説明

防振装置

【課題】第2の取付部材上の水を速やかに排出することが可能な排水構造を有すると共に、振動入力時に本体ゴム弾性体と第2の取付部材の当接による異音の発生も抑えることができる、新規な構造の防振装置を提供する。
【解決手段】第2の取付部材14には本体ゴム弾性体16が嵌め込まれる嵌着凹所30が設けられて、嵌着凹所30の内周面と本体ゴム弾性体16の外周面との間に側方連通路62が形成されている一方、嵌着凹所30の底面が水平面に対して傾斜する複数の傾斜面42を谷状に組み合わせて構成されており、本体ゴム弾性体16の底面が少なくとも嵌着凹所30の底面の谷状部分44に対して離隔していると共に、嵌着凹所30の底面の谷状部分44には少なくとも最下部で嵌着凹所30の底面を貫通する排出孔40が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のエンジンマウント等に用いられる防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装されて、それら部材を防振連結乃至は防振支持させる防振装置が知られている。例えば、特開2010−91042号公報(特許文献1)に示されているのが、それである。
【0003】
ところで、防振装置には、第1の取付部材と第2の取付部材に本体ゴム弾性体を加硫接着したものの他に、第1の取付部材と第2の取付部材に本体ゴム弾性体を非固着で組み付ける構造のものがある。このような非固着構造を採用すれば、要求される防振特性が同じで車両への取付構造の違いがある場合等に、本体ゴム弾性体を流用しながら第1,第2の取付部材を変更することで、速やかに対応することができる。なお、特許文献1に記載の防振装置では、第2の取付部材が本体ゴム弾性体に対して非固着で組み付けられている。
【0004】
ところが、特許文献1に記載の防振装置では、第2の取付部材の内周側に水が入り込む場合があり、その水が本体ゴム弾性体と第2の取付部材の重ね合わせ面間に入り込んで異音の原因となるおそれがある。しかも、特許文献1の防振装置では、入り込んだ水が第2の取付部材の底面上に留まることから、本体ゴム弾性体や第2の取付部材が侵食によって劣化するおそれもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−91042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、第2の取付部材上の水を速やかに排出することが可能な排水構造を有すると共に、本体ゴム弾性体と第2の取付部材の当接時の異音も低減することができる、新規な構造の防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の第1の態様は、第1の取付部材と第2の取付部材の間に本体ゴム弾性体が非接着で配設されて、それら第1の取付部材と第2の取付部材が該本体ゴム弾性体を介して連結されている防振装置において、前記第2の取付部材には前記本体ゴム弾性体が嵌め込まれる嵌着凹所が設けられて、該嵌着凹所の内周面と該本体ゴム弾性体の外周面との間に側方連通路が形成されている一方、該嵌着凹所の底面が水平面に対して傾斜する複数の傾斜面を谷状に組み合わせて構成されており、該本体ゴム弾性体の底面が少なくとも該嵌着凹所の底面の谷状部分に対して離隔していると共に、該嵌着凹所の底面の谷状部分には少なくとも最下部で該嵌着凹所の底面を貫通する排出孔が形成されていることを特徴とする。
【0008】
このような第1の態様に従う構造の防振装置によれば、嵌着凹所の底面が傾斜面を組み合わせて形成されていることにより、嵌着凹所に水が入り込んだ場合に、水が底面の傾斜によって谷状部分に導かれるようになっている。そして、谷状部分の最下部において嵌着凹所の底面を貫通する排出孔を通じて、水が速やかに外部に排出されて、第2の取付部材および本体ゴム弾性体が水との接触によって劣化するのを防ぐことができて、耐久性の向上が実現される。
【0009】
さらに、複数の傾斜面の連接部位に形成される谷状部分は、本体ゴム弾性体の底面に対して離隔しており、谷状部分に導かれた水が最下部までの移動を許容される。これにより、水が最下部に設けられた排出孔まで容易に導かれて、外部に効率よく排出される。
【0010】
しかも、振動の入力によって本体ゴム弾性体の底面と嵌着凹所の底面が接近すると、それら底面間の空間が圧縮されて圧力が上昇することから、底面間に入り込んだ水が谷状部分に沿って押し出されて、排出孔から外部に排出される。このように、荷重の入力による圧力変化を利用することで、水が嵌着凹所の底面上でより効率的に流動させられて排出孔に導かれることから、排水効率の向上が実現されている。
【0011】
また、嵌着凹所の内周面と本体ゴム弾性体の外周面との間に側方連通路が形成されており、嵌着凹所の開口周縁部に溜まる水が側方連通路を通じて積極的に嵌着凹所内に導き入れられるようになっている。そして、側方連通路を通じて嵌着凹所内に導き入れられた水は、嵌着凹所の底面の傾斜によって、上記の如く排出孔まで案内されて、外部に速やかに排出される。このように、水の浸入を防ぎ止めるのではなく、寧ろ積極的に許容し、浸入した水を可及的速やかに外部に排出するという発想によって、水が第2の取付部材や本体ゴム弾性体の上に長期間に亘って滞留するのを防いで、侵食による耐久性低下の防止を可能としたのである。
【0012】
また、嵌着凹所の底面が傾斜面で構成されており、本体ゴム弾性体の底面と嵌着凹所の底面が少なくとも一部で離隔している。それ故、大荷重の入力時に、それら底面の全体が同時に当接するのを回避できて、当接時に発生する打音の低減が可能とされる。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載されている防振装置において、前記嵌着凹所の底面と前記本体ゴム弾性体の重ね合わせ面間には前記側方連通路と連続して延びる下方連通路が形成されており、該下方連通路が前記排出孔に連通されているものである。
【0014】
第2の態様によれば、側方連通路を通じて嵌着凹所内に導き入れられた水が、下方連通路を通じて排出孔まで流れを阻害されることなく案内されることから、排出効率が高められて、嵌着凹所内での水の滞留をより効果的に防ぐことができる。しかも、側方連通路以外の場所から嵌着凹所内に入り込んだ水も、嵌着凹所の底面の傾斜等によって下方連通路に案内されて、下方連通路を通じて排出孔に導かれて外部に排出されることから、より効果的に排水されて、耐久性の向上が図られる。
【0015】
また、下方連通路の形成によって、大荷重の入力で本体ゴム弾性体の底面と嵌着凹所の底面が当接する際に、初期の当接面積がより小さくされており、打音の発生がより効果的に抑えられている。
【0016】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載された防振装置において、前記本体ゴム弾性体の底面が水平に広がっており、前記嵌着凹所の底面が該本体ゴム弾性体の底面に対して傾斜しているものである。
【0017】
第3の態様によれば、本体ゴム弾性体の底面と嵌着凹所の底面がより広い範囲で相互に離隔することから、嵌着凹所に入り込んだ水の流動が妨げられ難くなって、排出孔まで効率的に案内される。その結果、水の侵食による第2の取付部材および本体ゴム弾性体の劣化が有利に抑えられる。
【0018】
また、本体ゴム弾性体の底面と嵌着凹所の底面との当接時には、初期の当接面積がより一層小さくされて、当接打音の更なる低減が図られ得る。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、本体ゴム弾性体が嵌め込まれる第2の取付部材の嵌着凹所の底面が、複数の傾斜面で構成されて谷状をなしており、それら傾斜面の連接部分(谷状部分)における最下部に排出孔が設定されていることによって、嵌着凹所に入り込んだ水が速やかに且つ効率的に排出されて、水の滞留による第2の取付部材および本体ゴム弾性体の劣化が防止される。しかも、嵌着凹所の内周面と本体ゴム弾性体の外周面との間に形成された側方連通路を通じて、嵌着凹所の開口周縁部と本体ゴム弾性体の外周面との境界部分の水を積極的に嵌着凹所内に導いて排出することにより、耐久性の低下をより効果的に低減することができる。また、嵌着凹所の谷状部分が本体ゴム弾性体の底壁面から離隔していることによって、本体ゴム弾性体と第2の取付部材の初期の当接面積が小さくされており、当接によって発生する打音が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態としてのエンジンマウントを示す平面図。
【図2】図1のII−II断面図。
【図3】図1のIII−III断面図。
【図4】図1のエンジンマウントを構成する第2の取付部材の平面図。
【図5】図4に示された第2の取付部材の正面図。
【図6】図4に示された第2の取付部材の右側面図。
【図7】図4のVII−VII断面図。
【図8】図4のVIII−VIII断面図。
【図9】図1のエンジンマウントを構成する本体ゴム弾性体の正面図。
【図10】図9に示された本体ゴム弾性体の右側面図。
【図11】図9に示された本体ゴム弾性体の底面図。
【図12】図1に示されたエンジンマウントの車両装着状態において要部を拡大して示す縦断面図。
【図13】本発明の第2の実施形態としてのエンジンマウントを構成する第2の取付部材の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1〜図3には、本発明に従う構造とされた防振装置の第1の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第1の取付部材12と第2の取付部材14が本体ゴム弾性体16に対して非接着で取り付けられて、相互に弾性連結された構造を有している。そして、第1の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第2の取付部材14が図示しない車両ボデーに取り付けられることによって、パワーユニットと車両ボデーがエンジンマウント10を介して防振連結されている。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、車両への装着状態で略鉛直上下方向となる図2中の上下方向を言う。
【0023】
より詳細には、第1の取付部材12は、後述する本体ゴム弾性体16に連結される上側嵌合部18と、上側嵌合部18から側方に向かって延び出す取付部20を有している。上側嵌合部18は、略矩形ブロック形状を有していると共に、中央部分において下方に開口する略矩形の上側嵌着凹所22を備えている。また、取付部20は、図示しないパワーユニットにボルト固定される固定部24を備えており、上側嵌合部18から側方に延び出している。
【0024】
また、第1の取付部材12の上側嵌合部18には、緩衝ゴム26が取り付けられている。緩衝ゴム26は、略袋状とされており、取付部20と反対側から上側嵌合部18に対して非接着で被せ付けられて、上側嵌合部18の上面および側面と取付部20の基端部の下面を覆っている。
【0025】
第2の取付部材14は、鉄やアルミニウム合金等の金属乃至はカーボンブラックで強化された合成樹脂等で形成された高剛性の部材であって、図4〜図8に示されているように、平面視で略長方形とされていると共に、中央部分が下方に窪んでいる。この窪んだ中央部分は、平面視で略長方形とされており、上側部分(開口部付近)が上方に向かって次第に長手方向で拡開するテーパ部28とされていると共に、下側部分(底部付近)が上方に向かって緩やかに拡開する嵌着凹所としての下側嵌着凹所30を備えた下側嵌合部32とされている。なお、テーパ部28および下側嵌合部32には、外周面に開口して上下に延びる複数の肉抜部33が形成されており、第2の取付部材14の軽量化が図られている。
【0026】
さらに、テーパ部28の上端には、長手方向で外側に突出する一対のフランジ部34,34が一体形成されており、各フランジ部34には、2つのボルト孔36,36が上下に貫通して形成されていると共に、かしめ突部38が上方に向かって突出形成されている。なお、第2の取付部材14の長手方向の中央部分には、下側嵌着凹所30の開口部から短手方向の外側(図4中、上方)に向かって突出する当接突部39,39が設けられている。
【0027】
また、第2の取付部材14には、排出孔40が形成されている。排出孔40は、下側嵌着凹所30(下側嵌合部32)の底壁部を上下に貫通する孔であって、平面視において短手方向に偏倚した位置に形成されている。更に、排出孔40は、下側嵌着凹所30の底面を長手方向で略3等分する位置に2つが設けられており、長手方向で中心線を挟んだ両側に相互に離隔して形成されている。
【0028】
また、下側嵌着凹所30の底面は、連続する2つの傾斜面42,42によって形成されている。傾斜面42は、水平面に対して短手方向で次第に傾斜する平坦な面であって、2つの排出孔40,40の形成位置が何れも最下部となるように2つの傾斜面42,42が連続して谷状に設けられている。これにより、2つの傾斜面42,42の連接部分には、長手方向で連続して延びる谷状部分としての谷線44が排出孔40,40の形成位置において形成されている。なお、本実施形態では、下側嵌着凹所30の底壁部の上面(底面)が傾斜面42,42で構成されている一方、下側嵌着凹所30の底壁部の下面が略水平方向に広がる非傾斜の平面とされている。
【0029】
このような構造の第1の取付部材12と第2の取付部材14は、上下に所定の距離を隔てて対向するように配設されていると共に、それら第1の取付部材12と第2の取付部材14の対向面間に本体ゴム弾性体16が介装されている。本体ゴム弾性体16は、図9〜図11に示されているように、全体として略四角錐台形状を有するゴムブロックであって、より詳細には、上端部分と下端部分がそれぞれ略矩形ブロック形状とされた上端嵌着部46と下端嵌着部48とされていると共に、中間部分が上方に向かって縮小するテーパ形状(略四角錐台形状)の中間本体部50とされている。また、本体ゴム弾性体16の底面は、略水平方向に非傾斜で広がっており、上底面と略平行をなしている。また、本体ゴム弾性体16には、軸直角方向一方向(図10中、左右方向)で貫通する複数の円形孔52が貫通形成されており、要求される防振特性に応じてばねが調節されている。
【0030】
また、図11に示されているように、本体ゴム弾性体16の底面には、底部凹溝54が開口している。底部凹溝54は、略一定の半円形断面を有する4つの直線的な凹溝が、互いに連通する井桁状に組み合わされて形成されている。なお、底部凹溝54は、最下段の円形孔52までは至らない深さで形成されている。
【0031】
さらに、図9〜図11に示されているように、本体ゴム弾性体16の下端部分の側面には、側部凹溝56が形成されている。この側部凹溝56は、底部凹溝54と略同一の半円形断面で上下方向に直線的に延びる凹溝であって、本体ゴム弾性体16の各側面に2つずつが形成されている。
【0032】
そして、側部凹溝56は、下端嵌着部48の上下全長に亘って連続的に形成されていると共に、その上側開口部が中間本体部50の外周面上に開口していると共に、下側開口部が底部凹溝54に連通されている。換言すれば、底部凹溝54を構成する井桁状に配された4つの直線凹溝が、下端嵌着部48の外周面上にまで延び出しており、直線凹溝の各端部がそれぞれ中間本体部50の外周面上で上方に向かって開口している。
【0033】
かくの如き構造を有する本体ゴム弾性体16は、上端嵌着部46が第1の取付部材12の上側嵌着凹所22に嵌め込まれて、第1の取付部材12の上側嵌合部18に対して非接着で固定されていると共に、下端嵌着部48が第2の取付部材14の下側嵌着凹所30に嵌め込まれて、第2の取付部材14の下側嵌合部32に対して非接着で固定されている。これにより、図2,図3に示されているように、第1の取付部材12と第2の取付部材14は、本体ゴム弾性体16によって弾性的に連結されている。
【0034】
また、第1の取付部材12と第2の取付部材14に本体ゴム弾性体16が取り付けられた後、第1の取付部材12の上方から門形ブラケット58が被せられており、門形ブラケット58の両端部が第2の取付部材14のフランジ部34,34にボルトで固定されている。これにより、第1の取付部材12の本体ゴム弾性体16からの抜けと、本体ゴム弾性体16の第2の取付部材14からの抜けが、何れも防止されている。なお、図3に示されているように、第2の取付部材14のフランジ部34に突設されたかしめ突部38が門形ブラケット58の両端部に挿通されており、門形ブラケット58が第2の取付部材14に対してかしめ固定されている。また、車両装着前の単品状態では、第1の取付部材12と門形ブラケット58が緩衝ゴム26を介して上下に当接している。
【0035】
また、傾斜面42,42で構成された第2の取付部材14の下側嵌着凹所30の底面は、本体ゴム弾性体16の底面(底部凹溝54を外れた部分)に対して、相対的に傾斜している。その結果、本体ゴム弾性体16の底面が下側嵌着凹所30の底面の外周部分に対して部分的に当接している一方、それら底面は少なくとも谷線44上において上下に離隔しており、図12に示されているように、本体ゴム弾性体16と第2の取付部材14の間に隙間が形成されている。そして、その隙間に排出孔40,40の上側開口が開口しており、該隙間が排出孔40,40を通じて第2の取付部材14よりも下方の外部空間に連通されている。
【0036】
また、本体ゴム弾性体16の下端嵌着部48が第2の取付部材14の下側嵌着凹所30に嵌め込まれることにより、底部凹溝54の開口が第2の取付部材14によって覆われている。これにより、下側嵌着凹所30の底面と本体ゴム弾性体16との重ね合わせ面間には、下方連通路60が底部凹溝54を利用して形成されている。更に、下端嵌着部48が下側嵌着凹所30に嵌め込まれることにより、側部凹溝56の開口が第2の取付部材14によって覆われている。これにより、下側嵌着凹所30の内周面と本体ゴム弾性体16との重ね合わせ面間には、側方連通路62が側部凹溝56を利用して形成されている。そして、下方連通路60の外周端が側方連通路62の下端に接続されており、それら下方連通路60と側方連通路62が相互に連通されている。更に、下方連通路60は、第2の取付部材14の底壁部に貫通形成された排出孔40,40に対して部分的に重なり合っており、下方連通路60および側方連通路62が排出孔40,40に連通されている。
【0037】
以上の如き構造を有するエンジンマウント10は、第1の取付部材12の取付部20が図示しないパワーユニットにボルトで固定されると共に、第2の取付部材14のフランジ部34が門形ブラケット58の両端部と共に図示しない車両ボデーにボルトで固定されることによって、車両に装着されるようになっている。かかる車両への装着状態では、パワーユニットの分担支持荷重が第1の取付部材12と第2の取付部材14の間に入力されることから、第1の取付部材12が第2の取付部材14に対して軸方向で接近変位させられる。本実施形態では、かかる分担支持荷重の入力によって本体ゴム弾性体16が軸方向で圧縮されても、少なくとも谷線44上において、本体ゴム弾性体16の底面と下側嵌着凹所30の底面との間に隙間が確保されている。
【0038】
なお、車両装着状態において、第1の取付部材12は、当接突部39および門形ブラケット58に対して上下に所定距離を隔てて対向している。そして、第1の取付部材12と当接突部39の当接によって第1の取付部材12と第2の取付部材14の接近変位が制限するバウンドストッパ機構が構成されていると共に、第1の取付部材12と門形ブラケット58の当接によって第1の取付部材12と第2の取付部材14の離隔変位を制限するリバウンドストッパ機構が構成されている。更に、第1の取付部材12と門形ブラケット58の当接によって第1の取付部材12と第2の取付部材14の相対変位を第2の取付部材14の長手方向(図3中、左右方向)で制限する側方ストッパ機構も構成されている。また、第1の取付部材12と当接突部39および門形ブラケット58の間には、何れも緩衝ゴム26が介在しており、各ストッパ機構においてストッパ効果が緩衝的に発揮されるようになっている。
【0039】
そして、エンジンマウント10の車両への装着状態において、第2の取付部材14の下側嵌着凹所30と本体ゴム弾性体16の下端嵌着部48の間に水が浸入すると、浸入した水は、本体ゴム弾性体16の底面と下側嵌着凹所30の底面の間で、重力の作用によって下側嵌着凹所30の底面上を傾斜面42,42の傾斜方向に流動する。その結果、水は傾斜面42,42の境界に形成される谷線44まで導かれて、谷線44上を排出孔40まで流動し、排出孔40を通じて下側嵌着凹所30内から外部(第2の取付部材14よりも下方のスペース)に排出される。このように、下側嵌着凹所30の底面を構成する傾斜面42,42の案内作用によって、水が下側嵌着凹所30の底面上で静止することなく、可及的速やかに排出孔40から排出されて、水の浸食作用による耐久性の低下が防止される。
【0040】
さらに、本体ゴム弾性体16の底面と下側嵌着凹所30の底面との間には、下方連通路60が形成されており、下方連通路60上に排出孔40が設けられている。これにより、水の流路として、本体ゴム弾性体16の底面と下側嵌着凹所30の底面との隙間だけを利用する場合に比して、下方連通路60を併用することで、より効率的に排水することができる。
【0041】
しかも、本体ゴム弾性体16の底面に開口する狭幅の凹溝(底部凹溝54)を利用して形成された下方連通路60は、荷重の入力時にも閉塞されることなく連通状態に保持されることから、排水機能を安定して得ることが可能とされる。
【0042】
加えて、荷重の入力で本体ゴム弾性体16の底面が下側嵌着凹所30の底面に接近すると、それら底面の間に設けられた空間の容積が減少して圧力が上昇することから、底面間に入り込んだ水が連通状態に保持された下方連通路60を通じて押し出されて、外部に排出される。このようなポンプの如き作用によって、更なる排水効率の向上が実現される。なお、上記のようなポンプの如き作用を利用した排水効率の向上は、下方連通路60がない構造であっても実現され得るが、下方連通路60がない構造では、水の逃げ場が無くなるおそれがあることから、下方連通路60を備えた構造においてより効果的に発揮される。
【0043】
また、本体ゴム弾性体16の外周面と下側嵌着凹所30の内周面との間には、側方連通路62が形成されており、下端嵌着部48の上方で中間本体部50の外周面上に開口している。これにより、本体ゴム弾性体16の外周面と下側嵌着凹所30の開口周縁部(開口部の上面)との間に水が溜まるのを防いで、耐久性の低下が防止される。即ち、下側嵌着凹所30の開口部の上面に水が溜まると、その水は側方連通路62を通じて下側嵌着凹所30内に導き入れられて、側方連通路62の下端に連通された下方連通路60に案内される。そして、下方連通路60を通じて排出孔40まで流動して、排出孔40から外部に排出される。このようにして、下側嵌着凹所30の外に溜まった水を積極的に下側嵌着凹所30内に取り入れて、下側嵌着凹所30内の排水機構を利用して速やかに排水することにより、侵食による第2の取付部材14および本体ゴム弾性体16の劣化が防止されるのである。
【0044】
また、本体ゴム弾性体16の底面が略水平に広がる平面とされていると共に、下側嵌着凹所30の底面が傾斜面42,42で形成されており、エンジンマウント10の車両への装着状態においても、静置状態では、本体ゴム弾性体16の底面が下側嵌着凹所30の底面に対して谷線44上で上下に離隔している。これにより、上下方向の振動入力によって本体ゴム弾性体16の底面が下側嵌着凹所30の底面に当接する際には、当接面積が初期の小さな面積から徐々に大きくなるようにされており、当接による衝撃力が低減されて、当接打音の発生が抑えられる。
【0045】
しかも、本体ゴム弾性体16には、底面に開口する底部凹溝54が形成されていることから、初期の当接面積がより一層低減されると共に、本体ゴム弾性体16の底面の自由表面が大きく確保されて、当接による圧力が緩和される。その結果、当接打音が小さく抑えられて、異音の車室空間への伝達が防止される。
【0046】
また、図13には、本発明に従う構造とされた防振装置の第2の実施形態としてのエンジンマウントを構成する、第2の取付部材70が示されている。なお、以下の説明において、第1の実施形態と実質的に同一の部位については、図中に同一の符号を付すことで説明を省略する。また、本実施形態のエンジンマウントにおいて、第2の取付部材70以外の部分は、第1の実施形態と略同一であることから、図示を省略する。
【0047】
より詳細には、第2の取付部材70は、嵌着凹所としての下側嵌着凹所72を有している。下側嵌着凹所72は、全体として第1の実施形態の下側嵌着凹所72と略同一構造とされていると共に、その内面には底部凹溝74と側部凹溝76が形成されている。
【0048】
底部凹溝74は、下側嵌着凹所72の底面に開口しており、下側嵌着凹所72の中央部分で互いに交差して十字をなす2つの直線的な凹溝によって構成されている。なお、本実施形態の底部凹溝74は、4つの直線的な凹溝で構成された第1の実施形態の底部凹溝54に比して、各直線凹溝の断面積が大きくされている。
【0049】
また、底部凹溝74の一方の端部は、側部凹溝76に接続されている。側部凹溝76は、下側嵌着凹所72の内周面に開口して上下方向に延びる直線的な凹溝であって、下側嵌着凹所72の内周面に形成されている。そして、側部凹溝76は、上端が外部に開口していると共に、下端が底部凹溝74に連接されている。なお、側部凹溝76においても、底部凹溝74と同様に、第1の実施形態に比して数が少なくなっていることから、各側部凹溝76の断面積が第1の実施形態の側部凹溝56よりも大きくされている。
【0050】
さらに、底部凹溝74の他方の端部は、排出孔78に接続されている。排出孔78は、第1の実施形態の排出孔40と同様の円形孔であって、下側嵌着凹所72の底面の中央に形成されて下側嵌着凹所72の底壁部を上下に貫通している。なお、本実施形態では、1つの排出孔78だけが形成されていることから、第1の実施形態の排出孔40に比して、大径とされており、水の排出効率が充分に確保されている。
【0051】
また、下側嵌着凹所72の底面は、4つの傾斜面80で構成されている。即ち、各傾斜面80は、略三角形の平面であって、下側嵌着凹所72の中央側に向かって次第に下傾している。そして、下側嵌着凹所72の底面は、4つの傾斜面80,80,80,80によって構成されて、逆向きの略四角錐形状とされており、その最下部(頂点)に排出孔78が貫通形成されている。なお、各傾斜面80は周方向に隣接する他の傾斜面80に対して谷状に繋がっており、それら隣接する傾斜面80,80の間に谷状部分としての谷線44が形成されている。
【0052】
このような第2の取付部材70を備えた本実施形態のエンジンマウントによれば、下側嵌着凹所72の底面が傾斜面42で構成されていることによって、下側嵌着凹所72内に入り込んだ水が最下部に設けられた排出孔78まで速やかに案内されて、排出孔78を通じて外部に排出される。しかも、本実施形態では、下側嵌着凹所72の底面が逆向きの錐形状とされており、最下部が線状ではなく点状とされていることから、下側嵌着凹所72に入った水が最下部に形成された排出孔78までより効率的に導かれて、速やかに外部に排出される。
【0053】
また、第2の取付部材70に本体ゴム弾性体16が組み付けられることにより、底部凹溝74の開口が本体ゴム弾性体16の底面で覆われて、本体ゴム弾性体16の底面と下側嵌着凹所72の底面との間に下方連通路60が形成されている。これにより、下側嵌着凹所72に入り込んだ水が底面の傾斜等によって下方連通路60に導かれて、下方連通路60を通じて排出孔78までより効率的に流動させられることにより、排水効率の向上が図られる。
【0054】
また、第2の取付部材70に本体ゴム弾性体16が組み付けられることにより、側部凹溝76の開口が本体ゴム弾性体16の外周面で覆われて、本体ゴム弾性体16の外周面と下側嵌着凹所72の内周面との間に側方連通路62が形成されている。これにより、下側嵌着凹所72の開口周縁部上の水が、側方連通路62を通じて下側嵌着凹所72内の下方連通路60に導き入れられる。そして、下方連通路60を通じて排出孔78から外部に排水されることにより、下側嵌着凹所72の開口周縁部に水が溜まるのを防いで、耐久性の更なる向上が実現される。
【0055】
また、下方連通路60と側方連通路62が、第2の取付部材70に形成された底部凹溝74と側部凹溝76を利用して形成されている。これにより、形状安定性に優れた下方連通路60と側方連通路62が実現されて、それら連通路60,62を通じての水の流動が安定して許容される。
【0056】
なお、図13に示されているような底部凹溝74および側部凹溝76を備えた第2の取付部材70を採用する場合には、本体ゴム弾性体16の底部凹溝54および側部凹溝56は、形成されていても良いが、省略することも可能である。また、底部凹溝と側部凹溝の何れか一方を本体ゴム弾性体に、何れか他方を第2の取付部材に形成することもできる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、嵌着凹所の底面は、前記第1,第2の実施形態に示された構造に限定されるものではなく、水平面に対して傾斜する複数の傾斜面で構成されて、谷状部分が形成されていれば良い。具体的には、例えば、谷状部分に向かって連続的に或いは段階的に傾斜角度が変化する傾斜面で構成されていても良い。
【0058】
また、下側嵌着凹所30(72)の底面の傾斜によって、本体ゴム弾性体16の底面と下側嵌着凹所30(72)の底面の間に充分な隙間が形成されて、排出孔40(78)までの水の流動が充分に許容されていれば、下方連通路60は省略されていても良い。
【0059】
また、谷状部分は、必ずしも谷線44のような線状ではなくても良く、例えば、所定の幅を有する溝状であっても良い。このような溝状の谷状部分を採用する場合には、側面と底面の境界が滑らかに繋げられていても良く、谷状の折れ線が形成されている必要はない。
【0060】
また、下方連通路60の断面形状や形成数,形成位置,延出経路等は、本体ゴム弾性体16の底面と下側嵌着凹所30(72)の底面の間に形成されており、且つその延出経路上に排出孔40(78)が位置していれば、何れも特に限定されない。同様に、側方連通路62についても、本体ゴム弾性体16の外周面と下側嵌着凹所30(72)の内周面の間に形成されて、一方の端部が下側嵌着凹所30(72)の開口周縁部に開口していれば、断面形状や形成数,形成位置,延出経路等について、何れも限定されるものではない。
【0061】
また、本発明は、エンジンマウントに好適に適用されるが、例えばボデーマウントやサブフレームマウント,デフマウント等への適用も可能である。更に、本発明は、自動車用の防振装置にのみ適用されるものではなく、自動二輪車や鉄道用車両,産業用車両等に用いられる防振装置に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
10:エンジンマウント(防振装置)、12:第1の取付部材、14,70:第2の取付部材、16:本体ゴム弾性体、30,72:下側嵌着凹所(嵌着凹所)、40,78:排出孔、42,80:傾斜面、44:谷線(谷状部分)、60:下方連通路、62:側方連通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の取付部材と第2の取付部材の間に本体ゴム弾性体が非接着で配設されて、それら第1の取付部材と第2の取付部材が該本体ゴム弾性体を介して連結されている防振装置において、
前記第2の取付部材には前記本体ゴム弾性体が嵌め込まれる嵌着凹所が設けられて、該嵌着凹所の内周面と該本体ゴム弾性体の外周面との間に側方連通路が形成されている一方、
該嵌着凹所の底面が水平面に対して傾斜する複数の傾斜面を谷状に組み合わせて構成されており、該本体ゴム弾性体の底面が少なくとも該嵌着凹所の底面の谷状部分に対して離隔していると共に、該嵌着凹所の底面の谷状部分には少なくとも最下部で該嵌着凹所の底面を貫通する排出孔が形成されていることを特徴とする防振装置。
【請求項2】
前記嵌着凹所の底面と前記本体ゴム弾性体の重ね合わせ面間には前記側方連通路と連続して延びる下方連通路が形成されており、該下方連通路が前記排出孔に連通されている請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記本体ゴム弾性体の底面が水平に広がっており、前記嵌着凹所の底面が該本体ゴム弾性体の底面に対して傾斜している請求項1又は2に記載の防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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