防眩光学要素
【課題】眼鏡レンズ等に適用した場合、優れた防眩性、紫外線(UV)カット性とともに、短波長側可光域(400〜550nm)をカットできる防眩光学要素を提供すること。
【解決手段】薄板状の偏光素子の少なくとも片面に透明基材層を有している多層構造の光学要素であって、いずれかの同一層又は別の層に、紫外線吸収剤ととともに特定波長吸収剤を含有させて、分光光度計にて測定された透過率曲線(以下「透過率曲線」)において、波長域550nm超605nm以下および波長域450〜550nmにそれぞれバレー長波長側およびバレー短波長側を少なくとも1個有する。
【解決手段】薄板状の偏光素子の少なくとも片面に透明基材層を有している多層構造の光学要素であって、いずれかの同一層又は別の層に、紫外線吸収剤ととともに特定波長吸収剤を含有させて、分光光度計にて測定された透過率曲線(以下「透過率曲線」)において、波長域550nm超605nm以下および波長域450〜550nmにそれぞれバレー長波長側およびバレー短波長側を少なくとも1個有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防眩光学要素に関する。特に、眼鏡用プラスチックレンズとして好適な発明に係る。
【0002】
ここでは、プラスチックレンズを例に採り説明するが、これに限られるものではない。
即ち、本発明に係る防眩光学要素は、プラスチックレンズに限らず無機ガラスレンズ、更に、サンバイザー、スキーゴーグル、自動車や住宅用の偏光窓ガラス、飛行機やオートバイの偏光風防ガラス、ディスプレー用フィルターカバー、照明機器用カバー等にも適用できる。
【0003】
眼鏡として使用する場合は、防眩や有害光線の遮断を目的として、サイクリング、釣り、ウォーキング、ドライブ、買い物、洗濯物干し等の屋外使用や、パソコンや携帯画面の視認時や就寝前における屋内使用に好適である。
【背景技術】
【0004】
人間の眼は、明順応状態の視覚(明所視)では、555nm付近(標準比視感度曲線の中心波長)(510〜600nm)の光を最も明るく感じる。
【0005】
そこで、眩しさを防ぐためには、上述した波長付近の光をカットすればよい。
しかし、夏の海岸や冬のスキー場などで眩しさを防ぐためには、一般にサングラス等の着色レンズを使用した眼鏡を着用する。かかる着色レンズでは、全波長域の光が一様にカットされてしまうので光量不足となる(視野が暗い)という問題がある。
【0006】
ところで、特定波長吸収色素を用いると、人間の眼に眩しく感じる付近の波長域で特に強い波長域(570〜600nm)のみを選択的に吸収できる。
【0007】
したがって、この特性を利用して、眼鏡レンズにいわゆる防眩性能を付与する処方が施されている。主たる処方として眩しさを与え易い波長域をできるだけ選択的に遮光することであり、実際にも585nm付近の可視光を高度に波長選択的に吸収できるネオジム等の希土類元素を中心原子とする有機希土類元素錯体を含有させると効果的な防眩性能が得られる(特許文献1段落0002から引用)。
【0008】
しかし、これらの有機希土類元素錯体は、非常に高価な上に、透明樹脂の透明性を損なわずに混合や塗布膜にすることが上手くできない。
【0009】
即ち、上記樹脂材料に特定の有機希土類元素錯体を配合させる方法には、各種の不都合な問題をかかえている。
【0010】
第一には、レンズ材料によっては有機希土類元素錯体の有機部分の選択が大幅に制限されるために高価な化合物に限定されることが多い。また、例えばチオウレタンレンズ系では、通常の有機希土類元素錯体は、樹脂への溶解性や分散性あるいはレンズ樹脂との好ましくない反応性、更には環境下保存安定性などの問題点がある。
【0011】
第二には、前記する波長域585nm付近で要求される低光透過度(高光遮光性)を達成させる為には、有機希土類元素錯体の配合量が、通常5重量%程度も必要であり、高価な有機希土類元素錯体を多量に使用する不都合さだけでなく、しばしばレンズの機械的物性の低下とバランスを余儀なくされる。(以上、特許文献1段落0005から引用)。
【0012】
上記問題点を解決するために、有機系の特定波長吸収色素を含有させて、ネオジム化合物含有プラスチックと同等の防眩特性を有するプラスチック眼鏡レンズが特許文献1・2等で提案されている。
【0013】
即ち、特許文献1では、可視光吸収スペクトル(分光透過率曲線:以下「透過率曲線」という。)において、波長域565〜605nm(望ましくは580〜590nm)で主吸収のバレー(極小ピーク)を有し、(請求項1・2)、また、望ましい特定波長吸収色素が下記式(1)で示されるテトラアザポルフィリン化合物である(請求項4等)。
【0014】
【化1】
【0015】
[式(1)中、A1〜A8は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、炭素数1〜20の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜20のモノアルキルアミノ基、炭素数2〜20のジアルキルアミノ基、炭素数7〜20のジアルキルアミノ基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数6〜20のアリール基、ヘテロアリール基、炭素数6〜20のアルキルチオ基、炭素数6〜20のアリールチオ基を表し、連結基を介して芳香族環を除く環を形成しても良く、Mは2個の水素原子、2価の金属原子、2価の1置換金属原子、4価の2置換金属原子、又はオキシ金属原子を表す。]
【0016】
また、特許文献2では、合成樹脂基材として、透過率曲線の波長域550〜585nmに透過率曲線の極小(バレー)を有し、波長域470〜550nmにおける平均透過率が10%以上を示すものとし、特定波長吸収色素が下記式(2)で表されるスクアリリウム化合物である(請求項1等)。
【0017】
【化2】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2008−134618号公報
【特許文献2】特開2003−107412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかし、昨今、目の健康上の見地から、防眩性能の向上に加え、紫・青色の青色系波長域(400〜500nm)のカットが要求されるようになってきた。
【0020】
事実、晴れにおける青色系波長域における強度は、他の波長域に比して格段に高い(図1参照)。図1は、出願人の従業者が、下記条件で測定し、波長に対して、晴れの日の最大値を1とした基準において相対強度(%)表示したものである。
【0021】
測定日:2010年9月22日(晴れ)、同年9月24日(曇り)
測定場所:愛知県豊橋市
測定機器:分光放射計FieldSpec3(米国ASD社製)
測定方法:北側窓から天空に向けて計測
【0022】
そして、青色系波長域が目に与える影響(いわゆる「青色ハザード」)について、メディアで下記のような点が報じられている。
1.眩しさを感じる
2.青色光網膜傷害 ⇒目にダメージ
3.覚醒効果 ⇒朝あびると目が覚める
4.睡眠物質の抑制 ⇒夜あびると眠れない
5.体内時計が遅れる ⇒眠れないため時計がずれる
6.像がぼけて見える ⇒色収差のため青色光は太陽光のほか、パソコン(PC), 携帯電話,TV, LED照明などから放射されており、とくに青色を強く放射しているディスプレーを見続けることの悪影響がある。
出典一覧:照明学会誌2010年4月号「LED照明の課題(生体安全性)」
週刊文春2010年7月1日号「青色光が心と体を蝕む」日米専門家が緊急警告」河崎貴一
【0023】
また、防眩性能向上は、薄板状の偏光素子と透明基材を組み合わせれば、達成できる(特許文献2段落0021、実施例4・6)。
【0024】
しかし、実施例4では特許文献2の図6に示される如く、青色光吸収剤が配合されているにもかかわらず、550nmより短波長側の可視光域(400〜550nm)(以下「短波長側可視光域」)において、平均透過率が50%以上であり高い。他方の実施例6では図8に示される如く、平均透過率は20%以下であるが、青色波長(450〜495nm)の略中央値(480nm)に透過率のシャープ(明りょう)な極大を有する。
【0025】
但し、この実施例6の図8は、実施例4の図6と対比すると、データ自体に疑問が発生する。両者の相違は、赤外線吸収剤含有の有無だけである。赤外線吸収剤の含有により、可視光域上限(760nm)側で透過率が低下するのは理解できるが、短波長側可視光域(400〜550nm)で、そのような極端な差が発生するとは考え難い。
【0026】
ちなみに、同文献における偏光素子を有しない他の実施例においては、偏光素子500nm近傍の透過率が平均値30%以上を超えている(偏光素子を有する実施例4も同様)。そして、殆どが短波長側可視光域(400〜550nm)において、シャープな極大(500nm近傍)を有する(偏光素子を有する実施例6も同様)。
【0027】
また、特許文献1における透過率曲線においても、短波長側可視光域(400〜550nm)においては、透過率が50%以上又は20%以上の極大値を有する。
【0028】
したがって、特許文献1・2における記載は、積極的に青色光を含む短波長側可視光域(400〜550nm)を紫外線とともにカット(遮断)することを予定するものではない。
【0029】
更に、特許文献1・2では、550nm超の長波長側の可視光域(以下「長波長側可視光域」)に本発明におけるバレー長波長側(極小)に相当するものを有するが、該極小値は透過率略25%以下であるとともに、バレーがシャープである。
【0030】
こうして、眩しさを与え易い波長域の透過率を低くすることにより、防眩性能は向上する。しかし、バレー透過率が低すぎたり、該バレーがシャープであったりすると、バレー波長の発光色と近傍波長の発光色との照度差が大きくなって、バレー波長の発光色の認識が困難となったり、該発光色が照明色の場合、視野が暗くなったりするおそれがある。
【0031】
例えば、波長域550〜600nmの光をカットすると、黄色光の中心波長が580nmであるのに対し、黄赤光の中心波長は600nmであり近接しており(斉藤勝裕著「ブルーバックス 光と色彩の科学」2010年、講談社、p96図4-3)、黄色光の視認性が低下したり、ナトリウムランプの照明光(中心波長:589nm)がレンズを透過せず、視野が暗くなるおそれがある(特許文献2段落0003参照)。
【0032】
本発明は、上記にかんがみて、眼鏡レンズ等に適用した場合、優れた防眩性能を有するとともに、目の保護の観点から優れ、且つ、視認性を確保し易い防眩光学要素を提供することを目的とする。
【0033】
本発明の他の目的は、更に、目に有害とされている青色系波長域(400〜500nm)の光を吸収でき、且つ、紫外線もカットでき、目の健康の見地からも望ましい防眩光学要素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意開発に努力をした結果、下記構成の光学要素に想到した。
【0035】
本発明は、薄板状の偏光素子の少なくとも片面に透明基材層を有している多層構造の光学要素であって、
いずれかの同一層又は別の層に、紫外線吸収剤とともに特定波長吸収色素を含有させて、
分光光度計にて測定された透過率曲線(以下「透過率曲線」)において、
1)波長域550nm超605nm以下および波長域450〜550nmにそれぞれバレー長波長側およびバレー短波長側を少なくとも1個有すること、又は、
2)波長域550nm超605nm以下にバレー長波長側を少なくとも1個有するともに、波長域450〜550nmに透過率ピークを有しない、
ことを特徴とするものである。
【0036】
当該構成とすることにより、眩しさの原因である標準比視感度曲線の中心波長近傍に、バレー(極小)長波長側を有するため、偏光素子と相まって防眩性能を向上させることができる。また、波長域450〜550nm(青色系で強度の強い範囲)に他のバレーを有する又はシャープな透過率ピークを有しないため、更に防眩性効果を増大させることができるとともに青色ハザードを低減でき目の健康保全への寄与が期待できる。さらに、特定波長吸収色素として短波長側可視光域にバレーを有するものとした場合は、紫外線吸収剤を配合しなくても、紫外線カットが可能である(新たな知見)。また、バレー長波長側の極小値が25%超でも、偏光素子と組み合わせた場合は、防眩性能を発揮可能できることを知見した。また、偏光素子として偏光度の低いものを使用すれば、バレーが長波長側および短波長側の双方に明りょうに出ることも知見した(実施例6・7)。
【0037】
上記各構成において、波長域450〜550nmにおける全体平均透過率(積分平均)が30%以下であることがより望ましい。青色ハザードの低減がより確実となる。なお、上記構成の波長域450〜550nmにおける平均分光透過率30%以下のものは、偏光素子として偏光度90%以上のものを使用したり、適宜着色したりすることにより容易に達成することができる。
【0038】
前記構成において、バレーの極小値を5%以上とし、バレー長波長側・短波長側は、通常、バレー値の波長の±20nmの波長範囲内の視感透過率値の最大値に対して最小値の比率が、0.5〜0.9であるものとすることが望ましい。
【0039】
また、バレー長波長側の極小値は25%以上とすることが、特定波長の光の視認性をより確保し易くなる。
【0040】
バレーの曲率が大きすぎる(平板状・ダル)であると、バレーによる波長カットを奏しがたい。逆に、バレー曲率が小さい(シャープである)と、バレー波長の両側近傍の発光照度差が大きくなって、バレー波長の発光色の視認性が低下するおそれがある。また、バレーの極小値を5%以上とすることにより、当該波長の光の透過を担保でき、当該波長の発光色の視認が困難となるおそれがない。
【0041】
上記各構成において、波長域605nm超780nmの全体平均透過率(積分平均)が30%超であることが望ましい。夜間やトンネル内における視野確保のためである。
【0042】
更に、波長400nmの分光透過率1%以下で、波長410nmの分光透過率20%以下を示すものとすることにより、有害な紫外線のカットを担保できる。
【0043】
また、防眩光学要素は、偏光度、透明基材層を、特定波長吸収色素および紫外線吸収剤を含む透明合成樹脂層で形成する場合は、特定波長吸収色素および紫外線吸収剤の樹脂原料100部に対する配合量を、前者:0.5×10-5〜1.5×10-2部および後者:0.5〜5部(望ましくは、1.5〜5部)とすることにより、達成が容易にできる。
【0044】
即ち、本発明者らは、多量の紫外線吸収剤を配合することにより、紫外線カットばかりでなく、青色光を含む短波長側可視光域のカットにも有効であることを知見したものである。従来の引用文献1・2等の実施例レベルにおいて、特定波長吸収色素の配合量は本発明の範囲内にあるも(引用文献1:1.0×10-5又は、引用文献2:2.0×10-5)、紫外線吸収剤の配合量は本発明の下限値未満の範囲外である(引用文献1:0.05部、引用文献2:0.4部)。
【発明の効果】
【0045】
偏光レンズによる特定方向の光のカットと、可視光短波長(青色系光)のカットとが相乗して防眩性能がより向上するとともに、色収差が軽減するために像がぼけず、視認性が向上する(ハッキリ見える)。
【0046】
本発明の如く、特定の可視光波長領域での選択的光吸収特性を保持しながら他色素を混色させて目的の色調にする場合には、必要な選択的光波長域以外の波長域での光吸収要因が出来るだけ少ない(バレーが明りょうで適度な曲率を有し、透過率曲線がフラット)な方が、すなわち前記バレー数が少ない方が、混色の組み合わせ法がよりシンプルとなるだけでなく、目的の色調範囲をより広く採用し易く、かつ、よりクスミの少ない色調を得やすいことになる。
【0047】
即ち、本発明の防眩光学要素は、強度の強い長波長側可視光域とともに、青色系の短波長側可視光域を選択的にカットしたり、透過率曲線にシャープな極大を有しない平均的なものとしたりすることにより、優れた防眩性能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】秋口における晴れと曇の日の光強度スペクトル図である。
【図2】本発明を適用する偏光レンズの一モデル断面図である。
【図3】第1・第2モールドを用いてのテープ巻き回し方式の偏光レンズの注型成形法の説明用断面図である。
【図4】同じくガスケットシール方式の偏光レンズの注型成形法の説明用断面図である。
【図5】実施例1で調製した防眩光学要素の透過率のグラフ図である。
【図6】実施例2で調製した防眩光学要素の透過率のグラフ図である。
【図7】実施例3で調製した防眩光学要素の透過率のグラフ図である。
【図8】比較例1で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図9】比較例2で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図10】実施例4で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図11】実施例5で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図12】実施例6で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図13】実施例7で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図14】実施例8で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図15】実施例9で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図16】比較例3で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図17】比較例4で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図18】実施例10で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図19】実施例11で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の実施形態について、図例に基づいて説明する。
【0050】
本実施形態の光学要素(偏光レンズ)11は、基本的には、偏光素子(偏光フィルム又は偏光シート)13の両面に重合性液状材料を用いて注型成形された透明合成樹脂層(レンズ層)15、15を有するものである(図2参照)。
【0051】
次に、本実施形態の偏光レンズの注型成形法としては、下記(1)テープ巻き回し方式(図3)、及び、(2)ガスケットシール方式(図4)のいずれでもよい。図3は片面にレンズ層を形成するものである。
【0052】
基本的には、偏光素子(偏光フィルム又は偏光シート)13の両面にレンズ層15、15を有する偏光レンズ11を、一対の第1・第2モールド(通常、ガラス製)17、19を使用して成形する方法であって、前記第1モールド17を実質的に水平に保持した状態で、該第1モールド17上に賦形偏光素子13を浮かし置き、さらに、前記第2モールド19を賦形偏光素子13に対して所定隙間をおいてセットした状態で、前記第1・第2モールド17、19の周辺開口部を、テープ21を巻き回して形成、若しくは、プラスチック製のガスケット23にてキャビティ25を形成して成形型27を調製し、該成形型27のキャビティ25に重合性液状材料を注入して、熱硬化重合や紫外線硬化重合などの手段により重合硬化乃至架橋硬化させて形成する。
【0053】
なお、上記第1・2モールド17、19は、偏光素子13を所定位置に位置決めするための位置決め部材30を、少なくとも一方(図例では双方)に有する。
【0054】
また、ガスケット23は、図4に示す如く、重合材料注入口23aを形成したものとする。
【0055】
ガスケット材料として、弾力性が有り重合性液状材料の漏れを防止できるエチレンコポリマーやオレフィン系熱可塑性エラストマーなどが好ましい。
【0056】
以下、注型成形法を用いての本実施形態の偏光レンズの製造方法を説明する。
【0057】
まず、第1モールド17の曲率に合わせて偏光素子(偏光フィルム又は偏光シート)13を真空曲げや熱プレス等の公知の方法で曲げる。
【0058】
ここで使用する偏光フィルムとしては、特に限定されず、例えば、下記のようなものを使用可能である。
・ポリビニルアルコール(PVAL)に水溶性二色性染料を含浸させた偏光フィルム、
・PVAL一軸配向フィルムに沃素を含浸させた偏光フィルム、
・PVAL一軸配向フィルムに水溶性二色性染料を含浸させた偏光フィルム、
・PVAL等の分子構造をポリエン構造にしたポリビニレン偏光フィルム、
・ポリエステル系樹脂に二色性染料を少なくても1種含む非水溶性染料を添加した偏光フィルム、
・PVALフィルムそのものを分子内脱水し、共役二重結合にし、二色性をもたせたポリビニレン偏光フィルム、
【0059】
偏光シートとは、これらの偏光フィルム13の片面もしくは両面に透明保護シートを貼り合わせる等して保護樹脂層を形成したものである。透明保護シートとしては、セルロース系シート、ポリエステル系シート、アクリル系シート、ポリカーボネート系シート、ポリアミド系シート等がある。
【0060】
これらの偏光素子(偏光フィルム又は偏光シート)13を、打ち抜きプレス又はレーザー加工によってモールド形状に切り抜くとともに曲げ加工(賦形加工)を行なう。該賦形加工後、適宜、偏光素子の材質や変形等の状態によって乾燥アニールを行う。この乾燥アニールの条件は、通常、20〜120℃×5分〜25時間の範囲から、偏光素子の種類によって、適宜選定する。
【0061】
この賦形加工後の偏光素子に、ディッピング、スピンコート等の公知の方法で接着剤を塗布し、常温・加熱乾燥により固化させて接着剤層14を形成する。
この常温・加熱乾燥の条件は、接着剤の材質や偏光素子の種類によって、20〜120℃×5分〜10時間の範囲から、適宜選定する。
【0062】
接着剤は、接着剤層がゴム状弾性を有するものであれば特に限定されない。通常、エラストマー系接着剤と称されるものを使用し、望ましくは、接着剤層が引張試験(JIS K 6251)におけるM200:0.1〜1.0MPaを示すものとする。
【0063】
具体的には、(1)エステル系TPE、(2)ウレタン系TPE、及び(3)二液硬化・一液硬化型ポリウレタン等を有機溶剤や水等で希釈乃至分散させた溶液タイプや水性エマルションタイプとした接着剤を使用可能である。
【0064】
上記接着剤の塗布方法は、ディッピング法、スピンコート法等の公知の方法から、適宜、選択することができる。
【0065】
上記のようにして賦形加工後、接着剤層を形成した偏光素子の両面にレンズ層を有する偏光プラスチックレンズを、一対の第1・第2モールドを使用して前述のテープ巻きまわし方式又はガスケットシール方式で成形する。
【0066】
そして、レンズ材料としては透明プラスチック材料を使用する。例えば、エピスルフィド系樹脂、チオウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂、チオウレア系樹脂、ウレア系重合組成物、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、サルファイド系樹脂、等から、適宜、選択する。
【0067】
なお、偏光レンズに高屈折が要求される場合は、重合性液状材料としては、下記チオウレタン系樹脂(ポリチオウレタン)(a)、エピスルフィド系樹脂(b)等の硫黄含有樹脂を使用する。特に、ポリチオウレタンが高屈折率材料を得やすく、薄いレンズが製造できる。
【0068】
(a)ポリチオウレタンとは、ポリウレタン結合(−NHCOO−)の酸素原子の少なくとも1個が硫黄原子に入れ替わった結合(−NHCOS−、−NHCSO−、−NHCSS−)を有するポリマー(樹脂)を意味し、ポリイソシアナト、ポリイソチオシアナト、ポリイソシアナトチオイソシアナトより選ばれる1種または2種以上のポリイソシアナト成分と、ポリチオール成分とからなる公知ものを好適に使用できる(特開平8−208792号公報等参照)。
【0069】
ここでイソシアナト成分としては、脂肪族系、脂環式系、芳香族系及びそれらの誘導体さらにはそれらの炭素鎖の一部に硫黄を導入したスルフィド・ポリスルフィド・チオカルボニル(チオケトン)誘導体を母体化合物とするものを挙げることができる。これらのうちで、耐黄変性の見地から、脂肪族系又は脂環式系のものが望ましい。
【0070】
また、ポリオール成分としては、同様に脂肪族系、脂環式系、芳香族系及びそれらの誘導体さらにはそれらの炭素鎖の一部に硫黄を導入したスルフィド・ポリスルフィド・ポリチオエーテルを母体化合物とするものを挙げることができる。これらのうちで、耐黄変性の見地から、同様に脂肪族系又は脂環式系のものが望ましい。
【0071】
具体的には、下記化学式(3)で示されるポリチオエーテルを母体化合物とするものからなる又は主体とするものであることが望ましい。
【0072】
【化3】
【0073】
他のポリオール成分としては、分岐炭化水素多価アルコールのω−メルカプト脂肪族カルボン酸の全置換エステルを好適に使用できる。
【0074】
具体的には、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトグリコレート)、ペンタエリトリトールテトラキス(2−メルカプトグリコレート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリトリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)等を挙げることができる。
【0075】
(b)エピスルフィド系樹脂とは、ジチオエポキシ化合物と硬化剤と、さらには、その他の重合性化合物とを反応させて得られるポリマー(樹脂)を意味し、例えば、下記化学式(4)で示される直鎖アルキルスルフィド型ジチオエポキシ化合物を硬化させる公知のものを使用できる(特開平9−110979号、特開平10−114764号公報等)。
【0076】
【化4】
【0077】
上記硬化剤としては、通常のエポキシ樹脂用硬化剤であるアミン類、有機酸類、無機酸類を使用可能である。
【0078】
なお、アクリル系樹脂としては、レンズ用の汎用の市販のポリマー材料を使用可能である。
【0079】
上記本発明の光学要素であるプラスチックレンズ(偏光レンズ)の注型成形による製造に際して、レンズ材料である重合性液状材料に、種々の添加剤、例えば、染料、青味付け(ブルーイング)剤、内部離型剤、消臭剤、酸化防止剤、安定剤、重合開始剤等を必要に応じて添加してもよい。なお、樹脂硬化(重合)は、熱硬化重合、紫外線硬化重合等で行う。
【0080】
また、本発明のプラスチックレンズの表面を、一般的に行われている強化塗膜(ハードコート)を塗布し、硬度等の改質処理をすることが望ましい。
【0081】
ハードコートは、汎用のシリコーン系塗膜で形成する。該ハードコートは、通常、プライマー層を介する。
【0082】
プライマー層は、ウレタン系やエステル系の熱可塑性エラストマーで形成することが望ましく、通常、金属酸化微粒子等を添加して屈折率を上げて使用する。
【0083】
本発明の硬化膜、プライマー膜は、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系及びフェノール系等の紫外線吸収剤や、塗膜の平滑性を向上させるためにシリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等を含むレベリング剤、その他改質剤の配合も可能である。
【0084】
塗布(コーティング)方法としては、ディッピング法、スピンコート法の公知の方法から選ばれる。
【0085】
さらに、防曇処理加工、反射防止加工、撥水処理加工、帯電防止処理加工、染色加工、等の表面処理をほどこしてもよい。
【0086】
反射防止膜を形成する無機物としては、シリカ、チタニア(IV)、酸化タンタル(V)、酸化アンチモン(III)、ジルコニア、アルミナ等の金属酸化物や、フッ化マグネシウム等の金属フッ化物を好適に使用できる。
【0087】
本発明は、上記構成の薄板状の偏光素子で偏光機能を付与した多層構造の光学要素(眼鏡レンズ)において、いずれかの同一層又は別の層に、紫外線吸収剤とともに、特定波長吸収色素を含有させる含有させることを特徴的要件とするものである。
【0088】
当該特定波長吸収色素としては、波長域550nm超605nm以下および波長域50〜550nm(望ましくは、波長域470〜510nm)にそれぞれバレー長波長側およびバレー短波長側を少なくとも1個有するものなら特に限定されない。
【0089】
これらの特定波長吸収色素としては、公知のものから、例えば、テトラアザポルフィリン化合物、スクアリリウム化合物、アゾメチル系、インドール系のものを1種又は2種以上選択して使用することができる。
【0090】
より具体的には、テトラアザポルフィリン化合物としては、特許文献1に記載の前述の構造式(1)や、特開2003−211847号等で記載されている下記構造式(5)で示されるものを、好適に使用可能である。
【0091】
【化5】
【0092】
〔式中、環A、B、C、D、A'、B'、C'、D'はそれぞれ独立してピロール環の2つのβ位に形成された縮合芳香族環を表し、置換基を有していてもよい。Mは3価の金属原子と1個の水素原子、あるいは4価の金属原子を表す。環A、B、C、Dの各環の各置換基は連結基を介して環A、B、C、Dの各環の各置換基および/または環A'、B'、C'、D'の各環の各置換基とそれぞれ結合していてもよい。〕
【0093】
また、スクアリリウム化合物としては、特許文献2に記載の前述の構造式(2)で示されるものを、好適に使用可能である。
【0094】
また、紫外線吸収剤としては、慣用のものを使用できる。例えば、ベンゾフェノン系、ジフェニルアクリレート系、立体障害アミン系、サリチル酸エステル系、ベンゾトリアゾール系、ヒドロキシベンゾエート系、シアノアクリレート系、ヒドロキシフェニルトリアジン系等を挙げることができる。
【0095】
これらの内で、ベンゾトリアゾール系のものの誘導体が望ましい。
ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤は、青色系波長域(400〜500nm)と重複する波長域380〜450nmを効率よくカットするのに対し、他の系の紫外線吸収剤では380nm以上の波長域のカット量が小さい。このため、トリアゾール系紫外線吸収剤を、光学要素(レンズ)に黄変や白濁しない限界内で多量に配合した場合に、青色系波長域のカット機能も奏する。
【実施例】
【0096】
以下、本発明の効果を確認するために比較例とともに行なった実施例について説明する。
【0097】
本実施例で使用した偏光素子、紫外線吸収剤および特定波長吸収色素は、下記の通りである。
【0098】
<偏光素子>
下記仕様の市販品を用いた。
F−01 ;染料系PVAL偏光フィルム「Gray−30」、偏光度99.5%
F−02 ;染料系PVAL偏光フィルム「Brown−30」、偏光度99.2%
F−03 ;ヨウ素系PVAL偏光フィルム「Brown−41」、偏光度95.1%
F−04 ;染料系PVAL偏光フィルム「Rose Brown−24」、偏光度95.8%
F−05 ;染料系PVAL偏光フィルム「Ruby−15」、偏光度99.6%
F−06 ;ヨウ素系PVAL偏光フィルム「Gray−60」、偏光度45.8%
F−07 ;染料系PVAL偏光フィルム「Gray−45」、偏光度77.3%
F−08 ;染料系PVAL偏光フィルム「Gray−12G」、偏光度99.9%
F−09 ;染料系PVAL偏光フィルム「Marron−20」、偏光度99.8%
F−10 ;染料系PVAL偏光フィルム「Gray−28」、偏光度98.3%
S−01 ;サングラス用染料系ポリカーボネート偏光シート「Gray−15」、偏光度99.8%
S−02 ;サングラス用染料系ポリカーボネート偏光シート「Gray−12」、偏光度99.8%
【0099】
<紫外線吸収剤>
下記化合物名の各市販品を使用した。
UV−01 ;2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1、3,3−テトラメチルブチル)フェノール
UV−02 ;2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール
UV−03 ;2−(4−ブトキシ−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール
UV−04 ;2−(4−エトキシ−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール
UV−05 ;2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(1,1ジメチルエチル)−4−メチルフェノール
【0100】
<特定波長吸収色素>
下記仕様の各市販品を用いた。
C−01 ;テトラアザポリフィリン系バナジウム錯体化合物の異性体混合物、吸収ピーク波長595nm
C−02 ;テトラアザポリフィリン系銅錯体化合物の異性体混合物、吸収ピーク波長585nm
C−03 ;テトラアザポリフィリン系ユウロピウム錯体化合物の異性体混合物、吸収ピーク波長481nm
C−04 ;テトラアザポリフィリン系バナジウム錯体化合物の異性体混合物、吸収ピーク波長497nm
C−05 ;スクアリリウム系化合物、吸収ピーク波長594nm
C−06 ;ピロメテン系化合物、吸収ピーク波長497nm
C−07 ;シアニン系化合物、吸収ピーク波長500nm
【0101】
そして、実施例・比較例で使用した各材料(素材)および添加量を、纏めたものを表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
<試験群I:実施例1〜3>
1)偏光フィルムの接着剤調製
下記配合処方の混合物を均一な状態になるまで攪拌し調製した。
水性エマルションエステル系熱可塑性エラストマー「ペスレジンA−160P」(高松油脂株式会社、水分散エマルション、固形分濃度27%)100部
メチルアルコール 900部
シリコーン系界面活性剤「SILWET L−77」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社) 2部
【0104】
2)偏光フィルムの曲げ加工と接着剤塗布
第一モールドの曲率66.16mmに合わせて偏光フィルムは加湿した後、熱プレスにて曲げた。
【0105】
これをレーザー加工機にて外径80mmの円形にカットし曲率を持った偏光フィルムを作成した。
【0106】
この曲率を持った偏光フィルムに上記調合された接着剤を塗布した。
塗布方法は、ディッピングにて接着剤液温15℃、浸漬時間30秒、引き上げ速度200mm/分で行った。
【0107】
その後、熱風循環炉にて、50℃で30分乾燥した。
【0108】
3)重合性液状材料の調製
ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィド 90部、4,7−ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチア−1,11−ウンデカンジチオール 10部を窒素ガス雰囲気下で15℃に温度調節しながら30分間混合攪拌し、硬化触媒としてN,N−ジメチルシクロヘキシルアミン 0.3部、香気性付与剤としてイソプレゴールと表1に示した紫外線吸収剤と特定波長吸収色素をそれぞれ添加し、更に窒素ガス雰囲気下で15℃に温度調節しながら30分間混合攪拌して調製した。
【0109】
4)偏光レンズの成形
上記の賦形偏光フィルム又は偏光シート(実施例1〜4,比較例1〜4)を第1モールド(ガラス製、外径 80mm、使用面曲率 66.16mm、中心厚 4.0mm)、第2モールド(ガラス製、外径 80mm、使用面曲率 65.59mm、中心厚 4.0mm)2枚1組の間にセット後、中心間隔 3.0mmとなるように粘着テープを巻き回して成形型を調製した。
【0110】
粘着テープは、38μm厚PETフィルム上にシリコーン系粘着剤が塗布されたスリオンテック製6263−50粘着テープを使用した。
【0111】
上記成形型に重合性液状材料を注入後、下記温度条件で加熱し重合硬化させて偏光レンズ成形を行った。重合後、型から取り出す離型工程は、クサビ状工具で物理的(機械的)に行った。
【0112】
「30℃×10時間→30℃から50℃まで5時間かけて昇温→50℃から100℃まで2時間かけて昇温→100℃から120℃まで1時間かけて昇温→120℃×2時間→120℃から40℃まで4時間かけて冷却する。」
【0113】
<試験群II:実施例4〜6、比較例1〜2>
本試験例群IIでは、屈折率(ne)1.67のポリチオウレタン系レンズ樹脂は、接着剤が無くてもレンズ樹脂と偏光フィルムの付着性が十分に得られるので接着剤の調合、塗布は行わない。
【0114】
1)偏光フィルム又は偏光シートの曲げ加工
表1に示した偏光フィルムを用意し、第一モールドの曲率66.16mmに合わせて偏光フィルムは加湿した後、熱プレスにて曲げた。
【0115】
これをレーザー加工機にて外径80mmの円形にカットし曲率を持った偏光フィルムを作成した。
【0116】
その後、加湿した水分を取り除くために熱風循環炉にて、60℃で80分乾燥した。
【0117】
2)重合性液状材料の調製
m−キシリレンジイソシアネート 100部に、硬化剤としてジブチルチンジクロライド 0.1部、内部離型剤としてアルキル燐酸エステル(アルコールC8〜C12)塩 0.5部、香気性付与剤としてカプロン酸エチル 0.2部、と表1に示した紫外線吸収剤と特定波長吸収色素をそれぞれ添加し、液温15℃、窒素ガス雰囲気下で1時間充分に攪拌した。
【0118】
その後、4−メルカプトメチル−3,6−ジチア−1,8−オクタンジチオール 100部 を添加し、液温15℃、窒素ガス雰囲気下で1時間充分に攪拌した。
【0119】
そして、真空ポンプを用いて液温度15℃、133Paで攪拌しながら1時間脱気後、1μmフィルターで濾過し、屈折率(nD25)1.67のポリチオウレタン系レンズ原料液(重合性液状材料)を調合した。
【0120】
3)偏光レンズの成形
上記の賦形偏光フィルム又は偏光シート(実施例1〜4,比較例1〜4)を第1モールド(ガラス製、外径 80mm、使用面曲率 66.16mm、中心厚 4.0mm)、第2モールド(ガラス製、外径 80mm、使用面曲率 65.59mm、中心厚 4.0mm)2枚1組の間にセット後、中心間隔 3.0mmとなるように粘着テープを巻き回して成形型を調製した。
【0121】
粘着テープは、38μm厚PETフィルム上にシリコーン系粘着剤が塗布されたスリオンテック製6263−50粘着テープを使用した。
【0122】
上記成形型に重合性液状材料を注入後、下記温度条件で加熱し重合硬化させて偏光レンズ成形を行った。
【0123】
「35℃×5時間→35℃から60℃まで5時間かけて昇温→60℃から100℃まで2時間かけて昇温→100℃から120℃まで1時間かけて昇温→120℃×3時間→120℃から40℃まで4時間かけて冷却する。」
【0124】
<試験群III:実施例6〜9、比較例3〜4>
試験例群IIと同様、屈折率(ne)1.60のポリチオウレタン系レンズ樹脂は、接着剤が無くてもレンズ樹脂と偏光フィルムの付着性が十分に得られるので接着剤の調合、塗布は行わない。
【0125】
1)偏光フィルム又は偏光素子の曲げ加工
試験例群IIと同様に行なった。
【0126】
2)重合性液状材料の調製
2,5−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタンビス(メチルイソシアネート) 100部に、硬化剤としてジブチルチンジクロライド 0.1部、内部離型剤としてアルキル燐酸エステル(アルコールC8〜C12)塩 0.3部、香気性付与剤としてカプロン酸エチル 0.2部、と表1に示した紫外線吸収剤と特定波長吸収色素をそれぞれ添加し、液温25℃、窒素ガス雰囲気下で1時間充分に攪拌した。
【0127】
その後、更にペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート) 50部と、4,7−ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチア−1.11−ウンデカンジチオール 50部を添加し、液温25℃、窒素ガス雰囲気下で1時間充分に攪拌した。
【0128】
3)偏光レンズの成形
上記の賦形偏光フィルム又は偏光シート(実施例1〜4,比較例1〜4)を第1モールド(ガラス製、外径 90mm、使用面曲率 66.16mm、中心厚 4.0mm)、第2モールド(ガラス製、外径 90mm、使用面曲率 65.59mm、中心厚 4.0mm)2枚1組の間にセット後、中心間隔 2.5mmとなるような射出成形されたガスケットに組み込み成形型を調製した。
【0129】
ガスケットは、三井化学(株)製ミラストマーNo.6010樹脂を射出成形し使用した。
【0130】
<試験群IV:実施例10,11>
1)表1に示した偏光フィルムを用意し、レーザー加工機にて外径80mmの円形にカットし曲率を持った偏光シートを作成した。更に熱プレス金型の曲率66.5mmに合わせて偏光シートを熱プレスにて曲げた。
【0131】
2)射出成形用色素煉り込み樹脂ペレットの調製
表1に示した特定波長吸収色素と添加量を“ユーピロンCLS−3400”(三菱エンジニアリングプラスチック(株)登録商標;紫外線吸収剤含有のポリカーボネートマスターバッチ)に混合して射出成型用樹脂ペレットを製造した。
【0132】
3)偏光レンズの射出成形
外径75mm、中心厚2.1mmの偏光レンズを成形する金型を(株)ソディック製電動ハイブリッド縦型射出成形機TR100VRに取り付ける。
これに、曲げ加工された偏光シートを取り付け、上記特定波長吸収色素混合樹脂ペレットにて射出成形する。
【0133】
<試験方法および結果>
上記で調製した各実施例・比較例の光学要素(偏光レンズ)について、下記方法に従って、透過率を計測した。
JIS T−7333の「屈折補正用眼鏡レンズの透過率の仕様及び試験方法」に示すように偏光レンズの透過率の値は非偏光の光を使用して測定した。又は資料の偏光面の互いに垂直な二つの方向で測定した透過率の値の平均値として計算した。測定は、「日立分光光度計 U−4100」を用いて、測定波長350〜850nm、スキャンスピード 600nm/min.、サンプリング間隔 1nm、 スリット 5nmの条件にて行なった。
【0134】
それらの試験結果の透過率曲線を、図5〜19に示すとともに、各図から求めた本発明の発明特定事項項目について、表2・3に纏めた。
【0135】
表2に示す結果から、各実施例は、本発明の発明特定事項の全てを満たすことが分かる。それらに対して、各比較例は、本発明の発明特定事項を満たさない項目があることが分かる。
【0136】
【表2】
【0137】
更に、各実施例・比較例の偏光レンズ2枚を眼鏡フレームに枠入れしてモニター用眼鏡を調製した。
【0138】
該モニター用眼鏡を使用して、夏季(2010年7月初旬〜同年8下旬)にかけて、下記天候での屋内、屋外での風景等を見た場合の下記表3の10条件において、眩しさが低減したり、はっきり見えたりした場合が、8条件以上であった場合に防眩性有りと認定した。そして、判定基準は、防眩性有りと認定した人数による下記のものとした。
【0139】
【表3】
【0140】
◎:9名以上、○:7〜8名、△:5〜6名、×:4名以下
紫外線カット性およびそれらの結果を示す表4から、本発明の光学要素(眼鏡用レンズ)は、紫外線カット性に優れるとともに、防眩性能および視認性能も充分であることが確認できた。
【0141】
【表4】
【符号の説明】
【0142】
11 光学要素(偏光レンズ)
13 偏光素子(偏光フィルム又は偏光シート)
15 レンズ層
【技術分野】
【0001】
本発明は、防眩光学要素に関する。特に、眼鏡用プラスチックレンズとして好適な発明に係る。
【0002】
ここでは、プラスチックレンズを例に採り説明するが、これに限られるものではない。
即ち、本発明に係る防眩光学要素は、プラスチックレンズに限らず無機ガラスレンズ、更に、サンバイザー、スキーゴーグル、自動車や住宅用の偏光窓ガラス、飛行機やオートバイの偏光風防ガラス、ディスプレー用フィルターカバー、照明機器用カバー等にも適用できる。
【0003】
眼鏡として使用する場合は、防眩や有害光線の遮断を目的として、サイクリング、釣り、ウォーキング、ドライブ、買い物、洗濯物干し等の屋外使用や、パソコンや携帯画面の視認時や就寝前における屋内使用に好適である。
【背景技術】
【0004】
人間の眼は、明順応状態の視覚(明所視)では、555nm付近(標準比視感度曲線の中心波長)(510〜600nm)の光を最も明るく感じる。
【0005】
そこで、眩しさを防ぐためには、上述した波長付近の光をカットすればよい。
しかし、夏の海岸や冬のスキー場などで眩しさを防ぐためには、一般にサングラス等の着色レンズを使用した眼鏡を着用する。かかる着色レンズでは、全波長域の光が一様にカットされてしまうので光量不足となる(視野が暗い)という問題がある。
【0006】
ところで、特定波長吸収色素を用いると、人間の眼に眩しく感じる付近の波長域で特に強い波長域(570〜600nm)のみを選択的に吸収できる。
【0007】
したがって、この特性を利用して、眼鏡レンズにいわゆる防眩性能を付与する処方が施されている。主たる処方として眩しさを与え易い波長域をできるだけ選択的に遮光することであり、実際にも585nm付近の可視光を高度に波長選択的に吸収できるネオジム等の希土類元素を中心原子とする有機希土類元素錯体を含有させると効果的な防眩性能が得られる(特許文献1段落0002から引用)。
【0008】
しかし、これらの有機希土類元素錯体は、非常に高価な上に、透明樹脂の透明性を損なわずに混合や塗布膜にすることが上手くできない。
【0009】
即ち、上記樹脂材料に特定の有機希土類元素錯体を配合させる方法には、各種の不都合な問題をかかえている。
【0010】
第一には、レンズ材料によっては有機希土類元素錯体の有機部分の選択が大幅に制限されるために高価な化合物に限定されることが多い。また、例えばチオウレタンレンズ系では、通常の有機希土類元素錯体は、樹脂への溶解性や分散性あるいはレンズ樹脂との好ましくない反応性、更には環境下保存安定性などの問題点がある。
【0011】
第二には、前記する波長域585nm付近で要求される低光透過度(高光遮光性)を達成させる為には、有機希土類元素錯体の配合量が、通常5重量%程度も必要であり、高価な有機希土類元素錯体を多量に使用する不都合さだけでなく、しばしばレンズの機械的物性の低下とバランスを余儀なくされる。(以上、特許文献1段落0005から引用)。
【0012】
上記問題点を解決するために、有機系の特定波長吸収色素を含有させて、ネオジム化合物含有プラスチックと同等の防眩特性を有するプラスチック眼鏡レンズが特許文献1・2等で提案されている。
【0013】
即ち、特許文献1では、可視光吸収スペクトル(分光透過率曲線:以下「透過率曲線」という。)において、波長域565〜605nm(望ましくは580〜590nm)で主吸収のバレー(極小ピーク)を有し、(請求項1・2)、また、望ましい特定波長吸収色素が下記式(1)で示されるテトラアザポルフィリン化合物である(請求項4等)。
【0014】
【化1】
【0015】
[式(1)中、A1〜A8は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、炭素数1〜20の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜20のモノアルキルアミノ基、炭素数2〜20のジアルキルアミノ基、炭素数7〜20のジアルキルアミノ基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数6〜20のアリール基、ヘテロアリール基、炭素数6〜20のアルキルチオ基、炭素数6〜20のアリールチオ基を表し、連結基を介して芳香族環を除く環を形成しても良く、Mは2個の水素原子、2価の金属原子、2価の1置換金属原子、4価の2置換金属原子、又はオキシ金属原子を表す。]
【0016】
また、特許文献2では、合成樹脂基材として、透過率曲線の波長域550〜585nmに透過率曲線の極小(バレー)を有し、波長域470〜550nmにおける平均透過率が10%以上を示すものとし、特定波長吸収色素が下記式(2)で表されるスクアリリウム化合物である(請求項1等)。
【0017】
【化2】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2008−134618号公報
【特許文献2】特開2003−107412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかし、昨今、目の健康上の見地から、防眩性能の向上に加え、紫・青色の青色系波長域(400〜500nm)のカットが要求されるようになってきた。
【0020】
事実、晴れにおける青色系波長域における強度は、他の波長域に比して格段に高い(図1参照)。図1は、出願人の従業者が、下記条件で測定し、波長に対して、晴れの日の最大値を1とした基準において相対強度(%)表示したものである。
【0021】
測定日:2010年9月22日(晴れ)、同年9月24日(曇り)
測定場所:愛知県豊橋市
測定機器:分光放射計FieldSpec3(米国ASD社製)
測定方法:北側窓から天空に向けて計測
【0022】
そして、青色系波長域が目に与える影響(いわゆる「青色ハザード」)について、メディアで下記のような点が報じられている。
1.眩しさを感じる
2.青色光網膜傷害 ⇒目にダメージ
3.覚醒効果 ⇒朝あびると目が覚める
4.睡眠物質の抑制 ⇒夜あびると眠れない
5.体内時計が遅れる ⇒眠れないため時計がずれる
6.像がぼけて見える ⇒色収差のため青色光は太陽光のほか、パソコン(PC), 携帯電話,TV, LED照明などから放射されており、とくに青色を強く放射しているディスプレーを見続けることの悪影響がある。
出典一覧:照明学会誌2010年4月号「LED照明の課題(生体安全性)」
週刊文春2010年7月1日号「青色光が心と体を蝕む」日米専門家が緊急警告」河崎貴一
【0023】
また、防眩性能向上は、薄板状の偏光素子と透明基材を組み合わせれば、達成できる(特許文献2段落0021、実施例4・6)。
【0024】
しかし、実施例4では特許文献2の図6に示される如く、青色光吸収剤が配合されているにもかかわらず、550nmより短波長側の可視光域(400〜550nm)(以下「短波長側可視光域」)において、平均透過率が50%以上であり高い。他方の実施例6では図8に示される如く、平均透過率は20%以下であるが、青色波長(450〜495nm)の略中央値(480nm)に透過率のシャープ(明りょう)な極大を有する。
【0025】
但し、この実施例6の図8は、実施例4の図6と対比すると、データ自体に疑問が発生する。両者の相違は、赤外線吸収剤含有の有無だけである。赤外線吸収剤の含有により、可視光域上限(760nm)側で透過率が低下するのは理解できるが、短波長側可視光域(400〜550nm)で、そのような極端な差が発生するとは考え難い。
【0026】
ちなみに、同文献における偏光素子を有しない他の実施例においては、偏光素子500nm近傍の透過率が平均値30%以上を超えている(偏光素子を有する実施例4も同様)。そして、殆どが短波長側可視光域(400〜550nm)において、シャープな極大(500nm近傍)を有する(偏光素子を有する実施例6も同様)。
【0027】
また、特許文献1における透過率曲線においても、短波長側可視光域(400〜550nm)においては、透過率が50%以上又は20%以上の極大値を有する。
【0028】
したがって、特許文献1・2における記載は、積極的に青色光を含む短波長側可視光域(400〜550nm)を紫外線とともにカット(遮断)することを予定するものではない。
【0029】
更に、特許文献1・2では、550nm超の長波長側の可視光域(以下「長波長側可視光域」)に本発明におけるバレー長波長側(極小)に相当するものを有するが、該極小値は透過率略25%以下であるとともに、バレーがシャープである。
【0030】
こうして、眩しさを与え易い波長域の透過率を低くすることにより、防眩性能は向上する。しかし、バレー透過率が低すぎたり、該バレーがシャープであったりすると、バレー波長の発光色と近傍波長の発光色との照度差が大きくなって、バレー波長の発光色の認識が困難となったり、該発光色が照明色の場合、視野が暗くなったりするおそれがある。
【0031】
例えば、波長域550〜600nmの光をカットすると、黄色光の中心波長が580nmであるのに対し、黄赤光の中心波長は600nmであり近接しており(斉藤勝裕著「ブルーバックス 光と色彩の科学」2010年、講談社、p96図4-3)、黄色光の視認性が低下したり、ナトリウムランプの照明光(中心波長:589nm)がレンズを透過せず、視野が暗くなるおそれがある(特許文献2段落0003参照)。
【0032】
本発明は、上記にかんがみて、眼鏡レンズ等に適用した場合、優れた防眩性能を有するとともに、目の保護の観点から優れ、且つ、視認性を確保し易い防眩光学要素を提供することを目的とする。
【0033】
本発明の他の目的は、更に、目に有害とされている青色系波長域(400〜500nm)の光を吸収でき、且つ、紫外線もカットでき、目の健康の見地からも望ましい防眩光学要素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意開発に努力をした結果、下記構成の光学要素に想到した。
【0035】
本発明は、薄板状の偏光素子の少なくとも片面に透明基材層を有している多層構造の光学要素であって、
いずれかの同一層又は別の層に、紫外線吸収剤とともに特定波長吸収色素を含有させて、
分光光度計にて測定された透過率曲線(以下「透過率曲線」)において、
1)波長域550nm超605nm以下および波長域450〜550nmにそれぞれバレー長波長側およびバレー短波長側を少なくとも1個有すること、又は、
2)波長域550nm超605nm以下にバレー長波長側を少なくとも1個有するともに、波長域450〜550nmに透過率ピークを有しない、
ことを特徴とするものである。
【0036】
当該構成とすることにより、眩しさの原因である標準比視感度曲線の中心波長近傍に、バレー(極小)長波長側を有するため、偏光素子と相まって防眩性能を向上させることができる。また、波長域450〜550nm(青色系で強度の強い範囲)に他のバレーを有する又はシャープな透過率ピークを有しないため、更に防眩性効果を増大させることができるとともに青色ハザードを低減でき目の健康保全への寄与が期待できる。さらに、特定波長吸収色素として短波長側可視光域にバレーを有するものとした場合は、紫外線吸収剤を配合しなくても、紫外線カットが可能である(新たな知見)。また、バレー長波長側の極小値が25%超でも、偏光素子と組み合わせた場合は、防眩性能を発揮可能できることを知見した。また、偏光素子として偏光度の低いものを使用すれば、バレーが長波長側および短波長側の双方に明りょうに出ることも知見した(実施例6・7)。
【0037】
上記各構成において、波長域450〜550nmにおける全体平均透過率(積分平均)が30%以下であることがより望ましい。青色ハザードの低減がより確実となる。なお、上記構成の波長域450〜550nmにおける平均分光透過率30%以下のものは、偏光素子として偏光度90%以上のものを使用したり、適宜着色したりすることにより容易に達成することができる。
【0038】
前記構成において、バレーの極小値を5%以上とし、バレー長波長側・短波長側は、通常、バレー値の波長の±20nmの波長範囲内の視感透過率値の最大値に対して最小値の比率が、0.5〜0.9であるものとすることが望ましい。
【0039】
また、バレー長波長側の極小値は25%以上とすることが、特定波長の光の視認性をより確保し易くなる。
【0040】
バレーの曲率が大きすぎる(平板状・ダル)であると、バレーによる波長カットを奏しがたい。逆に、バレー曲率が小さい(シャープである)と、バレー波長の両側近傍の発光照度差が大きくなって、バレー波長の発光色の視認性が低下するおそれがある。また、バレーの極小値を5%以上とすることにより、当該波長の光の透過を担保でき、当該波長の発光色の視認が困難となるおそれがない。
【0041】
上記各構成において、波長域605nm超780nmの全体平均透過率(積分平均)が30%超であることが望ましい。夜間やトンネル内における視野確保のためである。
【0042】
更に、波長400nmの分光透過率1%以下で、波長410nmの分光透過率20%以下を示すものとすることにより、有害な紫外線のカットを担保できる。
【0043】
また、防眩光学要素は、偏光度、透明基材層を、特定波長吸収色素および紫外線吸収剤を含む透明合成樹脂層で形成する場合は、特定波長吸収色素および紫外線吸収剤の樹脂原料100部に対する配合量を、前者:0.5×10-5〜1.5×10-2部および後者:0.5〜5部(望ましくは、1.5〜5部)とすることにより、達成が容易にできる。
【0044】
即ち、本発明者らは、多量の紫外線吸収剤を配合することにより、紫外線カットばかりでなく、青色光を含む短波長側可視光域のカットにも有効であることを知見したものである。従来の引用文献1・2等の実施例レベルにおいて、特定波長吸収色素の配合量は本発明の範囲内にあるも(引用文献1:1.0×10-5又は、引用文献2:2.0×10-5)、紫外線吸収剤の配合量は本発明の下限値未満の範囲外である(引用文献1:0.05部、引用文献2:0.4部)。
【発明の効果】
【0045】
偏光レンズによる特定方向の光のカットと、可視光短波長(青色系光)のカットとが相乗して防眩性能がより向上するとともに、色収差が軽減するために像がぼけず、視認性が向上する(ハッキリ見える)。
【0046】
本発明の如く、特定の可視光波長領域での選択的光吸収特性を保持しながら他色素を混色させて目的の色調にする場合には、必要な選択的光波長域以外の波長域での光吸収要因が出来るだけ少ない(バレーが明りょうで適度な曲率を有し、透過率曲線がフラット)な方が、すなわち前記バレー数が少ない方が、混色の組み合わせ法がよりシンプルとなるだけでなく、目的の色調範囲をより広く採用し易く、かつ、よりクスミの少ない色調を得やすいことになる。
【0047】
即ち、本発明の防眩光学要素は、強度の強い長波長側可視光域とともに、青色系の短波長側可視光域を選択的にカットしたり、透過率曲線にシャープな極大を有しない平均的なものとしたりすることにより、優れた防眩性能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】秋口における晴れと曇の日の光強度スペクトル図である。
【図2】本発明を適用する偏光レンズの一モデル断面図である。
【図3】第1・第2モールドを用いてのテープ巻き回し方式の偏光レンズの注型成形法の説明用断面図である。
【図4】同じくガスケットシール方式の偏光レンズの注型成形法の説明用断面図である。
【図5】実施例1で調製した防眩光学要素の透過率のグラフ図である。
【図6】実施例2で調製した防眩光学要素の透過率のグラフ図である。
【図7】実施例3で調製した防眩光学要素の透過率のグラフ図である。
【図8】比較例1で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図9】比較例2で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図10】実施例4で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図11】実施例5で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図12】実施例6で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図13】実施例7で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図14】実施例8で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図15】実施例9で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図16】比較例3で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図17】比較例4で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図18】実施例10で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【図19】実施例11で調製した光学要素(偏光レンズ)の透過率のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の実施形態について、図例に基づいて説明する。
【0050】
本実施形態の光学要素(偏光レンズ)11は、基本的には、偏光素子(偏光フィルム又は偏光シート)13の両面に重合性液状材料を用いて注型成形された透明合成樹脂層(レンズ層)15、15を有するものである(図2参照)。
【0051】
次に、本実施形態の偏光レンズの注型成形法としては、下記(1)テープ巻き回し方式(図3)、及び、(2)ガスケットシール方式(図4)のいずれでもよい。図3は片面にレンズ層を形成するものである。
【0052】
基本的には、偏光素子(偏光フィルム又は偏光シート)13の両面にレンズ層15、15を有する偏光レンズ11を、一対の第1・第2モールド(通常、ガラス製)17、19を使用して成形する方法であって、前記第1モールド17を実質的に水平に保持した状態で、該第1モールド17上に賦形偏光素子13を浮かし置き、さらに、前記第2モールド19を賦形偏光素子13に対して所定隙間をおいてセットした状態で、前記第1・第2モールド17、19の周辺開口部を、テープ21を巻き回して形成、若しくは、プラスチック製のガスケット23にてキャビティ25を形成して成形型27を調製し、該成形型27のキャビティ25に重合性液状材料を注入して、熱硬化重合や紫外線硬化重合などの手段により重合硬化乃至架橋硬化させて形成する。
【0053】
なお、上記第1・2モールド17、19は、偏光素子13を所定位置に位置決めするための位置決め部材30を、少なくとも一方(図例では双方)に有する。
【0054】
また、ガスケット23は、図4に示す如く、重合材料注入口23aを形成したものとする。
【0055】
ガスケット材料として、弾力性が有り重合性液状材料の漏れを防止できるエチレンコポリマーやオレフィン系熱可塑性エラストマーなどが好ましい。
【0056】
以下、注型成形法を用いての本実施形態の偏光レンズの製造方法を説明する。
【0057】
まず、第1モールド17の曲率に合わせて偏光素子(偏光フィルム又は偏光シート)13を真空曲げや熱プレス等の公知の方法で曲げる。
【0058】
ここで使用する偏光フィルムとしては、特に限定されず、例えば、下記のようなものを使用可能である。
・ポリビニルアルコール(PVAL)に水溶性二色性染料を含浸させた偏光フィルム、
・PVAL一軸配向フィルムに沃素を含浸させた偏光フィルム、
・PVAL一軸配向フィルムに水溶性二色性染料を含浸させた偏光フィルム、
・PVAL等の分子構造をポリエン構造にしたポリビニレン偏光フィルム、
・ポリエステル系樹脂に二色性染料を少なくても1種含む非水溶性染料を添加した偏光フィルム、
・PVALフィルムそのものを分子内脱水し、共役二重結合にし、二色性をもたせたポリビニレン偏光フィルム、
【0059】
偏光シートとは、これらの偏光フィルム13の片面もしくは両面に透明保護シートを貼り合わせる等して保護樹脂層を形成したものである。透明保護シートとしては、セルロース系シート、ポリエステル系シート、アクリル系シート、ポリカーボネート系シート、ポリアミド系シート等がある。
【0060】
これらの偏光素子(偏光フィルム又は偏光シート)13を、打ち抜きプレス又はレーザー加工によってモールド形状に切り抜くとともに曲げ加工(賦形加工)を行なう。該賦形加工後、適宜、偏光素子の材質や変形等の状態によって乾燥アニールを行う。この乾燥アニールの条件は、通常、20〜120℃×5分〜25時間の範囲から、偏光素子の種類によって、適宜選定する。
【0061】
この賦形加工後の偏光素子に、ディッピング、スピンコート等の公知の方法で接着剤を塗布し、常温・加熱乾燥により固化させて接着剤層14を形成する。
この常温・加熱乾燥の条件は、接着剤の材質や偏光素子の種類によって、20〜120℃×5分〜10時間の範囲から、適宜選定する。
【0062】
接着剤は、接着剤層がゴム状弾性を有するものであれば特に限定されない。通常、エラストマー系接着剤と称されるものを使用し、望ましくは、接着剤層が引張試験(JIS K 6251)におけるM200:0.1〜1.0MPaを示すものとする。
【0063】
具体的には、(1)エステル系TPE、(2)ウレタン系TPE、及び(3)二液硬化・一液硬化型ポリウレタン等を有機溶剤や水等で希釈乃至分散させた溶液タイプや水性エマルションタイプとした接着剤を使用可能である。
【0064】
上記接着剤の塗布方法は、ディッピング法、スピンコート法等の公知の方法から、適宜、選択することができる。
【0065】
上記のようにして賦形加工後、接着剤層を形成した偏光素子の両面にレンズ層を有する偏光プラスチックレンズを、一対の第1・第2モールドを使用して前述のテープ巻きまわし方式又はガスケットシール方式で成形する。
【0066】
そして、レンズ材料としては透明プラスチック材料を使用する。例えば、エピスルフィド系樹脂、チオウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂、チオウレア系樹脂、ウレア系重合組成物、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、サルファイド系樹脂、等から、適宜、選択する。
【0067】
なお、偏光レンズに高屈折が要求される場合は、重合性液状材料としては、下記チオウレタン系樹脂(ポリチオウレタン)(a)、エピスルフィド系樹脂(b)等の硫黄含有樹脂を使用する。特に、ポリチオウレタンが高屈折率材料を得やすく、薄いレンズが製造できる。
【0068】
(a)ポリチオウレタンとは、ポリウレタン結合(−NHCOO−)の酸素原子の少なくとも1個が硫黄原子に入れ替わった結合(−NHCOS−、−NHCSO−、−NHCSS−)を有するポリマー(樹脂)を意味し、ポリイソシアナト、ポリイソチオシアナト、ポリイソシアナトチオイソシアナトより選ばれる1種または2種以上のポリイソシアナト成分と、ポリチオール成分とからなる公知ものを好適に使用できる(特開平8−208792号公報等参照)。
【0069】
ここでイソシアナト成分としては、脂肪族系、脂環式系、芳香族系及びそれらの誘導体さらにはそれらの炭素鎖の一部に硫黄を導入したスルフィド・ポリスルフィド・チオカルボニル(チオケトン)誘導体を母体化合物とするものを挙げることができる。これらのうちで、耐黄変性の見地から、脂肪族系又は脂環式系のものが望ましい。
【0070】
また、ポリオール成分としては、同様に脂肪族系、脂環式系、芳香族系及びそれらの誘導体さらにはそれらの炭素鎖の一部に硫黄を導入したスルフィド・ポリスルフィド・ポリチオエーテルを母体化合物とするものを挙げることができる。これらのうちで、耐黄変性の見地から、同様に脂肪族系又は脂環式系のものが望ましい。
【0071】
具体的には、下記化学式(3)で示されるポリチオエーテルを母体化合物とするものからなる又は主体とするものであることが望ましい。
【0072】
【化3】
【0073】
他のポリオール成分としては、分岐炭化水素多価アルコールのω−メルカプト脂肪族カルボン酸の全置換エステルを好適に使用できる。
【0074】
具体的には、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトグリコレート)、ペンタエリトリトールテトラキス(2−メルカプトグリコレート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリトリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)等を挙げることができる。
【0075】
(b)エピスルフィド系樹脂とは、ジチオエポキシ化合物と硬化剤と、さらには、その他の重合性化合物とを反応させて得られるポリマー(樹脂)を意味し、例えば、下記化学式(4)で示される直鎖アルキルスルフィド型ジチオエポキシ化合物を硬化させる公知のものを使用できる(特開平9−110979号、特開平10−114764号公報等)。
【0076】
【化4】
【0077】
上記硬化剤としては、通常のエポキシ樹脂用硬化剤であるアミン類、有機酸類、無機酸類を使用可能である。
【0078】
なお、アクリル系樹脂としては、レンズ用の汎用の市販のポリマー材料を使用可能である。
【0079】
上記本発明の光学要素であるプラスチックレンズ(偏光レンズ)の注型成形による製造に際して、レンズ材料である重合性液状材料に、種々の添加剤、例えば、染料、青味付け(ブルーイング)剤、内部離型剤、消臭剤、酸化防止剤、安定剤、重合開始剤等を必要に応じて添加してもよい。なお、樹脂硬化(重合)は、熱硬化重合、紫外線硬化重合等で行う。
【0080】
また、本発明のプラスチックレンズの表面を、一般的に行われている強化塗膜(ハードコート)を塗布し、硬度等の改質処理をすることが望ましい。
【0081】
ハードコートは、汎用のシリコーン系塗膜で形成する。該ハードコートは、通常、プライマー層を介する。
【0082】
プライマー層は、ウレタン系やエステル系の熱可塑性エラストマーで形成することが望ましく、通常、金属酸化微粒子等を添加して屈折率を上げて使用する。
【0083】
本発明の硬化膜、プライマー膜は、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系及びフェノール系等の紫外線吸収剤や、塗膜の平滑性を向上させるためにシリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等を含むレベリング剤、その他改質剤の配合も可能である。
【0084】
塗布(コーティング)方法としては、ディッピング法、スピンコート法の公知の方法から選ばれる。
【0085】
さらに、防曇処理加工、反射防止加工、撥水処理加工、帯電防止処理加工、染色加工、等の表面処理をほどこしてもよい。
【0086】
反射防止膜を形成する無機物としては、シリカ、チタニア(IV)、酸化タンタル(V)、酸化アンチモン(III)、ジルコニア、アルミナ等の金属酸化物や、フッ化マグネシウム等の金属フッ化物を好適に使用できる。
【0087】
本発明は、上記構成の薄板状の偏光素子で偏光機能を付与した多層構造の光学要素(眼鏡レンズ)において、いずれかの同一層又は別の層に、紫外線吸収剤とともに、特定波長吸収色素を含有させる含有させることを特徴的要件とするものである。
【0088】
当該特定波長吸収色素としては、波長域550nm超605nm以下および波長域50〜550nm(望ましくは、波長域470〜510nm)にそれぞれバレー長波長側およびバレー短波長側を少なくとも1個有するものなら特に限定されない。
【0089】
これらの特定波長吸収色素としては、公知のものから、例えば、テトラアザポルフィリン化合物、スクアリリウム化合物、アゾメチル系、インドール系のものを1種又は2種以上選択して使用することができる。
【0090】
より具体的には、テトラアザポルフィリン化合物としては、特許文献1に記載の前述の構造式(1)や、特開2003−211847号等で記載されている下記構造式(5)で示されるものを、好適に使用可能である。
【0091】
【化5】
【0092】
〔式中、環A、B、C、D、A'、B'、C'、D'はそれぞれ独立してピロール環の2つのβ位に形成された縮合芳香族環を表し、置換基を有していてもよい。Mは3価の金属原子と1個の水素原子、あるいは4価の金属原子を表す。環A、B、C、Dの各環の各置換基は連結基を介して環A、B、C、Dの各環の各置換基および/または環A'、B'、C'、D'の各環の各置換基とそれぞれ結合していてもよい。〕
【0093】
また、スクアリリウム化合物としては、特許文献2に記載の前述の構造式(2)で示されるものを、好適に使用可能である。
【0094】
また、紫外線吸収剤としては、慣用のものを使用できる。例えば、ベンゾフェノン系、ジフェニルアクリレート系、立体障害アミン系、サリチル酸エステル系、ベンゾトリアゾール系、ヒドロキシベンゾエート系、シアノアクリレート系、ヒドロキシフェニルトリアジン系等を挙げることができる。
【0095】
これらの内で、ベンゾトリアゾール系のものの誘導体が望ましい。
ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤は、青色系波長域(400〜500nm)と重複する波長域380〜450nmを効率よくカットするのに対し、他の系の紫外線吸収剤では380nm以上の波長域のカット量が小さい。このため、トリアゾール系紫外線吸収剤を、光学要素(レンズ)に黄変や白濁しない限界内で多量に配合した場合に、青色系波長域のカット機能も奏する。
【実施例】
【0096】
以下、本発明の効果を確認するために比較例とともに行なった実施例について説明する。
【0097】
本実施例で使用した偏光素子、紫外線吸収剤および特定波長吸収色素は、下記の通りである。
【0098】
<偏光素子>
下記仕様の市販品を用いた。
F−01 ;染料系PVAL偏光フィルム「Gray−30」、偏光度99.5%
F−02 ;染料系PVAL偏光フィルム「Brown−30」、偏光度99.2%
F−03 ;ヨウ素系PVAL偏光フィルム「Brown−41」、偏光度95.1%
F−04 ;染料系PVAL偏光フィルム「Rose Brown−24」、偏光度95.8%
F−05 ;染料系PVAL偏光フィルム「Ruby−15」、偏光度99.6%
F−06 ;ヨウ素系PVAL偏光フィルム「Gray−60」、偏光度45.8%
F−07 ;染料系PVAL偏光フィルム「Gray−45」、偏光度77.3%
F−08 ;染料系PVAL偏光フィルム「Gray−12G」、偏光度99.9%
F−09 ;染料系PVAL偏光フィルム「Marron−20」、偏光度99.8%
F−10 ;染料系PVAL偏光フィルム「Gray−28」、偏光度98.3%
S−01 ;サングラス用染料系ポリカーボネート偏光シート「Gray−15」、偏光度99.8%
S−02 ;サングラス用染料系ポリカーボネート偏光シート「Gray−12」、偏光度99.8%
【0099】
<紫外線吸収剤>
下記化合物名の各市販品を使用した。
UV−01 ;2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1、3,3−テトラメチルブチル)フェノール
UV−02 ;2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール
UV−03 ;2−(4−ブトキシ−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール
UV−04 ;2−(4−エトキシ−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール
UV−05 ;2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(1,1ジメチルエチル)−4−メチルフェノール
【0100】
<特定波長吸収色素>
下記仕様の各市販品を用いた。
C−01 ;テトラアザポリフィリン系バナジウム錯体化合物の異性体混合物、吸収ピーク波長595nm
C−02 ;テトラアザポリフィリン系銅錯体化合物の異性体混合物、吸収ピーク波長585nm
C−03 ;テトラアザポリフィリン系ユウロピウム錯体化合物の異性体混合物、吸収ピーク波長481nm
C−04 ;テトラアザポリフィリン系バナジウム錯体化合物の異性体混合物、吸収ピーク波長497nm
C−05 ;スクアリリウム系化合物、吸収ピーク波長594nm
C−06 ;ピロメテン系化合物、吸収ピーク波長497nm
C−07 ;シアニン系化合物、吸収ピーク波長500nm
【0101】
そして、実施例・比較例で使用した各材料(素材)および添加量を、纏めたものを表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
<試験群I:実施例1〜3>
1)偏光フィルムの接着剤調製
下記配合処方の混合物を均一な状態になるまで攪拌し調製した。
水性エマルションエステル系熱可塑性エラストマー「ペスレジンA−160P」(高松油脂株式会社、水分散エマルション、固形分濃度27%)100部
メチルアルコール 900部
シリコーン系界面活性剤「SILWET L−77」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社) 2部
【0104】
2)偏光フィルムの曲げ加工と接着剤塗布
第一モールドの曲率66.16mmに合わせて偏光フィルムは加湿した後、熱プレスにて曲げた。
【0105】
これをレーザー加工機にて外径80mmの円形にカットし曲率を持った偏光フィルムを作成した。
【0106】
この曲率を持った偏光フィルムに上記調合された接着剤を塗布した。
塗布方法は、ディッピングにて接着剤液温15℃、浸漬時間30秒、引き上げ速度200mm/分で行った。
【0107】
その後、熱風循環炉にて、50℃で30分乾燥した。
【0108】
3)重合性液状材料の調製
ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィド 90部、4,7−ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチア−1,11−ウンデカンジチオール 10部を窒素ガス雰囲気下で15℃に温度調節しながら30分間混合攪拌し、硬化触媒としてN,N−ジメチルシクロヘキシルアミン 0.3部、香気性付与剤としてイソプレゴールと表1に示した紫外線吸収剤と特定波長吸収色素をそれぞれ添加し、更に窒素ガス雰囲気下で15℃に温度調節しながら30分間混合攪拌して調製した。
【0109】
4)偏光レンズの成形
上記の賦形偏光フィルム又は偏光シート(実施例1〜4,比較例1〜4)を第1モールド(ガラス製、外径 80mm、使用面曲率 66.16mm、中心厚 4.0mm)、第2モールド(ガラス製、外径 80mm、使用面曲率 65.59mm、中心厚 4.0mm)2枚1組の間にセット後、中心間隔 3.0mmとなるように粘着テープを巻き回して成形型を調製した。
【0110】
粘着テープは、38μm厚PETフィルム上にシリコーン系粘着剤が塗布されたスリオンテック製6263−50粘着テープを使用した。
【0111】
上記成形型に重合性液状材料を注入後、下記温度条件で加熱し重合硬化させて偏光レンズ成形を行った。重合後、型から取り出す離型工程は、クサビ状工具で物理的(機械的)に行った。
【0112】
「30℃×10時間→30℃から50℃まで5時間かけて昇温→50℃から100℃まで2時間かけて昇温→100℃から120℃まで1時間かけて昇温→120℃×2時間→120℃から40℃まで4時間かけて冷却する。」
【0113】
<試験群II:実施例4〜6、比較例1〜2>
本試験例群IIでは、屈折率(ne)1.67のポリチオウレタン系レンズ樹脂は、接着剤が無くてもレンズ樹脂と偏光フィルムの付着性が十分に得られるので接着剤の調合、塗布は行わない。
【0114】
1)偏光フィルム又は偏光シートの曲げ加工
表1に示した偏光フィルムを用意し、第一モールドの曲率66.16mmに合わせて偏光フィルムは加湿した後、熱プレスにて曲げた。
【0115】
これをレーザー加工機にて外径80mmの円形にカットし曲率を持った偏光フィルムを作成した。
【0116】
その後、加湿した水分を取り除くために熱風循環炉にて、60℃で80分乾燥した。
【0117】
2)重合性液状材料の調製
m−キシリレンジイソシアネート 100部に、硬化剤としてジブチルチンジクロライド 0.1部、内部離型剤としてアルキル燐酸エステル(アルコールC8〜C12)塩 0.5部、香気性付与剤としてカプロン酸エチル 0.2部、と表1に示した紫外線吸収剤と特定波長吸収色素をそれぞれ添加し、液温15℃、窒素ガス雰囲気下で1時間充分に攪拌した。
【0118】
その後、4−メルカプトメチル−3,6−ジチア−1,8−オクタンジチオール 100部 を添加し、液温15℃、窒素ガス雰囲気下で1時間充分に攪拌した。
【0119】
そして、真空ポンプを用いて液温度15℃、133Paで攪拌しながら1時間脱気後、1μmフィルターで濾過し、屈折率(nD25)1.67のポリチオウレタン系レンズ原料液(重合性液状材料)を調合した。
【0120】
3)偏光レンズの成形
上記の賦形偏光フィルム又は偏光シート(実施例1〜4,比較例1〜4)を第1モールド(ガラス製、外径 80mm、使用面曲率 66.16mm、中心厚 4.0mm)、第2モールド(ガラス製、外径 80mm、使用面曲率 65.59mm、中心厚 4.0mm)2枚1組の間にセット後、中心間隔 3.0mmとなるように粘着テープを巻き回して成形型を調製した。
【0121】
粘着テープは、38μm厚PETフィルム上にシリコーン系粘着剤が塗布されたスリオンテック製6263−50粘着テープを使用した。
【0122】
上記成形型に重合性液状材料を注入後、下記温度条件で加熱し重合硬化させて偏光レンズ成形を行った。
【0123】
「35℃×5時間→35℃から60℃まで5時間かけて昇温→60℃から100℃まで2時間かけて昇温→100℃から120℃まで1時間かけて昇温→120℃×3時間→120℃から40℃まで4時間かけて冷却する。」
【0124】
<試験群III:実施例6〜9、比較例3〜4>
試験例群IIと同様、屈折率(ne)1.60のポリチオウレタン系レンズ樹脂は、接着剤が無くてもレンズ樹脂と偏光フィルムの付着性が十分に得られるので接着剤の調合、塗布は行わない。
【0125】
1)偏光フィルム又は偏光素子の曲げ加工
試験例群IIと同様に行なった。
【0126】
2)重合性液状材料の調製
2,5−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタンビス(メチルイソシアネート) 100部に、硬化剤としてジブチルチンジクロライド 0.1部、内部離型剤としてアルキル燐酸エステル(アルコールC8〜C12)塩 0.3部、香気性付与剤としてカプロン酸エチル 0.2部、と表1に示した紫外線吸収剤と特定波長吸収色素をそれぞれ添加し、液温25℃、窒素ガス雰囲気下で1時間充分に攪拌した。
【0127】
その後、更にペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート) 50部と、4,7−ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチア−1.11−ウンデカンジチオール 50部を添加し、液温25℃、窒素ガス雰囲気下で1時間充分に攪拌した。
【0128】
3)偏光レンズの成形
上記の賦形偏光フィルム又は偏光シート(実施例1〜4,比較例1〜4)を第1モールド(ガラス製、外径 90mm、使用面曲率 66.16mm、中心厚 4.0mm)、第2モールド(ガラス製、外径 90mm、使用面曲率 65.59mm、中心厚 4.0mm)2枚1組の間にセット後、中心間隔 2.5mmとなるような射出成形されたガスケットに組み込み成形型を調製した。
【0129】
ガスケットは、三井化学(株)製ミラストマーNo.6010樹脂を射出成形し使用した。
【0130】
<試験群IV:実施例10,11>
1)表1に示した偏光フィルムを用意し、レーザー加工機にて外径80mmの円形にカットし曲率を持った偏光シートを作成した。更に熱プレス金型の曲率66.5mmに合わせて偏光シートを熱プレスにて曲げた。
【0131】
2)射出成形用色素煉り込み樹脂ペレットの調製
表1に示した特定波長吸収色素と添加量を“ユーピロンCLS−3400”(三菱エンジニアリングプラスチック(株)登録商標;紫外線吸収剤含有のポリカーボネートマスターバッチ)に混合して射出成型用樹脂ペレットを製造した。
【0132】
3)偏光レンズの射出成形
外径75mm、中心厚2.1mmの偏光レンズを成形する金型を(株)ソディック製電動ハイブリッド縦型射出成形機TR100VRに取り付ける。
これに、曲げ加工された偏光シートを取り付け、上記特定波長吸収色素混合樹脂ペレットにて射出成形する。
【0133】
<試験方法および結果>
上記で調製した各実施例・比較例の光学要素(偏光レンズ)について、下記方法に従って、透過率を計測した。
JIS T−7333の「屈折補正用眼鏡レンズの透過率の仕様及び試験方法」に示すように偏光レンズの透過率の値は非偏光の光を使用して測定した。又は資料の偏光面の互いに垂直な二つの方向で測定した透過率の値の平均値として計算した。測定は、「日立分光光度計 U−4100」を用いて、測定波長350〜850nm、スキャンスピード 600nm/min.、サンプリング間隔 1nm、 スリット 5nmの条件にて行なった。
【0134】
それらの試験結果の透過率曲線を、図5〜19に示すとともに、各図から求めた本発明の発明特定事項項目について、表2・3に纏めた。
【0135】
表2に示す結果から、各実施例は、本発明の発明特定事項の全てを満たすことが分かる。それらに対して、各比較例は、本発明の発明特定事項を満たさない項目があることが分かる。
【0136】
【表2】
【0137】
更に、各実施例・比較例の偏光レンズ2枚を眼鏡フレームに枠入れしてモニター用眼鏡を調製した。
【0138】
該モニター用眼鏡を使用して、夏季(2010年7月初旬〜同年8下旬)にかけて、下記天候での屋内、屋外での風景等を見た場合の下記表3の10条件において、眩しさが低減したり、はっきり見えたりした場合が、8条件以上であった場合に防眩性有りと認定した。そして、判定基準は、防眩性有りと認定した人数による下記のものとした。
【0139】
【表3】
【0140】
◎:9名以上、○:7〜8名、△:5〜6名、×:4名以下
紫外線カット性およびそれらの結果を示す表4から、本発明の光学要素(眼鏡用レンズ)は、紫外線カット性に優れるとともに、防眩性能および視認性能も充分であることが確認できた。
【0141】
【表4】
【符号の説明】
【0142】
11 光学要素(偏光レンズ)
13 偏光素子(偏光フィルム又は偏光シート)
15 レンズ層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状の偏光素子の少なくとも片面に透明基材層を有している多層構造の光学要素であって、
いずれかの同一層又は別の層に、紫外線吸収剤とともに特定波長吸収色素を含有させて、
分光光度計にて測定された透過率曲線(以下「透過率曲線」)において、
波長域550nm超605nm以下および波長域450〜550nmにそれぞれバレー長波長側およびバレー短波長側を少なくとも1個有する、
ことを特徴とする防眩光学要素。
【請求項2】
薄板状の偏光素子の少なくとも片面に透明基材層を有している多層構造の光学要素であって、
いずれかの同一層又は別の層に、紫外線吸収剤とともに特定波長吸収色素を含有させて、
透過率曲線において、
波長域550nm超605nm以下にバレー長波長側を少なくとも1個有するともに、
波長域450〜550nmに透過率ピークを有しない、
ことを特徴とする防眩光学要素。
【請求項3】
波長域450〜550nmにおける全体平均透過率(積分平均)が30%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の防眩光学要素。
【請求項4】
前記バレー長波長側は、極小値が5%以上であり、バレー波長の±20nmの波長範囲内の視感透過率値の最大値に対して最小値の比率が、0.5〜0.9であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の防眩光学要素。
【請求項5】
前記バレー短波長側は、極小値が5%以上であり、バレー波長の±20nmの波長範囲内の視感透過率値の最大値に対して最小値の比率が、0.5〜0.9であることを特徴とする請求項1記載の防眩光学要素。
【請求項6】
前記バレー長波長側の極小値が25%超であることを特徴とする請求項4又は5記載の防眩光学要素。
【請求項7】
波長域605nm超780nm以下の全体平均透過率(積分平均)が30%超であることを特徴とする請求項1〜6いずれか一記載の防眩光学要素。
【請求項8】
波長400nmの分光透過率1%以下で、波長410nmの分光透過率20%以下を示すことを特徴とする請求項1〜7いずれか一記載の防眩光学要素。
【請求項9】
前記透明基材層が、特定波長吸収色素および紫外線吸収剤を含む透明合成樹脂層で形成され、前記特定波長色素および前記紫外線吸収剤の樹脂原料100部に対する配合量が、前者:0.5×10-5〜1.5×10-3部および後者:0.5〜5部であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一記載の防眩光学要素。
【請求項1】
薄板状の偏光素子の少なくとも片面に透明基材層を有している多層構造の光学要素であって、
いずれかの同一層又は別の層に、紫外線吸収剤とともに特定波長吸収色素を含有させて、
分光光度計にて測定された透過率曲線(以下「透過率曲線」)において、
波長域550nm超605nm以下および波長域450〜550nmにそれぞれバレー長波長側およびバレー短波長側を少なくとも1個有する、
ことを特徴とする防眩光学要素。
【請求項2】
薄板状の偏光素子の少なくとも片面に透明基材層を有している多層構造の光学要素であって、
いずれかの同一層又は別の層に、紫外線吸収剤とともに特定波長吸収色素を含有させて、
透過率曲線において、
波長域550nm超605nm以下にバレー長波長側を少なくとも1個有するともに、
波長域450〜550nmに透過率ピークを有しない、
ことを特徴とする防眩光学要素。
【請求項3】
波長域450〜550nmにおける全体平均透過率(積分平均)が30%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の防眩光学要素。
【請求項4】
前記バレー長波長側は、極小値が5%以上であり、バレー波長の±20nmの波長範囲内の視感透過率値の最大値に対して最小値の比率が、0.5〜0.9であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の防眩光学要素。
【請求項5】
前記バレー短波長側は、極小値が5%以上であり、バレー波長の±20nmの波長範囲内の視感透過率値の最大値に対して最小値の比率が、0.5〜0.9であることを特徴とする請求項1記載の防眩光学要素。
【請求項6】
前記バレー長波長側の極小値が25%超であることを特徴とする請求項4又は5記載の防眩光学要素。
【請求項7】
波長域605nm超780nm以下の全体平均透過率(積分平均)が30%超であることを特徴とする請求項1〜6いずれか一記載の防眩光学要素。
【請求項8】
波長400nmの分光透過率1%以下で、波長410nmの分光透過率20%以下を示すことを特徴とする請求項1〜7いずれか一記載の防眩光学要素。
【請求項9】
前記透明基材層が、特定波長吸収色素および紫外線吸収剤を含む透明合成樹脂層で形成され、前記特定波長色素および前記紫外線吸収剤の樹脂原料100部に対する配合量が、前者:0.5×10-5〜1.5×10-3部および後者:0.5〜5部であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一記載の防眩光学要素。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−173704(P2012−173704A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38468(P2011−38468)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(391007507)伊藤光学工業株式会社 (27)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(391007507)伊藤光学工業株式会社 (27)
【Fターム(参考)】
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