説明

開缶容易な缶蓋及びそれを用いた缶容器に充填されている飲料製品

【課題】本発明は、リベット部のU字切り込み部を延長させて開缶力を低減させたイージーオープン缶蓋において、初期開缶力の低減効果を確保しつつ開缶不良の発生を防止し、好適な開缶性を確保することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る開缶容易な缶蓋は、リングタブ4のリベット3を囲んでU字状に設けられたリングタブ切り込み部5の両先端5aがリベットよりもノーズ部7の先端方向に延長されており、かつ、ノーズ部がパネル正面視で半円形状に加工され、かつ、パネル2上にスコア8が設けられたイージーオープン機構を備えた開缶容易な缶蓋において、ノーズ部のパネル正面視で半円形状の縁端のうち、終端31側の四分の一円部の縁端に、パネル面方向に突出させた山状盛り上がり部32を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶容器を密閉するためのイージーオープン機構を備えた缶蓋に関し、さらに詳しくは、飲料用の缶のために好適な缶蓋及びそれを用いた容器に充填されている飲料製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲料缶に代表される液体状の内容物を充填する缶容器には、イージーオープン機構として開缶容易なリングタブを備えた缶蓋が多く用いられている。このリングタブを備えた缶蓋の一例を図1に正面図、図2に縦断面図として示す。缶蓋1には、リングタブ4がリベット3によって取り付けられている。このリングタブ4の指掛け部6を引き上げることによって、リベット3の近傍が折れ曲がって支点となり、リングタブ4のノーズ部7の先端が作用点となって、パネル2の表面のスコア8(缶蓋開裂誘導のための切り欠き線)に囲まれた部分であるスコアパネル9を押し下げる。この結果、パネル2の表面はスコア8の形状に沿って開裂し、スコアパネル9は缶蓋1と離れることなく缶内部に押し入れられて開缶する。このとき、飲み口が開口することから、「開缶」を「開口」と呼ぶこともある。
【0003】
このようなリングタブを用いた缶蓋において、開缶性を評価する特性として開缶に要する力(以下、開缶力という。)がある。特に、開缶動作においてスコアが断裂を開始するために要する力(以下、初期開缶力という。)を低減することが開缶性の向上のために重要である。開缶力を低減させる方法として、図1に示すように、リングタブ4のリベット3を囲んで設けられたU字状のリングタブ切り込み部5(以下、U字切り込み部ともいう。)の両先端をノーズ部7の先端方向に延長する技術が公開されている(例えば、特許文献1を参照。)。この技術は、U字切り込み部5の両先端にはさまれた部分の近傍が開缶動作において折れ曲がる位置となることを利用して、リングタブ4のU字切り込み部5の両先端を延長して、リングタブ4の折れ曲がり位置(以下、開缶動作の支点ともいう。)を、開缶動作の作用点であるノーズ部7の先端(以下、開缶動作の作用点ともいう。)に近づけることによって初期開缶力を下げることを意図している。
【0004】
【特許文献1】特開2001‐48171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし特許文献1に公開されている技術は、U字切り込み部の両先端近傍の折れ曲がり位置からノーズ部の先端までの距離が短くなるため、リングタブを引き上げて90°以上回転させた場合であっても、ノーズ部先端がスコアパネルを押し下げる量が小さくなる。その結果、スコアを完全に断裂するために必要な押し下げ量が不足し、スコアを最後まで切ることができないという開缶不良が発生する場合があり、開缶性に問題があった。
【0006】
そこで本発明は、リベット部のU字切り込み部を延長させて開缶力を低減させたイージーオープン缶蓋において、初期開缶力の低減効果を確保しつつ開缶不良の発生を防止し、さらに、スコアが開ききらないという上記開缶性の問題のない好適な開缶性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、リングタブを引き上げたときに、スコアパネルに最初に当接する箇所が、ノーズ部の先端であり、スコアが断裂を開始した後、リングタブの引き上げ角度が大きくなるに伴って、スコアパネルに当接する箇所がノーズ部の先端から徐々にノーズ部の側部に移動する、すなわち、開缶動作の作用点が移動することに着目した。そして、リングタブを引き上げて例えば90°以上回転させたときに、ノーズ部の縁端のうち、スコアパネルに当接する箇所において、縁端を凸状にしておくとその凸の高さ分だけスコアパネルをより深く押し込むことができ、初期開缶力の低減効果を確保しつつ充分な開缶ができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係る開缶容易な缶蓋は、リングタブのリベットを囲んでU字状に設けられたリングタブ切り込み部の両先端が前記リベットよりもノーズ部の先端方向に延長されており、かつ、前記ノーズ部がパネル正面視で半円形状に加工され、かつ、パネル上に始端と終端とが間隔をなして位置し、前記始端から前記リベットに向けて近づき、次いで前記リベットから遠ざかり、前記パネルの外周に向けて湾曲し、前記終端まで連続する軌道の破断案内溝加工がなされたスコアが設けられたイージーオープン機構を備えた開缶容易な缶蓋において、前記ノーズ部のパネル正面視で半円形状の縁端のうち、前記終端側の四分の一円部の縁端に、パネル面方向に突出させた山状盛り上がり部を設けたことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る開缶容易な缶蓋では、前記リベットの中心を原点とし、前記リングタブの指掛け部の先端を0°方向とし、前記スコアの始端から終端に至る軌道の進行方向を正方向と規定したとき、前記山状盛り上がり部の頂点が、220〜230°の範囲に位置し、かつ、前記山状盛り上がり部の山裾の一方側が200〜210°の範囲に位置し、山裾の他方側が240〜250°の範囲に位置することが好ましい。山状盛り上がり部の頂点を上記範囲にすると、スコアの終端まで開裂を進めることができる。また、山状盛り上がり部の山裾を上記範囲にすると、山状盛り上がり部の勾配がなだらかに変化し、密封が解除された後のリングタブの特定の回転角度において、開缶力が急激に変化することを抑制できる。
【0009】
本発明に係る開缶容易な缶蓋では、前記リングタブ切り込み部の両先端の延長距離Lと前記山状盛り上がり部の高さHが等しいことが好ましい。リングタブ切り込み部の両先端を延長しない場合と同様にスコアパネルを最後まで開けることが容易となる。
【0010】
本発明に係る開缶容易な缶蓋では、前記山状盛り上がり部の高さHが0.5mm以上2mm以下であることが好ましい。最後までスコアパネルを開けることができ、かつ、初期開缶力に影響を与えることもない。
【0011】
本発明に係る開缶容易な缶蓋では、前記山状盛り上がり部の頂点の曲率半径が3.5mm以上8mm以下であることが好ましい。密封が解除され、さらに開缶を進めるときに、リングタブの特定の回転角度において、開缶力が急激に変化することを抑制できる。
【0012】
本発明に係る飲料製品は、本発明に係る開缶容易な缶蓋で密封された缶容器に充填されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る開缶容易な缶蓋は、リングタブのリベット部を囲むU字切り込み部の両先端を延長させて開缶力を低減させたイージーオープン缶蓋において、開缶力の低減効果を確保しつつスコアが開ききらないという開缶不良の発生を防止し、好適な開缶性を確保することができる。ここで、ノーズ部の終端側の四分の一円部の縁端に、さらにパネル方向に膨出させるように山状盛り上がり部を持たせた縁端形状に形成せしめたリングタブとしたため、密封が解除された後のリングタブの回転角度とスコアの開裂距離との関係において、急激に変化が生ずる回転角度がないため、開缶者に開缶が滑らかに行なわれたと感じさせやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、種々の変形が可能である。
【0015】
図4は、本実施形態に係る缶蓋の一形態を示す正面図である。本実施形態に係る開缶容易な缶蓋1は、図4に示すように、缶蓋1にリベット3を介してリングタブ4が取り付けられた構成となっている。さらに、リングタブ4のリベット3を囲んでU字状に設けられたリングタブ切り込み部5の両先端5aがリベット3よりもノーズ部7の先端方向に延長されている。本実施形態に係る開缶容易な缶蓋1のパネル2には、パネル2上に始端30と終端31とが間隔をなして位置し、始端30からリベット3に向けて近づき、次いでリベット3から遠ざかり、パネル2の外周に向けて湾曲し、終端31まで連続する軌道の破断案内溝加工がなされたスコア8が設けられている。従来の缶蓋は、ノーズ部がパネル正面視で半円形状に加工されているところ、本実施形態に係る開缶容易な缶蓋1では、ノーズ部7のパネル正面視で半円形状の縁端のうち、終端側の四分の一円部(図4においてはA‐A’線よりも上に描かれた四分の一円部分である。)の縁端に、パネル面方向に突出させた山状盛り上がり部32が設けられている。なお、図1において符号7aで示された破線は、ノーズ部がパネル正面視で半円形状である場合の仮想線である。山状盛り上がり部32は、ノーズ部に付加されたものではなく、一体をなしており、破線7aを基準として図4のように盛り上がった形状をなしている。
【0016】
従来の缶蓋では、リングタブ切り込み部5の両先端5aを結ぶ線Sは、リベット3のスコアパネル9側の周端とほぼ重なるように位置していたが、開缶動作の支点となるリングタブ4の折れ曲がり位置、すなわち、リングタブ切り込み部5の両先端5aを、開缶動作の作用点となるノーズ部7の先端に近づけることによって初期開缶力を下げるため、図5で示すように、リベット3の周端よりもノーズ部7の先端方向にLmm延長している。ここで図5は図4のリングタブの拡大概略図である。延長長さLは、0.5〜2mmであり、好ましくは0.5〜1mmである。延長長さLが2mmを超えると、スコアが完全に開裂せずにリングタブだけ回転してしまうという開缶不良が発生しやすい。一方、延長長さLが0.5mm未満であると、初期開缶力の低減効果が小さくなってしまう場合がある。
【0017】
なお、リングタブ切り込み部5の両先端5aを単にノーズ部7の先端方向にLmm延長しただけでは、図1からわかるように、開缶動作の支点となるリングタブ4の折れ曲がり位置がリベット3からLmm離れることとなり、かつ、リングタブ切り込み部5の両先端5aを結ぶ線Sとノーズ部7の先端との距離が短くなるため、延長しなかった場合と比較して、開缶時にリングタブ4の回転角度を大きくしなければ、スコアパネルを開けきることが困難となる。
【0018】
スコア8の形状は従来の缶蓋のスコア形状と同じとしてよい。パネル2上に始端30と終端31とが間隔をなして位置しており、始端30からリベット3に向けて近づき、次いでリベット3から遠ざかり、パネル2の外周に向けて湾曲し、終端31まで連続する軌道の破断案内溝加工がなされている。リングタブ4の指掛け部6を引き上げることによって、ノーズ部7の先端がスコアパネル7を押し下げ、スコア8のうち、リベット3の周端の近傍に沿う部分とその両側部分に応力が掛かって、当該部分の破断案内溝が開裂する。リングタブ4の指掛け部6をさらに引き上げること、開裂は始端30方向と終端31方向の両方に向かって進む。始端30は、リベット3から至近に位置するため、開裂は直ぐに終了する。一方、終端31方向への開裂は、破断案内溝に沿って進み、最終的に終端31にて終了する。
【0019】
山状盛り上がり部32は、ノーズ部7のパネル正面視で半円形状の縁端の一部を延長するように設けられている。すなわち、パネル正面視で半円形状のノーズ部を基本形状とした場合、終端31側の四分の一円部の縁端に、パネル面方向に突出させた山状盛り上がり部32が設けられている。パネル正面視で半円形状の縁端の一部を延長したことによって、ノーズ部7の縁端は、半円形状の内側に窪んだ部分を持たずに外側に突出し、さらに山状に盛り上がった形状となるので、図4に示すように、破線7aを基準としてなだらかな勾配の盛り上がりの形状を有することとなる。開缶時にリングタブ4の回転角度に応じて、スコア7が終端31に向かって開裂していくが(後述する図10)、なだらかに盛り上がりの形状の縁端とすることによって、リングタブ4の回転角度に応じてスコアの開裂をスムーズに進めていくことができる。なお、ノーズ部7の終端31側の四分の一円部の縁端に凸を形成すれば、確かにリングタブ4を回転させきるとスコアパネルを充分に開けることができる。しかし、半円形状の内側に窪んだ部分を有するように凸を設けた場合等、例えばパネル正面視で半円形状のノーズ部を基本形状として山状盛り上がり部32を設けていない形状であれば、リングタブ4の回転角度に応じてスコアの開裂をスムーズに進めることができず、開缶しようとする者に違和感を与えてしまう。
【0020】
山状盛り上がり部32の好適な形態は次のとおりである。図5に示すように、リベット3の中心を原点とし、リングタブ4の指掛け部6の先端を0°方向とし、スコアの始端から終端に至る軌道の進行方向を正方向(図5において右回転方向である。)と規定したとき、山状盛り上がり部32の頂点32aが、220〜230°の範囲に位置し、かつ、山状盛り上がり部32の山裾の一方側(32c)が200〜210°の範囲に位置し、山裾の他方側(32b)が240〜250°の範囲に位置することが好ましい。山状盛り上がり部の勾配がなだらかに変化し、初期の開缶が終わった後(密封が解除された後)のリングタブの特定の回転角度において、開缶力が急激に変化することを抑制できる。
【0021】
前述したように、リングタブ切り込み部5の両先端5aを単にノーズ部7の先端方向にLmm延長しただけでは、開缶時にリングタブ4の回転角度を大きくしてもスコアパネルを開けきることが困難となるが、220〜230°の範囲に山状盛り上がり部32の頂点32aがあると、リングタブ4を90°以上回転させたときに頂点32aがスコアパネル9をさらに奥に押し込むこととなり、スコア8の終端31まで開裂を進めることができる。リングタブ4を90°以上に回転させたときにスコアパネル9と当接する箇所がノーズ部7の縁端の220〜230°の範囲であるため、この範囲を外れると、山状盛り上がり部の高さHを延長長さLと比較して大きくする必要があり、材料使用量の増加を招くという問題が生ずる。
【0022】
山状盛り上がり部32の山裾の一方側(32c)が210°を超えると、また、山裾の他方側(32b)が240°よりも小さいと、山状盛り上がり部32の勾配が急になり、かつ、山状盛り上がり部の頂点32aの曲率半径が小さくなり、リングタブ4の回転角度に応じてスコアの開裂をスムーズに進めることができなくなる場合がある。山状盛り上がり部32の山裾の一方側(32c)が200°未満、また、山裾の他方側(32b)が250°を超えると、リングタブ4の回転角度に応じてスコアの開裂をスムーズに進めることができるが、材料使用量の増加を招くという問題が生ずる。
【0023】
ここで、リングタブ切り込み部5の両先端5aの延長距離Lと山状盛り上がり部32の高さHが等しいことが好ましい。初期開缶力を低減するためにリングタブ切り込み部の両先端を延長したため、延長距離Lと同じ高さの山状盛り上がり部を設ければ、リングタブ切り込み部の両先端を延長しない場合と同様にスコアパネルを最後まで開けることが容易となる。
【0024】
そして、山状盛り上がり部32の高さHは、0.5mm以上2mm以下であることが好ましく、0.8mm以上1.2mm以下であることがより好ましい。そして1mmが好適である。最後までスコアパネルを開けることができ、かつ、初期開缶力に影響を与えることもない。また、山状盛り上がり部32の頂点32aの曲率半径は、3.5mm以上8mm以下であることが好ましい。山状盛り上がり部の形状がなだらかな勾配を有することとなるため、初期の開缶が終わって密封が解除され、さらに開缶を進めるときに、リングタブの特定の回転角度において、開缶力(開缶トルク)が急激に変化することを抑制できる。
【0025】
本実施形態に係る開缶容易な缶蓋では、山状盛り上がり部32の縁端は、図6及び図7に示すように、下縁面11と上縁面12とがなす角度α1及びα2が鋭角をなすように鋭頭に加工されてなることが好ましい。図6及び図7は図5のB−B’線上の断面図を示している。山状盛り上がり部32の縁端を図6及び図7に示したように鋭頭に加工しておくことで、次に述べる作用がある。まず、開缶開始時にパネル2の表面(図4におけるスコアパネル9の部分に該当する。)に接している位置は、下縁面11の巻き加工された箇所である。この当接箇所からU字切り込み部5の両先端5a近傍の折れ曲がり位置(線Sの位置)までの距離は、図3に示した断面が曲面状に丸められている先端形状の場合と比較して、短くすることができる。このことは開缶力(開缶トルク)を低減させる効果につながる。次に開缶動作が進行してリングタブ4が所定の角度より引き上げられると、ノーズ部7が支点を中心に下方に回転し、ついには下縁面11と上縁面12とがなす鋭頭部20がパネル2の表面(スコアパネル9)を押し下げる作用点となる。このとき開缶動作の支点から鋭頭部20までの距離は、断面が曲面状に丸められている先端形状の場合と比較して、鋭頭部20まで延長されるため、パネル2の表面(スコアパネル9)を十分に押し下げることができる。
【0026】
山状盛り上がり部32の縁端の下縁面11と上縁面12とがなす角度(図6におけるα1、図7におけるα2)を30〜70°とすることもできる。この角度が30°より小さいと、開缶動作において直ちに鋭頭部20がパネル2の表面に接触してしまうため、開缶力(開缶トルク)を低減させる効果が小さくなる場合がある。一方70°より大きいと、支点から鋭頭部20までの距離が充分でなく、パネル2の表面(スコアパネル9)を押し下げる効果が不足する場合がある。
【0027】
なお、山状盛り上がり部32の縁端の下縁面と上縁面とがなす角度に代えて、下縁面と缶蓋のパネルの表面とがなす角度を30〜70°としてもよい。
【0028】
更に、図6及び図7に示すように、山状盛り上がり部32の縁端は、上縁面12がパネル2の表面とほぼ平行となるよう加工されてなることとしてもよい。さらに、開缶動作の開始時に最初にパネル2の表面と当接するノーズ部7の縁端の巻き込み下部は曲面状に巻き加工されてなることとしてもよい。開缶動作の後半時においてのみ、開缶動作の支点と作用点(鋭頭部20)の間の距離が確実に延長し、ノーズ部7の縁端がパネル2の表面(スコアパネル9)を十分に押し下げやすくするためである。
【0029】
上縁部12がパネル2の表面とほぼ平行である場合、下縁面11と上縁面12とがなす角度は、パネル2の表面と下縁面11とがなす角度とほぼ等しくなる。すなわち図6のα1は45°、図7のα2は60°にほぼ等しくなる。
【0030】
一方、上縁部12がパネル2の表面と平行ではない場合、山状盛り上がり部32の縁端の下縁面11と上縁面12とがなす角度に代えて、山状盛り上がり部32の縁端の下縁面11とパネル2の表面とがなす角度を30〜70°としてもよい。例えば山状盛り上がり部32の縁端の上縁面12が曲面や変形した面で構成されために下縁面11と上縁面12とがなす角度が特定しがたい場合に、山状盛り上がり部32の縁端の下縁面11とパネル2の表面とがなす角度を使用すると便利である。
【0031】
本実施形態に係る缶蓋で密封された缶容器は、開缶しやすく、開缶不良を生ずるおそれがないため飲料製品の容器として好適に使用できる。
【実施例】
【0032】
缶蓋の開缶性をコンピュータシミュレーションによって評価した。
【0033】
<開缶性のコンピュータシミュレーション方法>
有限要素法を用いたスコア破断シミュレーションにより、開缶トルクと開缶角度の関係及び開缶性について評価した。有限要素法とは、対象物を有限個の要素に分割して各要素の接点につき変位、応力を計算して、それらの積分値から全体の挙動を予測する構造解析では一般的な手法である。スコア破断シミュレーションとは、缶蓋全体を有限の要素に分割し、コンピュータへの入力データとして缶蓋形状、スコア形状、タブ形状等の形状データ及び材料物性データ(ヤング率、ポアソン比等)並びにリングタブの開缶角度の増加にともなう条件データ(荷重、摩擦等)を加えて有限要素法を用いた計算を行い、スコアの破断挙動を予測することによって、それに伴う開缶トルクの予測値を求める手法である。尚、開缶角度とは、開缶動作に伴うリングタブの支点を中心とする回転角度を示し、開缶トルクとは、リングタブの開缶動作における支点の位置をリングタブのU字切り込み部の端部としたときの開缶に要する回転トルク値を示す。スコア破断シミュレーションにおいて、スコアが破断して完全に開裂した場合を完全に開缶したと判断し、開缶性の目安とした。
【0034】
図8に試験no.1〜試験no.3のリングタブの形状と開缶終了後の正面図を示した。試験no.1は、図5のLとHが共に1mmであり、山状盛り上がり部の頂点の曲率半径が4mmである。試験no.2は、図5のLが1mmであり、山状盛り上がり部を設けずHは0mmである。試験no.3は、図5のLが0mmであり、山状盛り上がり部を設けずHは0mmである。
【0035】
試験no.1〜試験no.3について、コンピュータシミュレーションによる開缶トルクと開缶角度の関係を示すグラフを図9に示す。図9において縦軸は開缶トルク(N・m)を示し、横軸は、開缶角度(°)を示す。
【0036】
試験no.1と試験no.2はLを1mmとしたため、試験no.3と比較して、初期開缶力が約9%低下した(図9の(1)の領域)。さらに、試験no.1はHを1mmとしため回転角度が67°のときに開缶が終了した。一方、試験no.2はHが0mmであった為、回転角度が62°のときに開缶が終了した(図9の(3)の領域)。なお、図9において、(1)(2)(3)の各領域の区分けは試験no.1と試験no.2に対応するように行なったため、試験no.3の(2)に相当する領域は試験no.1と試験no.2の(2)に相当する領域と比較して回転角度の範囲が狭く、試験no.3の(3)に相当する領域は試験no.1と試験no.2の(3)に相当する領域と比較して回転角度が小さい側に領域にある。
【0037】
図10にリングタブの回転角度とそのときのスコアの開裂位置との関係を示した。図10において示されているタブの角度は、支点を中心としてリングタブを回転させて開缶を行なうに際して、パネル面を基準面(0°)としたときの回転角度である。試験no.1と試験no.2とは同じ関係が成立したため、試験no.2を代表として示した。なお、試験no.1と試験no.2とは、図8の下段で示すとおり、最終的なスコアパネルの押し込み具合は相違していた。試験no.2と試験no.3とを比較すると、L1mmとした試験no.2の方が、リングタブの引き上げる回転角度が同じ場合で比べると、開裂の進み具合が遅いことがわかる。この状況については、図9において、小さい回転角度で試験no.3が開缶終了することからも確認できる。
【0038】
図9を参照すると、試験no.1は、山状盛り上がり部の勾配が緩やかであったため、開缶時に山状盛り上がり部を設けなかった試験no.2とほぼ同等のスムーズさを有しているといえる。すなわち、(2)の領域における開缶トルクの変動が試験no.1と試験no.2とではほとんど同等であった。
【0039】
図8の下段の開缶終了後の正面図を参照すると、試験no.1と試験no.3はスコアパネルが充分に押し下げられている。試験no.2は、Lが1mmであり、山状盛り上がり部が設けられていないため、スコアパネルが充分に押し下げられていない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】リングタブを備えた缶蓋の正面図である。
【図2】リングタブを備えた缶蓋のA−A’線縦断面図である。
【図3】従来のリングタブのノーズ部の縁端部分のB−B’線に相当する箇所の断面図である。
【図4】本実施形態に係る缶蓋の一形態を示す正面図である。
【図5】図4のリングタブの拡大概略図である。
【図6】図5のB−B’線上の断面図(第一形態)である。
【図7】図5のB−B’線上の断面図(第二形態)である。
【図8】試験no.1〜試験no.3のリングタブの形状と開缶終了後の正面図を示した。
【図9】試験no.1〜試験no.3について、コンピュータシミュレーションによる開缶トルクと開缶角度の関係を示した。
【図10】リングタブの回転角度とそのときのスコアの開裂位置との関係を示した。
【符号の説明】
【0041】
1 缶蓋
2 パネル
3 リベット
4 リングタブ
5.U字切り込み部
5a.U字切り込み部の両先端部
6.指掛け部
7.ノーズ部
8.スコア
9.スコアパネル
11.下縁面
12.上縁面
20.鋭頭部
30.スコアの始端
31.スコアの終端
32.山状盛り上がり部
32a.山状盛り上がり部の頂点
32b,32c.山状盛り上がり部の山裾

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リングタブのリベットを囲んでU字状に設けられたリングタブ切り込み部の両先端が前記リベットよりもノーズ部の先端方向に延長されており、かつ、前記ノーズ部がパネル正面視で半円形状に加工され、かつ、パネル上に始端と終端とが間隔をなして位置し、前記始端から前記リベットに向けて近づき、次いで前記リベットから遠ざかり、前記パネルの外周に向けて湾曲し、前記終端まで連続する軌道の破断案内溝加工がなされたスコアが設けられたイージーオープン機構を備えた開缶容易な缶蓋において、
前記ノーズ部のパネル正面視で半円形状の縁端のうち、前記終端側の四分の一円部の縁端に、パネル面方向に突出させた山状盛り上がり部を設けたことを特徴とする開缶容易な缶蓋。
【請求項2】
前記リベットの中心を原点とし、前記リングタブの指掛け部の先端を0°方向とし、前記スコアの始端から終端に至る軌道の進行方向を正方向と規定したとき、前記山状盛り上がり部の頂点が、220〜230°の範囲に位置し、かつ、前記山状盛り上がり部の山裾の一方側が200〜210°の範囲に位置し、山裾の他方側が240〜250°の範囲に位置することを特徴とする請求項1に記載の開缶容易な缶蓋。
【請求項3】
前記リングタブ切り込み部の両先端の延長距離Lと前記山状盛り上がり部の高さHが等しいことを特徴とする請求項1又は2に記載の開缶容易な缶蓋。
【請求項4】
前記山状盛り上がり部の高さHが0.5mm以上2mm以下であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の開缶容易な缶蓋。
【請求項5】
前記山状盛り上がり部の頂点の曲率半径が3.5mm以上8mm以下であることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の開缶容易な缶蓋。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5に記載の開缶容易な缶蓋で密封された缶容器に充填されていることを特徴とする飲料製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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