説明

防曇機能を備えたミラー

【課題】 種々の気象条件によっても安定した防曇機能を発揮させることができる廉価な防曇機能を備えたミラーを提供する。
【解決手段】 凸面鏡板2と、この凸面鏡板2を取り付ける取付板3と、凸面鏡板2の背面と取付板3の間の空間に配設される水8を封入した可撓性の区画袋7と、この区画袋7と凸面鏡板2の間に配設された第1のエアーマット10と、区画袋7と取付板2の間に配設された第2のエアーマット12とを備え、区画袋7は複数の袋に分割されて上下方向に配列されると共に、各袋には各々水8が封入される。複数の袋は、凸面鏡板2の上下方向の中央に位置する袋に封入する水8の量を多くして最も厚くなるように形成し、この中央位置の袋から上端及び下端方向に向かう各袋に封入する水の量を漸次少なくして漸次薄くなるように形成し、これら複数の袋の配列によって形成される上下方向の曲率を凸面鏡板2の曲率に近似させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外に設置されているカーブミラー、或いは、自動車等のバックミラーなどのミラーに関し、特に防曇機能を備えているミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
見通しの悪い道路などに設置されているカーブミラーなどのように屋外に設置されているミラーでは、気象条件により鏡面に結露が生じて曇ることがある。鏡面が曇ると視認性が悪くなり、カーブミラーなどの場合には交通障害が発生するので危険である。
【0003】
鏡面の防曇機構としては、凸面鏡板と取付板の間の空間に、ヒータおよびヒータの熱を蓄えるゲル状蓄熱剤を袋に封入して配置し、鏡面の表面温度を外気温度よりも高く維持するものが実用化されている。しかし、この防曇機能を備えたカーブミラーでは、ヒータに電気を供給するためのソーラーシステムなどを別途、設ける必要があり、その分、コストが高いという問題がある。
【0004】
そこで、本出願人は、廉価な防曇機能を備えたミラーを提供することを目的に、特許第4157867号公報(特許文献1)において、凸面鏡板と、この凸面鏡板を取り付ける取付板との間の空間に、水を封入した可撓性の袋を配設することを提案した。この結果、可撓性の袋に封入した水の熱エネルギーによって、ヒータを用いることなく、例えば、放射冷却などにより凸面鏡板の鏡面に生ずる結露を防止できるようになった。
【0005】
【特許文献1】特許第4157867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に開示されている防曇機能を備えたミラーは、気象条件によっては、凸面鏡板の鏡面の周辺など一部に結露を生ずることが確認され、防曇機能が不十分であった。
【0007】
本発明は、この問題を解決し、種々の気象条件によっても安定した防曇機能を発揮させることができる廉価な防曇機能を備えたミラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明による防曇機能を備えたミラーは、金属製の凸面鏡板と、この凸面鏡板を取り付ける取付板と、前記凸面鏡板の背面と前記取付板の間の空間に配設される水を封入した可撓性を有する区画袋と、この区画袋と前記凸面鏡板の間に配設された第1のエアーマットと、前記区画袋と前記取付板の間に配設された第2のエアーマットとを備え、前記区画袋は複数の袋に分割されて上下方向に配列されると共に、各袋には各々水が封入されたミラーであって、上下方向に配列された複数の前記袋は、前記凸面鏡板の上下方向の中央に位置する袋に封入する水の量を多くして最も厚くなるように形成し、この中央位置の袋から上端及び下端方向に向かう各袋に封入する水の量を漸次少なくして漸次薄くなるように形成し、これら複数の前記袋の配列によって形成される上下方向の曲率を前記凸面鏡板の曲率に近似させたことを要旨としている。
【0009】
また、本発明のミラーは、上下方向に配列される複数の各袋に封入される水の量を、当該各袋に封入可能な最大水量の半分以下とすることが望ましい。
【0010】
さらに、本発明のミラーは、前記区画袋と前記取付板の間に、前記区画袋によって形成される外形輪郭の上下方向の幅よりも左右方向の幅を小さくした断熱材を配置して、前記区画袋に封入された中央位置の水を左右方向に移動させることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の防曇機能を備えたミラーによれば、凸面鏡板の上下方向に配列した各袋に封入する水の量を、凸面鏡板の上下方向の中央に位置する袋から上端及び下端方向に向かう袋毎に漸次少なくすることにより、複数の袋の配列によって形成される上下方向の曲率を凸面鏡板の曲率に近似させることができる。この結果、凸面鏡板の背面に区画袋をほぼ均一に当接することから、区画袋に封入した水の熱エネルギーを凸面鏡板の全面に均等に与えることが可能となり、種々の気象条件によっても安定した防曇機能を発揮させることが可能となる。
【0012】
また、本発明では、区画袋を上下方向に分割した各袋に封入されている水の量が、各袋に封入可能な最大水量の半分以下であるので、水が凍ることによる体積膨張により袋が破裂してしまうことを防ぐことができる。
【0013】
さらに、区画袋と取付板の間に、前記区画袋によって形成される外形輪郭の上下方向の幅よりも左右方向の幅を小さくした断熱材を配置することにより、区画袋に封入された中央位置の水を左右方向に移動させることから、凸面鏡板の背面の左右方向についても区画袋をほぼ均一に当接することができるので、区画袋に封入した水の熱エネルギーを凸面鏡板の全面に均等に与えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明による防曇機能を備えたミラーは、金属製の凸面鏡板と、この凸面鏡板を取り付ける取付板と、前記凸面鏡板の背面と前記取付板の間の空間に配設される水を封入した可撓性を有する区画袋と、この区画袋と前記凸面鏡板の間に配設された第1のエアーマットと、前記区画袋と前記取付板の間に配設された第2のエアーマットとを少なくとも備えている。前記区画袋は、複数の袋に分割されて上下方向に配列されると共に、各袋には各々水が封入されている。そして、上下方向に配列された複数の前記袋は、前記凸面鏡板の上下方向の中央に位置する袋に封入する水の量を多くして最も厚くなるように形成し、この中央位置の袋から上端及び下端方向に向かう各袋に封入する水の量を漸次少なくして漸次薄くなるように形成している。この構成により、複数の前記袋の配列によって形成される上下方向の曲率は、前記凸面鏡板の曲率に近似するようになる。
【0015】
以下、図面に基いて本発明の好適な実施例について説明する。図1は、カーブミラーを示す外観図である。この図に示すように、カーブミラー1のミラー本体部分は、表面2aに鏡面加工を施したステンレススチール板などの金属製からなる円形の凸面鏡板2と、この凸面鏡板2が取り付けられている円盤状の取付板3とを有している。取付板3は角度調整取付具4を介して地中に下端部分が埋設されている支柱5の上端部分に取り付けられている。また、凸面鏡板2の上端部分にはフード6が取り付けられている。
【0016】
図2は、ミラー本体部分の縦断面図である。この図に示すように、凸面鏡板2の背面と取付板3の間には空間が形成されており、この空間に、水8が封入されているナイロンやポリエチレンなどの可撓性を有するプラスチック製の区画袋7が配設されている。区画袋7は、凸面鏡板2と区画袋7の間の中間層に配設された第1のエアーマット10、および区画袋7と取付板3の間の中間層に配設された第2のエアーマット11によって、凸面鏡板2の背面21に沿った所定厚さの面状態に保持されている。
【0017】
第1のエアーマット10は、好ましくは、ポリエチレンの膜で空気を包み込んだ多数の気泡をシート状に形成したポリエチレン気泡シートが用いられる。なお、第1のエアーマット10としては、上記気泡シートの他に、内部に無数の気泡を有するポリエチレン発泡シート、或いは、発泡スチロールや発泡ウレタンを用いても良い。この第1のエアーマット10によって、凸面鏡板2と区画袋7の間には実質的に空気層が形成される。また、第2のエアーマット11は、好ましくは、内部に無数の気泡を有するポリエチレン発泡シートが用いられる。この第2のエアーマット11としては、ポリエチレン気泡シートや発泡スチロールや発泡ウレタンなどを用いても良い。これらの第1のエアーマット10、第2のエアーマット11は、区画袋7に封入されている水8から無駄な放熱が取付板3の側に行われることを防止する断熱層としての役割を果たす他、水8が凍ることにより体積膨張したときに、凸面鏡板2及び取付板3の変形を防止する緩衝層としての役割も果たしている。
【0018】
次に、図3(a)(b)はそれぞれ、水8が封入された区画袋7を示す正面図、そのA−A線で切断した部分を示す概略断面図である。これらの図に示すように、区画袋7は、複数枚の袋71A、72A、73A、74A、75Aに分割されて上下方向に配列することにより、凸面鏡板2(取付板3)と略同径の円形に形成される。そして、これらの袋71A〜75Aには各々水8が封入されている。
【0019】
さらに、袋71A〜75Aに封入する水8の量は、凸面鏡板2の上下方向の中央に位置する袋73Aが最も多く、次に袋73Aの上端及び下端方向に隣接する袋72Aおよび74Aに封入する水8の量が袋73Aよりも少なく、さらに、上端及び下端に位置する袋71A及び袋75Aに封入する水8の量が最も少なくなるようにしている。すなわち、中央位置の袋73Aから上端及び下端方向に向かう各袋に封入する水の量を漸次少なくなるように形成している。
【0020】
なお、各区画袋71A〜75Aに封入する水8の量を異ならせても、各袋71A〜75Aに封入可能な最大水量の半分以下となっている。また、水8には、雑菌などの繁殖を防ぐために、例えば、塩素系の殺菌剤を添加することが望ましい。
【0021】
このように封入する水8の量を異ならせることにより、中央に位置する袋73Aの厚さが最も厚く、これよりも隣接する袋72Aおよび74Aが薄く、上端及び下端に位置する袋71A及び袋75Aが最も薄くなる。そして、袋71A〜75Aを取付板3或いは平坦な面に載置した自由状態においては、図3(b)に示すように、複数の袋71A〜75Aの配列によって形成される上下方向の曲率rは、凸面鏡板2の曲率に近似するように設定される。なお、袋71A〜95Aは可撓性を有しているので、水8を封入したときに形状が大きく変化する。従って、上下方向の曲率rを凸面鏡板2の曲率に必ずしも一致させる必要はなく、また、前述した断熱材13を配設するときには、断熱材13の厚さを含めた状態における曲率rが凸面鏡板2の曲率に近似するように設定することが望ましい。
【0022】
上述した複数の袋71A〜75Aからなる区画袋7は、図2に示すように凸面鏡板2の背面と取付板3の間に形成された空間に配設される。このとき、区画袋7は、凸面鏡板2と区画袋7の間の第1のエアーマット10、および、区画袋7と取付板3の間の第2のエアーマット11によって形状が大きく変化する。ところが、複数の袋71A〜75Aの配列によって形成される上下方向の曲率rが、凸面鏡板2の曲率に近似するように設定されているので、上記空間を充満させると共に、凸面鏡板2の背面21に沿った面状態に保持される。
【0023】
図2に示す状態では、区画袋7の上下方向の曲率rを凸面鏡板2の曲率に近似させることにより、凸面鏡板2の背面21に沿った面状態に保持される。しかしながら、区画袋7は左右方向の厚さがほぼ一定になっていることから、凸面鏡板2の背面21に沿わない場合がある。このため、第2のエアーマット11と、区画袋7との間には、図4に示すような断熱材12が配置されている。断熱材12は、円形に形成された凸面鏡板2もしくは、区画袋7よって形成される外形輪郭の上下方向の幅よりも左右方向の幅が小さく設定されている。
【0024】
このような断熱材12を介在配置することにより、少なくとも袋72A〜74Aの中央部分が断熱材13によって押圧され、図5に示すように、封入された中央位置の水8が左右方向に移動する。この結果、区画袋7を凸面鏡板2の背面21に沿った面状態に保持させることができる。なお、断熱材12は、第2のエアーマット11と取付板3の間に配置させても良い。
【0025】
本発明者等が実験により確認したところ、本発明を適用したカーブミラー1の場合、摂氏マイナス30度からプラス55度までの温度範囲において凸面鏡板2の鏡面2aに結露が見られなかった。また、従来は、気象環境によって、凸面鏡板2の鏡面2aの周縁などの一部に若干の結露があったが、本発明を適用した場合は、結露が見られなかった。これは、水8を封入した区画袋7が、凸面鏡板2の背面21に沿った面状態に確実に保持されているものと推察される。従って、ヒータおよび当該ヒータに電気を供給するためのソーラーシステムなどを設けることなく、十分な防曇機能を備えた廉価なカーブミラーを実現できる。
【0026】
このように、本発明を適用した場合における防曇機能について検討すると、昼間の温度上昇により凸面鏡板2が加熱されて、その熱エネルギーは区画袋7に封入されている水8に吸収、蓄熱される。水8に蓄熱された熱エネルギーが、夜間から朝方の気温低下に伴って徐々に放熱され、凸面鏡板2を背面側から加熱して鏡面2aを温め、鏡面2aに結露が発生することを防止する。また、凸面鏡板2と区画袋7に封入された水8の間には所定厚さの空気層が形成されている。この空気層の存在により、水8に蓄熱された熱エネルギーが凸面鏡板2に対して直接、放出されてしまうことを防止することができるので、凸面鏡板2に対する放熱を安定して行うことができる。
【0027】
一方、カーブミラー1においては、水8が区画袋7に封入されているので、放射冷却などにより冷え込みの強い日には、水8が凍ってしまうことがある。しかし、区画袋7に封入されている水8の量は、封入可能な最大水量の半分以下としてことによって、水8が凍ることによる体積膨張によって区画袋7が破裂することが未然に防止でき、しかも、区画袋7内の氷は小さいので、外気温の上昇に伴って速やかに融ける。
【0028】
以上、本発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能であることは言うまでもない。例えば、上述した実施例においては、ミラーとして円形の凸面鏡板を用いた例を説明したが、四角形の凸面鏡板を用いたミラーであっても同様に適用可能である。また、区画袋の分割数についても、凸面鏡板の大きさによって例えば3分割から20分割に分割しても良い。さらに、凸面鏡板及び取付板の形状や固定手段については、周知の適宜の方法を採用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、カーブミラー以外の屋外あるいは屋内に設置されるミラーにも同様に適用可能である。また、自動車やオートバイなどのバックミラーなどにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明を適用したカーブミラーを示す外観図である。
【図2】図1に示したカーブミラーのミラー本体部分の縦断面図である。
【図3】(a)(b)はそれぞれ、水が封入された区画袋を示す正面図、そのA−A線で切断した部分を示す概略断面図である。
【図4】断熱材を配置した状態を示すミラー本体部分の裏面図である。
【図5】図4のB−B線で切断した部分を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 カーブミラー
2 凸面鏡板
21 鏡板の背面
2a 鏡面
3 取付板
7 区画袋
71A、72A、73A、74A、75A 袋
10 第1のエアーマット
11 第2のエアーマット
12 断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の凸面鏡板と、この凸面鏡板を取り付ける取付板と、前記凸面鏡板の背面と前記取付板の間の空間に配設される水を封入した可撓性を有する区画袋と、この区画袋と前記凸面鏡板の間に配設された第1のエアーマットと、前記区画袋と前記取付板の間に配設された第2のエアーマットとを備え、前記区画袋は複数の袋に分割されて上下方向に配列されると共に、各袋には各々水が封入されたミラーであって、
上下方向に配列された複数の前記袋は、前記凸面鏡板の上下方向の中央に位置する袋に封入する水の量を多くして最も厚くなるように形成し、この中央位置の袋から上端及び下端方向に向かう各袋に封入する水の量を漸次少なく漸次薄くなるように形成して、これら複数の前記袋の配列によって形成される上下方向の曲率を前記凸面鏡板の曲率に近似させたことを特徴とする防曇機能を備えたミラー。
【請求項2】
前記各区画袋に封入される水の量は、当該各区画袋に封入可能な最大水量の半分以下である請求項1に記載の防曇機能を備えたミラー。
【請求項3】
前記区画袋と前記取付板の間には、前記区画袋によって形成される外形輪郭の上下方向の幅よりも左右方向の幅を小さくした断熱材を配置して、前記区画袋に封入された中央位置の水を左右方向に移動させる請求項1に記載の防曇機能を備えたミラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−144961(P2012−144961A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14559(P2011−14559)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(309025236)
【Fターム(参考)】