説明

防火区画貫通部構造

【課題】スリーブを使用しない場合であっても、火災等の熱にさらされた場合の熱膨張性耐火シートの膨張残渣と配管類との間の密閉性および耐火性に優れる防火区画貫通部構造を提供すること。
【解決手段】構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔に挿通された配管類と、前記配管類の周囲に設置された保温材と、前記貫通孔と前記保温材との間に設置された熱膨張性耐火シートとを備え、
前記貫通孔と前記配管類との隙間が、前記保温材および熱膨張性耐火シートにより閉塞されるか、または前記保温材、熱膨張性耐火シートおよびシール材により閉塞され、
前記熱膨張性耐火シートが、前記保温材側から金属箔層、熱膨張性樹脂層および無機繊維層を少なくとも備えることを特徴とする、防火区画貫通部構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物や船舶構造物等の構造物の仕切り部に設けられた防火区画貫通部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物等の構造物の仕切り部の一方で火災が発生した場合でも、炎や煙等が他方へ広がることを防ぐために、建築物等の仕切部には通常区画が設けられている。
この建築物内部に配管類を設置する場合には、この区画を貫通する孔を設け、この貫通孔に配管類を挿通する必要がある。
しかしながら単に配管類を前記の孔に挿通させただけでは火災等の発生時に前記貫通孔を伝わって、炎や煙等が区画の一方から他方へ拡散する問題がある。
【0003】
この問題に対応するためにこれまで様々な構造が提案されている。
前記貫通孔を通して炎や煙等が拡散することを防止するために、区画に設けられた貫通孔にスリーブと呼ばれるさや管を設置し、そのスリーブ内部を配管類が挿通している構造について、前記配管類に対して空間を設けて前記スリーブ内部に熱膨張性耐火シートを貼着した構造が提案されている(特許文献1)。
図10は従来の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
建築物等の仕切部に設けられた区画100に形成された貫通孔にスリーブ110が設置されている。前記貫通孔と前記スリーブ110との隙間はモルタル等の不燃固定材120が充填されている。また前記スリーブ110内部に配管類130が挿通している。
前記スリーブ100の両端はシール材140により覆われているため、図10に示された防火区画貫通部構造の近くで火災等が発生した場合でも煙等が区画の一方からスリーブ110内部を通って他方へ広がることを防止することができる。
またスリーブ110内部に空間を設けて熱膨張性耐火シート150が貼着されているため、図10に示された防火区画貫通部構造が火災等の熱にさらされた場合には前記熱膨張性耐火シート150が膨張して前記スリーブ110内部を閉塞する。これにより火災等により発生した炎等が区画の一方からスリーブ110内部を通って他方へ広がることも防止することができる。
従来の防火区画貫通部構造はスリーブ110を有することから、前記スリーブ110の内部を挿通する配管類130の増設、交換、撤去等を容易に行うことができる。また従来の防火区画貫通部構造が火災等の熱にさらされた場合には前記スリーブ110を介して前記スリーブ内部に貼着された熱膨張性耐火シート150が比較的均一に加熱されるため、設計通りに前記熱膨張性耐火シート150が膨張し、前記スリーブ110内部の空間を閉塞する。この様に従来の防火区画貫通部構造ではスリーブの存在が重要な意味を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−46964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら建築物等の構造物の中には施工性や経済性等の理由によりスリーブの設置を省略することが好ましい場合がある。
図11は、図10に示される従来の防火区画構造からスリーブを撤去した防火区画貫通部構造を説明するための模式断面である。
図11に示される防火区画貫通部構造はスリーブを使用していない。先の図10の場合ではスリーブ内部に熱膨張性耐火シートが貼着されていたが、図11の場合には貫通孔の内面に不燃固定材120を介して熱膨張性耐火シート150が貼着されている。
図11に示される防火区画貫通部構造の場合でも火災等の熱にさらされた場合には、先の図10により説明したスリーブを使用した防火区画貫通部構造の場合と同様に貫通孔と配管類130との隙間が膨張した熱膨張性耐火シート150により閉塞されることが期待できる。
【0006】
ところが本発明者らが検討したところ、図11に示されるスリーブを使用しない防火区画貫通部構造が火災等の熱にさらされた場合には熱膨張性耐火シート150は膨張するものの、熱膨張性耐火シート150の膨張残渣が十分に配管類130と密着せず、前記膨張残渣が赤熱して配管類の周囲を十分に閉塞できないため、前記膨張残渣と配管類との間に隙間が生じる場合のあることに気が付いた。
前記膨張残渣が配管類130の周囲を十分に閉塞せず、前記膨張残渣と配管類130との間に隙間が生じると火災等が発生した区画の一方から他方へ煙や有毒ガスが拡散したり、延焼が生じたりすることになる。
【0007】
本発明の目的は、スリーブを使用しない場合であっても、火災等の熱にさらされた場合の熱膨張性耐火シートの膨張残渣と配管類との間の密閉性および耐火性に優れる防火区画貫通部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討した結果、防火区画貫通部構造の中でも、配管類側から金属箔層、熱膨張性樹脂層および無機繊維層を少なくとも備える熱膨張性耐火シートを使用した防火区画貫通部構造が本発明の目的に適うことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、
[1]構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔に挿通された配管類と、
前記配管類の周囲に設置された保温材と、
前記貫通孔と前記保温材との間に設置された熱膨張性耐火シートとを備え、
前記貫通孔と前記配管類との隙間が、前記保温材および熱膨張性耐火シートにより閉塞されるか、または前記保温材、熱膨張性耐火シートおよびシール材により閉塞され、
前記熱膨張性耐火シートが、前記保温材側から金属箔層、熱膨張性樹脂層および無機繊維層を少なくとも備えることを特徴とする、防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0010】
また本発明は、
[2]前記熱膨張性耐火シートが、金属箔層、エポキシ樹脂含有熱膨張性樹脂層および金属箔ラミネート無機繊維層を少なくとも備え、
前記金属箔層の厚みが7〜30μmの範囲である、上記[1]に記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0011】
また本発明は、
[3]前記保温材の周囲および熱膨張性耐火シートの端面に接して設置されたシール材が、前記貫通孔を覆う、上記[1]または[2]に記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0012】
また本発明は、
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載された防火区画貫通部構造の区画の一方から前記保温材が焼失または融解し、かつ前記熱膨張性耐火シートが膨張を開始する温度以上に加熱された際に、
金属箔層、熱膨張性樹脂層および無機繊維層を少なくとも備える熱膨張性耐火シートが、前記金属箔層を内側に巻き込みながら、前記区画の加熱された一方から他方へ向かって膨張することを特徴とする、熱膨張性耐火シートの膨張制御方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防火区画貫通部構造は前記保温材側から金属箔層、熱膨張性樹脂層および無機繊維層を少なくとも備える熱膨張性耐火シートを使用していることから、前記防火区画貫通部構造が一方の区画から加熱された場合、最外面の金属箔層の張力により前記金属箔層を内側に巻き込みながら、前記区画の加熱された一方から他方へ向かって熱膨張性樹脂層が膨張する。この際、熱膨張性樹脂層は区画の貫通孔の中心方向に膨張するだけではなく、区画に対して垂直方向にも膨張する。これにより、単に熱膨張性樹脂層が区画の貫通孔の中心方向に膨張する従来の防火区画貫通部構造と比較して、火災等の熱にさらされた場合の熱膨張性耐火シートの膨張残渣と配管類との間の密閉性および耐火性に優れる防火区画貫通部構造を提供することができる。
【0014】
また本発明に使用する金属箔層の厚みが7〜30μmの範囲にある場合には、前記防火区画貫通部構造が一方の区画から加熱された場合、円滑に前記金属箔層を内側に巻き込みながら、前記区画の加熱された一方から他方へ向かって熱膨張性樹脂層が膨張することから同様に火災等の熱にさらされた場合の熱膨張性耐火シートの膨張残渣と配管類との間の密閉性および耐火性に優れる防火区画貫通部構造を提供することができる。
【0015】
また本発明の防火区画貫通部構造は、前記保温材の周囲および前記熱膨張性耐火シートの端面に接して設置されたシール材が前記貫通孔を覆っているため、区画の一方で発生した煙や有毒ガス等が他方へ広がることを防止することができる。
【0016】
また防火区画貫通部構造に対し、前記保温材側から金属箔層、熱膨張性樹脂層および無機繊維層を少なくとも備える熱膨張性耐火シートを使用することにより、前記防火区画貫通部構造が一方の区画から加熱された場合、熱膨張性耐火シートを貫通孔の中心方向へ膨張させることができると共に、前記区画の加熱された一方から他方へ向かって前記熱膨張性耐火シートの金属箔層を内側に巻き込ませつつ前記熱膨張性耐火シートの膨張を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図2】本発明の実施例1に使用した熱膨張性耐火シートを説明するための模式断面図である。
【図3】本発明の実施例1の防火区画貫通部構造に対して行った耐火試験を説明するための模式断面図である。
【図4】本発明の実施例1の防火区画貫通部構造に対して行った耐火試験を説明するための模式断面図である。
【図5】本発明の実施例1の防火区画貫通部構造に対して行った耐火試験を説明するための模式断面図である。
【図6】実施例2の防火区画貫通部構造を説明するための模式図断面図である。
【図7】実施例3の防火区画貫通部構造を説明するための模式図断面図である。
【図8】実施例4の防火区画貫通部構造を説明するための模式図断面図である。
【図9】比較例1の耐火試験において、中空壁の非加熱側から膨張残渣を観察した状態を示す模式断面図である。
【図10】従来の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図11】従来の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は防火区画貫通部構造に関するものであるが、最初に本発明に使用する配管類について説明する。
前記配管類は、建築物、船舶構造物等の構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔を挿通するものである。
【0019】
前記配管類としては、例えば、冷媒管、水道管、下水管、注排水管、燃料移送管、油圧配管等の液体移送用管類、ガス管、暖冷房用媒体移送管、通気管等の気体移送用管類、電線ケーブル、光ファイバーケーブル、船舶用ケーブル等のケーブル類等が挙げられる。
これらの中でも施工性の観点から冷媒管、水道管、下水管、注排水管、燃料移送管、油圧配管等の液体移送用管類が好ましく、冷媒管であればさらに好ましい。
【0020】
前記配管類は、液体移送用管類、気体移送用管類、ケーブル類等の一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0021】
前記配管類の形状については特に限定はないが、例えば、前記配管類の長軸方向に対し垂直方向の断面形状が三角形、四角形等の多角形、長方形等の互いの辺の長さが異なる形状、平行四辺形等の互いの内角が異なる形状、楕円形、円形等の形状が挙げられる。これらの中でも、断面形状が円形、四角形等であるものが施工性に優れることから好ましい。
【0022】
前記配管類の断面形状の大きさは、この断面形状の重心からこの断面形状の外郭線までの距離が最も大きい辺の長さを基準として、通常、1〜1000mmの範囲であり、好ましくは5〜750mmの範囲である。
前記配管類が液体移送用管類、気体移送用管類、ケーブル類等の場合には、通常0.5mm〜10cmの範囲であり、好ましくは1mm〜5cmの範囲である。
【0023】
前記配管類の素材については特に限定はないが、例えば、金属材料、無機材料、有機材料等の一種もしくは二種以上からなるものを挙げることができる。
前記金属材料としては、例えば、鉄、鋼、ステンレス、銅、二以上の金属を含む合金等を挙げることができる。
【0024】
また無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック等を挙げることができる。
また有機材料としては、例えば、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の合成樹脂等を挙げることができる。
前記素材は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0025】
本発明に使用する配管類は、前記金属材料管、無機材料管および有機材料管等の一種以上であるが、前記金属材料管、無機材料管および有機材料管等の二種以上を内筒や外筒に使用した積層管として使用することもできる。
前記配管類は金属材料管、有機材料管等が取扱い性の面から好ましく、鋼管、銅管等の金属材料管であればさらに好ましい。
【0026】
本発明に使用する配管類は、構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔を挿通するものであるが、前記区画としては、建築物の壁、間仕切り壁、床、天井等、船舶の防水区画や船室に設けられた鋼板等が挙げられる。
これらの区画に貫通孔を設けることにより、前記貫通孔に前記配管類を挿通させることが可能である。
【0027】
次に本発明に使用する熱膨張性耐火シートについて説明する。
本発明に使用する熱膨張性耐火シートは、金属箔層、熱膨張性樹脂層および無機繊維層を少なくとも備えるものである。
前記金属箔層に使用する金属箔としては、例えば、アルミニウム箔、銅箔、ステンレス箔、錫箔、鉛箔、錫鉛合金箔、クラッド箔、鉛アンチ箔等を挙げることができる。前記金属箔は取扱性の面からアルミニウム箔、銅箔等であれば好ましい。
【0028】
前記金属箔層の厚みは、7〜30μmの範囲であることが好ましく、7〜20μmの範囲であればさらに好ましい。
前記金属箔層の厚みが7μm未満の場合には金属箔の張力が十分ではなく、また前記金属箔層の厚みが30μmを越える場合には柔軟性に劣ることから、本発明の防火区画貫通部構造の一方の区画が火災等の熱にさらされた場合、前記熱膨張性耐火シートが前記金属箔層を内側に巻き込みながら加熱された区画の一方から他方へ円滑に膨張することが妨げられる場合がある。
【0029】
前記熱膨張性樹脂層に使用する熱膨張性樹脂組成物としては、例えば、エポキシ樹脂を樹脂成分とし、リン化合物、熱膨張性層状無機物および無機充填材等を含むエポキシ樹脂含有熱膨張性樹脂組成物等を挙げることができる。
【0030】
前記樹脂成分としては特に限定はないが、例えば、エポキシ基を持つモノマーと硬化剤とを反応させて得られる樹脂等を挙げることができる。
【0031】
前記エポキシ基を持つモノマーとしては、例えば、2官能のグリシジルエーテル型として、ポリエチレングリコール型、ポリプロピレングリコール型、ネオペンチルグリコール型、1,6−ヘキサンジオール型、トリメチロールプロパン型、プロピレンオキサイド−ビスフェノールA、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型等のモノマーが挙げられる。
【0032】
また、グリシジルエステル型として、ヘキサヒドロ無水フタル酸型、テトラヒドロ無水フタル酸型、ダイマー酸型、p−オキシ安息香酸型等のモノマーが挙げられる。
【0033】
更に多官能のグリシジルエーテル型として、フェノールノボラック型、オルトクレゾール型、DPPノボラック型、ジシクロペンタジエン、フェノール型等のモノマーが挙げられる。
【0034】
これらは、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0035】
また、前記硬化剤としては、例えば、重付加型硬化剤、触媒型硬化剤等が挙げられる。 前記重付加型硬化剤としては、例えば、ポリアミン、酸無水物、ポリフェノール、ポリメルカプタン等が挙げられる。
【0036】
前記触媒型硬化剤としては、例えば三級アミン類、イミダゾール類、ルイス酸錯体等が挙げられる。これらエポキシ樹脂の硬化方法は特に限定されず、公知の方法により行うことができる。
【0037】
なお、前記樹脂成分の溶融粘度、柔軟性、粘着性等の調整のため、二種以上の樹脂成分をブレンドしたものを使用することができる。
【0038】
また前記リン化合物としては、特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム類;化学式1で表される化合物等が挙げられる。
【0039】
これらのリン化合物は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0040】
これらのうち、耐火性の観点から、赤リン、下記の化学式で表される化合物、及び、ポリリン酸アンモニウム類が好ましく、性能、安全性、費用等の点においてポリリン酸アンモニウム類がより好ましい。
【0041】

上記化学式中、R及びRは、水素、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数6〜16のアリール基を表す。
【0042】
は、水酸基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基、又は、炭素数6〜16のアリールオキシ基を表す。
【0043】
前記化学式で表される化合物としては、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチル−ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。
【0044】
中でも、t−ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点において好ましい。
【0045】
ポリリン酸アンモニウム類としては、特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、難燃性、安全性、コスト、取扱性等の点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。
【0046】
市販品としては、例えば、クラリアント社製の「商品名:EXOLIT AP422」及び「商品名:EXOLIT AP462」等が挙げられる。
【0047】
前記リン化合物は、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛等の金属炭酸塩と反応して、金属炭酸塩の膨張を促すと考えられ、特に、リン化合物として、ポリリン酸アンモニウムを使用した場合に、高い膨張効果が得られる。また、有効な骨材として働き、燃焼後に形状保持性の高い残渣を形成する。
【0048】
次に前記熱膨張性樹脂組成物の各成分のうち、前記熱膨張性層状無機物について説明する。前記熱膨張性層状無機物は加熱時に膨張するものであるが、かかる熱膨張性層状無機物に特に限定はなく、例えば、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛等を挙げることができる。
【0049】
前記熱膨張性黒鉛とは、従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものであり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。
【0050】
上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和したものを使用するのが好ましい。
【0051】
前記脂肪族低級アミンとしては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。
【0052】
前記アルカリ金属化合物および前記アルカリ土類金属化合物としては、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
【0053】
前記熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜200メッシュの範囲のものが好ましい。
粒度が20メッシュより小さくなると、黒鉛の膨張度が小さく、充分な耐火断熱層が得られにくく、また、粒度が200メッシュより大きくなると、黒鉛の膨張度が大きいという利点はあるが、前記熱可塑性樹脂又はエポキシ樹脂と混練する際に分散性が悪くなり、物性が低下し易い。
【0054】
上記中和された熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、UCAR CARBON社製の「GRAFGUARD#160」、「GRAFGUARD#220」、東ソー社製の「GREP−EG」等が挙げられる。
【0055】
次に先の熱膨張性樹脂組成物の各成分のうち、前記無機充填材について説明する。
前記無機充填材としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム等のカリウム塩、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セビオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、無機系リン化合物、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維等が挙げられる。
【0056】
これらは、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0057】
前記無機充填材は骨材的役割を果たして、加熱後に生成する膨張断熱層強度の向上や熱容量の増大に寄与する。
【0058】
このため、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛で代表される金属炭酸塩、骨材的役割の他に加熱時に吸熱効果も付与する水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムで代表される含水無機物が好ましく、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び周期律表IIbの金属炭酸塩又はこれらと前記含水無機物との混合物が好ましい。
【0059】
本発明に使用する無機充填材が粒状の場合には、その粒径としては、0.5〜200μmの範囲のものが好ましく、より好ましくは、1〜50μmの範囲のものである。
【0060】
無機充填材の添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため、粒径の小さいものが好ましいが、粒径0.5μm未満では二次凝集が起こり、分散性が悪くなることがある。
【0061】
また、無機充填材の添加量が多いときは、高充填が進むにつれて、樹脂組成物の粘度が高くなり成形性が低下するが、粒径を大きくすることによって樹脂組成物の粘度を低下させることができる点から、上記範囲の中でも粒径の大きいものが好ましい。
【0062】
なお、粒径が200μmを超えると、成形体の表面性、樹脂組成物の力学的物性が低下することがある。
【0063】
前記無機充填材の中でも、特に骨材的役割を果たす炭酸カルシウム、炭酸亜鉛等の金属炭酸塩;骨材的役割の他に加熱時に吸熱効果を付与する水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の含水無機物が好ましい。
【0064】
前記含水無機物及び金属炭酸塩を併用することは、燃焼残渣の強度向上や熱容量増大に大きく寄与すると考えられる。
【0065】
前記無機充填材の中で、特に水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の含水無機物は、加熱時の脱水反応によって生成した水のために吸熱が起こり、温度上昇が低減されて高い耐熱性が得られる点、及び、燃焼残渣として酸化物が残存し、これが骨材となって働くことで燃焼残渣の強度が向上する点で好ましい。
【0066】
また、水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムは、脱水効果を発揮する温度領域が異なるため、併用すると脱水効果を発揮する温度領域が広くなり、より効果的な温度上昇抑制効果が得られることから、併用することが好ましい。
【0067】
前記含水無機物の粒径は、小さくなると嵩が大きくなって高充填化が困難となるので、脱水効果を高めるために高充填するには粒径の大きなものが好ましい。具体的には、粒径が18μmでは、1.5μmの粒径に比べて充填限界量が約1.5倍程度向上することが知られている。さらに、粒径の大きいものと小さいものとを組み合わせることによって、より高充填化が可能となる。
【0068】
前記含水無機物の市販品としては、例えば、水酸化アルミニウムとして、粒径1μmの「商品名:ハイジライトH−42M」(昭和電工社製)、粒径18μmの「商品名:ハイジライトH−31」(昭和電工社製)等が挙げられる。
【0069】
前記炭酸カルシウムの市販品としては、例えば、粒径1.8μmの「商品名:ホワイトンSB赤」(白石カルシウム社製)、粒径8μmの「商品名:BF300」(備北粉化社製)等が挙げられる。
【0070】
冒頭に説明したとおり、本発明に使用する熱膨張性耐火材としては、上記に説明したエポキシ樹脂等の樹脂成分、前記熱膨張性層状無機物、前記無機充填材等を含む樹脂組成物からなるもの等を挙げることができるが、次にこれらの配合について説明する。
【0071】
前記樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂等の樹脂成分100重量部に対し、前記熱膨張性層状無機物を20〜350重量部及び前記無機充填材を50〜400重量部の範囲で含むものが好ましい。また、前記熱膨張性層状無機物および前記無機充填材の合計は、200〜600重量部の範囲が好ましい。
【0072】
かかる樹脂組成物は加熱によって膨張し耐火断熱層を形成する。この配合によれば、前記熱膨張性耐火材は火災等の加熱によって膨張し、必要な体積膨張率を得ることができ、膨張後は所定の断熱性能を有すると共に所定の強度を有する残渣を形成することもでき、安定した防火性能を達成することができる。
【0073】
前記層状無機物の量が20重量部未満であると、膨張倍率が不足し、充分な耐火、防火性能が得られないことがある。一方、層状無機物の量が350重量部を超えると、擬集力が不足するため、成形品としての強度が得られないことがある。また前記無機充填材の量が50重量部未満であると、燃焼後の残体積量が減少するため、充分な耐火断熱層が得られないことがある。さらに可燃物の比率が増加するため、難燃性が低下することがある。
【0074】
一方、無機充填材の量が400重量部を超えると樹脂成分の配合比率が減少するため、凝集力が不足して成形品としての強度が得られにくい。
【0075】
前記樹脂組成物における熱膨張性層状無機物及び無機充填材の合計量は、200重量部未満では燃焼後の残渣量が不足して十分な耐火性能が得られにくく、600重量部を超えると機械的物性の低下が大きくなり、使用に耐えられなくなることがある。
【0076】
さらに本発明に使用する前記熱膨張性樹脂組成物は、それぞれ本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤の他、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料、粘着付与樹脂等の添加剤、ポリブテン、石油樹脂等の粘着付与剤を含むことができる。
【0077】
次に前記熱膨張性樹脂組成物の製造方法について説明する。前記熱膨張性樹脂組成物の製造方法に特に限定はないが、例えば、前記熱膨張性樹脂組成物を有機溶剤に懸濁させたり、加温して溶融させたりして塗料状とする方法や、溶剤に分散してスラリーを調製する等の方法、また前記熱膨張性樹脂組成物を加熱下に溶融させる等の方法により前記熱膨張性樹脂組成物を得ることができる。
【0078】
前記熱膨張性樹脂組成物は、上記各成分を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、遊星式撹拌機等公知の装置を用いて混練することにより得ることができる。
【0079】
また、エポキシ基をもつモノマーと硬化剤とに別々に充填材を混練しておき、成形直前にスタティックミキサー、ダイナミックミキサー等で混練して得ることもできる。
【0080】
以上説明した方法により、本発明に使用する前記熱膨張性樹脂組成物を得ることができる。
【0081】
本発明に使用する熱膨張性耐火シートに含まれる無機繊維層について説明する。
前記無機繊維層に使用する無機繊維としては、例えば、グラスウール、ロックウール、セラミックウール、石膏繊維、炭素繊維、ステンレス繊維、スラグ繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維等が挙げられる。
前記無機繊維層は、前記無機繊維を用いた無機繊維クロスを使用することが好ましい。
また前記無機繊維層に使用する無機繊維は、金属箔をラミネートしたものを使用することが好ましい。
金属箔ラミネート無機繊維の具体例としては、例えば、アルミニウム箔ラミネートガラスクロス、銅箔ラミネートガラスクロス等がさらに好ましい。
【0082】
本発明に使用する熱膨張性耐火シートは、金属箔層、熱膨張性樹脂層および無機繊維層等を積層することにより得ることができる。これらの積層には溶融同時押出、熱プレス等の他、接着剤により各層を貼着する手段等を挙げることができる。本発明に使用する熱膨張性耐火シートは金属箔層が最外面にあることが好ましい。
【0083】
次に本発明に使用する保温材について説明する。
前記保温材としては、例えば、ウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム、塩化ビニルフォーム、ポリスチレンフォーム等の内部に気泡を含む合成樹脂等が使用される。
内部に気泡を含む合成樹脂等は、火災等の熱にさらされると溶融するか焼失するため、熱膨張性耐火シートの膨張を妨げないことから好ましい。
【0084】
また本発明に使用するシール材としては、例えば、JIS A5758により規定されている建築用シーリング材、JIS A6024により規定されている建築補修用注入エポキシ樹脂シーリング材、JIS A6914により規定されている石膏ボード用目地処理材、モルタル、パテ、コーキング等を挙げることができる。前記シール材4は、施工性の観点からクロロプレンゴム等のゴムやシリコーン等に充填材、難燃剤等を配合してなるパテ、コーキング等であれば好ましい。
【0085】
次に本発明について図面に基づき実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0086】
図1は本発明の実施例1の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
実施例1では構造物の仕切り部に設けられた区画として、建築物の中空壁1が使用されている。
2枚の石膏ボードが一組となって所定間隔を置いて設置されることにより図1の中空壁1が形成されている。
前記中空壁1には円形の貫通孔2が形成されていて、この貫通孔2を銅管である配管類3が挿通している。
本実施例に使用した前記配管類3の外径は25mmであった。
【0087】
また前記配管類3の周囲には隙間無くウレタンフォームが保温材4として設置されている。前記保温材4の厚みは50mmであった。本発明に使用する保温剤の厚みは25〜65mmの範囲であることが好ましい。
さらに前記保温材4と貫通孔との隙間には前記保温材4の周囲に巻きつけられた熱膨張性耐火シート5が設置されている。前記熱膨張性耐火シート5の幅は前記中空壁1表面に対する垂直方向を基準として前記保温材4の厚みの100〜300%の範囲にあることが好ましい。
前記熱膨張性耐火シート5は中空壁1の内側へ20mm突き出る様に設置されている。
また前記配管類3と前記貫通孔2との隙間は、前記保温材4および熱膨張性耐火シート5により隙間無く閉塞されている。
【0088】
さらに前記保温材4の周囲および前記熱膨張性耐火シート5の端面に接して設置された不燃コーキングであるシール材6が、前記貫通孔2を覆う様に設置されている。
【0089】
図2は本発明の実施例1に使用した熱膨張性耐火シートを説明するための模式断面図である。
図2に示した通り、前記保温材4に熱膨張性耐火シート5が巻きつけられていて、中空壁1の貫通孔2内部に挿入されている。
【0090】
前記熱膨張性耐火シート5は、保温材4側から、アルミニウム箔10、エポキシ樹脂含有熱膨張性樹脂組成物11(商品名フィブロックとして積水化学工業社から入手可能)、およびアルミニウム箔ラミネートガラスクロス12が積層されてなるものである。
前記アルミニウム箔10の厚みは20μmである。またエポキシ樹脂含有熱膨張性樹脂組成物層11は1mm厚のものを三枚重ねて使用した。
【0091】
なお図1および図2では前記中空壁1に形成された貫通孔2に、配管類3、保温材4および熱膨張性耐火シート5が隙間無く充填されているため、前記中空壁1の表面に沿った貫通孔2の形状と、配管類3、保温材4および熱膨張性耐火シート5のそれぞれの前記中空壁1の表面に沿った断面の形状とが一致する。
【0092】
図3〜5は本発明の実施例1の防火区画貫通部構造に対して行った耐火試験を説明するための模式断面図である。
図3〜5のA側(図3の左側)からISO834に準拠した耐火試験を実施した。
耐火試験を開始すると、図3に例示される様に実施例1の防火区画貫通部構造に含まれる保温材4が溶融して失われると共に、熱膨張性耐火シートの膨張残渣20が膨張を開始した。
【0093】
図4に例示される様に、アルミニウム箔10が配管類3に接すると、このアルミニウム箔が前記膨張残渣20の膨張圧力を堰き止めるため、前記配管類3に接する前記膨張残渣20は圧縮されて前記配管類3に密着する。
さらに時間の経過と共に、図5に例示される様に、前記膨張残渣20の膨張する圧力により、前記アルミニウム箔10を内側に巻き込む様にして前記区画の加熱されたA側から加熱されていないB側へ向かって前記膨張残渣20が形成されていく。
【0094】
図5のB側から防火区画貫通部構造を観察すると、耐火試験の前後を通じて前記膨張残渣20が赤熱される現象は観察することができなかった。
また耐火試験開始後、2時間経過後も非加熱側の保温材4の温度の上昇は111℃であり、前記防火区画貫通部構造のB側に炎の漏出も観察することができなかった。
【実施例2】
【0095】
実施例2は実施例1の変形例である。
実施例1に使用した熱膨張性耐火シート5に代えて、熱膨張性耐火シート50を使用した他は実施例1の場合と同様である。
【0096】
図6は、実施例2の防火区画貫通部構造を説明するための模式図断面図である。
実施例1の場合には、熱膨張性耐火シート5の一方の端面が前記中空壁1の外側表面とほぼ同一面上にあったが(図1参照)、実施例2の場合には、前記熱膨張性耐火シート50の両端面が、前記中空壁1の外側表面よりも20mm突き出る様に設置されている点が異なる。
【0097】
また、前記保温材4の周囲、前記熱膨張性耐火シート50の端面および外面、ならびに中空壁1の外側表面に接して設置された不燃コーキングであるシール材6が、前記貫通孔2を覆う様に設置されている。
実施例2の防火区画貫通部構造についてISO834に準拠した耐火試験を実施したところ、実施例1の場合と同様の結果を得た。
【実施例3】
【0098】
実施例3は実施例1の変形例である。
また図7は実施例3の防火区画貫通部構造を説明するための模式図断面図である。
実施例1では熱膨張性耐火シート5が前記保温材4に巻きつけられていていたが、実施例3では前記中空壁1に設けられた貫通孔2が実施例1の場合と比較して大きい。このため、実施例1に使用された熱膨張性耐火シート5と貫通孔2との間に不燃コーキングであるシール材6が充填されている他は実施例1の場合と同様である。
実施例3の防火区画貫通部構造についてISO834に準拠した耐火試験を実施したところ、実施例1の場合と同様の結果を得た。
【実施例4】
【0099】
実施例4は実施例2の変形例である。
また図8は実施例4の防火区画貫通部構造を説明するための模式図断面図である。
実施例2では熱膨張性耐火シート5が前記保温材4に巻きつけられていていたが、、実施例4では前記中空壁1に設けられた貫通孔2が実施例1の場合と比較して大きい。このため、実施例1に使用された熱膨張性耐火シート50と貫通孔2との間に不燃コーキングであるシール材6が充填されている他は実施例2の場合と同様である。
実施例4の防火区画貫通部構造についてISO834に準拠した耐火試験を実施したところ、実施例2の場合と同様の結果を得た。
【0100】
[比較例1]
実施例1の場合において前記熱膨張性耐火シート5のアルミニウム箔10を省略した他は実施例1の場合と全く同様の防火区画貫通部構造に対してISO834に準拠した耐火試験を実施した。
図9は比較例1の耐火試験において、中空壁の非加熱側から膨張残渣を観察した状態を示す模式断面図である。
中空壁1の非加熱側から観察したところ、配管類3の上部にある膨張残渣が赤熱することが判明した。また試験終了後、比較例1の防火区画貫通部構造を調べたところ、前記配管類3の上部にある膨張残渣は非常に脆く密度が低いことが判明した。
【0101】
[比較例2]
実施例1の場合において前記熱膨張性耐火シート5に代えて、不織布、エポキシ樹脂含有熱膨張性樹脂組成物11(商品名フィブロックとして積水化学工業社から入手可能)および不織布の三層構造の熱膨張性耐火シートをした他は実施例1の場合と全く同様の防火区画貫通部構造に対してISO834に準拠した耐火試験を実施した。
その結果、比較例2の場合と同様に、配管類3の上部にある膨張残渣が赤熱することが判明した(図9参照)。また試験終了後、比較例2の防火区画貫通部構造を調べたところ、前記配管類3の上部にある膨張残渣は非常に脆く密度が低いことが判明した。
【符号の説明】
【0102】
1 中空壁
2 貫通孔
3 配管類
4 保温材
5、50、150 熱膨張性耐火シート
6 シール材
10 アルミニウム箔
11 エポキシ樹脂含有熱膨張性樹脂組成物
12 アルミニウム箔ラミネートガラスクロス
20 膨張残渣
100 区画
110 スリーブ
120 不燃固定材
130 配管類
140 シール材
A 耐火試験を行った加熱側
B 耐火試験の非加熱側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔に挿通された配管類と、
前記配管類の周囲に設置された保温材と、
前記貫通孔と前記保温材との間に設置された熱膨張性耐火シートとを備え、
前記貫通孔と前記配管類との隙間が、前記保温材および熱膨張性耐火シートにより閉塞されるか、または前記保温材、熱膨張性耐火シートおよびシール材により閉塞され、
前記熱膨張性耐火シートが、前記保温材側から金属箔層、熱膨張性樹脂層および無機繊維層を少なくとも備えることを特徴とする、防火区画貫通部構造。
【請求項2】
前記熱膨張性耐火シートが、金属箔層、エポキシ樹脂含有熱膨張性樹脂層および金属箔ラミネート無機繊維層を少なくとも備え、
前記金属箔層の厚みが7〜30μmの範囲である、請求項1に記載の防火区画貫通部構造。
【請求項3】
前記保温材の周囲および熱膨張性耐火シートの端面に接して設置されたシール材が、前記貫通孔を覆う、請求項1または2に記載の防火区画貫通部構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載された防火区画貫通部構造の区画の一方から前記保温材が焼失または融解し、かつ前記熱膨張性耐火シートが膨張を開始する温度以上に加熱された際に、
金属箔層、熱膨張性樹脂層および無機繊維層を少なくとも備える熱膨張性耐火シートが、前記金属箔層を内側に巻き込みながら、前記区画の加熱された一方から他方へ向かって膨張することを特徴とする、熱膨張性耐火シートの膨張制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−99258(P2011−99258A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254948(P2009−254948)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】