説明

防刃材料およびその製造方法

【課題】アイスピックやバタフライナイフによる防刃性能に優れ、軽量性、柔軟性に優れた防刃材料を提供する。
【解決手段】高機能繊維の短繊維と該短繊維から派生してなる極細繊維とが交絡し、かつ無境界接着して両面の表層部が平板状に形成され、内層部は前記短繊維同士が交絡して嵩高状に形成された3層構造を有した不織布を複数重ねた防刃材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防刃性、軽量化、柔軟性に優れた防刃材料に関する。
【背景技術】
【0002】
鋭利な突起による突き刺しに対して、人体を保護する防護材料として、金属材料や皮革が古くから用いられている。近年、アイスピック、目打ち、バタフライナイフなどの鋭利な突起物や先突の刃物を用いた作業や、犯罪などの危険から人体を保護する防護材料として、ジュラルミンやチタン合金材料が用いられている。しかし、これらの金属材料は人体保護の点では優れているものの、屈曲性がなく着用時に動きにくいという不便さが問題にされている。金属材料以外に皮革が防護材料として用いられることもあるが、皮革では分厚く重くなるので、やはり着用時に動きにくいという不便さが問題にされている。
【0003】
そこで、特開2002−144480号公報などには、アラミド不織布に金属薄板を積層した材料が開示されている(特許文献1参照)が、やはり柔軟性に欠けているので、動き易さが求められている。また、特開2007−321262号公報などには、極細アラミド繊維の織編物を多層積層体とした防護材料が開示されている(特許文献2参照)が、バタフライナイフなどの極めて鋭利な刃物に対するさらにより高い防刃性能が求められている。
【0004】
また、特開2007−107139号公報には、防護用布帛およびその製造方法が提案されている(特許文献3参照)。しかし、当該技術はマイクロフィラメント化することにより、「ごわごわ」感の低減を図ったものであって、布帛の枚数を増やさざるを得なく、厚地化するので軽量性に優れるとは言いがたく、作業性が低下しやすい。
【0005】
従って、従来技術では高い防刃性能に対応でき、着用感に優れた防刃材料は提案されていないのである。
【特許文献1】特開2002−144480号公報
【特許文献2】特開2007−321262号公報
【特許文献3】特開2007−107139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑みてなされたものであり、防刃性能および軽量性、柔軟性に優れた防刃材料である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解消するため、次の(1)〜(7)のいずれかの構成を特徴とするものである。
【0008】
(1)高機能繊維の短繊維と該短繊維から派生した極細繊維とが交絡し、さらに接着した平板状の表層部と、該短繊維同士が交絡した内層部を有し、該表層部が該内層部の両面を挟み込んだサンドイッチ構造から成る不織布を複数枚重ねた防刃材料。
【0009】
(2)前記高機能繊維がパラ系アラミド繊維である前記(1)に記載の防刃材料。
【0010】
(3)前記表層部の繊維の一部又は全部が無境界接着を有し、該短繊維断面は偏平である前記(1)または(2)に記載の防刃材料。
【0011】
(4)前記不織布以外のシートを少なくとも1枚以上重ねた前記(1)〜(3)に記載の防刃材料。
【0012】
(5)ナイフを25ジュールのエネルギーで突き刺した時、刃先が貫通する長さが10mm以内である前記(1)〜(3)に記載の防刃材料。
【0013】
(6)厚さが5mm以上25mm以下である前記(1)〜(3)に記載の防刃材料。
【0014】
(7)請求項1〜6のいずれかに記載の防刃材料の製造方法であって、高機能繊維を主成分とする短繊維不織布の両面に高圧水流処理を施した後、両面を加熱プレス加工して不織布とし、さらに該不織布を複数枚重る防刃材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の防刃材料を構成する不織布の表面層は、短繊維と該短繊維から派生した極細繊維が緻密に交絡し、さらに接着して平板状に形成されているので、鋭利な刃物、縫い針、注射針、ガラスや金属の破片、釘などの突き刺しに対して高い防刃性を有する。
【0016】
さらに該不織布の内層は短繊維同士が交絡し嵩高いので、突き刺し力を受けた際の衝撃を緩和させることができる。
【0017】
そして本発明の防刃材料は前記の不織布を複数枚重ねて構成されているので、軽量で柔軟性を有するので活動的な用途に最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の防刃材料は、高機能繊維の短繊維と該短繊維から派生した極細繊維とが交絡し、さらに接着した平板状の表層部と、該短繊維同士が交絡した内層部を有し、該表層部が該内層部の両面を挟み込んだサンドイッチ構造からなる該不織布を複数枚重ねた防刃材料である。
【0019】
本発明における不織布を構成する高機能繊維の短繊維については、単繊維繊度は0.1〜5.0dtex、繊維長は2.54cm(1インチ)〜12.7cm(5インチ)であることが好ましい。また、極細繊維は該短繊維からフィブリル化などにより派生した同種の繊維からなる。
【0020】
極細繊維は短繊維に高圧水流を施すことにより派生したフィブリル化繊維であるが、その太さは細いもので単繊維直径が50〜150ナノメートル、太いもので5〜20マイクロメートル、単繊維長さは0.01〜10mmから成る。当該極細繊維は短繊維につながったままであってもかまわない。これらの繊維径や繊維長は走査型電子顕微鏡(通称SEM)にて50〜1000倍(測定すべき繊維径に応じて適宜選択する)に拡大した写真から読み取ることができる。
【0021】
本発明の不織布の表層部は、短繊維と極細繊維とは互いに緻密に交絡し、さらに一部が接着して薄い平板状を形成し、不織布の表層に位置する。接着部は外観上無境界接着を有する。これは、加熱プレスによって断面形状が偏平化した短繊維と極細繊維が圧着し、短繊維間の隙間に極細繊維が緻密に入り込んで硬化し、平板状に形成されたものである。表層部繊維の一部又は全部が無境界接着を有し、短繊維および短繊維から派生した極細繊維の断面形状は偏平である防刃材料である。
【0022】
なお、本願でいう「無境界接着」とは各繊維同士が溶融しているごとく接着した状態をいい、一見したところ境界線が不明瞭なほどに一体化しているものであり、具体的には図1のごとくである。極細繊維は該短繊維間の隙間に入り込み、加熱プレスによって偏平化されているので、その隙間をさらに緻密化するので、表層部はよりいっそう隙間の少ない平板状である。偏平度合いは走査型電子顕微鏡にて撮影した写真を用いて、加熱プレス前後の繊維径の比率により、確認することができる。
【0023】
一方、短繊維同士が交絡した内層部は、極細繊維はほとんど存在せず、嵩高く、柔軟性やクッション性を有している。
【0024】
本発明の不織布は表層部が内層部を両面(おもて、うら)から挟み込んだかのごとくの3層型のサンドイッチ構造から成り、それぞれの境界においては、表層部と内層部は高圧水流の交絡により固定されている。表層部が内層部の片面にのみ固定されている2層型の不織布では、本発明の効果が低く好ましくない。
【0025】
本発明の防刃材料は前記の不織布を複数枚重ねた構造とすることにより、本発明の効果をより発揮することができるので、用途や目的などに応じて積層枚数を適宜決めて用いることが好ましい。
【0026】
本発明の防刃材料を構成する不織布の高機能繊維はパラ系アラミド繊維であることが好ましい。
高機能繊維としては、例えば、アラミド繊維(全芳香族ポリアミド繊維)、全芳香族ポリエステル繊維(例えば株式会社クラレ製、「ベクトラン(登録商標)」)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキザゾール繊維(例えば東洋紡株式会社製、「ザイロン(登録商標)」)、超高分子量ポリエチレン繊維(例えば東洋紡株式会社製、「ダイニーマ(登録商標)」)などが挙げられる。
【0027】
なかでも、本発明の狙いとする扁平化、緻密化が容易な、アラミド繊維が好ましい。アラミド繊維にはメタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維とがある。メタ系アラミド繊維としては例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(デュポン社製、「ノーメックス(登録商標)」)などのメタ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。また、パラ系アラミド繊維としては例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、「ケブラー(登録商標)」)およびコポリパラフェニレン−3,4−ジフェニールエーテルテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製、「テクノーラ(登録商標)」)などのパラ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。本発明の防刃材料においては、高機能繊維はパラ系アラミド繊維であることが特に好ましい。
【0028】
また、高機能繊維は1種類を単独で用いたものであってもよいし、素材や品種、繊維構成が異なる2種以上の高機能繊維を混繊したものであっても構わない。なお、上記高機能繊維の他に、ポリフェニレンサルファイド繊維やフッ素系繊維などの繊維を高機能繊維として用いることができる。なお、本発明において「主成分」とは重量にして80%以上をいい、その範囲を超えない限り、高機能繊維以外の繊維を含んでいてもよい。
【0029】
本発明の防刃材料は、前記不織布以外のシートを少なくとも1枚以上重ねた防刃材料であってもよい。前記不織布以外の繊維シートとは一般的に用いられる高機能材料であって、例えば、金属繊維シート、ガラス繊維シート、無機繊維シートあるいはこれらの主原料の粒子を含有するシートであって、編織物、不織布、フイルム、樹脂膜などからなる。なお、金属繊維シートの場合は柔軟性に欠けるので、その厚みや素材について、特に留意する必要がある。
【0030】
該不織布以外のシートを1枚以上挟むことにより、重ねた厚さを薄くしたり、軽量化したりすることができる。
【0031】
本発明の防刃材料は、ナイフを25ジュールのエネルギーで突き刺した時、刃先が材料を貫通した長さが10mm以内である防刃材料であることが好ましい。具体的には、不織布を複数重ねた防刃材料の目付を一定の7kg/m(±5%)に設定して25ジュールのエネルギーでナイフで突き刺した際、刃先が防刃材料を貫通した長さを測定するものであり、この値が10mm以内であることが好ましい。特に厳しい要求がなされる用途においては、目付7kg/mで貫通長が5mm以内であれば実用的には問題ない範囲とされており、5mmを超えると危険度が高くなるので、5mm以内がさらに望ましい範囲である。
【0032】
本発明においては、目付7kg/mで貫通した長さが長ければ不織布の重ね枚数を多く、貫通しない場合は重ね枚数を少なくし、枚数を調整することが可能である。
【0033】
本発明の防刃材料は、厚さが5mm以上25mm以下である防刃材料である。
【0034】
複数枚重ねた防刃材料の厚さは、防刃チョッキなどの用途において、25mm以上になると厚み感があるので着用時の活動性が低下しやすくなる。また、5mm以下では薄すぎるので、刃物などで突き刺し力を直接受けると、クッション性が低いので身体への衝撃が大きくなり、ショックや転倒など突き刺し以外の危険性がある。
【0035】
例えば、防刃材料の厚さは用途にもよるが防刃チョッキでは衝撃の緩和作用を含めて7mm以上20mm以下が適度なクッション性がある好ましい範囲である。
【0036】
次に本発明の防刃材料の製造方法について詳述する。
【0037】
まず、高機能繊維を主成分とする短繊維不織布に高圧水流処理を両面に施した後、両面を加熱プレス加工して不織布を製造する。そして、得られた不織布を複数枚重ね固定することにより防刃材料を製造する。
【0038】
次に、各工程について詳述する。まず、高機能繊維の短繊維を用いて通常の方法にて短繊維不織布を製造する。すなわち、短繊維不織布は、ウエブをニードルパンチあるいは軽い水流のウオータージェットパンチを施し、短繊維を交絡させることにより製造する。短繊維不織布を製造する他の方法として、接着剤や樹脂を用いたり、低融点繊維を混合する方法があるが、布帛が硬化しやすく嵩高性や柔軟性を損なう恐れがあるので、軽度のニードルパンチやウオータージェットパンチによる不織布の形成が望ましい。また、短繊維と予めフィブリル化させた極細繊維を軽度の樹脂含浸により製造した不織布であってもよい。
【0039】
前記のようにして得られた短繊維不織布の両面に高圧水流処理としてウオータージェットパンチを施し、表層面に位置する短繊維をフィブリル化させて極細繊維化し、表層部の繊維を交絡・緻密化させた不織布を製造する。水流圧力を高く、処理速度あるいは搬送速度を遅く、繰り返し処理を施すことにより、フィブリル化により極細繊維をより多く緻密に交絡させた不織布を製造することができる。
【0040】
フィブリル化による極細繊維は、短繊維から枝状に派生し、短繊維にはほぼ繋がっており、極細繊維(枝)を派生した短繊維は幹(幹繊維)のごとくなっている。
【0041】
高圧水流処理(ウオータージェットパンチ)の好ましい加工条件は、水圧5〜30MPa、処理速度1〜15m/分、ノズルの水噴射孔径0.1〜0.4mmφ、孔径ピッチ0.2〜1.0mmであって、繰り返し処理回数は片面当たり2〜10回施すことである。
【0042】
さらに、好ましくは 水圧10〜20MPa、処理速度1〜5m/分、噴射孔径0.15〜0.3mmφ、孔径ピッチ0.4〜0.6mm、繰り返し処理回数は片面当たり2〜5回が適している。
【0043】
極細繊維の直径は、高圧水流処理における処理水圧を高く、処理速度を遅く、繰り返し処理回数を多くすることにより、より細くすることができ、高圧水流処理は短繊維不織布の両面に施す。
【0044】
続いて、高圧水流処理を施して短繊維をフィブリル化した不織布の両面に加熱プレス加工を施し、表層部を平板状に硬質化させる。加熱プレス加工においては、加熱したペーパーロールや金属ロールあるいは加熱平板プレスを用いてもよい。加熱ロールプレス条件として、ロール温度が室温〜300℃、ロール線圧力が10〜100kg/cm、搬送速度は1m/分〜30m/分が好ましく、片面または両面に1回あるいは繰り返し施すことができる。
【0045】
フィブリル化を施した不織布に加熱プレスを施すことにより、表層部の短繊維と極細繊維の断面形状を扁平化させ、さらに短繊維や極細繊維を無境界接着させることができる。この表面構造の形成が、刃物による不織布のこじ開けにくさや耐切創性の高さにつながり、突き刺しにくくなると考えられる。
【0046】
加熱プレスを施すに際しては、フィブリル化を施した不織布の目付の大きさにより適宜条件を変更することが重要である。例えば、パラ系アラミド繊維を使用している場合、不織布の目付が大きな1000〜3000g/mでは、加熱プレス圧力の線圧力を100〜200kg/cm、温度を300〜400℃の高圧・高温条件で実施することが好ましい。また、不織布の目付が小さな100〜200g/mの範囲では、線圧力50〜50kg/cm、温度100〜200℃で実施することが好ましい。
【0047】
加熱プレス加工を施して得られた不織布は、表層部が内層部を両面(おもて、うら)から挟み込んだかのごとくの3層型のサンドイッチ構造から成る。この不織布を複数枚重ね、例えば耳部を固定することにより防刃材料とすることができる。重ね合わせる枚数は用途により適宜決めることができ、重ね合わせ固定する手段としては、望ましくは人体の立体形状に成型し裁断した後、耳部を接着剤や縫い糸あるいは専用固定具などを用いて固定することである。なお、成型の方法は一般的には加熱金型プレスが使用される。
【実施例】
【0048】
[測定方法]
(1)総目付(kg/m
JIS L 1913(1998) 6.2(単位面積当たりの質量)に基づき、20cm×20cmの防刃材料を3枚採取し、標準状態における質量(g)を量り、1m当たりの質量(kg/m)に換算し、N=3の平均値で表した。
【0049】
(2)総厚さ(mm)
JIS L1913(1998) 6.1(厚さ(A法))に基づき、20cm×20cmの防刃材料を3枚採取し、NAKAYAMA ERECTORIC IND Ltd.製の圧縮弾性率測定機を用いて、0.5kPaの加圧下で10秒後における厚さを10箇所測り、その平均値を各試料の厚さ(mm)とし、総厚さをN=3の平均値で表した。
【0050】
(3)耐貫通長(mm)
防刃材料を粘土(市販の油粘土であり、人体の大腿部の柔らかさに近いものを選定した。)の上に敷く。その上から市販のバタフライナイフ(片刃、刃渡り83mm、刃幅10mm、重量200g、素材:鋼)と固定具を含めた総重さ1.7kgの突き刺し具を用いて、高さ1.5mから刃先を下に向け自重落下させ、防刃材料に突き刺す。このようにすることで25ジュールのエネルギーでナイフが突き刺さったことになる。バタフライナイフが突き抜けた刃先の長さを測定し、N=3の平均値を算出し、耐貫通長(mm)として表した。
【0051】
同様に、固定具を含めた総重さ1.7kgのアイスピックを用いて、高さ1.5mから先端を下に向け自重落下させ、防刃材料に突き刺し、N=3の平均値を算出し、耐貫通長(mm)として表した。
【0052】
(4)繊維径(μm,nm)
走査型電子顕微鏡(通称SEM)にて300倍に拡大して撮影した写真を用いて、表層部に位置するフィブリル化した繊維(極細繊維)径や幹繊維(極細繊維を派生した短繊維)径を実測し、それぞれ20箇所の平均値で表した。内層部に位置する繊維径も同様に、表層部の隙間から見える幹繊維径を実測し、20箇所の平均値で表した。
【0053】
(5)偏平度合い(%)
前項繊維径(4)の測定値を利用して、加熱プレス加工による偏平度合いを算出した。すなわち、加熱プレス加工前の幹繊維径d1、加熱プレス加工後の幹繊維径d2としたとき、
偏平度合いr(%)=[{(d2−d1)}/d1]×100
で表される。
【0054】
(6)針突き刺し抵抗値(N)
テンシロンAGS−J(5KN)装置(島津製作所製)を用いて、針が防刃材料となる不織布1枚を突き刺さす時の抵抗値(g)を測定した。不織布の固定は、中央部に直径20mmの中空部を有する板状の試料支持板2枚の間に、しわ及びたるみが生じないように不織布を挟んで固定し、針を不織布に90度(垂直)の角度で突き刺さるように固定し、針先を不織布に100mm/分の速度で押し付け、針が不織布を突き刺ささるときの最大応力を測定し、N=5の平均値で示した。針は工業用ミシン針(#11 オルガン針社製)を使用した。
【0055】
なお、実施例2〜8の測定においては、試験装置はオートグラフSD−100装置(島津製作所製)を用い、試料支持板は中央部に幅10mm長さ18mmのスリットを有するものを用いた。
【0056】
(7)通気性(cm3/cm/sec)
JIS L1906(2000) 6.8(通気性(フラジール形法))に準じて測定した。すなわち、不織布から20cm×20cmの不織布片を5枚採取し、フラジール形試験機を用いて、円筒の一端(吸気側)に不織布片を取り付けた。不織布片の取り付けに際し、円筒の内径と同一の内径を有する平面状ゴム製リングパッキン(厚さ1mm)を円筒の試験片取り付け側に設置し、その上に不織布片を置き不織布片上から吸気部分を隙間がないように均等に約98N(10kgf)の荷重を加え不織布片の取り付け部におけるエアーの漏れを防止した。不織布片を取り付けた後、加減抵抗器によって傾斜形気圧計が125Paの圧力を示すように吸込みファンを調整し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、試験機に付属の表によって不織布片を通過する空気量を求め、5枚の不織布片について(N=5)の平均値を算出した。
【0057】
(8)引張り強力(N)、伸度(%)
JIS K6550(1976) に基づき、オートグラフAGS−J 5KN(SHIMADZU製)を用いて、つかみ間隔100mm、幅20mmの不織布片を5枚採取し、引張り速度100mm/分にて引張り、最大強力(N)および最大強力時の伸度(%)を測り、それぞれN=5の平均値で表した。
【0058】
[実施例1]
(高機能繊維)
高機能繊維として繊度1.7dtex、繊維長5.08cmのポリパラフェニレンテレフタルアミド(東レ・デユポン株式会社製「ケブラー(登録商標)」)の短繊維ファイバー100%を用いた。
【0059】
(ウエブ加工)
カード機によりウエブシートを製造した。
【0060】
(ニードルパンチ加工)
該ウエブシートにニードルパンチを施して短繊維を交絡させて、目付285g/mの不織布を下記条件で製造した。
ニードルパンチ :上針間欠型装置(有限会社大和機工製)
ニードル種類 :9バーブニードル(オルガン社製 FPD−1)
ニードル間隔 :10mm間隔1列に幅方向80針、長さ方向に40列
パンチング回数 :1分間に100回
シート移動速度 :1分間に1.2m
(高圧水流処理)
ニードルパンチを施した該不織布にウオータージェットパンチ機(上野山機工製)を用いて、高圧水流処理を下記条件にて施し、フィブリル化した不織布を製造した。
水圧 :20MPa
処理速度 :1m/分
処理回数 :両面計6回(片面3回ずつ)
処理幅 :50cm
孔径 :0.1/0.25mm
ピッチ :0.6mm
孔数 :834ホール
(加熱プレス加工)
加熱プレス加工装置として、油圧式3本カレンダー(由利ロール株式会社製、型式:H3CM、NoM−1738)設備を用い、該フィブリル化を施した不織布に下記条件にて両面の加熱プレス加工を計2回施し加熱プレス不織布を下記条件にて製造した。
温度 :200℃
線圧力 :40kg/cm
搬送速度 :3.5m/分
両面処理 :両面計2回(片面1回ずつ)
(重ね合わせ加工)
フィブリル化を施した不織布の加熱プレス加工品を複数枚(24,27,30,32,34,40枚)重ねて、耳部を金具で固定し、防刃材料を製造した。
【0061】
(評価)
加熱プレス加工前・後の不織布1枚の基本物性を表1に、加熱プレス加工後の不織布を複数枚(24,27,30,32,34,40枚)重ねた防刃材料の耐貫通長との関係を表2に示した。
【0062】
[実施例2]
(高機能性繊維)
高機能性繊維として繊度が2.51dtexと1.7dtexのミックス、繊維長さ5.08cmのポリパラフェニレンテレフタルアミド(東レ・デユポン株式会社製「ケブラー(登録商標)」)短繊維ファイバーを用いた。
【0063】
(ウエブ加工)
カード機によりウエブシートを製造した。
【0064】
(ニードルパンチ加工)
ニードルパンチを施した該不織布にウオータージェットパンチ機(上野山機工製)を用いて、高圧水流処理を下記条件にて施し、フィブリル化した不織布を製造した。
ニードルパンチ :上針間欠型装置(有限会社大和機工製)
ニードル種類 :9バーブニードル(オルガン社製 FPD−1)
ニードル間隔 :10mm間隔1列に幅方向80針、長さ方向に40列
パンチング回数 :1分間に100回
シート移動速度 :1分間に1.2m
該短繊維をカード機に通過させてウエブを形成し、このウエブにニードルパンチを施し短繊維を絡合させて、目付301g/mの短繊維不織布を製造した。
【0065】
(高圧水流処理)
ニードルパンチを施した該不織布にウオータージェットパンチ機(上野山機工製)を用いて、高圧水流処理を下記条件にて施し、フィブリル化した不織布を製造した。
水圧 :20MPa
処理速度 :1m/分
処理回数 :片面のみ6回(裏面なし)
処理幅 :50cm
孔径 :0.1/0.25mm
ピッチ :0.6mm
孔数 :834ホール
(加熱プレス加工)
加熱プレス加工装置として、油圧式3本カレンダー(由利ロール株式会社製、型式:H3CM、NoM−1738)設備を用いた。
【0066】
直径が約22cmの金属加熱ロールと直径が約30cmのペーパーロール、長さ60cmの一対のロールの間に前記短繊維不織布を導入し、ウオータージェットパンチ処理面に加熱プレス加工した。
温度 :200℃
線圧力 :40kg/cm
搬送速度 :3.5m/分
両面処理 :両面計2回(片面1回ずつ)
(評価)
加熱プレス後の不織布1枚の基本物性および評価結果を表3に示した。
【0067】
[実施例3〜8]
実施例2の条件を基本とし、高圧水流処理の水圧のみ15MPaに変更(実施例3)、高圧水流処理の処理速度のみ3.5m/sに変更(実施例4)、加熱プレス加工の加熱温度のみ120℃に変更(実施例5)、加熱プレス加工の線圧のみ10Kg/cmに変更(実施例6)、高圧水流処理回数のみ変更(実施例7)、高圧水流を両面処理に変更(実施例8)し、それぞれ製造した。
【0068】
[比較例1]
(高機能性繊維)、(ウエブ加工)、(ニードルパンチ加工条件)、(高圧水流処理) 、(重ね合わせ加工)及び(評価)を実施例1と同様にして行った。
すなわち、実施例1と同一の短繊維不織布に高圧水流処理をのみを施し、加熱プレス加工は施さなかった。
【0069】
得られた不織布を26枚重ねた不織布材料の耐貫通長を測定し、表4に結果を示した。
【0070】
[比較例2]
(高機能性繊維)、(ウエブ加工)、(ニードルパンチ加工工程)、(加熱プレス加工)、(重ね合わせ加工)及び(評価)を実施例1と同様にして行った。
すなわち、実施例1と同一の短繊維不織布に加熱プレス加工のみを施し、高圧水流処理は施さなかった。
得られた不織布を24枚重ねた不織布材料の耐貫通長を測定し、表4に結果を示した。
【0071】
[比較例3]
(高機能性繊維)、(ウエブ加工)、(ニードルパンチ加工工程)、(高圧水流処理)、(重ね合わせ加工)及び(評価)を実施例1と同様にして行い、(加熱プレス加工)のみ片面処理を行った。
すなわち、実施例1と同一の短繊維不織布に高圧水流処理および加熱プレス加工の片面処理みを施し、得られた不織布を24枚重ねた不織布材料の耐貫通長を測定し、表4に結果を示した。
【0072】
[評価結果]
表1において、加熱プレスにより短繊維断面は30〜50%偏平化し、緻密化することにより通気性は十分の一に低くなる。その結果、針の突き刺し抵抗値は約16倍に向上し、引張り強さも高くなる。
【0073】
表2において、不織布を重ねる枚数が増えると、耐貫通長が向上するが厚みは厚くなるので、実用的には20mm以下が好ましい。
【0074】
また、表3における実施例2〜8の防刃材料も突き刺し抵抗値および耐通気性が極めて高いことがわかる。
【0075】
表4において、比較例1の高圧水流処理のみおよび比較例2の加熱プレス加工のみでは、ナイフによる耐貫通長は長く、防刃性能に劣る。一方、本発明の高圧水流作用と加熱プレス加工を併用することにより耐貫通長が短くなり、相乗効果が極めて大きいものと考えられる。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例1の不織布の表層部を走査型電子顕微鏡(通称SEM)にて300倍に拡大して撮影した写真である。短繊維と極細繊維が交絡し、短繊維間に極細繊維が緻密に入り込み、接着して隙間は極めて少ない。緻密に接着している部分は平板状に一体化し、無境界接着を有している。
【図2】実施例1の不織布の断面層を走査型電子顕微鏡(通称SEM)にて100倍に拡大して撮影した写真である。表層部は短繊維間、極細繊維が緻密に絡み接着し隙間は極めて少なく平板状に一体化し、無境界接着を有している。内層は短繊維が交絡し、隙間が多く嵩高い。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の防刃材料は、前記したように防刃性能が高く、内層部は嵩高く軽量で柔軟性に優れていることから、自衛隊や警察あるは民間の警備会社などで使用する防刃チョッキやプロテクターなどに用いられる。その他ガラス、刃物、釘など製造現場のエプロン、頭巾、手袋、足カバーなどの防護具にも用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高機能繊維の短繊維と該短繊維から派生した極細繊維とが交絡し、さらに接着した平板状の表層部と該短繊維同士が交絡した内層部を有し、該表層部が該内層部の両面を挟み込んだサンドイッチ構造から成る不織布を複数枚重ねた防刃材料。
【請求項2】
前記高機能繊維がパラ系アラミド繊維である請求項1に記載の防刃材料。
【請求項3】
前記表層部の繊維の一部又は全部が無境界接着を有し、該繊維断面は偏平である請求項1または2に記載の防刃材料。
【請求項4】
前記不織布以外のシートを少なくとも1枚以上重ねた請求項1〜3のいずれかに記載の防刃材料。
【請求項5】
ナイフを25ジュールのエネルギーで突き刺した時、刃先が貫通する長さが10mm以内である請求項1〜4のいずれかに記載の防刃材料。
【請求項6】
厚さが5mm以上25mm以下である請求項1〜5のいずれかに記載の防刃材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の防刃材料の製造方法であって、高機能繊維を主成分とする短繊維不織布に高圧水流処理を施した後、両面を加熱プレス加工して不織布とし、さらに該不織布を複数枚重ねる防刃材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−156094(P2010−156094A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273347(P2009−273347)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】