説明

長繊維で強化された熱可塑性樹脂長尺体の製造装置

【課題】 長繊維強化樹脂長尺体製造時の毛羽又は毛玉発生阻止手段開発。
【解決手段】 開繊含浸槽Vの下流端壁Vdに穿設された賦形ノズル1の縦断面形状を上流側から円錐部11及びそれに続く円筒面のランド部12で形成させ、円錐部内壁面11iの頂角(α)を15〜35度に、ランド部長を1〜5mmに、下流端壁Vd厚を5〜30mmにそれぞれ設定する。供給機構(不図示)から溶融樹脂を樹脂導入口Vi経由で導入し、連続繊維束Fを上流端壁Vu又は天板Vt上流域に開設された繊維束導入口Vuf又はVtf経由で導入し、それを本装置V内の開繊架設体RPで開繊しながら開栓体間に樹脂を含浸させ、これを賦形ノズル1で絞りながら本装置Vから下流側へ引出し装置(不図示)で引出して長繊維強化樹脂長尺体Sを得る。
【効果】 開繊含浸装置Vに穿設された賦形ノズル1の出口周囲には毛玉も毛羽等も殆ど発生しなかった。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は連続した強化用繊維束に溶融熱可塑性樹脂を含浸させて、強化熱可塑性樹脂長尺体即ち、単一方向に整列した長繊維で強化された熱可塑性樹脂構造体を製造する為の装置に関する。詳しくは、特定形状の賦形ノズルを使用することをその主眼とし、糸切れによる毛玉発生が押さえられると共に、安定生産性に優れた熱可塑性樹脂長尺体を製造する為の装置に関する。
【0002】
【従来の技術】強化用繊維束に溶融樹脂を良好に含浸させる方法は既に特公昭63−37694号公報等に種々提案されている。これらの方法によれば、含浸性に優れた熱可塑性樹脂長尺体を得ることができる。しかし、本発明者等の検討によれば、次記の各種改善必要事項が残されていることが判った:長時間運転に伴って繊維の糸切れに伴って毛玉が発生する;この毛玉が賦形ノズルに詰まる結果として更なる糸切れを引起こし、最終的に長尺体全体が破断して運転中止に至る。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は上記の各種改善必要事項を解消し、長時間運転後にも開繊含浸装置の下流端に位置する賦形ノズルに往々に発生する毛玉を防止する方策を提供し、長繊維で強化された熱可塑性樹脂長尺体を長時間安定して製造し得る装置を開発することにある。
【0004】
【課題を解決しようとする手段】本発明は下掲の各要件の結合によって構成された各実施態様によってその効果を達成し得るものである:1)長繊維で強化された熱可塑性樹脂長尺体を製造する為の引抜き成形装置において、該成形装置における下流端壁に穿設された賦形ノズルを形成する上流側円錐面の頂角(α)が15〜35度であると共に該賦形ノズルがその下流側域に長さ1〜5mmのランド部を有することを特徴とする製造装置。
2)該賦形ノズルの上流側円錐面の頂角(α)が20〜30度であることを特徴とする前記項1に記載の製造装置。
3)該賦形ノズルがその上流端から下流端までの中心軸上における厚さ5〜35mmであることを特徴とする前記項1又は2に記載の製造装置。
4)該賦形ノズルがその上流端から下流端までの中心軸上における厚さ15〜30mmであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の製造装置。
【0005】
【発明の実施の形態】長繊維で強化された熱可塑性樹脂長尺体を製造する槽型の開繊含浸装置(引抜成形装置と称することがある)及び詳しくは、それに装着された本発明の賦形ノズルについて以下に図面を参照して具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの具体的説明によっては何等の制限を受けない。
【0006】<図面に基づく説明>図1は本発明及び従来技術を説明する為の便宜上用いられる図であり、図2は本発明の好適実施態様(実施例)を説明する為の図、図3R>3及び図4は類似態様(比較例)を説明する為の図である。図1で統括される本発明の好適態様は長繊維で強化された熱可塑性樹脂長尺体を製造する為の開繊含浸装置V(別名引抜成形装置)を示す模式的縦断面図であって、図1(A)によれば、この開繊含浸装置(V;開繊含浸槽又は含浸槽と略称されることがある)は開繊される長繊維束F(長繊維ロービング)をその進行方向に沿って両側から挟む様に位置する左側壁(不図示)及び右側壁(不図示)、槽の上流端に位置して含浸槽Vを形成する上流端壁Vu、槽の下流端に位置して含浸槽Vを形成する下流端壁Vd、これらの両側壁と両端壁との全てに下縁面で密接する底板Vb及びこの底板Vbに対向してそれらの全てに上縁面で密接する天板Vtとで主として形成されている。
【0007】それに加えて、上記の含浸槽Vはその内側で両側壁間を連結する様に、しかも溶融樹脂中に浸漬される高さに架設された1本以上、好ましくは3本以上の開繊ロールR(遊転も駆動回転も可能)又は好ましくは3対以上の(固定:非回転)開繊ピンP(両者を一括して開繊架設体RPと総称することがある)と下流端壁Vdに穿設された先細の本発明の賦形ノズル1とを備えている。
【0008】この本発明の賦形ノズル1は開繊含浸槽V内で形成された長繊維強化樹脂長尺体Sを槽内から引出される際に所期の断面形状に整形する為のノズルである。ここで、賦形ノズル賦形オリフィスと称することもできるが、本発明ではこれを賦形ノズルと称する。図1(B)は本発明の賦形ノズル1を装着した開繊含浸装置Vの別異態様を示す最上流側部分であって、この態様においては、開繊含浸装置Vの上流側天板に穿たれた長繊維束導入口Vtf経由で左上から斜下向けに開繊されるべき長繊維束Fが導入され、次に溶融樹脂中へ導入後に転向手段(転向ロールTr又は転向ピンTp)の左下側から接触しながら略水平方向へ転向された位置で転向手段Tから離脱して開繊ロールR又は開繊ピンPへ向かう。この転向手段は開繊を目的とせず、単に長繊維束Fの移動方向を変更する手段に過ぎない。
【0009】<<本発明の実施態様>>図2は本発明の賦形ノズル1の模式的拡大縦断面図であって、図2において賦形ノズル1は下流端壁Vdに下流側へ向けて先細りに穿設された円錐部11とその下流端に接続するランド部12とで形成されている。賦形ノズル1を上流側から見た壁面11iは通常、賦形ノズル1の中心軸(X)を囲む円錐面であるが、楕円錘面等であっても良い(ランド部の内壁面は通常は見えない)。図2を含む各図に表示された下流端壁Vdの縦断面図上で下流側へ向けて収束する2直線11mは何れもこの円錐部の内壁面11iに位置する母線である。
【0010】本発明の賦形ノズル1では、その円錐部11の内壁面11iが形成する円錐面の頂角[α:上記2直線11iの交角]は通常15〜35度、好ましくは20〜30度に設定されれば殆どの場合には十分である。この円錐部11の下流端はランド部12に接続し、このランド部12は通常、円筒面で形成されている。このランド部12の長さ(ランド長)は通常1〜5mm、好ましくは1〜3mmに設定されれば殆どの場合には足りる。
【0011】本発明においては、本発明の賦形ノズル1が穿設された下流端壁Vdの厚さも重要であって、この厚さは通常5〜35mm、好ましくは10〜30mmに設定されることが好ましい。
<開繊含浸装置Vの作動説明>図2に示された本発明の賦形ノズル1が穿設された図1の開繊含浸装置V(別名引抜成形装置含浸槽と略称することがある)において、図面の左側(上下左右前奥縦横等は説明の便宜上の表現である)に表示された上流端壁Vuに穿設された長繊維導入ノズルVuf経由又は図面の左上に位置する天板Vtの上流域に設けられた長繊維導入口Vtf経由の何れかで長繊維ロービングFが開繊含浸装置Vへ導入される。他方、この装置V内には、その底板Vbに通常は穿設された溶融樹脂導入口Viに接続された溶融樹脂供給機構(不図示)から前記導入口Vi経由で溶融樹脂が導入されて所定の高さに溶融樹脂の液面が保たれる。
【0012】<<溶融樹脂導入口Vi>>開繊含浸槽Vへの溶融樹脂の供給は前記含浸槽に設けられた溶融樹脂導入口Viから行なわれる。この溶融樹脂導入口Viは通常、含浸槽Vの天板Vt、底板Vb及び上流端壁Vuから選ばれる1以上に穿設される。
<<開繊用繊維束導入口Vf>>開繊含浸槽Vへの開繊用繊維束F(長繊維束)導入は上記の通りに、長繊維束導入口Vf(総称)経由で行なわれる。この長繊維束導入口Vfは開繊含浸槽Vの上流端壁Vu及び天板Vtから選ばれる1以上に穿設される。長繊維束導入口Vfの形状はそれが穿設される個所に応じて適切に選択され得るもので、例えば長繊維束F(長繊維集束体)が上流端壁Vuに穿設された長繊維束導入口Vufから導入される場合には、長繊維束導入口Vufの断面形状を長繊維束F自体の断面形状又はそれらを複数本横に並列させた断面形状に適合するスリット形状に設定すれば足りる。
【0013】他方、長繊維束Fが含浸槽Vの天板Vt上流域に開設された長繊維束導入口Vtfから導入される場合には、長繊維束導入口Vtfの形状は長繊維束の断面形状に制約されずに自由に選択可能である。即ち、この導入口Vtfからは溶融樹脂が洩れ出る懸念が無いことから、長繊維束導入口Vtfの形状は上流端壁Vuに穿設される長繊維導入口Vufと同一形状でも差支え無いことは勿論、それとは異なって、単なる丸形又は角形等の開口でも差支えない。
【0014】<<開繊含浸槽とその温度設定について>>上記の開繊含浸槽Vは溶融樹脂を所定量貯留させながら流動させると共に開繊体の繊維間に溶融樹脂を含浸させる為に用いられる処理槽で、通常は箱形で充分であり、最少限この開繊含浸槽Vの左右側側壁VsLR及び底板Vbには加熱機構(不図示)が装備されていることが重要である。この加熱機構によって、使用される基材樹脂並びに開繊及び含浸される連続繊維束F等を基材樹脂の結晶融点よりも次記の充分に高い温度に昇温及び保温できる様に構成されていることが好ましい。前記の充分に高い温度とは、使用樹脂の結晶融点よりも通常10〜150℃、好ましくは30〜120℃だけ高温を言い、この加熱機構には含浸槽V内の樹脂及び連続繊維束(F)等を上記の充分に高い温度に昇温及び維持する能力が備わっていることが好ましい。ここで、基材樹脂が2種以上の熱可塑性樹脂の組合せである場合に、上記の充分に高い温度は最高融点を示す樹脂の結晶融点よりも通常10〜150℃、好ましくは30〜120℃だけ高温を言うが、組合せによって融点降下が生ずる場合には、降下後の新たな融点に対して、上記の充分に高い温度を算出すれば足りる。
【0015】ここで結晶融点(Tm)とは、示差走査型熱量計(DSC)を用いた融解熱量測定において、試料の温度を20℃/minの割合で昇温させながら発生する温度−融解熱量関係曲線に生ずる融解熱ピークが位置する温度とする。なお、融解熱ピークが複数個観測された場合には、その中で最大面積を占めるピークが位置する温度とする。
【0016】この開繊含浸装置V内へ上流側から導入された長繊維ロービングFはこの装置内に溶融樹脂の進行方向に対して略垂直に架設された3本以上の開繊架設体RP(開繊ロール開繊ピンとの総称)によって開繊されると共に、開繊によって生じた各開繊体(単繊条及びその低度集束体から選ばれる1種以上)の間に溶融樹脂が含浸(開繊含浸)される。この場合の開繊方式は大別して2つに分類される。
【0017】その第1の開繊方式は通常3本以上の開繊架設体として開繊ロールRが用いられ、それらが回転(駆動又は遊動)可能に、しかも溶融樹脂の移動方向に沿って一連に設置され、開繊含浸装置V内へ導入された長繊維集束体Fがこの開繊ロールRの周面に沿って所定長だけは接触する行動を繰返す所謂千鳥型接触によって開繊を行なう方式である。
【0018】その第2の開繊方式は通常3対以上の開繊架設体として開繊ピンP対(上段開繊ピンPuと下段開繊ピンPdの組合せ)を用い、各対が溶融樹脂の流動方向に対して略垂直に、しかも長繊維集束体Fを上下から非接触で挟む形態に架設されると共に、各対間に相互に所定の間隔を置いて上流から下流向けに一連に設置され、しかも導入された長繊維集束体Fが上段開繊ピンPuと下段開繊ピンPdとの間を上段開繊ピンPu又は下段Pdの何れにも接触しない形態、所謂非接触で略直線的に通過しながら開繊を行なう方式である。ここで、開繊ピン対は溶融樹脂の進行方向に向けて略水平面内に通常は3対設置されている。
【0019】実際の開繊作業では長繊維集束体Fが上記の開繊方式の何れかによって開繊されながら、開繊と同時又は稍遅れて行なわれる含浸作業では各開繊体内に溶融樹脂が含浸された後に賦形ノズル1で熱可塑性樹脂と共に絞られながら開繊含浸槽V外へ下流向けに引抜かれることによって長繊維で強化された熱可塑性樹脂長尺体S(ストランド又はロッド)が得られる。
【0020】上記の長繊維強化樹脂長尺体Sが賦形ノズル1から引出される際に、従来の賦形ノズル2又は3が用いられた場合には往々にして下流端壁Vdの出口近辺で毛玉が発生する。この毛玉は開繊によって折損された長繊維が賦形ノズル1を通過する為に強く絞込まれた反作用として、その集束状態から離反して毛羽となったものが下流端壁Vdに穿設された賦形ノズル2又は3から引出されて、抑圧から解放された段階で外側へ曲り続けた結果生ずる後れ毛の集合物と見られている。
【0021】<<比較例1及び2の態様>>図3(比較例1)において、賦形ノズル2はその上流側から見た円錐面21の頂角(α)を本発明におけると同一とし、賦形ノズル2の下流側に接続するランド部22の長さを本発明における1〜5mmよりも長い6〜10mmに設定したものである。この賦形ノズル2を用いた開繊含浸においては、長繊維強化樹脂長尺体S(長繊維強化ストランド)からの糸切れ及び毛羽立ちに起因する毛玉が定常運転を妨げる程に多発した。
【0022】図4(比較例2)において、賦形ノズル3のランド部32の長さは本発明におけると同一であるが、上流側から見た円錐面31の頂角(α)が本発明における15〜35度よりも格段に大きな45度に設定されたものである。この賦形ノズル3が装着された開繊含浸装置Vの運転においては、導入された長繊維束Fからの糸切れも毛羽立ちも定常運転を妨げる程には激しく生じなかったが、その発生頻度及び現象の強さは製品の品質を低下させるに十分であった。
【0023】<<付属設備>>上記の開繊含浸槽Vへの溶融樹脂供給機構(不図示)として常用されるものの例は押出機である。この押出機の中でも各種のものが使用可能であって、例えば単軸スクリュー型又は二軸スクリュー型の何れでも使用可能で、二軸スクリュー型の中にも同方向(回転)型及び異方向(回転)型の2種に加えて、スクリューの長さが等長のものと不等長のものとが目的に応じて用いられる。
【0024】上記の開繊含浸槽Vの下流端壁Vdに穿設された賦形ノズル1の下流側には、冷却設備及び/又はサイジングダイ等を種々設置することができる。この冷却設備は押出された強化ストランド(ロッド)を冷却する為の設備であり、サイジングダイは強化樹脂長尺体S(強化ストランド;強化ロッド)の真円度等の形状改良を目的とするものである。更に、ペレタイザー(造粒機構)等を付設して、長尺体(直径通常1〜4mm程度)を平均長3〜50mmに細断(裁断)することによる粒状体(柱状体)の作製も屡々行なわれる。
【0025】<<長繊維強化材F>>基材樹脂用の強化材として通常的に製造され、市販されている長繊維強化材としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維及び溶融石英繊維等の無機繊維並びに合成樹脂繊維等の有機繊維を挙げることができる。これらの長繊維強化材Fは何れも、実質的に無端の長繊維の形態であるものが本発明の目的には好適である。尤も、実際に供給される形態は単繊維ではなく、それが多数本集束され、相互に適度に接着されて形成された形態ロービングが一般的である。このロービングは開繊工程においては、可能な限り個々の単繊維に近い段階まで開繊され得ることが期待される。
【0026】ロービングが開繊工程を経て得られる長繊維開繊体は基材(マトリックス)樹脂中へ可能な限り均一に分散されることが好ましい。それに加えて、長繊維開繊体が強化ストランド又は強化ロッドSの様な細長いものに含有される場合には、その長軸方向に対して可能な限り平行に整列されていることが好ましい。
<長繊維強化材の材質>本発明の長繊維強化長尺体Sを作製する為に用いられる長繊維強化材Fは各種の材質のものでよい。その材質は無機物質及び有機物質に大別される。無機物質の中で最も実用性に富むものとして例えば、ガラス(珪酸ガラス)、石英、天然鉱物、金属及び炭素を挙げることができる。ここでガラスとは、珪酸金属塩を主成分とする固溶体であって、ソーダガラス、カリガラス、耐熱ガラスである硼珪酸ガラス(ホウ珪酸ガラス;ボロシリケートガラス)等を包含する。各種ガラス類の中でも好ましいガラスはケイ酸カリウム系ガラス(カリガラス)及びボロシリケートガラス(別名Eガラス)である。
【0027】長繊維強化材の材質の中でも、ガラスはその引張特性、曲げ特性、熱的特性及びその価格等の点において最も多用される強化材であるが、軽量性及び耐アルカリ性の点で用途によっては制約を受ける。
<<ガラス繊維強化材FG>>基材樹脂用の強化材として通常的に製造され、市販されている長繊維強化材の代表であるガラス連続繊維束F(ガラス長繊維束)としては、ガラスロービングを挙げることができる。このガラスロービングは通常、平均繊維径4〜30μm、フィラメント集束本数400〜10000本、テックス番手300〜20000g/kmであるが、好ましくは平均繊維径9〜23μm、集束本数1000〜6000本のものである。基材樹脂に対する補強効果の観点から、長繊維強化材の表面には界面接着性付与又は向上の為の処理剤として、好ましくはシランカップリング剤等による処理が施されている。
【0028】<<有機質繊維強化材FP>>ガラス繊維強化材FGに対して軽量性及び耐アルカリ性に優れる点で炭素繊維FCが浮上する。尤も、炭素繊維FCはその価格の点ではガラス繊維に比肩し得ないことから、軽量性と強度との兼備(比強度が大であること)が価格に優先する用途例えば、航空機用、競走用車両又はスポーツ用等に制約される。
【0029】有機物質としては主として合成樹脂であって、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂に大別できる。これらの中で熱硬化性樹脂は強化材F用の長繊維にはその高い耐熱性において熱可塑性樹脂を足下にも寄せ付けないが、その成形性の点で熱可塑性樹脂には比肩し得ない。この熱可塑性樹脂の中でも高結晶性及び高融点のものが長繊維強化材用には優れている。なお、当然ながら強化材FPとして熱可塑性樹脂が用いられる場合には、その融点が基材樹脂の融点よりも大幅に高いこと、通常は50℃以上、好ましくは70℃以上高いことが望まれる。
【0030】高結晶性で高融点の熱可塑性樹脂としては例えば、高い耐熱性例えば200℃を超える融点が望まれる用途向けには各種のポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂が適合する。ここでポリアミド樹脂としては、開環付加重合型ナイロン例えば6-ナイロン、7-ナイロン、11-ナイロン及び12-ナイロンを挙げることができ、共重縮合型のポリアミド樹脂は6,6-ナイロン、6,7-ナイロン、6,10-ナイロン、6,12-ナイロン等並びに6-/6,6-共縮合ナイロンの様な汎用銘柄及び特殊銘柄を挙げることができる。
【0031】一層の高耐熱性が望まれる場合には芳香族ポリアミド樹脂、全芳香族ポリアミド樹脂(別称:アラミド樹脂)等が用いられる。前者の代表としては通称ナイロンMXD6即ち、m-キシリレンジアミンとアジピン酸との共縮重合体が例示され、後者の代表としてはm-キシリレンジアミンとテレフタル酸との共縮合重合体が例示される。後者に属するものにも既に市販されているものがある。
【0032】また、ポリエステル(樹脂)として最も一般的なものは脂肪族系のジオールと芳香族系のジカルボン酸との共縮合重合体であって中でも、エチレングリコール(又はエチレンオキシド;エチレンオキサイド)とテレフタル酸との共縮重合体(ポリエチレンテレフタレート;略称PET)である。これよりも更に耐熱性に富むポリエステルとしては、脂肪族系のジオールとしてエチレングリコールに代えて1,4-ブタンジオールを用いた共縮重合体(ポリ-1,4-ブタンジオールテレフタレート;略称PBT)を例示することができる。耐熱性に特に優れるポリエステル樹脂としては、ジオール側も芳香族化合物である通称全芳香族ポリエステルが存在し、その中には防弾チョッキの材料に用いられているものもある。
【0033】<基材(基質;マトリックス)樹脂>長繊維束(ロービング)の開繊によって得られる開繊体(単繊条又は低度開繊物)間に含浸されるべき溶融樹脂の素材樹脂は結晶融点通常110〜350℃、好ましくは150〜270℃の熱可塑性樹脂であればその何れかを問わない。とはいえ、通常の用途においては結晶性樹脂例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂(ナイロン)及びポリエステル系樹脂から選ばれる1種又はこれらの2種以上の組合わせからなる樹脂組成物を素材樹脂として用いることが一般的である。2種類以上の熱可塑性樹脂が組合わせて用いられる場合には、樹脂相互間に充分な相溶性が実現される組合せであることが好ましい。
【0034】上記の結晶性熱可塑性樹脂の中でも、通常の用途向けには性状及び価格等の見地からポリオレフィン系樹脂POが多用される。このポリオレフィン系樹脂POとは、炭素数通常2〜10個程度のα-オレフィンを構成単位とする結晶性単独重合体若しくは結晶性共重合体又は2種以上の結晶性単独重合体の組成物(混合物)、2種以上の結晶性共重合体の組成物(混合物)又は1種以上の結晶性単独重合体と1種以上の結晶性共重合体との組成物(混合物)等を包含する概念である。
【0035】結晶性ポリオレフィン系樹脂を構成する上述の炭素数2〜10個のα-オレフィンとは例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン及び1-デセン等であって、その1種に限らず2種以上の組合せであってもよい。結晶性ポリオレフィン(ポリ-α-オレフィンの通称)系樹脂の中でも、実用的には結晶性ポリプロピレン系樹脂PPが最も汎用性に富んでいる。なお、低温用途向けには寧ろポリエチレン系樹脂PEが適し、高温使用が望まれる用途向けにはポリ-4-メチル-1-ペンテン系樹脂MPTが適する。なお、必要に応じて、前記の結晶性ポリオレフィン系樹脂を2種以上適宜に選択して組合せることによって、何れかの樹脂単独では実現困難な性状を発現する樹脂を組成物の形態で得ることができる。
【0036】長繊維Fで強化された本発明の熱可塑性樹脂長尺体Sを構成する基材樹脂はそのメルトフローレート[MFR(230℃;21.2N)]30〜300g/10min、好ましくは50〜200g/10minの熱可塑性樹脂であれば何れでも用いることができる。また、更に高い耐熱性が要求される用途向けには基材樹脂として、上記のポリアミド樹脂NL(ナイロン)又は熱可塑性ポリエステル樹脂を、長繊維強化材Fとしては熱硬化性樹脂又は無機物質繊維例えば、ガラス繊維FG(珪酸塩ガラス繊維)、岩綿繊維、石英繊維、炭素繊維FC及び金属繊維から選ばれた1種以上のものを用いることが好ましい。
【0037】<賦形ノズル1(賦形ダイス)の材質と表面仕上げ>本発明の賦形ノズル1はその上流側から見た円錐面11の頂角(α)及びランド部12の内径及び壁面等がガラス繊維F等の高硬度繊維との長期間の摩擦によって損耗する。この損耗を抑制する為には、賦形ノズル1の材質を高耐磨耗性の鉄−タングステン合金(商品名:タンガロイ)又は鉄−チタン(フェロチタン)合金等の超高硬度合金から選び、その表面にクロム又はニッケル等の表面硬度に優れた被膜を形成する金属でメッキ処理(金属メッキ処理)、好ましくは電解メッキ(電気メッキ)処理して一層平滑化することが好ましい。賦形ノズル1に更に高い表面硬度及び表面平滑度が要求される場合には、金属メッキ処理ではなく、上記の超高硬度合金等によって作製された賦形ノズルの表面を電解研磨処理等によって高度平滑化することが好ましい。
【0038】
【発明の効果】本発明の特定形状の賦形ノズルを担持する下流端壁が開繊含浸槽に組付けられると共に、その下流端壁に穿設されたランドの長さも本発明の規定通りに設定(選定)されていれば、開繊時における長繊維の折損も毛羽立ちも、それに起因する毛玉も生じ難くなるという効果が奏される。その結果として、本発明の賦形ノズル(ランド部をも包含)を担持した下流端壁が装着された開繊含浸装置は長期間に亙り安定して連続運転に耐える。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(A)は本発明の賦形ノズルを備えた下流端壁を構成要素の1とする開繊含浸装置の模式的縦断面図であり、図1(B)は上流側天板に長繊維束導入口を備えた部分だけを示す模式的部分拡大縦断面図である。
【図2】本発明の賦形ノズルの模式的拡大縦断面図である。
【図3】比較例1に相当する賦形ノズルの模式的縦断面図であって、このノズルにおけるランド部が本発明におけるよりも相当に長く設定されている。
【図4】比較例2に相当する賦形ノズルの模式的縦断面図であって、このノズルにおける円錐面の頂角が本発明におけるよりも格段に大きく設定されている。
【符号の説明】
1 本発明の賦形ノズル
2 比較例の賦形ノズル
3 比較例の賦形ノズル
11 本発明の賦形ノズルにおける円錐面
21 比較例1の賦形ノズルにおける円錐面
31 比較例2の賦形ノズルにおける円錐面
12 本発明の賦形ノズルにおけるランド部
22 比較例1の賦形ノズルにおけるランド部
32 比較例2の賦形ノズルにおけるランド部
11m 円錐部内壁面に位置する母線
F 長繊維ロービング
P 開繊ピン(総称)
R 開繊ロール(総称)
S 長繊維で強化された樹脂長尺体
T 長繊維束の転向手段(総称)
V 開繊含浸装置全体
X 賦形ノズルの中心軸
FC 炭素長繊維強化材
FG ガラス長繊維強化材
FP 合成樹脂長繊維強化材
Pu 上段開繊ピン
Pd 下段開繊ピン
RP 開繊架設体(総称)
Tp 転向ピン
Tr 転向ロール
Vb 開繊含浸装置を構成する底板
Vd 開繊含浸装置を構成する下流端壁
Vf 長繊維束(連続繊維束;長繊維ロービング)の導入口(総称)
Vs 開繊含浸槽の側壁
VsL 開繊含浸槽の左側側壁
VsR 開繊含浸槽の右側側壁
Vt 開繊含浸装置を構成する天板
Vu 開繊含浸装置を構成する上流端壁
Vuf 上流端壁に穿設された長繊維束の導入口
Vtf 天板の上流域に開設された長繊維束の導入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】 長繊維で強化された熱可塑性樹脂長尺体を製造する為の引抜成形装置において、該装置における下流端壁に穿設された賦形ノズルを形成する上流側円錐面の頂角(α)が15〜35度であると共に該賦形ノズルが該上流側円錐面に続く下流側域に長さ1〜5mmのランド部を有することを特徴とする製造装置。
【請求項2】 該賦形ノズルの上流側円錐面の頂角(α)が20〜30度であることを特徴とする請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】 該賦形ノズルがその上流端から下流端までの中心軸上における厚さ5〜35mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造装置。
【請求項4】 該賦形ノズルがその上流端から下流端までの中心軸上における厚さ15〜30mmであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2001−88223(P2001−88223A)
【公開日】平成13年4月3日(2001.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−267421
【出願日】平成11年9月21日(1999.9.21)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】