説明

長手方向に湾曲したハット型部材のプレス成形方法

【課題】縦壁方向(側面)から見てハット頭部が凸になるように設けた湾曲部のスプリングバックに起因する形状不良が発生しにくい長手方向に湾曲したハット型部材のプレス成形方法を提供する。
【解決手段】金属板を、高さhのハット型の断面形状を有し、縦壁方向(側面)から見てハット頭部が凸になるような湾曲部を有するハット型部材にプレス成形する際に、前記湾曲部のハット頭部の外側の曲率半径R1と前記湾曲部のフランジ部の内側の曲率半径R2とが、R1-R2 > hの関係を満足するように成形することを特徴とする長手方向に湾曲したハット型部材のプレス成形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板を用いたハット型部材のプレス成形方法、特に、縦壁方向(側面)から見てハット頭部が凸になるような長手方向に湾曲したハット型部材のプレス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポンチとダイスとが対向して配置された金型を用いて金属板をプレス成形すると、離型後の成形品には弾性回復によりスプリングバックやねじれなどが起こり、所定の寸法精度が得られない、いわゆる形状不良が発生することはよく知られている。
【0003】
近年、自動車の車体構造部材では、素材としての軽量化を図るために、板厚の薄い高張力鋼板や比重の小さいアルミニウム合金板の適用が増加してきている。しかしながら、高張力鋼板やアルミニウム合金板などにおいては形状不良の問題がクローズアップされ、形状不良の発生し難いプレス成形方法がいくつか提案されている。なかでも、図1に示すようなハット型断面形状を有するハット型部材をプレス成形するときに発生する縦壁部2のそりやハット頭部1コーナーの角度不良への対策として、例えば、特許文献1には、ハット頭部1、縦壁部2およびフランジ部3よりなるハット型金属プレス部品を絞り成形するに際し、フランジ部3の長手方向に、縦壁部2へ流れる材料の流入を拘束する拘束部分(ビード部)を設けて成形する方法が開示されている。また、特許文献2には、ハット型断面で長手方向に湾曲した形状を有する金属製部材を成形するにあたり、第1成形工程で成形された中間品形状における幅方向の線長LW1と、製品形状における幅方向の線長LWとの関係を0.9<LW/LW1<1.0として、製品形状の形状凍結性に優れるプレス成形方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-281312号公報
【特許文献1】特開2010-064139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、自動車の車体構造部材であるフロントサイドメンバのキック部など、図2の(a)斜視図、(b)上面図、(c)側面図に示すような縦壁方向(側面)から見てハット頭部1が凸になるような湾曲部4を有する長手方向に湾曲したハット型部材に対しては、特許文献1や特許文献2に記載の方法によっても、湾曲部4におけるスプリングバックに起因する形状不良の発生を抑制できない。
【0006】
なお、特許文献2のプレス成形後の形状は、ハット頭部方向(上面)から見て凸状であってフランジは同一平面上にある形状であり、本願とは形状が異なる。
【0007】
本発明は、縦壁方向(側面)から見てハット頭部が凸になるように設けた湾曲部のスプリングバックに起因する形状不良が発生し難い長手方向に湾曲したハット型部材のプレス成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、凸状の湾曲部のハット頭部側の曲率半径R1と湾曲部のフランジ部側の曲率半径R2とが、R1-R2 > h(ハットの高さ)の関係を満足するようにプレス成形することが効果的であることを見出した。
【0009】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、金属板を、高さhのハット型の断面形状を有し、縦壁方向(側面)から見てハット頭部が凸になるような湾曲部を有するハット型部材にプレス成形する際に、前記湾曲部のハット頭部側の曲率半径R1と前記湾曲部のフランジ部側の曲率半径R2とが、R1-R2 > hの関係を満足するように成形することを特徴とする長手方向に湾曲したハット型部材のプレス成形方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のプレス成形方法により、縦壁方向(側面)から見てハット頭部が凸になるように設けた湾曲部のスプリングバックに起因する形状不良が発生し難い長手方向に湾曲したハット型部材を成形できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】通常のハット型部材の一例を示す図である。
【図2】本発明が対象とする縦壁方向(側面)から見て凸状のハット型部材の一例を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は上面図、(c)は側面図である。
【図3】図2のハット型部材の側面およびR1、R2の定義を示す図である。
【図4】本発明によるプレス成形時に湾曲部のハット頭部側に生じる肉余り部を模式的に示す図である。
【図5】実施例で測定したスプリングバック量(Sb)の定義を示す図である。
【図6】端部からの長手方向に沿った位置におけるスプリングバック量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図3に、図2の(c)に相当するハット型部材の長手方向断面(側面図)を示す。本発明が対象とするハット型部材は、縦壁方向(側面)から見て凸状である。
【0013】
以下、R1はハット頭部1の外側の曲率半径であり、R2はフランジ部3の内側の曲率半径である。
【0014】
通常、このように湾曲した高さhのハット型部材をプレス成形するときは、湾曲部4のハット頭部1の外側の曲率半径R1の中心と湾曲部4のフランジ部3の内側の曲率半径R2の中心は一致しており、R1=R2+hの関係を満たす条件で成形される。しかし、このような条件では、上述したように、たとえ特許文献1や特許文献2に記載の方法によっても、ハット頭部1の湾曲部4にハット型部材長手方向の張力が作用するため成形後にその残留応力を開放して元に戻ろうとするスプリングバックに起因する形状不良の発生を避けることができない。
【0015】
しかし、本発明のように、R1-R2 > hの関係を満たす条件で成形すると、平板上のブランク材(鋼板)をブランクホルダーで押さえた際に、パンチ頭部と、ダイスとブランクホルダーに挟まれた鋼板との間にできる隙間が、R1=R2+hの関係を満たす条件の場合より大きくなるため、成形の進行とともに図4に示すような鋼板の肉余り部(パンチ頭部とブランク材がなじまないために発生する隙間)が生じる。そして、この肉余り部は、成形下死点付近で、パンチとダイスによって湾曲部中心に向かう方向へ押しつぶされ、ハット型部材長手方向へも圧縮されるので、ハット頭部1の長手方向の引張残留応力が減少し、湾曲部におけるスプリングバックが小さくなるため、形状不良の発生が抑制されることになる。
【0016】
なお、本発明が対象とするハット型部材は、縦壁方向(側面)から見て凸状であり、従来の特許文献2に示されるハット型部材は、ハット頭部方向(上面)から見て凸形状であって、対象とする形状が異なるため、双方のスプリングバック制御手段も異なる。
【0017】
また、湾曲部4のハット頭部1の外側の曲率半径R1は、パンチ頭部の曲率半径により、また、湾曲部4のフランジ部3の内側の曲率半径R2は、ダイスの曲率半径により、それぞれ独立して変えることができる。
【実施例】
【0018】
実際に、引張強度980MPa、板厚1.2mmの高強度鋼板を用いて、R1とR2を変え、しわ押さえ荷重30トンで、長手方向に湾曲した高さhが50mmのハット型部材をプレス成形した。そして、端部からの長手方向に沿った位置におけるスプリングバック量Sb(mm)を測定した。ここで、Sbとは、図5に示したように、長手方向断面において、スプリングバックが起こらないと仮定した位置(金型形状の位置)を基準にして測定したスプリングバック後の変位量のことである。
【0019】
結果を図6に示す。
【0020】
R1-R2 > hを満足するCASE1、CASE4、CASE5では、通常のR1=R2+hを満足するBASEに比べ、Sbが小さくなり、形状不良が発生し難くなっていることがわかる。
【0021】
一方、R1-R2 < hを満足するCASE2、CASE3では、BASEに比べ、Sbが大きくなり、形状不良が発生し易くなる。
【符号の説明】
【0022】
1 ハット頭部
2 縦壁部
3 フランジ部
4 湾曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板を、高さhのハット型の断面形状を有し、長手方向に沿ってハット頭部が凸になるような湾曲部を有するハット型部材にプレス成形する際に、前記湾曲部のハット頭部側の曲率半径R1と前記湾曲部のフランジ部側の曲率半径R2とが、R1-R2 > hの関係を満足するように成形することを特徴とする長手方向に湾曲したハット型部材のプレス成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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