説明

防蝉用光伝送ケーブル

【課題】クマゼミ産卵対策としてより有効なものとする。
【解決手段】光ファイバ心線11と抗張力体13とを同一樹脂の保護被覆15、16によって被覆し、その両抗張力体の間の保護被覆に引裂用ノッチ14を形成した防蝉用光伝送ケーブルである。その保護被覆を、JISK7311による100回転後の摩耗量が20mg以下であって、同JISK7311による引裂強さ:107〜150kN/mのポリウレタン系樹脂又はポリオレフィン系樹脂とする。クマゼミAの産卵は、第1段階として、キリ状の中心片bを回転させて摩耗でもって小さな穴を掘り、第2段階として、その掘られた小さな穴に中心片両側の側片b、bを差し込み、その両側片を摺り合わせながら上下に動かし、摩耗及び引裂によって穴を深く掘り進めて、その深くした穴内に産卵する。このため、耐摩耗性のみならず、高い引裂強さを有するものとすれば、クマゼミ対策としてより有効なものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、クマゼミの産卵管刺入(さしいれ)による被害を防止した防蝉用光伝送ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、光伝送ケーブルである光ドロップケーブルは、屋外の電柱に架設された光ケーブル支線から光クロージャーを介して各家庭への引き込みに使用される。
この光ドロップケーブルは、通常、図1〜図4に示すように、光ファイバ心線11の両側にテンションメンバ(抗張力体)12を配設し、その光ファイバ心線11とテンションメンバ12を支持線(吊線)13とともに、同一の樹脂から成る保護被覆15、16によって被覆するとともに、その両テンションメンバ12、12の間の光ファイバ心線11の周りの保護被覆(外被)15に引裂用ノッチ14を形成した構成である(特許文献1図1〜図4 特許文献2図1〜図4参照)。
【0003】
この光ドロップケーブル10は、上記のように屋外に設置されるため、その設置場所にクマゼミが飛来する。そのクマゼミは、木枝の樹皮内に直接産卵管を刺入して卵を産み付ける習性を持つため、その光ドロップケーブル10の保護被覆である外被15に卵を産み付けようとする。
この産み付けの際、産卵管を外被15に刺入させて光ファイバ心線(素線)11を損傷させ、あるいは断線させる事故が起こっている。
【0004】
このようなクマゼミの産卵管刺入による事故を防止する対策技術として、その産卵管刺入の可能性のあるノッチ14に工夫をしたものがある(特許文献3、4参照)。
また、外被15の外形形状を断面円形等として、外被15の外形をクマゼミが止まり難くしたものもある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−65288号公報
【特許文献2】特許第4455662号公報
【特許文献3】特開2002−090593号公報
【特許文献4】特開2002−328276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献3、4に記載の工夫は、ノッチ14の頂点を光ファイバ心線11に向かない位置にして、その産卵管の刺入方向を光ファイバ心線11に向かないようにしたものである。
しかし、蝉が、必ずしも、ノッチ14の形成態様に基づきその光ファイバ心線11に向かない方向に(頂点に向かって)産卵管を刺入するとは限らず、光ファイバ心線11に向って刺入する場合もある。その場合には、光ファイバ心線11を損傷させ、あるいは断線させる恐れがある。
また、上記特許文献1に記載の工夫は、ある程度の効果は認められるが、実際の設置状態において、外被15に産卵管の刺入が認められ、その産卵管の刺入防止対策として十分ではない。
【0007】
これらのノッチの工夫に代えて、外被15を工夫したのが、本出願人に係わる特許文献2であり、この工夫は、クマゼミの産卵態様の確認から行ったものである。
すなわち、クマゼミの産卵態様は、図9に示すように、まず、腹部の感覚毛の触感及び口吻aにより、産卵場所に適するか否かを確認し、つぎに、その好ましい場所に、産卵管bを突き刺して産卵する。その産卵管bは、尖ったキリ状の中心片bの両側に側片b、bがその中心片bを被うように嵌り合って管(長さ:5.5〜11.5mm、径:0.4〜0.9mm)を形成したものであり、その両側片b、bの先のノコギリ部(径:0.8〜1.1mm)を摺り合わせて穴を掘り、その穴内に産卵する(特許文献2段落0008参照)。
このクマゼミAの産卵態様の確認の下、被覆した外被15を、クマゼミAの産卵管bが刺入されても、その産卵管bが抜かれた後、その刺入穴が弾力によって塞がれる樹脂からなるものとしたのである(特許文献2請求項1参照)。
【0008】
この外被15の工夫は、非常に有効ではあるが、経済性等から、より有効な工夫が望まれる。
この発明は、外被15を、クマゼミ対策としてより有効なものとすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述のクマゼミの産卵態様を正確に観察すると、上記の産卵場所に適するか否かを確認した後、その好ましい場所に、産卵管bを突き刺して産卵するが、まず、第1段階として、キリ状の中心片bを回転させて小さな穴を掘り、つぎに、第2段階として、その掘られた小さな穴に中心片b両側の側片b、bを差し込み、その両側片b、bを摺り合わせながら上下に動かして穴を深く掘り進めて、その深くした穴内に産卵する。
その第1段階の中心片bの回転による穴掘りは、中心片bと外被(保護被覆)15との摩擦によってその保護被覆15が摩耗することによってその穴が形成される。このため、摩耗量の小さい(耐摩耗性の高い)保護被覆15であれば、第1段階における刺し疵が抑制されることが考えられる。
第2段階の両側片b、bを摺り合わせながら上下に動かす穴掘りは、その両側片b、bと保護被覆15との摩擦による保護被覆15の摩耗に加え、両側片b、bの摺り合わせによる保護被覆15の引裂かれによって穴が形成されている。このため、第2段階では、保護被覆15は、摩耗量の小さいことに加え、引裂強さの高いものであれば、穴の形成が抑制されることが考えられる。
【0010】
この発明は、その知見に基づき、上記保護被覆15を、JISK7311による100回転後の摩耗量が20mg以下であって、同JISK7311による引裂強さ:107〜150kN/mのポリウレタン系樹脂又はポリオレフィン系樹脂としたのである。
下記の実験結果から、その摩耗量が20mgを超えると、産卵管による刺し疵が散見され始めて、徐々にノッチ貫通疵数も増え、引裂強さが107kN/m未満では、ノッチ貫通疵数も多くなって、穴形成の抑制効果が認められず、150kN/mを超えると、ノッチ14の厚み(ノッチ部の保護被覆15の厚み)にもよるが、引裂作業がしづらく(引裂かれ難く)、施工性の点で問題となる。
【0011】
この発明の構成としては、光ファイバ心線の両側に抗張力体を配設し、その光ファイバ心線と抗張力体とを同一の樹脂から成る保護被覆によって被覆するとともに、その両抗張力体の間の光ファイバ心線の周りの保護被覆に引裂用ノッチを形成した光伝送ケーブルにおいて、クマゼミの産卵管による保護被覆への穴の形成を防止するために、その保護被覆を、JISK7311による100回転後の摩耗量が20mg以下であって、同JISK7311による引裂強さ:107〜150kN/mのポリウレタン系樹脂又はポリオレフィン系樹脂とした構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、以上のようにしたので、クマゼミの産卵管による損傷を有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態の断面図
【図2】他の実施形態の断面図
【図3】他の実施形態の断面図
【図4】他の実施形態の断面図
【図5】摩耗量と引裂強さに対するノッチ貫通疵数の関係図
【図6】疵深さと各物理特性の関係図
【図7】疵総数と各物理特性の関係図
【図8】ノッチ貫通疵数と各物理特性の関係図
【図9】クマゼミの産卵説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、図1〜図4に示す断面形状の光ドロップケーブル10を採用し、その各図において、11は外径:0.25mmφの光ファイバ心線、12は0.45mmφのアラミド繊維強化プラスチック紐のテンションメンバ、13は1.2mmφの亜鉛メッキ鋼線(支持線)、14はノッチ、15は光ファイバ心線11及びテンションメンバ12の保護外被、16はその保護外被15と同一に樹脂成形した亜鉛メッキ鋼線の保護被膜(外被)である。図中、17はケーブル本体(光ファイバ心線11)と支持線13とを繋ぐブリッジ、Gは微小ギャップであるが、この微小ギャップGは無くても良い。
【0015】
その図2に示す光ドロップケーブル10の構成により、表1に示す樹脂特性の外被15、16でもって、実施例1〜4(試料1〜4)及び比較例1〜6(試料5〜10)を製作した。
その各実施例1〜4、比較例1〜6の引張強さ等の実験結果を表2に示す。表2に示す試験は、以下の要領1.〜6.によって行った。

1.試料長20cmの各試料を、1種類2本ずつ、虫ケースに入れる。
2.メスのクマゼミを各虫ケースに1匹入れ、24時間放置する。
3.各試料を虫ケースから取り出し、刺し疵の数(疵数)を記録する。
4.刺し疵部分をカミソリ刃によって縦割りし、顕微鏡でその縦割り断面を観察し、試料本体部に生じた疵の深さを測定する。ノッチ部分、首部分及び鋼線部分の疵については疵数を記録し、疵深さは測定しない。疵の入口部分と同一平面上の試料面と疵の先端との最短距離を疵深さとする。
5.ノッチ部分に生じた疵をカミソリ刃によって縦割りし、顕微鏡でその縦割り断面を観察して、ノッチ貫通疵数を記録する。光ファイバ心線11(ギャップG)まで達した疵をノッチ貫通疵とした。
6.試験本数:38本、試験期間:2009年7月27日〜同8月7日
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
この試験結果に基づき、図5に示すように、摩耗量(100回)と引裂強さに対するノッチ貫通疵数の関係を描いたところ、まず、摩耗量が少なければ、ノッチ貫通疵数も少ないことが分る。これは、クマゼミAが産卵の第一段階で、産卵管bを回転させて、摩耗により穴を掘ることによるものと考える。すなわち、耐摩耗性の高い材料は穴が空きにくく、クマゼミAが産卵行動を行っても、全く穴が空かない場合が多く、疵数が少なくなったと考えられる。
つぎに、同図に示すように、ノッチ貫通疵数の多いところ(ノッチ貫通疵数>2)と少ないところ(ノッチ貫通疵数≦2)の区別ができ、摩耗量が少なくても、引裂強さが低いと、ノッチ貫通疵数も多くなることが確認できる。これは、クマゼミAの産卵の第2段階では、摩耗以外に、切裂きによっても穴が深くなることから、耐クマゼミの被覆材料(保護被覆15)には耐摩耗性の他に引裂強さが必要であることが分る。
【0019】
また、表2に示す、引張強さ、引張伸び、D硬さ(タイプD デュロメータ硬さ)、摩耗量、引裂強さ、モジュラスの7つの物理特性を項目とし、疵深さ、疵総計及びノッチ貫通疵数を出力とし、試料1、3を単位空間、その他の試料を信号のメンバーとし、マハラノビス・タグチ(MT)システムのT法1(両側T法)により、総合推定のSN比を算出した。そのSN比を、それぞれ7つ物理特性項目をL12直交表に割付け、第1水準(その項目を使う場合)と第2水準(その項目を使わない場合)のSN比の平均を求めた要因効果図を図6〜図8に示す。図6は「疵深さ」に、図7は「疵総計」に、図8は「ノッチ貫通疵数」にそれぞれ関するものであって、各図において、項目毎の線の右下がりの度合が大きい程、その項目が出力の推定に関して有効であることを示す。
【0020】
図6から、疵深さの推定において、百回摩耗量が最も有効性が高く、次いで、引張強さ、引裂強さ、千回摩耗量の有効性が高く、その他の項目は重要でないことが分る。
図7から、疵総計の推定において、百回摩耗量が最も有効性が高く、次いで、千回摩耗量の有効性が高く、その他の項目は有効でないことが分る。
図8から、ノッチ貫通疵数の推定において、百回摩耗量が最も有効性が高く、次いで、引張強さ、引裂強さ、千回摩耗量の有効性が高く、その他の項目は有効でないことが分る。ノッチ貫通疵数は疵深さと同じ傾向となった。
【0021】
以上のように、表2、図5から、クマゼミの産卵を防止し得る保護被覆15としては、耐摩耗性に加えて高い引裂強さが要求されることが理解できる。
また、表2、図6〜図8から、JISK7311による100回転後の摩耗量が20mg以下、かつ、同JISK7311による引裂強さ:107〜150kN/mである保護被覆15の実施例1〜4(試料1〜4)が、その何れかが外れる保護被覆15の比較例1〜6(試料5〜10)に比較して、疵深さ、疵総計、ノッチ貫通疵数においても優れていることが理解できる。
【0022】
因みに、この発明に係る防蝉用光伝送ケーブルは、屋外の電柱から各家庭への引き込みに使用されるドロップケーブルのみならず、屋内に配線されるインドアケーブルとしても使用することができる。
【符号の説明】
【0023】
10 光ドロップケーブル
11 光ファイバ心線
12 テンションメンバ(抗張力体)
13 支持線
14 ノッチ
15、16 外被(保護被覆)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ心線(11)の両側に抗張力体(12)を配設し、その光ファイバ心線(11)と抗張力体(12)とを同一の樹脂から成る保護被覆(15)によって被覆するとともに、その両抗張力体(12、12)の間の光ファイバ心線(11)の周りの保護被覆(15)に引裂用ノッチ(14)を形成した光伝送ケーブル(10)において、
クマゼミの産卵管(b)による上記保護被覆への穴の形成を防止するために、その保護被覆(15)を、JISK7311による100回転後の摩耗量が20mg以下であって、同JISK7311による引裂強さ:107〜150kN/mのポリウレタン系樹脂又はポリオレフィン系樹脂としたことを特徴とする防蝉用光伝送ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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