説明

防火区画貫通部構造およびその施工方法

【課題】施工性、経済性に優れる防火区画貫通部構造を提供すること。
【解決手段】建築物に設けられた防火区画を画成する床に形成された貫通孔と、
前記貫通孔を貫通するケーブル・配管類と、上方向に開いた形状の円錐状筒体シートと、耐火性パテと、を少なくとも有する構造であって、
前記ケーブル・配管類は、前記円錐状筒体シートの内側を挿通し、前記円錐状筒体シートは、前記円錐状筒体シートの外周面が前記貫通孔の上端に接触して配置され、前記耐火性パテは、前記円錐状筒体シート内側と前記ケーブル・配管類との間に配置されていることを特徴とする、防火区画貫通部構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物に設けられた防火区画を画成する床に形成された貫通孔を上下方向に貫通するケーブル・配管類に対する防火区画貫通部構造およびその施工方法に関し、さらに詳しくは火災の際の煙の拡散や延焼等を防ぐための防火区画貫通部構造およびその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物に設けられた防火区画を画成する床にケーブル・配管類を配設する場合、前記床に貫通孔を形成してからこの貫通孔にケーブル・配管類を貫通させることが通常である。この場合、前記防火区画を画成する床の上下方向の一方の防火区画に火災等が発生した場合、前記ケーブル・配管類を通じて、他方の防火区画に煙が拡散したり、延焼が生じたりする問題がある。
この問題に対応するために、前記貫通孔と前記ケーブル・配管類との間に耐火性充填材を配置する構造が提案されている。
図11は、従来の防火区画貫通部構造を表した模式要部断面図である。
図11に示される様に、床1の上部より支持金具2が配置され、この支持金具2上に無機質繊維板3が配置され、さらに貫通孔4と前記ケーブル・配管類5との間に耐火性充填材6を配置する防火区画貫通部構造が提案されている(特許文献1)。
この防火区画貫通部構造によれば、床の下側からアンカーボルトや防火板を取り付ける作業を必要としないので作業性が良好であり、作業時間を短縮することができるとされる。
【特許文献1】特開平1−243810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、図11に示される従来の防火区画貫通部構造の場合、前記貫通孔4全体に前記耐火性充填材6を配置しなければならず、施工性に問題があった。
また前記耐火性充填材6を多量に使用するため、経済性の面でも問題があった。
本発明の目的は、施工性、経済性に優れる防火区画貫通部構造およびその施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記問題を解決すべく本発明者らが鋭意検討した結果、上方向に開いた形状の円錐状筒体シートを使用して、前記円錐状筒体シート内側と前記ケーブル・配管類との間に耐火性パテを配置した防火区画貫通部構造が本発明の目的に適うことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち本発明は、
[1]建築物に設けられた防火区画を画成する床に形成された貫通孔と、
前記貫通孔を貫通するケーブル・配管類と、
上方向に開いた形状の円錐状筒体シートと、
耐火性パテと、
を少なくとも有する構造であって、
前記ケーブル・配管類は、前記円錐状筒体シートの内側を挿通し、
前記円錐状筒体シートは、前記円錐状筒体シートの外周面が前記貫通孔の上端に接触して配置され、
前記耐火性パテは、前記円錐状筒体シート内側と前記ケーブル・配管類との間に配置されていることを特徴とする、防火区画貫通部構造を提供するものであり、
[2]前記円錐状筒体シートが、熱膨張性耐火シートからなることを特徴とする、上記[1]に記載の防火区画貫通部構造を提供するものであり、
[3]前記貫通孔を上部から覆うための円形孔を備えた遮蔽板をさらに有するものであって、
前記円錐状筒体シートは、前記円錐状筒体シートの外周面が前記貫通孔の上端に接触して配置される代わりに、前記円錐状筒体シートの外周面が前記遮蔽板の円形孔上端に接触して配置されることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載の防火区画貫通部構造を提供するものであり、
[4]上記の記載に加えて、
前記耐火性パテが、前記円錐状筒体シートの外周面と前記床上面との双方に接触して、前記円錐状筒体シートの外周面に沿って配置されているか、
または
前記円錐状筒体シートの外周面と前記遮蔽板上面との双方に接触して、前記円錐状筒体シートの外周面に沿って配置されていることを特徴とする、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の防火区画貫通部構造を提供するものであり、
[5]建築物に設けられた防火区画を画成する床に形成された貫通孔を貫通するケーブル・配管類の周囲に沿ってシートを丸めてから前記シート端部同士を固定して、上方向に開いた形状の円錐状筒体シートを形成することにより、前記円錐状筒体シートの外周面を前記貫通孔の上端に接触させて配置する工程と、
前記円錐状筒体シート内側と前記ケーブル・配管類との間に耐火性パテを配置する工程と、を少なくとも有することを特徴とする、防火区画貫通部構造の施工方法を提供するものであり、
[6]前記円錐状筒体シートの外周面を前記貫通孔の上端に接触させて配置する前に、円形孔を有する遮蔽板により前記貫通孔を上部から覆う工程をさらに有するものであり、
前記円錐状筒体シートの外周面を前記貫通孔の上端に接触させる代わりに、前記遮蔽板の円形孔上端に接触させることを特徴とする、上記[5]に記載の防火区画貫通部構造の施工方法を提供するものであり、
[7]上記の工程に加えて、
前記円錐状筒体シートの外周面を前記貫通孔の上端に接触させて配置した後に、前記円錐状筒体シートの外周面と前記床上面との双方に接触して、前記円錐状筒体シートの外周面に沿って前記耐火性パテを配置する工程、
または
前記円錐状筒体シートの外周面を前記円形孔の上端に接触させて配置した後に、前記円錐状筒体シートの外周面と前記遮蔽板上面との双方に接触して、前記円錐状筒体シートの外周面に沿って前記耐火性パテを配置する工程、
を有することを特徴とする、上記[5]または[6]に記載の防火区画貫通部構造の施工方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、前記円錐状筒体シートを使用することにより、簡便な操作により前記ケーブル・配管類の周囲に耐火性パテを配置することができるため施工性に優れる。また建築物に設けられた防火区画を画成する床に形成された貫通孔全体を耐火性パテで埋める必要がないため、防火区画貫通部構造に使用する前記耐火性パテの使用総量を少なく抑えることができるため、経済性に優れる。
【0007】
さらに、前記耐火性パテの使用総量を少なく抑えつつも、前記ケーブル・配管類の周囲に密接して前記耐火性パテを配置しているため、例えば前記耐火性パテとして吸熱性の機能を持つもの、熱膨張性の機能を持つものを使用した場合、前記ケーブル・配管類を火災等の炎等が伝わろうとした場合に、それぞれその熱を除去したり、膨張して炎等の伝わる空間を閉塞させたりすることができるため、優れた耐火性能をも発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に図面を参照しつつ、本発明の第一の実施態様である防火区画貫通部構造について説明する。
図1は本発明が適用される建築物に設けられた防火区画を画成する床1に形成された貫通孔4と、前記貫通孔4を貫通するケーブル・配管類5との関係を説明するための模式要部断面図である。
図1に例示した床1は階上と階下との防火区画を画成するものの一例であるが、本発明が適用される建築物に設けられた防火区画を画成する床1としては、例えば、コンクリートを打設して形成されたスラブ床等が挙げられる。
【0009】
図1に例示される様に、隣接する階上と階下との防火区画を画成する床1には、前記床1を垂直方向に貫通する貫通孔4が形成されている。
前記貫通孔4は隣接する防火区画を連通するものであり、ケーブル・配管類5を挿入できる大きさを有している。また第一の実施態様の場合の前記貫通孔4は、前記床1と平行な面で切断したときの断面が円形を有するものである。
【0010】
本発明に使用する前記ケーブル・配管類5に限定はなく、例えば、ケーブル、配管等を使用することができる。
前記ケーブルとしては、例えば、CVケーブル、単心ケーブルを2本束ねたCVDケーブル、単心ケーブルを3本束ねたCVTケーブル等の他、他の電源ケーブル、信号ケーブル等を挙げることができる。
例えば、絶縁体として架橋ポリエチレンを使用したCVケーブルで、その公称断面積が250mmのケーブルの場合、導体の外径が約19mmで、その外周の絶縁体の厚さが2.5mm程度、さらに外側のシース厚さが約1.8mmであり、単線の直径は30mm弱程度となっている。
また前記配管としては、例えば、給排水管、吸排気管、水道管、ガス管、冷暖房用媒体移送管等を挙げることができる。
【0011】
図2は本発明に使用する円錐状筒体シートについて説明するための模式正面図および模式斜視図である。
図2(a)に例示される様に、扇状のシート10の端部11および12をステープラー13で固定することにより、図2(b)に例示される様に、上方向に開いた形状の円錐状筒体シート20を形成することができる。
前記扇状のシート10の端部11および12を固定する際には耐熱テープ、耐熱接着剤等を併用してもよいし、前記ステープラー13に代えて耐熱テープ、耐熱接着剤等を使用してもよい。
【0012】
前記シート10としては、例えば、グラスウール、ロックウール、セラミックウール、石膏繊維、炭素繊維、ステンレス繊維、スラグ繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維等の無機繊維系シート、不燃紙等の難燃シート、アルミニウム板、鉄板、ステンレス板等の金属シート、熱膨張性耐火シート等が挙げられる。
本発明に使用する円錐状筒体シート20は、熱膨張性耐火シートを含むものであれば好ましい。
なお、前記シート10の形状は図2(a)に例示した扇状に限定されることはなく、設置する床、貫通孔、ケーブル・配管類等の種類や数に応じて適宜変更することができる。
【0013】
図3は、前記貫通孔に前記円錐状筒体シートを配置した状態を説明するための模式要部斜視図である。
前記貫通孔4にはケーブル・配管類が貫通している。図3では前記ケーブル・配管類として、給排水管5aが使用されている。
図3に例示される様に、前記円錐状筒体シート20は、その外周面21が前記貫通孔4の上端に接触して配置されている。
この様に前記円錐状筒体シート20は前記貫通孔4の最大径と同じかそれよりも大きい外径の外周面21を有するため、前記円錐状筒体シート20を前記貫通孔4に設置した場合に前記円錐状筒体シート20が前記貫通孔4から落下することを防止することができる。
【0014】
図4は、前記貫通孔に前記円錐状筒体シートを配置した状態を説明するための模式要部断面図である。
図4に例示される様に、前記円錐状筒体シート20の下端22が前記ケーブル・配管類としての給排水管5aに接触して配置されている。
なお、前記円錐状筒体シート20の下端22は必ずしも前記ケーブル・配管類としての給排水管5aに接触している必要はなく、本発明に使用する前記円錐状筒体シート20は、その下端22の外径が、前記円錐状筒体シート20の上端の外径よりも小さければよい。
また前記円錐状筒体シート20の下端22は、前記給排水管5a等のケーブル・配管類の周囲に沿って熱膨張性耐火テープ等により貼着してもよい。
前記熱膨張性耐火テープを貼着することにより、本発明の防火区画貫通部構造が火災にさらされた場合に前記熱膨張性耐火テープが膨張して前記給排水管5aに対する断熱性を高めることができる。
【0015】
図5は、前記円錐状筒体シート内側と前記ケーブル・配管類としての給排水管5aとの間に耐火性パテが配置されている状態を説明するための模式要部断面図である。
図5に例示した様に、前記円錐状筒体シート20の内側と前記ケーブル・配管類としての給排水管5aとの間に耐火性パテを配置することにより本発明の防火区画貫通部構造を得ることができる。
【0016】
前記耐火性パテとしては、例えば、ポリブテン、ポリブタジエン等の有機系バインダー、石膏、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機充填剤等を含む粘土状充填材やペースト状充填材、熱膨張性耐火樹脂組成物からなる粘土状充填材やペースト状充填材等を挙げることができる。
中でも石膏、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等は火災等の熱にさらされたときに吸熱作用を示し、前記ケーブル・配管類が高温となるのを防止することができることから、石膏、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等を含む粘土状充填材やペースト状充填材を使用することが好ましい。また前記熱膨張性耐火樹脂組成物からなる粘土状充填材やペースト状充填材は火災等の熱にさらされたときに膨張して断熱作用を示すことから好ましい。
【0017】
前記第一の実施態様の場合には、前記耐火性パテとして、熱膨張性耐火樹脂組成物からなる粘土状充填材40が使用されている。
第一の実施態様の場合には、火災等の熱にさらされた場合に熱膨張性耐火樹脂組成物からなる粘土状充填材40が膨張して断熱層を形成するため、前記給排水管を通じて他の防火区画へ火災が延焼すること等を防止することができる。
【0018】
また前記円錐状筒体シート20の外周面と前記床1上面との双方に接触して前記円錐状筒体シート20の外周面に沿って前記耐火性パテを配置することが好ましい。
前記耐火性パテを前記円錐状筒体シート20の外周面と前記床1との間に配置することにより、火災発生時に前記円錐状筒体シート20の外周面と前記床1との隙間から煙が拡散したり、延焼が生じたりすることを防止することができる。
【0019】
次に本発明の第二の実施態様である防火区画貫通部構造について説明する。
図6は第二の実施態様である防火区画貫通部構造を例示した模式要部断面図である。
先の第一の実施態様の場合では前記ケーブル・配管類として給排水管5aが使用されていたが、第二の実施態様の場合には通信ケーブル5bが三本束ねて使用されている点が異なる。この様に本発明防火区画貫通部構造では多様な前記ケーブル・配管類の種類に対応することができる。
【0020】
また先の第一の実施態様の場合では、前記耐火性パテとして熱膨張性耐火樹脂組成物からなる粘土状充填材40が使用されていたが、第二の実施態様の場合では、前記耐火性パテとして石膏、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等を含む粘土状充填材41が使用されている点が異なる。
【0021】
第二の実施態様の場合には、火災等の熱にさらされた場合に石膏、水酸化アルミニウム水酸化マグネシウム等を含む粘土状充填材41が吸熱作用を示すため、前記通信ケーブルが銅線等の熱を伝えやすい材料で構成されている場合であっても前記通信ケーブルを通じて熱が伝わることを低減させることができる。これにより前記通信ケーブルを通じて延焼が生じたり、他の通信配線や通信機器に損傷が生じたりすることを防止することができる。
【0022】
次に第三の実施態様である防火区画貫通部構造について説明する。
図7は本発明に使用する遮蔽板の設置状態を説明するための模式要部斜視図である。
前記遮蔽板50には予め前記ケーブル・配管類としての給排水管5aを余裕を持って貫通させることのできる円形孔51が設けられていて、この円形孔51を前記ケーブル・配管類として給排水管5aが貫通している。
【0023】
また前記床1には断面が矩形状の貫通孔7(破線にて表示)が形成されている。この貫通孔7に対し、図7に例示する様に、二枚に分割された遮蔽板50を前記給排水管5aの手前方向と奥方向からそれぞれ配置し、前記床1に対してアンカーボルト60で固定することにより遮蔽板50を貫通孔7に配置することができる。
前記遮蔽板50,50の接合部上面には熱膨張性耐火テープ30を配置しておくことが好ましい。
【0024】
図8は第三の実施態様である防火区画貫通部構造を例示した模式要部断面図である。
先の図7に例示した構造に対して先の第一の実施態様の場合と全く同様にして、図8に例示した第三の実施態様である防火区画貫通部構造を得ることができる。
【0025】
先の第一および第二の実施態様の場合には前記貫通孔4は、前記床1と平行な面で切断したときの断面が円形のものであったが、第三の実施態様の場合には前記貫通孔7はその断面が矩形である点が異なる。
【0026】
また図8に例示する様に、前記貫通孔7に対して二枚に分割された遮蔽板50が配置されていて、前記円錐状筒体シート20は、その外周面21が前記遮蔽板50の円形孔51の上端に接触して配置されている。
【0027】
本発明に使用する前記遮蔽板50の種類に特に限定はないが、例えば、セラミックボード、ケイ酸カルシウム板、ロックウールボード、中空押出セメント板等を使用することができる。
【0028】
単に遮蔽板により前記貫通孔を覆っただけの防火区画貫通部構造の場合には前記ケーブル・配管類を通じて熱が伝わり他の防火区へ延焼等が広がる場合があるのに対し、本発明の防火区画貫通部構造では前記円錐状筒体シート20と熱膨張性耐火樹脂組成物からなる粘土状充填材40とにより前記ケーブル・配管類5に対する熱の影響を低減させることができ、他の防火区画へ延焼等が広がることを防止することができる。
また第三の実施態様によれば、前記貫通孔の形状に依存することなく、本発明の防火区画貫通部構造を得ることができる。
【0029】
本発明に使用する前記円錐状筒体シートは、例えば、熱膨張性耐火シートからなるものであるが、次に本発明に使用する前記熱膨張性耐火シートについて説明する。
前記熱膨張性耐火シートとしては、例えば、具体的には熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂成分、熱膨張性層状無機物、リン化合物、無機充填材等を含む熱膨張性耐火樹脂組成物からなるもの等を挙げることができる。
【0030】
前記熱膨張性耐火樹脂組成物の各成分のうち、まず前記樹脂成分について説明する。
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1−)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイソブチレン等の合成樹脂類、
天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、非加硫ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム物質等が挙げられる。
【0031】
これらの合成樹脂類及び/又はゴム物質は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0032】
前記合成樹脂類及び/又はゴム物質の中でも、ハロゲン化されたものは、それ自体難燃性が高く、熱による脱ハロゲン化反応により架橋が起こり、加熱後の残渣の強度が向上する点において好ましい。
【0033】
また、これらの合成樹脂類及び/又はゴム物質の中でも、柔軟でゴム的性質を持っているものが好ましい。この様な性質を持つものは無機充填材を高充填することが可能であり、得られる樹脂組成物が柔軟で扱い易いものとなる。
【0034】
より柔軟で扱い易い熱膨張性耐火樹脂組成物を得るためには、非加硫ゴムやポリエチレン系樹脂が好適に用いられる。
【0035】
前記ポリエチレン系樹脂としては、例えば、エチレン単独重合体、エチレンを主成分とするエチレンと他のα−オレフィンとの共重合体、エチレンとα−オレフィン以外のモノマーとの共重合体及びこれらの共重合体や重合体の混合物等が挙げられる。
【0036】
前記エチレンを主成分とするエチレンと他のα−オレフィンとの共重合体におけるα−オレフィンとしては、例えば、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−ブテン、1−ペンテン等が挙げられる。
【0037】
また、前記エチレンとα−オレフィン以外のモノマーとの共重合体としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体等が挙げられる。
【0038】
前記エチレン単独重合体又はエチレンと他のα−オレフィンとの共重合体としては、例えば、チーグラー・ナッタ触媒、バナジウム触媒、4価の遷移金属を含むメタロセン化合物等を重合触媒として重合されたものが挙げられるが、中でも、4価の遷移金属を含むメタロセン化合物等を触媒として得られるポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0039】
前記合成樹脂類及び/又はゴム物質には、更に、本発明における熱膨張性耐火シートの耐火性能を阻害しない範囲で、架橋や変性が施されてもよい。
前記合成樹脂類及び/又はゴム物質の架橋や変性を行う時期については、特に限定されず、予め架橋、変性した前記合成樹脂類及び/又はゴム物質を用いてもよく、後述するリン化合物や無機充填材等の他の成分を配合する際に同時に架橋や変性を行ってもよい。
【0040】
また、前記合成樹脂類及び/又はゴム物質に他の成分を配合した後に架橋や変性してもよく、上記架橋や変性は、いずれの段階で行ってもよい。
【0041】
前記の架橋方法については特に限定されず、前記合成樹脂類及び/又はゴム物質について通常行われる架橋方法により実施することができる。例えば、各種架橋剤、過酸化物等を使用する架橋方法、電子線照射による架橋方法が挙げられる。
【0042】
また、本発明に使用する樹脂成分のうち、先に示したエポキシ樹脂としては、特に限定はないが、例えば、エポキシ基を持つモノマーと硬化剤とを反応させて得られる樹脂等を挙げることができる。
【0043】
前記エポキシ基を持つモノマーとしては、例えば、2官能のグリシジルエーテル型として、ポリエチレングリコール型、ポリプロピレングリコール型、ネオペンチルグリコール型、1,6−ヘキサンジオール型、トリメチロールプロパン型、プロピレンオキサイド−ビスフェノールA、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型等のモノマーが挙げられる。
【0044】
また、グリシジルエステル型として、ヘキサヒドロ無水フタル酸型、テトラヒドロ無水フタル酸型、ダイマー酸型、p−オキシ安息香酸型等のモノマーが挙げられる。
【0045】
更に多官能のグリシジルエーテル型として、フェノールノボラック型、オルトクレゾー
ル型、DPPノボラック型、ジシクロペンタジエン、フェノール型等のモノマーが挙げられる。
【0046】
これらは、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0047】
また、前記硬化剤としては、例えば、重付加型硬化剤、触媒型硬化剤等が挙げられる。
前記重付加型硬化剤としては、例えば、ポリアミン、酸無水物、ポリフェノール、ポリメルカプタン等が挙げられる。
前記触媒型硬化剤としては、例えば三級アミン類、イミダゾール類、ルイス酸錯体等が挙げられる。
これらエポキシ樹脂の硬化方法は特に限定されず、公知の方法により行うことができる。
【0048】
なお、前記樹脂成分の溶融粘度、柔軟性、粘着性等の調整のため、二種以上の樹脂成分をブレンドしたものを使用することができる。
【0049】
次に前記熱膨張性耐火樹脂組成物の各成分のうち、前記熱膨張性層状無機物について説明する。
前記熱膨張性層状無機物は加熱時に膨張するものであるが、かかる熱膨張性層状無機物に特に限定はなく、例えば、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛等を挙げることができる。
【0050】
前記熱膨張性黒鉛とは、従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラフ
ァイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものであり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。
【0051】
上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和したものを使用するのが好ましい。
【0052】
前記脂肪族低級アミンとしては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。
【0053】
前記アルカリ金属化合物および前記アルカリ土類金属化合物としては、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
【0054】
前記熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜200メッシュの範囲のものが好ましい。
粒度が20メッシュより小さくなると、黒鉛の膨張度が小さく、充分な耐火断熱層が得られにくく、また、粒度が200メッシュより大きくなると、黒鉛の膨張度が大きいという利点はあるが、前記熱可塑性樹脂又はエポキシ樹脂と混練する際に分散性が悪くなり、物性が低下し易い。
【0055】
上記中和された熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、UCAR CARBON社製の「GRAFGUARD#160」、「GRAFGUARD#220」、東ソー社製の「GREP−EG」等が挙げられる。
【0056】
次に先の熱膨張性耐火樹脂組成物の各成分のうち、前記無機充填材について説明する。
前記無機充填材としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム等のカリウム塩、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セビオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、無機系リン化合物、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維等が挙げられる。
【0057】
これらは、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0058】
前記無機充填材は骨材的役割を果たして、加熱後に生成する膨張断熱層強度の向上や熱容量の増大に寄与する。
【0059】
このため、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛で代表される金属炭酸塩、骨材的役割の他に加熱時に吸熱効果も付与する水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムで代表される含水無機物が好ましく、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び周期律表IIbの金属炭酸塩又はこれらと前記含水無機物との混合物が好ましい。
【0060】
また、リン化合物は、難燃性を向上させる為に用いられる。
前記リン化合物としては、特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム類;化学式1で表される化合物等が挙げられる。
【0061】
これらのリン化合物は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0062】
これらのうち、耐火性の観点から、赤リン、下記の化学式で表される化合物、及び、ポリリン酸アンモニウム類が好ましく、性能、安全性、費用等の点においてポリリン酸アンモニウム類がより好ましい。
【0063】
【化1】

上記化学式中、R及びRは、水素、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数6〜16のアリール基を表す。
【0064】
は、水酸基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基、又は、炭素数6〜16のアリールオキシ基を表す。
【0065】
前記化学式で表される化合物としては、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチル−ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。
【0066】
中でも、t−ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点において好ましい。
【0067】
ポリリン酸アンモニウム類としては、特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、難燃性、安全性、コスト、取扱性等の点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。
【0068】
市販品としては、例えば、クラリアント社製の「商品名:EXOLIT AP422」及び「商品名:EXOLIT AP462」、住友化学工業社製「スミセーフP」等が挙げられる。
【0069】
前記リン化合物は、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛等の金属炭酸塩と反応して、金属炭酸塩の膨張を促すと考えられ、特に、リン化合物として、ポリリン酸アンモニウムを使用した場合に、高い膨張効果が得られる。
【0070】
また、有効な骨材として働き、燃焼後に形状保持性の高い残渣を形成する。
【0071】
本発明に使用する無機充填材が粒状の場合には、その粒径としては、0.5〜200μmの範囲のものが好ましく、より好ましくは、1〜50μmの範囲のものである。
【0072】
無機充填材の添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため、粒径の小さいものが好ましいが、粒径0.5μm未満では二次凝集が起こり、分散性が悪くなることがある。
【0073】
また、無機充填材の添加量が多いときは、高充填が進むにつれて、樹脂組成物の粘度が高くなり成形性が低下するが、粒径を大きくすることによって樹脂組成物の粘度を低下させることができる点から、上記範囲の中でも粒径の大きいものが好ましい。
【0074】
なお、粒径が200μmを超えると、成形体の表面性、樹脂組成物の力学的物性が低下することがある。
【0075】
前記無機充填材の中でも、特に骨材的役割を果たす炭酸カルシウム、炭酸亜鉛等の金属炭酸塩;骨材的役割の他に加熱時に吸熱効果を付与する水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の含水無機物が好ましい。
【0076】
前記含水無機物及び金属炭酸塩を併用することは、燃焼残渣の強度向上や熱容量増大に大きく寄与すると考えられる。
【0077】
前記無機充填材の中で、特に水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の含水無機物は、加熱時の脱水反応によって生成した水のために吸熱が起こり、温度上昇が低減されて高い耐熱性が得られる点、及び、燃焼残渣として酸化物が残存し、これが骨材となって働くことで燃焼残渣の強度が向上する点で好ましい。
【0078】
また、水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムは、脱水効果を発揮する温度領域が異なるため、併用すると脱水効果を発揮する温度領域が広くなり、より効果的な温度上昇抑制効果が得られることから、併用することが好ましい。
【0079】
前記含水無機物の粒径は、小さくなると嵩が大きくなって高充填化が困難となるので、脱水効果を高めるために高充填するには粒径の大きなものが好ましい。
【0080】
具体的には、粒径が18μmでは、1.5μmの粒径に比べて充填限界量が約1.5倍程度向上することが知られている。
【0081】
さらに、粒径の大きいものと小さいものとを組み合わせることによって、より高充填化が可能となる。
【0082】
前記含水無機物の市販品としては、例えば、水酸化アルミニウムとして、粒径1μmの「商品名:ハイジライトH−42M」(昭和電工社製)、粒径18μmの「商品名:ハイジライトH−31」(昭和電工社製)等が挙げられる。
【0083】
前記炭酸カルシウムの市販品としては、例えば、粒径1.8μmの「商品名:ホワイトンSB赤」(白石カルシウム社製)、粒径8μmの「商品名:BF300」(備北粉化社製)等が挙げられる。
【0084】
冒頭に説明したとおり、本発明に使用する熱膨張性耐火シートは、上記に説明した熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂成分、前記熱膨張性層状無機物、前記無機充填材等を含む熱膨張性耐火樹脂組成物からなるもの等を挙げることができるが、次にこれらの配合について説明する。
【0085】
前記熱膨張性耐火樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂成分100重量部に対し、前記熱膨張性層状無機物を20〜350重量部及び前記無機充填材を50〜400重量部の範囲で含むものが好ましい。
【0086】
また、前記熱膨張性層状無機物および前記無機充填材の合計は、200〜600重量部の範囲が好ましい。
【0087】
かかる樹脂組成物は加熱によって膨張し耐火断熱層を形成する。この配合によれば、前記熱膨張性耐火材は火災等の加熱によって膨張し、必要な体積膨張率を得ることができ、膨張後は所定の断熱性能を有すると共に所定の強度を有する残渣を形成することもでき、安定した防火性能を達成することができる。
【0088】
前記層状無機物の量が20重量部未満であると、膨張倍率が不足し、充分な耐火、防火性能が得られないことがある。
一方、層状無機物の量が350重量部を超えると、擬集力が不足するため、成形品としての強度が得られないことがある。
また前記無機充填材の量が50重量部未満であると、燃焼後の残体積量が減少するため、充分な耐火断熱層が得られないことがある。
さらに可燃物の比率が増加するため、難燃性が低下することがある。
【0089】
一方、無機充填材の量が400重量部を超えると樹脂成分の配合比率が減少するため、凝集力が不足して成形品としての強度が得られにくい。
【0090】
前記熱膨張性耐火樹脂組成物における熱膨張性層状無機物及び無機充填材の合計量は、200重量部未満では燃焼後の残渣量が不足して十分な耐火性能が得られにくく、600重量部を超えると機械的物性の低下が大きくなり、使用に耐えられなくなることがある。
【0091】
さらに本発明に使用する前記熱膨張性耐火樹脂組成物は、それぞれ本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤の他、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料、粘着付与樹脂等の添加剤、ポリブテン、石油樹脂等の粘着付与剤を含むことができる。
【0092】
次に前記熱膨張性耐火樹脂組成物の施工方法について説明する。
前記熱膨張性耐火樹脂組成物の施工方法に特に限定はないが、例えば、前記熱膨張性耐火樹脂組成物に含まれる前記樹脂分が熱可塑性樹脂である場合は、前記熱膨張性耐火樹脂組成物の各成分を押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー等公知の混練装置に供給して溶融混練する方法や、前記熱膨張性耐火樹脂組成物の各成分を有機溶剤に懸濁させたり、加温して溶融させたりして塗料状にしたり、溶剤に分散してスラリーを調製する等の方法により、前記熱膨張性耐火樹脂組成物を得ることができる。
【0093】
また、前記熱膨張性耐火樹脂組成物に含まれる前記樹脂分が前記エポキシ樹脂である場合は、例えば、前記熱膨張性耐火樹脂組成物を有機溶剤に懸濁させたり、加温して溶融させたりして塗料状とする方法や、溶剤に分散してスラリーを調製する等の方法、また前記熱膨張性耐火樹脂組成物を加熱下に溶融させる等の方法により前記熱膨張性耐火樹脂組成物を得ることができる。
【0094】
前記熱膨張性耐火樹脂組成物は、上記各成分を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、遊星式撹拌機等公知の装置を用いて混練することにより得ることができる。
【0095】
また、エポキシ基をもつモノマーと硬化剤とに別々に充填材を混練しておき、成形直前にスタティックミキサー、ダイナミックミキサー等で混練して得ることもできる。
【0096】
以上説明した方法により、本発明に使用する前記熱膨張性耐火樹脂組成物を得ることができる。
【0097】
前記熱膨張性耐火樹脂組成物は市販品として入手可能であり、例えば、住友スリ―エム社製のファイアバリア(クロロプレンゴムとバーミキュライトを含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:3倍、熱伝導率:0.20kcal/m・h・℃)、三井金属塗料社のメジヒカット(ポリウレタン樹脂と熱膨張性黒鉛を含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:4倍、熱伝導率:0.21kcal/m・h・℃)、積水化学工業社製フィブロック(ブチルゴムを含む熱膨張性耐火材)等の熱膨張性耐火材等も挙げられる。
【0098】
前記熱膨張性耐火樹脂組成物は、火災時などの高温にさらされた際にその膨張層により断熱し、かつその膨張層の強度があるものであれば特に限定されないが、50kW/mの加熱条件下で30分間加熱した後の体積膨張率が3〜50倍のものであれば好ましい。前記体積膨張率が3倍を下回ると、膨張体積が前記樹脂成分の焼失部分を十分に埋めきれず防火性能が低下することがある。また50倍を超えると、膨張層の強度が下がり、火炎の貫通を防止する効果が低下することがある。より好ましくは、体積膨張率が5〜40倍の範囲であり、さらに好ましくは8〜35倍の範囲である。
【0099】
前記膨張層が自立するためには、前記膨張層は強度の大きいことが必要であり、その強度としては、圧縮試験器にて0.25cmの圧子を用いて、前記膨張層のサンプルを0.1m/sの圧縮速度で測定した場合の破断点応力が0.05kgf/cm以上であれば好ましい。破断点応力が0.05kgf/cmを下回ると、断熱膨張層が自立できなくなり防火性能が低下することがある。より好ましくは、0.1kgf/cm以上である。
【0100】
本発明に使用する熱膨張性耐火シートは、先に説明した熱膨張性耐火樹脂組成物をシート状に成形することにより得ることができる。
【0101】
前記熱膨張性耐火樹脂組成物を用いて、例えば、プレス成形、押出し成形、カレンダー成形等の従来公知の方法により成形することにより、前記熱膨張性耐火シートを得ることができる。
【0102】
前記熱膨張性耐火シートは、施工性や燃焼残渣強度を改善する目的で基材層が積層されているものであってもよい。
前記基材層としては、例えば、布、不織布、樹脂フィルム、割布、ガラスクロス、アルミ箔、アルミガラスクロス等が挙げられる。
前記熱膨張性耐火シートの厚みは、施工作業性や耐火性能の面から、通常は0.5〜10mmの範囲であり、1〜5mmの範囲であれば好ましい。
この様にして得られた熱膨張性耐火シートを使用することができる。
【0103】
次に必要に応じて本発明に使用する熱膨張性耐火テープについて説明する。
前記熱膨張性耐火テープは、通常、先に説明した熱膨張性耐火シートを幅5〜200mm程度に切断し、ロール状に巻き取ったものを使用する。
前記熱膨張性耐火テープは、本発明に使用する円錐状筒体シート等に巻き付ける際の施工作業性を簡便にするために自己粘着性を有するものが好ましい。前記熱膨張性耐火テープに自己粘着性を持たせるためには前記熱膨張性耐火樹脂組成物として、例えば、ブチルゴムおよびポリブテン等の液状樹脂ならびに粘着付与剤として石油樹脂等が配合されたもの等を使用すればよい。
【0104】
次に本発明に使用する前記耐火性パテとして熱膨張性耐火樹脂組成物からなる粘土状充填材、ペースト状充填材について説明する。
なお粘土状充填材はその形状を自由に変形させることができる一方、自己流動性がほとんどないものをいい、ペースト状充填材は自己流動性があるものをいう。
前記熱膨張性耐火樹脂組成物からなる粘土状充填材は前記熱膨張性耐火樹脂組成物からなるものである。
また熱膨張性耐火樹脂組成物からなるペースト状充填材は前記熱膨張性耐火樹脂組成物のうち自己流動性を有するものであり、先の熱膨張性耐火樹脂組成物の各成分のうち、前記樹脂成分として常温で液体または半固体の各種ゴム系樹脂、例えばプロピレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、ブチルゴム、ニトリルゴム等や、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリペンテン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等を使用することにより得ることができる。
【0105】
また可塑剤として、必要に応じて、プロセスオイル、塩化パラフィン、ジオクチルフタレート(DOP)、シリコーンオイル等を添加する。これにより熱膨張性耐火樹脂組成物からなるペースト状充填材を得ることができる。
【0106】
次に本発明の防火区画貫通部構造の施工方法について説明する。
図9は本発明の第一の実施態様である防火区画貫通部構造の製造工程を説明するための模式要部斜視図である。
まず前記ケーブル・配管類である給排水間5aの周囲に沿って前記シート10を丸めて前記貫通孔4に挿入する。続いて前記シート10の端部11および12をステープラー、耐熱テープ、耐熱接着剤等で固定することにより、上方向に開いた形状の円錐状筒体シート20を形成する(図2参照)。このとき前記円錐状筒体シート20の外周面を前記貫通孔4の上端に接触させると共に、前記円錐状筒体シート20の下端を前記ケーブル・配管類としての給水配管5aに接触させて配置する(図4参照)。
施工の際には両面テープ、接着テープ等を用いて前記シート10を仮止めしながら作業を進めてもよい。
なお前記円錐状筒体シート20の下端を必要に応じて熱膨張性耐火テープ等で固定することもできる。
これにより、図4に例示した構造を得ることができる。
【0107】
続いて前記円錐状筒体シート20内部と前記給排水管5aとの間に耐火性パテとして熱膨張性耐火樹脂組成物からなる粘土状充填材40を配置する(図5参照)。
【0108】
図10は本発明の第一の実施態様である防火区画貫通部構造を例示した模式要部斜視図である。
図10に例示される様に、前記円錐状筒体シート20の外周面21と前記床1上面との双方に接触して、前記円錐状筒体シート20の外周面21に沿って前記耐火性パテとして熱膨張性耐火樹脂組成物からなる粘土状充填材40を配置することにより、図10に例示した本発明の第一の実施態様である防火区画貫通部構造を得ることができる。
【0109】
第二および第三の実施態様の場合も同様にして防火区画貫通部構造を得ることができる。
【0110】
上記に説明した通り、本発明の防火区画貫通部構造はその構成が簡便であり、施工性に優れる。また使用する耐火性パテ等を防火区画を画成する床に形成された貫通孔全体に埋設する必要がないため、前記耐火性パテ等の使用量を削減することができ、経済性に優れる。
また前記耐火性パテは前記貫通孔を貫通するケーブル・配管類に接して配置されているため、前記ケーブル・配管類を通じて火災による熱が広がることを防止することができる。
さらに遮蔽板を併用することにより、前記床に設けられた貫通孔の形状に依存せず、本発明の防火区画貫通部構造を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】貫通孔と、ケーブル・配管類との関係を説明するための模式要部断面図である。
【図2】本発明に使用する円錐状筒体シートについて説明するための模式正面図および模式斜視図である。
【図3】貫通孔に円錐状筒体シートを配置した状態を説明するための模式要部斜視図である。
【図4】貫通孔に円錐状筒体シートを配置した状態を説明するための模式要部断面図である。
【図5】円錐状筒体シート内側とケーブル・配管類との間に耐火性パテが配置されている状態を説明するための模式要部断面図である。
【図6】第二の実施態様である防火区画貫通部構造を例示した模式要部断面図である。
【図7】本発明に使用する遮蔽板の設置状態を説明するための模式要部斜視図である。
【図8】第三の実施態様である防火区画貫通部構造を例示した模式要部断面図である。
【図9】本発明の第一の実施態様である防火区画貫通部構造の製造工程を説明するための模式要部斜視図である。
【図10】本発明の第一の実施態様である防火区画貫通部構造の模式要部斜視図である。
【図11】従来の防火区画貫通部構造を表した模式要部断面図である。
【符号の説明】
【0112】
1 床
2 支持金具
3 無機質繊維板
4 貫通孔
5 ケーブル・配管類
5a 給排水管
5b 通信ケーブル
6 耐火性充填材
7 貫通孔
10 扇状のシート
11、12 扇状のシート端部
13 ステープラー
20 円錐状筒体シート
21 円錐状筒体シートの外周面
22 円錐状筒体シートの下端
30 熱膨張性耐火テープ
40 熱膨張性耐火樹脂組成物からなる粘土状充填材
41 石膏、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等を含む無機粘土状充填材
50 遮蔽板
51 円形孔
60 アンカーボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物に設けられた防火区画を画成する床に形成された貫通孔と、
前記貫通孔を貫通するケーブル・配管類と、
上方向に開いた形状の円錐状筒体シートと、
耐火性パテと、
を少なくとも有する構造であって、
前記ケーブル・配管類は、前記円錐状筒体シートの内側を挿通し、
前記円錐状筒体シートは、前記円錐状筒体シートの外周面が前記貫通孔の上端に接触して配置され、
前記耐火性パテは、前記円錐状筒体シート内側と前記ケーブル・配管類との間に配置されていることを特徴とする、防火区画貫通部構造。
【請求項2】
前記円錐状筒体シートが、熱膨張性耐火シートからなることを特徴とする、請求項1に記載の防火区画貫通部構造。
【請求項3】
前記貫通孔を上部から覆うための円形孔を備えた遮蔽板をさらに有するものであって、
前記円錐状筒体シートは、前記円錐状筒体シートの外周面が前記貫通孔の上端に接触して配置される代わりに、前記円錐状筒体シートの外周面が前記遮蔽板の円形孔上端に接触して配置されることを特徴とする、請求項1または2に記載の防火区画貫通部構造。
【請求項4】
上記の記載に加えて、
前記耐火性パテが、前記円錐状筒体シートの外周面と前記床上面との双方に接触して、前記円錐状筒体シートの外周面に沿って配置されているか、
または
前記円錐状筒体シートの外周面と前記遮蔽板上面との双方に接触して、前記円錐状筒体シートの外周面に沿って配置されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の防火区画貫通部構造。
【請求項5】
建築物に設けられた防火区画を画成する床に形成された貫通孔を貫通するケーブル・配管類の周囲に沿ってシートを丸めてから前記シート端部同士を固定して、上方向に開いた形状の円錐状筒体シートを形成することにより、前記円錐状筒体シートの外周面を前記貫通孔の上端に接触させて配置する工程と、
前記円錐状筒体シート内側と前記ケーブル・配管類との間に耐火性パテを配置する工程と、を少なくとも有することを特徴とする、防火区画貫通部構造の施工方法。
【請求項6】
前記円錐状筒体シートの外周面を前記貫通孔の上端に接触させて配置する前に、円形孔を有する遮蔽板により前記貫通孔を上部から覆う工程をさらに有するものであり、
前記円錐状筒体シートの外周面を前記貫通孔の上端に接触させる代わりに、前記遮蔽板の円形孔上端に接触させることを特徴とする、請求項5に記載の防火区画貫通部構造の施工方法。
【請求項7】
上記の工程に加えて、
前記円錐状筒体シートの外周面を前記貫通孔の上端に接触させて配置した後に、前記円錐状筒体シートの外周面と前記床上面との双方に接触して、前記円錐状筒体シートの外周面に沿って前記耐火性パテを配置する工程、
または
前記円錐状筒体シートの外周面を前記円形孔の上端に接触させて配置した後に、前記円錐状筒体シートの外周面と前記遮蔽板上面との双方に接触して、前記円錐状筒体シートの外周面に沿って前記耐火性パテを配置する工程、
を有することを特徴とする、請求項5または6に記載の防火区画貫通部構造の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−30227(P2009−30227A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191943(P2007−191943)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】