説明

防爆電気機器

【課題】水素ガスが発生する危険地域内で用いることのできる耐圧防爆構造の電気機器を得るにある。
【解決手段】耐圧性のある良熱伝導防爆容器本体の内表面及び内周面に対して同内表面及び内周面を複数の充填区域に区画するダム用リブを一体形成すると共に、前記防爆容器本体と同様材料で構成される容器蓋の内表面及び内周面にも同内表面及び内周面を複数の充填区域に区画するダム用リブを一体形成し、前記防爆容器本体及び前記容器蓋の充填区域に電気的老化特性トラッキング指数(CTI:400〜600)の難燃性シリコンゴムを充填・固化させて防爆容器内面にシリコン包囲体を形成した防爆電気機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防爆電気機器に関し、特に水素ガスの爆発性雰囲気の中で使用される耐圧防爆構造の電気機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、各種工場やプラントにおいては、管理部所と現場との間の情報交換や非常連絡のため,例えば1.9GHzといった高周波帯域の無線通信システムが用いられているのは、周知の通りである。
そして、引火爆発の危険性がある場所、例えば石油化学プラントなどのように可燃性ガスを取り扱う工場などに高周波無線通信システムを導入する場合、防爆地域に設置される各固定無線装置は爆発事故を未然に防止した防爆構造であることが求められる。
【特許文献1】特許第3257427号公報
【0003】
ところで、国際規格IEC79新技術的基準規格に整合した社団法人産業安全技術協会発行(H8.11月)の防爆構造電気機械器具型式検定ガイドにおいては、電機機器の対象とされる可燃ガス又は蒸気はグル−プIIA、IIB、IICに分類され、それぞれのグル−プ要件として満足する対象試験ガス並びに機械的な構造では、接合面の種類及び奥行、すきま、内容積がそれぞれ規定されると共に、爆発強度、爆発引火、衝撃試験が義務づけられている。
【0004】
これらの可燃ガスのうち、特にIICグル−プの対象ガスの水素ガスでは、次のように規定される。
爆発強度試験
「対象ガス水素 31±1.0% (空気との混合比率)、最も高い爆発力を与える濃度。試験回数 5回。」
爆発引火試験
「対象ガス水素 27±1.0% 最も引火しやすい濃度。試験回数 5回。」
が試験条件になる。
つまり、引火試験は容器内で対象ガスを着火させ、その爆発火炎逸走での容器外に存在する対象ガス(ここでは水素)に着火、爆発するかを検証する試験であり、IEC規格ではすきま調整法が採用され、過酷な試験になっている。意図的にすきまをゲ−ジで設け、空間ギャップを構築して火炎逸走し易い条件下での試験である。
【0005】
具体的にいえば、図8(a),(b)に示す防爆容器本体Aと容器蓋Bとの間をネジCで閉鎖する場合、防爆容器本体Aと容器蓋Bとの間のネジC締結部両側にスキマゲージGを挟み、ネジCのはめあい部は、2/3に減じて予め緩めて試験を行う。この試験位置は、図9に示すアンテナDに近い防爆容器本体Aと容器蓋Bとの間のはめあい部が対象になる。
【0006】
例えば規格MAXの容器の内容積6000立方センチメ−トル近傍では、IICグレ−ドの水素ガスでいえば、すきま調整法より0.06のスキマゲ−ジを挟み試験をおこなう。
これをIIBグレ−ドで比較すると、0.02であり、3倍の空間ギャップであるため、規格は存在するけれども、実際には、実現不可能とされてきた。
前述したように、グル−プIICでは格段に試験条件が格段に厳しくなるが、「水素ガス」は同IICグループに属する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、地球環境問題から、化石燃料に代わる次世代エネルギ−として、燃えて、しかもCO2が発生しない究極のエネルギ−として水素ガスが着目されてきている。
しかし、可燃性ガスの中でも水素ガスは、通常作業が行われる環境において最も危険な可燃性のガスで、ガスの中で最大の爆発力がある。
【0008】
そのため、水素ガスグル−プIICの試験条件は、非常に厳しく、防爆型の中でも、火炎逸走を平面接合面型で内容積(容器の容積から機能上欠くことのできない内容物の体積を差し引いた容積)2000立方センチメ−トル〜6000立方センチメ−トルの防爆型高周波型固定無線装置の規格は存在するが、従来技術では、IICグル−プでは、特に可燃性ガスの中で最大の爆発エネルギ−を有する「水素ガス」の防爆性能維持が最も困難であるとされている。特に、内容積上限の6000立方センチメ−トル近傍では、水素ガス爆発力や引火性が内容積に比例し、圧力、引火スピ−ドが共に増大するため、各種化学プラントなどの水素ガスが発生する危険なエリアで用いる防爆電気機器は、水素ガス対応が困難なため、設置不可能であった。
【0009】
本発明の目的は、水素ガスが発生する危険地域内で用いることのできる耐圧防爆構造の電気機器を得るにある。
特に、本発明の主なる目的は、水素ガスが発生する危険地域内での無線端末の通話エリアを拡げ、作業者の通話コミュケ−ションを確保するにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達するため、本発明は、耐圧性のあるアルミニウム材料からなる良熱伝導防爆容器本体の内表面及び内周面に対して同内表面及び内周面を複数の充填区域に区画するダム用リブを一体形成すると共に、前記防爆容器本体と同様材料で構成される容器蓋の内表面及び内周面にも同内表面及び内周面を複数の充填区域に区画するダム用リブを一体形成し、前記防爆容器本体及び前記容器蓋の充填区域に電気的老化特性トラッキング指数(CTI:400〜600)の難燃性シリコンゴムを充填・固化させて防爆容器内面にシリコン包囲体を形成した防爆電気機器を提案するものである。
【発明の効果】
【0011】
シリコン樹脂自体の放熱性と熱伝導性による温度低下の温度変換が行われ、局部より全体に耐圧容器内温度を早期に安定均一にできるため、水素ガス爆発に対しても、火炎逸走を抑制し、衝撃的な爆発力を和らげ、防爆容器に爆発時の熱量を迅速に熱伝導できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
後述する本発明の好ましい実施例の説明においては、
前記ダム用リブを一体成形する防爆容器本体は、アルミニウム・キャステイングである防爆電気機器
が説明される。
即ち、熱伝導性の極めてよいアルミニウム・キャステイングの防爆容器本体を用いることで水素ガス爆発時における内部温度低下をはかることができる。
【0013】
後述する本発明の好ましい実施例の説明においては、
前記防爆容器本体の前記内表面は、底壁の内底面及び周壁の内側面である防爆電気機器
が説明される。
即ち、防爆電気機器の内表面全体をシリコン包囲体で覆うことで水素ガス爆発時の衝撃エネルギの緩和と電気機器内部の早期温度低下を図ることができる。
【0014】
後述する本発明の好ましい実施例の説明においては、
内部に組込まれる制御ユニットのプリント配線基板の半田面を取囲む枠状の仮ダムを同半田面に位置し、この仮ダムの内部にもシリコン包囲体を形成し、耐圧容器内にシリコン包囲体を備える電気的老化特性トラッキング指数(CTI:400〜600)の難燃性シリコンゴムを充填・固化させた防爆電気機器
が説明される。
即ち、このような特性のシリコン包囲体によれば、長期間に亘って内部の電気的特性を維持できる。
【0015】
後述する本発明の好ましい実施例の説明においては、
前記難燃性シリコンゴムは、防爆容器本体を構成するアルミニウムに対する接着強さが0.85Pa以上である防爆電気機器
が説明される。
即ち、このような特性の難燃性シリコンゴムにより防爆容器本体の内面からのシリコン包囲体の剥離を未然に防止して長期間に亘って性能を維持できる。
【0016】
後述する本発明の好ましい実施例の説明においては、
固化状態の前記シリコン包囲体は、少なくとも−40℃から+180℃の温度範囲内で安定した固化状態を保つ防爆電気機器
が説明される。
即ち、このようなシリコン包囲体の温度安定性により使用環境や水素ガス爆発時の瞬間的な温度上昇に対する耐久性を保障できる。
【0017】
後述する本発明の好ましい実施例の説明においては、
固化状態の前記シリコン包囲体の絶縁破壊強さは、少なくとも25KV/mm以上である防爆電気機器
が説明される。
即ち、このようなシリコン包囲体の絶縁特性により内部電気素子を水素ガス爆発時の破壊から保護できる。
【0018】
後述する本発明の好ましい実施例の説明においては、
防爆電気機器は、高周波型防爆無線基地局である防爆電気機器
が説明される。
即ち、可燃性水素ガスを含んだ過酷な環境への無線基地局の設置が可能になる。
【実施例1】
【0019】
以下、図1から図7について本発明の実施例の詳細を説明する。
図示実施例は、本発明を高周波型無線基地局に施した実施例である。
【0020】
即ち、図1及び図2から理解されるように、この高周波型無線基地局は、1面のみが開放された容量のある防爆容器本体10と、この防爆容器本体10の開放面を塞ぐ容器蓋30とを備え、これらの防爆容器本体10及び容器蓋30は、熱的な良伝導性の良い剛性材料、例えばアルミニウム・キャステングで作られる。
そして、容器蓋30の周囲フランジ部は多数の締結ネジ20で防爆容器本体10の開放部に緊密に固定され、防爆容器本体10の内部に密閉空間を区画する。
【0021】
外部上面にアンテナを固定された防爆容器本体10の内部には、高周波型無線基地局の制御ユニットを搭載するプリント配線基板40が組み込まれ、このプリント配線基板40の片面にcpuなどの回路素子が組付けられ、これらの回路素子はプリント配線基板40の反対側面で半田ディップされてプリント配線基板40のプリント導体層に半田付けされている。
なお、前記プリント配線基板40は、図2に示す固定ネジ50,60を用いて防爆容器本体10の内部に固定状態におかれる。
【0022】
図3から図5は上面を開放された防爆容器本体10の内部構造を示し、底壁1a及び周壁1bで構成される同防爆容器本体10の内底面1c並びに左右内側面1dには、略一定の高さのダム用リブ5A,5Bがそれぞれの対応表面から突出した状態で防爆容器本体10に一体成形してある。
これらのダム用リブ5A,5Bはこれらが配置される底壁1a及び周壁1bの表面に複数の充填区域に分割するもので、ダム用リブ5A,5Bで分割された各充填区域にはシリコンゴム包囲体6A,6Bが埋設される。
【0023】
つまり、ダム用リブ5A,5Bで分割された各充填区域には、電気的劣化特性トラッキング指数(CTI:400〜600)の液状の難燃性シリコンゴムに硬化剤を混入してよく撹拌したものをそれぞれ注入して、水平状態を保って一定時間放置することにより固化させ、周壁1b及び内底面の殆ど全部を覆うシリコンゴム包囲体6A,6Bが形成される。
【0024】
図6は防爆容器本体10と同一材料で厚みのある板状に構成される容器蓋30を示し、この容器蓋30の内面3aには表面を複数の充填区域に分割するダム用リブ7が防爆容器本体10と一体に突起成形され、同ダム用リブ7で分割された各充填区域には、電気的劣化特性トラッキング指数(CTI:400〜600)の液状の難燃性シリコンゴムに硬化剤を混入してよく撹拌したものをそれぞれ注入して、水平状態を保って一定時間放置することにより固化され、容器蓋30の内面3aの殆ど全部を覆うシリコン包囲体6Cが形成される。
【0025】
図7は前述したプリント配線基板40の詳細を示し、このプリント配線基板40の部品実装側とは反対側表面には、同表面を包囲する仮ダム8が一時的に位置され、この仮ダム8の内部空間には、電気的劣化特性トラッキング指数(CTI:400〜600)の液状の難燃性シリコンゴムに硬化剤を混入してよく撹拌したものをそれぞれ注入され、水平状態を保って一定時間放置することにより固化されてシリコン包囲体6Dが形成されるのは、前述したシリコン包囲体6A,6B,6Cの場合と同様である。
【0026】
前述したシリコン包囲体6A、6B、6C、6Dは、最薄部で1mm以上の厚みに成形すれば、水素ガス爆発エネルギによる亀裂の発生を防止できる。
また、同シリコン包囲体6A、6B、6C、6Dのアルミニウムに対する接着強さは、JIS K 6850準拠で0.85Pa以上である性能を有することで、防爆容器本体10を構成するアルミニウムから長期間に亘って剥離するのを防止できる。
【0027】
固化状態のシリコン包囲体6A、6B、6C、6Dには、少なくとも−40℃から+180℃の温度範囲においても弾性や電気的絶縁性の変化しない特性を有し、また、絶縁破壊強さにおいても、25KV/mm以上の特性を有するシリコンゴム製品を用いれば所用目的を達成できる。
【0028】
図示実施例による高周波型無線基地局は、以上に述べたような構造であるから、2000立方センチメ−トル〜6000立方センチメ−トルいった容積であっても、IICグル−プでの「水素ガス」の防爆性能を維持できる。
【0029】
この理由は、シリコン包囲体6A,6B,6C,6Dの軟性による爆発時における衝撃エネルギの緩和と、シリコン樹脂自体の放熱性と熱伝導性による温度低下の温度変換が行われることによるものと思われる。また、局部から全体に亘って、耐圧容器内温度を早期に安定均一にできるため、水素ガス爆発に対しても、火炎逸走を抑制し、衝撃的な爆発力を和らげ、防爆容器に爆発時の熱量を迅速に熱伝導できることにもよるものと判断される。
【0030】
そして、プリント配線基板40に設けるシリコン包囲体6Dは、水素ガス爆発時に生じる急激な温度上昇で、プリント配線基板40の表面の半田が一時的にしろ溶融するのを防止でき、しかも防爆容器本体10内部での爆発時の衝撃波を緩和できる。このシリコン包囲体6Dの爆発時の衝撃波緩和機能は、シリコン包囲体6A,6B,6Cにも認められる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
なお、前記実施例の説明では、本発明を高周波型無線基地局に適用したものを述べたが、本発明は、別の防爆方電気機器にも適用できるのは、改めて指摘するまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による高周波型無線基地局の正面図である。
【図2】同高周波型無線基地局の断面図である。
【図3】図2の3−3線に沿う断面図である。
【図4】図3の4−4線に沿う断面図である。
【図5】図4の5−5線に沿う断面図である。
【図6】(a),(b)は同高周波型無線基地局に用いる容器蓋の内面図及び断面図である。
【図7】(a),(b)は同高周波型無線基地局に内蔵される制御ユニットのプリント配線基板の内面図及び断面図である。
【図8】(a),(b)は防爆容器に求められる性能の説明図である。
【図9】は従来の防爆容器のアンテナ付近の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1a 底壁
1b 周壁
1c 内底面
1d 左右内側面
3a 内面
5A,5B,5C ダム用リブ
6A,6B,6D シリコンゴム包囲体
7 ダム用リブ
8 仮ダム
10 防爆容器本体
20 締結ネジ
30 容器蓋
40 プリント配線基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐圧性のあるアルミニウム素材からなる良熱伝導防爆容器本体の内表面に同内表面を複数の充填区域に区画するダム用リブを一体形成すると共に、前記防爆容器本体と同様材料で構成される容器蓋の内面にも同内面を複数の充填区域に区画するダム用リブを一体形成し、前記防爆容器本体及び前記容器蓋の充填区域に電気的老化特性トラッキング指数(CTI:400〜600)の難燃性シリコンゴムを充填・固化させて防爆容器内面にシリコン包囲体を形成したことを特徴とする防爆電気機器。
【請求項2】
前記防爆容器本体の前記内表面は、底壁の内底面及び周壁の内側面であることを特徴とする請求項1に記載の防爆電気機器。
【請求項3】
内部に組込まれる制御ユニットのプリント配線基板の半田面を取囲む枠状の仮ダムを同半田面に位置し、この仮ダムの内部にもシリコン包囲体を形成し、耐圧容器内にシリコン包囲体を備える電気的老化特性トラッキング指数(CTI:400〜600)の難燃性シリコンゴムを充填・固化させたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防爆電気機器。
【請求項4】
前記難燃性シリコンゴムは、防爆容器本体を構成するアルミニウムに対する接着強さが0.85Pa以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかひとつに記載の防爆電気機器。
【請求項5】
固化状態の前記シリコン包囲体は、少なくとも−40℃から+180℃の温度範囲内で安定した固化状態を保つことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかひとつに記載の防爆電気機器。
【請求項6】
固化状態の前記シリコン包囲体の絶縁破壊強さは、少なくとも25KV/mm以上であることを特徴とする請求項1、請求項3、請求項5のいずれかひとつに記載の防爆電気機器。
【請求項7】
防爆電気機器は、高周波型防爆無線基地局であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかひとつに記載の防爆電気機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−324643(P2006−324643A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106148(P2006−106148)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000000181)岩崎通信機株式会社 (133)
【Fターム(参考)】