説明

開始同期アーク溶接方法

【課題】2つの溶接個所を2つの溶接トーチを使用して溶接開始の同期を取って溶接する開始同期アーク溶接方法において、先行してアークが発生した側の溶接開始位置前方部分の溶け込みが不足する現象を抑制する。
【解決手段】第1溶接トーチ及び第2溶接トーチを各々予め教示された溶接開始位置に移動させ(t1)、第1アークが先行して発生したとき(t2)はその状態で待機させ、遅れて第2アークが発生したとき(t3)は前記待機状態を終了して両溶接トーチを各々予め教示された溶接線に沿って移動させて溶接する開始同期アーク溶接方法において、第1アークの溶接開始位置から溶接方向に対して後ろ又は斜め後ろ側に終端位置を予め教示し、前記待機期間Tdの一部又は全部の期間中は第1アークを前記溶接開始位置と前記終端位置との間でウィービングSuさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの溶接個所に対して2つの溶接トーチを使用し、溶接を開始するタイミングを同期させて同時に溶接を行うための開始同期アーク溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの溶接個所に対して2つの溶接トーチを使用し、溶接を開始するタイミングを同期させて同時に溶接する開始同期アーク溶接方法が従来から行われている。例えば、1つのワークに対称の2個所の溶接個所がある場合、溶接中の熱変形を考慮して2個所を同時に溶接することによって溶接品質を良好にすることができる。また、回転治具にワークを固定し、2個所を2つの溶接トーチを使用して同時に溶接する場合、両溶接トーチの溶接開始及び回転治具の回転開始を同期させる必要がある。以下、2台のロボットを使用した溶接装置において、開始同期アーク溶接方法を実施する場合の従来技術について説明する。
【0003】
図5は、2台のロボットを使用して2個所を同時に溶接する溶接装置の構成図である。以下、同図を参照して各構成について説明する。
【0004】
ロボット制御装置RCは、1台で後述する2台のロボットRM1、RM2及び回転治具PTを動作制御する第1動作制御信号Mc1、第2動作制御信号Mc2及び外部軸制御信号Pcを出力する。さらに、ロボット制御装置RCは、第1溶接電源PS1との間で第1溶接制御信号Wc1及び第1アーク発生信号Ac1を送受信すると共に、第2溶接電源PS2との間で第2溶接制御信号Wc2及び第2アーク発生信号Ac2を送受信する。
【0005】
第1溶接電源PS1は、上記のロボット制御装置RCから第1溶接制御信号Wc1を受信し、第1アーク発生信号Ac1を送信すると共に、第1送給モータM1を回転制御する第1送給制御信号Fct1を出力し第1溶接電圧Vw1及び第1溶接電流Iw1を出力する。第2溶接電源PS2は、上記のロボット制御装置RCから第2溶接制御信号Wc2を受信し、第2アーク発生信号Ac2を送信すると共に、第2送給モータM2を回転制御する第2送給制御信号Fct2を出力し第2溶接電圧Vw2及び第2溶接電流Iw2を出力する。上記の第1及び第2溶接制御信号Wc1、Wc2には、図示していないが起動信号、電流設定信号(送給速度設定信号)、電圧設定信号、電流波形パラメータ信号等が含まれている。電流波形パラメータ信号とは、CO2/MAG溶接にあっては短絡期間中の溶接電流の波形を設定する信号であり、パルスアーク溶接にあってはパルス電流の波形を設定する信号等である。また、上記の第1及び第2アーク発生信号Ac1、Ac2は、溶接開始時にアークが発生したことを判別し上記のロボット制御装置RCに通知する信号である。
【0006】
第1送給モータM1は、第1溶接トーチ41を通って第1溶接ワイヤ11を第1送給速度Fw1で送給し、第1溶接ワイヤ11とワーク2との間に第1アーク31が発生して溶接が行われる。第2送給モータM2は、第2溶接トーチ42を通って第2溶接ワイヤ12を第2送給速度Fw2で送給し、第2溶接ワイヤ12とワーク2との間に第2アーク32が発生して溶接が行われる。回転治具PTは、その上にワーク2を固定し、上記の外部軸制御信号Pcによって回転制御される。
【0007】
同図では、回転治具PT上に1つのワーク2が載置されており、第1溶接トーチ41及び第2溶接トーチ42を使用して2箇所を同時に溶接する。したがってこの溶接を行うためには、両溶接トーチ41、42の溶接開始及び回転治具PTの回転開始を同期させる必要がある。
【0008】
[従来技術1]
図6は、上述した溶接装置において、従来技術1の開始同期アーク溶接方法を行うときのタイミングチャートである。同図(A)は第1溶接ワイヤ11先端とワーク2との距離である第1ワイヤ・ワーク間距離Lw1を示し、同図(B)は第1溶接電流Iw1を示し、同図(C)は第1ロボット移動速度Sw1を示し、同図(D)は第1アーク発生信号Ac1を示し、同図(E)は第2溶接ワイヤ12先端とワーク2との距離である第2ワイヤ・ワーク間距離Lw2を示し、同図(F)は第2溶接電流Iw2を示し、同図(G)は第2ロボット移動速度Sw2を示し、同図(H)は第2アーク発生信号Ac2を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0009】
時刻t1以前において、同図(C)に示すように、第1ロボットRM1が移動し、同図(G)に示すように、第2ロボットRN2が移動し、時刻t1において、第1ロボットRM1及び第2ロボットRM2が各々の溶接開始位置に到達する。先に到達したロボットは他のロボットが到達するまで待機する。時刻t1において、両溶接電源PS1、PS2に起動信号(図示せず)が入力されると、第1溶接ワイヤ11及び第2溶接ワイヤ12はスローダウン速度で送給を開始される。このために、同図(A)に示すように、第1ワイヤ・ワーク間距離Lw1は次第に短くなり、同図(E)に示すように、第2ワイヤ・ワーク間距離Lw2は次第に短くなる。ここで、前回の溶接終了時のワイヤ燃え上がり高さがバラツクためにワイヤ突出し長さがバラツクことになる。この結果、時刻t1時点での上記の第1ワイヤ・ワーク間距離Lw1と第2ワイヤ・ワーク間距離Lw2とには差が生じる。溶接ワイヤがワークに接触するまでの送給速度である上記のスローダウン速度は非常に遅い速度に設定されているので、結局、両溶接ワイヤがワークに接触するタイミングに時差(時刻t2とt3)が生じることになる。
【0010】
時刻t2において、同図(A)に示すように、第1溶接ワイヤ11がワーク2に接触して第1ワイヤ・ワーク間距離Lw1がゼロになると、同図(B)に示すように、第1アーク31が発生して第1溶接電流Iw1が通電する。同図(D)に示すように、時刻t2において第1アーク31が発生するので、第1アーク発生信号Ac1がロボット制御装置RCに送信される。これに応動して、第1送給速度設定信号が第1スローダウン速度設定値から第1定常送給速度設定値に切り換わるので、同図(B)に示すように、第1定常溶接電流Ic1が通電する。この時刻t2においては、まだ同図(H)に示すように、第2アーク発生信号Ac2が送信されていないので、同図(C)及び(G)に示すように、両ロボットRM1、RM2は共に溶接開始位置に停止したままである。
【0011】
第2溶接ワイヤ12がスローダウン速度で送給され、時刻t3において、同図(E)に示すように、第2溶接ワイヤ12が遅れてワーク2に接触すると第2ワイヤ・ワーク間距離Lw2はゼロになり、同図(F)に示すように、第2アーク32が発生して第2溶接電流Iw2が通電する。このために、同図(H)に示すように、第2アーク発生信号Ac2がロボット制御装置RCに送信される。これに応動して、第2溶接制御信号に含まれる第2送給速度設定信号が第2スローダウン速度設定値から第2定常送給速度設定値に切り換わるので、同図(F)に示すように、第2溶接電流Iw2の値は第2定常溶接電流値Ic2になる。
【0012】
上記の結果、時刻t3において同図(D)に示す第1アーク発生信号Ac1及び同図(H)に示す第2アーク発生信号Ac2が共にHighレベル(ロボット制御装置RCに送信された状態)になるので、同図(C)に示すように、第1ロボットRM1は予め定めた第1溶接速度Sc1で、同図(G)に示すように、第2ロボットRM2は予め定めた第2溶接速度Sc2で、予め教示された各々の溶接線に沿って移動を開始して溶接が開始される。これに同期してワーク2を載置した回転治具PTも回転を開始する。
【0013】
上述した従来技術1においては、先行して第1アーク31が発生したときは第1ロボットRM1を停止したままで第1溶接電流Iw1を通電しながら待機期間Tdの間待機する。そして、遅れて第2アーク32が発生すると、両ロボットRM1、RM2の移動及び回転治具PTの回転が同期して開始される。このようにして、従来技術1では開始同期アーク溶接方法を行う。
【0014】
上記のアーク発生信号は溶接電流が通電したことを判別してアークが発生したと判別することが多い。また、溶接電圧値が、無負荷電圧値ほど高くなく、かつ、短絡電圧値ほど低くない中間の値であるアーク電圧値になったことを判別してアーク発生を判別する場合もある。
【0015】
[従来技術2]
図7は、図5で上述した溶接装置を用いた従来技術2の開始同期アーク溶接方法を示すタイミングチャートである。同図は上述した図6と対応しており、同図(A)〜(H)の各信号は同一である。以下、図6と異なる動作部分について説明する。
【0016】
時刻t2において、同図(A)に示すように、第1溶接ワイヤ11がワーク2に接触すると第1ワイヤ・ワーク間距離Lw1はゼロになり、同図(B)に示すように、第1アーク31が発生して第1溶接電流Iw1が通電する。このとき、第1送給速度は第1スローダウン速度から第1溶接開始送給速度に切り換わるので、同図(B)に示すように、この送給速度に相当する第1溶接開始電流Is1が通電する。この第1溶接開始電流Is1は定常溶接電流よりも小さな値である。この時刻t2において、同図(D)に示すように、第1アーク発生信号Ac1が送信される。しかし、この時点では同図(H)に示す第2アーク発生信号Ac2は送信(Highレベル)されていないので、同図(C)及び(G)に示すように、両ロボットRM1、RM2は共に停止したままである。
【0017】
時刻t3において、同図(E)に示すように、第2溶接ワイヤ12がワーク2に接触すると第2ワイヤ・ワーク間距離Lw2はゼロになり、同図(F)に示すように、第2アーク32が発生して第2溶接電流Iw2が通電する。このとき、第2送給速度は第2スローダウン速度から第2溶接開始送給速度に切り換わるので、同図(F)に示すように、第2溶接開始電流Is2が通電する。時刻t3において、同図(H)に示すように、第2アーク発生信号Ac2が送信(Highレベル)される。この結果、両アーク発生信号Ac1、Ac2が共に送信(Highレベル)されるので、同図(C)に示すように、第1ロボットRM1は予め定めた第1溶接速度Sc1で、また、同図(G)に示すように、第2ロボットRM2は予め定めた第2溶接速度Sc2で移動を開始し、回転治具PTの回転が同期して開始され溶接は開始される。このとき、第1送給速度は第1定常送給速度に切り換わるので、同図(B)に示すように、第1溶接電流Iw1は第1定常溶接電流Ic2に変化する。また、第2送給速度は第2定常送給速度に切り換わるので、同図(F)に示すように、第2溶接電流Iw2は第2定常溶接電流Ic2に変化する。
【0018】
上述したように、従来技術2では、先行して第1アーク31が発生してから遅れて第2アーク32が発生するまでの待機期間Td中は、先行した第1アーク31に定常溶接電流よりも小さな値の溶接開始電流を通電する。これにより、待機期間Td中の溶け落ちの防止又はビード幅の拡大防止を図るものである(例えば、特許文献1参照)。
【0019】
上記の従来技術1、2の説明においては、第1アーク31と第2アーク32との発生タイミングがズレる原因として、スローダウン送給開始時点におけるワイヤ突出し長さのバラツキを例示した。しかし、これ以外にも、溶接ワイヤがワークに接触してからアークが発生するまでの時間のバラツキ、両スローダウン速度のバラツキ等の種々の原因がある。
【0020】
【特許文献1】特許第3733979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
図8は、上述した従来技術において、待機期間Td中における第1アーク31の発生部及び溶け込み形状を示す図である。同図(A)は待機期間Td中の第1アーク31の発生部を横から見た図であり、同図(B)は上から見た図であり、同図(C)は溶け込み形状を横断面から見た図である。以下、同図を参照して説明する。
【0022】
同図(A)に示すように、待機期間Td中は、第1溶接トーチ41が停止したままで、第1アーク31とワーク2との間に第1アーク31が発生しており、溶接開始位置周辺には多くの溶融金属が滞留している。同図(B)に示すように、この溶融金属は溶接線方向に対して溶接開始位置の前方部分にも存在する。このために、第2アーク32が発生して待機期間Tdが終了して第1溶接トーチ41が移動を開始すると、第1アーク31は溶接開始位置前方の溶融金属上を移動することになる。この結果、同図(C)に示すように、溶接開始位置前方部分の溶け込みが不足する現象が生じやすくなる。この現象は、待機期間Tdが長くなると生じやすくなる。溶け込み不足は溶接品質を著しく悪くする。
【0023】
そこで、本発明では、上述した溶接開始位置前方部分の溶け込みが不足する現象の発生を抑制することができる開始同期アーク溶接方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、第1溶接トーチ及び第2溶接トーチを各々予め教示された溶接開始位置に移動させ、各々の溶接トーチからの第1溶接ワイヤ及び第2溶接ワイヤの送給を開始させ、前記第1溶接トーチからの前記第1溶接ワイヤとワークとの間に第1アークが先行して発生したときはその状態で待機させ、遅れて前記第2溶接トーチからの第2溶接ワイヤとワークとの間に第2アークが発生したときは前記待機状態を終了して両溶接トーチを各々予め教示された溶接線に沿って移動させて溶接する開始同期アーク溶接方法において、
前記第1アークの前記溶接開始位置から溶接方向に対して後ろ又は斜め後ろ側に終端位置を予め教示し、前記待機期間の一部又は全部の期間中は前記第1アークを前記溶接開始位置と前記終端位置との間でウィービングさせる、ことを特徴とする開始同期アーク溶接方法である。
【0025】
また、第2の発明は、前記待機期間に入ってから所定遅延期間が経過した後に前記ウィービングを開始させる、ことを特徴とする第1の発明記載の開始同期アーク溶接方法である。
【0026】
また、第3の発明は、前記ウィービングが円又は楕円運動である、ことを特徴とする第1又は第2の発明記載の開始同期アーク溶接方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、待機期間中の第1アークをウィービングすることによって、溶融金属が溶接開始位置前方部分に滞留することを抑制することができ、溶接開始位置前方部分の溶け込みが不足する現象の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0029】
図1は、本発明の実施の形態に係る開始同期アーク溶接方法を示すタイミングチャートである。溶接装置は上述した図5と同一であり、その制御方法が異なる。同図は図6と対応している。同図(A)は第1溶接ワイヤ11先端とワーク2との距離である第1ワイヤ・ワーク間距離Lw1を示し、同図(B)は第1溶接電流Iw1を示し、同図(C)は第1ロボット移動速度Sw1を示し、同図(D)は第1アーク発生信号Ac1を示し、同図(E)は第2溶接ワイヤ12先端とワーク2との距離である第2ワイヤ・ワーク間距離Lw2を示し、同図(F)は第2溶接電流Iw2を示し、同図(G)は第2ロボット移動速度Sw2を示し、同図(H)は第2アーク発生信号Ac2を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0030】
時刻t1以前において、同図(C)に示すように、第1ロボットRM1が移動し、また、同図(G)に示すように、第2ロボットRN2が移動し、時刻t1において、第1ロボットRM1及び第2ロボットRM2が各々の溶接開始位置に到達する。先に到達したロボットは他のロボットが到達するまで待機する。時刻t1において、両溶接電源PS1、PS2に起動信号(図示せず)が入力されると、第1溶接ワイヤ11及び第2溶接ワイヤ12はスローダウン速度で送給を開始される。このために、同図(A)に示すように、第1ワイヤ・ワーク間距離Lw1は次第に短くなり、同図(E)に示すように、第2ワイヤ・ワーク間距離Lw2は次第に短くなる。ここで、前回の溶接終了時のワイヤ燃え上がり高さがバラツクためにワイヤ突出し長さがバラツクことになる。この結果、時刻t1時点での上記の第1ワイヤ・ワーク間距離Lw1と第2ワイヤ・ワーク間距離Lw2とには差が生じる。溶接ワイヤがワークに接触するまでの送給速度である上記のスローダウン速度は非常に遅い速度に設定されているので、結局、両溶接ワイヤがワークに接触するタイミングに時差(時刻t2とt3)が生じることになる。
【0031】
時刻t2において、同図(A)に示すように、第1溶接ワイヤ11がワーク2に接触して第1ワイヤ・ワーク間距離Lw1がゼロになると、同図(B)に示すように、第1アーク31が発生して第1溶接電流Iw1が通電する。同図(D)に示すように、時刻t2において第1アーク31が発生するので、第1アーク発生信号Ac1がロボット制御装置RCに送信される。これに応動して、第1送給速度設定信号が第1スローダウン速度設定値から第1定常送給速度設定値に切り換わるので、同図(B)に示すように、第1定常溶接電流Ic1が通電する。この時刻t2においては、同図(D)に示すように、第1アーク発生信号Ac1は送信されているが、同図(H)に示すように、第2アーク発生信号Ac2が送信されていないので、同図(C)に示すように、第1ロボットRM1は溶接開始位置周辺でウィービングSuを行う。このウィービングSuについては、後述する。他方、同図(G)に示すように、第2ロボットRM2は溶接開始位置に停止したままである。
【0032】
第2溶接ワイヤ12がスローダウン速度で送給され、時刻t3において、同図(E)に示すように、第2溶接ワイヤ12が遅れてワーク2に接触すると第2ワイヤ・ワーク間距離Lw2はゼロになり、同図(F)に示すように、第2アーク32が発生して第2溶接電流Iw2が通電する。このために、同図(H)に示すように、第2アーク発生信号Ac2がロボット制御装置RCに送信される。これに応動して、第2溶接制御信号に含まれる第2送給速度設定信号が第2スローダウン速度設定値から第2定常送給速度設定値に切り換わるので、同図(F)に示すように、第2溶接電流Iw2の値は第2定常溶接電流値Ic2になる。
【0033】
上記の結果、時刻t3において同図(D)に示す第1アーク発生信号Ac1及び同図(H)に示す第2アーク発生信号Ac2が共にHighレベル(ロボット制御装置RCに送信された状態)になる。このために、同図(C)に示すように、第1ロボットRM1は上記のウィービングSuを停止し、予め定めた第1溶接速度Sc1で、また、同図(G)に示すように、第2ロボットRM2は予め定めた第2溶接速度Sc2で、予め教示された各々の溶接線に沿って移動を開始して溶接が開始される。これに同期してワーク2を載置した回転治具PTも回転を開始する。
【0034】
上述した実施の形態においては、先行して第1アーク31が発生したときは第1ロボットRM1を溶接開始位置周辺でウィービングさせて第1溶接電流Iw1を通電しながら待機期間Tdの間待機させる。そして、遅れて第2アーク32が発生すると、両ロボットRM1、RM2の移動及び回転治具PTの回転が同期して開始される。このようにして、開始同期アーク溶接方法を行う。
【0035】
図2は、上述した実施の形態において、待機期間Td中における第1アーク31の発生部及び溶け込み形状を示す図である。同図(A)は待機期間Td中の第1アーク31の発生部を横から見た図であり、同図(B)は上から見た図であり第1溶接トーチ41のウィービング方向を示し、同図(C)は溶け込み形状を横断面から見た図である。以下、同図を参照して説明する。
【0036】
同図(A)に示すように、待機期間Td中は、第1溶接トーチ41はウィービングした状態で、第1溶接ワイヤ11とワーク2との間に第1アーク31が発生している。同図(B)に示すように、ウィービングは、溶接開始位置を中心として溶接線方向に対して直交する方向(左右方向)に行っている。このために、溶融金属は左右に広げられるので、溶接開始位置前方部分への滞留は少なくなる。この結果、同図(C)に示すように、待機期間が終了して第1溶接トーチ41が移動を開始したときに溶融金属上を移動しないので、溶接開始位置前方部分の溶け込みが不足する現象は抑制される
【0037】
図3は、本発明の実施の形態に係る開始同期アーク溶接方法における上述したウィービング方向を示す図である。同図に示すように、溶接開始位置から溶接線方向に対して後ろ又は斜め後ろ側に終端位置P1〜P4を予め教示する。そして、溶接開始位置と終端位置との間でウィービングを行う。終端位置がP1のときは左右方向へのウィービングとなり、終端位置がP2のときは前後方向へのウィービングとなり、終端位置がP3のときは左斜め後ろ方向へのウィービングとなり、終端位置がP4のときは右斜め後ろ方向へのウィービングとなる。つまり、ウィービングは、溶接開始位置前方部分に溶融金属が滞留しない方向に行う必要がある。ウィービング周波数は、1Hz程度以上である。
【0038】
さらに、ウィービングは直線運動の往復だけでなく、図4に示すように、溶接開始位置と終端位置P5との間で楕円又は円運動であっても良い。また、ウィービングを行う期間は、待機期間Tdの一部又は全部の期間でも良い。また、待機期間Tdに入ってから所定遅延期間が経過した後に、ウィービングを開始しても良い。
【0039】
上述した実施の形態では、待機期間Td中は第1アークに定常溶接電流が通電する場合を例示したが、従来技術2のように、溶接開始電流を通電する場合も同様である。
【0040】
上述した実施の形態によれば、待機期間中の第1アークをウィービングすることによって、溶融金属が溶接開始位置前方部分に滞留することを抑制することができ、溶接開始位置前方部分の溶け込みが不足する現象の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態に係る開始同期アーク溶接方法を示すタイミングチャートである。
【図2】本発明の実施の形態において、待機期間中にウィービングを行ったときの第1アークの発生状態及び溶け込み形状を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるウィービングの方向を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるウィービング運動を示す図である。
【図5】従来技術の開始同期アーク溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。
【図6】従来技術1の開始同期アーク溶接方法を示すタイミングチャートである。
【図7】従来技術2の開始同期アーク溶接方法を示すタイミングチャートである
【図8】従来技術の課題を説明するための待機期間中の第1アークの発生状態及び溶け込み形状を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
2 ワーク
11 第1溶接ワイヤ
12 第2溶接ワイヤ
31 第1アーク
32 第2アーク
41 第1溶接トーチ
42 第2溶接トーチ
Ac1 第1アーク発生信号
Ac2 第2アーク発生信号
Fct1 第1送給制御信号
Fct2 第2送給制御信号
Fw1 第1送給速度
Fw2 第2送給速度
Ic1 第1定常電流
Ic2 第2定常電流
Is1 第1溶接開始電流
Is2 第2溶接開始電流
Iw1 第1溶接電流
Iw2 第2溶接電流
Lw1 第1ワイヤ・ワーク間距離
Lw2 第2ワイヤ・ワーク間距離
M1 第1送給モータ
M2 第2送給モータ
Mc1 第1動作制御信号
Mc2 第2動作制御信号
P1〜p5 終端位置
Pc 外部軸制御信号
PS1 第1溶接電源
PS2 第2溶接電源
PT 回転治具
RC ロボット制御装置
RM1 第1ロボット
RM2 第2ロボット
Sc1 第1溶接速度
Sc2 第2溶接速度
Sw1 第1ロボット移動速度
Sw2 第2ロボット移動速度
Su ウィービング速度
Td 待機期間
Vw1 第1溶接電圧
Vw2 第2溶接電圧
Wc1 第1溶接制御信号
Wc2 第2溶接制御信号


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1溶接トーチ及び第2溶接トーチを各々予め教示された溶接開始位置に移動させ、各々の溶接トーチからの第1溶接ワイヤ及び第2溶接ワイヤの送給を開始させ、前記第1溶接トーチからの前記第1溶接ワイヤとワークとの間に第1アークが先行して発生したときはその状態で待機させ、遅れて前記第2溶接トーチからの第2溶接ワイヤとワークとの間に第2アークが発生したときは前記待機状態を終了して両溶接トーチを各々予め教示された溶接線に沿って移動させて溶接する開始同期アーク溶接方法において、
前記第1アークの前記溶接開始位置から溶接方向に対して後ろ又は斜め後ろ側に終端位置を予め教示し、前記待機期間の一部又は全部の期間中は前記第1アークを前記溶接開始位置と前記終端位置との間でウィービングさせる、ことを特徴とする開始同期アーク溶接方法。
【請求項2】
前記待機期間に入ってから所定遅延期間が経過した後に前記ウィービングを開始させる、ことを特徴とする請求項1記載の開始同期アーク溶接方法。
【請求項3】
前記ウィービングが円又は楕円運動である、ことを特徴とする請求項1又は2記載の開始同期アーク溶接方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−126285(P2008−126285A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314960(P2006−314960)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】