説明

防虫性布団綿の製造方法

【課題】本発明の課題は、防虫剤を含有していない布団綿用原綿に防虫機能を付与する合理的な方法を提供することにある。
【解決手段】防虫性布団綿を製造するに際、防虫剤を含有していない布団綿用原料綿11と予め防虫剤を高濃度に含有させた繊維質シート15とを開繊機1に同時供給して開繊、混合し、次いでカード機3で引き揃えて薄い繊維膜18となし、これを積層して布団綿にする防虫性布団綿21の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防虫性布団綿の製造方法に関するもので、詳しくは、防虫剤を含有していない布団綿用原綿と予め防虫剤を高濃度に含有させた繊維質シートとを混合して、防虫性布団綿を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
布団や座布団は、ダニやノミ類の温床になっている。特に夏期など、温度と湿度の条件が満たされると、チリダニ、コナダニやツメダニなどが大発生する。住宅構造が密閉化や暖房化するにつれ、最近では冬季のダニの増殖も問題になっている。チリダニ、コナダニの生体、死体、糞は、アレルゲンとして喘息、鼻炎、アトピー性皮膚炎等に関係し、ツメダニやノミは刺咬症を起こす。
【0003】
この対策として、特開平9−294879号公報(布団)には、布団の詰め綿中に防虫繊維綿を少なくとも40%混入させた布団が開示されており、ピレスロイド系の薬剤を含有した防虫合繊綿と前記薬剤を含有していない繊維綿との綿同士のブレンドである。しかしながら、ピレスロイド系の薬剤を含有した布団は、口先に接触するので好ましくなく、また、合繊綿の製造工程で薬剤を練り込む場合を除いて、綿に直接防虫剤を付与するのは非効率的であり、防虫剤の付与斑も大きくなる欠点がある。
【0004】
一方、本出願人はこの対策の一つとして、特開2005−34604号(防虫詰物)を出願公開した。この公開公報には、ふとん、枕、クッション、座布団、マットレス等の詰物に、拡散性ホウ酸塩を含有した繊維質材料を中心部又は表裏両面に介在させた防虫詰物が記載されている。しかしながら、繊維質材料に含有された拡散性ホウ酸塩が詰物であるふとん綿全体に拡散性するには相当の日時を要する欠点があり、また、ホウ酸塩を含有した繊維質材料を前記ふとん綿にブレンドすることについては記載されていなかった。
【特許文献1】特開昭62−127097号公報
【特許文献2】特開2005−34604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、防虫剤を含有していない布団綿用原綿に防虫機能を付与する合理的な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達したものである。即ち、本発明は、防虫性布団綿を製造するに際して、防虫剤を含有していない布団綿用原料綿と予め防虫剤を高濃度に含有させた繊維質シートとを開繊機に同時供給して開繊、混合し、次いでカード機で引き揃えて薄い繊維膜となし、これを積層することを特徴とする防虫性布団綿の製造方法である。
【0007】
本発明でいう布団とは座布団を含むものであり、また、布団綿用原料綿とは、使用済みの布団綿や未使用の布団綿用原料綿である。未使用の布団綿用原料綿は、通常ベール状に梱包されて入荷するが、これを解して用いる。
【0008】
本発明でいう繊維質シートとは、セルロース系素材、羊毛等の動物系素材や吸湿性の合成繊維等から成る不織布、紙又はテープである。特に、レーヨン不織布又はソフトな紙であることが好ましい。
【0009】
また、本発明で用いる防虫剤としては人体に無害な防虫剤であり、ホウ酸塩が好ましく、特に、八ホウ酸ニナトリウム四水和物[Na2B8O13・4H2O](以下DOTという)又は、水溶液中でホウ酸とホウ砂を1:1〜1:2で混合して生成するホウ素化合物等の拡散性ホウ酸塩が特に好ましい。この拡散性ホウ酸塩は、常温(20℃)で10重量パーセント、温水にすると30重量パーセント以上の高濃度の水溶液が可能である。また吸湿性の繊維質材料に対する拡散性にすぐれ、乾燥しても粉末として飛散しにくい。特に、梅雨期などの高湿度時には、動植物繊維や食物の含水率は20重量パーセント近くまで上昇するが、拡散性ホウ酸塩、特にDOTはこのような状態の組織中を、緩やかに拡散する性質がある。
【0010】
前記繊維質材料に拡散性ホウ酸塩を含有させる含有量は、布団綿の全重量に対してホウ素換算で、好ましくは0.05〜2.0重量パーセント、更に好ましくは0.1〜1.0重量パーセントにするのがよい。
【発明の効果】
【0011】
以上の通り本発明は、特許請求の範囲に記載の通り、防虫性布団綿を製造するに際して、防虫剤を含有していない布団綿用原料綿と予め防虫剤を高濃度に含有させた繊維質シートとを開繊機に同時供給して開繊、混合し、次いでカード機で薄い繊維膜となし、これを積層しているので、前記繊維質シートが細かく解されて布団綿用原料綿中に開繊、分散して混合された防虫性布団綿が得られる。
【0012】
防虫剤がホウ酸塩であるので、高湿度時に繊維質シートの細かく分散した繊維から緩やかに布団綿詰物全体に拡散して、ダニやノミ類等の有害微小生物の増殖抑制効果を発揮する。本発明で用いるホウ酸塩は、水溶性ではあるが昇華性ではないので、水で洗濯しない限り半永久的に効果が持続する。
【0013】
繊維質シートがレーヨン不織布又はソフトな紙であるので、レーヨン不織布又はソフトな紙の製造工程中、又は別工程において、ホウ酸塩水溶液中に浸積したローラ等にてホウ酸塩を容易に含浸させることができ、含浸させた不織布又は紙と前記布団綿用原料綿とを開繊機に同時供給すると、細かく解されて布団綿用原料綿中にほぼ均一に分散、混合させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0015】
図1は本発明の防虫性布団綿の製造方法を実施する装置の一例を示す概略部分側断面図であり、図2は、図1のF2−F2矢視に沿って示す拡大断面図である。本発明の防虫性布団綿の製造方法を実施する装置は、図1に示すように、開繊機1、給綿機2,カード機3、巻取機4,折り畳み機5、包装機6の順に配置されている。開繊機1は、図2に示すように、回転軸7の回りに回転するドラム8の周辺に列状の多数の刃9を備えており、ドラムケース10内で高速回転するようになっている。
【0016】
前記開繊機1の入力部には、前記ドラムケース10に対して布団綿用原料綿11を載せて移送するフィードラチス12と、その供給量を制御するレギュレーチングローラ13を備えている。前記フィードラチス12の手前には、シート供給ロール14が配置され、これにはホウ酸塩を高濃度に含浸させた繊維質シート15が前記フィードラチス12の動きに伴って、前記布団綿用原料綿11の上表面に沿って繰り出し可能となっている。
【0017】
フィードラチス12の駆動により、布団綿用原料綿11が開繊機1に対して送られる。このとき、布団綿用原料綿11と共に繊維質シート15が供給され、その端部がレギュレーチングローラ13を介して、等速で少量ずつ開繊機1のドラムケース10内に供給される。従って、開繊機1のドラムケース内に供給された布団綿原料綿11は、繊維質シート15と一体的になってレギュレーチングローラ13に把持された状態で、刃9によって分断され、開繊、混合される。開繊、混合された混合物である混綿17は浮遊状態となってドラムケース10内で舞い、その浮遊物である混綿17が綿供給管16に吸引されて給綿機2内に落下する。
【0018】
給綿機2内に落下した混綿17は、カード機3に定量供給され、カード機上で各繊維に分離し、進行方向に引き揃えられて薄い繊維膜18となる。カード機3上の薄い繊維膜18は、フライコーム19で剥ぎ取られて、巻取機4に巻取られる。巻取機4にはカッター20が備えられており、巻取り中の薄い繊維膜18が設定された厚みになると自動的に切断される。巻取機4で切断された繊維膜の積層物は、巻取機4の円周の長さとなって、折り畳み機5のテーブル5T上に送られる。テーブル5T上に送られた繊維膜の積層物は、横方向に二つ折りに畳んだ後、一点鎖線による矢印A1,A2で示すように前端及び後端を夫々中央方向に折り返し、合計6層構造の防虫性布団綿21に仕上げられて、包装機6に送られて包装される。
【0019】
前記布団綿用原料綿11としては、防虫機能が無い未使用の布団綿用原料綿又は中古布団綿が用いられる。
【0020】
前記未使用の布団綿用原料綿を用いる場合は、ベール梱包されて入荷した未使用の布団綿用原料綿11を開梱して解し、フィードラチス12上にほぼ均一に敷き詰めて、その上に拡散性ホウ酸塩を高濃度に含浸させた繊維質シート15を重ねてドラムケース10内に送り込む。ドラムケース10内に送り込んだ後は、上記で説明した手順にて処理されて防虫性布団綿21となる。
【0021】
また、防虫機能が無い中古布団綿を打ち直して防虫性布団綿にする場合は、中古布団綿をフィードラチス12に載せる。前記中古布団綿の幅がフィードラチス12の幅よりも広い場合は、フィードラチス12の幅に合わせてカットしてから載せる。その上に未使用の布団綿を必要に応じて解して載せ、更にその上に拡散性ホウ酸塩を高濃度に含浸させた繊維質シート15を重ねてドラムケース10内に送り込む。ドラムケース10内に送り込んだ後は、上記と同様に処理されて防虫性布団綿21となる。
【0022】
繊維質シート15としては、セルロース系素材、羊毛等の動物系素材や吸湿性の合成繊維等から成る不織布、紙又はテープが用いられるが、レーヨン不織布又はソフトな紙が好ましく、特に通気性が良好なレーヨン不織布又はソフトで引き裂き強度が小さい紙が好適に使用される。また、その坪量は、不織布、紙何れの場合も15〜100g/mにするのが好ましい。このような素材の繊維質シートを用いることにより、防虫剤の含浸性が良くなり、開繊機内での解れ性、開繊性、混合性も良好となる。
【0023】
繊維質シート15のホウ酸塩含浸量は、布団綿用原料綿11と繊維質シート15の合計重量に対してホウ素換算で0.05〜2.0重量パーセントにするのが好ましく、0.1〜1.0重量パーセントにするのが更に好ましい。ホウ酸塩の量がホウ素換算で0.05パーセント未満になると、ダニの増殖抑制効果は不充分となり、2.0重量パーセント以上となると、ダニの増殖抑制効果は飽和し、拡散性ホウ酸塩の使用量が増えてコスト高になる。繊維質シート15の具体的なホウ酸塩含浸量は、2〜6重量パーセントとするのが好ましい。前記ホウ酸塩含浸量が2重量パーセント未満になると、布団綿用原料綿11に対する繊維質シート15の量が多くなって非効率となり、逆に6重量パーセントを越えるとドラムケース10内で多数の刃9によって打撃された際、ホウ酸塩の一部が脱落して有効活用されなくなる。
【0024】
前記繊維質シート15にホウ酸塩を含浸させる方法としては、前記繊維質シート15の製造工程中、又は別工程において、ホウ酸塩水溶液に浸漬走行させる方法、一部浸漬したローラに接触含浸させる方法、スプレーで連続噴霧する方法等が採用される。
【0025】
繊維質シート15は、防虫性能を具現できることを示すために、顔料又は染料を含有させて特定色に着色しておくのが好ましい。このように着色することにより、防虫性繊維質シートであることを容易に識別させることができ、混綿後の分散状態を目で容易に確認することができる。
【0026】
[実施例]
坪量が60g/mで、幅が1m、長さが2mの通気性良好なピンク色に着色した通気性が良好なレーヨン不織布とソフトで引き裂き強度が小さいピンク色に着色した紙を準備して広げ、その上からホウ酸塩としてDOTの10重量パーセント水溶液をm当たり40gスプレーにてほぼ均一になるように夫々のシートに噴霧して乾燥し、実施例1用DOT含浸レーヨン不織布P1,実施例2用DOT含浸紙P2として準備した。乾燥後のDOTのホウ素換算濃度は、P1が3.3重量パーセント、P2が3.2重量パーセントであった。
【0027】
実施例1として、未使用の木綿製原料綿2kgを解して、フィードラチス12上に幅1m、長さ2mの長方形上に並べて、その上に上記で準備したDOT含浸レーヨン不織布P1を重ねて、ドラムケース10内に送り込んで上記実施形態で説明した手順にて防虫性布団綿21−1を製造した。
【0028】
次に、実施例2として、DOT含有レーヨン不織布P1の代わりに、上記で準備したDOT含浸紙P2を用いて前記と同じ手順にて防虫性布団綿21−2を製造した。
【0029】
防虫性布団綿21−1と防虫性布団綿21−2について、ピンク色着色繊維質の分布状況を調べた結果を表1に示す。ピンク色着色繊維質は、繊維長が30mm以下となって、ほぼ均一に分布していることが確認された。
【表1】

【0030】
以上示した実施形態では、繊維質シート15を布団綿用原料綿11の上面に沿って供給したが、下面側から供給することもできる。また、シート供給ロール14を用いて巻取りシートを供給したが、布団打ち直しのような場合、1枚の布団に対し1枚のシートを供給することもできる。
【0031】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の防虫性布団綿の製造方法を実施する装置の概略の一例を示す部分側断面図である。
【図2】図1のF2−F2矢視に沿って示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 開繊機
2 給綿機
3 カード機
4 巻取機
5 折り畳み機
6 包装機
7 回転軸
8 ドラム
9 刃
10 ドラムケース
11 布団綿用原料綿
12 フィードラチス
13 レギュレーチングローラ
14 シート供給ロール
15 繊維質シート
16 綿輸送管
17 混綿
18 繊維膜
19 フライコーム
20 カッター
21,21−1,21−2 防虫性布団綿

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防虫性布団綿を製造するに際して、防虫剤を含有していない布団綿用原料綿と予め防虫剤を高濃度に含有させた繊維質シートとを開繊機に同時供給して開繊、混合し、次いでカード機で引き揃えて薄い繊維膜となし、これを積層して布団綿にすることを特徴とする防虫性布団綿の製造方法。
【請求項2】
前記防虫剤がホウ酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の防虫性布団綿の製造方法。
【請求項3】
前記繊維質シートがレーヨン不織布であることを特徴とする請求項1に記載の防虫性布団綿の製造方法。
【請求項4】
前記繊維質シートがソフトな紙であることを特徴とする請求項1に記載の防虫性布団綿の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−260101(P2007−260101A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−88178(P2006−88178)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(502236910)山中商事株式会社 (3)
【Fターム(参考)】