説明

関係式作成装置、関係式作成プログラム、記録媒体、関係式作成方法、濃度算出装置及び粘度調整方法

【課題】高分子化合物の分子量から、当該高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの濃度を算出することが可能な関係式を作成する。
【解決手段】計算装置1は、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度及び分子量の組み合わせを第1記憶部6から取得し、高分子化合物の濃度と分子量との関係を示すモデル式のパラメータを、(i)濃度及び分子量の組み合わせをモデル式に代入した連立方程式を解くことにより、または、(ii)濃度及び分子量の組み合わせに基づいて回帰演算を実行することにより算出し、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度と分子量との関係を示す関係式を決定する。これにより、算出した濃度を用いて、高分子化合物の溶液の粘度調整を容易に行なうことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度と分子量との関係を示す関係式を作成するための関係式作成装置、関係式作成プログラム、記録媒体、関係式作成方法、当該関係式を用いた濃度算出装置及び粘度調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物の溶液をインクジェット法による印刷や塗布法による塗装等に用いるとき、当該溶液の粘度を調整する必要がある。溶液の粘度は、インクジェットの射出精度や塗装条件に大きな影響を与えるからである。
【0003】
一般に、高分子化合物の溶液の粘度調整は、当該溶液の濃度を調整することによって行なう。従って、溶液の粘度を目標粘度に調整するためには、当該目標粘度となるときの濃度を算出する必要がある。
【0004】
従来、高分子化合物の溶液が目標粘度となるときの濃度の算出は、下記数式(1)を用いて行なわれてきた。
【0005】
η=AeBC・・・(1)
(ηは粘度、Cは上記高分子化合物の濃度、A及びBはそれぞれ定数である。)
が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
上記数式(1)は、高分子化合物の分子量が一定であるときの、濃度と粘度との関係を示す関係式である。高分子化合物の溶液が目標粘度となるときの濃度の算出を、上記数式(1)を用いて行なうには、具体的に次のようにする。
【0007】
まず、高分子化合物を合成して、濃度の異なる当該高分子化合物の溶液を複数製造して、それぞれの溶液の粘度を測定する。次に、濃度と粘度との組み合わせから、上記数式(1)の定数A及びBを算出する。そして、目標粘度の値を粘度ηに代入して、濃度Cを算出する。
【0008】
以上のようにして、高分子化合物の溶液が目標粘度となるときの濃度の算出した後に、当該濃度の溶液を製造することで、高分子化合物の溶液を目標粘度に調整していた。
【非特許文献1】TEMPLE.C.PATTON 著、植木憲二 監訳、「塗料の流動と顔料分散」、共立出版 1971年 67〜83頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来の粘度調整方法は簡便でないという問題点を有する。この理由を具体的に説明する。
【0010】
高分子化合物は、合成する毎に異なる分子量となる。そして、高分子化合物の溶液の粘度は、その分子量に大きく影響を受ける。従って、仮に同じ種類の高分子化合物及び溶媒を用いたとしても、当該高分子化合物の分子量が異なれば、目標粘度となるときの溶液の濃度は異なる値となる。特に、分子量が大きいほど、溶液の粘度に対する分子量の影響は大きくなる。そのため、分子量が大きい高分子化合物の場合、合成毎に得られる高分子化合物の分子量の差がわずかであっても、粘度が目標粘度となるときの溶液の濃度は大きく異なる。
【0011】
また、上記数式(1)は分子量が一定であるときに成立する式である。そのため、上記数式(1)を用いて粘度調整を行なうためには、高分子化合物を合成する毎に、それぞれの高分子化合物について上記数式(1)の定数A及びBを算出して、粘度と濃度との関係式を作成する必要がある。
【0012】
従って、上記数式(1)を用いる粘度調整方法では、多量の計算作業が要求される。これでは、高分子化合物を合成する毎に、粘度と濃度との関係式を作成してから、目標粘度の溶液を製造する必要があるため、高分子化合物溶液の粘度調整を簡便に行なうことができない。
【0013】
なお、高分子化合物の分子量と、当該高分子化合物の固有粘度を表す数式として下記数式(2)
[η]=KMwγ・・・(2)
([η]は固有粘度、Mwは高分子化合物の分子量、K及びγは定数である。)
が知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、[η](固有粘度)は、高分子化合物が溶媒に溶解されていないときの粘度であり、当該高分子化合物の溶液の粘度とは全く異なるものである。そのため、上記数式(1)及び(2)から、高分子化合物の分子量と当該高分子化合物の溶液の粘度との関係式を導出することは困難である。
【0014】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの濃度と分子量との関係式を作成することができる関係式作成装置、関係式作成プログラム、記録媒体、関係式作成方法を提供することにある。また、当該関係式を用いて目標粘度の溶液を製造するための濃度を計算することができる濃度算出装置を提供することにある。ひいては、高分子化合物の粘度調整を容易にする粘度調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係る関係式作成装置は、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度及び分子量の組み合わせを記憶装置から取得し、高分子化合物の濃度と分子量との関係を示すモデル式のパラメータを、(i)上記濃度及び分子量の組み合わせを上記モデル式に代入した連立方程式を解くことにより、または、(ii)上記濃度及び分子量の組み合わせに基づいて回帰演算を実行することにより算出し、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度と分子量との関係を示す関係式を決定する関係式作成手段を備えることを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係る関係式作成方法は、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度と分子量との関係を示す関係式を決定する関係式作成方法であって、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度及び分子量の組み合わせを取得する取得工程と、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度と分子量との関係を示すモデル式のパラメータを、(i)取得した上記濃度及び分子量の組み合わせを上記モデル式に代入した連立方程式を解くことにより、または、(ii)取得した上記濃度及び分子量の組み合わせに基づいて回帰演算を実行することにより、上記関係式を決定する関係式作成工程と、を含むことを特徴とするとしている。
【0017】
従来、粘度調整のために用いられていた上記数式(1)のような粘度と濃度との関係式は、分子量が異なると使用できないため、分子量の異なる高分子化合物が合成される毎に、上記数式(1)の定数A及びBを算出して、目標粘度と濃度との関係式を作成する必要があった。
【0018】
上記の構成によれば、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度と分子量との関係を示す関係式を作成することができる。そして、この関係式に高分子化合物の分子量を代入すれば、溶液の粘度が目標粘度となるときの濃度を容易に算出することができる。
【0019】
つまり、合成した高分子化合物の分子量を測定して、上記関係式作成手段が作成する関係式及び当該分子量に基づいて計算するだけで、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの濃度を算出することができる。
【0020】
よって、分子量の異なる高分子化合物が合成される毎に、上記数式(1)の定数A及びBを算出するという、多量の計算作業を行なう必要がなく、目標粘度となるときの濃度を算出するための計算作業を少なくすることができる。
【0021】
従って、高分子化合物の粘度調整を容易に行なうことができる。
【0022】
さらに、本発明に係る関係式作成装置では、上記モデル式は、下記数式(3)
C=αlnMw+β・・・(3)
(ただし、Cは溶液の粘度が上記目標粘度となるときの上記高分子化合物の濃度(重量%)であり、Mwは上記高分子化合物の分子量であり、α及びβは上記パラメータである。)
で表される数式であることがより好ましい。
【0023】
上記モデル式を用いることにより、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度と分子量とに、極めて相関の高い関係式を得ることができる。よって、正確に粘度調整を行なうことができる。
【0024】
また、本発明に係る濃度算出装置は、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の分子量と濃度との関係式を記憶装置から取得し、上記関係式及び上記溶液の製造に供する高分子化合物の分子量から、当該高分子化合物の溶液の粘度を、上記目標粘度にするための濃度を算出する濃度算出手段を備えることを特徴としている。
【0025】
上記の構成によれば、例えばユーザは、溶液の製造に供する高分子化合物の分子量を入力するだけで、溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度を得ることができる。
【0026】
従って、高分子化合物の粘度調整を容易に行なうことができる。
【0027】
また、本発明に係る粘度調整方法は、高分子化合物を溶解することにより目標粘度の溶液を得る粘度調整方法において、上記溶液の粘度が目標粘度となるときの上記高分子化合物の分子量と濃度との関係式に、溶液の製造に供する高分子化合物の分子量を当てはめて、当該製造に供する高分子化合物の溶液の粘度が、上記目標粘度となるときの濃度を算出する濃度算出工程と、上記濃度算出工程で算出した濃度の、上記製造に供する高分子化合物の溶液を製造する溶液製造工程とを含むことを特徴としている。
【0028】
上記の構成によれば、上記関係式及び分子量に基づいて計算するだけで、溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度を算出することができる。そのため、上記数式(1)のような粘度と濃度との関係式を、高分子化合物を合成する毎に作成する必要がなく、目標粘度となるときの濃度を算出するための計算作業を少なくすることができる。従って、高分子化合物の粘度調整を容易に行なうことができる。
【0029】
なお、上記関係式作成装置及び濃度算出装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを上記各手段として動作させることにより上記関係式作成装置及び濃度算出装置の各手段をコンピュータにて実現させるプログラム、及びそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明に係る関係式作成装置は、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度及び分子量の組み合わせを記憶装置から取得し、高分子化合物の濃度と分子量との関係を示すモデル式のパラメータを、(i)上記濃度及び分子量の組み合わせを上記モデル式に代入した連立方程式を解くことにより、または、(ii)上記濃度及び分子量の組み合わせに基づいて回帰演算を実行することにより算出し、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度と分子量との関係を示す関係式を決定する関係式作成手段を備えている。
【0031】
また、本発明にかかる関係式作成方法は、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度と分子量との関係を示す関係式を決定する関係式作成方法であって、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度及び分子量の組み合わせを取得する取得工程と、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度と分子量との関係を示すモデル式のパラメータを、(i)取得した上記濃度及び分子量の組み合わせを上記モデル式に代入した連立方程式を解くことにより、または、(ii)取得した上記濃度及び分子量の組み合わせに基づいて回帰演算を実行することにより、上記関係式を決定する関係式作成工程と、を含む。
【0032】
従って、合成した高分子化合物の分子量を測定して、上記関係式作成手段が作成する関係式及び当該分子量に基づいて計算するだけで、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの濃度を算出することができる。よって、分子量の異なる高分子化合物が合成される毎に、上記数式(1)の定数A及びBを算出するという、多量の計算作業を行なう必要がなく、目標粘度となるときの濃度を算出するための計算作業を少なくすることができる。
【0033】
それゆえ、高分子化合物の粘度調整を容易に行なうことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の一実施形態について図1〜4に基づいて説明すると以下の通りである。なお、本実施の形態では、高分子化合物及び溶媒の種類が一種類であり、目標粘度を一つの値に定めて、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の分子量と濃度との関係式(以下、説明の便宜上「粘度調整用関係式」と表記する)を一つ作成する場合について説明する。
【0035】
まず、本発明に係る関係式作成装置及び濃度算出装置の一実施形態である計算装置1の構成について、図1を用いて説明する。図1は、計算装置(関係式作成装置、濃度算出装置)1の概略構成を示すブロック図である。
【0036】
計算装置1は、粘度調整用関係式を作成し、また、分子量及び上記粘度調整用関係式から、当該入力された分子量の高分子化合物の溶液が、上記目標粘度となるときの濃度を算出する機能を有するものである。
【0037】
本明細書において「目標粘度」とは、高分子化合物の溶液の用途等によって、ユーザにより設定される粘度の値である。なお、後述の計算装置1では、目標粘度をユーザが手動で入力する場合について説明するが、溶液の製造装置等の計算装置1とは別の装置に目標粘度を格納しておき、計算装置1は当該装置から目標粘度を読み取る構成としてもよい。また、ユーザが設定した目標粘度以外の条件、例えばインクジェットの射出精度の条件等からコンピュータ等が算出した目標粘度も、ユーザにより設定される粘度、即ち本明細書にいう目標粘度の範疇にあるものとする。
【0038】
図1に示すように、計算装置1は、インターフェイス部2及び計算処理部3を備えている。
【0039】
インターフェイス部2は、ユーザの操作入力を受け付けて計算処理部3に送信するものであり、また、計算処理部3から出力される計算結果を表示するものである。インターフェイス部2は、表示部4及び操作入力部5を備えている。なお、インターフェイス部2は、上記計算結果を印刷するための印刷部を備えていてもよい。
【0040】
表示部4は、計算処理部3から出力された、分子量と濃度との粘度調整用関係式や、目標粘度の高分子化合物溶液を得るための濃度を表示するものである。
【0041】
操作入力部5は、ユーザが、データを入力するためのものであり、また、入力されたデータを計算処理部3に出力するためのものである。ユーザにより入力されるデータとしては、粘度調整用関係式を作成する段階においては、溶液の粘度が目標粘度となるときの濃度及び分子量の組み合わせが挙げられ、濃度を算出する段階においては、溶液の製造に供する高分子化合物の分子量が挙げられる。
【0042】
また、操作入力部5のデータの入力手段は、ユーザが上述のデータを入力可能なものである限り、特に限定されるものではなく、例えば、入力キーやタッチパネル、マウス等で構成することができる。
【0043】
計算処理部3は、インターフェイス部2から出力されたデータを受信し、当該データに基づいて後述する回帰演算等の処理を行ない、当該処理の結果をインターフェイス部2に出力するものである。計算処理部3は、第1記憶部(記憶装置)6、関係式作成部(関係式作成手段)7、第2記憶部(記憶装置)8、濃度算出部(濃度算出手段)9を備えている。
【0044】
第1記憶部6は、操作入力部5から出力された濃度と分子量との組み合わせを記憶するためのものである。第1記憶部6の構成としては、当該組み合わせ等のデータを記憶することが可能なものであれば特に限定されず、例えばRAM(random access memory)やHDD(ハードディスクドライブ)により構成すればよい。また、計算装置1では第1記憶部6は内蔵されているが、外付けの記憶装置を用いてもよい。
【0045】
関係式作成部7は、第1記憶部6に記憶された上記組み合わせから粘度調整用関係式を作成するものである。関係式作成部7が粘度調整用関係式を作成するために行なう処理については後述する。また、関係式作成部7は、作成した粘度調整用関係式を第2記憶部8に出力するものでもある。
【0046】
第2記憶部8は、関係式作成部7から出力された粘度調整用関係式を記憶するものである。また、濃度算出部9に当該粘度調整用関係式を出力するものである。第2記憶部8の構成としては、上記粘度調整用関係式を記憶可能である限り特に限定されるものではなく、第1記憶部6と同様に、例えばRAMやHDDにより構成すればよい。RAMで構成する場合は、計算装置1を使用するたびに、ユーザがモデル式を入力して、当該RAMが当該モデル式を記憶するように構成すればよい。また、本実施の形態では、第1記憶部6と第2記憶部8とを別部材でそれぞれ構成した場合について説明するが、これに限定されるものではなく、同一部材で構成してもよい。例えば、同一のRAMやHDDに、第1記憶部6及び第2記憶部8の両方の機能を持たせてもよい。また、本実施の形態では、第2記憶部8は計算装置1に内蔵されているが、外付けの記憶装置を用いてもよい。
【0047】
濃度算出部9は、第2記憶部8に記憶された粘度調整用関係式に、操作入力部5から出力された分子量を当てはめて、当該分子量の高分子化合物の溶液の粘度が、目標粘度となるときの濃度を計算するものである。濃度算出部9が濃度の計算を行なう処理については後述する。
【0048】
次に、計算装置1を用いて、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの濃度を算出するプロセスについて説明する。
【0049】
まず、ユーザは、操作入力部5に、溶液の粘度が目標粘度となるときの濃度及び分子量の組み合わせを少なくとも2組以上入力する。後述のように関係式作成部7では、連立方程式の解を算出したり、回帰演算を行なったりするので、入力する上記組み合わせの数は複数であればよい。また、入力する上記組み合わせの数は複数であれば限定されるものではないが、粘度調整用関係式の正確性を向上させるために適宜変更してもよい。入力する上記組み合わせは、数が多ければ粘度の予測精度が向上することから好ましいが、煩雑さを考慮すると、2〜10組、好ましくは、3〜5組程度を入力する。
【0050】
なお、溶液の粘度が目標粘度となるときの濃度及び分子量の組み合わせは、従来公知の方法で得ればよい。例えば、高分子化合物の分子量は、従来公知の分子量測定器等で測定すればよい。また、当該分子量の高分子化合物の溶液が目標粘度となるときの濃度としては、高分子化合物の溶液を適当な濃度で製造してみて、目標粘度の溶液が得られれば、当該濃度の値を用いればよい。目標粘度の溶液が得られなければ、当該高分子化合物について上記数式(1)のA及びBを算出して、濃度と粘度との関係式を作成する。そして当該関係式に目標粘度の値を代入して濃度を算出すればよい。
【0051】
操作入力部5に入力された濃度及び分子量の組み合わせは第1記憶部6に出力される。第1記憶部6では、例えば図2のように記憶される。図2は第1記憶部6に記憶された濃度及び分子量の組み合わせのデータ構造の一例を示す図である。図2に示すように、第1記憶部6には、分子量と、当該分子量の高分子化合物の溶液が目標粘度となるときの濃度との組み合わせを示すデータが記憶されている。
【0052】
次に、関係式作成部7は、第1記憶部6に記憶されている分子量及び濃度の組み合わせを示すデータを取得して、得られたデータに基づいて、粘度調整用関係式を作成する。この関係式作成部7による粘度調整用関係式の作成の処理について図3を用いて説明する。図3は、関係式作成部7による処理フローの例を示すフローチャートである。
【0053】
図3に示すように、関係式作成部7は、まず、第1記憶部6から取得可能な分子量及び濃度の組み合わせを示すデータの数を判定する(S1)。2組以上取得可能であれば、当該2組以上のデータを第1記憶部6から取得して(S2)、当該データ及び下記数式(3)
C=αlnMw+β・・・(3)
(ただし、Cは溶液の粘度が上記目標粘度となるときの上記高分子化合物の濃度(重量%)であり、Mwは上記高分子化合物の分子量であり、α及びβは上記パラメータである。)
に基づいて回帰演算を行ないパラメータα及びβの値を算出する(S3)。
【0054】
関係式作成部7は、パラメータα及びβの値を算出することで、粘度調整用関係式を作成する。関係式作成部7は粘度調整用関係式を作成した後に、当該粘度調整用関係式を表示部4及び第2記憶部8に出力する(S4)。これにより、表示部4は当該粘度調整用関係式を表示し、第2記憶部8は当該粘度調整用関係式を記憶する。
【0055】
なお、本発明に係る計算装置は、ここで説明したように回帰演算処理を行なう構成に限定されるものではなく、連立方程式を解いてα及びβを算出する構成にしてもよいし、上記ステップS1にて判定した取得可能なデータの組み合わせの数に応じて、回帰演算処理を行なうか連立方程式を用いるかを選択する構成であってもよい。なお、連立方程式を用いる場合について説明すると次の通りである。例えば、上述の図2に示したデータに基づいて粘度調整用関係式を作成する場合、濃度及び分子量を上記数式(3)に代入して連立方程式を解いて、α=−1.8749、β=12.694と算出する。これにより、下記数式(4)
C=−1.8749lnMw+12.694・・・(4)
で示される粘度調整用関係式を作成する。
【0056】
なお、本実施の形態ではモデル式として上記数式(3)を用いたが、粘度調整用関係式を作成するためのモデル式としては、これに限定されるものではない。例えば、以下の数式(5)〜(7)もモデル式として用いることもできる。
【0057】
C=aMw+bMw+cMw+d・・・(5)
C=ae−bMw・・・(6)
C=aMw−b・・・(7)
(ただし、上記数式(5)〜(7)において、Cは溶液の粘度が上記目標粘度となるときの上記高分子化合物の濃度(重量%)であり、Mwは上記高分子化合物の分子量であり、a、b、c及びdはパラメータである。)
また、粘度調整用関係式は、1種類の高分子化合物及び溶媒に組み合わせに対して、1つ作成することが好ましいが、複数種類の溶媒同士であって、当該高分子化合物を溶解したときの粘度が極めて近い値を有することなどが予め分かっている溶媒同士であれば、一方の高分子化合物及び溶媒について作成した粘度調整用関係式を、他方の高分子化合物及び溶媒に適用することも可能である。
【0058】
このようにして、関係式作成部7は粘度調整用関係式を作成する。
【0059】
また、上述のように、第2記憶部8は関係式作成部7により作成された粘度調整用関係式を記憶する。具体的には、第2記憶部8は、例えば上記数式(4)のように、関係式作成部7が、パラメータα及びβの値を上記数式(3)に代入することで作成した数式(粘度調整用関係式)を記憶する。
【0060】
第2記憶部8が粘度調整用関係式を記憶した後は、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの濃度を算出することができる。この算出のために、ユーザは、まず、操作入力部5に、溶液の製造に供する高分子化合物の分子量を入力する。操作入力部5は、入力された分子量を濃度算出部9に出力する。
【0061】
濃度算出部9は、操作入力部5から出力された分子量に基づいて、当該分子量を有する高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの濃度を計算する。この濃度算出部9による濃度計算の処理について図4を用いて説明する。図4は、濃度算出部9による処理フローの例を示すフローチャートである。
【0062】
図4に示すように、まず、濃度算出部9は、操作入力部5から分子量が入力されたか否か判定する(S11)。分子量の入力があれば(S11でYES)、濃度算出部9は、第2記憶部8から粘度調整用関係式の取得が可能か判定する(S12)。
【0063】
粘度調整用関係式を取得可能であれば(S12でYES)、濃度算出部9は当該粘度調整用関係式を取得する(S13)。具体的には、第2記憶部8は、上述のように上記数式(3)のパラメータα及びβに、数値が代入された数式を記憶している。そして、濃度算出部9は当該数式(粘度調整用関係式)を取得する。
【0064】
そして、濃度算出部9は当該粘度調整用関係式中の分子量Mwに、操作入力部5から入力された分子量を代入して、濃度を算出する(S14)。例えば、ユーザが操作入力部5に分子量として420,000と入力した場合、S14では、この値を上記数式(4)に代入して濃度1.37重量%を算出する。次に、濃度算出部9は、算出した濃度を表示部4に出力する(S15)。そして、表示部4はこの値を表示する。同様に、ユーザが操作入力部5に380,000と入力すれば、表示部4は1.56重量%と表示して、350,000と入力すれば、1.71重量%と表示する。このように、ユーザは分子量を入力することで、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの濃度を得ることができる。
【0065】
高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの濃度を得た後は、当該高分子化合物を、従来公知の方法で溶媒に溶解して、溶液を製造すればよい。
【0066】
かくして所望の粘度に調製された高分子化合物の溶液は、基板上に塗布したのち、乾燥することにより、高分子化合物のフィルムを得ることができる。塗布方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の方法が例示される。
【0067】
以上のようにして、粘度調整用関係式、ひいては高分子化合物の溶液を目標粘度とするための濃度を算出して、当該目標粘度を有する高分子化合物溶液を製造することができる。つまり本発明は、簡易に所望の目標粘度を有する高分子化合物の溶液を製造することが可能な粘度調整方法を提供するものでもある。
【0068】
本発明に係る粘度調整方法は、高分子化合物を溶解することにより目標粘度の溶液を得る粘度調整方法において、上記溶液の粘度が目標粘度となるときの上記高分子化合物の分子量と濃度との関係式に、溶液の製造に供する高分子化合物の分子量を当てはめて、当該製造に供する高分子化合物の溶液の粘度が、上記目標粘度となるときの濃度を算出する濃度算出工程と、上記濃度算出工程で算出した濃度の、上記既知の分子量の高分子化合物の溶液を製造する溶液製造工程とを含んでいてもよい。
【0069】
上記濃度算出工程では、上述の計算装置1のように本発明に係る関係式作成装置及び濃度算出装置を用いて、濃度の算出を行なうとよい。例えば、濃度算出装置の濃度算出手段が、上記溶液の粘度が目標粘度となるときの上記高分子化合物の分子量と濃度との関係式に、既知の分子量を当てはめて、当該既知の分子量の高分子化合物の溶液が、上記目標粘度となるときの濃度を算出する工程であってもよい。また、溶液製造工程では、上述のように従来公知の方法で、当該濃度に基づいて高分子化合物の溶液を製造するとよい。上記濃度算出工程及び溶液製造工程により、簡便に、高分子化合物の溶液の粘度を目標粘度とすることができる。
【0070】
なお、本実施の形態に係る計算装置1は、関係式作成部7と濃度算出部9とが一つの装置内に構成されている。しかし、本発明に係る関係式作成装置及び濃度計算装置の構成はこれに限定されるものではない。つまり、関係式作成部7と濃度算出部9とを別々の装置として構成したものは、それぞれ本発明の関係式作成装置及び濃度計算装置の一実施態様である。
【0071】
また、本実施の形態では、高分子化合物及び溶媒の種類が一種類であり、目標粘度を一つの値に定めて、粘度調整用関係式を一つ作成する場合について説明したが、これに限定されるものではない。計算装置1は、複数の粘度調整用関係式を、目標粘度、高分子化合物の種類及び溶媒の種類に関連付けて記憶しておき、目標粘度、高分子化合物の種類及び溶媒の種類に応じて、粘度調整用関係式を選択して、濃度を計算することができる。なお、説明の簡単のため、「目標粘度、高分子化合物の種類及び溶媒の種類」を、以下、単に「目標粘度等」と表記する。
【0072】
この場合、各部材は次のように構成すればよい。まず、操作入力部5では、粘度調整用関係式を作成する段階においては、分子量及び濃度の組み合わせと共に、目標粘度等を当該組み合わせに関連付けて入力できるようにすればよい。濃度を算出する段階においては、溶液の製造に供する高分子化合物の分子量と共に、目標粘度等を当該分子量に関連付けて入力できるようにすればよい。第1記憶部6は、記憶する濃度及び分子量の組み合わせを、目標粘度等に関連付けて記憶しておき、また、目標粘度等に関連付けた状態で、濃度及び分子量の組み合わせを関係式作成部7に出力すればよい。関係式作成部7は、作成した粘度調整用関係式を、目標粘度等に関連付けて第2記憶部8に出力すればよい。第2記憶部8は、それぞれの粘度調整用関係式を、目標粘度等に関連付けて記憶しておけばよい。濃度算出部9は、操作入力部5から出力された目標粘度等に対応する粘度調整用関係式を第2記憶部8から取得して、濃度を算出するように構成しておけばよい。
【0073】
なお、計算装置1によって、粘度調整用関係式の作成及び濃度の算出を行なうことが可能な高分子化合物の種類としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、(メタ)アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル等のオレフィン系樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエーテル等のエンジニアリングプラスチック等、セルロース、トリアセチルセルロース等の様々な高分子化合物を適用することができる。また、当該高分子化合物を溶解するための溶媒も、当該高分子化合物の種類や用途に応じて適宜選択すればよい。
【0074】
なお、計算装置1の各ブロック、特に関係式作成部7および濃度算出部9は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0075】
すなわち、計算装置1は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM、上記プログラムを展開するRAM、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである計算装置1の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記計算装置1に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0076】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0077】
また、計算装置1を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【0078】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0079】
〔実施例1〕
(対象高分子化合物及び溶媒)
本実施例では、高分子化合物としてポリエーテルスルホン(以下、「PES」と表記する)を用い、溶媒として1‐メチル‐2‐ピロリドン(以下、「NMP」と表記する)を用いた。
【0080】
PESは、スミカエクセルPES(住友化学製)のパウダーグレードを用いた。以下、それぞれの製造において得られたPESを、本実施例1において、「ロット」に1〜4の番号を付して表記する。
(分子量及び粘度の測定方法)
PESの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)で測定した。CPSの測定条件は以下の通りである。
GPC測定装置 :島津製作所製 Prominence GPCシステム
カラム :TOSOH社製 TSKgel GMHHR−M
カラム温度 :40℃
移動相溶媒 :DMF(LiBrを10mmol/dmになるように添加)
溶媒流量 :0.5mL/min
(粘度調整用関係式の作成)
まず、ロット1〜4のPESの分子量を測定した。また、各PESをNMPに溶解して溶液を作製して、当該溶液の粘度を測定した。さらに、得られた分子量及び粘度から、それぞれのロットのPESにおける上記式(1)のA及びBを算出した。結果を以下の表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
次に、得られた粘度と濃度との関係式から算出した、各ロットのPESの濃度における、粘度の理論値を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
また、図5に、ロット毎に算出したA及びBを上記式(1)に代入してグラフ上にプロットした図を示す。図5は、分子量が一定のときにおけるPESの濃度及び分子量の関係を示すグラフである。図5において縦軸が粘度(mPa・s)を示し、横軸が濃度(重量%)を示し、×印はロット1を示し、丸印はロット2を示し、四角印はロット3を示し、三角印はロット4を示す。
【0085】
表2及び図5に示すように、上記式(1)を用いれば、分子量が一定であれば、相関係数の極めて高い粘度と濃度との関係式を導出することができる。
【0086】
次に、得られた粘度と濃度との関係式から、目標粘度を3.00mPa・sとしたときの各ロットにおける濃度を表3に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
次に、表3に示す各濃度及び各ロットのPESの分子量を、上記数式(3)に回帰させて、α及びβの値を算出した。その結果、α=−0.6612、β=3.8375と算出された。つまり、本実施例における粘度調整用関係式として、C=−0.6612lnMw+3.8375との数式を得た。
【0089】
得られた粘度調整用関係式、表3に示す各濃度、及び各ロットの分子量をグラフ上にプロットした結果を図6に示す。図6は、目標粘度が3.00mPa・Sのときにおける、PESの分子量と濃度との関係を示すグラフである。図6において縦軸は濃度(重量%)を示し、横軸は分子量(k)を示す。
【0090】
図6に示すように、グラフ上にプロットされた点との重相関係数が極めて高い粘度調整関係式を作成することができた。
〔実施例2〕
本実施例では、高分子化合物として4,7−ジブロモ−ベンゾ[1,2,5]チアジアゾール、2,7−ビス(1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン、2,7−ビス(1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジヘキシルフルオレン、2,7−ジブロモ−9,9−ジヘキシルフルオレン、N,N’−ビス(4−ブロモフェニル)−N,N’−ビス(3−エトキシカルボニルオキシフェニル)ビフェニル−4,4−ジアミン脱臭素化ホウ素化合物の重縮合物(以下、高分子(I)という)を用い、溶媒としてトルエンを用いた。高分子(I)とは下記構造式(1)
【0091】
【化1】

【0092】
で示される繰り返し単位を有する高分子化合物である。
【0093】
高分子(I)の製造方法は、特表2005−515264号公報(2005年5月26日公表)の実施例3の記載に従った。当該製造方法により、高分子(I)を5回製造した(以下、それぞれの製造において得られた高分子(I)を、本実施例2において、「ロット」に1〜5の番号を付して表記する)。
【0094】
なお、分子量及び粘度は実施例1と同様にして測定した。
【0095】
まず、ロット1〜5の高分子(I)の分子量を測定した。また、各高分子(I)をトルエンに溶解して溶液を作製して、当該溶液の粘度を測定した。さらに、得られた分子量及び粘度から、それぞれのロットの高分子(I)における上記式(1)のA及びBを算出した。結果を以下の表4に示す。
【0096】
【表4】

【0097】
次に、得られた粘度と濃度との関係式から算出した、各ロットの高分子(I)の濃度における、粘度の理論値を表5に示す。
【0098】
【表5】

【0099】
また、図7に、ロット毎に算出したA及びBを上記式(1)に代入してグラフ上にプロットした図を示す。図7は、分子量が一定のときにおける高分子(I)の濃度及び分子量の関係を示すグラフである。図7において縦軸が粘度(mPa・s)を示し、横軸が濃度(重量%)を示し、×印はロット1を示し、丸印はロット2を示し、プラス印はロット3を示し、マイナス印はロット4を示し、四角印はロット5を示す。
【0100】
表5及び図7に示すように、上記式(1)を用いれば、分子量が一定であれば、相関係数の極めて高い粘度と濃度との関係式を導出することができる。
【0101】
次に、得られた粘度と濃度との関係式から、目標粘度を3.00mPa・sとしたときの各ロットにおける濃度を表6に示す。
【0102】
【表6】

【0103】
次に、表6に示す各濃度及び各ロットの高分子(I)の分子量を、上記数式(3)に回帰させて、α及びβの値を算出した。その結果、α=−0.2806、β=2.4155と算出された。つまり、本実施例における粘度調整用関係式として、C=−0.2806lnMw+2.4155との数式を得た。
【0104】
得られた粘度調整用関係式、表6に示す各濃度、及び各ロットの分子量をグラフ上にプロットした結果を図8に示す。図8は、目標粘度が3.00mPa・Sのときにおける、高分子(I)の分子量と濃度との関係を示すグラフである。図8において縦軸は濃度(重量%)を示し、横軸は分子量(k)を示す。
【0105】
図8に示すように、グラフ上にプロットされた点との重相関係数が極めて高い粘度調整関係式を作成することができた。
【0106】
本発明は上述した実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明に係る関係式作成装置や濃度算出装置を用いれば、目標粘度の高分子化合物の溶液を、簡便に製造できる。かかる高分子化合物の溶液は、例えば、光学フィルム、有機ELディスプレイ、配線基板等の、高分子化合物を塗布、乾燥するフィルムの製造に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の一実施形態に係る計算装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した計算装置が備える第1記憶部に記憶された濃度及び分子量の組み合わせのデータ構造の一例を示す図である。
【図3】図1に示した計算装置が備える関係式作成部による処理フローの例を示すフローチャートである。
【図4】図1に示した計算装置が備える濃度算出部による処理フローの例を示すフローチャートである。
【図5】分子量が一定のときにおけるPESの濃度及び分子量の関係を示すグラフである。
【図6】目標粘度が3.00mPa・Sのときにおける、PESの分子量と濃度との関係を示すグラフである。
【図7】分子量が一定のときにおける高分子(I)の濃度及び分子量の関係を示すグラフである。
【図8】目標粘度が3.00mPa・Sのときにおける、高分子(I)の分子量と濃度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0109】
1 計算装置(関係式作成装置、濃度算出装置)
2 インターフェイス部
3 計算処理部
4 表示部
5 操作入力部
6 第1記憶部(記憶装置)
7 関係式作成部(関係式作成手段)
8 第2記憶部(記憶装置)
9 濃度算出部(濃度算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度及び分子量の組み合わせを記憶装置から取得し、
高分子化合物の濃度と分子量との関係を示すモデル式のパラメータを、(i)上記濃度及び分子量の組み合わせを上記モデル式に代入した連立方程式を解くことにより、または、(ii)上記濃度及び分子量の組み合わせに基づいて回帰演算を実行することにより算出し、高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度と分子量との関係を示す関係式を決定する関係式作成手段を備える
ことを特徴とする関係式作成装置。
【請求項2】
上記モデル式が、下記数式(1)
C=αlnMw+β・・・(1)
(ただし、Cは溶液の粘度が上記目標粘度となるときの上記高分子化合物の濃度(重量%)であり、Mwは上記高分子化合物の分子量であり、α及びβは上記パラメータである。)
で表される数式であることを特徴とする請求項1に記載の関係式作成装置。
【請求項3】
請求項1に記載の関係式作成装置の関係式作成手段としてコンピュータを機能させる関係式作成プログラム。
【請求項4】
請求項3に記載の関係式作成プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項5】
高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度と分子量との関係を示す関係式を決定する関係式作成方法であって、
高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度及び分子量の組み合わせを取得する取得工程と、
高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の濃度と分子量との関係を示すモデル式のパラメータを、(i)取得した上記濃度及び分子量の組み合わせを上記モデル式に代入した連立方程式を解くことにより、または、(ii)取得した上記濃度及び分子量の組み合わせに基づいて回帰演算を実行することにより、上記関係式を決定する関係式作成工程と、
を含むことを特徴とする関係式作成方法。
【請求項6】
高分子化合物の溶液の粘度が目標粘度となるときの当該高分子化合物の分子量と濃度との関係式を記憶装置から取得し、
上記関係式及び上記溶液の製造に供する高分子化合物の分子量から、当該高分子化合物の溶液の粘度を、上記目標粘度にするための濃度を算出する濃度算出手段を備えることを特徴とする濃度算出装置。
【請求項7】
高分子化合物を溶解することにより目標粘度の溶液を得る粘度調整方法において、
上記溶液の粘度が目標粘度となるときの上記高分子化合物の分子量と濃度との関係式に、溶液の製造に供する高分子化合物の分子量を当てはめて、当該製造に供する高分子化合物の溶液の粘度が、上記目標粘度となるときの濃度を算出する濃度算出工程と、
上記濃度算出工程で算出した濃度の、上記製造に供する高分子化合物の溶液を製造する溶液製造工程と含むことを特徴とする粘度調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−79178(P2009−79178A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251037(P2007−251037)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】