説明

防曇塗料組成物

【課題】塗料の塗装及び乾燥を行う際に湿度が高い場合でもブラッシングが抑制され、低温かつ短時間で加熱硬化させることができ、基材への密着性、耐熱性及び防曇性に優れた塗膜を得ることができる防曇塗料組成物を提供する。
【解決手段】防曇塗料組成物は、下記に示す単量体(A1)、単量体(A2)及び単量体(A3)を含む単量体混合物から形成される共重合体(A)と、アミン類等の塩基性化合物(B)と、陰イオン系界面活性剤等の界面活性剤(C)とを含有するものである。
単量体(A1):N−メチロール基又はN−アルコキシメチロール基を有するビニル系単量体、単量体(A2):スルホン酸基を有するビニル系単量体及び単量体(A3):アルキル(メタ)アクリレート系単量体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のヘッドランプ等の基材上に形成され、塗料の塗装及び乾燥を行う際に湿度が高い場合でもブラッシング等の問題が発生せず、低温かつ短時間で加熱硬化させることができ、基材への密着性、耐熱性及び防曇性に優れた塗膜を与えるための防曇塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のヘッドランプ等の車両灯具において、灯室内に高湿度の空気が入り込み、外気や降雨等によってレンズが冷やされ、内面に水分が結露することによって曇りが生じることがある。その結果、車両灯の輝度が低下し、またレンズ面の美観が損なわれることにより、ユーザーの不快感を引き起こす場合がある。このようなレンズの曇りを防ぐために、曇りが発生する部位に防曇塗料を塗布する方法が知られている。
【0003】
本願出願人は、既に次のような加熱硬化型防曇塗料組成物を提案した(特許文献1を参照)。即ち、この加熱硬化型防曇塗料組成物は、N−メチロール基、N−メチロールエーテル基、ヒドロキシル基のいずれかの架橋官能基を有する単量体、親水性単量体及び(メタ)アクリル酸低級アルキルより形成される親水性重合体部分と、スルホン酸基、カルボキシル基又はリン酸基を有するビニル系単量体及び(メタ)アクリル酸低級アルキルより形成される疎水性重合体部分とからなるブロック又はグラフト共重合体を含有する。この防曇塗料組成物によれば、高温環境下で優れた防曇性と密着性が維持される塗膜を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−212146号公報(第2頁、第3頁、第14頁〜第17頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載の防曇塗料組成物では、塗膜を80℃という低い温度で加熱硬化させるためには、60分という長い時間が必要であった。さらに、防曇塗料組成物を塗装する際の環境が相対湿度(RH)60%よりも高い場合には共重合体の疎水性重合体部分に起因するブラッシングが起こり、塗膜が白化しやすいという問題があった。ここで、ブラッシングとは、塗料の塗装及び乾燥を行う際の湿度が高い状態(例えば、相対湿度60%以上)のとき、空気中の水分の微粒子が塗装中及び乾燥中の塗膜表面に結露し、樹脂成分が凝集、析出したり、塗膜表面に凹凸が発生したりすることによって、塗膜が白化して見える現象のことを指す。
【0006】
そこで、本発明の目的とするところは、塗料の塗装及び乾燥を行う際に湿度が高い場合でもブラッシングが抑制され、低温かつ短時間で加熱硬化させることができ、基材への密着性、耐熱性及び防曇性に優れた塗膜を得ることができる防曇塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1の発明の防曇塗料組成物は、下記に示す単量体(A1)、単量体(A2)及び単量体(A3)を含む単量体混合物から形成される共重合体(A)と、塩基性化合物(B)と、界面活性剤(C)とを含有することを特徴とする。
【0008】
単量体(A1):N−メチロール基又はN−アルコキシメチロール基を有するビニル系単量体
単量体(A2):スルホン酸基を有するビニル系単量体
単量体(A3):アルキル(メタ)アクリレート系単量体
第2の発明の防曇塗料組成物は、第1の発明において、前記共重合体(A)を形成する単量体(A1)、単量体(A2)及び単量体(A3)の合計量100質量部に対して単量体(A1)が3〜20質量部、単量体(A2)が3〜20質量部及び単量体(A3)が60〜94質量部であり、かつ単量体(A1)及び単量体(A2)の合計量が6〜40質量部であると共に、塩基性化合物(B)が単量体(A2)のスルホン酸基に対して50〜95モル%であり、さらに界面活性剤(C)が共重合体(A)100質量部に対して0.5〜30質量部であることを特徴とする。
【0009】
第3の発明の防曇塗料組成物は、第1又は第2の発明において、前記単量体混合物にはN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド系単量体(A4)が含まれ、単量体(A3)及び単量体(A4)の合計量100質量部に対して単量体(A4)が5〜50質量部であることを特徴とする。
【0010】
第4の発明の防曇塗料組成物は、第1から第3のいずれか1項の発明において、塩基性化合物(B)の25℃における水溶液中での塩基解離定数が3〜14であることを特徴とする。
【0011】
第5の発明の防曇塗料組成物は、第1から第4のいずれか1項の発明において、塩基性化合物(B)の沸点が130〜1500℃であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
第1の発明の防曇塗料組成物では、共重合体を形成する単量体(A1)の性質に基づいて良好な硬化性が発現され、単量体(A2)の性質に基づいて低温での硬化性の促進とブラッシングの抑制が発現され、単量体(A3)の性質に基づいて基材との良好な密着性と耐熱性が発現される。さらに、塩基性化合物(B)の性質に基づいて単量体(A2)のスルホン酸基の一部が中和されて共重合体の親水性が高められ、さらにブラッシングの抑制効果が高められるうえ、スルホン酸基に起因する高温環境下での塗膜の酸化劣化が抑制されて、優れた耐熱性が発現される。また、界面活性剤(C)の界面活性作用によって塗膜表面に付着した水分の表面張力を低下させて水膜を形成させることにより良好な防曇性が発現される。
【0013】
従って、防曇塗料組成物は、塗料の塗装及び乾燥を行う際に湿度が高い場合でもブラッシングが抑制され、低温かつ短時間での加熱硬化性に優れると共に、得られる塗膜は基材への優れた密着性、耐熱性及び防曇性を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
<防曇塗料組成物>
本実施形態の防曇塗料組成物は、下記に示す単量体(A1)、単量体(A2)及び単量体(A3)を含む単量体混合物から形成される共重合体(A)と、塩基性化合物(B)と、界面活性剤(C)とを含有するものである。
【0015】
単量体(A1):N−メチロール基(−NHCHOH)又はN−アルコキシメチロール基〔−NHCHOR、但しRはアルキル基〕を有するビニル系単量体
単量体(A2):スルホン酸基(スルホ基、−SOH)を有するビニル系単量体
単量体(A3):アルキル(メタ)アクリレート系単量体
この防曇塗料組成物は例えばヘッドランプ等の車両灯具の防曇塗料として好適に用いられるものである。該防曇塗料組成物は、高湿度環境下での塗装及び乾燥時にブラッシング等の問題が発生せず、低温かつ短時間での加熱硬化性に優れている。そして、防曇塗料組成物を加熱硬化させて得られる塗膜は、基材(被塗装物)への密着性、耐熱性及び防曇性に優れている。
【0016】
以下、防曇塗料組成物の構成要素について順に説明する。
〔共重合体(A)〕
[単量体(A1)]
まず、共重合体を形成する単量体(A1)即ちN−メチロール基又はN−アルコキシメチロール基を有するビニル系単量体について説明する。該単量体(A1)は、脱水縮合反応、脱アルコール縮合反応により分子間を架橋させて共重合体に架橋構造を形成するためのビニル系単量体である。単量体(A1)がこのような架橋性官能基を有することにより、共重合体の製造後に加熱することによって共重合体に架橋構造を形成することができる。また、この縮合反応は酸触媒によって促進される。
【0017】
単量体(A1)としては、例えばN−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらの単量体(A1)は、1種又は2種以上が選択して使用される。これらの単量体の中で、防曇塗料組成物の保存安定性に優れ、低温での加熱硬化性に優れるという観点から、N−メチロール(メタ)アクリルアミドが特に好ましい。
【0018】
単量体(A1)の含有量は、単量体(A1)、(A2)及び(A3)の合計100質量部中に、好ましくは3〜20質量部、より好ましくは5〜15質量部である。単量体(A1)の含有量が3質量部より少ない場合には、共重合体の低温での硬化性が低下し、硬化時間が長くなる。その一方、20質量部より多い場合には、共重合体の架橋密度が高くなって塗膜の防曇性が低下し、かつ高温環境下に置かれた場合に架橋反応が経時的に進行し、さらなる防曇性の低下を招くおそれがある。
[単量体(A2)]
続いて、単量体(A2)即ちスルホン酸基を有するビニル系単量体について説明する。該単量体(A2)は、前記単量体(A1)の縮合反応を低温で促進させるための酸触媒としての機能と、共重合体の親水性を高め、高湿度環境下で塗装及び乾燥を行った場合にブラッシングを抑制し、良好な塗膜外観を与えるための機能を有する。
【0019】
単量体(A2)としては、例えば(メタ)アクリル酸−3−スルホプロピル、(メタ)アクリル酸−2−スルホエチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、メタリルスルホン酸等が挙げられる。これらの単量体(A2)は、1種又は2種以上が選択して使用される。
【0020】
これらの単量体の中で、単量体(A1)との共重合性に優れるという観点から、(メタ)アクリル酸−3−スルホプロピル及び(メタ)アクリル酸−2−スルホエチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が好ましい。
【0021】
単量体(A2)の含有量は、単量体(A1)、(A2)及び(A3)の合計100質量部中に、好ましくは3〜20質量部、より好ましくは5〜15質量部である。単量体(B)の含有量が3質量部より少ない場合には、単量体(A)の縮合反応の酸触媒としての効果が十分ではなく、共重合体の低温での硬化性が低下し、硬化時間が長くなる傾向にある。さらに、共重合体の親水性が不足することによって、高湿度環境下で塗装及び乾燥を行った場合にブラッシングが発生するおそれがある。一方、単量体(B)の含有量が20質量部より多い場合には、共重合体の極性が極端に高くなり、塗膜と基材との親和性が低くなる結果、密着性が低下する傾向にあるうえ、スルホン酸基に起因する高温環境下での塗膜の酸化劣化が起こりやすくなり、耐熱性が低下する傾向にある。
[単量体(A3)]
続いて、単量体(A3)であるアルキル(メタ)アクリレート系単量体について説明する。この単量体(A3)は、塗膜の耐熱性を高め、かつ塗膜と基材との親和性を高めて良好な密着性を与えるための成分である。アルキル(メタ)アクリレート系単量体とは、(メタ)アクリル酸の直鎖、分岐又は環状のアルキルエステルである。
【0022】
該単量体(A3)としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの単量体(A3)は、1種又は2種以上が選択して使用される。
【0023】
これらのアルキル(メタ)アクリレート系単量体の中では、低級アルキル(メタ)アクリレート系単量体が好ましい。低級アルキル(メタ)アクリレート系単量体とは、アルキル(メタ)アクリレート系単量体のうちアルキルエステルのアルキル基の炭素数が1〜4のものを指す。さらに好ましくは、アルキルエステルのアルキル基の炭素数が1又は2の低級アルキル(メタ)アクリレートである。アルキルエステルのアルキル基の炭素数が5以上であるアルキル(メタ)アクリレート系単量体を使用した場合、共重合体の親水性が低下し、高湿度環境下で塗装及び乾燥を行った場合にブラッシングが発生しやすくなる傾向にある。
【0024】
単量体(A3)の含有量は、単量体(A1)、(A2)及び(A3)の合計100質量部中に、好ましくは60〜94質量部、より好ましくは70〜90質量部である。単量体(A3)の含有量が60質量部より少ない場合、単量体(A1)及び(A2)の割合が多くなるため塗膜と基材との密着性が低下する。一方、94質量部より多い場合、単量体(A1)及び(A2)の割合が少なくなるため共重合体の低温での硬化性が低下し、硬化時間が長くなる傾向にある。
[その他のビニル系単量体]
前記単量体(A1)、単量体(A2)及び単量体(A3)以外にも共重合体を形成するための単量体としてさらにその他のビニル系単量体を使用することができる。そのようなその他のビニル系単量体としては、単量体(A1)〜(A3)と共重合が可能であれば特に制限されない。
【0025】
その他のビニル系単量体の具体例としては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;(メトキシ)ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メトキシ)ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(エトキシ)ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(エトキシ)ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキレングリコール(メタ)アクリレート系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン付加物等のヒドロキシル基含有ビニル系単量体;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、マレイン酸半エステル等のカルボキシル基含有単量体及びそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルピペリジン、(メタ)アクロイルモルホリン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ビニルピリジン等の窒素原子含有ビニル系単量体等が挙げられる。これらのビニル系単量体は、1種又は2種以上が選択して使用される。
[単量体(A4)]
その他のビニル系単量体の中では、耐熱性に優れ、親水性が高く、ブラッシングの抑制効果が良好であるという点から、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等のN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド系単量体(A4)が好ましい。この単量体(A4)は、1種又は2種以上が選択して使用される。単量体(A4)の含有量は単量体(A3)及び単量体(A4)の合計100質量部中5〜50質量部が好ましい。
【0026】
また、基材への密着性及び耐熱性に優れる点に加えて、共重合体の親水性を向上させ、ブラッシングを抑制することができるという点から、低級アルキル(メタ)アクリレート系単量体(A3)とN,N−ジアルキルアクリルアミド系単量体(A4)とを組み合わせて使用することがさらに好ましい。
【0027】
低級アルキル(メタ)アクリレート系単量体とN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド系単量体とを組み合わせて使用する場合、低級アルキル(メタ)アクリレート系単量体とN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド系単量体との合計100質量部中に、低級アルキル(メタ)アクリレート系単量体の含有量が50〜90質量部、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド系単量体の含有量が残部となる範囲にあることが好ましい。低級アルキル(メタ)アクリレート系単量体が50質量部よりも少ない場合、共重合体の親水性が著しく高くなるため、十分な架橋度を得るための硬化時間が長くなる傾向にある。一方、低級アルキル(メタ)アクリレート系単量体が90質量部よりも多い場合、共重合体の親水性を高める効果が低くなり、ブラッシングの抑制効果が低下する傾向にある。
[共重合体(A)の製造方法]
共重合体(A)は、前述の単量体(A1)、(A2)、(A3)及び必要により単量体(A4)を含む単量体混合物を共重合することにより得られる。共重合体の構造としては、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体及びグラフト共重合体のいずれの構造であってもよいが、防曇性をはじめとする防曇塗料組成物の効果を向上させることができると共に、防曇塗料組成物を容易に調製することができるという観点からランダム共重合体が好ましい。共重合体を得るための重合方法としては、ラジカル重合法、カチオン重合法、アニオンリビング重合法、カチオンリビング重合法等の公知の各種重合方法が採用されるが、特に工業的な生産性の容易さ、多義にわたる性能面より、ラジカル重合法が好ましい。ラジカル重合法としては、通常の塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法、乳化重合法等が採用されるが、重合後にそのまま塗料として使用することができる点で溶液重合法が好ましい。
【0028】
そこで、溶液重合法による製造方法について以下に説明する。
重合溶媒について、著しい高沸点を有する溶媒は、塗膜の乾燥、加熱硬化時における溶媒の残留によって基材に対する塗膜の密着性を損なう場合もあり、180℃未満の沸点を有する溶媒を使用することが好ましい。そのような溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のアルコールエーテル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、水等が使用される。これらの重合溶媒は1種又は2種以上が組み合わせて使用される。
【0029】
単量体(A1)、(A2)、(A3)及び必要により単量体(A4)の総量と重合反応に使用する重合溶媒の合計100質量部中、単量体の総量は50質量部以下であることが好ましい。単量体の割合が50質量部を超える場合、重合発熱が大きくなり、工業的な製造が難しくなる傾向にある。
【0030】
ラジカル重合開始剤としては、一般的に使用される有機過酸化物、アゾ化合物等を使用することができる。有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−ヘキサノエートレート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等が挙げられる。アゾ化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル等が挙げられる。ラジカル重合開始剤の添加量は、単量体(A1)、(A2)、(A3)及び必要により単量体(A4)の合計100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましい。ラジカル重合開始剤は、反応容器中に滴下しながら重合を行うことが重合発熱を制御しやすくなる点で好ましい。重合反応を行う温度は、使用するラジカル重合開始剤の種類によって適宜変更されるが、工業的に製造を行う上で好ましくは30〜150℃、より好ましくは40〜100℃である。
〔塩基性化合物(B)〕
次に、塩基性化合物(B)について説明する。該塩基性化合物は前記単量体(A2)のスルホン酸基の一部を中和するための成分である。単量体(A2)のスルホン酸基の一部が塩基性化合物(B)によって中和されることにより、共重合体の親水性が高められ、さらにブラッシングの抑制効果が高くなるうえ、スルホン酸基に起因する高温環境下での塗膜の酸化劣化が抑制されて、耐熱性を向上させることができる。
【0031】
塩基性化合物(B)としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、アニリン、α−ナフチルアミン、ベンジルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、イミダゾール等が挙げられる。これらの塩基性化合物(B)は、1種又は2種以上が選択して使用される。
【0032】
また、塩基性化合物(B)は、塗膜の加熱硬化時にスルホン酸基と解離しやすく、スルホン酸基の酸触媒としての作用を阻害しにくいという点から、25℃における水溶液中での塩基解離定数(以下、pKbと略記する)は3〜14であることが好ましく、4〜14であることがさらに好ましい。そのような塩基性化合物(B)としては、例えばアンモニア(pKb=4.7)、メチルアミン(pKb=3.5)、ジメチルアミン(pKb=3.4)、トリメチルアミン(pKb=3.2)、エチルアミン(pKb=3.5)、ジエチルアミン(pKb=3.4)、トリエチルアミン(pKb=3.2)、モノエタノールアミン(pKb=4.5)、ジエタノールアミン(pKb=5.1)、トリエタノールアミン(pKb=6.2)、ジメチルアミノエタノール(pKb=4.1)、ジエチルアミノエタノール(pKb=4.1)、アニリン(pKb=4.6)、α−ナフチルアミン(pKb=10.1)、ベンジルアミン(pKb=4.6)、ピリジン(pKb=8.8)、2,6−ルチジン(pKb=8.0)、イミダゾール(pKb=7.1)等が挙げられる。
【0033】
さらに、塩基性化合物(B)は、スルホン酸基に起因する高温環境下での塗膜の酸化劣化を抑制する効果が高いという点から、130〜1500℃の沸点を有し、高温環境下での揮発性が低いものであることが好ましく、150〜1500℃の沸点を有するものがさらに好ましい。そのような塩基性化合物(B)としては、例えば水酸化ナトリウム(沸点1390℃)、水酸化カルシウム(融点580℃で分解)、モノエタノールアミン(沸点172℃)、ジエタノールアミン(沸点217℃)、トリエタノールアミン(沸点335℃)、ジメチルアミノエタノール(沸点144℃)、ジエチルアミノエタノール(沸点163℃)、アニリン(沸点184℃)、α−ナフチルアミン(沸点301℃)、ベンジルアミン(沸点183℃)、2,6−ルチジン(沸点144℃)、イミダゾール(沸点256℃)等が挙げられる。
【0034】
塩基性化合物(B)としては、25℃における水溶液中でのpKbが3〜14であり、かつ沸点が130〜1500℃である化合物が一層好ましい。そのような塩基性化合物(B)としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、イミダゾール等が挙げられる。
【0035】
そして、塩基性化合物(B)として最も好ましいものは、25℃における水溶液中でのpKbが4〜14であり、かつ沸点が150〜1500℃の化合物である。そのような塩基性化合物(B)としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチルアミノエタノール、イミダゾール等が挙げられる。
【0036】
塩基性化合物(B)の含有量は、単量体(A2)のスルホン酸基に対して好ましくは50〜95モル%、より好ましくは60〜90モル%である。塩基性化合物(B)の含有量が50モル%よりも少ない場合、共重合体の親水性及び耐熱性を向上させる効果が低くなる。一方、95モル%よりも多い場合、スルホン酸基の酸触媒としての機能が低下し、共重合体の低温での硬化性が著しく低下するため好ましくない。
【0037】
塩基性化合物(B)による単量体(A2)のスルホン酸基の中和方法としては、共重合体を溶剤に溶解したその中に塩基性化合物(B)を加える方法と、共重合体を製造する際に単量体と一緒に塩基性化合物(B)を加える方法のいずれでもよい。これらの方法のうち、単量体(A2)が塩基性化合物(B)で中和されることによって、酸性度が低下し、重合溶媒への溶解性が良好になると共に、反応容器を腐食し難くなるため、後者の方法が好ましい。
〔界面活性剤(C)〕
次に、界面活性剤(C)について説明する。該界面活性剤(C)は塗膜表面に付着した水分の表面張力を低下させ、塗膜表面に水膜を形成させることにより防曇性を向上させるための成分である。界面活性剤(C)としては、従来公知のものを全て使用することができ、例えば非イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤及び両性イオン系界面活性剤等が挙げられる。これらのうち、効果の持続性の点から、陰イオン系界面活性剤を少なくとも1種以上含んでいることが好ましい。
【0038】
非イオン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンラウリルアルコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレン高級アルコールエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェノール、ポリオキシエチレンノニルフェノール等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレングリコールモノステアレート等のポリオキシエチレンアシルエステル類、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル等のリン酸エステル類、シュガーエステル類、セルロースエーテル類等が使用される。
【0039】
陰イオン系界面活性剤としては、例えばオレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム等の脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等の高級アルコール硫酸エステル類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩及びアルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ジアルキルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンサルフェート塩等が使用される。
【0040】
陽イオン系界面活性剤としては、例えばエタノールアミン類、ラウリルアミンアセテート、トリエタノールアミンモノ蟻酸塩、ステアラミドエチルジエチルアミン酢酸塩等のアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩等が使用される。
【0041】
両性イオン系界面活性剤としては、例えばジメチルアルキルラウリルベタイン、ジメチルアルキルステアリルベタイン等の脂肪酸型両性イオン系界面活性剤、ジメチルアルキルスルホベタインのようなスルホン酸型両性イオン系界面活性剤、アルキルグリシン等が使用される。
【0042】
これら界面活性剤(C)の含有量は、前記共重合体100質量部に対して好ましくは0.5〜30質量部、より好ましくは1〜20質量部である。界面活性剤(C)の含有量が0.5質量部に満たない場合、長期にわたる塗膜の防曇持続性が得られ難くなる。一方、30質量部を超える場合、塗膜の外観や密着性が低くなると共に、塗膜の耐水性が低くなる傾向を示す。共重合体と界面活性剤(C)との混合方法としては、共重合体を溶剤に溶解してその中に界面活性剤(C)を加えてもよく、また共重合体を製造する際に単量体と一緒に界面活性剤(C)を加えてもよい。
〔その他の成分〕
防曇塗料組成物には、その他の成分として必要によりレベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、硬化触媒等の慣用の各種添加剤を配合することができる。これらその他の成分の添加量は、それぞれの添加剤につき慣用的な添加量で配合することができる。
〔防曇塗料組成物の調製〕
防曇塗料組成物は前記単量体の共重合によって得られた共重合体の溶液を、塗装に適した粘度調整を目的として、一般的に溶剤を加えて溶解、分散又は希釈をすることによって製造される。共重合体溶液に加える溶剤について、著しい高沸点を有する溶剤は、塗膜の乾燥、加熱硬化時における溶剤の残留によって基材に対する塗膜の密着性を損なう場合もあるため、180℃未満の沸点を有する溶剤を使用することが好ましい。
【0043】
そのような溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のアルコールエーテル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤;n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン等の炭化水素系溶剤、水等が挙げられる。これらの溶剤は1種又は2種以上が組み合わせて使用される。
〔塗装物品〕
前述の防曇塗料組成物を用いて形成される塗装物品について説明する。該塗装物品は、防曇塗料組成物を基材である被塗装物に塗布、乾燥し、次いで60〜150℃の温度で5〜60分間加熱硬化することによって被塗装物表面に塗膜が形成されたものである。
【0044】
塗膜の具体的な形成方法として、まず防曇塗料組成物を通常の塗料において行われる塗装方法により被塗装物に塗装する。この際、被塗装物に対する防曇塗料組成物の濡れ性を高め、はじきを防止する目的で、塗装前における被塗装物表面の付着異物除去や脱脂、洗浄を行うことが好ましい。具体的には高圧エアやイオン化エアによる除塵、洗剤水溶液又はアルコール溶剤による超音波洗浄、アルコール溶剤等を使用したワイピング、紫外線とオゾンによる洗浄等が挙げられる。塗装方法としては浸漬法、フローコート法、ロールコート法、バーコート法、スプレーコート法等が適している。
【0045】
塗装後、20〜50℃の温度で0.5〜5分間塗膜中に含まれる溶剤を揮発乾燥させる。次いで、60〜150℃の温度で5〜60分間、望ましくは70〜130℃の温度で10〜40分間加熱硬化することによって塗膜が形成される。このとき、共重合体に含まれる単量体(A1)のN−メチロール基又はN−アルコキシメチロール基の脱水縮合反応又は脱アルコール縮合反応が、単量体(A2)のスルホン酸基によって促進されて進行し、共重合体に架橋構造が形成される。但し、被塗装物が合成樹脂材料である場合には、硬化温度を合成樹脂材料の熱変形温度以下に設定することが必要である。
【0046】
防曇塗料組成物によって被塗装物上に形成される塗膜の膜厚は、良好な防曇性と塗膜外観を得るために0.5〜20μmであることが好ましく、1〜10μmであることがさらに好ましい。この膜厚が0.5μmより薄い場合には塗膜の防曇性が低下する傾向にあり、20μmを超える場合には塗膜外観が悪くなる傾向にある。
【0047】
防曇塗料組成物が塗装される被塗装物としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等の透明樹脂のフィルム、板材、成形品及びその加工品が好適に使用される。この被塗装物としては、車両灯具が特に好ましい。車両灯具として具体的には、前照灯、補助前照灯、車幅灯、番号灯、尾灯、駐車灯、制動灯、後退灯、方向指示灯、補助方向指示灯、非常点滅表示灯等が挙げられる。
<実施形態における効果のまとめ>
(1) 実施形態の防曇塗料組成物では、単量体(A1)の性質によって良好な硬化性が発現され、単量体(A2)の性質によって低温での硬化性の促進とブラッシングの抑制が発現され、単量体(A3)の性質によって基材との良好な密着性と耐熱性が発現される。さらに、塩基性化合物(B)の性質によって単量体(A2)のスルホン酸基の一部が中和されて共重合体の親水性が高められ、加えてブラッシングの抑制効果が高められるうえ、スルホン酸基に起因する高温環境下での塗膜の酸化劣化が抑制されて、優れた耐熱性が発現される。また、界面活性剤(C)の界面活性作用によって塗膜表面に付着した水分の表面張力を低下させて水膜を形成させることにより良好な防曇性が発現される。
【0048】
従って、防曇塗料組成物は、塗料の塗装及び乾燥を行う際に湿度が高い場合でもブラッシングが抑制され、低温かつ短時間での加熱硬化性に優れると同時に、得られる塗膜は基材への優れた密着性、耐熱性及び防曇性を発揮することができる。
【0049】
(2) また、単量体(A1)、単量体(A2)及び単量体(A3)の合計量100質量部に対して単量体(A1)が3〜20質量部、単量体(A2)が3〜20質量部及び単量体(A3)が60〜94質量部、かつ単量体(A1)及び単量体(A2)の合計量が6〜40質量部に設定されている。このため、単量体(A1)に基づく硬化性が、単量体(A2)に基づく触媒機能によって高められると共に、単量体(A2)に基づく親水性によって塗装時のブラッシングを抑制することができる。なおかつ、単量体(A3)の含有量も十分であるため、塗膜の良好な耐熱性と密着性を発揮することができる。
【0050】
さらに、塩基性化合物(B)が単量体(A2)のスルホン酸基に対して50〜95モル%に設定されている。このため、共重合体の親水性を高めてブラッシングを十分に抑制することができると共に、該スルホン酸基の触媒機能が十分に保たれるうえ、スルホン酸基に起因する高温環境下での塗膜の酸化劣化を抑制し、耐熱性を向上させることができる。
【0051】
その上、界面活性剤(C)が共重合体(A)100質量部に対して0.5〜30質量部に設定されていることから、塗膜表面に付着した水分の表面張力を低下させ、水膜を形成させるのに十分な効果を発揮することができる。
【0052】
(3) 単量体混合物にはN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド系単量体(A4)が含まれ、単量体(A3)及び単量体(A4)の合計量100質量部に対して単量体(A4)が5〜50質量部に設定されている。このため、ブラッシングの抑制効果を一層大きくすることができると共に、塗膜の耐熱性を向上させることができる。
【0053】
(4) 塩基性化合物(B)の25℃における水溶液中での塩基解離定数pKbが3〜14であることにより、塗膜の加熱硬化時にスルホン酸基と塩基性化合物が解離しやすく、スルホン酸基の酸触媒としての作用を十分に発揮することができる。
【0054】
(5) 塩基性化合物(B)の沸点が130〜1500℃であることにより、高温環境下での揮発性が低くなり、スルホン酸基に起因する高温環境下での塗膜の酸化劣化を抑制する効果の持続性が高くなり、耐熱性を一層高めることができる。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
〔実施例1〕
攪拌装置、窒素導入管及び冷却管を備えた反応容器に、重合溶媒としてのn−プロパノール(以下、NPAと略記する)240gと、単量体(A1)としてのN−メチロールアクリルアミド(以下、N−MAAと略記する)10gと、単量体(A2)としての2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(以下、AMPSと略記する)10gと、単量体(A3)としてのメチルメタクリレート(以下、MMAと略記する)60g、n−ブチルアクリレート(以下、BAと略記する)20g及び単量体(A4)としてのN,N−ジメチルアクリルアミド(以下、DMAAと略記する)20gと、塩基性化合物(B)としてのトリエタノールアミン(表1参照、25℃における水溶液中での塩基解離定数pKb=6.2、沸点335℃)5.04g(単量体(A2)としてのAMPSのスルホン酸基に対して70モル%に相当する量、計算方法;{AMPS仕込量}÷AMPSのモル質量×70%÷100×{トリエタノールアミンのモル質量}=10÷207.4×70÷100×149.2=5.04)とを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら65℃に加熱した。
【0056】
そこへ、ラジカル重合開始剤としてt−ヘキシルペルオキシピバレートの炭化水素希釈品〔日油(株)製の商品名:パーヘキシルPV〕1gをNPA40gに溶解させたものを3時間かけて滴下した。さらに5時間重合を行った後、80℃に昇温し、その温度で1時間重合を行って、共重合体の濃度が30質量%の溶液を得た。
【0057】
上記共重合体溶液333.3g(共重合体として100g)にNPA266.7g、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、PGMと略記する)400gを加えて共重合体濃度を10質量%に調整し、界面活性剤(C)としてジ2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム〔日油(株)製の商品名:ラピゾールA−80(有効成分80質量%)〕10g(純品換算すると8g)と、レベリング剤としてポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン〔ビックケミー・ジャパン(株)製の商品名:BYK333〕0.1gとを混合し、防曇塗料組成物を得た。
【0058】
この防曇塗料組成物について、下記に説明する防曇塗料組成物の評価方法で評価して得られた結果を表2に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

(1)耐ブラッシング性の評価
30℃、60〜90%RHの任意の相対湿度に設定した環境下で、上記防曇塗料組成物をポリカーボネート樹脂板に硬化後の塗膜の膜厚が2〜3μmとなるようにスプレーコート法にて塗装を行い、塗装後そのまま30分間同じ環境下に放置した。次いで、80℃で10分間加熱硬化を行い、塗膜試験片を得た。相対湿度RHを60〜90%の範囲で変化させ、それぞれの相対湿度において上記の方法で作製した塗膜を目視により観察し、白化等の外観異常がみられない最大の相対湿度を測定し、次の四段階で評価した。なお、評価が△以上であれば実用上問題なく、○であればより好ましく、◎であれば非常に好ましい。
【0061】
◎:相対湿度90%に設定した環境下で無色透明の塗膜が得られる。
○:相対湿度80%に設定した環境下で無色透明の塗膜が得られる。
△:相対湿度70%に設定した環境下で無色透明の塗膜が得られる。
【0062】
×:相対湿度60%に設定した環境下で無色透明の塗膜が得られる。
(2)必要硬化時間の評価
上記防曇塗料組成物をポリカーボネート樹脂板に硬化後の塗膜の膜厚が2〜3μmとなるようにスプレーコート法にて塗装を行い、30℃で1分間乾燥を行った後、80℃で10〜90分間の任意の時間加熱硬化を行い、塗膜試験片を得た。硬化時間を10分、20分、40分、60分及び最大で90分の範囲で変化さ、得られた塗膜を40℃の温水に240時間浸漬後、室温にて1時間乾燥した後の塗膜外観を目視によって評価した。上記温水浸漬後の塗膜外観が試験前と変化がない最小の硬化時間を必要硬化時間とした。なお、必要硬化時間が40分以内であれば実用上問題なく、20分以内であればより好ましく、10分以内であれば非常に好ましい。
(3)塗膜性能の評価
上記防曇塗料組成物をポリカーボネート樹脂板及びアクリル樹脂板に硬化後の塗膜の膜厚が2〜3μmとなるようにスプレーコート法にて塗装を行い、30℃で1分間乾燥を行った後、80℃で上記必要硬化時間の加熱硬化を行い、塗膜試験片を得た。
(密着性(PC))
上記ポリカーボネート樹脂(PC)板に形成させた塗膜試験片につき、塗膜の縦1cm、横1cmの領域を縦横それぞれ1mm間隔でカットし、100個のます目を作った。そのます目の表面にセロハンテープを圧着させ、急激に剥がした際の外観を目視にて観察し、次の4段階で評価した。なお、評価が△以上であれば実用上問題なく、○であればより好ましく、◎であれば非常に好ましい。
【0063】
◎:全く剥離を生じない。
○:カットの交差点において、わずかに剥離が認められる。
△:一部に剥離が認められる。
【0064】
×:全て剥離している。
(密着性(PMMA))
樹脂板をアクリル樹脂(PMMA)板に変更した以外は、上記密着性(PC)と同様にして評価を行った。
(防曇性)
上記ポリカーボネート樹脂板又はアクリル樹脂板に形成させた塗膜試験片を80℃に保った温水浴の水面から5cmの高さの所に、試験片を塗膜面が下になるように設置し、温水浴からのスチームを塗膜に連続照射し、照射から10秒後の曇りの有無を目視によって次の5段階で評価した。なお、評価が△以上であれば実用上問題なく、○であればより好ましく、◎であれば非常に好ましい。
【0065】
◎:曇りが全く認められない。
○:スチームを照射した直後に、わずかにかつ一瞬だけ曇るが、その後は曇りが認められない。
【0066】
△:わずかに曇りが認められるか、又は曇りは認められないが塗膜表面が平滑ではなく荒れた状態である。
×:はっきりと曇りが認められる。
【0067】
××:塗膜が硬化不足であるため、スチームを照射した直後に塗膜が白化する。
(耐熱性)
上記ポリカーボネート樹脂板に形成させた塗膜試験片を120℃雰囲気下に240時間放置後、室温にて1時間冷却した。冷却後に前記防曇性試験を実施して同様の評価を行った。
〔実施例2〜8〕
塩基性化合物(B)の種類と単量体(A2)のスルホン酸基に対する添加量を表2のように変更した以外は、実施例1と同様にして共重合体溶液を調製し、次いで防曇塗料組成物を製造し、それぞれにつき評価を行った結果を表2に示す。なお、各実施例で使用した塩基性化合物(B)の物性を表1に示す。
〔実施例9〜17〕
表3に示す成分及びその配合比に変更したこと以外は、実施例1と同様にして共重合体溶液を調製し、次いで防曇塗料組成物を製造し、それぞれにつき評価を行った結果を表3に示す。
【0068】
【表3】

なお、表2及び表3における略号は、以下の意味を表す。
【0069】
N−MAA:N−メチロールアクリルアミド
AMPS:2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸
MMA:メチルメタクリレート
2−EHMA:2−エチルヘキシルメタクリレート
BA:n−ブチルアクリレート
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド
NPA:n−プロパノール
PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル
表2に示したように、実施例1、2の防曇塗料組成物は、塩基性化合物(B)として前記pKbがそれぞれ6.2、7.1、沸点がそれぞれ335℃、256℃であるトリエタノールアミン又はイミダゾールを使用し、共重合体の組成や各成分の含有量がより好ましい範囲にある。そのため、非常に優れた耐ブラッシング性を有し、低温かつ短時間で加熱硬化させることができ、非常に優れた塗膜性能を有していた。実施例3の防曇塗料組成物は、塩基性化合物(B)としてpKbが4.1、沸点が144℃であるジメチルアミノエタノールを使用したものであり、実施例1の場合よりも塩基性化合物(B)の沸点が低いため、実施例1と比較すると耐熱性がわずかに劣っていた。
【0070】
実施例4では、塩基性化合物(B)としてpKbが8.8、沸点が115℃であるピリジンを使用したものであり、実施例1の場合よりも塩基性化合物(B)の沸点が低いため、実施例1と比較して耐熱性が劣っていたが、実用上問題はなかった。実施例5では、塩基性化合物(B)としてpKbが3.2、沸点が90℃であるトリエチルアミンを使用したものであり、実施例1の場合よりも塩基性化合物(B)のpKbがわずかに小さいため、実施例1と比較して必要硬化時間がわずかに長くなった。さらに、実施例1の場合よりも塩基性化合物(B)の沸点が低いため、実施例1と比較して耐熱性が劣っていたが、実用上問題はなかった。
【0071】
実施例6では、塩基性化合物(B)としてpKbが0.2、沸点が1390℃である水酸化ナトリウムを使用したものであり、実施例1の場合よりも塩基性化合物(B)のpKbが小さいため、実施例1と比較して必要硬化時間が長くなったが、実用上問題はなかった。実施例7では、塩基性化合物(B)であるトリエタノールアミンの使用量が好ましい範囲の下限値であるため、実施例1の場合よりも耐ブラッシング性がわずかに劣り、耐熱性が劣っていたが、実用上問題はなかった。実施例8では、塩基性化合物(B)であるトリエタノールアミンの使用量が好ましい範囲の上限値であるため、実施例1の場合よりも必要硬化時間が長くなったが、実用上問題はなかった。
【0072】
表3に示したように、実施例9では、単量体(A1)の含有量が好ましい範囲の下限値であるため、共重合体の硬化性が低下し、必要硬化時間がわずかに長くなった。実施例10では、単量体(A1)の含有量が好ましい範囲の上限値であるため、共重合体の架橋密度が高くなって塗膜の防曇性が低下し、かつ耐熱性が低下したが、実用上問題はなかった。実施例11では、単量体(A2)の含有量が好ましい範囲の下限値であるため、共重合体の親水性と硬化性が低下し、耐ブラッシング性の低下がみられ、必要硬化時間がわずかに長くなったが、実用上問題はなかった。実施例12では、単量体(A2)の含有量が好ましい範囲の上限値であるため、共重合体の極性が高くなって塗膜と基材との親和性が低下した結果、密着性の低下がみられ、かつ耐熱性が低下したが、実用上問題はなかった。
【0073】
実施例13では、単量体(A1)及び単量体(A2)の合計量が好ましい範囲の下限値であり、単量体(A3)の含有量が好ましい範囲の上限値であるため、共重合体の親水性と硬化性が低下し、耐ブラッシング性の低下がみられ、必要硬化時間が長くなったが、実用上問題はなかった。実施例14では、単量体(A1)及び単量体(A2)の合計量が好ましい範囲の上限値であり、単量体(A3)の含有量が好ましい範囲の下限値である。そのため、共重合体の極性が高くなって塗膜と基材との親和性が低下した結果、密着性の低下がみられ、防曇性が低下し、かつ共重合体の架橋密度が高くなって塗膜の防曇性が低下し、しかも耐熱性が低下したが、実用上問題はなかった。
【0074】
実施例15では、実施例1の単量体(A3)として使用したMMA(アルキルエステルのアルキル基の炭素数が1)を2−EHMAに(アルキルエステルのアルキル基の炭素数が8)変更したことによって共重合体の親水性が低下し、耐ブラッシング性が低下したが、実用上問題はなかった。実施例16では、界面活性剤(C)の含有量が好ましい範囲の下限値であるため、実施例1と比較して水膜を形成させる能力が低く、防曇性が低下したが、実用上は問題がなかった。実施例17では、界面活性剤(C)の含有量が好ましい範囲の上限値であるため、実施例1と比べて密着性が低下したが、実用上は問題がなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記に示す単量体(A1)、単量体(A2)及び単量体(A3)を含む単量体混合物から形成される共重合体(A)と、塩基性化合物(B)と、界面活性剤(C)とを含有することを特徴とする防曇塗料組成物。
単量体(A1):N−メチロール基又はN−アルコキシメチロール基を有するビニル系単量体
単量体(A2):スルホン酸基を有するビニル系単量体
単量体(A3):アルキル(メタ)アクリレート系単量体
【請求項2】
前記共重合体(A)を形成する単量体(A1)、単量体(A2)及び単量体(A3)の合計量100質量部に対して単量体(A1)が3〜20質量部、単量体(A2)が3〜20質量部及び単量体(A3)が60〜94質量部であり、かつ単量体(A1)及び単量体(A2)の合計量が6〜40質量部であると共に、塩基性化合物(B)が単量体(A2)のスルホン酸基に対して50〜95モル%であり、さらに界面活性剤(C)が共重合体(A)100質量部に対して0.5〜30質量部であることを特徴とする請求項1に記載の防曇塗料組成物。
【請求項3】
前記単量体混合物にはN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド系単量体(A4)が含まれ、単量体(A3)及び単量体(A4)の合計量100質量部に対して単量体(A4)が5〜50質量部であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防曇塗料組成物。
【請求項4】
塩基性化合物(B)の25℃における水溶液中での塩基解離定数が3〜14であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の防曇塗料組成物。
【請求項5】
塩基性化合物(B)の沸点が130〜1500℃であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の防曇塗料組成物。

【公開番号】特開2011−140589(P2011−140589A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2817(P2010−2817)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】