説明

防汚加工製品及びその製造方法

【課題】焦げ付き防止効果に優れ、焦げ付き防止効果が長期間にわたって持続し、かつ付着した焦げ付きを容易に取り除くことができる防汚コーティング膜を備えた防汚加工製品、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の防汚加工製品は、金属基体と、前記金属基体の表面に形成された防汚コーティング膜と、を含み、前記防汚コーティング膜は、ジルコニウム酸化物を含む第1層と、前記第1層上に形成されるとともに珪酸アルカリを含む第2層と、前記第2層上に形成されるとともにジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物から選ばれた少なくとも1種を含む第3層と、をこの順に積層してなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚加工製品及びその製造方法に関し、特に、焦げ付き防止効果、焦げ付き防止効果の持続性に優れ、また焦げ付きが製品基体表面に固着しても容易に取り除くことが可能な防汚加工製品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス等の汚れの清掃性を改善する方法としては親水性のコーティング処理が有効であった。例えば特許文献1には、珪素成分およびジルコニウム成分と水とを含有する親水性膜形成用塗料を基材に塗布し、これを水和反応で硬化させて皮膜とする親水性膜の形成方法が記載されており、この皮膜に珪酸イオンなどを含む水溶液を塗布すると水和反応がさらに促進され、硬化が促進されると記載されている。
【0003】
また、高温で使用されるオーブンの内壁には焦げ付き防止コーティング膜が形成されていた。焦げ付き防止コーティング膜としては、例えば、フッ素系やシリコーン系の撥水性樹脂膜が用いられ、さらに、高温や傷に対応する必要がある場合にはホーロー処理が採用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第03/080744号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の背景技術に係る焦げ付き防止コーティング膜にあっては、次のような問題点があった。
例えば、オーブンの内壁をステンレスにすると、その金属光沢による熱反射によってオーブンの熱効率が好転する。しかし、無垢のステンレスでは、熱によるテンパーカラー発生に伴う美観の損失と、食物が焦げ付いた場合にはなかなか除去し難いという問題があった。
【0006】
特許文献1に開示された親水性のコーティング処理では、最外層が珪酸イオンを含む層であるために、オーブンの内壁のような焦げ付きの発生する部分に使用した場合、この珪酸イオンが食物の焦げ付きと強固に結合し、焦げ付きの除去が出来なくなるという問題が発生していた。
また、オーブン内壁に撥水性樹脂を塗布すると、ステンレスの金属光沢による熱反射が阻害される。さらに、撥水性樹脂自身が傷つきやすい上、300℃以上の高温に耐えられないという問題があった。
一方、ホーロー処理の場合は、耐熱性と傷つきにくさにおいては問題ないが、焦げ付きが落ち難く、ステンレスの金属光沢による熱反射を阻害するという問題があった。
このように、ステンレスの熱反射を損なわず、かつ傷つき難く、テンパーカラーの発生を抑え、食物等の被加熱物を焦げ付きにくくする方法は未だなかった。
【0007】
本発明は、上記の背景技術が有する問題点に鑑みてなされたものであり、焦げ付き防止効果に優れ、焦げ付き防止効果が長期間にわたって持続し、かつ付着した焦げ付きを容易に取り除くことができる防汚コーティング膜を備えた防汚加工製品及びその製造方法を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の防汚加工製品は、上記課題を解決するために、金属基体と、前記金属基体の表面に形成された防汚コーティング膜と、を含み、前記防汚コーティング膜は、前記金属基体上に形成されジルコニウム酸化物を含む第1層と、前記第1層上に形成されるとともに珪酸アルカリを含む第2層と、前記第2層上に形成されるとともにジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物から選ばれた少なくとも1種を含む第3層と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、前記第3層には、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物から選ばれた少なくとも1種が70質量%以上含まれることが好ましい。
【0010】
また、前記第1層には、ジルコニウム酸化物が30質量%以上含まれることが好ましい。
【0011】
本発明の防汚加工製品の製造方法は、金属基体の表面上に、ジルコニアゾル、ジルコニウムアルコキシド及びそのジルコニウムアルコキシドの部分加水分解生成物、並びにジルコニウム塩から選ばれた少なくとも1種を含むジルコニウム含有成分を含む塗布液を塗布し、熱処理を施して、その熱処理生成物からなる第1層を形成する工程と、前記第1層上に、珪酸アルカリを含む塗布液を塗布し、熱処理を施して、その熱処理生成物からなる第2層を形成する工程と、前記第2層上に、ジルコニウム、イットリウム、ハフニウムおよび希土類元素から選ばれた少なくとも1種の成分のゾル、アルコキシド及びその部分加水分解生成物、並びに塩から選ばれた少なくとも1種を含む塗布液を塗布し、熱処理を施して、その熱処理生成物からなる第3層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防汚加工製品は、優れた焦げ付き防止効果を有し、優れた焦げ付き防止効果が長期間にわたって持続し、焦げ付きを簡単な操作で容易に取り除くことができる。このため固着した焦げ付きを取り除くために強い薬品や、研磨剤は不要であり、労力を削減し、環境への負荷も小さいという効用を有する。
さらに、本発明の防汚加工製品をオーブン等に使用した場合、ステンレス等の金属基体の反射を損なわず、オーブン等の熱効率の向上させることができ、かつ傷つき難く、テンパーカラーの発生を抑え、美観を損なわないという効果を有する。
また、本発明の防汚加工製品の製造方法は、上記の効果を奏する防汚加工製品を簡便にかつ効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係る防汚加工製品の断面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
「防汚加工製品」
まず、防汚加工製品の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態である防汚加工製品10の断面構造を示す図である。
図1に示すように、本実施形態の防汚加工製品10の特徴は、金属製の製品基体(金属基体)11の表面上に形成された第1層21と、この第1層21上に形成された第2層22と、この第2層22上に形成された第3層23とからなる3層構造の防汚コーティング膜20を有していることにある。
【0016】
さらに具体的に、第1層21は、ジルコニウム酸化物成分を含む被膜形成物質からなり、第2層22は、珪酸アルカリを含む被膜形成物質からなり、第3層23は、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物の中から選ばれた少なくとも1種の成分を含む被膜形成物質からなるものである。
また、金属製の製品基体11には、格別の制限はなく、ステンレス、アルミニウム、めっき鋼板、チタン等の金属製品を包含する。また、製品基体11の形状も特に制限されず、バルク状の成形体であってもよく、板状や線状のものであってもよい。
【0017】
第1層21を構成するジルコニウム酸化物成分を含む膜は、ジルコニウム酸化物成分を含んでいれば良い。第1層21の膜中のジルコニウム酸化物の含有量は30質量%以上が好ましい。ジルコニウム酸化物の含有量が30質量%未満の場合、調理中の蒸気により耐久性が低下する虞がある。
なお、第1層21に含まれるジルコニウム酸化物以外の成分は特に制限されないが、シリカ(シリコン酸化物)が好適である。
【0018】
第2層22は、珪酸アルカリを含む膜である。第2層22の膜中の珪酸アルカリの含有量は、珪素成分として二酸化珪素(SiO)換算で60質量%以上95質量%以下であることが好ましい。より好ましくは70質量%以上95質量%以下の範囲である。珪素成分の含有量が二酸化珪素換算で60質量%未満の場合、第2層22が水蒸気によって溶解する虞があり、95質量%を超える場合、膜に亀裂が発生しやすくなる虞がある。
【0019】
アルカリ成分の含有量は酸化物換算で5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。より好ましくは10質量%以上25質量%以下の範囲である。アルカリ成分の含有量が酸化物換算で5質量%未満である場合、膜に亀裂が発生しやすくなる虞があり、40質量%を超える場合、水蒸気によって溶解する虞がある。
【0020】
アルカリ成分としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムのアルカリ金属成分が用いられる。中でも、ナトリウム、リチウムが好ましく、さらには、ナトリウムとリチウムを併用することが好ましい。
【0021】
アルカリ成分として、ナトリウムとリチウムを含む場合、第2層22の膜中での珪酸アルカリは、珪素成分が、SiO換算で、70質量%以上95質量%以下、ナトリウム成分が、NaO換算で4.5質量%以上20質量%以下、リチウム成分が、LiO換算で、0.5質量%以上10質量%以下の範囲が好適である。なお、上記範囲においてナトリウム成分とリチウム成分を合計したアルカリ成分の含有量は酸化物換算で5質量%以上30質量%以下が好ましい。
【0022】
珪素成分が、SiO換算で70質量%未満であると、コーティングの耐蒸気性が不足し、95質量%を超えると塗装性が悪化する。
ナトリウム成分が、NaO換算で20質量%を超えるとコーティングの耐アルカリ性、耐酸性が不足し、2質量%未満であると塗装性が悪化する。
リチウム成分が、LiO換算で10%を超えるとコーティングの耐アルカリ性が悪化し、0.5%未満であるとコーティングの耐酸性が悪化する。
【0023】
第3層23は、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物の中から選ばれた少なくとも1種の金属酸化物を含む。第3層23の膜中におけるこれらの金属酸化物からなる成分の合計が、70質量%以上であることが好ましい。これらの成分の含有量が70質量%未満である場合、防汚コーティング膜20において十分な焦げ付き防止効果が得られず、また防汚加工製品10の熱反射性が低下する傾向がある。
【0024】
ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物から選ばれる2種以上の金属酸化物を含む組成とする場合には、ジルコニウム酸化物を含む組成とすることが好ましい。この場合に、ジルコニウム酸化物と他の酸化物(イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物)との含有割合は、これら金属酸化物の合計のうち、ジルコニウム酸化物を30質量%以上100質量%以下の範囲で含むことが好ましい。ジルコニウム酸化物の含有量が30質量%未満である場合、膜の強度が弱くなる虞がある。
これらの金属酸化物以外の成分について特に制限するものではないが、第3層23はシリカ(シリコン酸化物)を含まない組成とすることが好ましい。
【0025】
各層の役割は以下の通りである。
まず、最外層の第3層23から述べる。第3層23の役割は食物の焦げ付きの防止と反射低下の防止である。ここで、第3層23にシリカ成分が含まれていると、食物が焦げ付きやすくなるため、第3層23におけるシリカ成分の含有量は極力少なくする必要があり、実質的にシリカを含まない被膜とすることが好ましい。第3層23の構成材料として好適な材料は、先に記載のように、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物である。これら成分は、焦げ付きにくいだけでなく、シリカよりも屈折率が大きいため光線を反射しやすく、オーブンの内壁材として好適に用いることができる防汚加工製品とすることができる。
【0026】
次に、第2層22の役割は、ステンレス等からなる製品基体11の傷つき防止と、テンパーカラー発生の防止である。珪酸アルカリを含む酸化物の層は硬くしかもテンパーカラー発生を防止する効果がある。しかし、焦げ付きやすいため、本実施形態の防汚コーティング膜20では第3層23によって第2層22を被覆している。
【0027】
次に、第1層21の役割は、コーティングの密着性改善である。第1層21を形成しない場合には防汚コーティング膜20と製品基体11との間で十分な密着性が得られず、例えば水蒸気に長期間晒されると防汚コーティング膜20が製品基体11の表面から剥離してしまう。また、第1層21のみからなる防汚コーティング膜20では、十分な傷つき防止効果とテンパーカラー防止効果が得られないため、第2層22を設けることが必要である。
【0028】
防汚コーティング膜20における各層の厚さとしては、第1層21を20nm以上200nm以下、第2層22を100nm以上1000nm以下、第3層23を20nm以上200nm以下とするのが好ましい。
第1層21が20nmを下回ると、十分な密着性が得られず、200nmを超えると逆に亀裂が生じやすくなる。また、第2層22が100nmを下回ると十分な傷つき防止効果とテンパーカラー防止効果が得られず、1000nmを超えると亀裂が生じやすくなる。また、第3層23が20nmを下回ると所望の焦げ付き防止効果が得られず、200nmを超えると亀裂が生じやすくなる。防汚コーティング膜20において亀裂が生じると、コーティングの透明さが損なわれ、熱反射性も損なわれる。
【0029】
「防汚加工製品の製造方法」
次に、本発明の防汚加工製品の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の防汚加工製品の製造方法は、製品基体11(金属基体)の表面上に、ジルコニアゾル、ジルコニウムアルコキシド及びその部分加水分解生成物、並びにジルコニウム塩から選ばれた少なくとも1種のジルコニウム含有成分を含む塗布液を塗布し、これを熱処理して、その熱処理生成物からなる第1層21を形成する工程と、
次いで、第1層21上に、珪酸アルカリを含む塗布液を塗布し、熱処理して、その熱処理生成物からなる第2層22を形成する工程と、
さらに、第2層22上に、ジルコニウム、イットリウム、ハフニウムおよび希土類元素から選ばれた少なくとも1種の成分のゾル、アルコキシド及びその部分加水分解生成物、並びに塩から選ばれた少なくとも1種を含む塗布液を塗布し、これを熱処理して、その熱処理生成物からなる第3層23を形成する工程と、を含んで構成されている。
【0030】
第1層21を形成する塗布液中に含まれるジルコニウムのゾルとしては、特に制限されるものではないが、粒子径5nm以下のジルコニア微粒子を用いることが、焼結性からみて好ましい。例えば、住友大阪セメント社製のジルコニアゾル「ナノジルコニア分散液」を好適に使用することができる。
【0031】
また、ジルコニウムのアルコキシドとしては、これの加水分解物あるいはキレート化合物も用いることができる。上記のジルコニウムアルコキシドとしては、特に制限されるものではないが、例えば、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシドを例示することができる。これらジルコニウムテトラノルマルブトキシドやジルコニウムテトラプロポキシドは、適度な加水分解速度を有し、しかも、取り扱い易いので膜質が均一な薄膜を形成することができる。
【0032】
さらに、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物としては、特に制限されるものではないが、例えば、ジルコニウムテトラノルマルブトキシドの加水分解物、ジルコニウムテトラプロポキシドの加水分解物を例示することができる。この加水分解物の加水分解率としては、特に制限はなく、0モル%超〜100モル%の範囲内のものを使用することができる。
【0033】
ところで、これらジルコニウムアルコキシドやジルコニウムアルコキシドの加水分解物は、吸湿性が高く不安定であり、貯蔵安定性も充分でないので、取り扱う際には、非常に注意を要する。
そこで、さらに取り扱いの容易さの点では、これらジルコニウムアルコキシドやジルコニウムアルコキシドの加水分解物をキレート化したジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物が好ましい。
【0034】
ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドと、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン、アセチルアセトン等のβ−ジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、フェノキシ酢酸エチル等のβ−ケト酸エステル、酢酸、乳酸、クエン酸、安息香酸、リンゴ酸等のカルボン酸の群から選択される1種または2種以上の加水分解抑制剤(化合物)との反応生成物を例示することができる。
ここで、加水分解抑制剤とは、ジルコニウムアルコキシドとキレート化合物を形成し、このキレート化合物の加水分解反応を抑制する作用を有する化合物のことである。
【0035】
また、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物と、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン、アセチルアセトン等のβ−ジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、フェノキシ酢酸エチル等のβ−ケト酸エステル、酢酸、乳酸、クエン酸、安息香酸、リンゴ酸等のカルボン酸の群から選択される1種または2種以上の加水分解抑制剤(化合物)との反応生成物を例示することができる。加水分解抑制剤の定義は、上述した通りである。
【0036】
この加水分解抑制剤の、ジルコニウムアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの加水分解物に対する割合は、このジルコニウムアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの加水分解物に含まれるジルコニウム(Zr)の0.5モル倍以上4モル倍以下が好ましく、より好ましくは1モル倍以上3モル倍以下の範囲である。
【0037】
加水分解抑制剤の上記ジルコニウム量に対する割合が0.5モル倍よりも少ないと、塗布液の安定性が不充分なものとなる。一方、加水分解抑制剤の上記割合が4モル倍を超えると、熱処理を施した後においても加水分解抑制剤が薄膜中に残留し、その結果、薄膜の硬度が低下することになる。
【0038】
これらジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの加水分解物を溶媒中に溶解し、さらに加水分解抑制剤を添加し、得られた溶媒中にてキレート化反応を生じさせたものであってもよい。
【0039】
さらに、第1層21の形成に用いる塗布液を構成しうるジルコニウム塩としては、硝酸塩、塩化物、酢酸塩等を用いることができる。
これらが含まれる塗布液の溶媒としては、有機溶剤もしくは水を用いることができ、有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エステル類等を用いることができる。
塗布液は、塗布方法に応じて固形分1%以上20%以下の範囲で調整するのが好ましい。
【0040】
第2層22を形成する塗布液中に含まれる珪酸アルカリとしては、特に制限されるものではなく、アルカリ金属を含む珪酸アルカリを用いることができる。その中でも、珪酸ナトリウム、珪酸リチウムを用いるのが好ましく、さらに珪酸ナトリウムと珪酸リチウムの両方を含んだ塗布液を用いることが好ましい。
溶媒としては、水が好ましく、塗布方法に応じて固形分1%以上20%以下の範囲で調整するのが好ましい。
【0041】
第3層23を形成する塗布液としては、ジルコニウムに関しては、第1層21を形成する塗布液に用いるものと同じものを用いることができる。
また、イットリウム、ハフニウムおよび希土類元素に関しては、上記においてジルコニウムをこれらの成分に変えたものを用いることができる。
これらが含まれる塗布液の溶媒としては、有機溶剤もしくは水を用いることができ、有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エステル類等を用いることができる。
塗布液は、塗布方法に応じて固形分1%以上20%以下の範囲で調整するのが好ましい。
【0042】
以下、本実施形態の防汚加工製品の製造手順をより詳細に説明する。
まず、第1層形成用塗布液を製品基体11(金属基体)の表面に塗布する。塗布方法としては、公知のスプレー法、ディップ法、ロール法などが適用可能であり、特に制限はない。
その後、塗布膜を乾燥し、熱処理する。熱処理温度は、製品基体11を構成するステンレス鋼のテンパーカラー発生温度以下にする必要がある。ステンレス鋼のテンパーカラーは、一般に200℃〜250℃の範囲で発生開始し、ステンレス鋼の組成や表面処理条件、雰囲気、時間によって変化する。そのため、あらかじめ予備実験でテンパーカラー発生温度を確認しておく必要がある。テンパーカラーが発生すると、テンパーカラー自身(表面の酸化された部位)の耐食性が小さいため、防汚コーティングを施してもステンレス鋼(製品基体11)の耐食性が向上しない。このため、第1層21の焼成はテンパーカラーが発生しない温度で実施しなければならない。
【0043】
次いで、第2層形成用塗布液を第1層21の表面に塗布する。塗布方法としては、第1層21を形成する工程と同様である。
そして、上記の塗布膜を乾燥し、熱処理する。熱処理温度は、第2層22については、製品基体11を構成するステンレス鋼のテンパーカラー発生温度以上に設定するのが好適である。すなわち、250℃以上とするのが好ましい。第1層21を熱処理した後の第2層22の熱処理においては、製品基体11の表面は第1層21により覆われ、当該表面の空気との接触は既に遮断されているため、高温に加熱してもテンパーカラーは発生しなくなる。このため、第1層21及び第2層22からなるコーティング層を250℃以上の高温でしっかりと焼き締め、耐食性を向上させるのが好ましい。
【0044】
次に、第3層形成用塗布液を第2層22の表面に塗布する。塗布方法としては、第1層21を形成する工程と同様である。
そして、上記の塗布膜を乾燥し、熱処理する。熱処理温度は、第3層23についても250℃以上とするのが好適である。第3層23の熱処理時には、もはやテンパーカラーが発生することはないので、可能な限り高温の条件で熱処理を施すことが好適である。
【実施例】
【0045】
次に、本発明を実施例と比較例とにより詳細に説明する。
【0046】
(実施例1)
まず、ジルコニウムテトラブトキシド30重量部、アセト酢酸エチル15重量部、2−プロパノール55重量部を25℃で30分間混合し、ジルコニウムテトラブトキシドとアセト酢酸エチルとのキレート化合物を形成し、第1層形成用の塗布液を調製した。この塗布液の固形分は10%であった。
【0047】
次に、珪酸ナトリウムと珪酸リチウムと水を混合して、酸化物換算値でSiO:22%、NaO:4%、LiO:1%、HO:73%の第2層形成用の塗布液を調製した。
また、第3層形成用の塗布液として第1層形成用の塗布液と同じ塗布液を調製した。
また、金属基体としてステンレス鋼(テンパーカラー発生条件230℃以上)を用意した。
【0048】
以上の塗布液及び基体を用意した後、ロールコーターを用いて、ステンレス鋼の表面に第1層形成用の塗布液を塗布し、220℃で10分間熱処理を施した後、冷却することで第1層を形成した。
次いで第1層上に第2層形成用の塗布液をロールコーター塗布し、250℃で10分間熱処理した後、冷却することで第2層を形成した。
さらに、第2層上に第3層形成用の塗布液を第1層目と同様に塗布し、250℃で10分間熱処理した後、冷却することで第3層を形成した。ここで、第1層目と第3層目の厚さは100nm、第2層目の厚さは300nmであった。
このようにしてステンレス鋼の表面に三層構造の防汚コーティング膜を形成し、実施例1の本発明の防汚加工製品を作製した。
【0049】
(実施例2)
実施例2では、ジルコニウムテトラブトキシド30重量部、アセト酢酸エチル15重量部、テトラメトキシシラン9重量部、2−プロパノール46重量部を25℃で30分間混合し、ジルコニウムテトラブトキシドとテトラメトキシシランとアセト酢酸エチルとのキレート化合物を形成し、第3層形成用の塗布液を調製した。この塗布液の固形分は13%であり、ジルコニウムと珪素の比率は、二酸化ジルコニウム、二酸化珪素換算で10:3(ジルコニア77%)であった。
第1層形成用の塗布液および第2層形成用の塗布液は実施例1と同様とした。
そして、実施例1と同様の条件で各塗布液をステンレス鋼に塗工し、実施例2の本発明の防汚加工製品を作製した。
【0050】
(実施例3)
実施例3では、ジルコニウムテトラブトキシド30重量部、アセト酢酸エチル15重量部、テトラメトキシシラン15重量部、2−プロパノール40重量部を25℃で30分間混合し、ジルコニウムテトラブトキシドとテトラメトキシシランとアセト酢酸エチルとのキレート化合物を形成し、第3層形成用の塗布液を調製した。この塗布液の固形分は15%であり、ジルコニアとシリカの比率は10:5(ジルコニア67%)であった。
第1層形成用の塗布液および第2層形成用の塗布液は実施例1と同様とした。
そして、実施例1と同様の条件で各塗布液をステンレス鋼に塗工し、実施例3の本発明の防汚加工製品を作製した。
【0051】
(比較例1)
実施例1において第1層目を塗布しないものを比較例1とした。
【0052】
(比較例2)
実施例1において第2層目を塗布しないものを比較例2とした。
【0053】
(比較例3)
実施例1において第3層目を塗布しないものを比較例3とした。
【0054】
実施例1、2、3と比較例1、2、3の各サンプルについて下記に示す評価を行った。また、防汚コーティング膜を形成しない無垢のステンレス鋼についても同様の評価を行った。
【0055】
・耐クエン酸性 :クエン酸飽和水溶液に各サンプルを24時間浸漬し、その後に表面を目視観察することにより防汚コーティング膜の表面状態の変化を評価した。
・耐アルカリ性 :5%水酸化ナトリウム水溶液に各サンプルを24時間浸漬し、その後に表面を目視観察することにより防汚コーティング膜の表面状態の変化を評価した。
・耐蒸気性 :各サンプルを100℃の水蒸気に24時間暴露し、その後に表面を目視観察することで防汚コーティング膜の表面状態の変化を評価した。
・鉛筆9H傷 :JIS−K5600に準拠して行った。
・醤油焦げ落とし:各サンプルの防汚コーティング膜の表面に醤油10mLを付着させ、大気中、250℃で1時間加熱し、その後、100℃の水蒸気に20分間暴露して醤油を焦げ付かせた。その後、この焦げ付き汚れを、水を含ませた布を用いて水拭きし、除去の容易さを評価した。
・テンパーカラー:各サンプルを、大気中、300℃で1時間加熱し、その後に表面を観察することによりテンパーカラーの発生状態を評価した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すように、ステンレス鋼の表面に三層構造の防汚コーティング膜を形成した本発明に係る防汚加工製品は、耐酸性、耐アルカリ性、耐蒸気性、引っかき耐性、焦げ付き除去の容易さ、テンパーカラーの抑制効果のいずれについても良好な結果を示した。
特に、第3層におけるジルコニア比率を70%以上とした実施例1、2のサンプルでは、全ての評価項目において異常を来たすことなく、オーブンの内壁材等として好適な防汚加工製品であることが確認できた。
【0058】
(実施例4)
実施例4では、住友大阪セメント社製の「ナノジルコニア水分散液」粒子径3nmを水で希釈して固形分2%に調整し、第1層形成用の塗布液を調製した。
また、珪酸ナトリウムと珪酸リチウムと水を混合して、酸化物換算値でSiO:5%、NaO:1%、LiO:0.1%、HO:93.9%に調整し、第2層形成用の塗布液を調製した。
また、ハフニウムテトラブトキシド、イットリウムテトラブトキシド、ランタトリブトキシド、およびセリウムテトラブトキシドから選ばれた1種を15重量部、ジルコニウムイソプロポキシド15重量部、アセト酢酸エチル15重量部、2−プロパノール55重量部を25℃で30分間混合し、各成分とアセト酢酸エチルとのキレート化合物を形成し、第3層形成用の塗布液を調製した。この塗布液の固形分は10%であった。
【0059】
次に、上記の第1〜第3層形成用の塗布液(第3層形成用の塗布液は4種類)を用いてスプレー塗装でステンレス鋼(金属基体)に対してコーティング処理を施した。
すなわち、実施例4のサンプルとして、第3層にハフニウムを含むサンプル、イットリウムを含むサンプル、ランタンを含むサンプル、セリウムを含むサンプルの4種類のサンプルを作製した。
【0060】
なお、上記コーティング処理において、第1層の形成工程では、塗布膜を220℃で30分間熱処理し、第2層及び第3層の形成工程では、塗布膜を250℃で30分間熱処理した。
また本実施例での防汚コーティング膜の厚さは、第1層が50nm、第2層が800nm、第3層が100nmであった。
【0061】
(実施例5)
実施例5では、第1層形成用塗布液として、ナノジルコニア水分散液とコロイダルシリカの分散液との混合液を用いた。塗布液中の固形分を2%とし、固形分中のジルコニアの比率を35%とし、シリカの比率を65%とした。
第1層形成用の塗布液および第2層形成用の塗布液は実施例4と同様とした。
そして、実施例4と同様の条件で各塗布液をステンレス鋼に対して塗工し、実施例5の本発明の防汚加工製品を作製した。
【0062】
(実施例6)
実施例5において、第1層形成用の塗布液における固形分中のジルコニアの比率を25%とし、シリカの比率を75%とした以外は、実施例5と同様の条件とし、各塗布液をステンレス鋼に順次塗工処理し、実施例4の防汚加工製品を作製した。
【0063】
実施例4、5、6の各サンプルについて、先の実施例1〜3と同様の評価を行った。
【0064】
【表2】

【0065】
表2に示すように、ジルコニア以外にもハフニア、イットリアおよびランタン、セリウムといった希土類元素の酸化物を含む第3層を形成した防汚コーティング膜は、焦げ落とし性が良好であった。また、実施例5,6の比較から、第1層のジルコニアを30%以上とすることで、さらに良好な耐アルカリ性と耐水蒸気性とを得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0066】
10 防汚加工製品、20 防汚コーティング膜、21 第1層、22 第2層、23 第3層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基体と、前記金属基体の表面に形成された防汚コーティング膜と、を含み、
前記防汚コーティング膜は、
前記金属基体上に形成されジルコニウム酸化物を含む第1層と、
前記第1層上に形成されるとともに珪酸アルカリを含む第2層と、
前記第2層上に形成されるとともにジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物から選ばれた少なくとも1種を含む第3層と、
を有することを特徴とする防汚加工製品。
【請求項2】
前記第3層には、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物から選ばれた少なくとも1種が70質量%以上含まれることを特徴とする請求項1記載の防汚加工製品。
【請求項3】
前記第1層には、ジルコニウム酸化物が30質量%以上含まれることを特徴とする請求項1又は2記載の防汚加工製品。
【請求項4】
金属基体の表面上に、ジルコニアゾル、ジルコニウムアルコキシド及びそのジルコニウムアルコキシドの部分加水分解生成物、並びにジルコニウム塩から選ばれた少なくとも1種を含むジルコニウム含有成分を含む塗布液を塗布し、熱処理を施して、その熱処理生成物からなる第1層を形成する工程と、
前記第1層上に、珪酸アルカリを含む塗布液を塗布し、熱処理を施して、その熱処理生成物からなる第2層を形成する工程と、
前記第2層上に、ジルコニウム、イットリウム、ハフニウムおよび希土類元素から選ばれた少なくとも1種の成分のゾル、アルコキシド及びその部分加水分解生成物、並びに塩から選ばれた少なくとも1種を含む塗布液を塗布し、熱処理を施して、その熱処理生成物からなる第3層を形成する工程と、
を有することを特徴とする防汚加工製品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−63852(P2011−63852A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215839(P2009−215839)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】