説明

間隙カバー装置

【課題】一方の建造物と他方の建造物とが目地を介して隣接され、一方の建造物から他方の建造物側に突出されて目地を覆う被覆部の、その下面と、他方の建造物の上面との間に形成されて両建造物相互の相対変位を許容する変位許容間隙を目地の長手方向に沿って遮蔽する間隙カバー装置にあって、被覆部の下面に形成されている水切り溝に先端が嵌り込むことに起因する間隙カバー装置の破損を防止し得るとともに、製造コストを低減し得る間隙カバー装置を提供する。
【解決手段】先端部に屈曲部14を介して鈍角に屈曲して形成された易摺動屈曲縁15を備えた、目地sの長手方向に長尺な帯板状弾性金属板10を、その基端部を目地sに臨む他方の建造物1Bの前壁面8に固定して立ち上げて、先端部に形成された前記易摺動屈曲縁15のその屈曲部14が被覆部5の下面に弾性を介して接触するように湾曲状態で配設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目地を介して隣接する両建造物にあって、一方の建造物から他方の建造物側に突出されて目地を覆う被覆部の、その下面と、他方の建造物の上面との間に形成されて両建造物相互の相対変位を許容する変位許容間隙を目地の長手方向に沿って遮蔽する間隙カバー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、図8に示すように、緩衝機能を備えた免震装置cによって下部が支持された建造物aにあっては、地震時における水平方向の揺れが大きくなる傾向がある。このような免震構造の建造物aの周囲には、隣接する人工地盤等からなる建造物bとの間に両建造物a,b相互の相対変位を許容する比較的広幅の目地sが形成されている。また、前記建造物aの側壁面からは、他方の建造物bの上面より若干上方位置に前記目地sを覆う被覆部dが突出されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、前記被覆部dの下面と建造物bの上面との間には、両建造物a,b相互の相対変位を許容する変位許容間隙hが形成されているが、該変位許容間隙hを遮蔽して外部から目地s内への小動物の侵入や風の吹き込みを防止するための間隙カバー装置Eが配設されることがある。
【0004】
従来の間隙カバー装置Eには、目地sの長手方向に長尺に形成した帯板状ゴム板fが用いられており、図9(A)に示すように、該帯板状ゴム板fの基端部を、建造物bの前壁面に植設した複数のアンカーボルトgと各アンカーボルトgに螺締されるナットjとによって建造物bの前壁面に固定して帯板状ゴム板fを立ち上げ、該帯板状ゴム板fの先端部を被覆部dの下面に湾曲状態で当接させることによって、変位許容間隙hを目地sの長手方向に沿って遮蔽するように構成されている。また、帯板状ゴム板fとナットjとの間には、ナットjの緊締による部分加圧によって発生し易い帯板状ゴム板fの破断を防止するための長尺な金属製押え板kが目地sの長手方向に沿って介装されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−144357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記建造物aの側壁面から突出された被覆部dの下面には、多くの場合、その先端近傍部に、雨水が被覆部dの下面を伝って目地s側に侵入しないようにするために凹状に窪んだ水切り溝m(図8参照)が目地sの長手方向に沿って形成されているのであるが、地震時に両建造物a,bが離隔する方向に相対変位すると、図9(B)に示すように、帯板状ゴム板fの先端部が前記水切り溝m内に嵌り込み、この状態で両建造物a,bが近接する方向に相対変位すると、帯板状ゴム板fが無理にねじ曲げられて破損することがあるという問題点があった。
【0007】
また、従来の間隙カバー装置Eは、比較的厚肉で重量がある帯板状ゴム板fを強固に固定するために保持強度に優れた頑丈なアンカーボルトgとナットjが必要であり、また、該アンカーボルトgとナットjのみで帯板状ゴム板fの基端部を建造物bの前壁面に固定することができず、破断発生を防止するための長尺な金属製押え板kが必要であるため、部材数が多く、製造コストが高いという問題点があった。
【0008】
本発明は、かかる従来の問題点を解消し得る間隙カバー装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一方の建造物と他方の建造物とが目地を介して隣接され、一方の建造物から他方の建造物側に突出されて目地を覆う被覆部の、その下面と、他方の建造物の上面との間に形成されて両建造物相互の相対変位を許容する変位許容間隙を目地の長手方向に沿って遮蔽するものであって、先端部に屈曲部を介して鈍角に屈曲して形成された易摺動屈曲縁を備えた、目地の長手方向に長尺な帯板状弾性金属板からなり、該帯板状弾性金属板の基端部が目地に臨む他方の建造物の前壁面に固定されて立ち上げられ、先端部に形成された前記易摺動屈曲縁のその屈曲部が前記被覆部の下面に弾性を介して接触するように湾曲状態で配設されていることを特徴とする間隙カバー装置である。
【0010】
ここで、帯板状弾性金属板の先端部に形成される易摺動屈曲縁は、一方の建造物の下面に形成される水切り溝の溝幅より広幅とすることが好ましい。
【0011】
上記間隙カバー装置にあって、帯板状弾性金属板の易摺動屈曲縁が斜め後方に屈曲され、かつ先端部が変位許容間隙内に挿入されている構成が提案される。
【0012】
また、帯板状弾性金属板の基端部が、螺子によって建造物の前壁面に直接固定されている構成が提案される。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上述したように、先端部に屈曲部を介して鈍角に屈曲して形成された易摺動屈曲縁を備えた、目地の長手方向に長尺な帯板状弾性金属板からなり、該帯板状弾性金属板の基端部が目地に臨む他方の建造物の前壁面に固定されて立ち上げられ、先端部に形成された前記易摺動屈曲縁のその屈曲部が前記被覆部の下面に弾性を介して接触するように湾曲状態で配設されている間隙カバー装置であるので、常態では帯板状弾性金属板によって変位許容間隙を遮蔽することができる一方、地震時に両建造物が離近する方向に相対変位することによって、帯板状弾性金属板の屈曲部が、被覆部の下面に形成されている水切り溝7(図5参照)部分に位置しても、帯板状弾性金属板の先端部に形成された鈍角に屈曲する易摺動屈曲縁が水切り溝7の開口縁に下方から当接することによって屈曲部が水切り溝7内に嵌り込むことがないため、該屈曲部が水切り溝7部分を容易に通過することができ、これによって、従来のように間隙カバー装置の先端部が水切り溝7内に嵌り込むことに起因する間隙カバー装置の破損を防止することができる。
【0014】
また、前記帯板状弾性金属板の易摺動屈曲縁が斜め後方に屈曲され、かつ先端部が変位許容間隙内に挿入されている構成にあっては、両建造物間に目地として設定された近接方向の変位許容幅に略一致する変位幅で、両建造物の近接方向の相対変位を支障なく行わせることができる。
【0015】
また、帯板状弾性金属板の基端部が、螺子によって建造物の前壁面に直接固定されている構成にあっては、このように、帯板状弾性金属板の基端部を、螺子によって建造物の前壁面に直接固定し得るので、従来構成の金属製押え板及びナットが不要であり、部材数が減少するため、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第一実施例にかかる間隙カバー装置9の施工状態を示す側断面図である。
【図2】帯板状弾性金属板10の側面図である。
【図3】帯板状弾性金属板10の一部切欠拡大側断面図である。
【図4】間隙カバー装置9の施工状態を示す拡大側断面図である。
【図5】建造物1A,1Bが離隔する方向に相対変位したときの間隙カバー装置9の作用説明図である。
【図6】建造物1A,1Bの近接方向への相対変位によって目地sの幅が狭小となったときの間隙カバー装置9の作用説明図である。
【図7】第二実施例にかかる間隙カバー装置9の施工状態を示す側断面図である。
【図8】従来構成の間隙カバー装置Eの施工状態を示す側断面図である。
【図9】(A)は従来構成の間隙カバー装置Eの施工状態を示す拡大側断面図、(B)は帯板状ゴム板fの先端部が水切り溝m内に嵌り込んだ状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明にかかる間隙カバー装置の第一実施例を、図1〜図6に基づいて説明する。
図1において、1Aは緩衝機能を備えた免震装置3によって下部が支持された免震構造の建物からなる一方の建造物、1Bは該建造物1Aの周囲に形成された人工地盤からなる他方の建造物であって、目地sを介して隣接している。目地sは、建造物1Aの周囲に沿って所定幅(500〜600mm程度)で形成され、地震時における建造物1Aと周囲の建造物1Bとの水平方向の相対的な揺れを吸収し得るようになっている。建造物1Aの側壁面4からは、該側壁面4に一体形成された突出縁からなる被覆部5が建造物1Bの上面より若干上方位置に差し出されており、地震のない常態では該被覆部5によって前記目地sが覆われている。
【0018】
また、被覆部5の下面と建造物1Bの上面との間には、両建造物1A,1B相互の相対変位を許容する所定間隔(30〜50mm程度)の変位許容間隙6が形成されており、該変位許容間隙6が本発明にかかる間隙カバー装置9によって目地sの長手方向に沿って遮蔽されている。この間隙カバー装置9は、目地sの長手方向に沿って複数個が一列状に配設される。また、前記被覆部5の下面の先端近傍部には、幅,深さともに20mm程度の凹状に窪んだ水切り溝7が目地sの長手方向に沿って形成されており、該水切り溝7によって被覆部5の下面を伝って目地s側に侵入する雨水を遮断するようになっている。
【0019】
間隙カバー装置9は、目地sの長手方向に長尺となる帯板状弾性金属板10と、該帯板状弾性金属板10の基端部を建造物1Bの前壁面8に固定する複数の螺子11とを備えている。帯板状弾性金属板10は、厚み0.15mm程度のステンレスバネ鋼(SUS304H)からなり、長さ1550mm程度,幅150mm程度に切断加工されたものが好適に用いられ得る。この帯板状弾性金属板10の基端部と先端部には、図2,図3に示すように、ヘミング曲げ加工によって所定幅(例えば10mm程度)の折り返し縁12a,12bが設けられており、該折り返し縁12a,12bによって端部の強度を増加させ、かつ取扱い時に手を切ったりしないようにその安全性を向上させている。
【0020】
帯板状弾性金属板10の基端部には、前記螺子11を挿通させるための複数の透孔13が打ち抜き加工によって長手方向に所定間隔で形成されている。一方、帯板状弾性金属板10の先端部には、屈曲部14を介して鈍角(150°程度)に屈曲された易摺動屈曲縁15が形成されている。該易摺動屈曲縁15の幅は、前記水切り溝7の溝幅に比して若干広くなるように設定されており、前記水切り溝7の溝幅が20mm程度である場合には25〜30mm程度とすることが好ましい。また、この第一実施例では、後述するように帯板状弾性金属板10の取付け状態において、帯板状弾性金属板10の先端部が変位許容間隙6内に挿入されるため、帯板状弾性金属板10の易摺動屈曲縁15が建造物1Bの前壁面8に対して斜め後方に屈曲されている。
【0021】
間隙カバー装置9は、帯板状弾性金属板10の基端部が建造物1Bの前壁面8に複数の螺子11によって固定される。この螺子11にはコンクリート用の螺子が用いられ、施工に際しては、帯板状弾性金属板10の各透孔13の位置に対応させて、建造物1Bの前壁面8に下孔を夫々穿設して、各下孔に透孔13を挿通させた螺子11を夫々ねじ込むことにより、帯板状弾性金属板10の基端部が建造物1Bの前壁面8に直接固定されている。そして、図4に示すように、間隙カバー装置9は、帯板状弾性金属板10の基端部を目地sに臨む建造物1Bの前壁面8に複数の螺子11で固定することによって立ち上げられ、かつ、該帯板状弾性金属板10の先端部が前記変位許容間隙6内に挿入されており、その先端部に形成された易摺動屈曲縁15の屈曲部14が前記被覆部5の下面に弾性を介して接触するように湾曲状態で配設されている。
【0022】
かかる構成にあって、地震のない常態では、図4に示すように、間隙カバー装置9の帯板状弾性金属板10によって変位許容間隙6が目地sの長手方向に沿って遮蔽されるので、外部から目地s内への小動物の侵入や風の吹き込みを防止することができる。
【0023】
一方、地震時において、両建造物1A,1Bが離隔する方向に相対変位して、帯板状弾性金属板10の屈曲部14が、被覆部5の下面に形成されている水切り溝7部分に位置すると、図5に示すように、帯板状弾性金属板10の先端部に形成された易摺動屈曲縁15が水切り溝7の開口縁に下方から当接することによって屈曲部14の水切り溝7内への嵌り込みが防止される。これにより、屈曲部14が水切り溝7部分を容易に通過することができる。また、この通過後において、両建造物1A,1Bが近接する方向に相対変位して再度水切り溝7部分に被覆部5が位置しても、上記と同様に、易摺動屈曲縁15が水切り溝7の開口縁に下方から当接することによって嵌り込みが防止され、屈曲部14を容易に通過させることができる。
【0024】
また、図4に示す常態から両建造物1A,1Bが近接する方向に相対変位して、図6に示すように、目地sの幅が極めて狭小となっても、帯板状弾性金属板10の先端部が変位許容間隙6内に挿入されていることによって、両建造物1A,1Bの近接方向の相対変位を支障なく行わせることができる。
【0025】
また、上記のように、帯板状弾性金属板10の基端部を、螺子11によって建造物1Bの前壁面8に直接固定し得るので、従来構成の金属製押え板k及びナットj(図9(A)参照)が不要であり、部材数が減少するため、製造コストを低減することができる。
【0026】
図7は、第二実施例を示し、この第二実施例の間隙カバー装置9は、帯板状弾性金属板10の先端部を変位許容間隙6内に挿入することなく、該帯板状弾性金属板10の先端部を建造物1Bの前壁面8から前方に湾曲させ、その先端部に形成された易摺動屈曲縁15(図4参照)の屈曲部14を被覆部5の下面に弾性を介して接触させるようにしている。この第二実施例の帯板状弾性金属板10は、前記第一実施例の帯板状弾性金属板10の表裏を反転させることによって用いられ得る。その他、第一実施例と共通する構成部分については、第一実施例と同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0027】
かかる構成にあっても、第一実施例と同様に、常態では帯板状弾性金属板10によって変位許容間隙6を遮蔽することができる一方、地震時に両建造物1A,1Bが離近する方向に相対変位し、屈曲部14が水切り溝7部分に位置した場合に、易摺動屈曲縁15が水切り溝7の開口縁に下方から当接することによって、屈曲部14を容易に通過させることができる。
【0028】
尚、この第二実施例にあっては、帯板状弾性金属板10の先端部が建造物1Bの前壁面8から前方に湾曲していることにより、両建造物1A,1B間における近接方向の変位許容幅がその分狭くなるが、目地sの幅を広げることによって対応することができる。
【0029】
このように、本発明によれば、地震時に帯板状弾性金属板10の先端部が、被覆部5の下面に形成されている水切り溝7部分に位置しても、帯板状弾性金属板10の先端部に形成された易摺動屈曲縁15が水切り溝7の開口縁に下方から当接することによって、屈曲部14が水切り溝7内に嵌り込むことがないため、先端部が水切り溝7内に嵌り込むことに起因する間隙カバー装置9の破損を防止することができる。
【符号の説明】
【0030】
1A,1B 建造物
5 被覆部
6 変位許容間隙
8 前壁面
9 間隙カバー装置
10 帯板状弾性金属板
11 螺子
14 屈曲部
15 易摺動屈曲縁
s 目地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の建造物と他方の建造物とが目地を介して隣接され、一方の建造物から他方の建造物側に突出されて目地を覆う被覆部の、その下面と、他方の建造物の上面との間に形成されて両建造物相互の相対変位を許容する変位許容間隙を目地の長手方向に沿って遮蔽するものであって、
先端部に屈曲部を介して鈍角に屈曲して形成された易摺動屈曲縁を備えた、目地の長手方向に長尺な帯板状弾性金属板からなり、該帯板状弾性金属板の基端部が目地に臨む他方の建造物の前壁面に固定されて立ち上げられ、先端部に形成された前記易摺動屈曲縁のその屈曲部が前記被覆部の下面に弾性を介して接触するように湾曲状態で配設されていることを特徴とする間隙カバー装置。
【請求項2】
帯板状弾性金属板の易摺動屈曲縁が斜め後方に屈曲され、かつ先端部が変位許容間隙内に挿入されていることを特徴とする請求項1記載の間隙カバー装置。
【請求項3】
帯板状弾性金属板の基端部が、螺子によって建造物の前壁面に直接固定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の間隙カバー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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