)に示されるように、撮像画像内に投影される仮想的な目地は、(u、v)座標内でv=L*u/Xと、v=−L*u/Xとで表される2つの直線を漸近線とする双曲線を描くことがわかる。
なお、上記式(13)では、撮像装置2とトンネル側壁との距離Lが一定のL(L=L)であると仮定している。これはトンネル断面が半円形であって、撮像装置2がトンネル断面の中心に位置している場合である。
(E−9)画像の上記上端(u、v)と相対する上端(u、v)についても同様にして、もう一つの仮想的な目地を撮像画像内に投影することができる。
以上によって、例えば、図7に示すように、撮像画像内に2本の点線GH及び点線IJで表した仮想的な目地を投影できる。
複数本の仮想的な目地を、計算して投影することにより、より正確な展開画像を作成することができる。複数本の仮想的な目地の計算は上記同様にして求めることができる。
【0029】
<展開画像の作成>
撮像画像に投影された仮想的な目地を利用して、トンネル側壁の展開画像を作成するステップS06について説明する。
図7は、撮像画像内に2本の点線GH及び点線IJで表した仮想的な目地を投影した概略図である。図8は、図7の仮想的な目地を利用して作成した展開画像を示す概略図である。
(F−1)撮像画像内に投影された仮想的な目地を表す2本の点線GH及び点線IJは、トンネル側壁の3次元座標として、それぞれ同じX座標を有するものである。つまり、図8に示すように、展開画像において、2本の点線GH及び点線IJは、それぞれ平行な2本の直線となる。
(F−2)そこで、2本の点線GH及び点線IJの間の平行な5本の線分GI、KL、MN、PQ、HJは、展開画像において互いに等しい長さを有するものとして変換する。
(F−3)2本の点線GH及び点線IJの間のそれ以外の線分についても同様に、2本の点線GH及び点線IJが互いに平行となるように変換する。
変換方法としては、射影変換、双一次変換、アフィン変換などを選択することができる。なお、画像変換に関しては、このほかにもいろいろな数学的変換方法が考えられる。
以上によって、撮像画像に投影された仮想的な目地を利用して、トンネル側壁の展開画像を作成することができる。
【0030】
(実施の形態2)
図10は、実施の形態2に係る長手方向に延在する構造物である橋梁の高欄部の展開画像作成装置10aの概略を示す概略図である。実施の形態2に係る橋梁の高欄部の展開画像作成装置10aは、実施の形態1に係るトンネル側壁の展開画像作成装置と比較すると、実施の形態1の撮像対象が凹面状のトンネル側壁であったのに対して、実施の形態2の撮像対象である橋梁の高欄部は、凸面状又は平面状等の面を含む点で相違する。例えば、橋梁の高欄部や床版は平面であり、それを撮影した画像は、遠近のついた画像となる。すなわち対象の面が長方形であっても撮影された画像は台形のような四角形の画像となる。このため、トンネル側壁を撮影して得られる湾曲した画像とは異なる。
【0031】
なお、実施の形態2に係る橋梁の高欄部の展開画像作成装置10aは、撮像対象が実施の形態1の撮像対象とは異なるものの、実施の形態1に係るトンネル側壁の展開画像作成装置と実質的な構成は同じとすることができる。また、実施の形態2に係る橋梁の高欄部の展開画像作成方法も実施の形態1に係るトンネル側壁の展開画像作成方法と実質的に同じステップによって構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る長手方向に延在する構造物の側壁の展開画像の作成装置及び作成方法は、側壁に目地がない場合にも撮影画像から側壁の展開画像を作成できるので、様々な長手方向に延在する構造物の側壁の展開画像の作成に有用である。
【符号の説明】
【0033】
2 撮像装置(カメラ)
4 距離計
5 回転部
6 画像処理部
7 仮想目地投影部
8 展開画像作成部
9 駆動部
10 長手方向に延在する構造物であるトンネル側壁の展開画像作成装置
10a 長手方向に延在する構造物である橋梁の高欄部の展開画像作成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延在する構造物の側壁に垂直な方向から前記側壁を撮像して前記側壁の撮像画像を得る撮像装置と、
前記撮像装置と近接して設けられ、前記側壁に平行な軸を回転軸として配置された距離計であって、前記側壁と平行な軸に対する回転角について、前記側壁と前記撮像装置との距離を計測する距離計と、
前記側壁の二箇所以上の断面を仮想的な目地として仮定し、前記撮像画像内に前記仮想的な目地を投影して、投影した前記仮想的な目地を利用して、前記撮像画像から前記側壁の展開画像を得る画像処理部と、
を備えた、長手方向に延在する構造物の側壁の展開画像作成装置。
【請求項2】
前記画像処理部は、前記撮像画像の画像座標と前記側壁の3次元座標との関係を表す関係式を作成する、請求項1に記載の長手方向に延在する構造物の側壁の展開画像作成装置。
【請求項3】
長手方向に延在する構造物の側壁の撮像画像に基づいて、展開画像を作成する方法であって、
長手方向に延在する構造物の側壁に対し垂直な方向から前記側壁を撮像して前記側壁の撮像画像を得るステップと、
前記側壁と平行な軸を回転軸として、回転軸に対する角度θについての前記側壁の点までの距離Lを計測するステップと、
前記構造物が柱状体であることを利用して、角度θ及び計測された距離データLと前記側壁の3次元座標(X,Y,Z)との関係式を得るステップと、
前記側壁の湾曲している断面方向に延びる仮想的な目地を仮定し、その仮想的な目地に対応する前記側壁における3次元座標を求めるステップと、
仮想的な目地の3次元座標に基づいて、前記撮像画像内で対応する仮想的な目地の画像座標を求め、前記撮像画像上に前記仮想的な目地がどのように映り込むかを計算して、前記撮像画像上に仮想的な目地を投影するステップと、
前記撮像画像に投影された前記仮想的な目地を利用して、前記側壁の展開画像を作成するステップと、
を含む、長手方向に延在する構造物の側壁の展開画像作成方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−36777(P2013−36777A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171098(P2011−171098)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(510291574)株式会社保全工学研究所 (2)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】