説明

長短複合織物

【課題】吸水拡散性と速乾性、肌離れ性に優れる長短複合織物を提供すること。
【解決手段】経緯両方向に親水性紡績糸と疎水性マルチフィラメント糸とを交互に配した二重組織の織物であって、経緯両方向において親水性紡績糸が疎水性マルチフィラメント糸より太い長短複合織物。本発明では、特に織物面のうち、肌に当接する面がドット模様を描くような二重組織を採用するのがよく、例えば二重ななこ織が好適である。本発明の場合、異方向間の糸の太さについては特に限定されず、例えば、経方向の親水性紡績糸と、緯方向の疎水性マルチフィラメント糸とを比べた場合は、いずれの糸が太くても差し支えない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水拡散性と速乾性、肌離れ性に優れる織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
衣服着用時、汗を多くかくと、蒸れ感、ベトツキ感が増し、不快と感じることがある。そこで、衣料用織物の分野では、この蒸れ感、ベトツキ感を軽減させるための研究が広く行われている。
【0003】
蒸れ感、ベトツキ感の軽減には、発生した水分を除去することが有効である。そこで、異型断面糸を用いて毛細管現象を発現させることで、織物の吸水性を増す技術が知られている。
【0004】
しかし、異型断面糸は一般にポリエステル繊維から構成される。ポリエステル繊維は疎水性であるため、一旦吸収した水分を織物内に溜め込むことができない。そうすると、身体の動きによって織物に負荷がかかると、水分が排出され、蒸れ感は勿論、織物と身体とが密着し、かえって不快感が増すことになる。
【0005】
そこで、異型断面糸と共に紡績糸を用いて織物を構成する、異型断面糸を構成するポリエステル繊維中に親水性ポリマーを含有させるなどの手段が提案されている。例えば、前者の例として、特許文献1に、紡績糸とマルチフィラメント糸とを経緯方向に特定の本数ごと配列させた織物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−239156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1によると、得られる織物は見映えが良く、着用時の清涼快適性に優れると記載されている。確かに、特許文献1記載の織物は、清涼快適性に優れ、ワイシャツ、ドレスなどに好適である。しかし、この織物における清涼快適性は、糸使いによるものでなく、所定の通気度を達成することにより奏されるものである。したがって、この織物を無風状態で使用しても、所望の清涼快適性は得られない。そればかりか、織物をやや密に織り上げる、目の混んだ織物組織を採用するなど、通気度を下げる要因が存すると、通風状態であっても、所望の清涼快適性が得られないという問題がある。
【0008】
また、親水性ポリマーを異型断面糸の構成繊維に含有させるという技術についても、一定の成果は認められるが、親水性ポリマーが空気中の水分を常に吸収しているので、湿度が高くなると糸は多くの水分を吸収してしまう結果、織物と身体とが密着したまま離れ難くなってしまう。
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の欠点を解消するものであり、吸水拡散性と速乾性、肌離れ性に優れる長短複合織物を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、経緯両方向に親水性紡績糸と疎水性マルチフィラメント糸とを交互に配した二重組織の織物であって、経緯両方向において親水性紡績糸が疎水性マルチフィラメント糸より太いことを特徴とする長短複合織物を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、二重組織を採用して特定の糸を経緯両方向に配列させ、さらに構成糸に繊度差を設けることにより、吸水拡散性と速乾性、肌離れ性に優れる長短複合織物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の長短複合織物は、経緯両方向に親水性紡績糸と疎水性マルチフィラメント糸とを交互に配した二重組織の織物である。
【0015】
親水性紡績糸としては、綿、レーヨン、リヨセル、羊毛、麻、竹などから構成される紡績糸があげられる。一方、疎水性マルチフィラメント糸としては、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリ乳酸などから構成されるマルチフィラメント糸があげられる。また、両糸とも断面形状、糸形状については特に限定されず、断面形状としては、丸断面、異型断面、中空断面などが採用でき、糸形状としては、フラットヤーン、捲縮糸、加工糸などが採用できるが、吸水拡散性の観点から、異型断面又は捲縮糸のものが好ましい。
【0016】
本発明では、経緯両方向において、上記親水性紡績糸、疎水性マルチフィラメント糸が交互に配列されている。配列の数としては、特に限定されるものでないが、1本交互、2本交互などが最も一般的である。織物内で両糸を配列させることで、吸水した水分を効率よく拡散させることができるので、織物の速乾性が高まる。
【0017】
そして、本発明では、織組織として二重組織を採用する。二重組織としては、経二重、緯二重、経緯二重のいずれも採用可能である。特に織物面のうち、肌に当接する面がドット模様を描くような二重組織を採用するのがよく、例えば、二重ななこ織などが好ましく採用される。
【0018】
さらに、本発明では、経緯両方向において、親水性紡績糸の太さが疎水性マルチフィラメント糸の太さより太いことを必要とする。このように、糸の太さに差を設けることで、親水性紡績糸に吸収された水分が、疎水性マルチフィラメント糸による毛細管現象によって、織物内に顕著に拡散し易くなる。そうすると、織物が湿潤環境に曝されても、水分を素早く吸収・拡散できるので、織物と身体とが密着したまま離れ難くなるといったことが生じ難くなる。
【0019】
なお、「経緯両方向において親水性紡績糸が疎水性マルチフィラメント糸より太い」とは、同一方向にある親水性紡績糸と、疎水性マルチフィラメント糸とを比べたとき、前者の方が太いということを意味する。すなわち、経方向の親水性紡績糸と、経方向の疎水性マルチフィラメント糸とを比べたとき、前者の方が太く、かつ、緯方向の親水性紡績糸と、緯方向の疎水性マルチフィラメント糸とを比べたとき、同じく前者の方が太いことを意味するものである。したがって、異方向の糸について太さを比較したものではないから、例えば、経方向の親水性紡績糸と、緯方向の疎水性マルチフィラメント糸とを比べた場合は、いずれの糸が太くても差し支えないのである。つまり、異方向にある糸同士の太さの関係は、本発明では特に限定されない。
【0020】
本発明の織物は、以上の構成を有するものであるが、必要に応じて上記した4種の糸以外の糸を使用してもよい。例えば、織物において肌に当接する面にドット模様を形成する目的で、上記4種の糸より太い糸を使用してもよい。また、織物に制電性を付与する目的で、各種導電糸を適用することも有効である。
【0021】
なお、導電糸について述べると、導電糸は一般に強度が弱く、他の糸と合糸して用いるのが一般的である。そのため、本発明の場合では、親水性紡績糸、疎水性マルチフィラメント糸のいずれか一方と合糸して用いるのが一般的である。導電糸と合糸した糸は、織物において、好ましくは1〜5本/インチ、より好ましくは1〜2本/インチの割合で格子状に配されるのが好ましい。また、制電性の指標としては、JIS T8118に記載されている「制電作業服」の要件を満足することが好ましい。
【実施例】
【0022】
経方向にエステル綿混紡糸(エステル65質量%、綿35質量%)34番手と、ポリエステル異繊度異型断面糸98dtex48fとを2本交互に配列させ、緯方向にエステル綿混紡糸(エステル65質量%、綿35質量%)34番手と、ポリエステル仮撚捲縮糸167dtex48fとを同じく2本交互に配列させ、生機となした。このとき、織組織には、二重ななこ織を採用した。
【0023】
次に、生機を通常の方法に準じ、糊抜き、精練、漂白、シルケット、染色、仕上げセットし、目的の織物(実施例)を得た。
【0024】
比較例として、緯方向にエステル綿混紡糸(エステル65質量%、綿35質量%)34番手のみを使用する以外、実施例と同一規格のもの(比較例1)、経緯両方向にエステル綿混紡糸(エステル65質量%、綿35質量%)34番手のみを使用する以外、実施例と同一規格のもの(比較例2)を得た。
【0025】
ここで、以下の方法に準じ、得られた織物の吸水性、拡散乾燥速度、密着性を測定した。
【0026】
(吸水性)
織物を平らな面に置き、0.5cmの高さからピペットを用いて蒸留水を0.1mL滴下し、表拡散面積を測定することで、吸水性を評価する。
(拡散乾燥速度)
ガラス板の上に蒸留水を0.2mL滴下した後、その上から織物を置く。そして、織物の残留水分率を経時的に測定することで、拡散乾燥速度を評価する。
(密着性)
測定機器として、KES G−5を使用する。織物に蒸留水を0.1mL滴下し、直径36mmの圧縮子にて50gf/cmの圧力で織物を圧縮し、引き剥がす際の力(密着力)を測定する。0.1mL単位で付与する蒸留水を増やし、織物の保水限界まで測定する。
【0027】
【表1】

【0028】
表1の結果から以下のことが確認できた。すなわち、実施例にかかる織物と比較例にかかる織物とを対比すると、(1)前者は後者に比べ同一時間経過後の表拡散面積が広く、故に前者は後者に比べ吸水性及び吸水拡散性に優れると認められる。(2)前者は後者に比べ同一時間経過後の残留水分率が少なく、また、残留水分率が10%に到達する(下がる)時間も短いことから、前者は後者に比べ速乾性に優れると認められる。(3)前者は比較例1に比べ同一水分量における密着力が大きくなっていることから、単純に肌離れ性だけを比較すれば比較例1より劣るといえる。しかし、前者(実施例)における当該密着力は、一般の織物の中では相対的に低く、現に、比較例2に比べ小さくなっている。したがって、前者の肌離れ性は一般の織物と比べ優れると認められる。
【0029】
以上の点から、本発明の織物は、衣服となした際、快適な着衣感を得る上で有利と認められる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
経緯両方向に親水性紡績糸と疎水性マルチフィラメント糸とを交互に配した二重組織の織物であって、経緯両方向において親水性紡績糸が疎水性マルチフィラメント糸より太いことを特徴とする長短複合織物。