説明

開繊装置及び方法

【課題】本発明は、複数の繊維束を予め同じ状態にして開繊することで均一な繊維シートに安定して開繊できる開繊装置及び方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】複数の給糸体10からそれぞれ繊維束Tを引き出して供給し、各繊維束Tをガイド部材22のガイド面に収容して走行させる。ガイド面は、樋状に湾曲形成されているとともに同じ長さで全長にわたって同じ幅に設定されおり、繊維束Tが走行している間に各繊維束Tが同じ幅に揃うようになる。幅を揃えた各繊維束Tを同じ距離だけ走行させて開繊処理部3において開繊し一方向に引き揃えて繊維シートを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給糸体から引き出された複数の繊維束を開繊する開繊装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維といった強化繊維とエポキシ樹脂等のマトリックス樹脂を組み合せた繊維強化複合材料の開発が進められているが、こうした強化繊維は一方向に引き揃えた薄い繊維シートを多方向に積層して用いることで高強度の複合材料を得ることができる。
【0003】
そのため、強化繊維を所定本数束ねた繊維束を一方向に引き揃えてシート状に開繊する技術が開発されている。例えば、特許文献1では、複数の給糸体からそれぞれ繊維束を引き出して供給し、供給された繊維束を気流内に走行させて気流の作用により繊維束を撓ませながら幅方向に開繊させるようにした開繊装置が記載されている。
【0004】
また、強化繊維を複数本束ねた繊維束を取り扱う場合、繊維束が折れ曲ったり捩れないように取り扱う必要がある。そのため、例えば、特許文献2では、複数の凹状に湾曲形成された案内面を用いて繊維束を走行させるようにしている。
【特許文献1】特開2007−518890号公報
【特許文献2】特開2007−112607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載された開繊装置では、複数の繊維束を並列して走行させながら同時に開繊することで均一で薄く幅広の繊維シートを得ることができる。しかしながら、給糸体から引き出された各繊維束の状態は、幅が異なっていたり、繊維の重なり具合が不均一になっていることが多く、同じ状態とはなっておらず、同じ繊維束でも幅が変化したり、繊維の重なりが変化する。そのため、異なった状態の繊維束を同時に開繊していくと繊維シートに不均一な部分が生じるようになる。
【0006】
そこで、本発明は、複数の繊維束を予め同じ状態にして開繊することで均一な繊維シートに安定して開繊できる開繊装置及び方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る開繊装置は、複数の給糸体からそれぞれ繊維束を引き出して供給する繊維束供給部と、供給された複数の繊維束が所定の走行方向に沿って走行するようにガイドする走行ガイド部と、所定の走行方向にガイドされた複数の繊維束を開繊して一方向に引き揃える開繊処理部とを備え、前記走行ガイド部は、複数の繊維束をそれぞれガイド面に沿って走行させる複数のガイド部材が配列されており、各ガイド部材のガイド面は、樋状に湾曲形成されているとともに前記走行方向に同じ長さで全長にわたって同じ幅に設定されていることを特徴とする。さらに、前記ガイド部材は、前記走行方向と直交する方向に等間隔で配列されていることを特徴とする。さらに、前記ガイド部材のガイド面は、前記開繊処理部側の端部が前記開繊処理部から同じ距離だけ離間させて位置決めされていることを特徴とする。さらに、前記ガイド部材は、前記走行方向及び/又は前記走行方向と直交する方向に位置調整可能に設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る開繊方法は、複数の給糸体からそれぞれ繊維束を引き出して供給し、樋状に湾曲形成されているとともに同じ長さで全長にわたって同じ幅に設定された複数のガイド面に繊維束をそれぞれ収容して所定の走行方向に走行させて各繊維束の幅を揃え、幅を揃えた各繊維束を同じ距離だけ走行させて開繊し一方向に引き揃えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上記のような構成を備えることで、走行ガイド部に、複数の繊維束をそれぞれガイド面に沿って走行させる複数のガイド部材を配列し、各ガイド部材のガイド面を樋状に湾曲形成するとともに走行方向に同じ長さで全長にわたって同じ幅に設定しているので、異なった状態の繊維束がガイド面を走行する間に幅を揃えることができ、幅の揃った繊維束を開繊することで均一で幅広の繊維シートに仕上げることが可能となる。
【0010】
すなわち、各ガイド部材のガイド面が樋状に湾曲形成されているので、繊維束がガイド面に接触しながら走行する間にガイド面の湾曲形状に対応した幅に均されていくようになる。そのため、繊維束の幅が変化している場合でもガイド面を走行する間に一定の幅となり、走行ガイド部から開繊処理部に繊維束が送入される場合に繊維束の状態を常時一定の状態に設定することができる。
【0011】
また、各繊維束をガイドする各ガイド面の長さが同じで全長にわたって同じ幅に設定しているので、各繊維束は常時同じ状態に設定されて開繊処理部に送入されるようになり、そのため各繊維束を同じように開繊して常時均一で幅広の繊維シートを得ることができる。
【0012】
そして、ガイド部材を走行方向と直交する方向に等間隔で配列すれば、各繊維束を等間隔に配列した状態で開繊処理部に送入することができ、各繊維束を同じ幅に拡がるように開繊することが可能となる。また、ガイド部材のガイド面の開繊処理部側の端部が開繊処理部から同じ距離だけ離間させて位置決めしておけば、開繊処理部で開繊する場合の起点となるガイド面の開繊処理部側の端部が各繊維束で揃うようになり、各繊維束を同じ状態で開繊することができるようになる。
【0013】
また、ガイド部材を走行方向及び/又は走行方向と直交する方向に位置調整可能に設けるようにすれば、開繊する繊維束の特性に合せてガイド部材の位置調整を行い、最適の状態で繊維束を開繊することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明に係る実施形態について側方からみた機構説明図であり、図2は、上方からみた機構説明図である。開繊装置は、繊維束Tが多層に巻き付けられたボビン形式の給糸体10から繊維束Tを引き出して供給する繊維束供給部1、引き出された繊維束Tを所定の走行方向に沿って走行するようにガイドする走行ガイド部2、及び、所定の走行方向にガイドされた繊維束を走行させながら開繊して一方向に引き揃える開繊処理部3を備えている。
【0016】
開繊に用いる繊維束としては、炭素繊維束、ガラス繊維束、アラミド繊維束、セラミックス繊維束などの高強度繊維から成る強化繊維束、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性の合成繊維を引き揃えた熱可塑性樹脂繊維束といったものが挙げられる。
【0017】
繊維束供給部1は、給糸体10を給糸モータ11により回転させながら繊維束Tを繰り出す。そして、繰り出された繊維束Tは、湾曲ロール12にガイドされてテンションロール14に巻き付けられて支持ロール13に支持される。テンションロール14は、湾曲ロール12と支持ロール13との間に配置されて上下動可能に設けられており、繊維束Tの張力に応じてテンションロール14が上下動することで繊維束Tの張力を安定させるようになっている。テンションロール14の可動範囲の上限位置及び下限位置には一対の位置検知センサ15a及び15bが設けられており、テンションロール14が上限位置又は下限位置に到達したことを検知するようになっている。
【0018】
給糸体10から繰り出された繊維束Tが走行すると、それに伴いテンションロール14が上昇するようになる。そして、テンションロール14が上限位置に到達すると位置検知センサ15bが検知信号を出力する。位置検知センサ15bの検知信号は図示せぬ制御回路に送信され、制御回路は給糸モータ11の回転速度を速くして繊維束Tの繰り出し量を多くする。繊維束Tの繰り出し量が多くなると、テンションロール14が下降するようになる。逆に、繊維束Tの繰り出し量が多くなり、テンションロール14が下限位置まで下降すると、位置検知センサ15aが検知信号を出力するようになる。そのため、制御回路は給糸モータ11の回転速度を遅くして繊維束Tの繰り出し量を少なくする。こうして、繊維束Tの張力を安定させた走行が行われるようになる。
【0019】
繊維束Tは、支持ロール13を介してニップロール16及び支持ロール17の間に挟持された後支持ロール18を介して走行ガイド部2に送出される。ニップロール16にはワンウェイクラッチ16aが取り付けられており、繊維束Tを走行ガイド部2の方に搬送する方向にのみニップロール16が回転するようになっている。したがって、繊維束Tがテンションロール14の方に引き戻されるように逆送することは防止される。
【0020】
走行ガイド部2は、繊維束Tの走行方向に所定の間隔を空けて配列された一対の整列ロール20及び21を備えており、複数の給糸体10から引き出された繊維束Tは、整列ロール20及び21に張架され、所定の走行方向に並列するように整列される。整列ロール20及び21の間には、棒状のガイド部材22が繊維束Tに対応して複数配列されている。ガイド部材22は、取付板23に取り付けられており、取付板23は支持台24に支持されている。
【0021】
図3は、走行ガイド部2に関する上面図であり、図4は、図3のA−A断面図である。取付板23は、両側端に走行方向に沿って一対の位置調整孔23aが穿設されており、位置調整孔23a内には、挿通して支持台に螺着される位置決めネジ25が設けられている。位置決めネジ25を緩めることで取付板23が走行方向に移動して位置調整が可能となり、所定位置に設定する場合には、位置決めネジ25を締め付けて取付板23を支持台24に固定する。
【0022】
ガイド部材22は、すべて同じ長さで全長にわたって同じ幅のガイド面22aが樋状に湾曲形成されている。ガイド部材22は、その長手方向が繊維束Tの走行方向に沿うように取付板23に取り付けられており、その端部は走行方向と直交する直線に沿って揃えるように配置されている。取付板23には走行方向と直交する方向に所定の間隔を空けて一対の間隔調整孔23bが穿設されている。ガイド部材22の下面には、間隔調整孔23bに挿通して一対の位置決めネジ26が螺着されている。位置決めネジ26を緩めることで各ガイド部材22が走行方向と直交する方向に移動可能となり、繊維束Tをガイド面22aに収容するようにガイド部材22の間隔を調整して位置決めネジ26を締め付けて取付板23に固定する。
【0023】
走行ガイド部2は、以上のように構成されているので、図5に示すように、繊維束Tの走行方向Xに移動させて位置調整することができるとともに走行方向Xと直交する方向Yに移動させて間隔調整をすることができる。また、位置決めネジ26の着脱により装着するガイド部材22の数を変更することも容易に行える。
【0024】
図6は、ガイド部材22に関する上面図(図6(a))、長手方向のB−B断面図(図6(b))及び短手方向のC−C断面図(図6(c))である。ガイド部材22は、長手方向に沿って中央部分に樋状のガイド面22aが形成されている。ガイド面22aは、その幅dが全長にわたって同じ幅に設定され、図6(c)に示すように、断面形状が半円弧状に湾曲形成されており、図6(b)に示すように、中央部分がわずかに高く両端部に向かって下方に傾斜するように形成されている。
【0025】
ガイド面22aがこのように湾曲形成されているので、図7(a)に示すように、繊維束Tがガイド面22aに収容されて走行する場合に繊維束T全体がガイド面22aに密着した状態となる。そして、繊維束Tがガイド面22aに密着した状態で走行していくと、図7(b)に示すように、繊維束Tが湾曲状態でガイド面22aに摺動するようになり、繊維束Tは摺動していくに従い繊維が引き揃えられて所定の幅に落ち着いた状態になる。また、繊維の分布にムラがある場合でも引き揃えられていくうちに均一な分布状態に整えられる。
【0026】
こうして、供給される繊維束Tの幅が変化している場合でもガイド面22aに密着させて摺動させることで所定の幅で繊維が引き揃えられた一定の状態に整えることができる。また、各繊維束Tに対して同じガイド部材を用いて走行させることで、すべての繊維束Tを同じ幅で繊維が引き揃えられた状態にすることができる。
【0027】
また、走行ガイド部2の上方には加熱装置27が配設されており、走行ガイド部2を走行する繊維束Tに対して常時熱風を吹き付けるようになっている。こうして加熱された繊維束Tは繊維が引き揃えやすくなり、繊維束Tを一定の状態に整えやすくなる。
【0028】
ガイド部材22のガイド面22aの断面形状は、図6(c)に示すような半円弧状以外にも半楕円形状でもよく、繊維束Tの特性に合せて形状を設定すればよい。また、図8に示すように、湾曲形状に形成されたガイド面の両側部を切り立った平面22bに形成して繊維束Tの幅がさらに揃いやすくなるようにしてもよい。
【0029】
開繊処理部3は、走行方向に沿って3つの風洞管30a、30b及び30cが配列されており、各風洞管には流量調整バルブ32a〜32cを介して吸気ポンプ31a〜31cが接続されている。各風洞管の開口部は、図2に示すように、走行ガイド部2から送出された繊維束Tの下方に近接して設置されており、常時開口部から吸気することで繊維束Tに対して下降気流を作用させるようになっている。各風洞管の開口部の間にはそれぞれ支持ロール33が設けられており、繊維束Tは下降気流により支持ロール33の間で撓むようになる。繊維束Tが撓んだ状態で下降気流が繊維の間を通過することで繊維束Tは次第に開繊されて拡幅されていく。
【0030】
開繊処理部3の下流側には振動付与機構4が設置されており、開繊されてシート状に形成された繊維に対して一対の支持ロール40の間で押圧ロール41により振動を付与するようになっている。押圧ロール41は昇降ロッド42の下端に取り付けられており、昇降ロッド42をクランクモータ43により上下動させることで、押圧ロール41が下降して繊維を支持ロール40の間で下方に押し込んで屈曲した状態にするとともに上昇して屈曲状態を解除することを繰り返し行って、開繊された繊維シートに対して振動を付与する。
【0031】
繊維シートに対してこうした振動を付与することで、風洞管の開口部で撓んだ状態になる繊維束Tの張力が変動するようになり、開繊効率を高めることができる。
【0032】
こうして開繊された繊維シートSは引き取りロール50及び従動ロール51に挟持されて引き込まれていき、図示せぬ巻取りロールに巻き取られていく。引き取りロール50は、引き取りモータ52により回転駆動されており、引き取りモータ52の回転速度を調整することで繊維束Tの走行速度を調整することができる。
【0033】
ガイド部材22のガイド面22aの開繊処理部側端部は、開繊処理部3の風洞管の上流側端部までの距離がすべてのガイド部材22で同じ距離に設定されている。そのため、開繊の起点となるガイド面22aの開繊処理部側端部が各繊維束Tにおいて同じ位置に設定され、各ガイド面22aにより所定の幅で同じ状態に整えられた各繊維束Tが同じ位置から開繊されるようになる。したがって、ガイド部材22を開繊状態に対応して等間隔に設定しておけば、全体が均一に引き揃えられて開繊された繊維シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る実施形態を側方からみた機構説明図である。
【図2】本発明に係る実施形態を上方からみた機構説明図である。
【図3】走行ガイド部に関する上面図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】ガイド部材の移動に関する説明図である。
【図6】ガイド部材に関する上面図、長手方向のB−B断面図及び短手方向のC−C断面図である。
【図7】ガイド面に収容された繊維束に関する説明図である。
【図8】カイド面の変形例に関する断面図である。
【符号の説明】
【0035】
S 繊維シート
T 繊維束
1 繊維束供給部
10 給糸体
2 走行ガイド部
20 整列ローラ
21 整列ローラ
22 ガイド部材
3 開繊処理部
4 振動付与機構
50 引き取りロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の給糸体からそれぞれ繊維束を引き出して供給する繊維束供給部と、供給された複数の繊維束が所定の走行方向に沿って走行するようにガイドする走行ガイド部と、所定の走行方向にガイドされた複数の繊維束を開繊して一方向に引き揃える開繊処理部とを備え、前記走行ガイド部は、複数の繊維束をそれぞれガイド面に沿って走行させる複数のガイド部材が配列されており、各ガイド部材のガイド面は、樋状に湾曲形成されているとともに前記走行方向に同じ長さで全長にわたって同じ幅に設定されていることを特徴とする開繊装置。
【請求項2】
前記ガイド部材は、前記走行方向と直交する方向に等間隔で配列されていることを特徴とする請求項1に記載の開繊装置。
【請求項3】
前記ガイド部材のガイド面は、前記開繊処理部側の端部が前記開繊処理部から同じ距離だけ離間させて位置決めされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の開繊装置。
【請求項4】
前記ガイド部材は、前記走行方向及び/又は前記走行方向と直交する方向に位置調整可能に設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の開繊装置。
【請求項5】
複数の給糸体からそれぞれ繊維束を引き出して供給し、樋状に湾曲形成されているとともに同じ長さで全長にわたって同じ幅に設定された複数のガイド面に繊維束をそれぞれ収容して所定の走行方向に走行させて各繊維束の幅を揃え、幅を揃えた各繊維束を同じ距離だけ走行させて開繊し一方向に引き揃えることを特徴とする開繊方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−7197(P2010−7197A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166523(P2008−166523)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(500083891)株式会社 ホクシン (1)
【Fターム(参考)】