説明

防汚性製品の製造方法

【課題】調理中に付着した食品の焦げ付き汚れ、油汚れ、糞便等の有機物に起因した汚れや水垢を水拭き程度で簡単に除去することができる防汚性製品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の防汚性製品の製造方法は、平均粒径が20nm以下の酸化ジルコニウム微粒子と、ケイ素成分と、溶媒とを含み、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下である塗布液を、製品の基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理し、薄膜とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性製品の製造方法に関し、特に、調理中に付着した食品の焦げ付き汚れ、油汚れ、糞便等の有機物に起因した汚れや水垢を水拭き程度で簡単に除去することが可能な防汚性製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、防汚性製品、例えば、焼肉用プレートやオーブン皿等の加熱を要する調理器具においては、食品の焦げ付き汚れを簡単に除去するために、例えば、酸化ジルコニウムを主成分とする薄膜を製品の基体の表面に成膜した防汚性製品が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−321108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来の防汚性製品においては、食品の焦げ付き汚れは比較的簡単に除去することができるものの、油汚れや水垢、糞便については、水拭き程度の作業では容易に除去することができないという問題点があった。そこで、食品の焦げ付き汚れはもちろんのこと、油汚れや水垢、糞便をも簡単に除去することができる防汚性製品の出現が強く望まれていた。
【0004】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、調理中に付着した食品の焦げ付き汚れ、油汚れ、糞便等の有機物に起因した汚れや水垢を水拭き程度で簡単に除去することができる防汚性製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、製品の基体の表面に、酸化ジルコニウムと酸化ケイ素とを特定比率で含む薄膜、または、酸化ジルコニウムとリンとを含む薄膜を成膜すれば、優れた防汚性を有する薄膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の請求項1に係る防汚性製品の製造方法は、平均粒径が20nm以下の酸化ジルコニウム微粒子と、ケイ素成分と、溶媒とを含み、前記ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下である塗布液を、製品の基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理し、薄膜とすることを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項2に係る防汚性製品の製造方法は、平均粒径が20nm以下の酸化ジルコニウム微粒子と、溶媒とを含む第1の塗布液を、製品の基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理して薄膜とし、次いで、この薄膜の表面にリン成分を含有する第2の塗布液を塗布し、100℃以上の温度にて熱処理することを特徴とする。
【0008】
前記第1の塗布液は、さらに、ケイ素成分を含有し、前記ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下であることが好ましい。
【0009】
本発明の請求項4に係る防汚性製品の製造方法は、平均粒径が20nm以下の酸化ジルコニウム微粒子と、リン成分と、溶媒とを含む塗布液を、製品の基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理し、薄膜とすることを特徴とする。
【0010】
前記塗布液は、さらに、ケイ素成分を含有し、前記ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に係る防汚性製品の製造方法によれば、平均粒径が20nm以下の酸化ジルコニウム微粒子と、ケイ素成分と、溶媒とを含み、前記ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下である塗布液を、製品の基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理し、薄膜とするので、防汚性に優れ、調理中に付着した食品の焦げ付き汚れ、油汚れ、糞便等の有機物に起因した汚れや水垢を水拭き程度で簡単に除去することができる防汚性製品を、簡単な装置を用いて、簡便に作製することができる。
【0012】
本発明の請求項2に係る防汚性製品の製造方法によれば、平均粒径が20nm以下の酸化ジルコニウム微粒子と、溶媒とを含む第1の塗布液を、製品の基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理して薄膜とし、次いで、この薄膜の表面にリン成分を含有する第2の塗布液を塗布し、100℃以上の温度にて熱処理するので、防汚性に優れ、調理中に付着した食品の焦げ付き汚れ、油汚れ、糞便等の有機物に起因した汚れや水垢を水拭き程度で簡単に除去することができ、しかも300℃以上の高温下で有機物に起因した焦げ付き汚れが付着しても容易に水洗除去することができる防汚性製品を、簡単な装置を用いて、簡便に作製することができる。
【0013】
本発明の請求項4に係る防汚性製品の製造方法によれば、平均粒径が20nm以下の酸化ジルコニウム微粒子と、リン成分と、溶媒とを含む塗布液を、製品の基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理し、薄膜とするので、防汚性に優れ、調理中に付着した食品の焦げ付き汚れ、油汚れ、糞便等の有機物に起因した汚れや水垢を水拭き程度で簡単に除去することができ、しかも300℃以上の高温下で有機物に起因した焦げ付き汚れが付着しても容易に水洗除去することができる防汚性製品を、簡単な装置を用いて、簡便に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の防汚性製品の製造方法を実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
「第1の実施形態」
本実施形態の防汚性製品の製造方法は、平均粒径が20nm以下の酸化ジルコニウム微粒子と、ケイ素成分と、溶媒とを含み、前記ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下である塗布液を、製品の基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理し、薄膜とする方法である。
【0016】
この製品としては、特に制限されず、例えば、屋内のキッチンや調理場等の厨房で使用されるフライパン、鍋、調理用プレート、魚焼き用グリルの水入れ皿、焼き網等はもちろんのこと、コンロ天板、コンロ部品、オーブンの内部品等、食品の調理に用いられる各種器具及び各種部材並びに各種厨房設備の付帯部品等があり、この各種部材には、グリル、オーブン、トースター等の食品を収容して加熱調理する加熱調理機器の加熱調理室内の天板や内壁面を含んでいる。
この防汚性製品は、水垢や糞便が固着しやすい便器、洗面器等の衛生陶器、皿や鉢等の食器、浴室で使用されるタイル類等であってもよい。
【0017】
この製品の基体の材質としては、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、銅等の金属材料、ガラス、ジルコニア等のセラミックス材料、琺瑯等の金属−セラミックス複合材料等、種類を問わない。
この基体の薄膜を成膜する領域としては、少なくとも、例えば食品が触れる虞のある領域等のように有機物に起因する汚れが生じる領域や、水垢、糞便が生じる虞のある領域とする必要があるが、製品の表面全体に洩れなく上記の薄膜を成膜した構成としてももちろんかまわない。
【0018】
上記の平均粒径が20nm以下の酸化ジルコニウム微粒子としては、特に制限はないが、平均粒径が1nm以上かつ10nm以下のものが、機械的特性に優れた薄膜を100℃〜300℃程度の比較的低温度の熱処理により容易に形成し得るので好ましい。
【0019】
このようなジルコニア微粒子は、例えば、次に示す方法により安価、かつ多量に製造することができる(特開2006−016236号公報参照)。
この方法は、ジルコニウム塩溶液を塩基性溶液にて中和させてジルコニア前駆体を生成させ、このジルコニア前駆体からジルコニアナノ粒子を製造する方法であり、ジルコニウム塩溶液中のジルコニウムイオンまたはジルコニアイオンの価数をm、上記の塩基性溶液中の水酸基のモル比をnとするとき、これらm及びnが次式
0.5<n<m ……(1)
を満たす様に、ジルコニウム塩溶液に塩基性溶液を加えてジルコニウム塩溶液を部分中和させ、次いで、この部分中和された溶液に無機塩を加えて混合溶液とし、この混合溶液を加熱する方法である。
【0020】
この無機塩としては、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含む硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、塩化物、ヨウ化物、臭化物、フッ化物またはリン酸塩が好適に用いられ、この無機塩の添加量は、ジルコニウム塩溶液中のジルコニウムイオンまたはジルコニアイオンのジルコニア換算値に対して20質量%以上が好ましい。
【0021】
一方、平均粒径が20nmを超える酸化ジルコニウム微粒子を用いると、熱処理による焼き締まりが不充分となり、機械的特性が劣化した薄膜となり、容易に剥離するので、充分な防汚性を発揮することができなくなる。
【0022】
上記のケイ素成分としては、熱処理により酸化ケイ素となり得るケイ素化合物であれば特に制限はないが、例えば、コロイダルシリカ、ケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシドの加水分解物を挙げることができる。この加水分解物の加水分解率としては、特に制限はなく、0モル%超〜100モル%の範囲内のものを使用することができる。
【0023】
上記のケイ素成分としてシリコンアルコキシドおよび/またはシリコンアルコキシドの加水分解物を用いる場合には、このケイ素成分の加水分解反応を制御する触媒を添加してもよい。
この触媒としては、塩酸、硝酸等の無機酸、クエン酸、酢酸等の有機酸等を挙げることができる。また、この触媒の添加量は、通常、塗布液中の酸化ジルコニウム微粒子及びケイ素成分の合計量に対して0.01〜10質量%程度が好ましい。なお、触媒の過剰の添加は、熱処理の際に熱処理炉を腐食する虞があるので好ましくない。
ケイ素成分としてコロイダルシリカを用いると、加水分解反応を制御する触媒である酸を添加する必要がなく、したがって、熱処理の際に熱処理炉を腐食する虞がないので好ましい。
【0024】
ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率を20質量%以下、好ましくは1質量%以上かつ20質量%以下の範囲に限定すると、例えば、調理中に付着した食品等の有機物の焦げ付き汚れの除去容易性や糞便の除去容易性が特に優れたものとなる。もちろん、油汚れの除去容易性、水垢の除去容易性、薄膜の耐水性も良好となる。
また、この酸化ケイ素(SiO)の質量百分率を20質量%を超えかつ50質量%以下の範囲に限定すると、油汚れの除去性が特に優れたものとなる。もちろん、調理中に付着した食品等の有機物の焦げ付き汚れの除去容易性、水垢や糞便の除去容易性、薄膜の耐水性も良好となる。
【0025】
上記の溶媒としては、上述した酸化ジルコニウム微粒子やケイ素成分等の薄膜形成成分を溶解または分散させることのできる溶媒であれば、特に制限なく用いることができ、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール等の低級アルコール、ヘクタノール、オクタノール等の高級アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールメチルエチルエーテル(2−メトキシエタノール)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、テレピネオール等の高沸点有機溶媒等が好適である。特に、溶媒として水を用いる場合、アルコキシドの加水分解量以上の量の水を含有させると、塗布液の安定性が低下するので好ましくない。
【0026】
この塗布液においては、酸化ジルコニウム微粒子やケイ素成分の薄膜形成成分の含有率は、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときに、酸化ジルコニウムと酸化ケイ素の合計量で1質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましい。
薄膜形成成分の合計の含有率が1質量%を下回ると、所定の膜厚の薄膜を形成することが困難となり、一方、合計の含有率が10質量%を超えると、薄膜が白化したり、剥離する原因となるので好ましくない。
【0027】
この塗布液に、用いる塗布方法に適した塗布性(粘性)を付与するために、増粘剤を添加してもよい。このような増粘剤としては、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂等を挙げることができる。
【0028】
次いで、上記の塗布液を、製品の本体を構成する基体の表面の少なくとも一部、すなわち、少なくとも、食品が触れる虞のある領域、油汚れが生じる虞のある領域等の有機物に起因する汚れや水垢が固着し易い領域に、塗布する。
塗布法としては、特に制限されず、例えば、スプレー法、デイップ法、刷け塗り法等が好適に用いられる。
【0029】
塗布にあたっては、塗布膜の厚みを、熱処理後の膜厚が0.01μm以上かつ10μm以下の範囲になるように調整することが好ましい。
この薄膜の厚みが0.01μmを下回ると、例えば、調理中に付着した食品等の有機物に起因する焦げ付き汚れ、油汚れ、水垢の除去容易性が不充分となるので好ましくなく、一方、厚みが10μmを越えると、薄膜の耐衝撃性が低下してクラックが入り易く、また、透明性が低下して製品の基体の色調等の意匠性が低下するので好ましくない。
【0030】
このようにして得られた塗布膜を、100℃以上、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは400℃以上の温度にて、例えば、1分以上かつ3時間以下、好ましくは10分以上かつ3時間以下、熱処理し、薄膜とする。
熱処理温度が100℃を下回ると、得られた薄膜の膜強度が低下するので好ましくない。なお、熱処理温度が高すぎるか、または熱処理時間が長すぎると、製品の基体が変形する虞があるため、熱処理温度及び熱処理時間を製品を構成する基体の材質に応じて調整する。熱処理時の雰囲気は特に制限されず、通常、大気雰囲気中で行う。
【0031】
このようにして成膜された薄膜の組成を撥水性及び親水性の点から考えると、酸化ジルコニウム(ZrO)は表面に非親水性基(=O)を有するので撥水性を示すが、酸化ケイ素(SiO)は、表面に親水性基(−OH)を有するので親水性を示す。したがって、撥水性を示す酸化ジルコニウム(ZrO)に、質量百分率が50質量%以下となるように酸化ケイ素(SiO)を導入すると、この酸化ケイ素(SiO)含有酸化ジルコニウム(ZrO)からなる薄膜は、適度な撥水性と親水性とを兼ね備えたものとなる。
【0032】
このような特性を備えた薄膜の化学構造は、ジルコニウム(Zr)原子とケイ素(Si)原子が酸素(O)原子を介して結合した下記式(1)
【化1】

にて表される化学結合を分子骨格中に有するジルコニウム−ケイ素酸化物により構成され、このジルコニウム−ケイ素酸化物が三次元網目構造を形成した無機物質から構成されていると考えられる。
【0033】
このような化学構造を有する薄膜は、それを構成する成分の違いにより、それぞれ、次のような優れた防汚性を備えている。
(1)塗布液中の薄膜形成成分が、ジルコニウム微粒子とケイ素成分とを含み、このケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が20質量%以下の場合は、調理中に付着した食品等の有機物の焦げ付き汚れの除去容易性や糞便の除去容易性が特に優れたものとなり、油汚れの除去容易性、水垢の除去容易性も良好である。
【0034】
(2)塗布液中の薄膜形成成分が、ジルコニウム微粒子とケイ素成分とを含み、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が20質量%を超えかつ50質量%以下の場合は、油汚れの除去容易性が特に優れたものとなり、調理中に付着した食品等の有機物の焦げ付き汚れの除去容易性、水垢の除去容易性、糞便の除去容易性も良好である。
【0035】
「第2の実施形態」
本実施形態の着色防汚性製品の製造方法は、平均粒径が20nm以下の酸化ジルコニウム微粒子と、溶媒とを含む第1の塗布液を、製品の基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理して薄膜とする第1の工程と、次いで、この薄膜の表面にリン成分を含有する第2の塗布液を塗布し、100℃以上の温度にて熱処理する第2の工程とからなる方法である。
【0036】
この第1の塗布液における酸化ジルコニウム微粒子及び溶媒としては、第1の実施形態における酸化ジルコニウム微粒子及び溶媒と同様のものを使用することができる。
この第1の塗布液に、用いる塗布方法に適した塗布性(粘性)を付与するために、増粘剤を添加してもよい。このような増粘剤としては、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂等を挙げることができる。
【0037】
この第1の塗布液においては、さらに、ケイ素成分を含有することとし、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下であることが好ましい。
このケイ素成分としては、第1の実施形態のケイ素成分と全く同様のものを用いることができる。
【0038】
ここで、この酸化ケイ素(SiO)の質量百分率を20質量%以下、好ましくは1質量%以上かつ20質量%以下の範囲に限定すると、例えば、調理中に付着した食品等の有機物の焦げ付き汚れの除去容易性が特に優れたものとなる。もちろん、油汚れの除去容易性、水垢の除去容易性、薄膜の耐水性も良好となる。
また、この酸化ケイ素(SiO)の質量百分率を20質量%を超えかつ50質量%以下の範囲に限定すると、油汚れの除去性が特に優れたものとなる。もちろん、調理中に付着した食品等の有機物の焦げ付き汚れの除去容易性、水垢の除去容易性、薄膜の耐水性も良好となる。
【0039】
この第1の塗布液においては、酸化ジルコニウム微粒子やケイ素成分の薄膜形成成分の含有率は、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときに、酸化ジルコニウムと酸化ケイ素の合計量で1質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましい。
薄膜形成成分の合計の含有率が1質量%を下回ると、所定の膜厚の薄膜を形成することが困難となり、一方、合計の含有率が10質量%を超えると、薄膜が白化したり、剥離する原因となるので好ましくない。
【0040】
上記の製品としては、第1の実施形態における製品と同様のものを用いることができる。また、この第1の塗布液の塗布法、熱処理条件は、第1の実施形態における塗布液の塗布法、熱処理条件と同様である。
【0041】
このようにして得られた薄膜の表面に、リン成分を含む第2の塗布液を塗布する。
この第2の塗布液に含まれるリン成分としては、特に制限はないが、例えば、リン酸、ポリリン酸、メタリン酸等のリン酸類、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等のリン酸塩、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸水素ナトリウム、メタリン酸水素ナトリウム等の縮合リン酸塩、リン酸エステル等のリン酸化合物等、リンを分子骨格中に有するリン化合物であればよく、特に、縮合リン酸塩は、膜強度及び防汚性に優れるという特徴を有することから、好ましい。
この第2の塗布液の溶媒としては、水あるいは有機溶媒が好適に用いられ、有機溶媒には特に制限はない。
【0042】
この第2の塗布液におけるリン成分の含有量は、リン(P)に換算して0.01質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましい。このリン成分の含有量が0.01質量%を下回ると、300℃以上の高温での有機物の焦げ付き汚れの除去容易性が充分に発揮されず、一方、10質量%を超えると、薄膜の表層部が粗面化され、表面粗れが生じ、また、膜の強度も低下するので好ましくない。
この第2の塗布液は、塗布性を改善するために界面活性剤を含有することとしてもよい。
【0043】
塗布法は、特に制限されず、例えば、スプレー法、デイップ法、刷け塗り法等が適用できる。塗布量は、上記の薄膜に充分な防汚性を付与、例えば300℃以上の温度で焦げ付いた焦げ付き汚れの除去容易性が向上する量であればよく、特に制限はない。
【0044】
次いで、この第2の塗布液を塗布することで得られた第2の塗布膜を、100℃以上、好ましくは200℃以上の温度にて、0.1時間以上かつ24時間以下、熱処理し、第2の塗布液中のリン成分を薄膜中に含浸させる。
ここで、熱処理温度が100℃を下回るか、熱処理時間が不足すると、第2の塗布液中のリン成分を薄膜中に十分に含浸させることができず、したがって、薄膜の表層部におけるリン成分の含有量が不足することとなり、300℃以上の高温での有機物の焦げ付き汚れの除去容易性を充分に発揮することができない。
一方、熱処理温度が高すぎたり、熱処理時間が長すぎると、製品の基体が変形する虞があるので、熱処理温度及び熱処理時間を製品の基体に応じて適宜調整する。熱処理時の雰囲気は特に制限されず、通常、大気中で行う。
【0045】
なお、第1の工程で得られた薄膜が100℃以上の高温状態にあった場合には、この薄膜の表面に第2の塗布液を塗布するだけで第2の塗布液中のリン成分が薄膜中に容易に含浸させることができる。したがって、この場合には、第2の工程の熱処理をわざわざ施す必要はない。この第2の工程の熱処理は、このような形態の熱処理も含むものである。
【0046】
このようにして得られた薄膜の化学構造は、次に挙げる(1)または(2)の無機物質により構成されていると考えられる。
(1)ジルコニウム(Zr)原子とリン(P)原子が酸素(O)原子を介して結合した下記式(2)
【化2】

にて表される化学結合を分子骨格中に有するジルコニウム−リン−ケイ素酸化物により構成され、このリン−ジルコニウム酸化物が三次元網目構造を形成した無機物質。
【0047】
(2)ジルコニウム(Zr)原子とリン(P)原子とケイ素(Si)原子が酸素(O)原子を介して結合した下記式(3)
【化3】

にて表される化学結合を分子骨格中に有するジルコニウム−リン−ケイ素酸化物により構成され、このジルコニウム−リン−ケイ素酸化物が三次元網目構造を形成した無機物質。
【0048】
このようにして得られた薄膜は、それを構成する成分の違いにより、それぞれ、次のような優れた防汚性を備えている。
(1)塗布液中の薄膜形成成分が、酸化ジルコニウム微粒子のみの場合、または、酸化ジルコニウム微粒子とケイ素成分を含み、このケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が20質量%以下の場合は、調理中に付着した食品等の有機物の焦げ付き汚れの除去容易性や糞便の除去容易性、特に、300℃以上の高温で焦げ付いた汚れの除去容易性が特に優れたものとなり、油汚れの除去容易性、水垢の除去容易性も良好である。
【0049】
(2)塗布液中の薄膜形成成分が、酸化ジルコニウム微粒子のみの場合、または、酸化ジルコニウム微粒子とケイ素成分を含み、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が20質量%を超えかつ50質量%以下の場合は、油汚れの除去容易性が特に優れたものとなり、調理中に付着した食品等の有機物の300℃以上の高温での焦げ付き汚れの除去容易性、水垢や糞便の除去容易性も良好である。
【0050】
「第3の実施形態」
本実施形態の着色防汚性製品の製造方法は、平均粒径が20nm以下の酸化ジルコニウム微粒子と、リン成分と、溶媒とを含む塗布液を、製品の基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理し、薄膜とする方法である。
【0051】
この塗布液における酸化ジルコニウム微粒子及び溶媒としては、第1の実施形態における酸化ジルコニウム微粒子及び溶媒と同様のものを使用することができる。
また、この塗布液におけるリン成分としては、第2の実施形態におけるリン成分と同様のものを使用することができる。
さらに、この塗布液に、用いる塗布方法に適した塗布性(粘性)を付与するために、増粘剤を添加してもよい。このような増粘剤としては、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂等を挙げることができる。
【0052】
この塗布液におけるリン成分の含有量は、リン(P)に換算して0.01質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましい。このリン成分の含有量が0.01質量%を下回ると、リン成分の添加効果を得ることができず、したがって、300℃以上の高温で焦げ付いた汚れの除去容易性を向上させることができず、一方、10質量%を超えると、薄膜の膜強度の低下の原因となるので好ましくない。
【0053】
この塗布液においては、さらに、ケイ素成分を含有することとし、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下であることが好ましい。
このケイ素成分としては、第1の実施形態のケイ素成分と全く同様のものを用いることができる。
【0054】
ここで、この酸化ケイ素(SiO)の質量百分率を20質量%以下、好ましくは1質量%以上かつ20質量%以下の範囲に限定すると、例えば、調理中に付着した食品等の有機物の焦げ付き汚れの除去容易性や糞便の除去容易性が特に優れたものとなる。もちろん、油汚れの除去容易性、水垢の除去容易性、薄膜の耐水性も良好となる。
また、この酸化ケイ素(SiO)の質量百分率を20質量%を超えかつ50質量%以下の範囲に限定すると、油汚れの除去性が特に優れたものとなる。もちろん、調理中に付着した食品等の有機物の焦げ付き汚れの除去容易性、水垢の除去容易性、薄膜の耐水性も良好となる。
【0055】
この塗布液が、薄膜の成膜成分として、ジルコニウム成分と、リン成分と、ケイ素成分とを含む場合、この成膜成分の含有率は、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、リン成分をリン(P)に、それぞれ換算したときの、これらの合計の含有率が1質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましい。
この成膜成分の合計の含有率が1質量%を下回ると、所定の膜厚の薄膜を形成することが困難となり、一方、合計の含有率が10質量%を超えると、薄膜が乳白化したり、剥離する原因となるので好ましくない。
【0056】
上記の製品としては、第1の実施形態における製品と同様のものを用いることができる。
次いで、この塗布液を、製品の本体を構成する基体の表面の少なくとも一部、すなわち、少なくとも、食品が触れる虞のある領域、油汚れが生じる虞のある領域等の有機物に起因する汚れや水垢が固着し易い領域に、塗布する。
塗布法としては、特に制限されず、例えば、スプレー法、デイップ法、刷け塗り法等が好適に用いられる。
【0057】
塗布にあたっては、塗布膜の厚みを、熱処理後の膜厚が0.01μm以上かつ10μm以下の範囲になるように調整することが好ましい。
この薄膜の厚みが0.01μmを下回ると、例えば、調理中に付着した食品等の有機物に起因する焦げ付き汚れ、油汚れ、水垢の除去容易性が不充分となるので好ましくなく、一方、厚みが10μmを越えると、薄膜の耐衝撃性が低下してクラックが入り易く、また、透明性が低下して製品の基体の色調等の意匠性が低下するので好ましくない。
【0058】
このようにして得られた塗布膜を、100℃以上、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは400℃以上の温度にて、例えば、1分以上かつ3時間以下、好ましくは10分以上かつ3時間以下、熱処理し、薄膜とする。
熱処理温度が100℃を下回ると、得られた薄膜の膜強度が低下するので好ましくない。なお、熱処理温度が高すぎるか、または熱処理時間が長すぎると、製品の基体が変形する虞があるため、熱処理温度及び熱処理時間を製品を構成する基体の材質に応じて調整する。熱処理時の雰囲気は特に制限されず、通常、大気雰囲気中で行う。
【0059】
このようにして得られた薄膜は、第2の実施形態における薄膜と同様の化学構造を有し、また、その薄膜を構成する成分の違いにより、それぞれ、次のような優れた防汚性を備えている。
(1)塗布液中の薄膜形成成分が、酸化ジルコニウム微粒子及びリン成分を含む場合、または、酸化ジルコニウム微粒子とケイ素成分とリン成分とを含み、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が20質量%以下の場合は、調理中に付着した食品等の有機物の焦げ付き汚れの除去容易性や糞便の除去容易性、特に、300℃以上の高温で焦げ付いた汚れの除去容易性が特に優れたものとなり、油汚れの除去容易性、水垢の除去容易性も良好である。
【0060】
(2)塗布液中の薄膜形成成分が、酸化ジルコニウム微粒子とリン成分を含む場合、または、酸化ジルコニウム微粒子ケイ素成分とリン成分とを含み、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が20質量%を超えかつ50質量%以下の場合は、油汚れの除去容易性が特に優れたものとなり、調理中に付着した食品等の有機物の300℃以上の高温での焦げ付き汚れの除去容易性、水垢の除去容易性も良好である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0062】
「実施例1」
平均粒径が5nmの酸化ジルコニウム微粒子を2−プロパノール中に分散させた、濃度が1.96質量%の分散液99.92質量部に、0.08質量部のテトラメトキシシランを添加し、塗布液を得た。この塗布液中における、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率は2質量%であった。
【0063】
次いで、この塗布液を、結晶化ガラス製のコンロ天板上に塗布量が1g/m(塗膜形成成分の酸化物換算)となるようにスプレー法により塗布し、大気雰囲気中、250℃にて30分間熱処理し、コンロ天板上に薄膜を成膜し、実施例1の防汚性製品を得た。薄膜の厚みは0.2μmであった。
【0064】
「実施例2」
平均粒径が5nmの酸化ジルコニウム微粒子を2−プロパノール中に分散させた、濃度が1.8質量%の分散液99.6質量部に、0.4質量部のテトラメトキシシランを添加し、塗布液を得た。この塗布液中における、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率は10質量%であった。
次いで、この塗布液を用いて、実施例1に準じて実施例2の防汚性製品を得た。薄膜の厚みは0.2μmであった。
【0065】
「実施例3」
平均粒径が5nmの酸化ジルコニウム微粒子を2−プロパノール中に分散させた、濃度が1.64質量%の分散液99.28質量部に、0.72質量部のテトラメトキシシランを添加し、塗布液を得た。この塗布液中における、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率は18質量%であった。
次いで、この塗布液を用いて、実施例1に準じて実施例3の防汚性製品を得た。薄膜の厚みは0.2μmであった。
【0066】
「実施例4」
平均粒径が5nmの酸化ジルコニウム微粒子を2−プロパノール中に分散させた、濃度が1.5質量%の分散液99質量部に、1.0質量部のテトラメトキシシランを添加し、塗布液を得た。この塗布液中における、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率は25質量%であった。
次いで、この塗布液を用いて、実施例1に準じて実施例4の防汚性製品を得た。薄膜の厚みは0.2μmであった。
【0067】
「実施例5」
平均粒径が5nmの酸化ジルコニウム微粒子を2−プロパノール中に分散させた、濃度が1.1質量%の分散液98.2質量部に、1.8質量部のテトラメトキシシランを添加し、塗布液を得た。この塗布液中における、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率は45質量%であった。
次いで、この塗布液を用いて、実施例1に準じて実施例5の防汚性製品を得た。薄膜の厚みは0.2μmであった。
【0068】
「実施例6」
平均粒径が5nmの酸化ジルコニウム微粒子を水に分散させた分散液(濃度:5質量%)を実施例1で用いた結晶化ガラス製製のコンロ天板上に、塗布量が0.2g/m(塗膜形成成分の酸化物換算、すなわち酸化ジルコニウム量)となるようにスクリーン印刷し、大気雰囲気下、250℃の温度にて30分間熱処理して焼付け、コンロ天板上に薄膜を形成した。この薄膜の厚みは0.04μmであった。
【0069】
次いで、このコンロ天板上に、1質量%(P)換算のトリポリリン酸ナトリウム水溶液をスプレー法により塗布し、再度、大気雰囲気下、250℃にて30分間熱処理した。その後、水洗して薄膜上の残渣を取り除き、実施例6の防汚性製品を得た。
この実施例6の防汚性製品の薄膜の表面におけるリン(P)の含有量を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定したところ、0.1質量%であった。
【0070】
「実施例7」
実施例2の塗布液を用いた他は、実施例6に準じて、実施例7の防汚性製品を得た。薄膜の厚みは0.04μmであった。
この実施例7の防汚性製品の薄膜の表面におけるリン(P)の含有量を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定したところ、0.1質量%であった。
【0071】
「実施例8」
実施例4の塗布液を用いた他は、実施例6に準じて、実施例8の防汚性製品を得た。薄膜の厚みは0.04μmであった。
この実施例8の防汚性製品の薄膜の表面におけるリン(P)の含有量を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定したところ、0.1質量%であった。
【0072】
「実施例9」
実施例6の分散液99.99質量部に、トリポリリン酸ナトリウム0.01質量部を添加して塗布液とした。
この塗布液を実施例1で用いた結晶化ガラス製製のコンロ天板上に、塗布量が0.2g/m(塗膜形成成分の酸化物換算)となるようにスクリーン印刷し、大気雰囲気下、250℃にて30分間熱処理して焼付け、コンロ天板上に薄膜を形成し、実施例9の防汚性製品を得た。この薄膜の厚みは0.04μmであった。
この実施例9の防汚性製品の薄膜の表面におけるリン(P)の含有量を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定したところ、0.1質量%であった。
【0073】
「実施例10」
実施例2の塗布液99.99質量部に、トリポリリン酸ナトリウム0.01質量部を添加して塗布液とした。
この塗布液を用いた他は、実施例9に準じて実施例10の防汚性製品を得た。この薄膜の厚みは0.04μmであった。
この実施例10の防汚性製品の薄膜の表面におけるリン(P)の含有量を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定したところ、0.1質量%であった。
【0074】
「実施例11」
実施例4の塗布液99.99質量部に、トリポリリン酸ナトリウム0.01質量部を添加して塗布液とした。
この塗布液を用いた他は、実施例9に準じて、実施例11の防汚性製品を得た。この薄膜の厚みは0.04μmであった。
この実施例11の防汚性製品の薄膜の表面におけるリン(P)の含有量を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定したところ、0.1質量%であった。
【0075】
「比較例1」
平均粒径が5nmの酸化ジルコニウム微粒子を水に分散させた分散液(濃度:5質量%)を実施例1で用いた結晶化ガラス製のコンロ天板上に、1g/m(固形分換算)の塗布量にてスクリーン印刷し、大気雰囲気下、250℃にて30分間熱処理して焼付け、コンロ天板上に薄膜を形成し、比較例1の防汚性製品を得た。この薄膜の厚みは0.2μmであった。
【0076】
「比較例2」
平均粒径が5nmの酸化ジルコニウム微粒子を2−プロパノール中に分散させた、濃度が0.9質量%の分散液97.8質量部に、2.2質量部のテトラメトキシシランを添加し、塗布液を得た。この塗布液中における、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率は55質量%であった。
次いで、この塗布液を用いて、実施例1に準じて比較例2の防汚性製品を得た。薄膜の厚みは0.2μmであった。
【0077】
「比較例3」
比較例2の塗布液を実施例1で用いた結晶化ガラス製のコンロ天板上に、塗布量が1g/m(塗膜形成成分の酸化物換算)となるようにスクリーン印刷し、大気雰囲気下、250℃にて30分間熱処理して焼付け、コンロ天板上に薄膜を形成した。この薄膜の厚みは0.2μmであった。
【0078】
次いで、このコンロ天板上に、1質量%(P)換算のトリポリリン酸ナトリウム水溶液をスプレー法により塗布し、再度、大気雰囲気下、250℃にて30分間熱処理した。その後、水洗して薄膜上の残渣を取り除き、比較例3の防汚性製品を得た。
この比較例3の防汚性製品の薄膜の表面におけるリン(P)の含有量を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定したところ、0.1質量%であった。
【0079】
「比較例4」
比較例2の塗布液99.99質量部に、トリポリリン酸ナトリウム0.01質量部を添加して塗布液とした。
次いで、この塗布液を用いて、実施例1に準じて比較例4の防汚性製品を得た。薄膜の厚みは0.2μmであった。
【0080】
「比較例5」
平均粒径が200nmの酸化ジルコニウム粒子を水に分散させた分散液(濃度:5質量%)を用いた他は、比較例1に準じて、比較例5の防汚性製品を得た。しかしながら、この比較例5の防汚性製品の薄膜は膜強度が不充分であったために、薄膜が簡単に剥離した。
【0081】
「評価」
実施例1〜11及び比較例1〜4それぞれの防汚性製品の防汚性1〜4及び耐水性を評価した。評価方法は次のとおりである。この評価結果を表1に示す。
(1)防汚性1(焦げ付き汚れの除去容易性)
薄膜上に醤油を滴下し、大気中250℃にて1時間加熱し、醤油を焦げ付かせた。次いで、水を含ませた布を用いてこの焦げ付きを水拭きして、除去の容易性を評価した。
(2)防汚性2(焦げ付き汚れの除去容易性)
薄膜上に醤油を滴下し、大気中350℃にて1時間加熱し、醤油を焦げ付かせた。次いで、水を含ませた布を用いてこの焦げ付きを水拭きして、除去の容易性を評価した。
【0082】
(3)防汚性3(油汚れの除去容易性)
薄膜上に廃てんぷら油を1ml滴下し、水を含ませた布を用いて、この廃てんぷら油を水拭きし、「べたつき残り」を指先で確認し、除去の容易性を評価した。
(4)防汚性4(水垢の除去容易性)
防汚性製品の薄膜上に水道水を1ml滴下し、大気中、100℃にて1時間加熱して水分を蒸発させ、水垢を析出させた。次いで、水を含ませた布を用いて水垢を水拭きし、除去の容易性を評価した。
(5)耐水性
防汚性製品を、水道水を沸騰させた沸騰水中に24時間浸漬した後、薄膜を指で擦り、薄膜の剥離状況を評価した。
【0083】
表1中の防汚性1〜4及び耐水性については、◎は「極めて良好」、○は「良好」、△は「やや良」、×は「不良」をそれぞれ表している。
また、実施例6〜11及び比較例3、4の「薄膜中のSiO量」及び「薄膜中のZrO量」は、リンの存在を無視して計算した質量百分率である。
【0084】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の防汚性製品の製造方法は、平均粒径が20nm以下の酸化ジルコニウム微粒子と、溶媒とを含み、必要に応じてケイ素成分、リン成分を含む塗布液を、製品の基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理して薄膜とすることにより、調理中に付着した食品の焦げ付き汚れ、油汚れ、糞便等の有機物に起因した汚れや水垢を水拭き程度で簡単に除去することができるものであるから、食品の調理に用いられる調理器具や各種厨房設備の付帯部品はもちろんのこと、この調理器具以外の防汚性が要求される各種部材や各種部品等に対しても適用可能であり、その工業的意義は極めて大きいものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が20nm以下の酸化ジルコニウム微粒子と、ケイ素成分と、溶媒とを含み、前記ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下である塗布液を、製品の基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理し、薄膜とすることを特徴とする防汚性製品の製造方法。
【請求項2】
平均粒径が20nm以下の酸化ジルコニウム微粒子と、溶媒とを含む第1の塗布液を、製品の基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理して薄膜とし、次いで、この薄膜の表面にリン成分を含有する第2の塗布液を塗布し、100℃以上の温度にて熱処理することを特徴とする防汚性製品の製造方法。
【請求項3】
前記第1の塗布液は、さらに、ケイ素成分を含有し、前記ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下であることを特徴とする請求項2記載の防汚性製品の製造方法。
【請求項4】
平均粒径が20nm以下の酸化ジルコニウム微粒子と、リン成分と、溶媒とを含む塗布液を、製品の基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理し、薄膜とすることを特徴とする防汚性製品の製造方法。
【請求項5】
前記塗布液は、さらに、ケイ素成分を含有し、前記ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下であることを特徴とする請求項4記載の防汚性製品の製造方法。

【公開番号】特開2009−178631(P2009−178631A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18046(P2008−18046)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】